不屈ノ爪〜The Iron Clow〜   作:明るい脳筋

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皆さん、大変長らくお待たせしました。
イベントに試験と忙しい日々が続いたおげでこの有様です。
それはさておき。
皆さんは今回のイベント、どうでしたでしょうか?私はE-5で諦めました。
まだ戦力的に無理があったようです。まぁ、春イベで丙でE-1すらクリアできなかった事を考えると十分ですけどね。
前置きが長くなりました。
楽しんで読んでもらえれば幸いです。


第9話 初陣

彼女たちは海を駆けっていく。

最初はしっかりとした陣形を保っていたが、ヴェラ・ガルフは自分が徐々に引き離されていることに気付いた。

急げと言った自分が遅れているのは格好がつかない。彼女は、必死でついて行こうとしたが、ついにかなり引き離されてしまった。

さすがにおかしいと思ったのだろう、第二艦隊の面々はその場で止まり待ってくれた。

数分後、彼女が追いついたところで天龍が言った。

「急げって言った割には結構遅いぜ?」

「すみません…。あの〜、皆さんの速度は何ノットでしたっけ?」

少女たちは顔を見合わせて言った。

「オレら33ノットだぜ」

天龍が自らと龍田の最高速度を述べた。

「私たちは38ノットです」

駆逐艦娘を吹雪が代表して言った。

ヴェラ・ガルフは、ため息をついて言った。

「申し訳ないんですが…私、32.5ノットです」

沈黙。皆、何故先に言わなかったのかと言いたげな顔をしている。ヴェラ・ガルフは、それを見て恐縮するしかなかった。

白雪が言った。

「とりあえず進みましょう」

この意見に反対する者はいなかった。

 

途中、危ぶまれていた2機のSH-60B回収をなんとか成し遂げた彼女らは、とりあえず自分たちの胃が守られたことに安堵したが、危機が去ったわけではない。次は、帰る場所を守らなければならない。

しばしの間立ち止まっていた第二艦隊の面々は、再び動き始めた。

30ノット以上の艦隊速度を維持するのはあまり良いことではないのだが、基地が危機に晒されている以上、燃費は無視するべきだろう。

さて、戦闘を開始しする前にやっておかねばならないことがある。

何も考えず、出たとこ勝負で攻撃をかけるのはもちろん良いことではない。少なくとも、それらしい作戦を考えなければ。

「と、言うわけで作戦を説明します」

ヴェラ・ガルフは言った。

第二艦隊の面々は、彼女に先を促す。

「まず、敵艦隊ですが空母3隻の機動部隊です。当然、主力は空母です。これを叩かない手はありません」

同意を示す頷きが帰ってくる。

「そこで、私の対艦ミサイルRGM-84『ハープーン』をぶち込むます。シースキミングで攻撃すれば、30キロ圏内に近付かない限りレーダーで気付かれる恐れはありますん。もっとも、気付かれても撃墜は困難でしょうが」

「それで、そのハープーンって言うミサイルの射程距離はどれ位なの?」

龍田が聞いてきた。

「ざっと140キロ程です。しかし、低空では空気抵抗が大きいので射程距離は少し短くなります」

皆が仰天したような顔をした。

「スゲェな…ハハハッ…オレたちはもう要らないようだな…」

天龍が言う。きっと他の者も同様に思っているだろう。しかし、今のヴェラ・ガルフには彼女たちの力が必要だった。

「そんなことはありません。まず、ハープーン一発ではよほど当たりどころがよくない限り空母を沈める力はありません。今回も沈むかもしれませんが、おそらく航空機の発艦を阻止する程度の損害しか与えられないでしょう。

それに、ハープーンは資材を持っていくことが予想されます。重巡や軽巡、駆逐艦なんかに撃ち込むのは効率がいいとは言い難い」

彼女は一呼吸置いてから言った。

「そこで、あなた方に突撃して貰いたいわけです」

『え?』

全員が同時に言った。

 

