不屈ノ爪〜The Iron Clow〜   作:明るい脳筋

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1月上旬に投稿したいと言ったのに気付けば下旬。皆様はいかがお過ごしでしょうか?
年が明けた感覚は全くなく、今年ほど年末年始が呆気なく過ぎたのは初めてです。
ここ最近は腹痛と鼻水に悩まされる日々を過ごしています。これからインフルエンザ等が流行りだすようですので皆様も体を壊さないように気を付けてください。
それはさておき。
私事ですが、金剛、川内、神通、那珂、五十鈴、木曾、吹雪、暁、夕立、時雨の改二改装を終えました。どうでもいいですが、1番最初は川内、2番目は吹雪です。
前書きが長くなりました。それでは、始めます。


第14話 集結 後編

5月19日

 

荒れ模様のベーリング海上空を第366航空団第390戦闘飛行隊(FS)『ワイルド・ボワーズ』所属のF-15Cイーグル8機がそれぞれ4機編隊を組み、高度30000フィートを巡航速度の約860キロで飛行していた。

彼らは、『レッド・スティングレー』作戦に参加するB+パッケージ第1波の一部だ。

彼らの周りには、同じ第366航空団所属の第389戦闘飛行隊のF-16Cファイティング・ファルコン8機、第391戦闘飛行隊『ボールド・タイガーズ』のF-15Eストライク・イーグル8機、第34爆撃飛行隊(BS)『サンダーバーズ』のB-1Bランサー4機、第22空中給油飛行隊(ARS)のKC-10エクステンダー4機、オクラホマ州ティンカー空軍基地の第552空中管制航空団(ACW)に所属する第963空中航空管制飛行隊(ACS)のE-3CセントリーAWACS(空中早期警戒管制システム)機3機、アリゾナ州デーヴィス=モンサン空軍基地第355電子戦航空団(ECW)に所属する第41電子戦飛行隊(ECS)のEC-130Hコンパス・コール2機が同様に飛行している。

そして今頃、彼らが向かうパラオ基地に何十機ものC-17輸送機が降りようとしていることだろう。パラオ側はヒィヒィ言っているはずだ。

『ワイルド・ボワーズ』の飛行隊長であるジェフ・《リーパー》・カスケード中佐は、後ろに付く僚機に目を配りつつ、そんなことを考えながら自機を飛行させていた。

カスケードは、僅か1ヶ月前に着任した新人隊長だったが、『ボワーズ』の優秀なパイロットたちに十分認められていた。勤勉な態度、そして優れた空戦能力は部下たちの信頼を勝ち取ることを可能にしたのだった。

彼は今乗っているF-15が大好きだった。ラプターやライトニングⅡなどの新鋭機に比べるとよちよち歩きのヒヨコのようなものだったが、イーグルの名にふさわしい鋭い爪を持った大型航空優勢戦闘機だった。

現在のイーグルは、610ガロンの投下式燃料タンク3基、AIM-120AMRAAM4基、AIM-9Xサイドワインダー4基の重装備だった。

どれも非常に強力な武装で、他国の主力戦闘機に全く引けを取らない能力を持つ。

AIM-120AMRAAM(先進中距離空対空ミサイル)は米軍の最新鋭打ち放しミサイルである。

これまでの中距離ミサイル、AIM-7スパローはレーダー誘導による兵器システムだったが、命中までレーダー波を当て続けねばならなかった。そのため、僅かな隙が死を招く空戦においてスパローの誘導方式は重大な欠点となった。

そこで開発されたのがAMRAAMである。

スラマー(必殺野郎)のあだ名を与えられたAMRAAMは、発射後、自らのシーカーで敵を捕捉し攻撃する。これにより、戦闘機は攻撃後即座に次の行動を起こせるようになったのだ。

スラマーを使用した米軍パイロットは、この兵器をこのように表現した。

「赤ん坊のアザラシを棍棒で次々叩き殺すみたいだ…ゴン、ゴン、ゴンってね」

このようなショッキングな例えが出るほどこの兵器は性能が良かった。

もちろん、スラマーも万能と言うわけではない。

AMRAAMは、最大射程で発射した場合その命中率は極端に下がる。スラマーが本物の必殺野郎になるには絶対必中圏まで接近し発射する必要がある。

もっとも、どの誘導兵器にもそのことが言える。実戦において誘導兵器を命中させるには少なくとも最大射程の半分ほどの地点で攻撃しなければならない。

しかし、この高性能なミサイルが使われることは少なくとも今はないだろう。

彼らの敵である『深海棲艦』は強敵であるが、各国の猛禽たちにとって格別の脅威ではなかった。空の戦いにおいて、人類は幾度となく勝利を収めてきた。その最大の理由は『深海棲艦』側の航空機が人類側の航空機より数世代は遅れていたからだ。

艦娘たちのレシプロ機に落とされるような航空機が、超音速で飛行し、なおかつそれより遥かに速い誘導兵器を持つ現在の主力機に勝てるわけがない。

『深海棲艦』のそのような航空機に対してミサイルを使用するのはコストパフォーマンスの観点から、軍の上層部が渋るほどだった。

馬鹿馬鹿しいとしか言いようが無い。

全く、何故制服さんというのはどうしようもないほど頭が硬く、そして歴史から学ばないのだろうか?

