不屈ノ爪〜The Iron Clow〜   作:明るい脳筋

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皆様、お久しぶりです。
今月はどうにか間に合いました。
今回も、前回に引き続き大西洋サイドです。
以降は、太平洋のヴェラたち日米海軍と大西洋のミッドウェイたちの戦闘を交互に投稿していく予定です。
と、言うより最近は大西洋側のネタばかり思いつくので、主人公の存在感が空気になりそうですね…。
もちろん、書きますよ。ほんの少し出番が少なくなるだけで。
長くなりました。
それでは、始めます。


第1話 Next Navy

空母ジョン・F・ケネディに降り立ったミッドウェイとニュージャージーはCV-22 オスプレイから発されるダウンウォッシュに追い立てられるように広大な飛行甲板からアイランド式の艦橋へ向かった。

ハッチの近くで男が1人待っていて、2人が近付くと敬礼をした。

2人も見よう見まねで答礼を返す。

通過儀礼のようなこの行為が終わると、男は要件を伝え出した。

「第4艦隊へようこそ。私は本艦の副長を務めているウィルソン・ゴールド中佐だ。

早速で申し訳ないが、本艦隊の司令官がぜひ会いたいと君たちに言っている。

来てくれるとありがたいのだが…いいかな?」

「構いませんわ。ねぇ、ミッドウェイ?」

「ああ、好きにしてくれていいぜ。こっちも聞きたいことがあるしな」

「ありがとう。では、付いて来てくれ」

そう言うと、ゴールド中佐は艦橋のハッチをくぐって中に入って行った。2人もそれに続いて、ハッチをくぐる。

艦橋内は、飛行甲板に比べると比較にならないほど狭苦しかった。ゴールドはその狭い艦内を通るこれまた狭く細い通路をずんずんと進んで行く。

2人も後を追うが、経験の差か進むスピードが非常に遅い。

ゴールドがふと気付いたように後ろを振り向いた。

その時にはすでに2人の姿は何人もの海軍将兵たちの中に紛れ込んでいた。

数分後になんとか脱出してきた2人を、ゴールドは隔壁にもたれて待っていた。

2人が近付いて来るのを確認すると、ゴールドは今度はゆっくりと歩き始める。

2人が追い付くと、ゴールドは話しを始めた。

「君たちが敵を叩いてくれたおかげで、私たちは早く帰れるようになった。第4艦隊はすでに、ノーフォークに向けて進路を取っている。

現在の速度で帰還は4日後になる予定だ」

どちらも何も答えないので、ゴールドは次の話題に入った。

「君たちが助けた輸送船エカテリーナだが…」

2人に微かな反応があった。ゴールドは話を続ける。

「無事に我が勢力圏に入った。パナマに展開している第4艦隊の分遣部隊が護衛に着いて、あと2日ほどで運河に入るらしい。

あの船の船長を含めた船員たちから感謝の言葉が君たちにいくつも来ている。

大手柄だな」

ミッドウェイが口を開いた。

「感謝されるようなことはしてねぇよ。自国民を守るのは当然の義務だ」

「それで結構だ。しかし、政治的にはそうもいかないようでな」

「政治的に?」

「そうだ。詳しいことは、デビアス司令が教えてくれる…ここだ」

ゴールドは1つの扉の前で止まった。

綺麗な装飾が施された扉の案内板には作戦室と書かれている。

ゴールドはその扉をノックすると、答えも聞かずに扉を開けた。どうやら、最初から決めていた動作らしい。

2人も後に続いて中に入ると、2人の先客がいた。

2人ともワーキングカーキの常装だが、それぞれの襟についている襟章には大佐と少将を表すものが付いている。

大佐の襟章の男は東洋人のようで海図が置かれた机のドアから見て左側におり、少将は同じく机とドアの真正面に陣取っている。

おそらく、今目の前にいる男がデビアス司令だろう。

デビアスはミッドウェイたちを見てとると、笑顔を浮かべて言った。

