全体的に強化してみたハイスクールD×D 赤龍帝とブラコン弟   作:空騒

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lifa.7 白髪のエクソシスト

 ――ねえ、貴方。仕事を引き受けてみないかしら?

 

 

 黒い翼を広げた女は、白髪の男にそう声を掛けた。

 

 

 ――お仕事ですかぁ? 俺っち楽しくないとボイコットする主義ですよ〜。

 

 

 ――なら良かったわ。きっと貴方も気に入るわ。最初は退屈かもしれないけど、すぐにとっても楽しくなるわよ。

 

 

 訝しむ男に、女は笑って答えた。

 堕天使が、よりにもよって自分に話し掛けること自体が、凄まじく怪しい事を女は果たして理解しているのだろうか。そう思える程、女の笑顔は美しく、そして楽しげだった。

 だからだろうか、男はこの仕事を受けてみようと思った。

 退屈で、退屈で、仕方なかった。そんな時に、面白そうな仕事が転がり込んで来たのは運命にも思える。

 そしてそれは正しく運命だった。

 

 

 ――あ゛〜イイっすねぇ。

 

 

 凶暴な笑顔を浮かべた男は、二つ返事で承諾した。

 つまらなかったら殺すだけだと思いながら、堕天使を見上げて笑う。

 やっと退屈から解放されそうだと心を踊らせて。

 

 

▼△▼

 

 

「未成年の深夜徘徊は危ないっすよ〜。それもクソ悪魔なんかと一緒だと、俺っちのように仕事熱心な社畜の鑑みたいな悪魔祓い(エクソシスト)にブチ殺ころされるでござんすよ。いや〜世の中世知辛いねぇ」

 

 悪意の篭った赤い瞳を爛々と輝かせ、口元に笑みを浮かび上がらせながら、一実たちを眺めている。

 

悪魔祓い(エクソシスト)……」

 

 エクソシスト。悪魔を滅ぼす教会の戦士。教会に属して退魔の力を天使から授かり、邪悪を祓う事を使命とする者達の総称。悪魔の天敵。

 一実と一誠が視線を向けた先で嗤う男もその一人。

 改造された神父服と下卑た表情を浮かべている男が悪魔を祓うエクソシストだとはとても思えない。

 そう一実が思っている内に、白髪のエクソシストは右手を前に突き出した。

 白銀と金の装飾が施された流麗な拳銃が握られ、銃口は一誠に向けられている。

 

「『邪魔者と悪魔はぶっ殺オッケー』って、俺っちのボスから言われてるんでね。さてはてクソ悪魔とアホ毛の坊っちゃん。俺の名はフリード・セルゼン。とある御方の下で働く雇われエクソシストでごぜえます」

「……これはどうもご丁寧――にいぃぃぃっっ!!?」

 

 話しかけようとした一実に光の弾丸が音も無く放たれた。

 自己紹介をしたのなら、ある程度対話が可能なのではないかという一実の希望を嘲笑うかのような弾丸を、首を曲げて頬を削られながらもギリギリで避けた。

 

「俺っちが名乗ったからって反応すんなよ。クソ悪魔の名前を覚えるのタルいし、あ、でもアホ毛な坊っちゃんは言っても良いぜ、三十秒で忘れっけど」

「話し掛けたのオレだよ……。なーんで最近は対話が不可能なお相手が多いんだかねぇ……」

 

 カズミン泣けてきた、と血を流す頬を指で撫でて確認しながらため息と一緒に呟く一実。そもそも銃を向けている相手に話しかけること自体が無謀だという事実からは目を背けた。

 何処かの組織に属しているのなら、対話を通して穏便に済ませる必要性を説く事も可能だ。自分にとって不都合な事態に陥る事を望む者は少ない。

 だが、視線の先で銃口を向けているエクソシスト――フリードは恐らく対話が出来ない人種だ。そうでなければ話しをしようとしている相手にいきなり発砲なんて基本的にしない。

 

「一実っ! テメェよくも――」

「兄貴ストップ」

 

 一実が負傷した事に激昂した一誠が、自身をブーストしようとした瞬間、一実が制止の声を掛けた。

 

「何でだよ一実っ!」

「冷静に考えろ兄貴。どう考えてもヤル気満々なエクソシストさんだけど、下手にぶん殴ったら組織の問題になる。それに兄貴の神器だと被害がデカイ。街中で使ったら人に見られるっ。ここはリアス先輩を連れて来て、判断を仰ご――ッ!」

「無視するのはイヤイヤよ」

 

 早口で一誠に理由と今からの動きを伝える一実へ、再度凶弾が放たれた。

 一実の口元を狙って迫る光弾を、海老反りの様に後ろへ反り返って避けた。

 グン、と一実が上半身を起こすと同時に、黒いブーツが目前に迫っているのが目に飛び込んだ。

 