そんな状態で戦闘を始めれば、あのガチガチなROE(交戦規定)に縛られていたベトナム戦争当時の空軍と同様に酷いことになるのは目に見えている。

幸運にも軍の上層部には賢明な人物がいたらしく、この馬鹿馬鹿しい考えは否定されたらしいが、もしその様な規定がされていればどうなっていたことか…。

恐ろしい限りだ。

カスケードはコックピット内の多機能ディスプレーを見た。無駄な考えをしているうちにずいぶんと時間が経っている。そろそろだ。

彼は無線を起動し、エルメンドルフから来ているアラスカ州兵航空隊の空中給油機の無線周波数に合わせ連絡した。

「こちらパンケーキ。ビッグベア応答せよ」

パンケーキは彼らの今作戦におけるコールサインであり、同じくビッグベアは空中給油機のコールサインだ。しかし、恥ずかしいコールサインだ。いったい誰が考えたのやら。

しばしの間空電ノイズが彼のヘルメットのイヤホンから流れ、声が聞こえた。

『こちらビッグベア。パンケーキ、時間通りだな。現在本機は高度18000フィートを飛行中。貴機の方位から2-8-5の位置、距離は1200マイル』

「了解ビッグベア。これよりそちらに向かう」

カスケードは編隊周波数で後方の7機の僚機に給油機の位置を伝え、その方角に機首を向けた。

数分後、風の吹き荒れる空にゴマ粒のような点が見えた。ビッグベアだ。

「こちらパンケーキ、そちらを視認した。そっちからは見えるか?」

『こちらビッグベア、ああ確認した。こっちは準備OKだ』

「了解だビッグベア。少し待ってくれ」

カスケードは僚機に指示を出す。

最初にジェフのウィングマンを務めるマイク・《アンカー》・グレイシャム大尉がビッグベアことKC-10エクステンダーの給油位置に着いた。強風の中給油位置を維持することはもちろん、位置に着くことも至難の技だが、マイクは巧みな操縦技術でいとも容易く行ってしまった。

通常は1番機から始めるべきなのだが数時間後には低気圧がまだ比較的穏やかなこの空域に悪さをするほどになるとの予報だった。

全機給油するにはどうしても1時間ほどはかかってしまう。給油は最後に近付くごとに天候が悪化し困難さがより増す。

そのため、隊長である彼が最後を務めることにしたのだ。

グレイシャムの機体が給油を終え、サッと離れて行く。それと同時に、隊の中で最も経験の少ないアーロン・《ホットタン》・バスチャン中尉が位置に着こうとする。が、1回目の接近は失敗した。無理もない。この天候では腕のいいパイロットでも苦戦するはずだ。

バスチャンの機体が再び接近した。今度は上手く行き、しっかりとプローブが受給口に挿入された。

その後はさほど風の影響を受けることもなく、バスチャンは給油を終えることができた。ジェフはため息を吐いた。バスチャンのことは心配だったが、その気遣いは無用だったようだ。

彼は自分のことに集中することにした。彼の給油は非常に難しい作業になるはずだ。

1時間10分後、給油は順調に進み予定より僅かに遅れただけで済んだ。

天候は予報通り荒れ始め、これ以上風が強くなると給油が不可能になる。つまり、彼がのこのこと帰らなければならなくなる事を意味する。それだけは避けなければならない。

カスケードは機体を動かした。イーグルは機嫌よく動いたが、風のあおりを受け小刻みに震える。

「ヘイ、ちょっと落ち着いてくれよベイビー。すぐに腹一杯食わせてやるからな」

カスケードは小さく呟きつつ慎重に、時に大胆に操縦する。

1分ほどの格闘の末、彼はその戦いを制しエクステンダー後方の給油位置に着いた。

エクステンダーのブーマーがプローブを操作し給油口に突っ込む。

何度も空中給油を受けたことはあるが、未だに不思議な気分になる。馬鹿でかい元旅客機と、その元旅客機と比べると非常に小さい戦闘機が空中で1つの機体になるのだから。

プローブで接続されたため、KC-10と有線での会話が可能になった。エクステンダーのブーマーが言った。

『ビッグベア・ガススタンド&バーへようこそ。お客さん、何にしますか?安い酒しかないですが』

アラスカ訛りで、かなり聞き取りにくい英語だった。カスケードは答える。

「出来ればビールでも飲みたいが、あいにく今は仕事中なのでね」

『そうですか、それは失礼しました。おや、お客さんの相方は随分とがぶ飲みしてますね?』

カスケードは笑みを浮かべつつ答える。

「ここ最近休みがないんでね。こいつもたまには羽目を外したいんだろ」

『奇遇ですね、ウチもなんですよ。おたくはどこで働いてんですか?』

「空軍株式会社ってところだ」

『お客さん、そこはブラック企業で有名なとこですよ。大変ですねぇ、こんなクソ天気が悪い時に』

「それはアンタもだろ?」

『ええ、その通りです。悪い世の中ですよ全く』

アラスカ訛りのブーマーはけたたましい声で笑った。しばらく笑い続けた後、カスケードに話しかけた。

『ところでお客さん。今からなんの仕事ですか?』

どうやらこのブーマーは最後まで田舎のバーの店員で通すつもりらしい。

「太平洋に蔓延ってるゴミのお掃除だ」

ブーマーは口笛を吹いた。

『ヒューッ。そいつはすごい。それでどのくらいのゴミが片付くんですか?』

「さぁね。だが、太平洋の汚染が綺麗になる重要な一歩だ」

『期待してますよお客さん。おっと、そろそろ店じまいの時間だ。またのご来店をお待ちしております。グッドラック』

それだけ言うと、ブーマーはプローブの接続を解除した。

再び2つに分かれ、KC-10はホームランド(アメリカ本土)に機首を向け、カスケードのイーグルは西に向かった。

「グッドラック、か…」

幸運も重要だが、彼らが本当に必要としていたのは幸運などではない。ゆっくりと睡眠を取ることだった。

まだまだ、道は長い。

 

