ありがとうお盆休み。ありがとうコミケ。
今月の明るい脳筋の創作意欲は凄まじいものがあり…。
と、言うわけで今月2回目の投稿です。今回は戦闘シーンと次回への繋ぎです。
話は変わりますが、上記の通りコミケに行ってきました。楽しかったです(小並感)。
まぁ、3日目と4日目だけだがなぁ!
まぁ、いいや。
それでは、始めます。
5海里など、海戦という行為の中ではあまりにも近づきる距離だ。
大口径砲はおろか、小口径砲、果ては魚雷まで全ての兵装が射程圏内にある。
その近距離に、本来ミッドウェイのような空母がいるべきではない。
空母の本懐は、長距離攻撃であり、航空機による瞬間的大火力投射に他ならない。
にもかかわらず、ミッドウェイは輪形陣すら組まず、単縦陣で『深海棲艦』艦隊へと突っ込んで行った。
誰が見ても無謀としか言いようがない。
そのため、これを見た者はまず罠か何かであると認識するだろう。この空母は囮で、他に主力が控えていて、こちらが引っかかった所を一網打尽にする作戦だろうと考える。
しかし、そうなると新たな疑問が湧く。
こんな安直な手で勝負を仕掛けてくるだろうか?
現に、タ級フラッグシップはその疑問を抱き、困惑した。
普通はこんな失敗する確率の高い作戦は立てないし、立てても実行に移すわけがない。
それでも、敵はそう動いている。
となると、何か裏があるのだろうか?
いや、なければおかしい。
だが、そうなるとその裏とは何か?
疑問が尽きず、タ級は味方への指示が遅れた。
戦場での迷いは死を意味する。
そんな単純なことを忘れるほど、ミッドウェイの行動は不可解で、理解し難いものだったのだ。
この逡巡で、タ級の命運は決まった。
空母の周辺に、何かが群がっていることに気付いたタ級は、目を凝らす。
それは、異常な密集状態で編隊飛行する小さな航空機の群れだった。
直掩機、のようだが、それにしてはたった1隻に集中しすぎだ。
一体何のつもりだ?
その塊が閃いたのは、その直後だった。
閃光はそのまま熱い硝煙の塊に変わり、その煙の中から10本ほどの飛翔体が突き抜けてくる。
噂の奴、『みさいる』とか言うのだ。
これの危険性はあらゆる情報で見聞きしている。こいつのせいで太平洋では大きな被害を受けたと言う。
こちらにもそれが回ってきたか。
だが、命中率は高いがその威力はさほど脅威ではないという。
人間共め。こちらも、いつまでもやられてばかりではいないぞ。カラクリさえ分かれば後はどうとでも出来る。
冷静に、確実に撃ち落とす。
対空射撃を指示し、タ級は自らもそれを行う。
空がにわかに騒がしくなる。何百発もの機銃弾と砲弾が、空を赤黒く染める。
抜けれるなら抜けてこい。
タ級は笑みを浮かべ、空を眺める。
と、一際大きな爆発が空に起こった。数は5。
撃墜した。
彼女の笑みはさらに大きくなる。
が、それも直ぐに崩れた。
厚い黒煙を突っ切って、高速の光の玉がこちらに向かってくる。
そいつは、こちらの防空スクリーンの要であるツ級フラッグシップに襲い掛かる。
ツ級は体を捻り、何とか躱そうとするが、その努力もむなしくポップアップし、45度の急角度で突っ込んで来た『みさいる』は彼女に突き刺さった。
光が閃き、衝撃波と凄まじい爆音を辺りに撒き散らしたツ級は、そのまま海中へと没していく。
更に爆発。その数は2。艦隊の守備を司る駆逐艦イ級後期型がやられたようだ。
敵と砲火を交える前に3隻。先の攻撃を含めると、5隻が失われた。
タ級は歯噛みしながら、次の対処を取る。
付近を遊弋している友軍艦隊。深海棲艦大西洋艦隊本隊へと、援護要請をする。
返答は直ぐに帰ってきた。こちらに向かっていると言う。
彼女は再び余裕の笑みを浮かべた。
我が艦隊が受けた痛みは、お前たちの命を持って償わせてやる。
彼女は視線を上げた。
影。
それが何か認識しようとした瞬間、彼女の脳天付近に衝撃がかかる。骨が砕けるような嫌な音は、これまで経験したことのない痛みに叫ぶ彼女の声で掻き消された。
が、それもすぐに途絶えた。
力なく崩れ落ちたタ級の頭は、ミッドウェイの脚部艤装のスクリューでズタズタに引き裂かれていた。
丁度辺りへの警戒を解いた戦艦に接近し、踵落としから21万馬力のタービンから生み出されるスクリュー回転のコンボを喰らわせ、返り血を浴びたミッドウェイは、最早動くことのない戦艦を冷めた目で一瞥した後、次のターゲットを定めようと周囲を見る。