「よく来てくれたな。私は本艦隊の指揮官、ケリー・T・デビアスだ。そして、こちらの男は…」

「アレン・G・ナガブチ大佐。この艦の艦長を務めている」

東洋人ーー名前から日系人のようだーーは、静かにそれだけを口にした。

ミッドウェイは自己紹介に答える。

「はじめまして、ミリオンダラー・マン司令官殿。それにキャプテン。知ってると思うが、俺は空母ミッドウェイだ。元第3艦隊旗艦。

悪いが口調を直す気はない。少なくとも、そっちを指揮官相当と認識するまではな」

これだけ砕けた調子で言ったのだ。ミッドウェイは多少の叱責を予想したが、結果は彼女の予想と違ったものだった。

デビアスは嫌そうな顔を全く見せず、むしろ笑顔をより大きくしていた。

デビアスは表情を変えずに答えた。

「影でよく言われているよ。本当に偶然とは実に恐ろしいものだ。私自身は全く金満家ではないのだがね。

さて、そちらの上品なお嬢さんは?」

「アイオワ級2番艦ニュージャージーですわ。同じく第3艦隊の所属でしたの」

「ニュージャージー…私の祖父が乗っていた艦だ。感慨深いものだな。私の祖父のことは知っているかな?」

ニュージャージーは少し考えるように首を傾げ、やがて顔をパッと明るくして言った。

「ええ、覚えていますわ。当時はデビアス坊やとよく呼ばれていましたのよ。懐かしいですわね。

あの坊やは時々、乗員たちの食事を摘み食いしていましたわね」

「素晴らしい。祖父も昔話でよくしてくれていたよ。もちろん、摘み食いの話もね」

まだ話が盛り上がりそうなので、ミッドウェイが会話に割り込んだ。

「あー。昔話で盛り上がってるところ恐縮なんだが、本題に入ってもらえねぇかね」

「…ああ、すまない。まず、どこから入ろうか…そうだ、君たちが何者であるか説明しよう…」

デビアスはゆっくりと話し始めた。

この世界が、どのように歪んでいるかを。

 

全ての話が終わる頃には、すでに夜になっていた。

長い時間をかけた甲斐があってか、ミッドウェイとニュージャージーは、自分たちが艦娘ーーFleet girlsと呼ばれる少女たちの一員であることが分かり、数時間前に交戦した奇妙な敵が『深海棲艦』と言う正体不明の敵性勢力であることも知った。

また、この世界が彼女たちのいた世界とは全く別の物であることも理解した。

そして、栄えあるアメリカ合衆国海軍が過去の栄光に過ぎず、世界の海の守護者を日本国海上自衛隊の後継組織と言える国防海軍とやらが、その任を担っていることも。

別に日本が嫌いというわけではない(沈められたとはいえ、戦闘艦である以上撃沈される可能性は高くて当然だ)が、やはり疑問を持ってしまう。

世界唯一の超大国アメリカにできなかったことが、世界第3位の経済力を持っているとはいえ極東の小さな島国に務まるのか、と。

この疑問の答えは、辛うじてイエスであることは、デビアスの説明で把握しているが、長期的に可能かというとやはりノーであると言えるだろう。

彼女たちがこの世界に来る11日前に人類は勝利を得たものの、未だ困難な状態にあることは変わりなかった。

パックスアメリカーナに比べると非力な、軍事力による新たなパックスジャポニカを存続させるには、矢継ぎ早に作戦を実施し、勝利を得続けるしかない。

彼女たちは、そのために戦うことが命令されるだろうと半ば予想していた。

が、そうはならなかった。

 

「残念だが、君らはまだ我が軍に入れんのだ」

「は?あんたらは、俺らが雇えねぇってことか?俺ら戦闘艦の仕事は敵を潰すことだ。それなのに戦わせないとは、軍も頭がおかしくなったのか?」

ミッドウェイは、デビアスに詰め寄った。デビアスは困ったような顔をして返答する。

「『横須賀条約』の条文に載っているのだ。『艦娘に戦闘に参加するよう『命令』してはならず、もし艦娘自身が戦闘を望んだとしても、明確な意思を確認するために最低1日の猶予期間を設けなければならない』とな」