5月20日

 

パラオ航空基地のターミナルビルは少々変わったデザインをしている。赤茶色の三角屋根で、空港というよりコテージである。この建造物は2003年、日本政府の無償支援により改築されたものだ。

パラオ国際空港のは2006年にロマン・トメトゥチェル国際空港に名称が変更されている。

この空港は2000メートル級の滑走路が1本あるだけだったが、国防軍に貸し出された段階で、機動設営隊が睡眠時間を割いて4000メートル級の滑走路に拡張されていた。

これにより、大規模な航空部隊を迎え入れることが可能になったのだ。

ここ数日は物凄い数の輸送機がやってきていた。ヴェラはその数を数えていたが、20機を超えた時点で止めた。その後も2、3倍の数の輸送機が降りてきて、大量の物資を下ろし再び空へと帰っていくのだった。

ヴェラは管制塔の無線の一部を傍受していたが、管制官はてんてこ舞いの状態で気の毒に思えるほどだった。

「なぁ、ヴェラ先輩」

深雪がヴェラの肩をつついた。

ヴェラはため息を吐いた。どういう訳か、米軍の航空部隊に興味を持った駆逐艦娘たちの付き添いで、彼女はここにやって来ていた。正確な位置を言うと、パラオ航空基地北側の小さな未舗装道路である。

「なんですか?」

「なんか見たことないのが降りてきたけど、あれ何?」

ヴェラは自分がレーダーに意識を向けていなかったことに気付いた。深雪の指差し機体を見る。

尖がった機首、滑らかなフォルム、可変式の主翼、大型航空機でありながら戦闘機のようなアフターバーナー付きのジェットエンジン、真っ直ぐ真上に突き立てる垂直尾翼。

「あれはB-1ランサーです。パイロットたちからはボーンと呼ばれています。超音速のステルス爆撃機で、ディープストライク(遠距離侵攻攻撃)を行うために作られた機体です。

正確に言うなら、ロシア内陸部の核施設に低空を超音速で突入して、吹っ飛ばしたりする機体です。

もっとも、最近は近接航空支援の仕事でテロリストやらを吹っ飛ばすのが本職になりつつあるようですが」

「ふーん。なんでボーンって呼ばれてんの?」

「B-ONEでBone」

「あー、そゆこと」

そうこう言っているうちに、最初のボーンがパラオの地に降り立った。さらに、後続のボーンが着陸を行おうと旋回を開始した。

今やパラオの空は爆音で覆われていた。

空にさらに数種類の航空機が現れた。単発の小型戦闘機と大型双発の戦闘機2種類である。

単発機はF-16Cファイティング・ファルコン。双発機の内、1つはF-15Cイーグル。もう1つはF-15Eストライク・イーグルだ。

最初に降りてきたのはF-16Cだった。ヴェラはその機体の説明を駆逐艦たちにした。

「今降りてきたのがF-16Cファイティング・ファルコンです。パイロットたちの俗称はヴァイパー。これは、アメリカ国内で放送されていたSFテレビドラマの『宇宙空母ギャラクティカ』の艦載機に似ていることから付いたあだ名です」

「現在の装備はなんですか?」

相変わらず勉強熱心な白雪が聞いてきた。

「私の見た限りでは、AGM-88HARMが2基にAN/ASQ-213HTS(HARM目標指示システム)ポッド1基、ALQ-131妨害ポッド1基、AIM-9Xサイドワインダー2基、AIM-120AMRAAM2基、370ガロン燃料タンクを2基積んでるみたいですね。普段の展開任務と同じような武装です」

白雪は熱心にメモを取っている。どうやら、後で調べるつもりらしい。

吹雪がおずおずと聞いてきた。

「あ、あの〜、いいですか?」

「ええ、どうぞ」

「その、ハームってなんですか?」

「HARM。高速対レーダー・ミサイルを意味します。イスラエルのある将軍の言葉、「世界で最もすぐれた対電子対策は、ミサイルの追跡レーダーのアンテナに500ポンド爆弾を投下することだ」を体現するための兵器です。敵のレーダーの電波を追って、そのアンテナの中央部に12000個のタングステン鋼の金属球をばら撒いて無力化する兵器です。

また、こう言った兵器の弱点とも言える「レーダーを切られたら敵を追跡できない」を克服するために、マッハ4近くの高速で飛行することができます。HARMのHの部分はこのハイピードを表しています。最近では慣性誘導で攻撃出来るようになったため、レーダーを切られても敵に命中する確率は上がっています」

