全体的に強化してみたハイスクールD×D 赤龍帝とブラコン弟   作:空騒

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lifa.8 聖書の子と悪い予感

「……あー……ちくしょう……」

 

 背後で響いた金属音と、頬を伝う痛みと熱を感じて、思わず悪態が口から吐かれた。

 全身に鉛を括り付けられているような疲労と激痛を感じる。膝から力が抜け、硬い道路に崩れ落ちた。強く打ったにも関わらず、痛みは少しも感じない。

 

「おーすげすげ。コレに切れ込み入れちゃうなんて、切れ味鋭いっすねーそのマチェット」

 

 膝立ちで動けないままの一実の下からスルリと抜け出して立ち上がるフリード。嗤いながら、分厚い手帳をゆらゆらと見せ付けるように揺らした。

 黒い革で表面を覆われた、高価そうな年季を感じさせる手帳。威厳すら漂いそうな風格を纏ったそれは、スランガの一撃によって斜めに大きく切れ込みが刻まれていた。

 

「……一体、何で造られてんだよ……その手帳……」

 

 スランガの切れ味は鋭い。一実が初めて本格的に具現化した時、自宅の物置から持ってきた金属の棒を数本まとめて容易く切断する程度には。

 スランガ自体がそれ程であり、加えて先の一撃には『限定強化薬(リミッター・リムーバル)』で強化されたもの。漫画やアニメのように巨大な岩を切断する事すら可能な一撃を、分厚いとはいえ紙と革で出来た手帳が受け止めるのは、驚愕より先に呆れと絶望を感じる。

 

「俺っちだけの特別なものだよ。俺っち以外の禁欲エクソシストは持ってないから安心してな。まぁ、俺っちに可愛くデコられるカズミンには関係ないか」

 

 つまりは目の前にいるキチガイは普通じゃないってことっすか。初戦は低ランクに行こうよ。ニューゲームしてマゾい難易度を選ぶ人間と違うよオレ。最近何でこうトラブルが多いんだよちくしょう。脳内で数々の悪態を吐き出す。満足に動けない一実が出来る、数少ない抵抗だった。

 

 ――パラ

 

 紙が捲られる音が耳に届き、一実は俯かせていた顔を上げた。

 

「折角だから、カズミンに残念賞を授与してあげちゃいます。強制だから拒否権はモチないよ」

 

 パラパラと、手帳のページが勝手に捲れる。フリードは手帳に手を添えているだけだが、その姿は奇妙なほど様になっていた。

 ぞくり、と背筋に冷たい感覚が昇った。

 

「【悪しき者の謀略に歩まず、罪人の道に立たず】」

 

 フリードの口から紡がれた一節。巫山戯た口調から一転して、別人のようにすら感じる程、穏やかで麗しい声だった。

 

「【嘲る者の座にすわらぬ者は幸いなり】」

 

 ページに目を向けることなく、一実を見据えて読み上げられた一節。フリードの足下に白い法陣が現れ、そこから吹き上がる風でフリードの白い髪が揺れた。アルビノであり容姿が非常に整っているフリードの姿は、神聖さと荘厳さを伴い、まるで自分が聖堂に居るような錯覚すら覚えた。

 フリードが読み上げる言葉は一実の記憶が正しければ、確か聖書の一節だ。

 

 ――ああ、これはヤバい

 

 たった一節。それだけしか唱えてないにも関わらず、異常な程の威圧感、焦燥感、危機感が体を駆け巡る。

 脳内でけたたましくアラームが鳴り響くような感覚がしているが、無情にも体は軽く動くだけで逃げようにも逃げられない。

 

「【このような人は主の律法を悦び】」 

 

 二節目。一実を中心に輝く法陣が現れた。悪魔であれば消滅してもおかしくない程の聖なる光が夜闇を引き裂いた。

 人である一実でさえも、その光が宿す神聖さを理解できた。同時に、詠唱している神父がどれ程圧倒的な存在なのかも、理解してしまった。

 終わりが目の前まで来ている。だが、一実はまだ諦めてはいなかった。

 何故なら――

 

