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青い海の上で、轟音が鳴り響く。伊勢の砲撃による轟音だ。その大きな砲塔から放たれた徹甲弾は、空母ヲ級の頭部にあたると、爆発をしてダメージを与える。
ヲ級の頭部にあたる部分が破裂し、内臓のような器官が辺りに飛び散る。それは青い花を咲かせながらさらに深い青い海へと沈んでいく。
空母ヲ級の本体は、少しおぼつかない足取りで体制を立て直そうとしたが、やがて力つきると同時に仰向けになりながら倒れ、海へと沈んでいく。旗艦の電がそれを確認すると、ふぅ、と一つ息を吐いた。少し離れたところでは、伊勢が小さくガッツポーズを取っているのが見えた。
「今ので終わり?」
明らかに警戒を解いている北上が、特有の間延びした声で問いかける。電は艤装の横に取り付けられたレーダーに目をやり、辺りを見回した。 近くに深海棲艦らしき影は見当たらない。あるのは、新開誠館の外皮を作っている黒い鉄の様な物質と、吹き飛んだ白い腕や足だった。
「帰りましょうか」
電が言うと、第一艦隊の面々がそれぞれの返事を返す。
一つの敵襲を退けると、電たちは安心した様子で鎮守府への帰路に着いた。
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『聞こえるか』
電が先ほどの戦闘についてあれこれ考えていると、唐突に艤装の無線機から声がする。声の主を確認する必要もない、提督の声だ。無線機は各艦娘に配給されているので、その声は第一艦隊の艦娘全員に伝わった。
「どうしたのですか、司令官さん」
無線機に向かって代表して電が聞くと、提督はすこし困ったような声を上げた。どうやら何か厄介なことでも起こったのだろうか。電を含む第一艦隊の面々は何となく嫌な予感を感じながら提督の次の言葉を待った。
『……どうやら、哨戒中の偵察機がそこのあたりで不審な影を見つけたらしい。哨戒機のカメラの画像では艦娘か深海棲艦かは分からん』
提督は一つ息をつくと、言葉を連ねる。
『確認の為、お前らに調査を頼みたい。疲れているならまた派遣部隊を編成するが……』
電は皆の方を向いた。北上と隼鷹、暁が主に嫌そうな顔をしたが、別にやらないと言うわけでは無いらしい。電は全員の燃料残量を確認すると、無線機へと答える。
「了解しました。座標の送信をお願いします」
『ああ、よろしく頼む』
その声の後に、電の無線機の画面に一つのファイルが送られる。それを開いて確認すると、どうやらここから以外と近いらしい。そこまでの方角ルートを確認すると、電はそのファイルを全員に送り、確認させた。
『帰投している時にすまんな。まぁ、ハズレクジだと思って探してみてくれ」
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電を含めた6人は、各々――特に暁と北上が――悪態を吐きながら、目的の座標へと向かっている。座標を見る限り、そろそろに肉眼で確認出来るはずだ。電を筆頭に第一艦隊が警戒を強める。
先頭にいる電が何かに気づいたようだった。目を凝らすと、遠くの海の方で立ち上がる黒煙の中に人影らしきものが見えた。少なくとも、哨戒機が見つけたのはイ級やロ級といった深海棲艦ではないらしい。電以外もそれを確認したが、深海棲艦には人型のものも確認されている。警戒を解くと言う訳にはいかない。
次第に近くなるにつれて、電の目に人影が鮮明に映し出された。それは、どうやら女性らしかった。長く伸ばした髪を後ろで結い、手に持った傘を杖代わりにして海面にかろうじて立っている。後ろには大きな艤装が見え、そこから黒煙が立ち上がっているところを見ると、艦娘と理解すると同時にどうやら深海棲艦に襲撃を受けているようだった。
「司令官さん、目標の艦娘さんを確認しました。深海棲艦に襲撃をされているようなのでこれより救出に向かいます」
「了解した」
無線機に向かって電が言い終え、提督との連絡が一次遮断される。無線機により電波で深海棲艦側に気づかれないためだった。
艦娘が近くにいるので無暗な砲撃はかえって危険だ。この場合は赤城と隼鷹の航空支援で牽制しながら電と伊勢が近接攻撃で艦娘を救出、その後に暁と北上が殲滅をするのが無難だろう――と電は咄嗟に考えた。伊勢もその考えを察し、腰に携えた刀を抜刀して近接攻撃の体制に入る。
「赤城さんと隼鷹さんは航空支援で敵の牽制を。数はおそらく6、駆逐2、重巡3、戦艦1です」
