私は5-3でひーひー言ってます。夜戦装備なんか持ってないですよ(泣)
それはさておき。
タイトルの『不沈海龍』の元ネタは、知る人ぞ知る第二次大戦を扱った(?)艦船無双ゲーム『鋼鉄の咆哮』のミッションの1つのです。
『リヴァイアサン』って艦が暴れます。知りたい人は調べてみてはどうでしょうか?
ヴェラ・ガルフたち第二艦隊と、救援に駆けつけた第一艦隊が帰投したのは、その日の夜遅くであった。正確には、21時20分頃である。
負傷した第二艦隊の面々はとりあえずドックに向かい、損害のないヴェラは江田の元に報告しに向かった。
報告すべき内容のある程度は、帰投するまでに連絡していたので話すことはさほど多くない。
しかし、詳細を報告する必要はあるため彼女が執務室から出るのにはかなり時間がかかるだろう。
微かな空腹を感じたが、彼女はそれを無視して執務室の扉を叩いた。
「随分と暴れたようだな」
ヴェラ・ガルフの報告が終わると、終始黙って聞いていた江田が言った。ヴェラは、同意の頷きを返し言った。
「それが、私たちの意思でしたから」
「なに、別に咎めているわけではない。諸君らは良くやってくれたし、あれだけの敵を相手にこれほど少ない被害で勝利したのだ。これで、上もここの重要性を理解しただろうし、次の資材の催促は上手くいかもしれない」
江田は、ニヤリと笑ったがそれも一瞬ですぐに顔を引き締めた。
「問題はそこではない。今回の件で、上が何かしらの作戦に我々を引き込むかもしれん。別に悪いことではないのだが、捨て駒にされる可能性がある以上、素直に喜べん」
「…」
ヴェラは無言を返す。これが何を表すか、この男はすぐに分かるだろう。
案の定、江田は椅子にふんぞり返って言った。
「ふむ、なるほど。そんなふざけた命令は無視しろと。だか、分かっていると思うが軍隊は上の命令が絶対だ。それが、どんなに馬鹿馬鹿しく意味のない作戦であっても従わなければならない。…普通は、な」
やはり、この男は海江田に似ている。
思想や性格、口調や行動は似ても似つかないがその根底にあるのは同じものだ。
つまり、何かに対し反抗したいという思いだ。
しかし、私を沈めたあの男はもっと先を見ていたように感じた。戦ったのはほんの少しの間だけだったが、それでも十分に感じ取ることはできた。
この反抗の気持ちは、いずれ世界を変えるほどの何かになるような気がした。
この男も、そうなのだろうか?
いくら見ても、江田の表情からは心の内は読み取れない。
顔を見続けたことに不信を持ったのか、江田は聞いてきた。
「…どうした、顔に何かついているか?」
ヴェラは首を振り言った。
「何でもないです」
「ふむ、そうか。悩み事があるなら聞くが…」
「今の私に悩み事があるように見えますか?」
「全く見えんな」
「そう言われるとなんだか気に食わないですね…」
「そう言うな。さて、さっきの続きだが…」
江田は、壁に掛けてあった時計に目をやり、その目を見開いた。
「おっと、もうこんな時間か。疲れているのに長々と喋らせてしまったな、すまない。もう行ってもらって結構だ。
明日は1日休むといい。どうせ次の出撃まで時間があるだろうからな」
「はい、分かりました」
彼女は江田に軽く会釈して執務室を後にした。
江田の考えは間違っていた。
5月14日
快晴。
空は晴れ渡り、どこまでも青々と広がっている。
雲ひとつない空。
太陽の光はこの南の島に強く照りつけている。
この島、パラオは遥か以前から多くの国に支配されていた。16世紀にスペインの植民地として始まり、ドイツ、日本、アメリカ、そして国連による信託統治領と言うように続く。
その後、独立の声が強まったことにより1994年10月1日に独立した。
また、日本とは歴史的に密接な関係にあるということから、インドネシアと共に世界一の親日国である。
国防海軍と艦娘の海外派遣を最初に受け入れてくれたことを見ると、どれほど友好な関係か分かるだろう。