「じゃあ、敵のレーダーを無力化できるってことですか?」

「基本的には。この兵器のおかげで、SEAD(敵防空網制圧)任務がより楽になったそうです」

真剣そうな表情で吹雪と白雪は頷いた。深雪は次の機に目を向けていた。深雪は、その機体を指差して言った。

「今降りてきたのは?」

「F-15Eストライク・イーグル。F-15を複座にして対地攻撃に特化した機体です。もちろん、空戦能力は十分に残した状態です。

特殊な武装としては、現在装備しているGBU-28ディープ・スロートです。通常、バンカーバスターと呼ばれる兵器で驚異的貫徹能力を持っています。やろうと思えば、ミサイルサイロも破壊できるみたいです。

兵器庫に文字通り転がっていた203ミリ榴弾砲の砲身を元に作製された兵器で、BLU-113/BとペイヴウェイⅢシリーズと同様の誘導キットでできています。

実戦での使用は、湾岸戦争でのイラク軍の大型防空壕『タジ#2』の破壊で使われた2発です。

この防空壕は、強力な貫通力を持つBLU-109/Bですら破壊できないほど強固な物でしたが、このディープ・スロートはわずか2発でその仕事を完璧にこなしました。

ディープ・スロートは、BLU-113/Bの管状の部分が非常に長いことからつけられたあだ名です。

ディープ・スロートの他にAGM-65マーヴェリック、GBU-15、AIM-120とAIM-9をそれぞれ2基の完全武装です。これに630ガロンの燃料タンク3基を装備しています。

今回は飛行場姫攻撃だけに集中するみたいですね」

「なんで分かるの?」

深雪が言った。ヴェラは当然とばかりに答える。

「どれも対地兵器だからですよ。マーヴェリックは型次第では可能ですがそれ以外はどれも調整が対地専用ですからね」

「どっかの機体はハープーンが撃てるって聞いたけど?」

「あれは韓国のF-15Kスラムイーグルです。韓国側の要請に従ってマイナーチェンジした物であって、米軍のストライク・イーグルでできるものじゃありません」

「そうでもないようだぞ」

すぐ後ろから、男の声が聞こえた。どこか懐かしい声だった。

一瞬、思考が停止し、再び目まぐるしく動き出す。

まさか、そんなはずはない。

ヴェラは振り返り、相手の顔を見た。

声と同じで、懐かしい顔立ち。間違いない。

「カーバー大佐…ですか…?」

そこには、彼女の艦長であったカーバー大佐が立っていた。

 

会議のために艦を降りていたテレス・C・カーバーは、ガンファイターズの姿を見ようと彼を乗せていた送迎車の運転手に言って、パラオ航空基地のすぐ隣の小道に入って来ていた。

そこには先客がいた。どうやら艦娘のようだ。

せっかくだったので数人の少女たちのもとに近付いていった。

なにやら、1人制服の違う少女が他の少女たちに説明しているようだ。カーバーは日本語がある程度分かったため、話している内容がストライク・イーグルに対艦戦闘は可能か、というものであると気付いた。

説明を続ける物知りな少女は、どこで覚えたことかは知らないがストライク・イーグルのことをよく説明できていた。

が、その少女の情報は少しばかり古くなっていたようだった。カーバーは、その少女に正しい情報を提供するために言った。

「そうでもないようだぞ」

これまでの饒舌に説明していた少女は、体を一瞬震わせた。カーバーはこの少女を怖がらせてしまったかと思ったが、そうではなかった。

こちらに顔を向けた少女は、まるで幽霊でも見たというような表情を浮かべた。驚きはやがて喜びに変わったようだが、彼にはその意味がまるで分からなかった。

「カーバー大佐…ですか…?」

少女は聞いてきた。カーバーはより混乱した。この少女に会った記憶は全くないし、まして名乗ったこともなかった。

彼は疑問を感じ、聞いた。

「そうだが…私は君に会ったことはないはずだが…」

その言葉に、少女は哀しみの表情を見せた。希望が一瞬で打ち砕かれ、失望に切り替わってしまったかのようだ。カーバーは何故か罪悪感を感じたが、彼が謝罪の言葉を発する前に少女は硬い表情を顔に貼り付けてしまっていた。

