不屈ノ爪〜The Iron Clow〜   作:明るい脳筋

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皆様、お久しぶりです。
2016年冬イベ、皆様の進捗状況はどうでしょうか?
私は、初のイベント完遂に成功しました。艦これを始めてもうすぐ1年。今更です。
攻略中に清霜、朝霜、風雲、谷風、天津風、卯月がドロップしました。
なぜか駆逐艦ばかりが落ちる…。悪いことではないのですが、まだレベルの上がっていない駆逐艦が多数いていっぱいいっぱいです…。
1番の問題は、母港が狭いということです!
課金しろと言われれば、それまでですが…。
まぁ、いいや。
今回は艦娘は出ません。米軍による無双回です。人類が強すぎると思われるかもしれませんね。
それでは、始めます。


第15話 『Red Stingray』Rising ーPhase1ー

5月22日

 

太平洋洋上の20000フィート上空を、第34爆撃飛行隊『サンダーバーズ』所属のB-1Bランサーが4機、それぞれ2機編隊に別れて飛行していた。

彼らの他にSEAD(敵防空網制圧)任務を与えられている第389戦闘飛行隊のF-16C4機と、それら攻撃部隊を護衛するための第390戦闘飛行隊のF-15C4機が同様に飛行している。

彼ら航空部隊のそれぞれのコールサインとして、第34爆撃飛行隊は「ショートケーキ」、第389戦闘飛行隊は「ガトーショコラ」、第390戦闘飛行隊は「パンケーキ」、まだこの戦域にいない第391戦闘飛行隊は「ティラミス」、遠く離れた安全な空域にいる第22空中給油飛行隊は「クリームパフ」、第41電子戦飛行隊は「シュトーレン」、航空部隊の管制を務める第961空中管制飛行隊は「パティシエ」と与えられていた。

パラオ基地から飛び立って3時間。そして、第3艦隊と艦娘たちが出撃してから13時間。パトリック・マクミラン中佐は、コックピットの窓から明るみ始めた水平線を見た。もうそろそろ、高度を下げて攻撃態勢に入らなければならない。

彼ら『サンダーバーズ』は黎明攻撃のために、真夜中の1時に離陸した。Mk-36機雷を84基搭載した敵艦隊の湾内封鎖を目的としたボーン2機と、飛行場姫攻撃のためにJDAM(統合直接攻撃弾)を24基搭載した2機が今回の攻撃に参加している。

JDAMは、無誘導のいわゆる「賢くない」爆弾を、「賢い」爆弾に変えるための特殊な誘導キットを取り付けた兵器だ。

これまでのペイヴウェイシリーズの後継爆弾で、最大の目玉はレーザー標準器やデータ・リンク・ポッドを搭載する必要が無くなることだ。

JDAMを発射する母機に必要なのは目標の位置だけで、発射後はJDAM自らのプログラムに従って目標に命中する。

これは、母機にとっても非常に安全で敵防空網を突く危険を冒す必要もない。そして、これまでレーザー標準器を使うことで位置が特定される恐れがあったステルス機が、敵に位置を知られずに攻撃できるようになったのだ。

さらにこの優れた兵器のもう一つの特徴として、米軍で使用するあらゆる(特に使用頻度の多い)無誘導爆弾に誘導キットを取り付けられるのだ。

今、マクミランと僚機のボーンに搭載されているGBU-31(V)3/Bで使用する爆弾はBLU-109/B装甲貫徹爆弾で、バンカーバスターで知られる兵器の一つだ。これ自体はディープ・スロートには敵わないものの、イラクの戦術核の至近弾でも耐えられる強化型シェルターを、まるで「ブリキ缶に穴を開ける」かのように破壊してしまえる能力を持つ。

そんな物騒な殺人兵器を48基も、それもたった1体の『深海棲艦』に打ち込むのだからずいぶんと気前がいい話だ。そこに更にディープ・スロートを抱えたF-15Eが8機押しかける。狙われた方は堪ったものではないに違いない。

マクミランはその光景を思い、身震いをした。少なくとも、俺はそんなのに狙われたくない。

彼は太腿のあたりに止めてある予定表を見た後、時計を見た。

時間だ。

彼は操縦桿を倒した。機体はゆっくりと高度を下げる。

僚機も同様に高度を下げ、海面から30フィートにつく。言うまでもなく、この高度は非常に危険だ。これは、練度の高い飛行隊だからなせる技だ。

目の前は海が広がり、飛沫が機窓を洗う。と、彼らより200フィートほど上をアフターバーナーを噴かせたF-16Cが突き抜けて行く。

F-16のパイロットは、まるでこちらが見ていることを知っているようにバンクを振ってさらに増速し、空の彼方へと消える。

一番槍を持っていかれるのは気に食わないが、仕方がない。

最早、後には引けないのだ。

 

第389FS隊長ティール・ハラウンド中佐は、自分が先陣を切るとは全く思わなかった。人類の数年ぶりの一大反攻作戦。どちらに転んでも歴史に残るこの作戦の最初の引き金を引くのが、彼なのだ。

幸運か、それとも不幸か?