 ――そろそろ兄がマイスイートデビルを連れて来てくれるから。

 

 虚空に突如展開された紅の魔方陣から、白い髪を靡かせて小さな影が飛び出した。

 弾丸のような速さで一実の頭上を飛び越し、フリードを射程圏内に入れた瞬間、鋭く疾い蹴りを繰り出した。

 

「【昼も夜もその】――おおっと!? ぶねっ!」

 

 人間を容易く絶命させる脚撃を、紙一重で回避するフリード。武術を嗜む人間でも視認困難な攻撃をあっさりと避けるあたり流石と言える。だが、詠唱は中断され、不発に終わった。

 空中で蹴りを放った勢いを利用して体を捻り更に追加の蹴りが放たれた。

 回避が間に合わずフリードは腕を滑り込ませながら蹴りを受け止めようとして、一実が放った渾身一撃とは比較にすらならない程の衝撃に吹き飛ばされた。

 頭上を吹き飛んでいくフリードに、短時間に頭上を二回も何かが飛んで行くって珍しいな、と疲労で混濁した頭の片隅で思いながら、腰から一瞬だけ生やした翼を羽ばたかせて一実の前に降り立った影を見た。

 飛ばされて行ったフリードを見据えながら一実の前に立つその小さな体は、消えていく法陣の光に照らされ、一実の目には何よりも美しく幻想的に写った。

 

「無事ですか。一実くん」

 

「ああ……こりゃ即落ちするわ……」

 

 主人公に守られて即落ちするチョロインの心境が分かった気がする。小さな背丈に駒王学園の制服を着て、フリードと似た白い髪が揺らめかせる少女。塔城小猫が一実を救出するために現れた。それだけで、胸が一杯になる。そして好感度が滝を昇る龍のように上昇している。

 半身でフリードを警戒しながら、横目で一実を見る。小猫の金色の瞳と視線が合った。琥珀が嵌め込まれたような美しい瞳に、一実のテンションは鰻登りだ。

 

「無事……みたいですね」

「イエスイエス。ちょっと無理したけど全然元気だよオレ。小猫ちゃんに逢えただけで元気百倍。今なら惑星砕けるよ」

 

 アホ毛をブンブンと喜ぶ犬のように振りながらハートを撒き散らすいつも通りの一実に、呆れたような視線を向けながらも小猫の目元は安堵で少し緩んでいた。

 

「一実っ、無事か!! 無事ならおっぱいって叫べ!」

「ちっばい」

「良かった無事か!」

 

 小猫が現れた魔方陣より二周り以上の巨大な魔方陣が地面に現れると同時に、一誠のアホな叫びが放たれた。

 一誠に続いてリアス、朱乃、祐斗が魔方陣から姿を現した。何故かリアスは非常に険しい表情を作っていた。

 無事な様子の一実に駆け寄る一誠を横目に見て、一度安堵の溜息を吐くと、リアスは蹴られて倒れた()()をしているフリードへ鋭い視線を送った。

 

「こんばんわ。静かな夜ね。素敵な夜なのに、貴方のお陰で台無しよ。ねえ、『聖書の子』冒涜者フリード・セルゼン」

「おんやぁ? 俺っちの噂ってそっちにまで届いてんの? いやぁ、人気者は辛いね。プライバシーなんてあったもんじゃない」

「届くに決まってるじゃない。悪魔にとって、貴方は危険過ぎる。……そんなのが何故私の管理地帯に入り込んでるのかが問題なのだけどね」

 

 何事も無かったかのようにスクリと立ち上がるフリード。だが、その姿は明らかに無事ではなかった。

 小猫の蹴りを受け止めた腕はくの字に折れ、血が滴っている。普通なら痛みで悲鳴を上げて然るべき傷を負っていながらも、フリードは平然としていた。

 そして、折れた腕を見下ろすと、「あーやっちまってんなー」と呑気な声を出した。

 あまりにも異常だった。悪魔ならまだしも、フリードは人間。その光景に、一実は目を見開き、一誠は顔をしかめた。

 