戦闘はもう終結しかけていた。
旗艦を交戦直後に失い、更に護衛部隊の一部に被害を受けた『深海棲艦』たちは、手薄になった防衛網を単縦陣で突破してきた艦娘たちの圧力に負け、内側から陣形を瓦解させつつ、個艦での戦闘を余儀なくされていた。
一方の艦娘たちは単独戦闘を避け、2人1組で攻撃する。
実際にこのメンバーで戦うのは初めてのはずだが、それを感じさせない極めて完成度の高い連携は、流石に優秀な人材たちと素直に感心する。
こちらも負けてはいられない。
長距離砲撃で敵を潰している金剛の存在を、遠雷のような砲声から感じながら、ミッドウェイは動く。
ターゲットは時雨と夕立が追撃をかけている戦艦ル級フラッグシップだ。時雨、夕立は双方共に改二レベルに達していることもあり、戦艦相手でも引けを取らないが、それでも苦戦が見て取れた。
ミッドウェイは自身の周りに固めていたF/A-18ホーネットの一隊を時雨と夕立の元に差し向け、支援と攪乱を行わせる。
スズメバチがル級に群がり始めるのを尻目に、ミッドウェイは海面を全力で突っ走る。
と、目の前に突然駆逐艦イ級後期型エリートが彼女の目の前に立ちはだかった。どうやら、こちらの目的に気付いたようだ。
体を張って止める気か。しかし…。
「もう手遅れなんだよォ!」
彼女は叫びながら、全力でジャンプし、イ級を踏み台にしつつ空へと舞う。
ついでに踏み台になってくれたイ級にささやかな感謝の気持ちとして、マスケットを模したMk.39 5インチ砲の砲弾を3発ほどプレゼントする。
炸裂音とそれより大きな爆音で敵の撃沈を把握しつつ、ル級への突撃コースへと態勢を修正しつつ、弧を描きながらル級の巨大な艤装の上に降り立った。
喧しい金属音を響かせ、衝撃で バランスを崩しかけながらもマスケットの銃口はル級の顔面へと向ける。
驚きと恐怖が入り混じった表情を浮かべるル級に出来るだけ優しい笑顔を見せながら、ミッドウェイはル級に語りかける。
「Hello Good Girl!」
声も可能な限り優しくしたこともあり、ル級は安堵のような表情へと変わる。が、ミッドウェイの言葉で、その表情は凍り付いた。
「GOOD☆NIGHT」
彼女はマスケットのトリガーを引く。1発、2発、3発、4発。執拗に、念入りに。
元の顔がどんなものかも分からないほど、滅茶苦茶に粉砕する。
すっかり『深海棲艦』の血液に染まって変色した制服に顔をしかめながら、時雨と夕立に目を向けつつ言う。
「よぉ、お2人さん。流石に戦艦相手に駆逐艦だけじゃ厳しいか?ん?」
2人は何も答えない。どちらも若干引き攣った顔でこちらを見る。
ミッドウェイは肩をすくめ、頭を振りながら言う。
「ふん。まぁ、そんな顔するなよ」
「…こんな顔もするよ」
時雨は硬い表情を崩さずに言う。そこから見えるのは、嫌悪感。あるいは恐怖か。
いや、少し違う。こいつが見ているのは、俺の中に映し出されるこいつ自身の姿だ。
まぁ、そんなことはどうでもいい。先程始末したタ級の通信の解読が終了して、不愉快な事態が判明している。
『深海』の大西洋艦隊の本隊がこちらに向かっている。
友軍機が偵察に向かい、規模を図るべく動いているが、本隊となると規模はこれまで戦って来た連中とは桁違いのはずだ。
通常艦艇以外にも鬼級、姫級が存在している可能性が十分にある。
そんな連中とはまだ手合わせ願いたくない。
「『深海』のガラクタ共が来る。さっさと片付けるぞ」
時雨は震える腕を抑えながら、ミッドウェイを見る。
噂では聞いていた。たった2人でカリブ海方面艦隊、その本隊を殲滅した『バケモノ』。
だけど、これ程とは。
時雨自身のミッドウェイへの第1印象は、噂で聞いていた『バケモノ』とは大きく違った、口は悪いが面倒見のいい人、だった。
話してみてもその印象は余り変わらなかった。
ある一点を除いて。
それは、その性格の裏に隠された『破壊衝動の塊』という本性がある、と言う点だ。
艦娘は多かれ少なかれ戦闘で性格が豹変する。たとえ、幾ら普段戦闘はしたくないと言っていても、戦闘となると容赦は一切無くなる。
当然、自分の身を守るために戦うと言うこともある。
しかし、自分からもう戦闘に出たくないと言う艦娘は、これまでの所1人もいない。それが出来るにもかかわらず、だ。
艦娘は戦いから身を引けない。
そう言う意味では、ミッドウェイの考えは間違ってはいない。