それは人によるだろうが、彼としてはあまり嬉しくない。彼は自分が歴史に残ることを望んでいないし、望んだこともない。俺は、歴史に名を残すような偉大な人間じゃない。

しかし、任務の遂行に個人の意思を介在させることは許されない。

戦争において、予定通りに仕事をすることが最も戦果を上げることができるのだ。

彼は機内の左膝の上の部分にある多機能ディスプレー(MFD)を見た。そこには、HTSポッドからデータが送られてきていた。

『深海棲艦』のレーダーに関する名称は未だに与えられていない。その代わりと言ってはなんだが、そのレーダーを装備している艦艇の種類を特定してくれる。

今、MFDに表示されている物は『TA-Class Flagship』。日本語で言えば、タ級フラッグシップだ。

確認されていた増援艦隊の1隻だ。

『深海』側のレーダーは現在の物に比べると玩具のような物で、この距離ではこちらを補足できていないはずだ。しかし、ここから更に近付けば嫌でも見つかるだろう。

そうなる前に、さっさと破壊するべし。

彼はしばらく何もせず飛行した後、距離と方位が分かった段階で、AGM-88HARM1基に『RK(距離は既知)』モードに設定し発射に備えた。

タ級の位置が確定すると、HARMに自動的に送られAN/ALR-56M RWR(レーダー警報用受信機)レーダーにタ級がロックされたのを確認した。

マスターアームをオンにする。これで、いつでも発射できる状態だ。

このHARMが、人類の反撃の突撃ラッパになることを思うと不思議な気分になった。しかし、それもほんの僅かな間だった。

ハラウンドはこれまでの訓練、そして何度かの実戦で行った時となんら変わらない動きで、引き金を引いた。

 

ステーション3のLAU-118ランチャーから飛び出したHARMは、サイオコールとハーキュリーズの2社が供給しているTX-481二段式ロケット・モーターを起動し、瞬時に加速してマッハ4に達した。

目標は、約30海里先のタ級フラッグシップのレーダーである。そこまで到達するまでにかかる時間は、僅かに30秒である。

ターゲットであるタ級からすれば、ちょっとした夢でも見ているようだった。

ちょうど航空部隊が襲ってくる方向に顔を向けていたタ級は、明るみ始めた空の彼方に微かな光を見つけた。

光の数は、4つだ。

何かと思い味方に知らせようとしたその時、こちらに何かが近付いていることに気付いた。

よく見ようと目を凝らした瞬間、すぐ目の前に筒のような物が迫り、彼女は衝撃に備える間も無く直撃した。

小規模な爆発で彼女はバランスを崩したが、なんとか体勢を保った。

爆発は、彼女だけに起こった訳ではないようで、近くにいたもう1隻のタ級フラッグシップと、少し離れた地点にいたル級フラッグシップからも黒煙が上がっている。

彼女は、自身の体に起こった出来事を確かめた。被弾はしたが、さほど被害はないようで、かすり傷程度だった。

彼女がホッとしたのも束の間、タ級は重大な事実に気付いた。

レーダーが破壊されている。機能は完全に停止し、再起動しても動き出す様子はない。

ふと、被弾した友軍を思い出した彼女は、周りに目を向けた。

レーダーを装備していた艦艇全てが被弾している。それも、ただやられた訳ではなく、レーダーだけが破壊されたのだ。

これだけで、事態の重要さは十分に分かった。

僅か数秒で、『深海棲艦』の電子の目は完全にその機能を失った。

 

ハラウンドのF-16CのMFDから、敵レーダーのシンボルが消えた。

おそらく、僚機のMFDも同様だろう。それで十分だ。

ティールは無線で友軍に連絡を入れる。これでもう、隠れる必要はないのだ。

「こちら、ガトーショコラ1。敵の目は潰れた」

 