少女は返答する。

「いえ、資料で今回の作戦に参加する艦の指揮官名簿にあなたの名前と写真が載っていたので」

カーバーはそれが嘘であることを見抜いたが、その嘘の原因が自分にあることが分かっていたので何も言わなかった。

「あの〜、そうでもないというのはどういう事ですか?」

茶色がかった髪を二つ括りにしている少女が聞いた。彼は、自分が彼女たちに話しかけた理由を思い出した。

「おっと、そうだったな。君たち、名前は?」

「ヴェラ・ガルフです。タイコンデロガ級26番艦」

「特型駆逐艦1番艦の吹雪です」

「同じく2番艦、白雪です」

「4番艦、深雪だよ」

1、2と来るのてっきり3番艦だと思ったが、表意をつかれた。

「あー、3番艦の娘はどこかにいるのかな?」

吹雪が答えた。

「えーと、初雪ちゃんは宿舎の布団の中で引きこもってます」

「引きこもり?」

「はい。いわゆるヒッキーってやつです」

「ふむ…」

艦娘というのは戦闘時以外はかなりマイペースなようだ。そして、人間のような生活感が溢れている。彼女たちへの見方を変えなければならない。

「ヴェラ・ガルフと言ったな」

「ヴェラで構いません」

「それではそうさせてもらおうか。さて、ヴェラ、君の情報は少し古い。常に新しい情報を運用するのが勝利の鍵だ。今から、新しい事実を君たちに伝えよう」

「それでは、私の間違いを訂正してください」

ヴェラと言う少女はすっかりよそよそしくなってしまっといたが、新たな知識を得られることに非常に期待しているようだ。

カーバーはその期待に応えてやるつもりだった。彼は他の艦娘にも分かるように先ほどと同じように日本語で話し始めた。

「さて、知っての通りアメリカ空軍の対艦能力は非常に限定されている。対地兵器での対艦攻撃訓練は行われてはいるが、本格的な攻撃が可能な機体はB-52HとF-35Aの2機種に絞られる。

言うまでもないが、現在の危機の対象は『深海棲艦』、その名の通り艦艇を模した存在だ。それに関しては、実際に何度となく間近で戦っている君たちの方が詳しいだろう。

アメリカ空軍は現在、政府が求めているニーズに合っていない。そしてそれは、我が国の軍事プレゼンスの低下を招きかねない。

空軍は対艦攻撃可能な機体をーーできれば安価で調整ができ、そして調整後もまともに運用できる信頼性の高い機体をーー求めていた。

そこで、ストライク・イーグルに白羽の矢が立った訳だ。

この機体は、F-15Kで対艦戦闘が可能であるという実績があったし、何よりソフトウェアの調整とパイロットの訓練だけで十分に実戦に耐えうることができる。もちろん、機体の改修も少しは必要だがね。

それでも、新型機をさらに生産したり、1から新型機を造ったりするよりは遥かに安価で、機体を無駄にする必要もない。

今日来ている第366のストライク・イーグルはすでに改修が施されている。

今、対艦兵器を積んでいないことについては、5日ほど前に我々が連れてきた輸送艦にAGM-84ハープーンを積んできていた。

降りてきた機体がハープーンを搭載していないのはそれが理由だ」

カーバーは自分がずっとしゃべり続けていることに気付き、口を閉じて少女たちの方を見た。

皆、感銘を受けたような顔をしている。どれだけ彼女たちが理解したかは分からないが、少なくとも彼が物知りな軍人だと印象付けたはずだ。

彼は思い出したかのように時計を見た。帰投時間にかなり近付いている。まだ話したいことはいくつかあったが、仕方あるまい。

「すまない、そろそろ戻らなくては。次の作戦でも君たちの護衛をさせてもらう。君たちは自分の任務に集中してくれ。背中は任せろ」

「はい!ありがとうございます」

吹雪が代表して元気よく答えた。カーバーはそれに笑みを浮かべて答え、少女たちに背を向けて少しぬかるんでいる未舗装の小道を戻って行った。

 

カーバー大佐が車に乗り、去っていくのを見届けたヴェラは、盛大なため息を吐いた。

この体を得て、感情というものを表せるようになってからもっとも彼女は失望していた。

もちろん、彼女がいた世界とは違う世界であることは分かっていた。カーバー大佐が彼女のことを知らなくてもなんら不思議ではない。そう、理解はしていたし、覚悟もしていた。

しかし、現実はそう思っていたようにはいかない。現に、ヴェラはこの現実に失望すると同時に、哀しさも感じていた。生死を共にし、絶大な信頼を抱いていた相手に、初めて会ったように応対されればどれだけメンタルの強い人間でも傷付く。

白雪が聞いてきた。

「もしかして、あの人がヴェラ先輩の艦長さんだったんですか?」

「そうです。世界でも屈指の操艦能力を持った非常に優れた人です。

私のいた世界ではテレンス・B・カーバーという名前でした。この世界ではどういう名前が知りませんが、少なくともカーバーというファーストネームと大佐という階級は変わらないみたいですね…」

「…帰りますか?」

吹雪が言った。こちらのことを思ってのことだろう。ヴェラはその考えにありがたく乗ることにした。

「そうしましょうか」

彼女たちはカーバーが去った方向とは逆の向きに進んで行った。

数十メートル離れた滑走路に4発の大型機が着陸した。その凄まじい爆音が、しばらくの間彼女たちから思考を奪っていった。

 

第366航空団、通称機関砲野郎(ガンファイターズ)。彼らは一般的な部隊と少し違っている。

注目すべきは、戦闘航空団や爆撃航空団などではなく、ただの『航空団』と表されている点だ。

彼らガンファイターズは、戦闘機、爆撃機、給油機などを自前で持っている唯一の航空団なのだ。第366は、事実上の空軍の能力のほとんど全て持っているミニアメリカ空軍と言える。

このような部隊になったのはもちろん意味がある。

米軍は非常に大きい組織であり、大変強力な力を持つがそれも政治という敵には無力だった。今の時代、大統領が攻撃すべきと考えても、議会は阻止しようとする形が出来上がっている。

そのため、大部隊を送るにはどうしても時間がかかり、おっとり刀的な展開になってしまう。そのため、凄まじいスピードで事態が進む様な危機に対しては、遅れを取ってしまう。そうなれば、迅速に行動していれば消し止められたであろう火種が、激しい大火になってしまいかねない。