「教会から追放された貴方が何故この街に居るのかしら? それも、使い魔の目を掻い潜って……。誰の手引きで入り込んだか、答えてちょうだい」

「俺っちが悪魔畜生にそんなこと教えると思ってんの? 頭悪いの? 栄養がお胸に行っちゃってんの? ファッキンデビル。いやデブル」

 

 問い掛けるリアスに、フリードは笑顔で罵倒を返した。答える気は微塵もないようだ。

 リアスは額を押さえて溜め息を吐いた。少し自分の手に余りそうな事案が発生するような予感を感じて。

 後に一誠語る。疲れた表情の美女ってエロい、と。

 

「なら、今ここで捕らえさせて貰うわ」

 

 額を押さえていた手で髪を掻き上げるのと同時に、リアスからドス黒い魔力が噴き上がった。

 一誠と小猫も、一実を庇うようにしながら臨戦態勢になり、祐斗もいつの間にか鞘付きの西洋剣を持ち、朱乃は両腕に電気を迸らせている。

 

「おーおーやる気満々っすねぇ。遊んでも良いっすけど、俺っち分が悪い遊びは好かないのですん」

 

 一触即発、そんな雰囲気を醸し出すリアス達を見渡して、何かを察するとフリードは呟くと、折れていない手で手帳をバサリと広げた。

 

「だから、一時撤退させて頂きやす」

 

 言うと同時に、手帳から無数の紙片が吐き出された。

 

「っ! 皆離れなさい!」

 

 リアスの声に、全員が即座にその場を離れた。一実は小猫にお姫様抱っこされて難を逃れた。

 

「【神よ、願わくは私をお救い下さい。主よ速やかに私をお助け下さい】」

 

 響き渡る神聖なる一節。それを詠うのは聖書の子といわれた男。

 聖書は悪魔にとっては光と並んで毒物だ。その一節を聞くと激しい頭痛に襲われる。ましてやフリード程の人物が詠む一節など、凄まじい苦痛となって襲い掛かる。

 

「ぅぐああああっ」

「あ、兄貴?!」

 

 頭を押さえて、一誠が踞った。初めて感じる呪いのような苦痛と嫌悪感に一誠は耐え切れなかった。

 

「安心しなさいカズミ。死にはしないわ」

 

 ギリギリね、と一実を安心させるように言われたリアスの言葉。

 当のリアスも、苦痛に美貌を歪めている。いや、リアスだけでなく、オカ研メンバー全員が苦痛に顔を歪めていた。

 

「それでは皆様、また来週お会いしましょう! んじゃバイバイキーン」

 

 フリードを中心に紙片が竜巻のように渦巻き、空へと伸びる。それは、天上の神に助けを求める手のように、上へ上へと伸びていった。

 そして、長さが三十メートル程度に到達した瞬間、中心のフリードへ紙片が殺到した。

 滝のように降り注ぎ、離れた一実にも衝撃を感じた。

 

「……紙片の盾……いや壁ね。上級悪魔でも触ったら消滅しそうね……」

 

 リアスが呟くのと同時に、風が止まった。

 フリードが立っていた場所にはヒラヒラと一枚の紙が残っているだけで、フリードは消えていた。

 逃げられたのだ。

 

「はぁぁー……助かったわ……」

「部長、良かったんですか? 逃がしてしまって」

 

 疲れたように息を吐き出したリアスに、祐斗が問い掛けた。

 

「戦うつもりは無かったわよ」

「へ?」

 

 リアスの答えに、一誠が困惑の声を上げた。先程まで戦意を滾らせていたのにも関わらず、戦うつもりが無かったという言葉は、頭の悪い一誠では理解不能だった。小猫と祐斗も、同じ様に困惑の表情を浮かべている。