「どこのバカだ?そんなアホらしい条約を考えたのは」

「最初にこの条約を作るよう促したのはFIDH(国連人権連盟)だ。それから一気に世界中の団体やマスコミを通して、国民や政府に普及していき、最終的には日本を中心とした数カ国によって締結された。

我が国がこの条約に加盟したのは、ほんの数日前のことだよ」

「ハッ、国連が考えそうなことだ」

「が、重要な条約だ。艦娘を運用するにはこの条約に加盟してからでなければならないという暗黙の了解ができているほどな」

「ふーん、面倒クセェことしやがるんだな人間は。…そういや、ウチが加盟したのは最近だっていったな」

「そうだが」

「なるほどねぇ。つまり、俺らがいなくても艦娘の運用を始めようとしてたわけだ」

「その通りだ。1週間ほど前の日本の首相と大統領との電話会談で突然決まったらしい。大西洋も取り返す必要があるとな」

「この話からすると艦娘は…」

「そうだ。日本側で手の空いている艦娘を10人ほど送って来るとのことだ。まあ、ちょっとした人材派遣だな」

「なるほど、艦娘が政治と切っても切り離せないわけだな。んで、日本側への見返りは?」

「いくつかの新兵器の技術提供と、安保理の新常任理事国入りの後押しだそうだ」

ニュージャージーが眉を細める。明らかに不満なようだ。

「彼らを入れるのは正しい考えではありませんわ。まだ、前大戦から70年しかたっていませんもの。もう少し後でも…」

「ニュージャージー、我々は政治に口出しするために存在するのではない。政府が決めたことを確実にこなすことが使命なのだ。それを忘れて貰っては困る」

ニュージャージーは何も答えなかったが、十分に理解した様子だった。

デビアスはさらに続ける。

「そして、現在の状況では日本無くして世界の安全保障など成し得ないのだ。…残念ながらな」

デビアスは、言い終わると時計に目をやった。時間は8時を示している。

「長くなったな。2人とも疲れただろう。今日はもう休むといい…大佐」

「はい」

「2人を食堂にでも案内してやってくれ。艦娘になって初めての食事だ、いいものを食わせてやるといい」

「分かりました」

ナガブチは2人付いて来るよう促して部屋を出る。ミッドウェイとニュージャージーはナガブチに続いて出て行った。

1人残ったデビアスは、少女たちの評価を頭の中で考え、新部隊の指揮官に推薦するつもりでいる男との相性を考えた。

そして、結論を下した。

新艦隊ーー第9艦隊の指揮官は、ナガブチしかいない。

 

部屋を出た3人は、狭苦しい鋼鉄の艦内を苦労しながら歩いた。途中、乗員たちの敬礼に応えるために何度も答礼を返した。

ひと一人通るのがやっとの通路を歩きながら、ミッドウェイはぶつくさと愚痴った。

「クソッタレめ…。何だって艦の中はやたらと狭いんだ?もっと広くすりゃあいいんだ。そうしたらスッキリするのに…」

ナガブチが軽く後ろを見てから言った。

「そう出来ない理由は、君も知っているだろう?

それに、この戦闘艦ほど合理的に作られたものはないだろう。常に完璧な行動を要求される戦闘艦にとって、不必要な物はあるだけで害になる」

「分かってるよ、キャプテン。その辺のことは、俺ら艦娘の方がよ〜く理解している」

「ふむ、要らぬ世話というわけか。しかし、私個人としてはもう少し広くてもいいと思うのだがね」

「やっぱりそうか、俺もずっと前からそう思ってたんだよ。そうだ、勝手に改造して広くしちまえばいい」

「確かにな。次にドック入りした時に頼んでみるか…」

ニュージャージーが慌てて止める。

「そんなことできるわけないでしょう!もし、そんなことをすれば納税者たちにタコ殴りにされますわ!

