不屈ノ爪〜The Iron Clow〜   作:明るい脳筋

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長らくお待たせしました。
一か月以上も勝手に停止させていて申し訳ありません。
ある程度の所に来たので気晴らしに新作でも作ろうかとも考えたんですが、やっぱりこれを片付けてからにしようと思います。

さて、前回までは太平洋が舞台でしたが、今回は打って変わって大西洋のお話になります。
ようやくMさんとNさんの本名が出てきますよ。もっとも、皆さんはもう誰かお分かりと思いますが。
そして、Mさんの戦闘シーンもぶち込みます。ひどいことになりましたがね。
それでは、始めます。


第2部 Operation Double Blue
プロローグ 大西洋 渚にて


6月2日

 

少女は1人、渚にいた。

どこかは分からなかったが、エメラルドグリーンの美しい海の色と、純白に近いサラサラした砂、風で微かに揺れる椰子の葉を総合して考えるとここは常夏のリゾート地であると予想できた。

もっとも、人っ子ひとりいないが。

少女が初めに考えたのは、ここがどこか以前に、何故生きているのかという疑問だった。

祖国から遠く離れた温暖な海に沈んだはずだが…。

今、こうして生きている。

そもそも、生きているという実感がおかしい。

艦艇である自分が生きているなど、ナンセンスもいいところだ。

が、間違いなく自分という存在が生きていると確信を持って言えた。

心臓の脈動、血液の流れ、体から感じられる熱。

どれも、生きている証だ。

「問題は、なんで生きてるのか、だな」

少女は誰に言うでもなく呟いた。

彼女は1時間ほど前に目覚めていた。

彼女は起きてすぐに、自分が人になっていることに気付いた。驚きはしたが、むしろ好都合に感じ、この体に慣れるまでじっくりと時間をかけた。

彼女が1番最初に『見た』のは、信じられないほど澄んだ青空だった。次に、『体を起こす』という妙なプロセスを踏んだのち、彼女は白い砂浜と、透き通った海を見た。

もう少しよく見ようと、『立ち上がる』という新鮮な動作を経て少女は大地に『立った』。

そのまま、人間として見る景色に見とれて、現在に至っている。

とりあえず、目下の問題は何故人になったかということだが、分からないのでスルーする。

次に彼女が考えたのは、空母だった時のことがどれだけできるか、ということだった。

彼女の現在の装備は、右腕に装着しているアングルドデッキ付きの飛行甲板、つまり改装を終えた状態だ。

飛行甲板の裏の部分に、2丁の古めかしいマスケット銃が固定されているようで、簡単に取り外しができそうだ。

彼女はそれを左手に持った。驚くほど手に馴染む。

さらに飛行甲板を探ってみると、弾倉のようなものが見つかった。

弾には、『ホーネット』や、『イントルーダー』、『シーホーク』、『ホークアイ』など聞き覚えのある航空機の名前が刻印されている。

彼女は、『ホーネット』を装填し、発砲してみる。

放たれた銃弾は、数メートル飛ぶと炸裂し、幾つもの弾子に別れた。そこから更に、それぞれの弾子がF/A-18A ホーネットへと変化する。

なるほど、散弾の弾子が航空機になる仕組みか。

ホーネットは本物とほとんど変わらない力強いエンジン音を響かせながら、彼女の頭上を飛び回る。

指示を待っているようだ。

彼女は普段通りにCAP(戦闘空中哨戒)の指示を出した。

ホーネットたちは了解したらしく、軽くバンクを振ると2機ずつの編隊を組んでそれぞれの哨区へ飛び去った。

彼女はホーネットを見送ると、今度は『ホークアイ』を装填し、発砲する。

弾子はターボプロップの双発機E-2C ホークアイに変化する。ホーネットに比べると、その数は少なくわずかに4機だ。

彼女はホークアイに、CAPの管制と支援をするよう指示を出す。

ホークアイはそのまま飛び去っていった。

最後に、彼女は『シーホーク』を飛ばしてみることにした。こいつを飛ばせばASW(対潜水艦戦)面の防御が強化されるはずだ。

前回のミスから学ばねば。

少女は、弾をマスケットに装填しようとした。が、弾の大きさが合わないことにすぐに気付いた。

これはどういうことだ?