「つまり何だ、オレたちに当たって砕けて来てくださいって言うつもりか?」

天龍から、微かな憤りを感じたヴェラ・ガルフは慌てて言った。

「いえ、もちろん砕けて来いとは言いません。私も援護させてもらいます」

「何で援護だけなんだ?」

天龍の怒りがひしひしと伝わってくる。言い方を間違えたと思ったが後の祭りである。このまま続けるしかない。

「知っての通り、私は未来の…もっとも、今の時代から考えると少し過去の艦ですがあなた方が生まれた時よりも未来の艦です」

全員が頷くのを見た彼女は、先を続ける。

「あなた方が感じたように、あの戦争の終結後戦艦と言う艦種は消滅します。砲の時は終わり、航空機、そして精密誘導兵器の運用に戦争の形態は変わりました。

戦後に生まれた艦は、装甲が徐々に少なくなりやがて機銃弾を防ぐ程度の装甲になりました。つまり、あるだけマシって言う感じです。当然ながら、大口径の砲弾を食らえば当たりどころが悪ければ一発で轟沈、なんてこともあります。艦娘は、大破していなければ沈まないらしですから一発轟沈は無いにしても、砲撃戦ともなると流石にまずい。

残念ながら、現代艦艇は砲撃戦を想定していません」

しばしの沈黙の後、天龍が言った。

「装甲が薄いのはまずいな…。どれくらいなんだ?」

「格納庫の上面は1インチの装甲が貼られています。ケブラーを使用してるそうですよ。ちなみに、後は艦橋に貼られてくらいで後は非装甲に等しいみたいです」

ヴェラ・ガルフはまるで他人事のように言った。

天龍はため息を吐き、諦めたように言った。

「確かに、これじゃあ突撃なんてできないな」

「すみません…。ですが、全力でサポートをさせていただきます。まず、突入時は当然奇襲であることが望ましい。そこで、私に搭載されたECMを使用します」

「ECM?」

白雪が尋ねてきた。彼女は、気になることがあるならしっかり聞いてくるタイプらしい。

ヴェラ・ガルフは答える。

「電子対抗手段。敵の電子兵器、つまりレーダーやら通信機やらの使用を妨害する兵器です。妨害と言っても、第二次大戦当時の艦艇をもしている相手なら完全に使用不能にすることも容易でしょう。

これで、こちらの攻撃に気付くのは目視距離に到達した時、運が良ければ攻撃開始まで気付かれないかもしれません」

「航空機はどうするんですか?」

吹雪が問いかける。

「その辺りも問題ありません。対空ミサイルと単装速射砲、それにCIWSで大半は落とせます」

「なんだかよく分からない単語が結構出てるが、まぁ問題なぇだろう。よし、ヴェラの言う通りにしてやる。ただし、しっかりサポートはしてくれよ」

「任せてください」

天龍の言葉に、ヴェラ・ガルフは力強く頷き言った。

彼女に搭載されたSPY-1Bフェーズドアレイレーダーがかすかに反応し、脳内に光点を映し出した。

彼女は笑みを浮かべ、言った。

「敵艦隊を捕捉」

 

ECMを起動すれば、今後基地との連絡が困難になるおそれがあったため、敵艦隊捕捉の報をすぐに泊地に送った。

邀撃作戦の概要を伝えたヴェラ・ガルフは、渋っていた江田を説き伏せて作戦の認可を引き出した。

無線を切ると、彼女はすぐに行動を起こした。第二艦隊の面々に、ECMの起動を告げると、彼女は自身に搭載されているSLQ-32を作動させた。

これにより、SLQ-32の有効圏内の全ての電子兵器が沈黙した。

この海域における電子兵器を使用できるのはヴェラ・ガルフただ一人となった。舞台は整った。

 