戦うことしか出来ない僕らはただの『人間』になんてなれない。敵を滅ぼすために存在する『兵士』なんだろう。
自分でも理解している。でも、それが実際に目の前に突き付けられたあの時、僕はそれを受け入れられなかった。
だから、今もこうしてミッドウェイに否定的態度をとる。
我ながら面倒くさい奴だなぁ。
時雨は、自虐的な笑みを浮かべる。横にいた夕立には、その笑みが別のものに見えたようだ。
「時雨、大丈夫っぽい?」
「うん。大丈夫だよ、夕立。ありがと」
夕立が何を心配しているか分かっている。
僕も、ミッドウェイと同じだ。
艦娘は戦闘中に性格が豹変すると言ったが、その中でも僕は特に酷いタイプだ。
やり過ぎ、とよく言われる。
それこそ、さっきのミッドウェイみたいに。
今もまだ腕が震えている。その原因は、恐怖。
ミッドウェイのあの姿を見たからじゃない。僕の内側にいる『ナニカ』に呑まれて己が失われていくことへの恐れだ。
戦いで『深海棲艦』をグチャグチャにするたびに感じる歓喜。そして、その後に訪れる恐怖。
その二面性が怖くてたまらない。
それこそまるで、『バケモノ』に変わって行くようで…。
今はまだ、そこに堕ちることはないけど、何は…。
とは言え、この力があったから、今まで生きて来れた。
それのおかげか、僕の戦果は異常に良く、佐世保の時雨、とか呼ばれている。
それは栄誉なことではあるけど、もう1つ意味があるはずだ。
それは厄介者と言う、レッテルだ。
だから、こうしてこの部隊に送られた。この艦隊にいる他の仲間たちも、似たような噂を聞く人たちばかりだ。
優秀だけど扱い辛い、いわゆる『はぐれ者』。
その厄介者たちをまとめる指揮艦が、『バケモノ』と言うのはある意味当然のことなのかもしれない。
それでも、ミッドウェイはまだ『バケモノ』に落ちる気は無いように見える。
あの時の会話で、それが分かった。
ミッドウェイは自分の行為を正当化するだけの人間的思考をまだしている。
自分のしていることが『殺し』だと、あの人は言った。そして、自分は『兵器』ではなく『兵士』だと続けた。
その言葉の裏にあるのは、自身の内側から湧き上がった『ナニカ』に飲まれる気は無いと言う、静かな決意表明だ。
ミッドウェイが言いたいのは、そう言うことなんだろう。
自分たちは『人間』ではない。
血に塗れた自分たちは『兵士』以外にはなれない。
しかし、それは破壊することしか出来ない、『兵器』であることの否定に他ならない。
しっかりとした思想だ。
ただの『バケモノ』なら、こんな思考はしないだろう。
これは、ミッドウェイが『兵士』として完成されている証左に他ならない。
普通の艦娘は、こんな思想には至れないだろう。たとえ、そこに辿り着いたとしても、それを受け入れることはきっと出来ない。
少なくとも、僕は無理だった。
だから。
僕もそこに辿り着けるように努力しないといけない。
その先に、更なる強さがあるはずだから。
強くなれば、あの感情を受け止められるはずだ。あの黒い感情を。心の底の『ナニカ』を。
そのためにも、ミッドウェイの存在は必要不可欠だ。
支えないければ。
彼女の覚悟は固まった。そうと決まれば、やり遂げないと。
あの精神不安定な、それでも僕らより遥かに先に立つ、あの旗艦を。
…必ず。
「支え切って見せる」
ミッドウェイは後ろからついてくる時雨の変化に気付いた。
多少は信頼してくれたようだ。…あのやり方の一体どこに信頼を見たのだろうか?
さっぱり分からん。
とは言え、これは重要な一歩だ。これで多少は安心して仕事ができる。
ミッドウェイは辺りを見る。
残っているのは、巡洋艦2隻と駆逐艦3隻。
十分だ。
ミッドウェイは後ろからついてくる時雨と夕立が追い付けるように速度を落とす。
2人はすぐに追いついた。
ミッドウェイは2人に話しかける。
「第2の連中には悪いが、残りもやる。俺が先陣を切る。後に続け」
「ミッドウェイさんが先に行って大丈夫?」
夕立が聞く。ミッドウェイは口角を上げながら言う。
「心配ない。あの程度なら、艦載機無しでも殺れる」
2人はとりあえずは受け入れたようだ。
「気を付けてね」
時雨が言う。
「随分と優しいじゃないか?」
「旗艦に沈んで貰っちゃ困るからね」
「いらん世話だな」
それだけ言うと、ミッドウェイは増速する。
それに合わせるように、彼女の周りを飛ぶホーネットたちが彼女の脇をすり抜けて、敵に向かって行く。