ティールの部隊は完璧に仕事を果たしたようだ。そうでなければ、ボーンのレーダーにはすでに凄まじい数の迎撃機が映ってはずだ。

マクミランの編隊は、マッハ1の超音速で海上の僅か30フィートを驀進していた。

もう間もなく、サイパン島が見えてくるはずだ。そして、見えればすぐに敵艦隊の展開しているラオラオベイに突入することだろう。

マクミランは編隊の速度を下げ、ウェポンベイを解放する。

マクミランの機とショートケーキ2は、自由落下式のJDAMが、後のショートケーキ3と、4には同様に自由落下式のMk-36機雷が搭載されている。

機雷を搭載した2機が、先行し湾の入り口に「玉子」を並べ、その後すぐに「玉子」を活性化させる。

その2機は投下終了と同時にアフターバーナーを噴かせて、全速で離脱する。そこに、マクミランと僚機が突入する寸法だ。

見えた。サイパン島だ。湾内には、灰色の艦艇群が見える。

マクミランの編隊は、1度この空域で旋回する。その間に、機雷を搭載したボーンが仕事を済ませる。

機雷は、投下された後、GPS情報を発信して味方に位置を知らせる。友軍は、その情報を見ることで機雷原を容易に回避することが可能になるはずだ。

2機は速度を落とし、『深海棲艦』の対空砲火の絶好のターゲットになることを全く恐れず、機雷を投下していく。

見る限り、敵からの攻撃はまばらで、空母は迎撃機を上げようと躍起になっている。これならば問題はあるまい。

機雷の投下を終え、2機がアフターバーナーを始動して離脱を開始する。

対空砲火は徐々に激しくなっていく。少し厄介な仕事になったが、中止するほどの危険ではない。

彼は後席に向かって言った。

「これから花火の打ち上げ会場に突っ込む。衝撃に備えておけ!」

後席の兵装士官のジョンソン大尉が叫ぶ。

「そいつは楽しみです、中佐。でも、花火大会は中止にしてやらないといけないですよ。ご近所に迷惑だ!」

マクミランは笑いながら言った。

「俺の知り合いに花火師がいる。そいつにも是非言ってやってくれ」

「そいつは勘弁したいですね。そのお知り合いに打ち上げられたくない」

「そうか、そいつは残念だ。しかし、ここの花火大会は中止させる事には賛成だ。まずは、打ち上げを指揮してる奴を粉砕してやろう」

マクミランと僚機は、旋回を中止し、対空放火により黒煙が濃くなっていく空に突っ込んだ。

激しい対空砲火に曝された機体が、ガタガタと揺れる。すぐそこを砲弾や機銃弾が流れていき、黒煙によって前が見えにくくなる。

すでに爆弾倉は解放され、ズラリとJDAMが並んているのが海上からも見えるはずだ。全ての兵装が、いつでも投下可能の状態だ。後は、敵の姿が見えれば…。

「中佐!見えました、左前方!」

副操縦士のクレイグ少佐が叫んだ。マクミランも、その方向に首を向ける。

いた。

特に攻撃をしている様子には見えない飛行場姫が、そこにいた。余裕に満ちた表情を浮かべ、周りの友軍艦隊に指示を出している。

マクミランは即座に指示を出した。

「目標発見!そっちも捉えたか?」

「捉えました!データの入力も終わってます!いつでもどうぞ!」

「投下用意!」

「用意」

ジョンソンが復唱する。マクミランは、一息待って言った。

「投下!」

「投下!」

と、同時にJDAMがペイロードから切り離され投下された。

 

飛行場姫は、敵らしき航空機(彼女はこれまでこのような機体は見たことがなかった)が、友軍の分厚い対空砲火を容易に抜けてきたことに驚いた。

数日前、これまでの艦娘などより比べ物にならないほど発達した兵器と戦った。何故、突然このような敵が現れたかはよく分からないが、ダメージはさほど無かったので危険視することはなかった。

が、今回の敵機の大きさを考えると、少しばかりマズイかもしれない。だからこそ、普段よりも弾幕を厚くさせたのに…。役に立たない奴らだ。

敵機が何かを投下した。おそらく、爆弾だろう。かなりの大きさだ。2000ポンドはあるだろうか?

それが、1基、2基、3基…まだまだ落ちてくる。

彼女は目を剥いた。これまで自分に投下された爆弾の数を上回る数がたった1度の攻撃で…。

彼女は流石に不安を抱いた。もちろん、全てが当たる訳ではない。が、何発か当たっただけでも耐えられるかどうか。

そこで、彼女は気付いた。全ての爆弾が、寸分の狂いもなくこちらに飛んでくることに。

こんなことは、初めてだ。

自分はいかなる敵と対峙しているのか?

ふと、戦争初期の話をヲ級から聞いたことを思い出した。その話をしてくれたヲ級は、かなり前に艦娘との戦闘で撃沈されていたが、その前に艦娘が現れる以前のことをこちらに教えてくれたのだ。

敵の兵器は、驚異的な命中率を誇っていたという。もっとも、その威力は大したものではなかったが、それでも十分な恐怖を与えてきたらしい。

が、艦娘の出現と同時に、その誘導兵器を持つ敵と対峙することはほとんどなくなったというのだ。

今、自分の敵は、戦争初期の敵なのだろうか?

おそらく、そうなのだろう。つまり、そう威力は高くないはずだ。それならば耐えれるに違いない。

彼女は自分にそう言い聞かせた。

もしも、彼女が今落ちてくる兵器が湾岸戦争時、イラク軍の強化型シェルターのほとんど全てを吹っ飛ばし、世界中の強化型シェルターの99パーセントを破壊、もしくは危険に曝すことが出来る兵器だと聞けば、恐怖のどん底に叩き落とされていたはずだ。

幸運にも、彼女にそんなことを教えてくれる人物はいなかった。

飛行場姫は、こちらに落ちてくる巨大な爆弾を凝視した。

そんな物にこの私が吹き飛ばされてたまるか。

甲高く、耳障りな笛を吹くような音がすぐ真上まで近付いてきた。彼女は、着弾に備えて身構えた。

 

その光景を形容するには、幾つかの言葉があるだろう。例えば、「火山が噴火したような」や「地獄の釜が開いたようだ」とか、「数十機の戦闘機がベイルアウトした跡地」などだ。

