不屈ノ爪〜The Iron Clow〜   作:明るい脳筋

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遅くなってすみますん。気付いたらこんなに遅れていました。
今後も遅れまくるかもしれませんが、生暖かく見守ってください。


第8話 初めての出撃と強襲

5月13日

 

朝が来る。

明るい陽光は、あらゆるものを等しく包み込む。

光に照らされた、どこまでも続く海。それは、今では人類がそう簡単に踏み込んではならない領域になっていた。いや、戻ったと言うべきかもしれない。

ヴェラ・ガルフは、走りつつそう考えた。

搾取し過ぎた人類を、自然は追い出した。そう考えと今の状態は人類が自ら蒔いた種とも言えたが、あいにく人類にどうしても必要なのが海洋資源だ。

どちらにせよ、彼女にとってはそこまで気になる問題ではなく、人類自身が解決せねばならない問題に部外者が立ち入るのは無粋だ。

立ち止まった。息が乱れているが、昨日ほどではない。体力は付きつつあるようだ。

しばしの間立ち止まり、海の方に顔を向ける。息を呑むほどの光景だが、それに見とれている場合ではない。

彼女は、それに背を向ける。海に出る前にやるべきことはいくらでもあるのだから。

 

6時半きっかりに食堂に入ったヴェラ・ガルフは、他の艦娘たちが談笑しながら入って来るころにはすでに食事を終えていた。

彼女は、入れ替わるように外に出た。一瞬、呼び止められたように感じられたがそれを聞こえなかったふりをして立ち去った。

誰とも話さず、食事を済ます。まるで、クラスの暗い生徒のような感じだと苦笑いを浮かべたが、それが彼女の生存に影響がない以上関係のないことだった。今は、仕事のことを考えねば。

彼女は、とりあえず気象状態をレーダーで確認する。昨日、龍田から聞いた規定のルートの状態を確かめる。

今のところ、海を荒らす雲はないようだ。風速もそこまで強くなく、艦載機を飛ばすにも申し分ない天気だ。

偵察任務には良い日だ。もちろん、ある程度の悪天候でも彼女の索敵能力が落ちることはないが。しかし、やはり天気がいいほうが気持ち的にも嬉しい。

後ろに気配を感じ、振り返る。

見覚えのある少女がいた。確か…。

「瑞鳳さん…でしたっけ?」

「そうです。直接話すのは初めてですね」

そういえばそうだ。何度か会ってはいるが話すのはこれが初めてだ。

「ところで、何の用ですか?」

「激励ってところです」

「激励?」

「はい。今回の偵察が初めての出撃ですよね?」

「ええ、そうですけど…」

「最初の出撃は慣れないことばかりで上手くいかないものです。私がそうでしたから。だから、ヴェラさんにも頑張って欲しいんです。たとえ失敗したとしても」

優しい少女だ。もっとも、飲酒適齢期であることは加古から聞いていたが。しかし、艦娘の年齢は何をもって決まっているのだろうか?

真実は、あの濃紺の海よりも深いのかもしれない。

 

ヴェラ・ガルフの名前が、ヴェラで統一されたのは昨日のことだ。そのエピソードに関しては、いずれ語るとして今はすでに海の上にいる第二艦隊に話を向けよう。

海に出て2時間。思っていた以上に快調な滑り出しを見せた彼女の初出撃は、穏やかそのものだった。

空にはカモメが飛び、碧い海は沖へ出るごとに深みを増し、とても人が生み出すことのできない美しい碧色を見せてくれている。

第二艦隊の面々も、楽しそうに談笑しているのを見るととても戦時下とは思えない。

きっと、彼女のいたあの世界でもクリスマスは穏やかに過ぎるだろうと、彼女は予想した。

あまりにも戦闘と離れた場所では、どうしてもその戦闘が同じ世界で起こっていることに思えないのだ。

旗艦を勤めている龍田が、こちらに顔を向けて言った。

「そろそろ艦載機を出してもらえるかしら?」

「分かりました」

ヴェラ・ガルフは、そう言うと腰のあたりにある飛行甲板に手をかけた。格納庫からSH-60Bシーホークが現れた。彼女自身、この身体を得てからこの機体を見るの初めてだった。

