不屈ノ爪〜The Iron Clow〜   作:明るい脳筋

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第1話 雨、現れし爪

2017年 5月8日

 

雨。

ひたすらに雨が降り続ける。

この地に赴任して数ヶ月が経つが、毎日のように降り続けるこのスコールにはウンザリさせられていた。

パラオ本島のコロール島にある泊地司令部のこじんまりとした、提督執務室の窓際に立ち、外を眺めていた泊地司令官である江田 四郎(えだしろう)中将は、そんなことを考えながらポケットから煙草を取り出そうとした。

と、同時に背中に凄まじい殺気が突き刺さった。

彼は、ため息をつきながら煙草をポケットにしまい、椅子に座り仕事に戻った。

『深海棲艦』との戦争が始まって早5年。最初こそ優勢だった人類だが、圧倒的物量に押され、今ではほとんどの島嶼群を占領されていた。

南方海域はここ、パラオを除き全てが『深海棲艦』側にあり、この泊地もいつなんどき襲われるか分かったものではなかった。

が、この泊地に置かれている戦力は雀の涙ほどしかない。その理由は、上層部がすでにこの泊地を放棄しているからに他ならなかった。

ここにいる戦力も一般人に未だに踏みとどまっていると、印象付けるための張り子の虎であり、実際に戦闘になると数日も持たない弱小部隊であった。

その事と毎日のように降る雨のせいで、この基地の士気はお世辞にも良いとは言えない。そしてそれは、指揮官のやる気にも影響を及ぼすのだった。

江田は、机に置かれている膨大な書類の山の山頂にある報告書を見て、呻き声を上げた。この報告書を一番最初に見せるとは、彼の秘書艦も相当なワルだ。

その紙切れには、この泊地の主力艦である扶桑型戦艦の扶桑と山城が大破したと言う内容が書かれていた。

先程言ったように、この基地には雀の涙程の戦力である。そのため、この『欠陥戦艦』と呼ばれる艦も主力となってしまうのだ。

この際なので、この泊地の編成を書いておこう。

まず、戦艦扶桑、山城。次に空母だが、もともとはいなかったのだが、1週間程前に敵潜の影響で帰れなくなっていた軽空母瑞鳳を編入する事で確保した。

次に巡洋艦。重巡古鷹、加古に軽巡天龍、龍田、球磨、多摩。駆逐艦は、睦月型の睦月、如月、弥生、卯月。吹雪型の吹雪、白雪、初雪、深雪。

以上が、この基地の全戦力である。見ての通り、大正生まれの艦がほとんどで、昭和生まれは吹雪型の4隻のみである。いわゆる、二線級の戦力と言うものだ。

これを見れば、本国がこのパラオをどうでもいいと思っていることがよく分かる。

江田は、現在の資材の量を思い出し、この2隻に高速修復材(バケツ)を使えるかを諮詢した。次の輸送船の到着は1週間後で、現在のバケツの量は10個。一応、遠征で手に入れる事が出来るのだがその量はさほど多くない。

バケツよりもさらに問題なのは、資材の少なさだ。この基地で1ヶ月に使える資材は、各5000。バケツ同様に、遠征で手に入るがやはり少ない。これまでも、上層部に資材の量を増やすように要請していたが、こちらの望む返答はいまだ得られていなかった。

江田は、頭を掻きながらため息をついた。ため息をつくのは今日これで何回目かを考えたが、あまりの多さにもはや覚えていなかった。

再び、大破した2隻の事に頭を巡らした彼は、バケツを使用するといつ結論に至った。彼は、この良いとは言えない戦闘環境の中で必死で働いてくれる彼女らのために、出来る事をする方を選んだ。資材などはある程度どうにかなるが、彼女のメンタルはそうはいかないのだから。

江田は、バケツの使用許可書にサインをすると、秘書艦で今同じ部屋にいる瑞鳳に呼びかけた。

「瑞鳳」彼女は、江田の呼びかけに面倒くさそうに答えながら椅子から立ち上がった。

「はい、なんですか?テートク」

「こいつをドックの妖精さんに持って行ってくれ」

「あっ、はい分かりました」

そう言うと、瑞鳳はピシッとした敬礼をすると走って出て行った。江田はそれを見送ると、次の書類に取りかかった。

 

全ての書類を見終わり、それに対する対処を済ませる書類を書くのが終わったのは、それから2時間後の事だった。さらに頭痛の種が増えた江田は、帰って来ていた瑞鳳に、休みを告げると外に出た。

相変わらず強い雨は、どうやらスコールなどではなかったようだ。傘では防ぎきれない雨だか、その雨のおかげで頭痛が少し軽くなったような気がした。

彼は、そのまま海岸まで出る事にした。何故かは分からないが、急にそうしたくなったのだ。

雨に足を取られそうになりながら、歩き続ける事10分。ようやく海岸にたどり着いた時には、すでに後悔していた。

同じ道を再び歩いて戻るのが、ひどく憂鬱な事に感じられた。

ふと、視界の端に何か大きな物体があることに気がついた。興味を持った彼は、その物体に近付いてみた。

最初の数歩では、それは流木か何かのように見えたが、10歩も行かぬうちに、流木などではないことが分かった。もっと柔らかい何かだ。

さらに近付く。

あと30メートルと言うところで、その物体が何であるか分かった。

 