一部の州では未だに日本語が公用語として利用されている。
南の島らしく年中を通して雨が多く、特に7月と10月は多い。
また、台風が上陸することはほとんどなく、平均気温は27度と温暖な気候で湿度は82%と高い。
ちなみに日本との時差はない。
平時なら観光客が溢れるこの島は、現在ではすっかり前線の基地となっており民間人はすでに島外に脱出している。
また、政府は未だにこの島に留まっているが、国防海軍の撤収と共にパラオから脱出する決まりになっていた。
つまり、今この島には少数の現地人がいるだけで実質的には日本人の方が多い状態である。もっとも、戦争が始まった時にすでに予想できたことだが。
閑話休題。
このリゾート地と言っても過言ではない島でせっかくの休みをもらったヴェラ・ガルフは、普段通りの生活を送ろうとしていた。
朝はランニングをして体力作り。終了後は、食堂でさっさと食事を済ませ自室に戻り今後の戦術をイメージする。
そんなことをしていると、気付けば昼食の時間になっている。
彼女は頭の中で出来上がった戦術を支給されているノートに書き込むと、食事を取りに向かった。
食事を済ませたヴェラ・ガルフは昨日の夜、気になった事を知るために資料室に向かった。
資料室は泊地司令部に入っており、これまでの戦闘記録から所属艦の詳細、そして、彼女が求めている泊地司令官の記録がある。
彼女はこの基地を統べる男たちの資料の中から、江田の物を見つけ出しそれを埃っぽい机の上に置き読み始めた。
江田 四郎。42歳。現在、国防海軍中将。
1975年に鎌倉で生まれた彼は、中学生の時を瀬戸内海の小さな島で過ごした。その自然豊かな島で過ごしたことにより、海に対する憧れが湧き高校を卒業後防衛大学校に入学し、防大きっての秀才と呼ばれるようになる。
防大卒業後、海上自衛隊横須賀基地に配属。潜水艦で活動しサブマリナーとなるり、35歳の時にそうりゅう型潜水艦のネームシップ、そうりゅうの艦長に抜擢され二等海佐に昇進する。
『深海棲艦』出現後は各地で防衛活動に従事し、南方での活動途中に損傷した艦娘を発見し救助にあたる。その時に提督としての素質(現在では戦力増強のために多数の提督が存在するが、艦娘出現当初は素質のある者だけが提督となることが出来た)が見出され呉に帰港後、提督に任命され艦娘たちの指揮にあたる。この時、二階級の特進により彼は少将の地位(この時、自衛隊は国防軍へと名称及び法制度が変わり旧軍と同様の階級に戻っていた。この時は多くの反対の声が上がった様だが『深海棲艦』に対する脅威論が反対派を押し切った。これは後に13年安保闘争と呼ばれるようになる)を得た。
江田はわずか37歳で将星を手に入れたのである。もっとも、江田本人は求めていたものではなかったようだが。
その後、呉にて提督として活動を開始。凄まじい勢いで戦果を挙げ始め、僅か数ヶ月で呉鎮守府でトップクラスの提督となる。
4年後、これまでの成果から中将に就任。40代始めでの異例の大出世である。
そんな江田が、そのキャリアを棒に振るようなことをしたのは昇進から僅か2ヶ月後のある会議でのことである。
その時に議題に出ていたのは『ワゴン・ホイール』作戦と呼ばれる反攻作戦であった。
『ワゴン・ホイール』はほとんど賭けのような作戦で、まさに机上の空論のようなものであった。これに、江田は反論したのである。
不運なことにこの作戦を考え出した相手(大手産業会社に行った国防軍のOB)が悪く、彼は軍の上層部の怒りを買ってしまった。
結果、『ワゴン・ホイール』はお蔵入りとなったが江田はお決まりの転落コースを辿ることになる。
それが、パラオ派遣である。
国防軍内では、パラオ派遣はまさに島流しの様相を呈していた。資材は乏しく、派遣できる戦力も少なく、そして本土から離れている。これを島流しと言わずなんと言おう?