格納庫から現れたシーホークは、まるで手乗りインコのように小さく可愛らしい。瑞鳳が、自分の艦載機を見てかわいいと言う感覚がなんとなく分かる気もする。

しかし、小さくなったとは言え能力的には通常サイズと全く変わらず、対潜攻撃もそつなくこなせるようだ。

シーホークの妖精が、発艦許可を求めてきたので彼女は即座に許可を出す。

小さな海鷹は、灰色の飛行甲板を蹴り青空に舞い上がった。

徐々に速度を上げるシーホークは、やがて視界から姿を消した。ヴェラ・ガルフは、シーホークをレーダーで追う。シーホークを表す光点が、第二艦隊から遠ざかり予定の哨戒海域に向かっているのを確認した。

次いで再び出てきた2機目のシーホークに発艦許可を出し、鷹を空に送り出すまでにかかった時間は、わずかに1分程度。もちろん、現実ではもっと時間がかかるが何せ発艦のための細々とした作業のほとんどが省略されている。

艦に意思がある艦娘らしい発艦方法と言えた。

ふと、第二艦隊の面々がこちらを見ているのに気付いた。

「何ですか?」

ヴェラ・ガルフの問いに、初雪が珍しく発言する。

「ん、カ号」

「カ号?」

「ん」

ヴェラ・ガルフの問いに初雪は頷く。

カ号と言えば、カ号観測機のことだろうか?そうだとしたら、シーホークとカ号を見間違えたのだろうか?いや、おそらくカ号に似ていたからそう言ったのだろう。

「あいにくですが、これはカ号観測機ではありません」

この答えに、天龍が興味ありげに聞いてきた。

「んじゃ、さっきのオートジャイロはなんだ?」

「あれはオートジャイロではありません。SH-60Bシーホークと呼ばれるヘリコプターです」

「ヘリコプターってなんだ?」

「説明するのが面倒くさいやつです」

「ハア?」

天龍は、意味が分からんと言いたげに言った。

ヴェラ・ガルフは、ため息をついた後返答する。

「はっきり言って、私にもよく分からないんですよ。それでも何か言えとおっしゃるなら、オートジャイロは他の推進器から得た風力で回転翼を回して揚力を得るのに対して、ヘリコプターはローターと呼ばれる回転翼をエンジンで自力で回して揚力を得ているって言ったところです」

天龍は、しばし考えた後に後ろでニコニコしている龍田に聞いた。

「お前はヴェラが言ったこと分かったか?」

「なんとなく分かったわ〜」

「本当か?おれにはさっぱりだったぞ」

「あら〜、天龍ちゃんには少し難しかったかしら」

「おれはそんなに馬鹿じゃないぞ!」

「でも、さっきの話は分からなかったんでしょ?」

「うっ…、そ、それはだなー、あっ、あれだちょっと本当に理解してるか聞いてみただけだぜ」

「本当に〜」

「本当だ!」

ヴェラ・ガルフは、まだまだ続きそうな2人を置いて4人の駆逐艦娘に補足説明をしていた。

「SH-60Bは、アメリカのシコルスキー社製のH-60の海軍仕様の機体で、基本的には陸軍のUH-60ブラックホークを元にしています。しかし、実際のところは相違点が多く、別機体と見るのが普通ですね。

LAMPSつまり、軽空中多目的システムとして開発された機体です」

「あの、軽空中多目的システムってなんですか?」

白雪が言った。

ヴェラ・ガルフは、その問いにしっかり答える。

「基本的には、対潜活動が多いですが目標の探索や対艦ミサイルでの攻撃、救難活動に輸送活動、電子戦、指揮連絡ととにかく様々な任務で運用されるまさに多目的機です。使い勝手が良いので、各国で運用されています。日本でも海上自衛隊、いや今は国防海軍ですね、そこでも使用されているはずです」

