黒十字と雷の妖精   作:ジェネクス

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一戦の後で

「じゃあまずは自己紹介しようか。私はスピリティア・ローゼンベルク。言いにくいだろうからティアでいいよ」

 

パメラとラクサスが先の戦闘のダメージから回復したところで、ティアは自分の身の上を明かすことにした。

 

「そこのパメラさん?はわかってるみたいだけど、私はフィオーレ王国の出身じゃないんだ。フィオーレの隣国、神聖バルディア帝国の出身なの。そこの特殊部隊“エルカーエス”に所属してるんだけど…」

 

「エルカーエスっつったら一年位前に独立戦争を起こした組織だろ?正直あんまいいイメージはないんだが…」

 

ラクサスがそんな感想を述べると、ティアは困ったように乾いた笑いを上げた。

 

「あはは、そうだよね…言い訳になっちゃうかもしれないけど、あの独立戦争…“魔女の夜”は、本来なら起きるはずのなかった戦争なんだ。たった一人の人間が……“暇潰し”で、起こしただけの、悲しい戦争…」

 

ティアはそう言って顔を伏せる。そんなティアにパメラが怒りを含んだ声でこう言った。

 

「何それ…そいつが全部悪いんです、私たちは何も悪くありません、とでも言うつもり?帝国の無辜の民を大勢巻き込んだ戦争を引き起こしておいて…!」

 

「パメラ、ちょっと黙ってろ。どうもエルカーエスが絡むとお前さんは態度がきつくなる」

 

ラクサスがパメラを窘める。ティアは大丈夫、と一言言ってからこう続けた。

 

「パメラさんの言う事はもっともだよ。あの戦争はエルカーエスの起こした過ち…だから今はみんなが一丸となって、疲弊した帝国を盛り立ててるところなんだ」

 

そんなティアの言葉に食ってかかったのはやはりパメラだった。

 

「戯言を…!だったらあの反乱の後すぐに帝国に投降すれば良かったのよ…!あなたたちはそれを拒んで反乱を引き延ばしにしていたじゃない!」

 

「それは仕方なかったんだよ。あの頃は帝国の権力を教会が牛耳っていたから…あの時投降していたらエルカーエスは間違いなく解体され、帝国のマギ達は教会から酷い迫害を受けることになってた…エルカーエスの設立理念からしたら、それだけは絶対に避けなければいけない事だったんだ」

 

そう言われると、事件の真相を知っているパメラとしては何も言い返すことはできない。そんなパメラの反応を伺ってから、ティアは話を元に戻した。

 

「話が逸れちゃったね。私がフィオーレ領をうろついてたのは私の個人的な理由によるものであって、エルカーエスは全く関係ないの。フィオーレに侵攻しようなんてこれっぽっちも考えてないし、そもそも今はそんな事を考えてる余裕なんてないよ」

 

「じゃああんたは何でわざわざフィオーレに侵入したりしてたんだ?」

 

ラクサスの問いにティアはバツが悪そうに頬を掻いてこう答えた。

 

「…ちょっとね、迷い人を探してたんだ。その子の魔力を追ってたらフィオーレ領にまで来る羽目になっちゃって…勝手に他国に侵入するのは気が引けたけど、その子は私の大切な親友だから、放っておくことも出来なかったの。…本当にごめんなさい!」

 

ティアは勢いよく頭を下げた。そんなティアにラクサスはもう一つ疑問をぶつけた。

 

「だったらなんでパメラと戦闘なんかしてたんだよ。最初からそう言えば済むことじゃないか?」

 

「もちろん説明しようとしたよ。でも、パメラさん、その…まるで聞く耳持たなくて…」

 

ラクサスはジト目でパメラを睨む。パメラはわざとらしく目を逸らした。

 

「私としてもここで捕まるとリリィ…あ、その迷い人の名前なんだけど、その子を助けられないから、抵抗せざるを得なかったんだ…本当にごめんね…」

 

改めてティアは頭を下げる。ラクサスは渋い顔をしながらこう言った。

 

「…まぁ事情はよ~くわかった。要はこのバカが勝手に暴走したのが原因だったわけだ」

 

ラクサスのその言葉にパメラは不服そうだった。小声で「バカじゃないわよ…」なんてことを呟いている。

 

「だがティアよ、お前さんにも問題はあるぞ。よその国の領土を勝手にうろつくのは感心しないな。ましてやお前、名目上は軍人だろうが。下手すりゃ国際問題に発展してるぞ」

 

「返す言葉もございません…」

 

ラクサスの言葉にティアも小さくなる。そんなティアを見てラクサスは溜息を一つつきながらこう言った。

 

「…仕方ねぇな。先に迷惑かけたのはこっち側だしな。俺たちもその迷い人を探すのを協力してやるよ」

 

「ちょっとラクサス!本気なの!」

 

ラクサスのその発言に案の定パメラが食ってかかる。ティアの方も信じられないといった表情だ。

 

「ティアだってその、リリィだっけか?そいつを見つけるまでは引き下がろうとしないだろ。闇雲にうろついて万が一王国関係の人間に出会っちまったら大事だ。即戦争なんてことにはならんだろうが、国同士の関係が険悪になることは避けられん。だったらそいつをさっさと見つけてお帰り願った方が得策だ」

 

「…でも私たちはそもそもこの辺り一帯をうろついてる不審人物の調査をしているのよ!今の依頼をほったらかしてローゼンベルクに協力するわけ!?」

 

「それは仕方ねぇ。そっちは喫緊の依頼ってわけでもねぇしな。依頼人には悪いが、少しの間だけ勘弁してもらうさ」

 