ナガブチ艦長、あなたも乗らないでくださる?」

「これは失敬。冗談が過ぎたな」

「俺は別にいいと思うんだけどな…」

ミッドウェイが小さく呟くと、頭に何か尖ったものが押し付けらた。彼女が振り返ると、顔を青ざめさせた。

どこから取り出したのか、RGM-84 ハープーンを握り締めて(余りの強く握り締められているのか、ハープーンは今にもへし折れそうだった)物凄い形相で睨みつけているのが目に入ったからだ。

ニュージャージーは捻じ曲げた口から言葉を漏らした。

「それ以上喋るな、まな板」

その余りのドスの効き具合に、さしものミッドウェイも素直に従った。ついでに謝罪もした。

「…はい、すみませんでした」

この一言で、ニュージャージーは一瞬で態度と表情を軟化させ、ハープーンをどこかにしまうと言った。

「分かればよろしくてよ」

ミッドウェイはこの間、何も言わなかったナガブチを睨んでいった。

「あからさまな脅しを受けてる可憐な少女を放置するとは、あんたは悪魔か?」

ナガブチは鼻を鳴らして笑うと、返答した。

「さっきのはお前が悪いだろう、ミッドウェイ?それに…」

「それに?」

「可憐な少女とは一体誰のことだ?私には、口の悪い空母とお嬢様を装っている戦艦しか見えないのだが」

ナガブチのニンマリとした笑みに舌打ちをしながら、ミッドウェイは押し黙った。

ニュージャージーも不満そうだが、何も答えなかった。

ナガブチはそれを見て満足すると、先ほどと同じようなペースでゆっくりと艦内を歩き始めた。

 

