不屈ノ爪〜The Iron Clow〜   作:明るい脳筋

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明けましておめでとうございます。と言ってももう新年でもなんでもないですね、はい。
皆様大変長らくお待たせしました。
気付けば新年はかなり前に明け、1月ももう終わりです。
これほど遅れたことに、弁解のしようもありません。
本当にごめんなさい。

今回はベイツ兄弟の乗艦シーウルフ級の片割れが出てきます。今回は戦闘シーンはなしですので、内容は薄めです。
次頑張るから、その時までちょっと待っていてくださいね。


第3話 深海の王

7月4日

 

冷たい海は嫌いだ。

少女はいつも考えていた。

私は温暖な海の方が好きに違いない。

違いないとは、どういうことか。

何故なら、彼女にとって暖かい海は架空のものでしかないから。

彼女は、生まれてから北の氷海で監視をし続けていた。

ドックと北極海を往復するだけの生活。

それが、彼女の全てだった。

そんなつまらない、しかし、彼女という存在にとってかけがえのない生活が突然崩壊した。

『やまと』。

それが、彼女から全てを奪った敵だ。

あの訳の分からない潜水艦は、彼女のささやかな幸せを奪っていった。

忘れたいが、決して忘れらないだろう記憶。

彼女はゆっくりとその記憶を反芻し始めた。

 

シーウルフ級2番艦キングは、姉のアレキサンダーと共にお偉いさんが勝手に決めた『オペレーションA(オーロラ)』なる作戦のために、北極海に派遣されていた。

目的は、『やまと』ことシーバットを強制浮上、それが不可能なら2隻で撃沈することだった。

彼女は、心の奥底で『やまと』を舐めてかかっていた。

第7艦隊を翻弄したり、レッドスコーピオンを損傷させたり、第3艦隊にかなりの損害を与えたり、東京湾のサイレント・サーヴィスの包囲網を突破したりしていたが、所詮は旧式艦相手。

私たちシーウルフと、それを操るベイツ兄弟に勝てるわけがない。

案の定、最初は余裕だった。

『やまと』は、こちらの手の中で踊り、こちらの策にまるで気付けなかった。

やはり、間抜けだ。所詮、合衆国、いや世界最強の原潜2隻の前ではモビーディックなど取るに足らない存在に過ぎない。

しかし、ツインズ・ホーンを抜けてから突然、彼女は不安に苛まれ始めた。

何故かは分からない。ただ、艦である彼女に有るはずのない第六感とでもいうものが不安にさせていた。

不安というものは、よく当たる。杞憂で終わることは滅多にない。

今回も、それが適応された。

彼女は、『やまと』が放ったまるで彼女のキャビテーション・ノイズに付いてきているかのように見える信じがたいほどのプログラミングが施されたMk-48魚雷を喰らってしまった。

彼女の艦体に大量の海水が流入し、そのまま沈んでいく。

艦内の乗員は氷点下の海水に曝され、おそらく即死だっただろう。

しかし、彼女の死はそう簡単に訪れない。

彼女の体はHY-110高張力綱で出来ていたが、その体が耐えれる深度は610メートルだ。

当然ながら海はそれより深い。彼女たちが戦っていた北極海の平均深度は、1330メートル。

圧壊危険深度を遥かに超える。

彼女は最初、その圧倒的水圧に耐えた。

この程度の力で、私が破壊されてたまるか。

しかし、やがてその強力な水圧に耐えらなくなってきた。体が締め付けられ、少しずつ、その体が捻じ曲がり始める。

やがて、彼女の体の何かが切れた。

これまで経験したどのような苦痛よりも激しい痛みが体を突き抜け、彼女の意識は完全に消えた。

 

消えたはずの意識は、体がなくなった今もどこかよく分からない空間を漂っている。

体を優しく包み込んでくれるその空間は、暖かく、どこか懐かしい印象だった。

彼女はこのまま過ごすことも悪くないと考えた。

その途端、彼女は突然、その夢見心地な空間から現実の世界に呼び戻された。まるで、彼女がそこにいては困ると誰かが急いで彼女を元の世界に引っ張るように。

彼女は一つずつ気付き始める。

漂っていた空間は、実は海中であり、彼女が欲していた温暖な海であるために暖かかったことに。

彼女は、目を開けた。

そこは、北極海より少し濁っているが、多くの生物が住む世界だった。

 

キングは、それから暫くの間海中を漂っていた。

妙なことに、体は鋼鉄製ではなく乗員たちと同じく有機物によって構成されているようだ。

しかも、さらに奇妙なことに、兵装や各種センサー、システム等は全ての艦だった時と同じで、全てが運用可能だった。

一つ、彼女がこの体を得て気付いたことがある。

人間の体とは、あまりにも繊細であることだ。

鋼鉄に比べると、あまりにも貧弱。機械と比べると、あまりにも複雑過ぎる筋神経。センサーと比べても、ほとんど差を感じさせない鋭さ。全てが繊細でありながら、それを難なく動かしてしまうその頭脳。

艦艇だった時は、決して感じることができなかった感覚だ。

彼女は考える。

この姿を得た意味は?