そして、ヴェラがここに来る数ヶ月前、盛大な軍楽隊の合奏と海軍大臣の見送りを受けながら江田とパラオ派遣艦隊は呉を後にした。
この時、江田に与えられた艦娘たちは他の基地で無能のレッテルを貼られた札付きたちばかりだったが、この無能というのは彼女らを運用していた指揮官であったことは言うまでもないが、そんな言葉が意味を持たないことはパラオに送られた彼女らには充分すぎるほど分かっていた。
こうして、パラオに派遣された江田と艦娘たちは少ない資材をやりくりするさながら稼ぎの少ない家庭の家計簿のような運用を開始したのである。
それ以降、ヴェラの知っている内容だったので彼女はその資料を閉じた。
なかなか激しい人生のようだ。それが、ここまで読み終えた彼女の最初の感想だった。しかも、まだその荒々しい人生はまだ続きそうなのだ。もっとも、軍人になった以上まともな人生が送れるとは思っていないだろうが。
しかし、それを鑑みても江田の人生は刺激に溢れている。幸運な意味でも不幸な意味でも。
ふと、窓の外を見る。
この部屋に入って来た時はよく晴れていたが、今では強い雨が降り続けている。
雨音から予想するに、強くなる一方のようだ。
彼女はため息をつき、窓の外を眺め続ける。この埃っぽい部屋からさっさと出たいが、傘を持っていない彼女には強すぎる雨が降っている以上この部屋から出れそうにない。
頭の隅に、提督の執務室に行くという考えが出たが彼女はその考えを振り払う。彼女が行って江田の仕事を邪魔するのは申し訳ない気がしたのだ。特に、この資料を読んだ今は。
彼女は止みそうにない雨を見ながら、憂鬱な気分に浸り続けた。
それから、ヴェラ・ガルフは資料室の資料をひたすらに読み漁る作業に没頭した。始めは雨が上がるまでの暇つぶしのつもりだったが、気付けばこの埃っぽい部屋でかれこれ4時間は資料を読んでいる。
その中には、『深海棲艦』に関する興味深い内容もあった。
『深海棲艦』。
その生物が現れてすでに5年になるが、分かっていることは少なく、その存在のほとんどが噂によって成り立っている。
その中で、もっとも有名な噂は「『深海棲艦』は、轟沈した艦娘の成れ果て」と言うものだ。
確かに、一部の『深海棲艦』は艦娘に似ているところがある。この部屋で、多くの艦娘や『深海棲艦』の写真を見たがその念は募るばかりだ。
だが、それはあくまで噂。そのような事実はなく、政府や軍はもちろんのこと、研究者すらその噂を否定している。
その根拠は今の所トップシークレットらしく、その内容を見ることはできない。
なんとなくは察しがつくが。
しばらくの間はここに入り浸るのも悪くないかと考えていたその時、部屋の天井付近にあるスピーカーが耳障りな音を立てた後、呼び出しを始めた。
『第三艦隊所属艦、及びヴェラ・ガルフは至急、提督執務室に出頭してください。繰り返します…』
突然の呼び出し。
呼ばれた理由は予想がついたが、あまりに早過ぎないか?
彼女は次の仕事の内容に僅かな不安を抱きつつ、資料室を後にした。
10分後、全員が集まるのを待ってから江田は話し始めた。
「さて、休暇中にも関わらずすまない。諸君らを呼んだのは他でもない、本国のお偉方が新作戦を始めたがっているからだ」
一瞬、部屋がざわついたが江田が手でそれを制し、続けた。
「作戦名は、『レッド・スティングレー』。アカエイ作戦だ。全くもって悪趣味なネーミングだが、それはこの際無視してほしい。
さて、本作戦は米軍との共同作戦になる。参加部隊は、現在こちらに物資輸送の護衛を行なっている米太平洋艦隊とアメリカ、アイダホ州のマウンテン・ホーム空軍基地の第366航空団だ。
日本側からは、我々が主力として参加する。これまでまともな扱いをしてこなかった割に図々しいが、軍隊とはそう言うものだ。
諸君らは今、疑問に思っているだろう。「何故、全員参加のブリーフィングを行わない?」と。
もちろん、理由はある。本作戦目標は、現在敵の勢力圏にあるサイパン・テニアン両島の奪還作戦なのだが、この両島及び近海の敵情が把握されていない。この時点で作戦を立てるということ自体信じられないが、それはこの際置いておく。
つまり、この作戦を実行するためにはどうしても偵察が必要であるわけだ。
そこで、我々に白羽の矢が立った」
ヴェラの予感は的中しつつあった。全くもって不幸としか言いようがない愚かな作戦を押し付けられそうなのだ。
そして、江田の口から嫌な言葉が飛び出してきた。それも、予想よりはるかに嫌な言葉だ。
「諸君らは、敵情偵察のために威力偵察を行ってほしい、との事だ」
威力偵察。
敵情偵察の方法の一つで、実際に戦闘を行い敵の強度を偵察する方法だ。打撃力はさほど重視されず、機動力のある部隊でヒットアンドアウェイによる攻撃を行い、速やかに離脱する。