それから数分後、ミッドウェイたちは下士官たちが集まる食堂に辿り着いた。

ミッドウェイは再び愚痴る。

「なんだよ、士官食堂で食えると思ったのに」

「今日は乗員たちと飯を食う予定だったのでな、敢えてこちらを選ばせてもらった。

それに、お前たちもこの空気に多少なりとも慣れていた方がいいだろうからな」

「ということは、これからしばらくはここで食べろとおっしゃるのかしら?」

「その通りだ。新艦隊に編入されても同じような感じになるだろうな」

ニュージャージーはあからさまに嫌そうな顔をした。その顔は、こんな汗臭いおっさんたちと飯が食えるか、と言っているように見える。

ナガブチは冷たく言い放った。

「そんな顔しても無駄だ。我が艦隊にいる以上、規律はしっかりと守ってもらう」

ニュージャージーは同意したらしく、小さく頷いた。

3人が食堂の奥に行くにつれ、食堂内が徐々にざわめき出した。小さな囁き声がミッドウェイの耳に届いた。

「あれがFleet girlか?人間とまるで大差ないな」

「あれで『深海棲艦』共を潰せるのか?信じらんねぇな」

などなど。

その中でも、やはりむさ苦しい艦隊勤務故の性か…

「なんだよ、結構可愛いじゃねぇか」

「よせよバカ、あの娘らに手を出したらとんでもないことになるぞ」

「分かってるよ。別に愛でるぐらいイイじゃねぇか。減るもんじゃないし」

「それだから、テメーは彼女ができねぇんだよ」

「バカ!言うなよ恥ずかしい…」

などと、たわいもない会話をしている。

ナガブチにも、この会話が聞こえているらしく微かに顔を歪ませた。

上官たちの機嫌に敏感な水兵たちは、この表情の変化を瞬間的に見てとり、押し黙った。

ナガブチが言った。

「申し訳ないな。何せ陸を離れてからだいぶ時間が経っている。欲求不満が溜まっているのだろうが…」

ミッドウェイはヘラヘラと笑いながら答えた。

「いいってことよ。連中の言う通り、減るもんじゃねぇしな」

そう言うと、ミッドウェイは食堂全体に響く声で言った。

「おい、水兵ども!俺に手を出しても構わねぇ!が、それで骨の一本や二本、あるいは目玉の一つや二つなくなってもいいならな!」

一瞬の沈黙。その後に、水兵たちから歓声が上がった。

もちろん、この歓声はお触りOKの許可が出たからではなく、未知の存在と言えた艦娘から出たちょっとしたジョークに親近感を抱いたからだ。

ミッドウェイはドヤ顔を決めると、ナガブチの方を向いて言った。

「これが、人心把握術ってヤツだ」

ナガブチは呆れた顔をした。

「それは人心把握術などではない。ただの向こう見ずなバカだ」

「バカで結構。それに、結果的に上手く行ったんだからいいじゃねぇか」

「確かにな。だが、そんなやり方では越えられん壁もあるんだぞ」

「どうとでもなる。心の持ちようでな」

やたらと馬鹿でかいテーブルを前に、座り心地がかなり悪い背もたれのない椅子に座って待っていると、ナガブチが数人の男たちを連れて戻って来た。

男たちの手には、異様な大きさのハンバーガーとむやみやたらに多いベトベト油のフレンチフライ、そしてゲンナリさせられそうなほどタップリのコーラがトレーに乗せられている。

ナガブチは笑顔を浮かべて言った。

「我が艦オリジナルレシピのハンバーガーだ。少々、胸焼けするがなかなかの物だぞ。たらふく食べるといい」

ニュージャージーは死んだ目をしながら言った。

「いえ、見るだけでお腹いっぱいですわ」

「そう言うな、育ち盛りだろう?」

「これでも年齢と言うより艦齢?は、あなたより上ですわ!」

「はいはい、取り敢えず食べてみろ」

ニュージャージーは助けを求めるように、ミッドウェイを見た。ミッドウェイは首を左右に振って諦めるように促した。

ニュージャージーはうなだれたが、やがて小さな口でハンバーガーに噛み付いた。

ゆっくりと咀嚼し、飲み込む。そして、テーブルを拳で叩くと声を絞り出した。

「こんなジャンクが美味しいと感じるなんて…!悔しいですわ…」

そう言い終わる前に、ニュージャージーは目の前にあるジャンクに再びかぶりついた。もはや、お嬢様のお上品さはかなぐり捨てられている。

ミッドウェイはその光景を目の当たりにし、目の前にあるヘヴィーなカロリーの塊にちょっとした興味が湧いた。

ミッドウェイは、そのハンバーガーを掴み大口を開けて食べた。

予想通りの脂っこいパティと申し訳程度の玉ねぎ、その辺のスーパーで売っている大量生産された安物と大して変わらないバンズが口の中に入って来た。

そして、それらが何故か見事に味の調和を醸し出していた。なるほど、ニュージャージーが唸る理由がよく分かった。ついでに、腹立たしい理由も。

とにかく安物の食材を使っているにもかかわらず、それが一体どんな調理をしたかは知らないが、全てが互い短所を補い長所を生かし合い、それどころか高めているように感じられ、非常に美味い。

ミッドウェイは言った。

「ちくしょう、なかなかの物を作るじゃねぇか。気に入ったぜ」

周りの水兵たちは、まるで自分が褒められたかのように誇らしげな表情をしている。

1番前のグループの水兵がデカい声で言った。

「たりめぇだ!何せこの艦の飯は我が海軍一だからな!」

「こんなジャンクフードが1番では、海軍はもう終わりだな」

ミッドウェイの言葉に、その水兵が答えた。

「否定できねぇな!」

バカ笑いが食堂ないで沸き起こった。

艦娘たちは、すっかり汗臭い男たちと馴染んでいた。

 

6月3日

 

