黒十字と雷の妖精   作:ジェネクス

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シェラハの罠

「…オラァッ!」

 

ラクサスの一撃により兵隊の最後の一人が倒れ伏す。50人はいたであろう兵隊たちは、ラクサスと一夜の猛攻により2分と掛からず全滅していた。

 

「チッ、雑魚共相手に手間取っちまった…急いでパメラと合流しねぇと…」

 

苛立たしげにそう呟くラクサスに対し、倒された兵隊の一人がついこんな言葉を漏らす。

 

「へっ、今更追いかけようったって無駄だぜ。ギドさんの“迷宮(ラビリンス)”に呑みこまれたら、もう脱出は出来ねぇんだからよ」

 

「ふむ、それはどういう事ですかな?」

 

得意気に宣言する男に一夜が尋ねる。

 

「そのまんまの意味だよ。迷宮(ラビリンス)はその名の通りアジト内に無限の迷宮を作り上げる魔法だ。ギドさんが解除しねぇ限りはこの迷宮から脱出する術はねぇ。探しに行くのは勝手だが合流なんて出来っこねぇよ」

 

「…そうかい。だったらてめぇに脱出の方法でも言ってもらうとするか」

 

指を鳴らしながらラクサスは男に近づく。その威圧感に男は怯えながらこう言った。

 

「だ、脱出方法なんて知らねぇよ!俺達でも一旦迷宮内に取り込まれたら、ギドさんが解除するまで脱出出来ねぇんだ!」

 

「そいつは俺が判断することだ」

 

完全に目が据わったまま男を威嚇するラクサス。そのラクサスを一夜が制止する。

 

「落ち着いてくださいラクサス殿。この男をいくら尋問したところで脱出方法などわからないでしょう。無駄に時間を使うことはありますまい」

 

「…チッ、わかってるよンな事は…!」

 

一夜の言葉にラクサスもとりあえず矛を収める。依然焦りを滲ませているラクサスに一夜は言葉を続ける。

 

「パメラ嬢が心配なのはわかります。ですが冷静さを失ってはなりません。その心は熱く、されど頭はクールに…いい男の条件ですぞ」

 

「…俺は、別にいい男なんて目指しちゃいねぇよ…」

 

そう言って目を伏せるラクサスに対し何か思うところがあったのか、尚も一夜は声をかける。

 

「…先ほどから感じていたことですが、どうもラクサス殿は一人で思い悩む癖があるようですな。何でも一人で抱え込んでしまう性質といいますか…ですが一人では何事も限界があるというものです。私でよろしければ何かしら力になりますぞ」

 

「…いや、こいつは俺自身の問題だ。あんたの手を煩わせるわけにはいかねぇよ」

 

「…そうですか。ならば私からは多くは語りませんが、一言だけよろしいでしょうか」

 

一夜はそう前置きしてから、ラクサスにこうアドバイスをした。

 

「何事も張りつめすぎてはいけません。張りつめた糸はいずれ切れてしまうもの…時には気を緩め、リラックスすることが大事です。気を楽に持てば、視野も広がり、今まで見えなかったものが見えてくるでしょう」

 

(その言葉は…)

 

一夜の言葉にラクサスはマカロフとの別れを思い出す。あの別れの際にマカロフがかけてくれた言葉。一夜のそのアドバイスは正にマカロフの言わんとしていたことそのものであった。

 

(もっと気を楽にもて、か…そうだよな…家族相手に気を張る必要なんて、なかったんだな…)

 

ラクサスは顔を上げる。その顔は今までの常に気を張り詰めた顔と異なり、どこか険が取れたようないい顔をしていた。

 

「ふむ、いい顔になられましたな。何か吹っ切れましたかな?」

 

「あぁ、あんたの言葉でちょいと気が楽になれた。ありがとよ」

 

ラクサスの感謝の言葉に一夜も満足そうに頷く。

 

「さて、それじゃあこの迷宮(ラビリンス)とやらを突破する手段を見つけねぇとな」

 

そうして二人は行動を開始した。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

「…ハァッ!」

 

パメラが魔法陣を潜り姿を消す。と同時にシェラハの背後に現れ斬撃をお見舞いする。

 

「見え見えよぉ!」

 