彼女は嗤う。
さあさあ、皆殺しの時間だ。
スズメバチたちに襲われた『深海』の生き残りたちは、必死の対空戦闘で速度が落ちる。
そこに、ミッドウェイは猟犬よろしく、全速で突っ込んだ。
最初に、1番端にいた駆逐艦を狙う。
こちらの動きに気付いた目標の駆逐艦は急いで回頭し、こちらに5インチ砲を向けようてする。
が、時すでに遅しだ。
こちらに砲塔が向く前に、彼女はその砲塔に蹴りを入れ駆逐艦のバランスを突き崩す。
体制の崩れた駆逐艦の右舷側にマスケットの銃口を押しつけ、砲弾を叩き込む。
駆逐艦の胴が弾け飛び、あまり愉快ではないクラッカーのように内容物をばら撒く。
丁度いい目眩しが出来たのでその中を潜り抜け、重巡に襲いかかる。
右腕のアングルドデッキ付き飛行甲板で、全力で殴りかかる。
金属と金属のぶつかり合う耳障りな音と、その奥にある柔らかい肉を穿ち、更にその中にある骨格が砕ける感覚を感じながら、上空のホーネットに爆撃の指示を出す。
ミッドウェイの飛行甲板に体を穿たれているリ級は避けることも出来ず、ただほぼ垂直に落下してきたハープーンと言う名の銛に打ち抜かれた。
爆発の衝撃で、彼女の飛行甲板がズルリと抜ける。
飛行甲板には『深海棲艦』の青い血と、灰色の肉片、それに混じった若干黄色がかった脂肪に塗れていた。
彼女ら一瞬顔をしかめつつも、反撃の準備を整えた残り3隻の敵と対峙する。
一時的に、沈黙が空間を占める。
ミッドウェイは『深海』の連中が震えていることに気付いた。
彼女な嗤う。そして、舌なめずり。恐怖に震える敵を殺すのは実に愉快なことだ。
動く。
一気に間合いを詰めてその喉をぶち抜いてやる。
『深海』の連中も動く。5インチ砲と8インチ砲、更には機銃までがこちらに向けてばら撒かれる。
咄嗟に飛行甲板を盾にしつつ更に接近。
即席の盾は、バイタルパートを守り切っているが、それ以外、足や腕と言った部分を防御するには至っていない。
砲弾はともかく、機銃弾はこちらの腕や足を擦り続け、その度に血の線が身体に刻まれる。
それでも、彼女は止まらない。盾とした飛行甲板が徐々に損傷していくが、それでも立ち止まらない。
ただ、本能に突き動かされるように、ミッドウェイは接近を続ける。
飛行甲板の傍から腕を突き出し、マスケットを撃ち放つ。
砲弾は敵には突き刺さらなかった。別に命中させる気は無い。
海面に着弾し、熱い水柱が立つ。
一時的に、攻撃が止む。
その隙に、右腕の飛行甲板の固定具を外し、重りに近い飛行甲板を投げ捨てる。
空母であることを放棄し、今やなんと呼べばいいか分からない存在となったミッドウェイは飛沫が収まり、攻撃を再開しようとするその場に突っ込む。
全身に切り傷と銃創を負った空母もどきを見た『深海』共の驚愕の表情を楽しみつつ、生き残っていたリ級の懐に潜り込んだミッドウェイは最大戦速の33ノットと言う速度と重さの相乗効果によってイカれた威力となったボディーブローを叩き込む。
彼女の拳はそのままリ級の腹部を貫通する。
生温かい血液と肉、臓器の感覚にゾッとするが、それを堪えて空いている左手のマスケットを絶叫するリ級の喉に当てて発砲する。
耳障りな悲鳴が射撃音と共に消える。
動かない重巡の死体を眺めながら、ミッドウェイは笑みを浮かべる。
その隙が悪かった。
背中に衝撃を感じると同時に、強烈な熱と痛みを感じる。
衝撃の大きさから予測して、主砲クラスの攻撃でないことを把握し、傷口を確認すらせず、彼女は重巡の死体を引きずりながら体の向きを変え、同時にリ級を盾にする。
その直後、リ級の死体が砲弾を受けて炸裂した。
死体の一部、正確には右の脇腹が抉れた。
それでも彼女はそれから手を離さない。まだ盾としての役割は果たせる。
機銃弾と砲弾を全身に浴びズタズタになっていく死体を冷静に見つめ盾が役割を果たせなくなるタイミングを計る。
来た。
「Yeaahh‼︎」
ミッドウェイは馬鹿でかいシャウトをぶち撒けながら3分の1になっていたリ級の残骸を駆逐艦にぶん投げた。
肉とも鉄とも取れない塊を避けようとする駆逐艦に向けて、ミッドウェイは両腕のマスケットを連射する。
5発ほどの直撃弾を受けた駆逐艦は同じく流れ弾を受けまくったリ級の死体と共に盛大な爆発を起こし消し飛ぶ。
あと1匹。
彼女は血走った眼であたりを見回す。
居ない。どこだ?