今回の状態は、その全ての言葉を足したような状態だ。

飛行場姫に向けて投下されたJDAMは、ターゲットから半径10メートルほどの地点に全て着弾した。ボーン2機に搭載されたJDAMの数は1機につき24基で合計48基。

それだけの物が、僅か20メートルの円の中に落下したのだ。その威力は凄まじく、黒煙と土煙の入り混じった煙と爆炎で飛行場姫が見えないほどだ。

更に、この兵器はただの爆弾ではないことは前述の通りである。BLU-109を使用しているこのJDAMは強力な貫徹能力を備えている。

通常なら、着弾地点は巨大なクレーターが穿たれ何もかもが消し飛ぶはずだが、相手は『深海棲艦』。しかも、非常に硬い姫級だ。だが、被害くらいは与えられただろう。

飛行場姫を撃破できないでも、滑走路の使用を封じることぐらいはできたはずだ。

マクミランはそう期待していたが、自信はなかった。通常の敵ならば自信を飛び越して確信していただろうが、あいにく今回の敵は常識がまるで通用しない手合いであった。

彼は操縦桿に力を加え、高度を上げる。攻撃は済んだ。期待通りの戦果が上がっているか確認したいが、激しい砲撃に曝されている今それをすることなど不可能だ。

これまで幸運にも被弾はしていない。いや、正確には重要区画に被弾していないと言うべきだろう。すでに機体には幾つもの弾痕が刻まれているはずだ。

そう、これまでは幸運だったのだ。この先それがどこまで続くかは、全く分からない。

さっさっと逃げるのが吉だ。

機体を突き上げる激しい衝撃が来たのはその僅か数秒後だった。クレイグ少佐と顔を見合わせた。少佐の顔は蒼ざめている。きっとこちらも同じような顔をしているだろう。

コックピット内で激しいアラーム音が響き渡る。マクミランはすぐに音の方に顔を向けた。

左側のゼネラル・エレクトリック製F-101-GE-102ターボファン・エンジン2発の内の1発が火災を起こし、もう1発はエンジンが異常燃焼を起こしているようだ。

彼は即座に燃料の流入を停止し、消化剤の散布を開始して火災の消火を図った。アラームはすでに止めている。

緊張感が溢れた空気がコックピットを満たす。後席もこの騒動に気付いているだろう。

数十秒後、火災を示していたランプが停止する。消火に成功したようだが、まだ安心できない。マクミランは、僚機にエンジンの状態を見てもらった。煙が出ているが、炎は出ていないという答えが帰ってきて、彼はようやく安心した。他の乗員も小さい声で感謝の言葉を呟いている。

少なくとも、この被弾で落ちることはないだろう。しかし、それは新しい問題を生み出す結果になる。

予定では高度を上げて超音速で離脱することになっていたが、すでにアフターバーナーを噴かせて逃げることは不可能だ。

右側のエンジンも出力を落とした状態で飛ばなければならない。このままでは、戦闘空域から離脱する前に敵機に食い付かれてしまう可能性がある。

仕方がない。パイロットの生命は重要で、機体もまた同様だ。まだ落ちるようなまずい状態になっていない以上、護衛を頼むしかない。

マクミランはため息を吐きながら、管制官に連絡を入れた。

「こちらショートケーキ1。パティシエ、左のエンジンをやられた。火災は停止したが、敵機の追撃があった場合、振り切れない可能性がある。エスコートを頼む」

『了解、ショートケーキ1。今、そちらに護衛を寄越す。少し待ってくれ』

「分かった。なるべく早く頼む」

マクミランは、小刻みに揺れる機体を宥める作業に戻り、最悪の瞬間が来るより先に味方が来ることを願った。

 

悪いことは重なってやって来る。これを1番最初に言ったのは誰だろうか?

第390FSのジェフ・カスケード中佐は、管制官から与えられる情報を聞きながら考えた。

悪いことの1つ目は、上がってきた敵機の数が予想より大幅に多いことだ。

いったい誰だ?20機程度しか上がってこないと言った奴は?明らかに、その倍はいるではないか。

次に来た悪い知らせは、『ボワーズ』の後続隊が遅れているということだ。どうも地上給油と爆装に予想以上に手間がかかったようだった。

うすのろの馬鹿どもめ!何故、余裕を持って行動していないんだ!

カスケードは無線を切った後、酸素マスクの中で毒付いた。そんなことを言っても、敵の数が減る訳でもないし、彼の部下たちが早く着くのでもないが、彼は苛立ちをぶち撒けた。ストレスは早めに発散する方がいい。

それが済むと、彼はどうするか考えた。

4機のF-15Cには、それぞせAIM-120AMRAAMとAIM-9Xサイドワインダー2000が4基ずつの合計8基が搭載されている。つまり、彼の編隊には32基のミサイルしかない。

一方、『深海棲艦』の敵機の数は合計43機。全弾を命中させても、11機残る。カスケードの部下たちはハーバード大学を出てはいないが、この程度の簡単な計算は当然できる。彼らが勝利するには、機銃を使用しなければならない。

F-15Cの固定武装である、ゼネラル・エレクトリック製M61A1 20ミリ バルカン砲は航空機に対して非常に有効な兵器だ。毎分4000発もしくは6000発かを選ぶことができ、装弾数は940発である。連続発射時間は2秒だが、引き金を引き続ければ10秒ほどで弾薬切れになる。

その点だけ気を付ければ、この武器は完璧な仕事を可能にしてくれる。

ちなみに、CIWSで有名なファランクス(レイセオン・システムズ)の機銃部分はM61を元に作られている。

カスケードのイーグルのレイセオン・システムズ製のAN/APG-63(V)1レーダーが敵編隊の姿を捉えた。

彼はAMRAAMのシーカーにデータを与えようとしたその時、敵編隊の一部が別れて別の方角に向かう様子がレーダーに映った。どういうことだ?奴らの好きな餌でもあるのだろうか。

彼の疑問は、すぐに来た管制機から無線で消え去った。

『パティシエよりパンケーキ1へ』

「こちらパンケーキ1。パティシエ、何か用か?」

『被弾したショートケーキ1のエスコートを頼みたい』

ショートケーキ1?マクミラン中佐のコールサインだ。まさか、彼の機が被弾するとは。敵はそれほど優秀なのか?