ふと、飛行甲板の裏に丁度いい大きさの穴が開いていることに気付いた。

試しに、『シーホーク』の刻印がなされた弾をそこに入れてみた。

弾は穴に吸い込まれた。どうやら正解だったようだ。

飛行甲板から機械的な音がしたと思うと、エレベーターが動き出した。上昇しているエレベーターの上には、小さなSH-60 シーホークがちょこんと載っていた。

上昇し終わると、シーホークはローターを回転させ始める。本物となんら変わりない爆音が耳に届いた。

シーホークは飛行甲板に出てから僅か5秒で飛び立った。信じられないスピードだ。

その間もエレベーターはフル稼働で動き、ひっきりなしにシーホークが出ては飛び立っていく。

誰が作業しているかしらないが、てんてこ舞いなのは確実だ。

最後のシーホークが飛び立つと、あたりは途端に静かになった。

浜に打ち寄せるさざ波の音と、近くに咲く椰子の木の葉が風に揺られる小さな音だけで、文明を示す音は何一つしない。

いい気分だ。

が、少しつまらない感じでもある。

本来、軍艦である彼女は戦ってこそ、その存在が意味あるものになる。つまり、最低限の敵が必要なのだ。

しかし、ここには敵はおろか文明すら感じられない。

ここは美しい。

だが、ここは彼女がいていいところではない。

少女はゆっくりと歩き出した。

敵を求めて。

 

少女が歩くこと数十分。

彼女と同じような艤装を背負った少女が、砂浜に座っていた。しっかりと波に濡れず、なおかつ椰子の木の日陰に入っている。

彼女は、とりあえず話しかけてみた。

「そんなところ座って何を見てんだ?」

少女は横目でチラリと見た後、視線を前に戻して答えた。

「美しい景色を見ていて悪いのかしら?」

「いえいえ、滅相もありません。それはそうと、あんた名前なんていうんだ?」

「名前を聞くのなら、まず名乗ってからがマナーですわよ」

「マナー?んなもんは考えたこともねぇな。まぁ、いいか。

俺は空母ミッドウェイだ。第3艦隊の旗艦をやってた」

「ミッドウェイ?あらあら、あの葉巻の大将の旗艦殿でしたの。私はニュージャージーですわ。

同じ第3所属よ。覚えてらっしゃるかしら?」

「ニュージャージーか。覚えてるぜ。ブラックドラゴンとかいうずいぶんと中二クセェあだ名の付いた艦だろ」

ニュージャージーは冷ややかな目でこちらを睨み、小さく、しかし聞いた相手に最大限の効果を発揮する声でで呟いた。

「その名前を今度使いましたら殺しますわよ」

ミッドウェイは聞こえなかった振りをして話を進めた。

「ここがどこか分かるか?」

「さぁ?南国の島か、赤道に近いビーチか。私が地理学者に見えますか?」

「いんや、見えねぇ」

「だった聞くんじゃねぇタコが、ですわ」

「全く。ずいぶんと辛辣な奴だな、あんたは。そんなんじゃお嬢様を気取れねぇぞ」

「気取ってなどいませんわ。もともとですもの」

「はいはい。…おや、まあ。どうやらここはカリブ海の様だ」

ミッドウェイはホークアイから送られて来た映像を見て言った。

ニュージャージーは片方の眉を軽く上げる。

「カリブ海?これは一体どういうことですの?」

「知るかよ。取り敢えず言えることは、沖縄沖からカリブ海まで遠路はるばる送られちまったってことだ」

「忌々しいですわね。どうせならロマ辺りにしてもらえれば良かったのに。戻るのが楽ですもの」

「俺としてはここでも構わないが…何だ?」

突然、救難用の国際VHFから声が聞こえた。

『ーー助けてくれ…。こちらアメリカ船籍のエカテリーナ。『深海棲艦』に襲われてる。数は15隻。いつまでもつか分からない。

誰でもいい!早く助けてくれ!』

「アメリカ船籍?今時珍しいですわね…。それに、『シンカイセイカン』?何者なのかしら?」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇ。ウチの国の船が襲われてるんだ。どこの国か知らねぇが、いい度胸だ」