深雪が言った。

「そう言えば、前の基地にいた日向先輩がロクマルは積めないぞっと言ってたっけなぁ」

「そのロクマルがどの種類の機体かは分かりませんが、おそらくSH-60のことでしょうね」

「へぇ〜、あの機体のことを言ってたのか。納得」

「SH-60はLAMPSの3代目で、LAMPS MkⅢと呼ばれています。私には後部の格納庫に2機搭載されています」

「潜水艦を潰せるってのはいいことだぜ」

天龍が話に戻ってきた。

ヴェラ・ガルフは意地悪く言ってみる。

「おや、お話は終わったんですか?」

「うっせぇ」

天龍は強く返答する。苛立っているのがよく分かる。

ヴェラ・ガルフは、ニヤリと悪い笑顔を浮かべたがそれ以上の追及はしないでおいた。

 

それからさらに2時間後。

服から取り出した時計を見た龍田が言った。

「そろそろ針路変更の時間ね〜」

「おっ、もうそんな時間か。やっぱ戦わねぇとやり甲斐ないな」

天龍がぼやく。龍田が、天龍を咎めた。

「も〜、天龍ちゃんったら哨戒任務も立派な仕事よ」

「分かってるって」

そう言いながら、天龍は針路を変更する。

突然だった。

ヴェラ・ガルフの頭に声がよぎる。

《こちら海鷹1、正体不明の艦隊を発見!空母3、重巡2、軽巡5、駆逐艦6の大艦隊!艦隊速度15ノットでパラオ泊地に接近中》

ヴェラ・ガルフは、とっさに反応する。

「こちらヴェラ・ガルフ、不明艦隊の位置を知らせてください」

《こちら海鷹1、不明艦隊は貴艦隊より8時の方向に約540キロの地点。本機は現在安全距離に離脱中》

「了解、泊地に警告を出します。不明艦隊の動向を逐次報告してください」

《了k…、クソッ…こちら海鷹1攻撃を受けている!『深海棲艦』の機体だ!》

「こちらヴェラ・ガルフ!現在の任務を放棄、逃げ切ってください!」

《分かってますよ、クソッ…奴らめ、立体機動で度肝を抜いてやる。一旦切ります。無事を祈っててもらえるとありがたいです!》

「分かりました。すぐにそちらに向かいます、それまで持ち堪えてください!」

《保証はできませんが…努力します!オーバー》

無線が切れ、頭の中の言葉も途切れた。

「あの、何かあったんですか?」

立ち止まっていたヴェラ・ガルフに気付いた吹雪が、心配そうに聞いてきた。

「嫌なニュースです。『深海棲艦』の艦隊を発見しました。空母3隻の機動部隊です」

吹雪の顔が青ざめる。

「何だ、どうした?」

他の面々も、彼女らの周りに集まって来た。ヴェラ・ガルフは、皆に機動部隊発見の報とシーホークが攻撃を受けている旨を伝えた。

「とうとう来たか…」

さっきまで威勢のいいことを言っていた天龍も、突然のことに驚いているようだ。

ヴェラ・ガルフは言った。

「こんなところで何もしないで突っ立ている訳にはいきません。まずは、泊地に連絡、次に敵艦隊を迎撃します」

「場所は分かっているの?」

龍田が聞いてきた。ヴェラ・ガルフは頷きながら言った。

「本艦隊より540キロ、約300海里南西の地点です」

「全力で飛ばせば1時間で接敵できるな…」

天龍は小さくつぶやき、やがて言った。

「龍田」

「何かしら?」

「やれると思うか?」

「当たり前じゃない。最近、私も欲求不満が高まってるの〜」

「んじゃあ、決まりだな」

天龍が周りの駆逐艦娘たちのほうを見た。全員が頷く(1人は仕方がなさそうにだが)。

天龍は満足そうに頷くと、ヴェラ・ガルフに顔を向けて言った。

「と、言うわけだ。ヴェラ、指揮をとってくれ」

「…はい?」

 

〜回想開始〜

 

あ…ありのままに今起こったことを話します

『さっきまで旗艦じゃなかったのにいつの間にか旗艦になっていた』

な…何を言っているのか分からないと思いますが、私自身何故こうなったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうです

耳がおかしくなったとか聞き違いとかそんなチャチなものじゃ断じてないです

もっと理不尽なものの片鱗を味わいました…

 