「了解、パティシエ。すぐに行く。位置を教えてくれ」

彼は管制機からの情報を聞きつつ計算した。ショートケーキ1の位置は、敵編隊の一部が向かった方角だ。おそらく、敵さんもショートケーキ1に会いに行くのだろう。こんにちはショートケーキさん。あなたを食べに参りました。

…そんなことをさせるつもりはない。

カスケードは、管制官にETAを伝えると、部下たちに後の30機を任せてアフターバーナーを作動させ護衛に向かった。

 

『こちらパティシエ。エスコートをたった今向かわせた。ETAは5分後』

マクミランは内心ホッとしていた。向かっているのはカスケードの機で、彼の腕前は身を以て知っていた。演習で何回カスケードに落とされたことか…。

マクミランは苦笑いを浮かべた。助けてもらえるのは嬉しいが、飛行経験の差を考えると情けない気持ちになる。もちろん、そんな物はつまらないプライドで、命あっての物種なのだが。

4分後、カスケードのF-15Cがレーダーに映った。

予定より早い。

いくら空中給油機がいるからといって、燃料を無駄に消費するのはあまり褒められることではないが、マクミランは護衛される側だ。口出しできる身分ではない。

が、彼も自分の義務がある。おそらく、向こうから連絡があるだろう。その時に咎めておく必要がある。

『パンケーキ1よりショートケーキ1へ。まだ落ちてませんね?』

「こちらショートケーキ1。護衛に感謝する。そっちのレーダーにこっちは映ってないのか?そうならそのレーダーは不良品だ。レイセオンの首が幾つか飛ぶぞ」

『大丈夫です。ちゃんと映ってますよ。そちらに何機かストーカーがついて来てます。警察に通報しますか?』

「必要ない。そっちが予想より早く着いてくれたおかげでな。それでどれだけ燃料使ったんだ?」

『すみません。アヒルみたいにチンタラ飛んでたら護衛対象が落とされてた、何てことになったら寝覚めが悪いので』

「まぁいい。それより、さっさとストーカー共を追っ払ってくれ。こっちはストーキングなんかされるほど良い男じゃないんでな」

『あー、質問です。『追っ払う』は、『殲滅してもよい』と言う意味の認識でいいでしょうか?』

マクミランはため息を吐いてから答えた。

「好きに解釈していい」

『了解しましたショートケーキ1。ストーキング趣味の変態共を殲滅してやります!』

全く威勢のいい奴だ。マクミランは、呆れつつもその若いパイロットのことを愉快に思った。

真面目な軍隊にも、これくらいの男の1人や2人は必要だ。

 

カスケードは、イーグルをぶん回すことこそが生きがいだと感じていた。そして、この機を翔って戦えることを誇りに思っていた。

このようなことを感じたのはいつだったろうか?

それは、彼が初めてF-15Cに搭乗した時だった。通常、戦闘機に乗ることをライド・イン(搭乗する)と言う。が、このイーグルはライド・オン、つまり跨ると表現するのだ。それは、見通しの非常によいバブル・キャノピーのおかげである。

カスケードは、この機体を一瞬で好きになった。まさに一目惚れだった。さらに、この機体を実際に飛ばすことでより好きになった。これより素晴らしい機体に、彼は乗ったことがなかった。

それ以降、彼の軍歴はこの機体と共にあった。彼の最初の任務は2011年のリビア内戦における米軍の軍事介入だった。

彼は爆撃を行うF-15Eの護衛として、合計130ソーティーの作戦を行った。この間に2機のMiGを撃墜した。これが、彼の初めての戦果であった。

その後、幾つかの紛争地域を転々とし、やがて第366航空団の第390戦闘飛行隊隊長に抜擢された。

そして今、彼はこれまでと全く違う敵と相見えていた。もっとも、一方的な虐殺になることだろうが。

彼は交戦を宣言し、『発射・及びアップデートモード』でAIM-120AMRAAMを2基発射した。

AMRAAMはカスケードのイーグルから与えられた、方位、位置、コース、速度に従いしかるべき地点で、自らのレーダーを起動した。敵はすぐに見つかった。スラマーはIFFで誰何した後、それが敵であることに納得するとそれに向かってマッハ4で接近した。