何者かの意思か。それとも…

「私の意思…か」

彼女は呟いた。

小さな泡が海面に向かって登っていく。

彼女が発した言葉は、彼女の耳にクリーンな音声で届いた。まるで、地上で発したようだ。

どうやら、ただの人間ではないらしい。もっともそれは、この海の中で酸素ボンベも持たずに長時間潜り続けていることから分かってはいたが。

彼女のソナーが反応したのはそれからすぐだった。

正体不明の水上移動体が複数。

彼女は本能のままにその移動体の情報取得に努める。

方位0-3-5。距離9海里。数は8。速度は12ノット。音紋照合…友軍、それ以外の艦艇に該当なし。

つまり、全く正体が分からない連中が8隻、ノコノコとこちらの雷撃範囲に入って来たわけだ。

潜望鏡を上げて観察したい所だが、この距離では見つかる危険性がある。今は何もしないほうがいいだろう。

ゆっくりと進む移動体は彼女の前方1海里の地点を斜めに移動していった。

彼女は息を潜める。

この距離だ。いくら無反響タイルコーティングを施した艦体とはいえ、ほんの僅かな雑音でも発見されるだろう。

彼女は沈黙を守り続けた。

数十分後、安全な距離になると彼女はようやく一息ついた。彼女の口から気泡が2つ登っていく。

取り敢えずのところは安全だろう。

彼女は潜望鏡を上げ、先ほど通過した移動体たちの観察を始めた。

黒と白と灰色を基調にした人型の何かがそこにいた。

あれはなんという化け物だ?

彼女は観察を続ける。

先ほどの通過で入手できたデータと、実際に見た情報を照らし合わせた結果、真ん中な人に近い形のヤツが大型艦で、周りのよく分からないヤツが小型艦であるという認識を得た。

もっとも、周りの小型艦の方が中央のヤツより明らかに見た目が大きいが。

どうやら、見た目の大きさとデータ上の大きさとは比例しないらしい。

観察を続けること1時間。

あの妙な連中は水平線の向こう側へ行ってしまった。

取り敢えず得られた情報を、自身のシステムに記録し、次に備える。

彼女はその出来に満足すると、まるで床に寝転ぶような姿勢を水中でし、眠りに就いた。

 

キングが目を覚ましたのは、眠っていなかったセンサー類が彼女を起こした為だった。

彼女はざっと4時間ほど寝ていたらしいと、彼女のおそらく人間の物より正確であろう体内時計が伝えていた。

彼女はセンサーが得た情報を確認する。

正体不明の潜水目標が6つ。

速度は5ノットほどの極低速。馬鹿でかいガタピシ音を発する旧式艦のようだ。

彼女はデータベースからそれらの音紋を探る。

てっきり、ロシアのキロ級かと思ったが、そうではないようだ。

彼女は音紋を発見した。

しかし、キロではない。いや、それどころか現代艦ですらない。

発見した音紋は、ベイツ艦長がどこからか拾ってきた第二次大戦時の音紋で、なんとか聞き取れるものだったが、それでも判別できた。

伊-19、伊-168、伊-58、伊-8、伊-401、伊-26。

それが、今彼女の目の前にいる潜水艦たちだ。

妙なことになった。

これで今の時代がさっぱり分からなくなってしまった。

私は沈むまで199X年にいた。

しかし、気付けば人の体になっているし、変な化け物が遊弋しているし、第二次大戦の潜水艦が目の前に現れた。

全くもって理解し難い。

彼女はしばし考えたのち、理解することを捨てた。

今必要なのは、単純な答えのみ。

敵か、味方か。

少なくとも、さっきの化け物ども都比べれば友好的に接してくれそうだが…。

どちらとも言えない。

向こう側が気付いた。

こちらが何者か探るようにゆっくりと動き、包囲しようとしている。

第二次大戦時の日本艦にしては珍しい群狼戦術だ。

少なくとも頭は使えるようだ。

それならば…。

試してみる価値はあるだろう。

彼女はしばらく考えてから、たどたどしくピンを打ち始めた。

さて、これで状況はどちらに転ぶか…。

 