「まさか、助けに行くつもりですの?」

「たりめぇだ。軍が守らなくて誰が他国軍から国民を守るんだ?」

「でも、この体では…」

「心配ねぇよ。この体でも、戦闘はできる。

ほら、モタモタしてねぇでさっさと行くぞ。敵は待ってくれねぇんだ」

「全く。呆れた人ですわ」

「悪いが、ヒトじゃないんでね」

ミッドウェイは軽く笑うと、ニュージャージーに背を向けて、海に入った。

彼女は、海面に立ちそのまま歩き始めた。

速度を速める。最初は、微速。次に、巡航。そして…。

最大速力で海を駆け始めた。

「ハァ。仕方ありませんわね。付き合って差し上げますわ」

ニュージャージーは溜息を吐きつつ、ミッドウェイと同様に海を進み始めた。

 

10分ほど行くと、硝煙の臭いが鼻をついてきた。そして、水平線上に砲煙によって出来たと思われる濃い靄が。

「近付いて来たな…」

ミッドウェイは呟く。彼女の頭の中にある戦況図には、友軍機を表すブリップの他に、救援対象のエカテリーナ、『シンカイセイカン』と呼ばれる正体不明の敵対勢力の位置を表す光点がE-2Cのレーダー画像と、安全な距離で待機しているSH-60からのカメラ映像がデータリンクの支援を得て表示されている。

ミッドウェイはニュージャージーに言った。

「ヘイ、お嬢様」

「何ですの?」

「これから俺が突撃する。支援砲撃を頼む」

「はい?今なんとおっしゃいましたの?突撃すると聞こえたように思えますが…」

「聞こえてるじゃねぇか」

「私のような戦艦なら分かりますが、空母のあなたがですか?装甲もペラッペラの紙のように真っ平らのあなたが?」

「…馬鹿にしてるか?」

「ええ、その通りですわ。あなたがおっしゃったことは、頭がおかしいとしか言いようがありませんもの」

「人間誰しも頭がおかしいものさ。別にいいだろ?」

「さっきヒトじゃないって言っておきながらよくもまあそんなことが…。いいですわ。勝手になさい。

…支援は、させて頂きますわ」

「俺に当てんじゃねぇぞ」

「当てませんわよ!さっさと行きやがれ、この薄ら馬鹿が、ですわ」

「へいへい、そうさせてもらいますよ」

ミッドウェイは適当に返答すると、緩めていた足を再び上げた。

 

これまで遠雷のようにしか聞こえなかった砲声が、近付くごとに大きくなっていく。

今回は対艦戦になるのでA-6は必要ないだろう。今、必要なものは…。

彼女自身の打撃能力。

ミッドウェイは何の迷いもなく、まるで最初から知っていたように呟いた。

「艤装、コンバート」

飛行甲板に装着されていたもう一丁のマスケットが勝手に外れ、彼女の右手の内に滑り込む。

と、同時に彼女の頭の中のディスプレーにゲームの選択肢のようなアイコンが現れた。

彼女がそれを見ると、砲撃管制システムが起動し、照準器の様なものがディスプレーの半分を占めた。

使用火器はMk.39 5インチ単装砲。懐かしの第二次大戦の遺物だ。

銃口がどう見ても5インチでないことは仕様なのだろう。

どちらにせよ、撃てればそれでいい。

航空機部隊が指示を要求してきた。すでに、敵を目視で捉えている。仇なす者を討ち取らせよという雰囲気が無線から伝わってきた。

ミッドウェイは嬉しそうに顔に笑みを浮かべた。俺の艦載機らしく、非常に好戦的だ。

彼女は命じた。

「殲滅せよ。こちらが敵に対し攻撃を始めたら、母艦を守りつつ支援・攻撃を行え」

彼女は一呼吸置いて言った。

「奴らを潰せ」

その顔には残虐な笑みが浮かんだままだった。

 

音速の世界は、素晴らしい。

いつもそう思う。

ヘルメットのバイザーとキャノピー越しではあるが、青い空はいつでも彼を包んでくれた。

あの時も。

彼、ジョー・《ホリデー》・ローマ大尉は、F-35Cのコックピットの中でぼんやりと考えた。

F-35に乗り始めてからすでに2年が経過していたが、この機体ほど素晴らしい航空機に彼は乗ったことがなかった。

元々は海兵隊のAV-8B+ ハリアーⅡに乗っていた彼だが、あの時、つまり『ライジング・ストーム』作戦以降の米海軍におけるパイロット不足を補うために海軍に異動して来たのだ。