敵機も必死で回避しようとしたが、無駄な足掻きだった。

『深海棲艦』の戦闘機2機は、AMRAAMの直撃を受け粉々に吹き飛んだ。生き残った他の機は、次の攻撃から身を守ろうと編隊を解き個々に分かれる。

そのような行為はイーグルにとって何の役にも立たない。カスケードは、好きな敵機を叩き落すことができる。それだけの能力が彼と、彼の愛機には備わっているのだ。

が、彼は追撃しなかった。彼の目的は、あくまでエスコートだ。マクミラン中佐には殲滅すると豪語したが、彼も仕事はわきまえている。

敵機が再び結集しだしたら、そこに残ったAMRAAMをぶち込むかサイドワインダーを発射すればいい。

敵機の航続距離を考えると、あと10分ほどの間守り切れれば、こちらの勝ちなのだ。

敵機が編隊を組み始める。向こうも、この攻撃がラストチャンスであることは理解している。そう簡単には引くまい。

カスケードは、敵が動くのを待った。

来た。

敵は部隊を3つに分け、攻撃してきた。1つは彼の妨害に、後の2つは後方よりボーンに迫る。

彼は舌打ちしつつ、目の前の4機を処理すべく兵装をAMRAAMからサイドワインダーに切り替えた。

AIM-9Xサイドワインダー2000は、レイセオン製のベストセラーAIM-9サイドワインダー・シリーズの最新型だ。

この赤外線追尾ミサイルの特筆すべき点は、テールパイプの見えない真正面はもちろん、発射母機から60°ほどずれた地点、つまりオフボワサイトの敵にも使用可能なことだ。これにより、より攻撃の範囲が広がったのは言うまでもない。

カスケードは発射前ロックオン(LOBL)で、4機の敵機をそれぞれロックした。

彼は敵機が射程内に収まるまでじっくり数秒間待ち、引き金を引いた。

パイロンから切り離されたサイドワインダーが、マッハ2.5に増速し『深海棲艦』の戦闘機から発される赤外線を追跡し、回避機動に転じた敵機を追撃する。

それぞれ別個の目標を追跡するサイドワインダーは、敵機の激しい機動に紛わされず追いかけ、叩き落とした。

4つの火の玉が輝いたのは、発射から10秒以内だった。

カスケードは、操縦桿を引きつつ右ラダーを踏み、旋回する。高Gが彼の体を押し潰そうとするが、彼は難なく耐える。この程度のGでへばっていては、戦闘機乗りとしてやっていけない。

彼は機首を敵機に向ける。

ボーン追撃に躍起になっている敵機は、彼のことを無視し、ボーンを落とすことに集中している。

カスケードは、微かな慄きを感じた。奴らは味方が落とされることはもちろん、自分が落とされることをまるで問題にしていない。どんな犠牲を払ってでも、確実に落とすという信念が滲み出ているようだ。

カミカゼとは違う、もっと異質な何か。彼はそれに戦慄したのだ。

が、それまでだった。

彼は残ったAMRAAMを選択し、最初に発射した時と同じ動作で発射した。

今度の攻撃は、後方からの攻撃になるため射程距離が短くなるが、問題なかった。後ろから迫ってくるAMRAAMを回避することもなく、敵編隊から2機の戦闘機が吹き飛んだ。

「スプラッシュ・ツー」

ミサイルは全弾命中した。技術の勝利を祝いたいところだが、それは後にする必要がありそうだ。

残りの敵機はあと5機。ボーンが逃げ切るのは難しそうだ。

カスケードはイーグルの兵装をバルカン砲に切り替えた。HUD(ヘッド・アップ・ディスプレー)にガンサイト、正確にはガンサイト用のシンボルがが表示された。

彼はスロットルをいっぱいまで押し上げ、アフターバーナーを点火した。燃料に不安があるが構うものか。

彼のイーグルは瞬時にマッハ1を超え、さらに増速する。前からの強烈なGを受け、体が圧迫される。しかし、彼の視線は前から外れない。

数秒後、彼の視界に入った敵機はHUD上に表示される円錐上の空間に瞬時に入り込んだ。

彼は引き金をほんの一瞬だけ引いた。触れたと言ったほうがいいかもしれない程短い時間の射撃だったが、効果のほどは絶大だった。

PGU-28装甲貫徹/焼夷弾が敵機を貫き、木っ端微塵に破壊した。

彼は次の機体に目を向け、再びガンサイトに敵機を捉えると引き金を引き絞る。数十発の20ミリ砲弾が右翼の付け根から発射される。砲弾はまるで敵機に吸い込まれるように着弾した。

敵機は粉々になり、破片が空にばら撒かれる。カスケードはその破片を回避しつつ、次の目標に狙いを定める。

残り3機。間に合うか?

すでにボーンは目の前に迫ってきている。最も近い位置にいる敵機は、もう間も無く射程に収めてしまいそうだ。

さらに1機がイーグルの銃撃を受け、黒煙を吹きながら下に落ちていき、爆砕した。

あと2機。無理だ。最後の1機は間に合わない。中佐の腕に賭けるしかない。

カスケードは苦虫を噛んだような顔をして、更にもう1機叩き落とした。

最後の1機は、ボーンへの射撃を開始した。

 

マクミランは、MFDに表示されるE-3Cから提供される10秒おきのレーダースイープの結果を見ながら、敵機とカスケード機が迫ってくるのを確認していた。

カスケードは手早く敵を潰しているが、思った以上に手こずり、敵がこちらを攻撃する前に全滅させることは無理そうだった。

敵機がどんどん近付いてくる。マクミランは操縦桿に手を当て、回避行動に備える。次のスイープの後に射撃が来るはずだ。

MFDの情報が更新された。敵機は今…。

真後ろ。

マクミランは即座に操縦桿を右に倒す。と、同時に右ラダーを踏む。

機体は瞬時に右への旋回を始めた。

敵機の放った機銃弾は、先ほどまでボーンのいた空間を切り裂いていった。何発かの弾は当たったようだが、重要区画の被弾はない。ほんの数秒、遅れていれば重要区画にも被弾していただろう。