戦闘は静かに始まった。

ヴェラ・ガルフは、ハープーンを誘導するためにSWG-1 HSCLCSを作動させる。ハープーンに諸元入力し終わると後は目標に向けて撃つだけになる。

入力完了。

彼女はハープーンを発射する。

4連装のMk.141ハープーンランチャーから、3基のハープーンが白煙を噴きながら空に向かって行く。

ハープーンは、慣性誘導に従い『深海棲艦』艦隊に飛翔する。目標は、もちろん空母である。

マッハ0.85で飛翔するハープーンは、やがて艦隊を捕捉する位置についた。その段階でハープーンは自身のレーダーを起動し、目標を定めた。

反射波の大きい空母に狙いを定めたハープーンはアクティブレーダーホーミングに従い、シースキングで急速に接近する。

これに気付いた輪形陣の最外にいた駆逐艦ハ級は、自身の5インチ砲でハープーンを撃墜しようとした。

が、気付いた時にはもう遅くハープーンはポップアップし上昇。その後45°の急角度で空母ヲ級の格納庫付近に命中した。

炸裂した440キロの炸薬は、付近の艦載機の誘爆させる。悪いことに、発艦準備が整い発艦させようとした矢先の出来事であったため、被害は拡大の一途を辿った。

それと同様なことが、艦隊の空母全てで起こっていた。1隻目のような悲劇はないにしても、もはやパラオ空爆の任務を遂行することはできないだろう。

数分後、最初にハープーンを食らったヲ級が海底に没した。

それ以外の2隻は大破し、発艦させていた直掩機の着艦すら不可能な状態だった。

このような出来事のせいで、彼女らはレーダーや無線機ぐ使用不能になっていることに全く気付けなかったのである。

レーダーとソナーで『深海棲艦』に損害を与えたことを確認したヴェラ・ガルフは、次の行動に移った。

「龍田さん、現場での指揮をお願いしたいのですが?」

龍田はしばらく考えたような表情を浮かべ、またいつも通りの笑顔を見せて言った。

「指揮は天龍ちゃんに任せてもらえるかしら」

「何故です?」

ヴェラ・ガルフの疑問に、龍田は穏やかに答える。

「あの子の方が、戦場での指揮が上手いのよ」

そう言うなら、仕方ない。

「天龍さん、お願いできますか?」

天龍はこれまで見た中で、1番いい笑顔で言った。

「もちろんだぜ。奴らをしっかり叩いてやる」

やることは済んだ。

ヴェラ・ガルフは、脳裏に浮かぶレーダー画面と海図を見た。そろそろ頃合いだ。

「それでは、私はここで離脱します。危険を感じたらすぐに教えてください。できる限りの対処をします」

「ECMはどうするんですか?」

吹雪が聞いてきた。

「奇襲の成功が確認できれば、戦闘海域付近の解除を行います。しかし、それ以外の海域は解除しません。他に疑問点はありますか?」

無言が返ってくる。

ヴェラ・ガルフは真剣な顔で言った。

「それでは、ご武運を」

 

第二艦隊は増速し、天龍型の最高速度である33ノットに達した。ヴェラ・ガルフは、徐々に引き離され、やがて完全に落伍した。

彼女は、本隊を見届けた後に転舵した。

すでに発艦させていたSH-60Bからの映像が、LINK16を通って彼女の左目に映されている。右目には、現在彼女のいる光景が見える。

さらに、目を閉じるとそこには大画面のレーダーディスプレーのような光景とこの海域の海図が見れる。

普通の人間はもちろん、艦娘ですら彼女の見ているものを見れば頭が混乱するだろうが、彼女の情報処理能力を持ってすればさほど苦にならないのだ。

敵艦隊の上空に直掩機ぐ数機、確認できる。奇襲を仕掛けようとしている本隊にとって脅威であるし、シーホークにも危険な相手だ。

彼女は、瞬時に判断しSM-2がMk.41 VLSより発射される。

ちょうど、命中は本隊の攻撃開始時間とほとんど同じになるようだ。

戦いの火蓋を切るには御誂え向きなデモンストレーションになるだろうと、彼女は1人ほくそ笑んだ。

 

徐々に暗くなる空。

どこかもの悲しい5月の空を、数本の白煙が綺麗な直線を描きながら進んでいる。よく見ると、その白煙の先に細長い筒のようなものつまりSM-2スタンダード対空ミサイルが凄まじいスピードで驀進しているのが見える。