あの時のことを、彼は時々思い出す。

強襲揚陸艦バターンの艦載機パイロットだった彼は、あの時も空を飛んでいた。突如としてレーダー上に現れた『深海棲艦』航空機部隊の阻止に上がったのだ。

バターンの右舷から数十メートルの高さの水柱が立ったのは、彼が飛び立ってからほんの数分後だった。

それを皮切りに、友軍艦艇への魚雷攻撃が始まり、全てが終わる頃にはほとんどの艦が損傷していた。

生き残った数少ない駆逐艦たちは、復讐に燃えていたが沈んだりもう長く持ちそうにない艦から脱出した乗員たちの救助に乗り出していた。

ローマは何も出来ない自分を恨みながらも乗員たちの上を飛び続けた。

海上の将兵たちを励まそうと考えたからだ。

が、いつまでも燃料が続く訳もなく、彼のハリアーⅡは燃料切れを起こしかけていた。

周りに広大な飛行甲板を持つ空母や強襲揚陸艦はいない。

かくなる上は。

ローマは機体を動かし、近くにいた友軍駆逐艦に着艦許可を求めた。

駆逐艦の艦長は驚き、渋ったがこちらの切迫した様子が伝わったのか、仕方がなさそうに許可した。

彼は機体をどうにか駆逐艦の後部飛行甲板に持って行き、ロールスロイス ペガサスエンジンの排気口の角度を変えて着艦体勢に入った。

言うまでもなく、ローマはこの機体での駆逐艦への着艦はおろか、他の航空機でも駆逐艦に降りたことがなかった。

それ故に、彼は駆逐艦の飛行甲板がひどく狭く感じられ、極度の緊張状態に陥った。

そして、その体の異常は操縦面にも反映された。

ほんの僅かだが、操縦桿を前にし過ぎたのだ。

ローマが戻す間も無く、ハリアーⅡは前方に突進し、航空機格納庫に機首を突っ込んだ。

完全にバランスを崩したハリアーⅡのコックピットが幾つもの警告を表示し、やかましい警告音を発した。

ローマがそれに対処する間も無く、ハリアーⅡは飛行甲板に無残にも叩きつけられた。

煙を上げるハリアーⅡをコックピットから見たローマは、イジェクトシートを引き、脱出する。

脱出し、空から見たその光景を、ローマは決して忘れないだろう。

飛行甲板に叩き付けらた愛機と、それに群がり、消火剤をかける友軍艦のダメコン班。

周りを見渡せば、黒煙を噴き上げ沈みつつあるスーパーキャリアーたちの最後の姿が。

そして、波間に漂う何人もの将兵たち。

彼はこの戦争が始まって以来初めて、この戦争に負けるのではないかと不安を感じたのだった。

 

レーダー上に突然現れたコンタクトが、ローマを夢想から呼び戻した。

彼は顔を引き締める。

そうだ。俺はもうあの時の何もできない俺とは違う。今は、後ろに何人もの部下が従う指揮官なのだ。

そんな指揮官が、過去の敗北に囚われていてどうする。

彼はコンタクトが何者か探り始めた。

妙な結果に彼は頭をひねった。

どういうことだ?

コンタクトの相手は、友軍のF/A-18。この辺りでこの艦載機を搭載している艦はいないはずだ。

彼の母艦であるジョン・F・ケネディの戦闘攻撃機は全てF-35Cに換装されている。

一体何者だ?