「っッ!!」

「おっほ、マジか!」

 

 腕を交差させて顔面に放たれた蹴りを受け止めた。

 体重を移動させて衝撃を逃がしても、両腕で受け止めた衝撃の強さに倒れそうになる。

 人間の放った蹴りだとは到底思えない程の威力が込められた一撃だった。

 そんな蹴りを受け止めきれるとは思っていなかったのか、驚愕と狂喜の表情をフリードは浮かべていた。

 一実は掌に銃を具現化すると、ミシミシと今だに力が入れられいる脚を受け流した。

 武術を嗜んでいる訳ではない、拙い受け流し。だが、片手を自由にするにはそれで十分だった。

 銃を握る腕を挙げて、引き金を引く。突飛な行動にフリードも距離を取った。

 パシュッと微かな音を立てて銃口からの放たれたソレは、円を描くように広がり、三人を取り囲むように大きな円を作った。

 

「行け兄貴! 早く先輩に伝えてくれっ!」

 

 一実が叫んだ。銃口をフリードに向けて牽制しながら、背後の一誠に。

 一誠は唇を噛み締めた。

 相手は突然襲い掛かってくる訳の分からないエクソシスト。しかも悪魔である一誠ですら、一実へ蹴りを放つ姿が捉えきれない程の手練。

 対する一実は最近神器を発動した戦闘初心者だ。置いて行くなど殺すも同然だ。

 一誠が加わった場合高確率で倒す事は可能だが、一実が言う通り一誠の神器は破壊力が高過ぎてこの場で使用するにはリスクが高い事を、一誠も理解していた。

 不甲斐ない兄だ。弟を危険に晒す選択を取ることしか出来ない自分に嫌気が差してしまう。

 

「……っ! 分かった! 絶対怪我すんなよ一実!」

「おうとも! ついでに小猫ちゃんを連れてきてくれたら超嬉しい」

「任せろ!」

『Boost!』

 

 この場でエクソシストを殺さず、被害を最小にするのは多彩な能力を扱える一実が適任だ。なら、信じよう。自慢の弟を。自分は、一刻も早く先輩に伝えて助けを求めなければならない。

 身体能力を倍加した一誠は、振り向くと同時に悪魔の翼を広げた。

 

「おろろ、クソ悪魔タン逃げちゃいや〜ん」

「アンタはこっち見やがれっ!」

 

 背中を向けた一誠に向かってフリードが光弾を放つが、一実が具現化した浮遊し高速回転するワルドによって光弾は弾き飛ばされた。

 そうしている内に、倍加した跳躍力で飛蝗のように跳ねた一誠は、遥か上空で広げた翼を使い、凄まじい速度で消えて行った。

 

「兄貴飛べたんだ……」

 

 意外そうに一誠の消えて行った空を横目に、呟いた。てっきり全力疾走でもするのだと思っていた。兄にはそっちの方が似合っているし、と軽く現実逃避しながら、目の前で一誠より余程悪魔らしく嗤うエクソシストと向き合う。

 正直な話、一誠に話した内容はこじ付けに近かった。

 一誠の神器が及ぼす被害を考慮したのも、組織の問題に発展しかねないと言ったのも、一誠とエクソシストを戦わせたくなかったからだ。

 悪魔にとって光は猛毒である。特に天使や堕天使が扱う光はかすり傷でも致命傷になってしまう事すらある。

 そして、その天使達の尖兵たるエクソシストはその光を分け与えられ悪魔を滅する。

 そんな存在と、まだ生まれ変わって日の浅い兄と戦わせたくはなかった。

 

「んーんー。愉しいな。久しぶりに愉しいぞ。俺っち今めっちゃハッピー。面白ぉい玩具が見つかったからね。なぁ、カズミちゃん」

「……一応言っとくけど、オレ等の後ろには悪魔の貴族が着いてるぞ。回れ右して穏便に済ませないか?」

 

 周囲にワルドを複数具現化し滞空させ、掌に錠剤を具現化して口に放り込んみながら、楽しくて仕方ないといった様子のフリードに問い掛ける。

 返ってくるだろう答えは分かりきっている。会話らしい会話を一切していないながらも、一実はフリードという人物を理解し始めていた。

 

「知らねえよ☆」

「だすよねー」

 

 具現化したスランガを握り締めて一実は地面を蹴り出した。

 届くかどうか分からない。勝てる気は全くしない。逃げる訳にもいかない。足止めして、兄達の到着を待つしかない。

 スランガを構え、無数のワルドを引き連れた一実に、フリードは変わらず歪んだ笑みを浮かべたまま、銃を構えた。

 

「おおおおおおおぉぉ!」

「良いねえ! おにいさんが遊んだげるよ」

 

 地面を蹴り出し、走り出す一実。その身に闘志を纏って迫る一実に、フリードは興奮気味に腕を振りかぶった。

 白銀の銃身と黒い刀身がぶつかり合った。

 

 

▼△▼

 

 

 戦いの勝敗を決めるのは何だろう。

 力の強さ? 技の完成度? 能力の効果? 才能? その時不思議な事が起こった?