 ハテナマークを浮かべる脳筋達に、リアスは苦笑を浮かべた。理解している朱乃はいつも通りの笑顔をしていた。

 

「彼は悪魔に対して無類の強さを発揮する、悪魔殺し(エクソシスト)の完成形と呼ばれる男よ。その強さは上級悪魔をも容易く屠るわ。そんなのと正面からやり合うなんて阿呆のする事よ。だから引いて貰えるように威嚇しただけ」

 

 そう言うと「今から仕事が増えるわねぇ……」とぼやいて、リアスは髪を掻き上げた。あんな悪魔絶対殺すマンが管理地帯に侵入していること事態が大問題だ。すぐにでも問題の究明に当たらなければいけない。この地域には魔王の関係者や悪魔、その契約者が多数いるのだから尚更手早く事に当たらなければならない。

 デスマーチの予感にげんなりしているリアス。一誠達への説明は十分だと思っていたが、本人はそうではなかった。

 

「えっ、ちょ、待って下さい! もしアイツが襲い掛かって来てたら、どうするつもりだったんですか?」

 ここは住宅街。一実が一誠を送る時に言ったように、威力の高い攻撃は制限される。一誠はまだリアス達の実力を見た事がないが、肌で感じる力は自分とは天地の差がある。放つ攻撃も桁違いだろう。だがそれも住宅街では下げる他ない。そして相手は戦闘を回避しなければならない程の相手。

 もしフリードが被害を一切気にせず向かって来ていたらどうしたのか。一誠が聞きたい所はそこだった。

 

「言い忘れてたわ……。戦闘になりそうなら、転移魔法で遠くに飛ばす事になっていたのよ。ごめんなさい、急ぎだったから貴方達に伝えていなかったわ」

 

 予め伝えられていた朱乃のが手の平の上に数字の敷き詰められた魔方陣を形成して一誠達に見せた。

 一誠にフリード・セルゼンと名乗るエクソシストに襲われたと伝えられたその時に考え、朱乃に伝えたが、転移魔方陣の設定や認識阻害の魔法の行使と一実の救出と急を要しており一誠達に伝える機会を逃してしまっていたのだ。

 

「あぁ……やっと合点がいきました。すみません、理解力が無くて……」

「いいのよ。急いで連絡を怠った私に非があるわ」

 

 漸く納得して頭を下げる一誠の頭を撫でて、リアスは自分に責任があると言った。

 小猫と祐斗も納得したようだ。

 

「さて、急がせた原因くんはどうしてるのかしら?」

 

 勿論一実の事だ。実戦経験がほぼ皆無にも限らず、教会の悪魔滅殺機を正面から相手取る無謀を犯した正真正銘の阿呆。

 そんな脳足りんの様子を確認しようと、リアスは小猫の腕の中に視線を向けた。

 未だに小猫に横抱きにされている彼は、小猫の頭に鼻を押し付けて目を瞑っていた。

 

「……寝てます」

 

 無表情に一実の状態を告げる小猫。

 一実は寝ていながらもクンカクンカと鼻息を荒げている。至って平常運転だった。

 

「……はぁ」

 

 呆れと安堵を重ねた溜め息を誰かが吐き出した。無事ていてくれて良かったと。

 溜め息を最後に、静かな夜闇が息を吹き返した。

 まだ夜が明けるには少し時間がある。夜の穏やかな空気を感じながら、リアスは空を見上げた。

 月と星が夜空を彩り、悪魔の身体に夜の魔力で満たしてくれる。

 

「さあ、そろそろ戻りましょう」

 

 何かが動き出しているのを感じながら、リアスはゆっくりと歩き出した。




無駄に強化されたキャラクターその1フリードさん。

 原作のインフレに余裕でついて行けるのを目指したら対悪魔半無敵になった。
 好きなキャラですのでどんどん出していきたいですね。
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