分かっていることは、彼らと同じ相手と交戦しようとしている、と言うことだ。

ローマが見守る中、正体不明の航空部隊は『深海棲艦』に対し攻撃を開始した。

そこで行われた行為を見ていた者がいるなら、それを虐殺とでも言うかもしれない。

少なくとも、互角の戦闘には見えないはずだ。

エカテリーナを襲っていた『深海棲艦』を最初に襲ったのは10基のハープーン対艦ミサイルだった。

『深海棲艦』たちは大急ぎで対空射撃を始めたが、間に合うまでもなく全弾が命中した。

タ級フラッグシップとヲ級フラッグシップは何とか耐え切ったが、タ級は砲撃速度と命中率が著しく低下し、ヲ級は艦載機を発艦できなくなった。

さらに悪いことに、周りにいた護衛艦隊を構成するツ級エリート2隻が撃沈され、さらには駆逐艦数隻が沈み防衛網に大きな穴が開いてしまった。

上空を飛ぶホーネットたちはその薄くなった部分を、まさに蜂のごとく激しく攻撃する。

あまりの激しさに、『深海棲艦』たちは空を飛び回る32機のホーネットにかかりきりになってしまった。

そのために彼女らは、高速で接近する脅威に全く気付けなかったのだ。

突如としてホーネットは散開した。

『深海棲艦』たちは、呆然とそのホーネットたちを見つめていたが、背中に強烈な殺気を感じて振り返った。

そこには、ホーネットたちを引き連れた1人の艦娘が狂気に満ちた笑顔を浮かべながら立っていた。

 

ミッドウェイは敵に気付かれたと判断した途端に、Mk-39を模したマスケットを目の前にいる3連装砲を持った妙な敵(レーダー上では戦艦クラス)に向けて発砲した。

5インチ砲弾はそれの顔面に直撃し、大量の血飛沫を撒き散らかす。

彼女はそれを見届けることもせずに、次の獲物である小さなどことなく可愛らしい足の生えた敵(同じく駆逐艦クラス)の敵に何の迷いもなくぶっ放す。

目標が小さいだけに、その駆逐艦は体の真ん中辺りで真っ二つに切断された。

この時点で、敵も反撃を開始する。

駆逐艦クラスと軽巡クラス、そして重巡クラスの敵が砲撃と雷撃を始める。

ミッドウェイはその攻撃を、この姿になったことで可能になった空母とは思えない機動力で回避していく。

目の前を叩きつける敵弾の水柱の多さを見ると、まるで海戦と言うより歩兵による陸戦のように感じる。

ミッドウェイは実に満足していた。

砲撃時の反動、そこから放たれた砲弾が敵を引き裂く音、それを喰らった敵の断末魔の悲鳴。

どれもこれも彼女をゾクゾクとさせ、彼女の内に潜む何かを刺激する。

もちろん、敵もやられてばかりではない。

もはや発着艦はできないものの、敵空母の艦載機はまだ空を飛び回り、重巡の砲撃は装甲の薄い空母にとって未だに脅威だ。

そして、小さいながらも噛み付かれれば大きな傷を負わせてくる軽巡や駆逐艦。

どれも彼女の生存に大きな脅威となる。

だからこそ、徹底的に握り潰す必要がある。

ミッドウェイは自身の心の中に湧き上がる黒い感情を正当化した。

この戦闘は、必要な行為だ。

 

『深海棲艦』にしてみれば、それは恐怖でしかなかった。

目の前にいる艦娘はこれまで聞いた艦娘と武装面大きく違っていたし、戦闘に関する考え方に至っては、目の前の艦娘は異常、あるいはもはや病気の域に達している。

 

戦闘?

 

リ級は恐怖を感じながらそいつを見る。

すぐ横にいた駆逐艦が敵弾を受けて、内臓を撒き散らしながら弾け飛んだ。

 

いや、違う。

 

周りを見れば、今にも発狂してしまいそうな現場になっている。

 

これは…。

 

海の碧は、味方たちの血の青に変わっている。

すぐ横にそいつの気配がした。

冷や汗が全身から噴き出す。

 

ただのGenocide…虐殺、だ。

耳元で強烈な音がしたのち、リ級の意識は完全になくなった。

海面には、リ級だった頭部の残骸が撒き散らされた。

 