偵察方法の中で、最も確実な方法と言えるだろうが今いる軽巡2隻に駆逐艦が4隻、そして実質的に戦闘にまともに参加できない重巡1隻で行う仕事ではない。
しかし、これ以外に実行できる偵察がある訳でもない。
一番に思いつく偵察衛星による方法も、ハワイ占領後何故か使用不可能になってしまったし、航空偵察を行うにしても目標海域は『新海棲艦』に制空権を握られており白昼偵察はおろか夜間偵察さえも困難な状況であるという。
また、無人偵察機も『憂慮すべき事柄に対する直接的行動』のために派遣されていて機数が足りていないという状態である。
このような状態である以上、威力偵察以外に適切な方法がないと言えるが、それを命じられ、実行しなければならない方にはたまったものではない。
この部屋にいるほとんどの者が、彼女と同じようなことを考えているに違いない。
江田が安心させるように言った。
「もちろん、君たちだけに行かせはしない。こちらに向かっている輸送船団の護衛についている第3艦隊の一部が、諸君らの援護に回ってくれる。
知っての通り彼らもここ最近、戦果を挙げている優秀な部隊だ。十分に援護してくるだろう」
そういう問題ではないことは、江田もよく分かっているだろうが仕方がなかった。
拒否はできない。軍隊では、上からの命令が絶対だ。
こちらが何の反応も見せないでいると、江田はため息をつきつつ言った。
「乗り気ではないだろうが、やってくれ。それと、今回は臨時編成を取ることになっている。第三艦隊にヴェラ・ガルフと瑞鳳を加えた機動部隊を編成する。
出撃は明後日だ。今日と明日の内に、必要な事は済ませておくように。
何か質問はあるか?」
「第3艦隊はいつ来るクマ?」
球磨が質問する。
「おそらく、少し遅れると思われる。戦闘にはほとんど参加できないだろうが、撤収の際は援護してくれるはずだ」
「つまり、自分たちだけで戦えってことクマ?」
「残念ながら、そう言うことだ」
嫌な空気が流れる中、江田は言った。
「他に質問のある者は?」
誰も答えない。江田は頷き言った。
「では、ブリーフィングを終了する。難しい任務だが、しっかり頼む。解散」
全員が出て行き、部屋には江田と瑞鳳だけが残った。
江田は瑞鳳に話しかける。
「不満か?」
瑞鳳は首を横に振り、言った。
「そんなことないですよ。無茶なこと言われることには慣れてるもん」
瑞鳳の言う『無茶』が何を指すかは分からないが、彼女の沈んだ時のことを言っているように思えた。
「それなら、なおさらだ。もう少し粘ればもっと規模の大きい部隊を派遣できたかもしれん…」
「過ぎたことを悔いるのは良くないですよ。それに、提督は十分に仕事をしてくれている。私には、それで十分です」
ああ、なんと言うことだろうか。彼女は、戦場で生きるにはあまりにも優し過ぎる。
江田は微かに哀しみ覚えたことに気付かれぬように、感謝の言葉を述べつつ話を変えた。
「しかしこの作戦、妙だとは思わないか?」
瑞鳳は首を傾げる。
「これだけの部隊を動かす作戦だ。外国の軍との共同作戦は、お互いの都合に照らし合わせて立てる必要がある。特に、米太平洋艦隊は太平洋の航路を守る重要な役割を担っているし、第366航空団は『おっとり刀』的な展開ではなく、速やかに紛争地域に展開しアメリカの『意思』を示すために派遣される部隊だ。最近紛争が少なくなっているとは言え、そう簡単に動かすことはできまい。
つまり、僅か1日で決めれるようなものではないと言うことだ。少なくとも、2ヶ月は必要だろう」
「それじゃあ、ずっと前からこの作戦は決まってたってこと?」
「そう考えるのが妥当だろう。ここで問題になるのは、2ヶ月も準備期間があったにもかかわらず、何故偵察をしてこなかったのかと言うことだ」
瑞鳳はしばし考えて、言った。
「最新の情報が欲しいのかも…」
「それならば、何故そうと言わない?上が言ったのは、偵察をする時間が無かったと言った内容だった。何故、最新の情報が欲しいと直接言わないんだ?」
瑞鳳は分からないと言いたげに首を振り、考え込むように手を顎のあたりに当てた。
「何かしらの力が働いているのか?」
「力と言うと?」
「我々の事を邪魔に思う勢力…なんてな。そんな小説めいたことなんてナンセンスだ。
さて、多分君の言った通り最新の情報がほしいのだろう。きっと私の考え過ぎだ」
そう言って、江田はこの話を打ち切った。が、どうにも腑に落ちない点が多すぎる。
彼は自分の考え過ぎであることを密かに願っていた。
もし、彼の考え過ぎでないならそれは味方にすら敵がいるということになるからだ。
そして、それは今後の戦闘で破滅的結果をもたらしてもおかしくない事態でもあった。
もし、そうなった時、自分は彼女たちを守りきれるだろうか…?