危ないところだった。が、まだ危険であることは変わりない。

彼は機体をそのまま旋回飛行に持っていく。この場合、切り返しするのは危険だ。後方から迫る敵機の射界に入ることになる。

しかし、ボーンより敵機の方が明らかに旋回性能に優れている以上、ほんの僅かな時間稼ぎにしかならない。

敵もそれに気付いているのだろう。その機動力に物を言わせて、急旋回し、ボーンを射界に収めようとする。

しかし、敵はあまりにも時間を使い過ぎた。そして、マクミランにとってはほんの数秒の時間で十分だった。

敵機がボーンを射界に収め、射撃しようとした瞬間、後方から数十発の20ミリ砲弾の直撃を受けた。機体はバラバラになり、空に散った。

カスケードのイーグルの攻撃で破壊されたのだ。

無線から、カスケードの声が聞こえた。

『フゥ、なんとか間に合いましたね』

「間に合ってないぞ、ジェフ」

『はい?』

カスケードの間抜けな声が聞こえ、マクミランはため息を吐いた。

「最初の射撃が何発か当たった。重要区画に当たってたらどうするつもりだったんだ?」

『あなたの腕が無かったってことじゃないですか?もちろん、私の不甲斐なさも原因ですが』

カスケードは、無線を通してマクミランの苛立ちを感じたのか、すぐに訂正する。

と、管制機より連絡が入った。

『こちらパティシエ。敵編隊の撃破を確認した。良くやってくれた、パンケーキ』

『それはどうも。うちの編隊はどうなってる?』

『パンケーキ・フライトは敵編隊を殲滅した。損害は無いようだ』

『了解、パティシエ。ところで、燃料に少しばかり不安がある。兵装もほとんど使っちまったんで、1度基地に帰投する』

『了解、パンケーキ1。ショートケーキ1、パンケーキと基地に戻れるか?』

「問題ない」

『分かった。無事に戻れることを祈ってるよ』

「感謝する。陸で会おう」

マクミランは機種をパラオに向け、高度を上げた。コックピット内にホッとした空気が流れた。とりあえずは、彼らの役目は終わったのだ。後は、すぐ後ろの編隊位置で飛行している、カスケードたち戦闘機と、海軍、そして艦娘たちの戦いだった。

 

第391FSのマイク・クリストファー中佐は、F-15Eストライク・イーグルに『跨り』、飛行していた。

味方の無線と、パティシエからの情報を見る限り、作戦は大筋で上手く進んでいるようだ。

そうでなくては困る。こんな緒戦で手こずっているようでは話にならない。

彼の部隊は、4機ずつの編隊に分かれているが、どの機にも飛行場姫を撃破するために必要なGBU-28が中央のパイロンに搭載されている。パットの部隊が飛行場姫にJDAMを打ち込んでいるため、目標はかなりの損害を受けたはずだ。そこにディープ・スロートを投下してやるのだから過剰殺戮(オーヴァー・キル)もいい所だろう。