サイパン・テニアン両島の奪還の後、日本国防軍及び米軍は両島に幾つかの部隊を展開させた。

この島は、今後の太平洋攻略のための重要な拠点となるからだ。

そのため、国防海軍は急遽日本国内の各鎮守府、泊地、警備府から艦娘及び艦艇を集め、小規模ながらも派遣部隊を編成したのだ。

この新マリアナ守備隊は、艦娘部隊4個艦隊、通常艦艇による護衛艦隊、国防陸軍の第二師団より2個大隊、米海軍第7艦隊の一部部隊、米海兵隊1個大隊によって構成されている。

この内、艦娘部隊の1つは全員が潜水艦娘によって構成された潜水艦隊だった。

彼女たちは、この数ヶ月マリアナ付近の海域の哨戒をして回っていた。

そして、7月4日の今日。

彼女たちは約3日ぶりの母港への帰港に胸を躍らせていた。

いつになく会話が弾む中、彼女たちはゆっくりと進み続ける。

そんな穏やかな航海は、突然ソナーに現れた正体不明の潜水目標によって終わりを迎えた。

6人は警戒しつつ、動こうとしない1つのターゲットを包囲すべく散開する。

向こうも潜水艦なら、こちらの動きを捉えているはずだ。

しかし、相手は動かない。

伊-401ことしおいは首を傾げた。もしかして、潜水艦じゃないとか?いや、それはないはず。あんな大きさの奴にこんなに近付くまで気付けないわけがない。

何かしらのソナー対策をしているに違いない。そんな金のかかることをする奴は潜水艦以外に考えられない。

『深海棲艦』に、『金』と言うシステムがあるか知らないが。

とにかく、相手は潜水艦だ。

それなら、何故動かない。敵から探針音が放たれまくってるのに。

ピンが来たのはそれからすぐのことだった。

全員が身構えたが、そのピンが定期的に打たれていることに気付くまで時間はかからなかった。

探針音を使ったモールス信号だ。

彼女は内容を聞き取る。

『我、米海軍所属艦原潜きんぐ。貴艦隊ハ本艦ノ攻撃圏内ニ侵入シテイル。所属ト航行目的ヲ伝エヨ』

米海軍の…原潜、ということは原子力潜水艦のことか。しかし、キングと言う艦名は聞いたことがない。

新型艦にしても、多少の情報は入るはずだ。それが無いとなると…。

最近よくある『転生艦』だろう。それも、艦娘の。

水中無線を通じてゴーヤが指示を求めてきた。

しおいは指示を出す。

「焦って攻撃しないで。こっちから向こうにモールスを打ってみるよ」

『了解でち』

しおいは、早速モールスを打ち始める。

『コチラハ、まりあな守備隊第一潜水戦隊旗艦、伊-401。現在、哨戒任務ヲ終エ、さいぱんニ向ケ帰投中ナリ。

貴艦トノ接触ヲ希望スル。許可サレタシ』

 

キングは、401からの要望の答えを考えた。

接触を拒否する理由もないし、情報が得られるなら接触もやぶさかではない。

問題は、その後どのように扱われるか、だ。

今の姿が珍しいことならば、モルモットのようにされる可能性もある。

だからと言ってここで逃げるのは、向こうに不信感を与えるだろう。そうなれば、向こうは攻撃を仕掛けてくるし、増援を要請したりするに違いない。

彼女にとっての『最悪』は、撃沈、つまり彼女の死だ。

増援が来たら逃げればいいが、それはやがて来る確実な死から少し離れるだけのことだ。

つまり、彼女に選べる道はただ一つだ。

彼女はモールスを打つ。

『ソチラノ要望ヲ受ケ入レル』

 

しおいは返答を聴くと、散開していた部隊を再び集め、キングの元に向かう。

もし、罠だったらと考えなかった訳ではないが、返答までの間がこれが罠でないことを示しているように彼女には感じられた。

しかし、警戒は解かない。相手はまだ『正体不明艦』なのだ。

自称原潜キングが見えてきたのはゆっくりと進むこと20分のことだった。

見た目は、自分たちとなんら変わらないが、その見た目に惑わされてはならないことは、これまでの経験からよく理解していた。

もし、キングが本当に原潜であるならば、潜水艦にとって最も危険なサブマリン・キラーとなる。

ここからが重要だ。

しおいは気を引き締めて、キングと対面した。

 