SPG-62イルミネーターレーダーに誘導される10発のSM-2は、目標として指定された敵機にマッハ2で飛翔し続ける。

やがて、目標が見えてきた。

SM-2は、敵機に目がけて突っ込み爆砕。

『深海棲艦』の直掩機は、空で火の玉と化した。

突然の爆発に、『深海棲艦』は再び驚いた。その中でも、先ほどの攻撃で旗艦であるヲ級が撃沈されたため急遽旗艦となった重巡リ級は誰よりも驚いた。無理もあるまい。先ほどの槍が今度は自分に飛んで来るのではないかと思うと、まともな思考ができないのだ。

そして、この冷静さに欠ける対応が最悪の結果に繋がってしまった。

直掩機の全滅にようやく対策を練ろうとした彼女らに、さらなる攻撃が始まった。

 

ヴェラ・ガルフの言う通り、第二艦隊の接近は気付かれていないようだ。これならば、行けるかもしれない。

正直なところ、ヴェラの言っていることはあまり信じられなかった。技術的に可能なのかと言う疑問と、あまり言いたくはないがヴェラがアメリカの艦であると言うことも信じられないものの一つだった。

もちろん、そんなことは過去の話であって今は味方であると言うことは頭では分かっているのだが、やはり気持ち的には受け入れ難いと言うのも事実である。

だが、今となってはその考えが間違っていたことは明白だ。

敵空母から発生していると思われる黒煙が、すでに目視できる距離だ。

もし、『深海棲艦』がレーダーを使用できるなら重巡からの砲撃がすでに始まっているはずだ。それが無いということは、ヴェラの言ったようにレーダーが無力化されているからに他ならない。

「もう攻撃を始めてもいいんじゃないかしらぁ」

龍田が早く始めたいとばかりに言った。

「いや、もう少し行ってから始める」

天龍は断固とした調子で言った。

龍田は首を傾げつつ言う。

「あら〜、いつもの天龍ちゃんならもう撃ち始めていると思うんだけど?」

「今回はいつもと違ってもっと進んでも上手くいきそうだからな」

「天龍ちゃんが言うなら別にいいけど…」

そう言うと、龍田は離れていった。

天龍は目を前に向ける。

そうこうしているうちに、敵が見えて来た。

もう十分に接近した。

天龍は言う。

「用意はいいか?」

全員が頷く。

天龍はそれを見て笑みを浮かべ、そして自身の刀を鞘から抜き、叫び声に近い声を出した。

「Charge‼︎」

何故英語なのかは分からなかったが、それでよかった。

どのみち、戦うことに変わりはないのだから。

 

鬨の声が聞こえた。

驚いた『深海棲艦』たちは、その声の方向に顔を向ける。

凄まじい形相の艦娘たちがこちらに向かってきている。

そこでようやく自分たちのレーダーが使用不能になっているのに気付いた。あまりにも、レーダーに頼りきっていた彼女らのツケだったが今は後悔している場合ではない。事態は動いている。

このような予想外の事態に最も必要なものは、冷静な判断力と的確な指揮、そして経験である。

不幸なことに、現在の艦隊旗艦であるリ級はそのどれも持ち合わせていなかった。

この時、リ級が発した命令は各員の判断で攻撃せよである。

この場において、最も言ってはいけない命令だろう。

統制の取れていない砲撃が当たるとは思えないし、混乱を大きくするだけだ。

が、命令は命令である。

彼女らは破滅への道を辿りつつあった。

 

一方の第二艦隊側は、冷静さを欠いておらず経験豊富な天龍が旗艦を勤めており、しっかりと統制が取れていた。

突撃は、日本のお家芸で明治時代には師団規模の突撃があったと言う。もっともその時は夜襲であったようだが。

統制された突撃は混乱している相手に脅威であり、同時に恐怖でもある。

単縦陣で突入した第二艦隊は、薄い弾幕を掻い潜り接近戦を開始する。

魚雷と砲撃が入り乱れ、『深海棲艦』たちは最早被害の確認すら困難を極めていた。

海面はすっかり血の色に染まっていた。

 