ミッドウェイは胃のむかつきを覚えて目を覚ました。

チクショウめ、あんなジャンクを遅くに食ったせいだ。

彼女は腹と口を押さえながら起き上がり、割と上質なベッドの横にあるサイドテーブルの上の時計を見た。

時刻は午前5時25分。まだ、日も出ていない深夜だ。

が、彼女は与えられた部屋(空いていた将官用の部屋だ)を出て、薄暗い艦内をゆっくりと歩き出した。

途中、数人の水兵に道を尋ねたり昨日の夜に話した相手と談笑したりしていたので、目的地である飛行甲板に出る頃には、日の出になっていた。

彼女は甲板の端の方に歩いて行き、作業の邪魔にならない所を見つけるとそこで艤装の収納スペースで保管されていた小さなヒュミドールを取り出し、葉巻を一本手に持った。

彼女はそれを吸おうとするが、ふと、シガーカッターを持っていないことを思い出し、仕方なく噛みちぎった。

よく考えると、この行為はランシング少将がよくやっていたことと全く同じだ。

彼女は苦笑した。あの男の性格を引き継いでいるとは…運がない。

そんなことを考えつつ、彼女はシガーマッチで葉巻に火を点け始めた。初めてのはずだが、体が覚えているような感覚で、葉巻をゆっくりと回しながら火で炙った。

火が点いたことを確認すると、彼女をそれを吸い始めた。

口の中でゆっくりと燻らせ、その味を楽しむ。もちろん、噛みちぎっていたし、なおかつ保存方法もさほど良くないため、この葉巻の本当の味を楽しめてはいないが、彼女には今のままでも十分だった。

なるほど、ランシングがハマるのも頷ける。

ふと、背中に視線を感じて、後ろを軽く振り返った。そこには、ナガブチ大佐がいた。

ナガブチはゆっくりと歩いてきて、彼女の隣で立ち止まり話しかけてきた。

「どこの銘柄だ?」

「さぁね、こいつは初期装備のようでな。まぁ、俺にとっては銘柄なんかはどうでもいい。吸えりゃあな」

「そうか」

「…何しに来た?世間話をするために来たわけじゃねぇだろ?」

「なんでもお見通しということか。まぁ、その方がこちらが楽でいいか」

「勿体ぶってねぇでさっさと話せよ」

「ふむ、上官にはもう少し敬意を払って欲しいものだな、ミッドウェイ」

「アン?」

「先ほど、上から命令が来た。私に新艦隊の指揮官になれとのことだった。新艦隊とはもちろん…」

「艦娘部隊か」

「正確には艦娘部隊を加えた部隊だ。現在、東海岸側のドックがフル稼働で艦娘を運用するための施設艦と指揮艦に改造しているとのことだ」

「つまり、海上を移動する基地を作ろうって魂胆か」

「その通りだ。現在のプランでは揚陸指揮艦を改造した指令艦と、強襲揚陸艦を改造した艦娘の出撃、補給、整備、工廠施設艦、 護衛のイージス巡洋艦と駆逐艦で構成された機動部隊になるらしい」

「なるほど。指揮官はその全てに責任を持つ。トンデモない仕事を任されたな、ナガブチ大佐?」

「なに、いずれなりたいと思っていた役職だ。それに、よく分からない少女たちの部隊が一つ加わるだけの話だ」

「だけ、ねぇ。それで、艦隊名は?」

「第9艦隊だそうだ」

「欠番艦隊…か。なかなかいい名前だ、気に入ったぜ。で、いつその部隊の準備が整うんだ?」

「まだ少し時間がかかるらしい。早くても、3週間後で遅くなれば一ヶ月後になるだろう」

「ふーん。楽しみだな、一ヶ月後が」

彼女は葉巻を指先で弾いた。と、同時に艤装を展開し、マスケットを左手に持つと、宙を舞う葉巻に向けて発砲した。

銃弾は正確に葉巻を撃ち抜き、バラバラの破片になり強風に吹き飛ばされた。

彼女は満足気にその光景を見ると、登り始めた太陽を背に艦橋に戻り始めた。

背を向けて去っていくミッドウェイを見ながら、ナガブチはぼんやりと考えごとをした。

あんな人間離れした少女たちを、これからたった一人でまとめなければならないのだ。

ミッドウェイの言う通り、とんでもない仕事ではあるが…。

「やるしかあるまい」

ナガブチはすっかり水平線から離れた太陽に顔向けた。

再び訪れた朝を、彼は決意の目で見守っていた。




お疲れ様でした。
食べ物の描写って難しいですね。それに、喫煙の描写も。
葉巻に関しては、できる限りの下調べをしましたがおそらく全く足りていないでしょう。それでも書いてみたかった私の我儘をどうか許してください。

さて、次はアンチ・ホープさんを出す予定です。まさかの『深海』サイド。
勝手なイメージで作り上げた私の『深海』勢力に期待しないでください。過度な期待はもちろん、ちょっとの期待も裏切ってしまいそうな内容なので。
最後にこのような作品を読んでいただき、ありがとうございました。
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