 違う。断じて違う。どんなに圧倒的な力があっても、どんなに見事な技を持っていても、如何に反則的な能力が備わっていても、天賦の才を与えられていても、それがなければ始まらない。それがなければ意味を成さない。

 

 場数と経験。

 

 兵藤一実には、それが足りない。

 『武装具現(アームズ・プロデュース)』という汎用性に優れる優秀な神器を持っていようともその法則は揺るがない。

 

 

 

 

 

 ヒュン、と風を切り裂いてフリードへと迫る無数のククリナイフ。自律し複雑な軌道を描く刃の軍勢。

 だが、一本たりともフリードを傷付けることは無い。

 

「ヒハハハハハ、カーズミーん、こんなん当たんねーよ。頑張れ頑張れ」

「ちっ……くしょうっ。どんな反射神経してやがんだ!」

 

 光弾で、銃身で、時には手帳で、迫るワルドを正確無比に弾き撃ち落とす。

 距離を取っている一実が具現化した銃での射撃も、素早い身のこなしで回避されている。その上手拍子で一実をおちょくる余裕に、実力の開きが否が応でも理解させられる。

 強い。少なくとも、兄以上の実力は確実に持っている。白目を剥きたくなる現実だが、泣き言を内心で抱く余裕も与えてくれない。

 

「ほらほら、今度はおにいたんから行くよ!」

「っっ!!」

 

 まとわり付くワルドを蹴散らし、本来なら視認不可能な速さで一実を肉薄にする。

 次いで放たれた分厚い手帳による打撃を、体を逸らして回避する。

 眼前を高速で通過した手帳の速度に内心チビリそうになりながら、右手のスランガを振った。

 ブン、と風の力で加速した斬撃がフリードの首を切り裂かんと放たれる。

 

「うっは見えっ見え」

 

 語尾に草でも生やしそうな、笑いが堪えきれていないセリフを零して、フリードはスランガの一撃を悠々と回避した。

 巫山戯た物言いだが、実力は本物。戦闘初心者である一実の攻撃など息を吸う様に見切っている。

 

「ぐおッっ!」

 

 そして避けながら放たれたフリードの鉄脚は、一実の顔を確実に捉えた。

 世界がグチャグチャに捏ね回されたかのような衝撃が頭を貫き、意識が吹き飛びそうになる。

 ――慣れている。

 揺れる視界で強引に銃口をフリードに向けて引き金を引く。

 ほとんど密着した状態にも限らず流れるような身の動きで一実から離れるフリード。

 ステップするような動きから、その少しの本気も出していないことが見て取れる。

 戦う事自体に、フリードは慣れている。一実が取る行動の一歩先を読んでいるがために、確実に回避し挑発している。

 遊ばれているという事実に、少し心がポッキリと折れそうになる。

 

「……はぁっ……はぁっ……」

「あららカズミンもう限界? 体力無さ過ぎじゃないかな。体力不足は命に関わりますですよ!」

「今がその時ですね分かりたくないです……っ」

 

 既に一実は一誠との模擬戦でかなりの体力を消費している。その上でワルドを一誠との模擬戦以上に具現化しており、その上でスランガと錠薬、そして、今現在も二人を囲む黒い剣――『サイレンス』と名付けられた武器を具現化している。

 模擬戦で使った『能力強化装甲(ブースト・アルム)』よりも燃費は良い武装しか具現化しておらず、『サイレンス』も名の通り武器で囲んだ範囲から一切の音を漏らさず姿も視認されないと言う能力しかないため消費は少ないが、しかし具現化した武装の数が現時点で一誠との模擬戦よりも多かった。

 一実の体力は既に限界間近まで迫っている。

 足止めを始めてから二十分近くの時間が経っている。実力も天と地ほどの差が開いている事は一目瞭然であり、フリードもまだまだ手札を残しているように思える。エクソシストの武器が銃だけだとはどうしても思えなかった。

 

「……すぅ……はぁ……」

 

 勝機はない。

 ならば死力を尽くして、助けを信じる他ない。

 残り少ない体力を絞り出して、最後の具現化を行う。

 

「そーろそろおにいたん飽きたから……穴だらけにしてそこの街灯に吊るしてやんよ! めっちゃお洒んティーにしてやんから安心しな!」

「出来るかタコ」

 