そこから30キロほど離れた海域に、ヴェラ・ガルフはいた。

レーダーとSH-60Bからの映像を交互に見ながら、分析を進める。敵が混乱していることは、反撃から見て取れた。

攻撃はバラバラで統制が取れているとは思えない。これなら、充分に殲滅も可能だろう。

この調子なら、後続の味方に仕事はないだろうと考えつつ敵艦の動きに目をやる。

ふと、レーダーに動きの鈍いブリックがあることに気付いた。攻撃前にマークしておいた味方だ。

艦隊の陣形はほぼ崩れていたが、その光点が龍田を示すことは分かっていた。

彼女は、ECMを停止させ龍田に連絡をする。

「龍田さん、聞こえますか?」

しばしの沈黙。ヴェラが再び言葉を発しようとしたその時、返答があった。

『何かしら〜?』

息が乱れているのは、戦闘中だからか負傷しているからか。

「少し動きが鈍いようですが、損傷しているんですか?」

『まだ大丈夫よ。肉を切らせて骨を断つ、がモットーですもの』

つまり、彼女は負傷しているということだ。ならば、することは一つ。

「龍田さん、戦闘を中止して戦域を離脱してください。離脱後は、友軍の援護をお願いします」

龍田は不満の声を上げた。

『私はまだやれるわ。今戦力を減らすのは得策じゃないと思うけど…』

ヴェラはきっぱりと言ってのける。

「あなたが離脱しても戦闘に支障はありません。戦闘は今回だけではありませんし、いざ必要な時に動けないのでは元も子もありません」

返答はない。微かな息遣いが無線が切れていないことを表した。

やがて、答えが返ってきた。

『分かったわ。今、目の前にいるのを片付けたら離脱するわ〜』

「ご理解いただき、感謝します」

無線が切れる前に、何か肉が切り裂かれる音が聞こえたがそれが何かは考えないようにした。

龍田の戦線離脱がレーダーで確認できた。後のことを考えると恐ろしいが、正しいことをしたはずだ。

《こちら海鷹2、聞こえていますか?》

艦載機からの連絡に我に返ったヴェラは返答に少し手間取ったが言った。

「こちらヴェラ・ガルフ。なんですか、海鷹2?」

《1隻だけ、ほとんど砲撃せずに回避に専念している艦がいます。LINK11でそちらに送りましたので、確認してください》

「分かりました。無線は切らないでください」

攻撃をしていない艦?もしかしたら…。

彼女は右目を閉じ、左目だけ開ける。

そこには、少し画質は悪いがジグザグに航行する艦がいた。その艦は、ただ回避行動を取るだけで砲撃を全くしなかった。

損傷している様子もなく、『深海棲艦』が弾薬不足に陥ることも考え難い。つまり、こいつは自らの意思で攻撃をしていないということだ。

この乱戦の中、攻撃をしないということは自らの存在をできるだけ隠したいと言う意思の表れだろう。

つまり…。

「海鷹2」

《何ですか?》

「よくやってくれました。敵の旗艦を見つけましたよ」

 