そこでSAC(戦略航空軍団)、TAC(戦術航空軍団)、MAC(空輸軍団)のACC(航空戦闘軍団)への大併合時のゴタゴタの最中に組織されたのが、この寄せ集め部隊とも言える第366航空団である。

ガンファイターズは、危機の現場に真っ先に送られ、その危機の当事国、もしくは付近の友邦国のホスト基地から出撃し、危機の対象に米国の力を見せつけ火種を揉み消し、それが困難な場合は増援が来るまでその地に止まり危機が広がるのをできるだけ抑え込むことが彼らの仕事である。

火種が大火になる前に消火し、被害の軽減を図る。

それが彼らガンファイターズという名の『ファイアーファイター(消防士)』型航空団の使命である。

それが人間以外の生物の起こした危機であっても関係ない。

当然、彼らはこの『深海棲艦』に対処しなければならなかった。そして、彼らも自らが行く必要を感じていた。

ところが、当時彼らは中東に現れたテロ組織の掃討作戦に手こずっており、太平洋に向かう余裕はなかった。

彼らが全ての仕事を片付けて、太平洋に目を向けた時にはすでに『ライジング・ストーム』作戦の失敗で人類側はズタズタになっていた。

彼らは悔いた。

もし、自分たちが行っていれば、これほどの大火にならなかったかもしれない。

彼らはガンファイターズとして、ファイアーファイターとして、自らの部隊に誇りを持っていた。自分たちは、米空軍という剣の切っ先で非常に優れた技量を持った部隊だと。そして、優れた部隊であるからこそ自らに与えられた任務を確実にしかも迅速にこなすことができると彼らは思っていた。

しかし、彼らは一つの危機に手こずるあまりに、もっと重要な、それも人類全体の脅威に対処するのが遅れてしまい、被害を抑えることなど到底不可能な状態にしてしまった。

もちろん、彼らの責任ではない。いや、誰の責任でもない。交戦初期の段階では、彼らがいても消火に成功していたとは思えない。

しかし、そんな言葉など彼らにとっては情けをかけられているように感じられるのだった。

だからこそ、彼らにとってこの作戦はリベンジだった。

その考えはマズイと、エリオット准将は考えていた。彼の部下たちは気負い過ぎている。全力を注ぐという意気込み自体は悪いことではない。だが、あまりにも気負い過ぎるのは、己れの死を招きかねない危険な考えだ。

エリオットにも、その考えはよく理解できる。彼も、もともと血の気盛んなBUFF(B-52ストラトフォートレスの愛称。デカくて太った醜いヤツの意)乗りだったからだ。

しかし、それでも戦場では冷静でいる必要がある。パイロットは特にだ。

エリオットは不安だったが、パラオ航空基地に着いた部下たちの様子を見て、ホッとした。

自信に満ちた表情を浮かべているが、それはパイロット特有のものであって、死をも覚悟した者の見せる表情ではなかった。どうやら、皆よく分かっていたようだ。

エリオットが補佐官と共にいると、迎えの車がやって来た。後部座席からスコット中佐が降りてきた。

「将軍、お疲れの所申し訳ないのですが、江田提督がお呼びです。すでにウォード提督もあちらにおられます」

「分かった」

エリオットたちは、レクサスに乗り込みコロール島にあるパラオ泊地司令部に向かった。

エリオットは自分が呼ばれた理由をある程度予測できた。おそらく、合同ブリーフィングの前に顔合わせをしておこう、と言ったところだろう。

彼らのレクサスをハンヴィー2台が前後を挟んだ。乗っているのは日本国防軍の兵士で、保安要員のようだった。

エリオットは、彼らが自分たちを誰から守っているのか疑問に思った。

彼らの敵は歩兵がどうこうできる相手ではないというのに。

 

パラオ航空基地に降り立ったパトリック・マクミラン中佐は、この南の島の気候に慣れることなどできないと、すでに気付いた。

湿気が多くジメジメしていて、やたらと暑い。

航空機にとっても最高のコンディションとはお世辞にも言えないだろう。

もちろん、米空軍にとってジメジメした蒸し暑い気候が初めてという訳ではない。今の気候に最も近いのはベトナムだろう。

当時、米空軍は散々な状態だった。質で明らかに劣る北ベトナムのMiG-21に空軍と海軍のF-4ファントムⅡはMiG1機を落とすのにファントムが数機落とされる、というような事態に陥ったこともあったほどだ。

その主な理由は、米軍パイロットがミサイルに頼り過ぎていてドッグファイトの技量が劣っていたこと、そしてその頼りにされていたミサイルが熱帯の湿気の多い気候のせいで作動不良を起こしたためであった。他にも、ファントムよりMiGが機動力で優れていたことや、ミサイルのエンヴェロップ(限界)があまり知られていなかったなどもあるが、米軍がその気候に手こずったのは確かだった。

ちなみに、映画で有名な『トップガン』ことアメリカ海軍戦闘機兵器学校の訓練コースができたのはこの頃である。

そして、現在。技術こそ進歩したためベトナム戦争時ほど酷いことにはならないだろうが、その危険性がなくなった訳ではない。

しかし、どうすることもできないので、現在の技術に期待するしかない。

着陸後の幾つかの手順を終える頃には、着陸から1時間ほどたっていた。すぐに他の部隊との合同ブリーフィングが予定されていたので、パイロットスーツから正装に着替えていた。