シェラハはその攻撃を前に飛んでかわし、振り向きざま戦鎚を思い切り振り切る。パメラはその一撃を再び魔法陣の中を移動して回避する。

 

「こっちよ!」

 

上空からパメラの声。シェラハが上空を見上げると、既にそこにはパメラが無数の刃を展開させていた。

 

「舞え!」

 

パメラの号令と同時に魔力の刃が一斉にシェラハに襲い掛かる。シェラハは慌てずに魔力の刃をガードしつつ、パメラの着地を狙い地面を叩き岩盤を隆起させる。パメラはその攻撃をまたも魔法陣を潜り抜けて回避し、再びシェラハの背後に現れる。が…

 

「そのパターンは芸が無いわねぇ!」

 

恐るべき野生の勘とでも言おうか、シェラハはパメラの現れる位置にちょうど合わせたかのように裏拳をお見舞いする。

 

「ぐはっ…!」

 

流石にその攻撃は回避しきれず、パメラはシェラハの裏拳をまともに喰らい吹っ飛んでしまう。尚も追撃を加えようとするシェラハに対し、パメラは咄嗟に魔力の刃を生み出して牽制する。

 

「おっとっと、危ない危ない」

 

シェラハはその牽制を軽快なステップで回避する。その間にパメラも体勢を整える。

 

「しかし今日のパメラちゃんってば随分と動きが荒っぽいわねぇ。私に言われたことがそんなにショックだった?」

 

「…っ、その減らず口を閉じなさい!黒十字を、私の誇りを踏みにじった罪、その身で贖わせてあげるわ!」

 

シェラハの挑発めいた物言いにパメラも激昂して答える。そんなパメラの反応を笑い飛ばしながらシェラハが言葉を続ける。

 

「ウフフ、踏みにじってなんかいないわよ。私はただ黒十字の真実を教えてあげただけ。踏みにじられたなんて感じるってことは、つまりそれだけ隊長さんの振る舞いに問題があったって事に他ならないわよ」

 

「…っ!黙れっ!」

 

容赦なく心を抉ってくるシェラハの言葉を振り切るように、パメラがシェラハに向かって突進する。シェラハはパメラの動きに合わせて戦鎚で地面を叩く。パメラもそれに合わせてジャンプで地響きを回避するが、上空から落ちてきた岩に対処しきれず直撃を喰らってしまう。

 

「がっ…!」

 

「ほらほらパメラちゃん、下だけじゃなく上も気をつけなきゃダメでしょう?なんてったってここは洞窟内なんですから…ねっ!」

 

シェラハは自身の頭上にも落ちてきた巨大な岩を受け止めると、その岩をそのままパメラに向かって投擲する。

 

「…チッ!目覚めよ(ヴァッフアーフ)!」

 

パメラは軽く舌打ちすると聖剣の力を解放し、その剣戦で投げられた岩を砕く。その隙にシェラハはパメラの足元の地面を隆起させて落ちてきたパメラを狙い撃つ。

 

「ぐぅっ…!」

 

パメラは隆起した地面に打たれ再び宙に投げ出される。そこに猛スピードで突っ込んできたシェラハがパメラの顔面を鷲掴みにすると、そのまま強烈な勢いで地面に投げつけた。

 

「ぐっ、かはっ…」

 

地面に強烈に叩きつけられえづくパメラ。そこにシェラハがつまらなさそうな顔で声をかける。

 

「…な~んか拍子抜けねぇ。パメラちゃんってばこんなに弱かったっけ?前に何度か手合わせした時も、今よりもうちょっと歯ごたえがあったけどねぇ?」

 

「クッ…それはこっちの台詞よ…!私は手合わせであなたに負けたことはなかったのに、何でここまで…!」

 

「フフン、私は実戦でこそ本領を発揮するタイプなのよ」

 

得意気な顔で答える。が、すぐに元通りの顔になると肩を竦めてこう続けた。

 

「こんな弱いんじゃ、わざわざ私が付き合う価値も無いわねぇ。ここですっぱり潰してあげるわ」

 

シェラハは戦鎚を抱え直してパメラに近づく。口元には笑みが浮かんでいるが、その目はつまらない物を見る目でパメラを見据えていた。

 

(…くそっ!体が動かない…!)