旗艦の指示を受け、赤城と隼鷹が発艦の体制を構える。
「敵が怯んだ隙に、私と伊勢さんが艦娘の救助、および付近の敵の掃討をします。暁ちゃんと北上さんは残りの部隊へ攻撃を」
「私は行かなくていいの?」
「はい」
北上がちぇ、と口を尖らせ、両手を頭の後ろに回す。元々単装砲により近接格闘が得意な北上だが、今回の状況では万が一流れ弾が発生すれば大事故になりかねない。大雑把な北上の性格ゆえ、単装砲の近接戦闘でも無駄弾や流れ弾が多いようだった。
一方で暁は、指示を受けると右肩あたりに装備されている探照灯を黙々といじり始めた。何やら切り替え式のスイッチが付けてあるらしい。
「赤城さんと隼鷹さんは第一部隊が帰艦次第第二部隊を発艦。私達も未確認の艦娘さんを確保次第、伊勢さんと共に戦闘に入ります」
電が言い終えると同時、赤城の弓、隼鷹の巻物からそれぞれ艦載機が発艦される。それは順調に深海棲艦の方へと向かっていき、攻撃を開始。水飛沫が上がる中で、伊勢と電は高速移動を開始。一瞬で深海棲艦群の懐へ入り、電は右手に握られた兵器を高く上げた。
錨。
電の手にあったのは、身の丈ほどの巨大な錨だった。
一般的に錨というのは船の動きを抑止するための物で、水の抵抗や船の重量に抵抗するためにそれ相応の重量が存在する。更に海面との間で生じる抵抗を強くするために錨の両端には「刃」が取り付けられており、その刃も含めた総重量は単純に計算しただけでも3トンという重さである。
電が腕を振り下ろすと同時に、鋼鉄の錨がイ級へと向かう。
電の背丈と言えど、錨の重さは変わらない。上から振り下ろされる際の位置エネルギー、そしてそれに比例する力学的エネルギーの増加により、3トンの鉄の塊はそれ以上の破壊力を持ってイ級へと向かっていく。
振り下ろして、破壊する。それだけの暴力的な破壊を持った錨が繰り出す衝撃は、それこそ外れでもしない限り――
「なのですっ!」
一撃であった。
「電、正体不明艦、確保したよ!」
伊勢が叫ぶ。刀には青い液体が付いており、傍には今しがた切り捨てたような深海棲艦の死骸が転がっていた。電は錨に着いた駆逐イ級の血を振り払うと、すぐさま離脱の体制に入る。
そのとき、戦艦ル級と目が合った。
大きな砲塔が、伊勢と電に向けられる。
「暁!」
戦艦ル級の砲身から砲撃が開始される瞬間、ル級の眼前を閃光が迸った。それが消えると、伊勢と電、そしてとある艦娘はすでにル級、リ級の射程外へと離脱してしまっていた。ル級がその青い目を閃光の発射源へと向けると、そこには肩に探照灯らしきものを乗せた一人の少女の姿が見えた。
「暁の出番ね、見てなさい!」
そんな声をあげながら、暁は肩に乗せた探照灯をル級に向ける。そうして次に探照灯が光ると、そこから橙色に光る光線がル級の顔を掠めた。その後ろではリ級の右腕に光線が命中し、そのまま艤装ごと吹き飛ばした。
レーザー兵器。
SF映画でよく見る、所謂光線の事だ。
がしゃん、と暁の肩に乗せられている探照灯を模した装置から音がした。大容量の小型充電装置が排出された音だった。暁はもう一度狙いを定め、肩の探照灯から発せられる可視のレーザーサイトをリ級の眉間に向けた。
暁の所有するレーザー兵器は、居たって現実的な物だった。大容量の小型式充電池をカートリッジに装填し、発射の際に指向性を持たせて電気を一気に発射するという半ば超電磁砲に近い性質を持った装置だった。
その貫通力は計り知れないもので、コンクリートの塊程度なら粉々に砕けるほどの威力を持っている。更に暁の駆逐艦としての移動性能、レーザー兵器としての命中率を考慮すれば、かなりの戦力と言える。
暁は、この艤装を集積型高熱光線発射装置と呼んだ。
後ろにいたリ級が倒れ行く中で、ル級は手に持ったシールド型の砲塔を持ち上げ、暁の方へと向けると、無表情で引き金を引いた。
轟音が鳴り響き、暁へと黒い弾丸が降り注ぐ。それを暁は高速移動をする事で回避し、再び肩の発射装置をル級へ向ける。ル級の顔が少し歪むが、また躊躇無く引き金を引く。今度は周りで困惑していたリ級2隻も一緒に砲身を向け、引き金に手をかける。
その瞬間、リ級一隻が爆発した。水しぶきに煽られ、内臓器官を撒き散らしながら海へと沈んでいく。その水しぶきを浴びながらも、リ級は引き金を引いた。が、それは叶わなかった。リ級の真下から強い衝撃が生まれ、リ級は体をばらけさせながら宙に舞う。残されたル級は無表情のまま引き金を引いた。するとまた、ル級のシールド型の砲塔が爆発した。ル級は顔をしかめ、暁の奥、こちらを見据えた少女と視線を交錯させる。