不安は、募るばかりだった。
東京の国防省は、市ヶ谷にあった防衛省の建物をそのまま利用している。その地下には、多くの施設があり国防海軍軍令部の会議室もその内の1つのだった。
その場所は、多くの将官が集まる国防海軍の意思決定機関でもあった。
すでに、20時を過ぎているがまだまだ長引くであろうことはこの室内にいる者たちは皆、分かっていた。
今、議題に上がっているのはもちろん『レッド・スティングレー』作戦である。未だに欠点の多いこの作戦の詳細を詰めているのだが、いかんせん情報が少な過ぎる。敵情偵察を怠ったのが、この情報不足のそもそもの原因だ。
なぜこのような事態になったかは、すでに皆が知っていた。
時々、将官たちはその原因を睨みつけている。
彼らの視線の先にいるのは、どこか上の空の表情を浮かべている軍令部総長である大谷 義史大将である。
大谷大将も、自分が部下に睨まれていることに気付いていたが無視していた。そろそろ来るであろう連絡が気になってその様な態度に苛立つ余裕はなかった。
アラーム音。
彼の携帯が鳴ったのだ。大谷は、電話の相手を見た。
非通知。間違いなく、目的の電話だ。
彼は席を立ち、部下たちの冷たい視線を受けながら部屋を出た。
彼は近くにあったガラス張りの部屋に入り、扉を閉めた。と、同時に先ほどまで透明だったガラスは瞬時にスモークガラスに変わり、彼の姿を見にくくする。さらに、室内は電子的に密封され盗聴器による盗み聞きを不可能にする。
そこでようやく、大谷は電話に出た。
『上手くやったか?』
挨拶もなしに相手は本題に入った。主導権を奪われたことに苛立ちを感じたが、大谷はそれを押し隠し言った。
「ああ。部下たちは疑問を持っているようだが、問題はない。あんたの求めてることはやった」
『よくやってくれた。例の件は、手配しておく』
取引は上手くいった。これ以上は、入り込んではならないことになっているが、好奇心はそう簡単に抑えられるものではない。
「あんたの言う通り、パラオの部隊に威力偵察をさせるように仕向けた。何故パラオなんだ?」
電話の相手が苛立つのが感じられたがすぐに消え、再び余裕のある声が帰ってきた。
『我々にとって邪魔な存在だからだ。正確には、パラオにいるヴェラ・ガルフと言う巡洋艦が、だ』
「…あんたたちの目的はなんだ?」
危険を承知の上で大谷は聞いた。
電話の向こうで微かな笑い声が聞こえ、相手は答えた。
『溺れかけの『不沈海龍』を再び浮かび上がらせるのだ』
それだけ言うと、相手は電話を切った。
大谷はしばらくの間、携帯を耳に当てたまま立ち尽くしていたが、やがてそれを下ろし、呟いた。
「『不沈海龍』…か」
つまり、『リヴァイアサン』。
これが何を意味するか分からないが、分かることが一つだけあった。
彼の軍歴は、『レッド・スティングレー』の終了と共に終わるということだ。
徐々に長くなる。
平均3000文字程度と言ったのがずいぶん昔に感じられますね。
まあいいです。
さて、今回黒幕っぽいのが出てきましたね。伏線回収できないんじゃって思っている人、安心してください。
最初から考えて書いてきましたから。
今後も少しずつ、こいつらを出して行きますよ。
最後に、このような作品を読んでいただきありがとうごいました。