パメラはやはり不服そうだが、事を荒立てた負い目がある以上強くは言えないようだ。そんなパメラをよそに置いて、ラクサスはティアに話しかける。

 

「という訳で俺たちも捜索に協力してやるから、リリィってやつを見つけたらさっさと出てくんだぞ」

 

「…あ、ありがとうございます!」

 

ティアは深々と頭を下げた。さっきからこいつは頭下げてばかりだな…なんてことを考えながら、ラクサスは必要になることを聞いておく。

 

「で、そのリリィってやつの特徴はなんかないか?大体の背丈とか、着てる服装とかな」

 

「あー…それは多分、見ればわかるよ」

 

「見ればわかるって…どういうこった?」

 

「実はリリィって、人間じゃないんだ。身長15cmくらいの妖精なんだけど…」

 

「…………………………………………………………………は?」

 

たっぷりの沈黙の後、間の抜けた声を漏らすラクサス。彼には珍しくポカーンとした表情をしている。

 

「まぁ普通はそうなるよね。妖精ってやっぱり珍しいし、特にリリィ達森妖精は人間を凄く嫌ってるから、外の世界を見たいなんて言って飛び出してくるリリィなんて本当に変わり者だよね」

 

「いやいやいや、俺が言いたいのはそんな事じゃなくてだな…」

 

「?どうかしたの?」

 

「………いるのか?………妖精」

 

「うん、もちろん数は凄く少ないけど、人の手の入ってない山奥なんかには、妖精たちが集落を作って暮らしてるってこともたまにあるよ」

 

「…………………………そうか」

 

ラクサスは遠い目で空を見上げた。思いを馳せるのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の命名の由来だ。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)―――妖精に尻尾は果たしてあるのかないのか?それを探求し続ける。決して解けぬ命題、故に永遠の冒険―――そんな理由の下につけられたギルド名。そこには妖精はこの世には存在しないという仮定があっての事なのだが―――

 

(初代マスターメイビス…どうやら俺はその答えに辿り着くことになりそうだ…)

 

空を仰ぎ見たままどこか虚しい表情でそんなことを考える。

 

「…あの…どうかしたんですか…?」

 

そんなラクサスをさすがに不審に思ったか、ティアが困ったような表情でそう問いかける。

 

「……いや、何でもない…で、要はそのちっこい妖精を探せばいいわけだな…」

 

ようやく復活したラクサスが応える。ティアは怪訝に思いながらもこう続けた。

 

「うん。一応特徴を伝えておくと、髪は長くて背中には蝶々みたいな羽が生えてるよ。あとは全体的に緑色、かな」

 

「成程。まあそんだけわかれば充分か。それじゃさっさと探しに行くか」

 

「うん、行こう!」

 

そう言って立ち上がる二人だが、パメラだけは未だに不満そうな顔で座り込んだままだった。

 

「…パメラ、お前いつまで不貞腐れてるんだよ。エルカーエスの人間に協力するのがそんなに気に入らないか?」

 

「…当然でしょ。私はもともとエルカーエスの連中の事を嫌ってるのよ。なのにそんな連中に協力するなんて…ラクサスのバーカ…」

 

ラクサスは困ったように頭を掻く。こうなるとパメラはなかなか機嫌が直らない。かといってこんな状態のパメラを放っておくと、また変な事で暴走しかねない。そんなことを悩んでいるうちに、ティアがパメラに話しかける。

 

「…ねぇパメラさん。私は何であなたがエルカーエスの事を嫌ってるかは知らないけど、私個人としてはあなたと仲良くしたいと思ってる。さっきの事は私も謝るからさ、パメラさんも私と仲良くしてくれないかな?もちろん私だけじゃなくリリィとも…ね?」

 

「……ふん」

 

ティアのそんな言葉にパメラはそっぽを向いたまま答える。だが体はさっきから落ち着きなくそわそわしている。パメラ本人としても嫌いあうのは本意ではないが、本人のプライドがそれを許さないといった感じだ。

 

「…パメラ」

 

ラクサスは少々強い口調でパメラの名前を呼ぶ。しばらくしてパメラが渋々といった感じで立ち上がった。

 

「……わかったわよ。今回だけは付き合ってあげるわ。今回だけね」

 

パメラが一応納得してくれたことに二人は安堵の溜息を漏らすのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「…ティア~?どこいったの~?」

 

ティアがラクサス達に事情を説明しているころ、別の場所では緑の小さな妖精―――リリィがティアの事を探して彷徨っていた。

 

「もぅ~ティアってばどこ行っちゃったんだろ~。私には散々迷子になるな、なんて言っといて、結局自分が迷子になっちゃうんだもんなぁ~」

 

やれやれといった感じでリリィが溜息をつく。実際に迷子になったのはどう考えてもリリィの方なのだが、そのことにリリィは気付いていない。リリィの方向音痴は相当根深いようだ。

 

「ティアってしっかりしてるようで結構抜けてるよね~。相変わらず泳ぎは全然駄目だし、お菓子作りはちっとも上達しないし、やっぱりティアには私がついていないとダメなんだよね~」

 

誰もいないのに一人で語り始める。彼女もなんだかんだでティアとはぐれて不安なのかもしれない。

 

「まぁそんなことはどうでもいいや。ティア~、どこなの~?」

 

再びティアの名前を呼び始めるリリィ。その背後に白衣に身を包んだ男が現れた。

 

「これはこれは…まさか妖精なんてものが本当に存在しているとは…フフフ、私の研究に大いに役立ちそうですね…」




次回また一人キャラ追加するかも。
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