ミッドウェイは粉々になった重巡の頭に一瞥をくれたのち、辺りを見渡した。

そこには、彼女が喰い散らかした戦場、あるいは死神が殺戮を終えた後のような惨状があった。

生き残っているのは、彼女と狩り損ねた戦艦が一隻だけだ。

その戦艦は、最初に彼女が砲弾を叩き込んだ相手で、海面を必死に這って逃げようとしていた。

ミッドウェイはそれにトドメを刺そうとマスケットの銃口を向ける。

と、彼女の無線にノイズ混じりの声が聞こえた。

『こちら第4艦隊旗艦空母ジョン・F・ケネディ所属機ジョー・ローマ大尉だ。

友軍艦艇、応答しろ』

ミッドウェイは舌打ちしたのちに返答する。

「こちら元第3艦隊旗艦空母ミッドウェイだ。こっちは今忙しいんで後にしてくれませんかね?」

ローマと言うパイロットは無線の向こうで驚きの声を上げ、よく分からないことを言ってきた。

『と、言うことは、もしかしてFleet girlか?』

「Fleet girlが何かしらねぇが、多分そうじゃねぇかな」

『他に誰かいるか?1人か?複数人いるのか?』

「俺ともう1人いる。戦艦ニュージャージーとか言うお嬢様気取りがいる」

『分かった。今、そっちに向かっている。救援は必要か?」』

「不要だ。あんたが来ても、もう獲物は残ってねぇぞ」

『不要?ありえん。あんたが相手にしてるのは、この辺りで1番規模のデカイ『深海棲艦』のカリブ方面艦隊の本隊だ。

まさか、あんたら2人だけで殲滅できる訳が…』

「来たら分かるだろうよ。んじゃ、そろそろ切らせてもらうぜ」

『待て、戦闘終了後もそこに待機していてくれ。迎えを寄越す』

「へいへい、分かりましたよ。そんじゃ」

ミッドウェイは無線を切る前にマスケットを発砲した。

戦艦の頭は景気よく吹っ飛び、海面に肉片を撒き散らかした。

 

ローマは無線が切れる直前に、まるでこちらに聞かせるかのような発砲音を聞いた。

その音を聞いても、彼は『深海棲艦』の全滅を信じなかった。

敵カリブ方面艦隊の本隊は、戦艦と空母、それもフラッグシップクラスを中心とした強力かつ大規模な部隊であると、これまでの情報から判明している。

それをまさかたった2人の艦娘で殲滅するなど、不可能でないにしろ極めて困難なはずだ。

ふと、エカテリーナからの救難信号が途切れているのに気付いた。

沈んだのかとレーダー画面を見るが、その姿はくっきりとレーダーに映っている。

まさか…。

本当に殲滅したのか?

数分後、ローマの機体が戦場に到達した。

驚いたことに、レーダー上には2つの反応があるだけの戦場が広がっていた。

ローマは危険は覚悟で僚機たちを待機させて単機で降下し、戦場を目視で確認する。

その海上だけ、妙な青色をしている。

さらに降下すると、灰色の海上目標がいくつもあることに気付いた。

それが何であるかは、見た途端に分かった。

『深海棲艦』の残骸だ。それも、凄まじい数だが、数える必要もなかった。

彼は母艦に連絡を入れた。

「アルバトロス1よりJFKへ」

『こちらJFK。アルバトロス1、どうした?』

「敵カリブ方面艦隊本隊の全滅を確認した。こっちに1機輸送機を送ってくれ。艦娘が2人いる」

『待て、アルバトロス。カリブ方面艦隊がなんだって?』

「敵本隊は艦娘の手により全滅した、と言ったんだ。すぐに輸送機を送ってくれ。あの2人をなんとしても『保護』しなければ…」

『了解した。輸送機のETAは1時間後だ。それまでもつか?』

「もたせてみせるさ」

『分かった。JFK、交信終わり』

無線が切れた。

ローマは小さく息を吐くと、下にいる2人の艦娘に連絡を入れた。少しの間、待ってもらわなければならない。

1時間後、到着したCV-22 オスプレイが、アメリカ艦娘ミッドウェイと、ニュージャージーを『保護』。

F-35Cの護衛を伴いながら、再び1時間の道のりを戻り、第4艦隊と合流を果たした。

空母ジョン・F・ケネディからの着艦許可はすぐに下り、オスプレイはゆっくりと飛行甲板に脚をつけた。

こうして米軍初の艦娘は、無事にJFKに到着したのだった。




これを書き終わってから一番最初に思ったことは、やらかした、です。
ミッドウェイさんが完全に快楽殺人者になってしまった…。一体どうしてでしょう。最初はただの戦闘狂のお姉さん(笑)だったのに。
ニュージャージーも忘れてはいけませんね。そろそろ本家の方に出そうですが…。キャラが違ったらどうしましょう。
まぁ、その時に考えればいいことでしょう。
さて、次も大西洋サイドです。
主人公やKさんの登場はいつになる事やら。
次回も多少期待していただければ幸いです。
最後にこのような作品を読んでいただきありがとうございました。
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