夏用の制服だが、背中はすでに汗で濡れていた。クソ、なんて忌々しい気候だ。

「よぉ、似合わねぇ格好してるな。パット」

後ろから声をかけられた。相手が誰であるかすぐに分かったので、顔を向けもせずに答えた。

「あんたも同じだろ?セインツ」

マクミランはようやく後ろを振り返った。そこには予想通り正装の第390FS隊長マイク・《セインツ》・クリストファー中佐と、同じく正装の第391FS隊長ジェフ・カスケード中佐、そして第389FS隊長ティール・《ナイフ》・ハラウンド中佐が立っていた。

ニックはニヤニヤした顔をして言った。

「あんたよりはマシだぜ」

「勝手に言ってろ。リーパー、ナイフ、調子はどうだ?」

2人はマクミランより5つは歳下のはずだった。後輩に気にかけるのは先輩としての務めだ。

「問題はありませんよ」

と、ティール。一方のジェフは肩をすくて言った。

「リーパーなんて呼ばないでください。ジェフで十分ですよ。あ、調子の方は悪くはありません」

「分かってるよ、ジェフ。セインツ、エリックのやつはどこだ?」

エリックとは、第22空中給油飛行隊の隊長であるエリック・ブルーダー中佐のことだ。

「奴さんは日本側の連中と話してるみたいだぜ。多分燃料かなんかのことじゃねぇか」

「そうか」

マクミランは腕にはめた時計を見た。そろそろ行かなくてはならない。

「仕方ない。やつは置いていこう。後で来るはずだ」

「そうだな。んで、俺らの車はどこにあるんだ?まさか歩いて行くとは言わないだろ?」

「お前だけそうしてやってもいいぞ、セインツ」

「勘弁してくれよ」

「冗談だ。ほれ、お前さんのお望みの物が来たぞ」

マクミランは2両のハンヴィーを指差した。マイクは顰めっ面をした。

「エリオットのじい様がレクサスなのに俺らは中古品かよ」

「嫌なら歩け」

「言ってみただけだっつーの」

マクミランとマイクは1台目に、ジェフとティールは2台目に乗った。マイクは走り出した後もずっとブツブツと悪態をついていた。マクミランはそれにひたすら耐えていたが、やがてマイクの頭を殴って黙らせた。

「イテェじゃねぇか!」

「お前が悪いんだこの馬鹿たれが」

「ちょっとは不満ぐらい言ってもいいだろ」

「別に構わないが俺に聞こえないようにやってくれ」

「…たく、分かったよ」

マイクはそれ以降、いたって真面目な顔をして何か考え事でもするように窓の外を見た。

こんなやつが士官をやってるんだからウチはもう終わりだな、とマクミランは独り考えた。

 

パラオ泊地司令部には大きめの会議室がある。

あまり使われていないが、大規模な作戦の要項説明の際に使用される。つまり、今回のような合同ブリーフィングの時に。

正面の壁にはプロジェクター用のシートが降ろせるようになっていて、現在はこの薄暗い室内で稼働しているプロジェクターが唯一の光源だった。

その横で、レーザーポインターを持った瑞鳳が英語で(彼女が秘書艦を務めている一因でもある)説明をしている。

他の艦娘たちは英語が分からないので、ヴェラが通訳を務めていた。

今、この場には2つの海上部隊と1つの航空団の合計3つの部隊の指揮官が集まっていた。江田提督、ウォード提督、エリオット将軍の3人である。

更にそれぞれの幕僚として江田提督は艦娘全員と司令部幕僚、ウォード提督は艦隊幕僚、エリオット将軍は各部隊の飛行隊長と司令部幕僚を伴っている。まさに大規模な合同ブリーフィングだ。

そんな中でも、瑞鳳は全く臆することなく話を始めた。

「それでは、合同ブリーフィングを始めたいと思います。

まず、本作戦、『レッド・スティングレー』作戦の背景について説明するところでしたが、ここにいる香水の匂いよりも硝煙の匂いの方が似合う紳士淑女の皆さんは十分認識していると思いますので省かせていただきます」

数カ所から笑い声が聞こえた。誰が考えた言葉か知らないが、なかなか上手いことを言う。

「次に、敵部隊の規模について説明させていただきます。

まず、確認されている現在の敵は陸上の飛行場姫、海上は戦艦ル級フラッグシップが2隻、空母ヲ級フラッグシップ1隻、重巡リ級フラッグシップ1隻にエリート個体が2隻、軽巡、雷巡、駆逐艦それぞれフラッグシップ、エリート個体多数。主力となる艦艇の数が前回の戦闘のおかげである程度減少しています。

これだけならば良かったのですが、あいにく増援部隊が向かっているらしく、付近を航行していたロサンゼルス級原潜『ダラス』が戦艦タ級フラッグシップ2隻、軽空母ヌ級エリート3隻、重巡ネ級エリート1隻、同リ級フラッグシップ2隻、その他大小13隻の部隊を確認し、また提供されたアメリカ国家安全保障局(NSA)のSIGINT情報によれば、空母ヲ級フラッグシップ改が1隻、同ヲ級エリート1隻、その他艦艇多数が増援としてサイパン・テニアン両島の防衛に派遣されたようです。