突然、辺りが暗くなる。
彼女は空を見上げた。
空を跳ねた駆逐艦が、彼女を轢き潰すべくこちらに飛び掛かってくる。
避けれない。
それが分かっても、ミッドウェイの笑みは崩れない。
駆逐艦は困惑しただろうが、今更その行程を止められる訳もなく、勝利を確信しながら最後の行程を進む。
2発の砲弾が、駆逐艦に突き刺さり、炸裂する。
空で弾けた駆逐艦は花火よろしく肉片をばら撒きながら塵となって消えた。
ミッドウェイは小さくため息をつく。
そして、砲弾が飛来した方角を見る。
時雨と夕立が急いでこちらに向かってくる。夕立はミッドウェイが投げ捨てた飛行甲板を持って来てくれているらしく、時雨よりやや遅い。
先にミッドウェイの元に来た時雨が息を切らせながらも怒声を発した。
「無茶しすぎだよ!」
ミッドウェイは困ったように肩を竦める。
そのジェスチャーは時雨の逆鱗に触れたようだ。
「なんだいその態度は!こっちがどれだけ心配したか…!」
「喧しい。傷が沁みるだろうが」
ミッドウェイは時雨の小言を遮りながら言う。と、その一言で時雨の態度が変わる。
「傷?どこかやられたの?」
「背中だ」
ミッドウェイは黒く焼け、血がこびりついているであろう背中を見せる。
傷口を見た時雨とようやくたどり着いた夕立が息を呑む音を聞き、ミッドウェイはただ事でないことに、今更ながら気付いた。
「あ。もしかして結構ヤバイ感じ?」
「無駄口を叩かないで。…夕立、直ぐに応援を呼んで」
「分かった」
いつもの語尾のない夕立の返答に、ミッドウェイはますます不安になる。 と、同時に視界の端が徐々に暗くなるのを感じる。
「あー。ヤベーは、これ」
「何?大丈夫?今どんな感じだい?」
「視界の端が暗くなって来てる。ついでに背中の辺りがスゲェ痛い。アドレナリンってやつのおかげだったのか?よく出来てるなぁ、人間の体は」
ミッドウェイは余裕ぶって笑おうとする。
その判断は大きな間違いだった。
背中が引き裂かれたような痛みが電流のように体を流れた。
悲鳴をあげる間も無く、ミッドウェイは身体を痙攣させる。
「ミッドウェイ⁉︎」
時雨の悲鳴にも似た叫び声を最後に、ミッドウェイの意識は消し飛んだ。
穏やかな微睡みは、大きな揺れによって粉砕された。
瞬間的に目を覚まし、態勢を整えようとするが、腕に刺さっている点滴がそれを邪魔する。
苛立ちげにそれを引き千切ろうとするが、辺りの静けさから被弾による衝撃ではなく、外洋の大きな波頭に艦が揺さぶられただけであることを把握する。
と、同時に緊張が解け、清潔そうな白い診療ベッドにへたり込むように寝転ぶ。
この時点でようやく、冷静になった頭がこの部屋が医務室であることを理解し、ミッドウェイは無事に(と言っていいか分からないが)母艦に戻って来たことを悟った。
よく生きて帰って来れたものだ。
彼女は背中の傷に手をやる。
意外なことに、傷はもうどこにもなかった。
彼女は頭を傾げつつも、その理由に思い当たるものがあった。
日本からの贈り物。
艦娘運用に必要不可欠であるメンテナンス技術。もっと正確に言うなら、負傷(損傷と言うべきか?)した艦娘の修復の為のドックーーというよりよく分からない風呂と更に訳の分からない効能のバケツ。
この技術には、艦娘の傷を速やかに治す力がある。
旗艦たる彼女が長時間ドック入りしている訳にもいかないであろうし、高速修復材こと謎のバケツが彼女のために使われることは想像に難くない。
要は、さっさと出てこい、だ。
とは言え、傷は治せてもそれによって発生した身体の不調は無くなる訳ではない。
彼女が今、この部屋にいるのがその証だ。体が異常に気だるく、どうにも直ぐに回復する気配が無さそうだ。
次のドンパチがいつになるか分らないが、ことによれば出れないか?
そんな思考をしている間に、ドアの方で物音がした。
ミッドウェイがそちらに目を向けると、丁度時雨が入って来るところだった。
ベッドの上で体を起こすミッドウェイの姿を見た時雨は僅かに安堵の表情を浮かべる。
が、それは直ぐに消える。
「なんだ。もう起きたのかい?」
「一言めからそれか」
「死んでたら良かったのにって言われたい?」
「それは飛ばし過ぎだ」
「冗談さ。無事で良かった」
「えぇ、おかげ様で」
会話はそこで途絶える。若干居心地の悪い空気が流れ、2人して曖昧な表情を浮かべる。
と、ベッドの脇で何やらゴソゴソという音が聞こえた。
ミッドウェイはそちらに目をやる。
そこには腕を枕にベッドの端の方で不貞寝している夕立がいた。
「…?」
ミッドウェイの声のない疑問に、時雨が答える。
「看病するって聞かなくてさ」
「看病、ねぇ」
「結構頑張ってたんだよ」
「そうだろうな」
不貞寝するくらいには頑張っていたのであろう夕立を、ミッドウェイは眺める。
改二になってから出来たらしい犬耳のような癖毛がぴょこぴょこ跳ねる。
まるで馬鹿でかい犬がご主人と一緒に眠っているようだ。
そんな和やかな想像をしたミッドウェイは、思わず吹き出す。
「突然どうしたんだい?」
「何、下らん想像をしただけだ。…さて、俺が間抜け晒してる間に何があった?」
「えーっと、ちょっと待って。今からまとめるから…うん、じゃあ早速。
『間抜け面晒してた』君をオスプレイが回収した後、直ぐに『深海棲艦』大西洋艦隊本隊から発艦した偵察機の接近を君のとこのE-2Cが確認した。
『ウォーリアギア』の情報統制機能で僕らもその情報がリアルタイムで確認出来た。おかげで、撤収も首尾よく完了して、敵偵察機に捕捉されずに済んだ。
その偵察機は後でローマ大尉の航空隊がアウトレンジ攻撃で撃墜したって話らしい。
偵察機撃墜後も、敵艦隊に大きな動きは見られず、通信内容を見る限り救援対象が消滅したと判断したらしく、それ以降、敵艦隊は当初の進路に戻ってる。
そこから現在まで、敵艦隊に目立った動きは無し。進路3-1-5から変わらず、15ノットの巡航速度で東海岸に接近するように航行してる。
このまま進むと、ノーフォークへの爆撃可能域に入るまであと120時間。ワシントンD.C.への爆撃可能域まで142時間。ニューヨークへの爆撃可能域まで155時間。
上は現在対応を検討中。第2戦隊は哨戒行動を実施しつつ、敵艦隊の動向に警戒、ってとこかな」
時雨は平然と信じ難い言葉を口にした。
「東海岸を爆撃だと?しかも、たったの5日後に?こんなことしてる場合じゃねぇじゃねーか!