クリスは、飛行場姫に同情したくなった。気の毒に。あの島に航空基地が無かったらこんなことにはならなかっただろうに。

しかし、仕事は仕事だ。可哀想だが、バラバラの肉片になってもらうしかない。

今頃は、この付近の海域まで到達しているコンステレーションから海軍の航空部隊が敵艦隊に攻撃を行ない、クリスの部隊の飛行場姫攻撃をしやすくしてくれるているだろう。

もっとも、海軍のオカマ野郎共がまともに仕事をすれば、だが。

見えた。ラオラオベイだ。

湾内のあちこちから黒煙が上がっている。何隻かの『深海棲艦』は海に沈みつつあり、さらに多くの艦が火災を起こしている。

後席でWSO(兵装システム士官)を務める、サロモン・《アックス》・カーク大尉が口笛を吹いて言った。

「海軍の奴らも”それなりには”やるようですね」

無線越しでもカークが笑っているのが分かる。クリスもそれにつられて笑いつつ、答えた。

「当たり前だ。いくらオカマ野郎共でも、連中は俺たちと同じアメリカ軍だ。この程度の事ぐらいできなけりゃ、給料なんざ貰えんよ」

「それもそうですね」

カークは答える。

クリスはその返答に頷くと、再び言った。

「ところで、ターゲットはまだ生きてるか?」

「まだ分かりませんね。今の所、目標地点に動きは見られませんが…」

「フム、一応確認した方がいいだろう。ロッキー、ピース、聞こえてるか?」

『聞こえてますぜ、隊長』

『同じくです』

ロッキーことティラミス5と、ピースことティラミス6が答えた。

「お前たち2機でターゲットを目視で確認しろ」

『了解だ、隊長。ピース、行くぞ』

『分かりました。バックアップ位置につきます』

2機のストライク・イーグルが増速して先行し、ターゲットの元へ降下していく。その2機に対する対空攻撃は散漫で、ほとんど害にはならなかった。

『こちらティラミス5。奴さんを目視で視認。相当やられてるようだが、まだ生きてやがる』

「分かった、ロッキー。ピースと一緒に戻ってこい」

『はいよ。俺たちは無慈悲な隊長の使い走り。好きなように扱われる哀れな使い走り…』

「今度から下でも使い走りにしてやるよ、ロッキー」

『勘弁してくださいよぉ』

「うるさい。情けない声出しても無駄だ。分かったらさっさと動け」

『へいへい。もう動いてますよ、隊長殿』

皮肉たっぷりの交信の後、無線が切られた。

クリスはため息を吐いた。困ったやつだ。腕はいいのだが、口が悪すぎる。もっとも、自分も同じだが…。

彼はスロットルを上げ、増速した。背中から突かれるような衝撃と共に、前からのGを受ける。

目標への突入地点に編隊を移動さするべく、旋回飛行に移る。彼は後ろを振り向き、僚機が付いてくるのを見ると、再び視線を前に向けた。

キャノピーの向こうに、黒煙を吹き上げる地上物があった。その物体は、何やら苦しそうに蠢いている。

目標の飛行場姫は、JDAMが48基も命中したため、相当な被害を受けたようだ。

後席のカークが言った。

「間も無くアタック・ポイントです」

「分かってるよ、アックス。あの哀れなターゲットの息の根を止めてやれ」

「了解」

数秒後、攻撃地点を高速で通過したF-15Eの中央パイロンからGBU-28が投下された。

圧倒的破壊力を持ったその凶器は、投下母機から発せられるレーザー波に従い、正確に目標に向かって落下していった。

 

JDAMの攻撃を受け、激しい被害を被った飛行場姫は、迫ってくる航空機を恨めしそうに見つめていた。

彼女は、自分が今迫っている航空機によって、この世界から抹殺されることが容易に想像できた。そして、それを阻止する術がないことも知っていた。

だからこそ彼女が最後にできることは、傷だらけの身体を起こし、その理不尽なまでの力に決して屈しないことを示すことだけだった。

8機の航空機から爆弾が投下された。彼女は、その8基の爆弾が自分の身体に対した影響を与えないはず、などという幻想は抱いていなかった。

あと数秒で、彼女の存在はこの世から消え去る。いつも考えていた死が、すぐ目の前に迫ってきたのだ。

不思議と、恐怖はない。恨めしい思いも、今は完全に消えていた。どこか清々しくさえ感じる。

理由は分からない。が、それでよかった。

ようやく、ゆっくりと休める。

ただ、それだけのことかもしれない。

飛行場姫は、目を閉じ、笑みを浮かべた。

そしてーー。

 

強烈な閃光と共に、消え去った。

 

土煙と爆炎、そして黒煙が混じり合った物が噴き上がるのが、クリスには見えた。その中で、飛行場姫がバラバラになって吹き飛んだ様子も、同様に彼の網膜を通じて脳裏に刻まれた。

「ヒューッ!最高だ!吹っ飛ばしてやった!」

後席のカークが歓喜の叫びをあげる。

ふと、彼は自分が十字を切っていることに気付いた。

なんてこった。全く俺らしくもない。いったい、どうしちまったんだ?

「なぁ、カーク」

「何ですか?中佐」

勝手に口が動くのを感じながら、彼は言った。

「俺、ホームランドに帰ったら神父様にでも説教してもらうよ」

鏡に映るヘルメットのバイザー越しでも、カークが目を見開いているのが分かった。

当然だ。信心深いとは言い難い彼がそんなことを言い出したのだから。

カークの眼は、正気かとでも言いたそうだ。

クリスは苦笑した。神父様の名前を出しただけでこれだ。ここで、俺は厳正なカトリックだ、なんて言ったらカークのやつはどんな顔をするだろうか。きっと驚きのあまりに失神するに違いない。

クリスは言った。

「冗談さ。さて、一旦基地に戻って補給を済ませちまおう」

「…了解しました」

カークはまだ不審そうな眼をこちらに向けている。

クリスはため息を吐きながら、無線に連絡を入れる。

「こちらティラミス1。敵の頭を潰した。会場はしっかり温まってるぜ」

彼はそれだけ言うと、無線を切り、旋回してパラオ基地に機首を向けた。

途中、2機のC-2Aグレイハウンド輸送機が、護衛のF-35C4機と共にサイパンに向かうのが見えた。

彼は、その機体の中で降下に備えているであろう艦娘たちに、エールを送った。

頑張れよ、お嬢ちゃんたち。おじさんたちは補給の後でしっかり援護してやるからな…。

彼は、その輸送機たちにバンクを振ると、戦闘空域を後にした。




終わりました。
私の能力では、この程度の話しか作れません。
いや、無闇に参考資料の少ない物を書くと大変なことになるのがよく分かりました。
次回は艦娘たちにしっかりと戦っていただきます。会話シーンのない扶桑、山城にもしっかり喋ってもらいますよ。
第1部はあと2、3回で終わりそうです。第2部に向けて邁進していきましょう。
最後に、このような作品を読んでいただきありがとうございました。

ボーンはサイドスティックを採用してませんね…。操縦桿に訂正しました。
それと、現実世界ではF-35Cは2017年にまだ初期作戦能力(IOC)を持っていない予定ですが、この世界では『深海棲艦』の脅威で、運用開始が早まったといったところで解釈していただきたいです…。
つまり、作者の調べ不足です。申し訳ありません。
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