キングは、やって来た相手を見て心底ホッとした。

自分と同じ見た目をした、少女たちだったからだ。どうやら、この世界では私と同じような存在はよくあることのようだ。

彼女は少女たちに話しかける。

「始めまして、とでも言っておこうかな?私はシーウルフ級2番艦キングです。どのくらいの付き合いになるか分からないけど、よろしくね」

出来るだけ好意的に話したつもりだ。もっとも、少し緊張した声が出てしまっているかもしれないが。

キングは少女たちの様子を見守る。

相手の顔にもホッとしたような表情が浮かんだことで、キングの言葉が上手く伝わっていたことを表してくれた。

彼女は再び安心する。敵対する相手は少ない方がいい。

旗艦らしき日焼けをして小麦色の肌の少女が応える。

「私はマリアナ守備隊第一潜水戦隊旗艦伊-401です。しおいって呼んでください。

周りにいるのは左から伊-58、伊-8、伊-19、伊-168、伊-26です」

少女たちが自己紹介を始める。

「伊-58です。ゴーヤって呼んでもいいよ」

「伊-8です。はちと呼んでください」

「伊-168です」

キングは眉をひそめた。

「言い難いね」

伊-168がこちらを少し睨んでから仕方がなさそうに言った。

「呼び難いならイムヤでいいよ。間違っても、イロハなんて呼ばないでよね」

「分かったよ」

キングは返答し、次の人物に進めるよう促した。

「伊-19なの。イクって呼んでもいいの!」

「あたし、伊号26潜水艦ニムだよ!よろしくね!」

キングはその自己紹介の力強さ、と言うより元気の良さに押された。潜水艦がこんなに騒がしくていいのか?

彼女は呆れつつ少女たちを見つめた。

しおいが何事かとでも言いたげにキングを見る。

「何ですか?」

「あっ、いや、賑やかだなーって思って」

その答えにしおいは嬉しいそうに言った。

「そうでしょ、そうでしょ。いい艦隊でしょ」

どうやら彼女はキングの返答を良い方向に取ったらしい。

ふと、しおいは何かを思い出したかのようにキングに言った。

「そうだ。キングさんはどこの所属ですか?転生前じゃなくて、今現在の所属です」

キングは少し考えた。『転生前』というのは、この姿になる前、つまり艦船だった頃のことだろうか?

もしそうなら、今はどこにも所属していないことになる。

彼女は返答した。

「所属してないよ。なんせ、あなたたちが初めて出会った味方だから」

「味方?敵に会ったてことなの?」

イムヤが話に割り込む。

「多分だけどね。モノクロみたいな変な連中だったんだけど」

「そいつらは『深海棲艦』に違いないの!」

今度はイクが割り込む。

「『深海棲艦』?何それ」

「5年前に出現した正体不明の敵性生物です。現在までの所、私たち艦娘と似ていると言うこと以外は分かっていない連中で、通常兵器はあまり効きません。もっとも、最近は効くみたいですけど」

しおいの話でキングは直ぐに理解した。

「なるほど、それで艦娘の出番ってことね。私たちの攻撃は奴らに効果的だと」

「そうでち。だからゴーヤたちは、こうやって哨戒活動してるんでち」

ゴーヤが言う。どうでもいいがやたらとキャラが濃い連中ばかりだ。唯一キャラが薄いのは伊-8ことはっちゃんだけ…。

「さて、そろそろ戻ってシュトーレンでも食べましょう」

…前言撤回。なかなか濃ゆい。全く、ここの潜水艦たちはみんなこうなのか?それとも、ここにいる6人が平均よりも濃いのか?あるいは…。

キングが考え事をしていると、しおいがその思考をぶち壊した。

「さぁ、キングさん。一緒に行きましょう」

「えっ、私も?」

「そうに決まってるよ。行くところないんでしょ、キングさん?」

ニムも同調して言う。確かに行くところはないが…。

「じゃあ、行こ?」

ゴーヤが有無を言わさぬ口調で言う。他の潜水艦娘全員からも同じような意味合いの視線が向けられる。

これは、従うしかないようだ。

キングはため息を吐いてから言った。

「じゃあ、行きますか」

こうしてキングは、半ば強引にマリアナの基地に連れて行かれたのだった。




潜水艦には潜水艦を。てな訳で潜水艦娘たちを登場させました。もうしばらくしたらキャラの整理しないといけませんね。
て言うか、最近主人公が出てきてませんね。そろそろ出してあげないとあの子の設定忘れそう。
次の回はキングがマリアナで出張中の江田おじさんに会うみたいな話になると思います。
戦闘シーンとヴェラの活躍はもう少しの間ないかもしれませんね。
最後にこのような作品を読んでいただきありがとうございました。
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