第2は出てるんだな?第1が出るまでに第一陣を飛ばせ。殲滅は期待しちゃあいねぇ。空母だけ始末する事くらいは出来るだろ」
ミッドウェイは再び点滴を引きちぎるべく腕を伸ばす。
しかし、その動作は時雨に阻まれる。
「落ち着いて、ミッドウェイ!」
「落ち着けだと?ホームランドが襲われそうなってるのに落ち着いてられるかってんだ!」
ミッドウェイは時雨の手を振りほどいて、点滴を引き抜き、ベッドから立ち上がる。と、同時にその動きに気付いて目を覚ました夕立とぶつかる。
「Ouch!」
「ぽい⁉︎」
互いに小さく、妙な声音の叫びを上げる。
夕立は医務室の床に尻餅をつき、ミッドウェイはベッドの上に再び倒れる。
それを見ていた時雨がこれは幸いとミッドウェイにのしかかる。
「いや、夕立のフォローしろよ⁉︎」
「あの程度なら心配する必要もないね」
「ひでぇ」
「他人の心配してる暇があるのかな!」
しばらく揉みくちゃになり、側から見たらかなり際どい態勢になりながら、ミッドウェイは時雨に抑えられた。
立ち上がった夕立が、こちらを見て、顔を赤らめながら顔を背ける。
「…うん。2人がそう言う関係でも夕立は受け入れるっぽい」
「やめろ!誤解を呼ぶ発言はやめろ!ってさっきの話聞いてたろ、夕立!普通そうはならないだろう!
ええい、離せ時雨!」
「離さないよ。君が落ち着くまではね」
「また誤解を呼ぶような…。クソッ、力が入らん…」
普段なら簡単に吹き飛ばせる(物理)出来るが、今の彼女にはそれをする力すらなかった。矢張り、気力だけではどうにもならないらしい。
「…Danm it!」
罵るミッドウェイを無視して、時雨が言う。
「いいから落ち着いて。君なら分かるだろう?
敵は『深海棲艦』大西洋艦隊の、それも本隊だ。これまで君や、僕らが相手にしてきた奴とは規模が違う。
1回、『ウォーリアギア』に上がってる敵艦隊の偵察情報を見た方がいい」
時雨は、頭を指で指しながら言う。
ミッドウェイは大人しくその指示に従う。この体勢で拒否をしようものなら色々と面倒なことになりそうだし、純粋に興味があった。
『ウォーリアギア』を起動し、最新のトピックの中にあった偵察情報を擬似視界上のディスプレイから選択する。
そして、それを見た。
「…は?何これ」
あまりにも間抜けな声が出たが、仕方がないことだ。
どの数値を見ても、何かの間違いではないのかと疑いを持ってしまう。
総艦艇数、350隻。戦艦棲姫、10。空母棲姫、5。駆逐水鬼、10。以下通常艦艇がそれぞれ数十隻単位。
それは、紛れも無い悪夢でしかなかった。
時雨が止めるのも、お偉いさんが悩むのも分かる。
これは…。
「なるほどねぇ。勝てる訳がねぇな」
自嘲気味に、彼女は言う。
「ようやく分かってくれたね。コイツらには、ただ真正面からぶつかっていったって、すり潰されるだけだ。
それと、もう1つ。画面をスクロールしてみて」
ミッドウェイはその通りにする。
それは、報告の最後にいた。
彼女は目を剥いた。ありえない、何かの間違いではないのか?