突然の無線は、軽巡を真っ二つに切り裂くと同時にきた。

『こちらヴェラ・ガルフ。天龍さん、聞こえますか?」

天龍は自身の刀に付いた血糊を払いながら返答した。

「あぁ、聞こえてるぜ」

『早速本題に入ります。先ほど、敵旗艦らしき艦を発見しました。そいつを叩いていただきたいのですが』

「そいつは良い。で、その大将首はどいつだ?」

『重巡です』

天龍は肩透かしを食らったように言った。

「重巡つったて2隻いるんだぜ。どっちの奴だ?」

『どうせ殲滅してもらうんですから2隻とも叩いていいですよ』

「んな無茶な」

『冗談ですよ。今、シーホークがスモークを投下しに向かっています。もうそろそろのはずですが…』

彼女の視界の端に、何やらオレンジ色の煙が立ち昇るのが見えた。

「あれか?」

『あなたの言っているあれが私の言っているものかは分かりませんが、オレンジ色の煙ならそれです』

「見つけたぜ。今から叩きに行く」

天龍は無線を切り、その煙の元へ向かった。

砲弾が入り乱れる中を彼女は走り抜ける。

目の前に現れた2隻の駆逐艦を1隻は14センチ単装砲で、もう1隻は右手に持った刀で仕留め、猛然とリ級に襲いかかった。

突然の攻撃に驚いたリ級は、自身の持つ8インチ連装砲で反撃するが狙いがうまく定まらず砲弾はあらぬ方向に消えていった。

次弾を装填し、再度砲撃を行おうとしたリ級は顔を前に向ける。

そこには、眼の血走った天龍が刀を振り上げた状態でこちらを見ていた。すでに回避ができる距離ではない。

「運がなかったなバケモノ。あの世で自分の無能さを後悔しろ」

そう言うと、天龍は刀を振り下ろす。

その刃は、リ級の首をはねた。

糸の切れた操り人形が崩れ落ちるように斃れたリ級を冷たい眼で見た天龍は、顔にかかった返り血を拭いながら無線で連絡する。

「こちら天龍。敵旗艦を撃破した」

 

指揮系統が回復不可能なまでに破壊された『深海棲艦』たちは、撤退以外に自らが生きる道はなかったがこの乱戦の中では退くことすら困難になっていた。

この時残っているたのは、重巡1隻、駆逐艦2隻のみである。この3隻はそれぞれバラバラに戦っていたため、全艦が孤立していた。

このままでは、各個撃破されるのがオチだが最早共に戦うという考えさえ彼女らの頭には浮かばなかった。

やがて、駆逐艦も沈みついに重巡リ級ただ1隻となってしまった。あれほどの威容を誇っていた機動部隊は最後の1隻となってしまった。

リ級は、何故こうなったのかを考えていた。身体中に砲弾を受け、魚雷に被雷し満身創痍の体でこの敗北の原因に頭を巡らせる。

足に直撃弾を受け、海面に膝をつく。

最後の力を振り絞り、リ級は自分を撃った相手をつまり、自分を殺す相手の顔を見た。

自分よりはるかに小さい少女がそこに立っていた。おそらく駆逐艦だろう。その駆逐艦は、自身の主砲である5インチ連装砲をこちらに向けている。その少女の目には慈悲の念が見て取れた。

突然、抑えがたい衝動にかけられリ級は言った。

 

「何故…ダ?」

 

『深海棲艦』からの突然の疑問に、白雪は大いに驚いたが目の前の虫の息の重巡に何かしらな答えを返さなけれだならない義務感を感じ言った。

答えにはなっていなかったが、彼女に言える精一杯の返答だった。

 

「私にも…分かりません」

 

求めていた答えとは違っていたが、どこか清々しい気分を得たリ級は最後に笑みを浮かべた。

意識が急激に遠のき、リ級はその生涯を閉じた。

 

リ級の瞳から光が消えたのを見てとった白雪はその骸に軽く手を合わせ、冥福を祈る。

それが済むと、彼女は味方たちの元へ向かった。

黄昏時。

沈む夕日が海を照らす。橙色に近い色のはずだが、今日の海の色が普段より黒く見えるのは光の錯覚ではないだろう。

 

それからしばらくして、救援の部隊が来た時には至る所で上がる黒煙の中を数人の艦娘が立ち、沈む夕日を静かに眺めている光景があった。

その場にいた艦娘は6人で、全員が少なからず負傷していたが大事にいたる可能性のある者はいなかった。

救援部隊到着から数分後、ヴェラ・ガルフが無傷で艦隊に合流した。

ヴェラ・ガルフ最初の実戦は、敵艦隊撃滅、友軍の被害軽微という結果に終わった。

パラオ泊地にとって久方ぶりの戦果であった。




相変わらずの低クオリティ。そして伸びた文。
無駄に好戦的な天龍が、今回の主役みたいなものですね。主人公が空気薄いと、書く側としては困るんですが…。まぁ、それも私の腕がないだけの自業自得ですが。
さて、天龍の言ってた英語ですが『突撃』って意味です。知っている人も多いと思いますが、一応書いておきます。
今後も今回のように遅くなるかもしれませんが、失踪しないように頑張ります。

今更ながら、戦術データ・リンクのバージョンを変更しました。
最後にこのような作品を読んでいただきありがとうございました。
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