ヒトだ。

 

江田は、すぐに走り出した。強い雨で、ベチャベチャになった砂浜を走るのは容易な事ではないが、彼にはそんな事は関係なかった。

すでに傘は、投げ捨ている。雨に濡れるのも構わず、彼は走り続けた。

ようやく、倒れているヒトの元にやって来た時、その人物が他と違うことに気付いた。

まず、その人物は少女である事。次に、江田が普段仕事をしている少女達と同様、艤装と呼ばれる装備を付けている事、である。

つまり、この少女は…

彼は、無意識にこう呟いていた。

 

 

「艦娘か…」

 

 

……不思議な気分だ。いや、気分と言うのはおかしいかも知れない。

彼女は、ボンヤリと思った。

自分は、海の底に沈み死んだはずだ。しかし、ある程度の意識はある。考えられる程度の。

だが

それは、自分の考えていた「死」の定義と違う。もっとも、その定義があっているかは、分からなかったが。

まぁ、意識があるならそれも悪くないだろう。

…そうだ。

少し思い出に浸ろう。少し長くなるが、それもいい。

時間はいくらでもあるのだから…。

 

彼女が生まれたのは、アメリカのバージニア州、ノーフォークであった。当時は1993年である。

排水量9600トン、機関最大速度32.5ノット。後部甲板に2機のSH-60を搭載している。また、イージスシステムを搭載したイージス艦であり、対艦対空対潜と、あらゆる脅威に対応出来る万能艦であった。

その後、生まれ故郷を離れた彼女は、第7艦隊に所属したのち第3艦隊に配置転換された。

そこで起きたのが、『やまと事件』である。米国政府は、『やまと』を沈めるため、そして日本を再び占領するためにロシアと結託し、第3艦隊を派遣。ロシア太平洋艦隊と共に、交戦を開始した。

結果は、惨敗。

ロシア側は、巡洋艦ヴァリヤーグ、駆逐艦グローズヌイ、オスモトリテルヌイ、プロヴォルヌイの計4隻。

アメリカは、空母ミッドウェー、戦艦ニュージャージー、イージス艦ヨークタウン、巡洋艦デイル、駆逐艦レフトウィッチ、オバノン。そして、彼女ヴェラ・ガルフも撃沈された。

さらに、米軍の損傷艦にはヴェラ・ガルフの同型艦、2隻の姉である、レイク・エリー、ケープ・セント・ジョージも損傷した。

それに対し、『やまと』の被害は実質的にゼロ。米国の完全な敗北であったが、彼女はそんな事どうでも良かったと言える。

彼女が守りたかったのは彼女のクルー達であり、彼女の艦長だったらだ。

そこで、彼女に疑問が浮かんだ。

自分は、本当に彼らを守れたのだろうか?

そう思うと、彼女は、今の状態に恐怖を抱いた。彼らを守れていないと言うなら、自分はなんのために沈んだのか?

自分の死に何か価値があるのか?

彼女は、周りを見回した。

暗い。

何もない。

自分に価値が持てない。

それは、彼女にとって恐怖以外の何者でもなかった。

彼女は、そこから必死で逃げようとしたが、足が進まない。彼女の冷静な頭はすでにパニック状態であった。

その彼女に出来る事は、もはや1つしかなかった。

彼女は、あらん限りに、叫ぶ。

 

 

「誰か、誰が助けてッ‼︎」

 

 

ハッと、彼女は目を開けた。

そこには広い天井が広がり、明るい蛍光灯がついていた。

彼女は呆然とし、やがて、普通の状態ならかなり驚くであろう事を冷静に口にした。

 

「私の体…、ヒトになってる」

 

 

 

 

 

 

 




第1話終わりました。相変わらず短くてすみません。
えー、まず最初にパラオサーバーの方。このような事になってしまった事を深くお詫びします。
また、扶桑、山城、瑞鳳、古鷹、加古、天龍、龍田、球磨、多摩、睦月、如月、弥生、卯月、吹雪、白雪、初雪、深雪を嫁艦とする方にも、深く謝罪致します。
さて、前回の投稿の際色々とありました。なにぶん、この投稿が初めてだったもので。もちろん、しっかり確認してしかるべきだっだとは思っています。今後、こんな事が無いよう気をつきます。
内容についても、色々と問題があると思います。特に戦闘シーンを書くのが上手くいくかどうか…。まぁ、それは先の事ですから、どうか生温かい目で見てください。
それでは、次回の投稿がいつになるかは分かりませんが、また近いうちにお会い出来たらと思います。
最後に、このような作品を読んでいただきありがとうございました。
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