「氷山空母…だと?」
「そう。そいつが、大西洋艦隊の旗艦。いつもの調子で名付けるなら、『大西洋氷山空母姫』ってとこかな」
思わず、呻き声をあげる。
「ふざけてやがるな…コイツら」
「全くその通りだね」
時雨は笑顔を浮かべるが、その目は全く笑っていない。その奇妙な表情から読み取れ感情は、恐怖。
人は本当の恐怖を感じると笑うと言う話を聞いたことがある。
時雨の今の状態がそれだろう。
それは、ミッドウェイも同じだ。
だが、諦めることは許されない。
アメリカに仇なす者は、誰であろうと粉砕する。
それが、『US NAVY』の、彼女の使命だ。
例え、姿形が変わろうが。世界が変わろうが。これだけは決して変わらない。
だからこそ、多少の無理が出来る。
「…まぁ、手段が無い訳じゃねぇな」
時雨は驚いた様に目を剥く。
「まさか。この戦力で勝つ方法なんて…」
「それが、あるんだなぁ」
ミッドウェイは笑みを浮かべる。
「悪そうな顔するね」
「そうか?そんな気はねぇが…って、そんなこと言ってる暇はないぞ。
上に行ってナガブチに掛け合ってこねぇと…。
…時雨、夕立。先に待機室に行って他の奴らを集めといてくれ。出来れば第2戦隊の連中も。
この作戦は、全員の同意が必要になりそうだからな」
「全員の同意?」
夕立は頭を傾げる。
「あぁ。アメリカに命賭ける覚悟があるかってな」
30分後。
疲れ切った顔をしながら、ミッドウェイは待機室兼ブリーフィングルームに入った、
すでに、第1戦隊の面々は顔を揃えていた。
「第2は?」
「もうちょっと時間かかるっぽい」
ミッドウェイの問い掛けに、夕立が答えた。
「OK。それじゃ、先に始めるか。第2の奴らは『ウォーリアギア』で確認してるだろ」
ミッドウェイは待機室の一角にあるプロジェクターのスクリーンを引き出し、プロジェクターを起動しつつ灯を消す。
スクリーンに、『ウォーリアギア』の画面が映し出される。どう言う原理か知らないが、使えればいい。
「俺の作戦が上に承認された。作戦名は『Ice Hunt』。本作戦の目的は敵旗艦ーー便宜上『大西洋氷山空母姫』と呼ぶが、そいつの無力化、それが出来ないにしてもこれ以上の交戦を不能にするレベルの損害を与えることだ」
手が上がる。
「何だ、江風」
「敵さんの数から考えて、そいつは厳しいンじゃないですか?そこまで行けるわけない」
「そうだろうな。正面からことに当たれば、厳しいだろう。だがな、今回に関しては、その『数』が奴らにとって裏目に出る」
ミッドウェイは画面を操作しながら続ける。
「さて、ここで問題だ。艦隊を指揮する者は、どうやって末端にまで指示を伝えている?」
誰も答えない。
「答えは単純だ。自分の声を全体に伝えるシステムを組めばいい。現代であれば、それは無線通信と言った物がそれに該当する。
数が増えればその分末端に指示が回るまでに時間がかかり、それをなんとかするために、より強力な出力での発信が必要になる。
今回の敵艦隊の数は、350隻。その全てに可能な限りズレなく指示を伝えるには、当然極めて精度の高い支持システムが必要だ。と、言うより無ければこの規模の部隊を運用するなど不可能だ」
一旦言葉を切って、全員にその言葉の意味が浸透するのを待つ。
待つ間に、頭の中で次の言葉を紡ぐ。そして、口を開く。
「かつて、旧ソ連のドクトリンにこんな物があった。『敵の3分の1を火力で減し、残った敵の3分の1を電子的に制圧すれば、残りの3分の1は自壊する』ってやつだ。
今回、俺たちがやるのは、それをより高等にしたものだ」
熱が入って来たのが、自分でも分かる。一旦、近くにあったペットボトルの水を飲む。そして、続ける。
「作戦内容を伝える。
まず、第1艦群によるECM攻撃で敵艦隊の通信システムを無力化。そこに、このアメリカの航空機部隊と、ホームランドの航空隊による多重攻撃を囮とし、俺たちがその隙に作戦海域までオスプレイで移動、降下し、敵旗艦を叩く」
ミッドウェイはスクリーンに映し出された『大西洋氷山空母姫』のアイコンを拳で叩いた。
「通信システムを失った艦隊全体に、旗艦襲撃の報が広がるまで、少なくとも10分はかかる。そこから部隊の移動等があり実際に反撃が開始されるまで30分程の余裕がある。
その間に、目標を達成し離脱するのが、我々のミッションだ。
旗艦が戦闘不能となれば、奴らは混乱し、撤退すると予想される。正確な統制が出来ていない部隊では、まともな成果を上げられないからな」
誰かが口笛を吹いた。誰かは分からないし、その意図も微妙だが、それでもミッドウェイは口を動かし続ける。
「さっきのソ連のドクトリンに合わせて言うなら、『電子的に全艦を一時的に機能不全にし、火力で旗艦1隻を潰すことで、敵艦隊全てを無力化する』って感じだ」
「…勝率は?」
珍しく真面目な口調で、川内が聞く。
「100%、パーフェクトだ」
「冗談は聞きたくないんだけど」
「…五分五分、でも希望的観測だな。正直なところ、40%程の成功確率だ」
「…」
「だからこそ、お前たちに問う。この40%に、アメリカの平和に、お前たちは命を賭けられるか?