 言葉と同時に、奥歯の上に具現化したそれを噛み砕いた。

 バキリ、と離れたフリードにも聞こえる音を響かせ砕かれたそれを、一実は躊躇なく飲み下した。

 ――瞬間、一実の口から黄金色の呼気が吐き出された。

 

「……カズミンなにしたん? 息臭そうよ」

 

 はぁぁ、と煌めく吐息を出す一実の体に、更なる変化が生まれた。

 鳶色の瞳が紅く染まり、白目が充血する。体からも蒸気のように黄金のオーラが噴き出している。

 一瞬前までの満身創痍から一転、黄金を纏って睨み付ける一実に、フリードは初めて悪寒を感じた。

 

「かぁァァァっ!」

「ヒエェェぇぇッ」

 

 具現化には条件がある。

 多彩な能力と武装が最大の強みであるが、能力の性能が高ければ高い程により多くの代償を必要とする。絶対的な能力を付与する事も可能だが、それには相応の代償が不可欠。これがこの神器最大の欠点。

 だが、代償を下げる方法も存在する。

 能力に短所を意図的に残すことだ。目的の能力を発動する弊害を更に付与する事で長所を相殺し、欠陥武装として具現化する。具現化の代償は欠陥により下げられて現実に現れる。

 一実の行った具現化はそれだった。

 自身の体を限界まで強化する。体力がまだまだ残っていたなら、デメリットを全て除いて具現化することも可能であったはずだ。しかし今はそんな余裕は存在していない。

 体に掛かる負担を全て残したまま具現化した錠剤型の武装『限定強化薬(リミッター・リムーバル)』。本来ならネタでこんなの格好良いなと思っていただけの武装薬剤を一実は使った。

 金色のオーラと深紅の瞳が紅い線を引いてフリードへ迫る。その速さは三度の倍加をした一誠より尚速い。

 瞬きをするより速く、フリードの眼前に到達した一実は、スランガを横薙に斬り放った。限界強化された一撃は一実が放った中で最大の威力を誇っている。

 だが、そんな一撃を許す程、フリードは甘くない。

 横薙が当たる直前に下から蹴り上げ、腕自体を弾き飛ばす。限界強化された一撃にも関わらず、フリードの尋常ならざる脚力により、渾身の一撃は防がれた。

 間髪入れずに放たれる光弾。本来なら避けるべき弾丸を、一実は、

 ――手の甲で叩き落とした。

 

「うっそんマジかいカズミンっ!」

「割といてぇよこんちきしょうっ!!」

 

 予想外の防御に流石のフリードも驚愕した。

 一実は泣き言を漏らしながら、お返しとばかりに銃身を握る左手を振り上げて、フリードの白銀の銃に向かって叩き付けた。残弾尽きた銃は、最早打撃武器でしかない。

 ガンッ、とフリードの手から銃を弾き出すのと同時に、一実の銃が耐久力の限界で光の粒子へと変わった。

 だが、フリードの手から、銃はなくなった。

 

「そっこおおおおお」

「ひょああああ」

 

 スランガを両手で握った一実の猛烈な連撃。フリードから見れば荒削りでまだまだ拙い攻撃だ。だが、それが限界強化されていたのなら別だ。一発でも喰らったらフリードの身体など布のように切断されてしまう。

 上段の一撃はスルリと避け、確実に胴を狙った一撃は素手で弾き受け流す。

 身体能力でフリードより勝った一実に、防戦一方を余儀なくされる。

 

「う……ぐぅっ」

「お、ギブかなカズミン。いいのよギブしても。人間諦め肝心」

 

 たが、実際追い詰められているのは一実だ。

 元々体力の尽きかけた体を、薬剤によって無理矢理動かしている現状、一実の身体に掛かる負担は計り知れない。

 このままでは、フリードに一撃を入れて戦闘不能にするより先に、一実の肉体が限界を迎える。

 スルリスルリと回避を行うフリードにスランガを振りながら、決めとなる一撃を、一実は使った。

 

「吹っ飛ばせ!!」

「おおう!? ゲパァッ!!」

 

 フリードに一切見せなかったスランガの風の斬撃。

 広く吹き飛ばす風の波に不意を突かれたフリードは、直撃を喰らって吹き飛んだ。

 飛ばされていくフリードを逃さず追従する一実。

 『サイレンス』のギリギリに背中から転がるフリードにスランガを振り上げ、渾身の力を込めて叩き付けた。

 

 ――パキンッ、

 

 と一実の背後で、金属が地面に落ちる音がした。




流行性胃腸炎とか洒落になりません。

胃腸は大事にしましょう。
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