〜回想終了〜

 

「何で私が旗艦になってるんですか⁉︎」

天龍がさも当然と言いたげに言った。

「いや、敵艦隊の正確な位置分かってんのがヴェラだけだし。それに、続報が1番最初に来るのはシーホークの母艦のヴェラじゃねぇか」

「う…」

確かに理にかなっている。しかし、この世界に置ける実戦経験がない彼女が指揮をとるのはやはりどうかと思う。

ヴェラ・ガルフは、食い下がって言った。

「龍田さんはいいんですか?」

「私は別にいいわよ〜」

たった今、ヴェラ・ガルフ最後の望みは絶たれた。つまり、腹をくくるしかないと言うことだ。

「分かりました、やりましょう。とりあえず、針路を変更。方位2-4-0」

全員がヴェラ・ガルフに続いて針路を変更する。

彼女は次の仕事を始める。泊地への警告だ。

「こちら第二艦隊新旗艦ヴェラ・ガルフ。応答されたし」

沈黙が続く。もう一度言おうとしたその時、無線が音を発した。

《こちらパラオ泊地。指揮官の江田だ》

指揮官が直々に出るとは、よほど暇なのかと思ったが彼女は本題にすぐに入った。

「こちら第二艦隊新旗艦ヴェラ・ガルフです」

《ヴェラか?新旗艦って何だ?まさか…》

無線の向こうから焦りが感じらたので、彼女は落ち着いて言った。

「龍田さんは無事です。少なくとも今のところは…」

ホッとため息が聞こえたのも一瞬、緊迫した口調が返ってきた。

《何があった?》

「数分前、私の艦載機が敵艦隊発見を報じました。空母3隻を擁する機動部隊です」

《ついに来たか。それで、今はどうしている?》

「現在、敵艦隊との接敵のために前進中です」

《分かった。すぐに、増援を送る。敵の位置は分かるか?》

「最新の情報だとパラオ泊地から南東方向に400海里程度です」

《少し雑な位置だが…》

「私のレーダー圏内に入ればより精度の高い情報が出せますが…」

《分かっている。その時は教えてくれ》

「了解しました」

《よし、他に報告することは?》

「ありません」

《分かった。私は地上でぬくぬくとしている人間だ。そんな人間に言われたくないかもしれないが、言わせてくれ。無事に帰って来い》

「心配いりませんよ、『世界最強の洋上艦』の名は伊達じゃありません。それでは」

彼女は無線を切る。

と、再び無線が動いた。

《こちら海鷹1》

「こちらヴェラ・ガルフ、海鷹1へ。無事ですか⁉︎」

《こちら海鷹1、なんとか無事です。飛んでるのがやっとってところですが、まだ空にいます》

「よかった…」

《できれば早く迎えに来てください。こっちが落ちる前に…》

「分かりました。今そちらに向かっていますから、もう少しの辛抱です」

《頼みます》

そう言うと、無線は切れた。

ヴェラ・ガルフは第二艦隊の面々に言った。

「急ぎましょう。私の艦載機が落ちる前に」

「でもさぁ、艦載機が落ちるのは仕方ないことじゃない?」

そう言ったのは深雪である。確かにその通りかも知れないが、あいにくこの機体はそういうわけには行かない。

「残念ですが、落としたら結構マズイことになるかも知れませんよ」

「なんで?」

深雪の疑問にヴェラ・ガルフは答える。

「あの機体、結構高価なもので落ちたらどれくらいの資材が吹っ飛ぶか分からないんですよ」

この意味が分からない者はいなかった。

「それなら急がないとね」

深雪も言った。

彼女たちは海上をひた走る。パラオ泊地のために、人類の明日のために。

そして、もっとも重要なもの。

つまり自分たちの明日の腹のために。




また伸びましたね。
さて、ジョジョネタが出てましたね。なんで出したのか自分でも分かりません。きっとテンションがおかしかったんでしょう。
まぁいいや。
次回は主人公初の戦闘です。前回の戦闘シーンを見て分かると思いますが、戦術なんでありませんし描写も下手くそですがやれるだけやってみます。
最後にこのような作品を読んでいただきありがとうございました。
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