安易に手を上げてくれるなよ。この場で、お前たちの生き死にが決まりかねんからな」
室内に重苦しい空気で占められる。まるで空気に実際に重量を持ったように、全員の体にのしかかる。
ほんの僅かでも弱気になれば、そのまま潰されそうだ。
その中でも、ミッドウェイは背を伸ばして立つ。この程度の重みに耐えれないのであれば、『アイランド』の名は名乗れない。
彼女は待つ。この中から、何人の『馬鹿』が出てくるか分からない。事によれば全員が怖気付いて、1人の手も上がらないかもしれない。
それならそれでも、構わない。1人でもやってやる。
しかし、彼女の奥底でそうはならないと確信を持っている部分がある。
そうだとも。コイツらは怖気付いても進んでくる覚悟がある。
手が上がる。
「君は、例え1人でも行くんだろう?」
「当たり前だ。俺たち『US NAVY』以外の誰がアメリカ国民を守る?」
「そうだね。でも、僕も頭数に入れてくれてもいいんじゃないかな?」
時雨は笑う。これで、『馬鹿』が2人になった。
「時雨が行くなら、夕立も行くっぽい!」
夕立が勢いよく立ち上がりながら手を上げる。これで3人。
「私も行くネー。まだ、旗艦に相応しいのがドッチか決まってない以上、ミッドウェイに好き勝手させる訳にはいかないネー!」
「いや、勝負は俺の勝ちだろ」
「あんなのノーカウントネ!空母が砲戦に突っ込んでくなんてダメでショウ!」
「いや、ちょっとよく分かんない」
「とにかく!私も乗りマース!」
4人。
「うーん。みんなが行くなら…アタシも…」
「そんな曖昧な理由で着いてこられても困るんだがなぁ、阿武隈」
場の空気に流される阿武隈に、ミッドウェイはピシャリと言った。
意外なことに、阿武隈は引き下がらなかった。
「んもぉ!私だって、みんなを守りたいんですけど!」
「…覚悟があるなら、それでいい」
5人。悪くない。
川内が手を上げる。
「質問し…」
「今回は夜戦だ」
ミッドウェイは川内の質問をさっさと答える。
『夜戦!』
川内と江風は目を輝かせながら待機室の椅子を勢いよく倒しながら立ち上がる。
マズイ。この2人の判断基準をもうちょっと考えてから答えるべきだったか。
「2人とも来る感じ?」
「だって夜戦だよ?待ちに待った夜戦!行かない手はないよね?」
「そうですよね、川内さん!江風も行くぜ!」
これで、馬鹿が7人。
予想外に来てくれた。
意外とカリスマあるのか?俺。
「OK。後は第2戦隊の連中…」
ドタドタと駆けてくる音。それが徐々に大きくなり…。
扉が勢いよく開かれた。あまりの衝撃に、蝶番の一部が壊れる。
「話は聞かせて貰ったわ!第2戦隊は、全員アンタの作戦に乗ってあげる!」
「壊した扉を直してから言ってください」
「あ、うん。ごめん」
部屋に入って来た瑞鶴は少し気落ちしたように答える。
「で、全員来るんだな?」
「ええ。アウトレンジで決めてやるわ!」
と、第2戦隊の艦娘たちがヒィヒィ言いながら入って来た。随分と急いで来たらしい。
最後に入って来た死にそうな顔のニュージャージーに、ミッドウェイは聞く。
「どう言う風の吹き回しだ?」
「フフン。私にかかれば、この程度朝飯前ですわ」
「具体的には?」
「特に何も」
「じゃあ何威張ってんだ、お嬢様(笑)?」
「あ"?」
「おおっ怖っ」
「…お互いに話し合っただけですわ。私たらは、お互いに相手のことを何も知りませんでしたもの。
だから、話しました。
そちらで全て始末してくれたおかげで、私たち暇だったので」
「相互理解…か?」
「ええ。貴方が早々に捨てたことです。ちょっと苦労しましたが」
「何をしたんだ?」
「殴り合いました」
「肉体言語」
ミッドウェイはニュージャージーをまじまじと見つめる。そう言えば、青あざがちらほら。
第2の面々も、どうも殴打痕があるようだ。どうやら、割と本気でやり合ったようだ。
「お互いに、良い汗かきましたわ」
「ただの脳筋じゃねぇか…。やめろ、爽やかな笑顔をするな。俺のお嬢様のイメージが壊れる」
「あら?最近のお嬢様は殴り合わないと?」
「?………⁉︎」
「私、何か変なことでも…」
「黙れ。喋るな。お前の訳の分からん話をこれ以上聞きたくない」
「あらそう。…私たちは何をすればいいの」
「第1と第2両方を合流させて、連合艦隊を構築。後は出たとこ勝負だ。…あぁ、編成はちょいと変える。変更後の部隊編成は『ギア』に上げとくから後で見てくれ」
「分かりましたわ」
「OK。…全員、傾注!」
ニュージャージーとの会話を雑に終わらせたミッドウェイは叫ぶ。
待機室内の少女たちが全員ミッドウェイに目を向ける。
「作戦決行は明後日の19:30時だ。神様へのお祈りなり、遺書書くなり、演習するなりして準備を済ませておけ。
最後に…。自国でもないアメリカを守る判断をしてくれた全員に…感謝する。ありがとう」
ミッドウェイはそこで言葉を止めて、辺りを見渡す。
全員が頷く。その瞳は、使命に燃えている。
これなら、間違いなくいける。
彼女は、謎の確信を抱きながら、次の言葉を口にした。
「以上。解散!」
弾かれるように、少女たちは動き出す。
それぞれが、決戦に備えて行動を起こす。
『Ice Hunt』まで、残り50時間。
お疲れ様でした。
騙して悪いがまだ大西洋編なんでな。太平洋側にはもう少し待ってもらおう。
ミッドウェイさんのサイコっぷり書いて楽しいんですけど、何というか…ヤバイ。
さて、今更ながらこの小説内での艦娘の設定がようやく定まってきました。 しばらくしたら、そのあたりの設定も番外編で書いていこうと思ってます。
次回はVS氷山空母編です。これが終われば、今度こそヴェラさんに…。出てくるかなぁ。
最後に、このような作品を読んでいただき、ありがとうございました。