「2と1/3か……まぁ、ラッキーでしょ」
北上がそう呟く彼女の視界には大きく立ち上がった水しぶき3つと、その中でこちらに視線を向けるル級だけ。おそらく、あのダメージでは中破判定だろう。そう考えた北上は暁の方へと目線を向けると、一応手にした単装砲の引き金に指をかけた。その瞬間に、ル級の顔が消し飛ぶ。みれば、暁がもう仕留めたようであった。
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「どうしましょう……」
戦闘を眺め、安全を確保した電は困ったような声を出した。別段、これといって彼女らに損傷はない。少し予想外の燃料消費があったとはいえ、鎮守府に帰るための燃料は十分にある。
問題は、伊勢が肩を貸してやっている艦娘だった。先ほども確認したように、栗色の髪を後ろで結って尾のようにしており、手には艤装なのだろうか、和傘を杖代わりにしている。そして、背中に背負っている艤装は、半分を失いながらもそのまま使えそうな大きさであった。
『どうだ電、見つかったか?』
ちょうどその時、無線機から通信が入る。
「はい、未確認の人影の正体は艦娘さんでした。それがですね……
電はこれを知っている。そして、この艤装を持つ唯一の艦娘の事も、その強大な力を持っていることも知っている。しかし、そのような人物がなぜこんなところに居るのだろうか?電は困惑しながらも次の言葉を連ねる。
「……大和型の艦娘、大和と見られる艦娘さんなのですよ」
『大和型?』
提督が素っ頓狂な声を上げる。電と同じで、彼もまたその事を信じることが出来ないのだろう。電とは違い、現場にいないのならばなおさらであった。
「……とりあえず、保護して連れて帰ります。入渠の用意をお願いします」
しかし、現場にはかなりのダメージを受けている大和型の艦娘がいるのだ。とりあえず電は伊勢にそのまま運んでもらうように指示し、電を含めた第一艦隊は鎮守府への帰路へとついた。
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鎮守府近くに着くと、堤防近くに人影が見える。おそらく提督だろう、その人影は電達を見つけると片手でだるそうに手を振った。電達がそちらへと向かう。
「お疲れさん。すまんな、帰投の途中に」
そう迎えの言葉を言うと、提督の細い目が伊勢の肩を使って立っている艦娘へと向けられる。
「……とりあえず、伊勢と電は残って事情を説明してくれ」
提督は頭を掻いて言うと、伊勢と電を残した第一艦隊は工廠へと向かっていった。それを見送って、提督はの答え伊勢と電の元へと向かう。どうやら、その艦娘は気を失っているらしかった。提督は堤防に腰を下ろして、その艦娘を見た。
「どうやら本当にあの大和らしいな」
呆れたように提督が言う。
「私達が見つけた時は、すでにこの状態でした」
「敵艦隊に襲われてたからねー…まぁ、それで生きてるのもすごいと思うけど」
電と伊勢が、続けざまに言った。ふむ、と提督は顎に手をやって考えるような動作をすると、その艦娘ーー正確には、背中に背負われている艤装を見つめる。大部分が欠如しているその艤装は、未だに黒煙を上げていた。
「なんで大和型がこんな近海にいるんだ? こいつは国の最大戦力じゃなかったのか?」
提督は、艤装を見つめながら呟くように言った。
確かに、大和型戦艦タイプの艦娘はありとあらゆる艦娘の中でも最大級の火力を持っている。故に、大和型はこんな近海ではなくほぼ最前線で戦っていることが多い。
しかし、電たちが居たのは沖ノ島海域……それほど遠くは無い海域である。むしろ、前線よりもかなり奥地の方だ。電と伊勢もそのことが不思議に思ったらしく、二人して顎に手を当てながら考えた。
「……まぁいい。伊勢、そいつを風呂に入れてやってくれ。電は執務室で戦果報告だ」
「了解」「了解したのです」
提督は堤防から立ち上がりながら、二人に指示を出した。二人は並びながらドッグへと水上を走っていった。
鎮守府のドッグは海に面した形になっており、帰投した艦娘がそのまま修復できるようになっている。また、今回のパターンの様に負傷した艦娘も同時に修理できるようになっているのだ。
ドッグの位置は鎮守府の正面から見て左に位置している。そこまで提督は二人がドッグに入るのを見送った。
「最近、不思議なことが多いな……」
誰に言うでもなく、提督はふと呟いた。