少なくとも、40隻程の部隊が展開しているものと思われます」

沈黙が流れる。この作戦の困難さが改めてこの場にいる者たちに思い知らされる。

こちらの戦力は多く見積もっても敵の半分ほど。しかも、相手はまだ増える可能性がある。

さらに、水上艦だけでなく陸上には飛行場姫がいる。かなり手こずりそうだ。

「次に、当日の部隊行動について。

まず、最初に米第3艦隊及び日本第一艦隊、第二艦隊、第三艦隊が出撃。艦娘は米空母コンステレーションに乗艦し、燃料の消費を抑えます。

日米両艦隊が先行してから10時間後に第34BSのB-1B4機及び、第389FSのF-16C4機、第390FSのF-15C4機がそれぞれ離陸し、敵艦隊に対し先制攻撃を仕掛けます。

攻撃終了と同時に第391FSのF-15Eが、飛行場姫に攻撃し損害を与え、可能ならば破壊します。この時、コンステレーションの艦載機も直掩機を残し、攻撃に向かってもらいます。

攻撃後、兵装が残っている機体はあらかじめ設定しておいた空域で給油し、再度攻撃を加え、残っていない場合は1度基地に帰投した後に補給、再出撃します。

艦隊到着後は艦娘が突撃を敢行。残存勢力に対し攻撃を仕掛けます。米艦隊は後方にて艦娘の支援を行います。また、航空部隊も同様に艦娘の支援を行います。

海上からの攻撃と空中から反復攻撃により、敵部隊は撃破できると考えられます」

そうなれば楽なのだが、とヴェラは通訳をしつつ考える。世の中思い通りにはならないものだ。

「敵艦隊と飛行場姫の撃破に成功し、制海権及び航空優勢を確保した後に日本より急行中の強襲揚陸艦ボノム・リシャールを旗艦とした上陸部隊がサイパン・テニアンに上陸し、両島を奪還します。この間、我々は上陸部隊の護衛を行います。

上陸後、おそらく奪還のために来るであろう敵艦隊を撃滅し、マリアナ海域の完全な制海権を握るまでが本作戦の内容となります」

なるほど、上の連中は全部こちらにやらせたいのか。ヴェラはぼんやりとそんなことを考えた。全く、こういうことを考える事だけは上手いやつらだ。

瑞鳳は最後の締め括りをした後、質問を受け付けた。が、誰もしようとはしなかった。全員が、この作戦で演じなければならない役を熟知していたからだ。

瑞鳳は頷いて言った。

「それでは、合同ブリーフィングを終了します。各部隊、作戦開始までに必要な仕事を終えておいてください。

以上、解散」

米軍側の士官たちは席を立って外に出て行く。その中で、艦娘たちは全員が残っていた。これから、彼女たちだけでのブリーフィングが行われる。いくつか詳細が知らされていないことが、この場で伝えられるはずだ。

しばらくして、外で誰かと話していた江田が戻ってきた。彼は、後ろのほうに座っていた彼女たちを前に呼び寄せ話しだした。

「諸君、合同ブリーフィングご苦労だった。これから作戦までゆっくりと休んでくれ、と言いたいところだが、あいにく作戦終了までまとまった休みを取れないことを今のうちに伝えておく。不平は聞かん。他の部隊も似たようなものだから我慢してくれ。

さて、君たちは作戦開始時、米空母コンステレーションに乗艦し、作戦海域に到着した後に海に降りることになっているが、その辺りの調整の結果、少しばかり厄介なことになった」

不安しかない。嫌な予感を感じつつ、江田が続きを話すのを待った。

江田はこちらから聞いてくるのを待っていたが、やがて諦めたように言った。

「空母からタラップで降りてもらう計画だったが、どうにもそれができないらしい。

そのため、諸君らには艦載機から海に直接降りてもらうことになった」

予想通り、予感は的中した。不運としか言いようがない。ヴェラは不運ということで、チラリと扶桑と山城の姉妹の方を見た。2人はこの意味がまだ分かっていないようだ。

ヴェラはため息を吐いた。今に分かる。彼女は、人間の体を恨めしく感じた。艦のままならば、こんな苦労はしなかったはずだ。

「それってどう言うこと?」

加古が聞いた。江田はそれに申し訳なさそうな顔で言った。

「君たちにはコンステレーション艦載機、正確にはC-2Aグレイハウンドに搭乗したのち、作戦海域上空からの空挺降下を行ってもらう」

誰も何も言わない。あまりのことに呆気に取られ、茫然としているのだ。

数秒後、思考が一番最初に回復した瑞鳳が頭を抱えて言った。先ほどまで使っていた英語が口を突いて出た。

「Jesus…」

その一言が、全てを物語っていた。




また長々と書いてしまった。何故話が進むたびに文字数が増えるのか。まるで分かりません。
さて、まるで最近編成されたように書きましたが、第366航空団は、第二次大戦当時から存在する歴史ある航空団で、今のような形になったのが最近というような意味合いで書いたつもりです。
次はようやく『レッド・スティングレー』開始です。期待は…余りしないでください。
最後に、このような作品を読んでいただきありがとうございました。

幾つか間違いを訂正しました。申し訳ありません。
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