 

地面に叩きつけられたダメージは殊の外大きく、パメラは上手く起き上がることが出来ない。と、そこでシェラハが唐突に歩みを止めた。

 

「…フフッ、どうやら役者が揃ったみたいね」

 

シェラハが入口のところに視線を向ける。そこには全力で走り続けて息を切らしたティアが佇んでいた。

 

「ハァ…ハァ…ようやくたどり着いた…パメラ、大丈夫!?」

 

肩で息をしながらもティアはパメラを気遣う。

 

「スピリティア…無事だったのね…えぇ、こっちは大丈夫、よ…」

 

何とか上体を起こしながらティアに応える。二人は一瞬視線を交錯させると、互いに軽く笑みを浮かべた。

 

「フフフ、随分と飛ばしてきたみたいねぇ。予想よりもよっぽど来るのが早かったわ。魔力もスッカラカンになっちゃって、そんなんで私と張り合えると本気で思ってんのかしら?」

 

そこにシェラハが先ほどとはまるで違う愉快そうな顔で語りかける。

 

「シェラハこそ知らないとは言わせないよ。私は魔力が尽きても戦える。そういう魔法が使えるんだってこと」

 

「もちろん知ってるわよぉ?そう、あなたにはゼーレゲヴェーアがあるから、魔力が尽きることも厭わず全力で駆けてくる…フフフ、全く予想通りに動いてくれるものだわねぇ?」

 

そう言うとシェラハは唐突に赤色の発光弾を取り出し、上空で炸裂させる。程なくして洞窟一体を不思議な違和感が包み込む。

 

「…?一体何をしたの…?」

 

パメラが不思議そうな顔でそう尋ねる。だがティアはこの違和感の正体に気付いているらしく顔に焦りを滲ませている。

 

「これ…もしかして…!」

 

「フフン、流石にティアはすぐに気づいたみたいね。そう、この洞窟一体のマナを一時的に抹消したのよ」

 

「マナを…抹消!?」

 

ティアが驚きに目を見開く。シェラハはその様子をニヤニヤと眺めながらこう続けた。

 

「そ。これもギドの空間魔法の一つ、確かネガ・マジックゾーンって言ったっけ?元々は合成獣(キメラ)研究の際に展開しておくものなんだって。合成獣(キメラ)研究は何が起こるかわからない。中には製作中に暴走してしまう事も有り得る。だけどあらかじめ周囲のマナを抹消しておけば、その危険性を大きく減ずることが出来るんだって」

 

私にはよくわからないけど、と付け加えてからさらに言葉を続ける。

 

「人体に影響があるわけじゃないから本来は戦闘には使えない魔法なんだけど…あなたにとっては致命的な魔法よねぇ?」

 

「もしかして、あなたは最初からこれを狙って…!」

 

「ビンゴ♪出鱈目に強いあなたを封じるために色々小細工を弄してみたってわけよ。魔力は尽き、頼みのゼーレゲヴェーアもこの状況では使用不可。まさか私相手に肉弾戦を挑もうってほど、あなたもバカじゃないでしょう?」

 

カラカラと笑うシェラハ。ティアはその姿を見て悔しそうに歯噛みをする。

 

「…スピリティア、あなたは手を出さなくていいわ。あいつは私だけで片づけるから」

 

その間にダメージから回復したパメラがティアにそう告げる。

 

「あらあら、さっきまで私にボコボコにされてたのに、随分でかい口を叩くじゃない?」

 

そんなパメラをあざ笑うようにシェラハが言う。パメラはその言葉を切り捨てるようにこう言った。

 

「…もうあんな不覚は取らないわ。私は…あなたを、倒す!」

 

決然と言い放つパメラ。シェラハはそんなパメラを見て獰猛な笑みを浮かべてこう言った。

 

「へぇ…なら、それが口だけじゃないってとこ、見せてもらおうじゃないの!」

 

そして再び両者が激突する。そんな二人をティアは苦渋に満ちた顔で見ていた。




シェラハ様やりたい放題。この人はこういう役回りがホント似合うと思う。何につけても自由というか、自分はやりたい放題に引っ掻き回してカラカラと笑ってるといった感じ。賛否はあると思うけど、こういうのがシェラハの魅力だと思うんだ。

このエピソードもあと2~3話で終わる予定…とか言ってるとまた4話5話と伸びるんだよなぁ…でもシェラハ戦だけは次で終わる。絶対に終わらせる。
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