「……まぁ、こんな感じだ」
江田が話し終えた。目の前にいる新人の艦娘であるヴェラ・ガルフは、納得したように頷いた。どうやら、自分の説明は上手くできていたらしい。
なにせ、ここまで何も知らない艦娘を見るのはこの『提督』と言う職に着いてから初めてのことだった。
話し始めてすぐに気になったのだが、この艦娘は知らないことが多すぎる。これまでの艦娘たちは、だいたい自分たちの使命が分かっていたし、それが分かっていない艦娘たちもある程度の事情は知っていた。
ところがである。
この、ヴェラ・ガルフと言う艦娘は使命どころか事情すら全く知らなかったのだ。
もちろん、これまでは物分かりの良い艦娘ばかりに会っていただけかもしれないが、この目の前にいる艦娘が物分りが良くないと言う風には見えなかった。それどころか、これまで出会った艦娘の中で最も知的な印象を与えられた艦娘であった。
そう言えば、この前妖精さんがこんなことを言っていたような気がする。
『今のところ、私たちが建造出来るのは第二次大戦当時の艦だけなの〜。それに、戦闘後に保護出来る艦娘も、第二次大戦当時の艦だけみたい〜』
ヴェラ・ガルフ。タイコンデロガ級打撃巡洋艦の26番艦。
第二次大戦中、確かにヴェラ・ガルフなる艦艇は存在した。しかし、巡洋艦ではなく護衛空母であったはずだ。
また、現在打撃巡洋艦と言う艦種は、タイコンデロガ級イージス巡洋艦のみ。しかし、タイコンデロガ級は25番艦までのはずで、今後も同型艦の建造予定はないとのこと。
ここから、導き出される結論は…。
「江田中将」
彼が口を開こうとした瞬間、ヴェラ・ガルフが話しを始めた。
「なんだ?」
江田は、出てきかけていた言葉を呑み込んで言った。
「かいつまんで言うと、私は艦娘と呼ばれる生物で、艦そのものがヒトの形になったもので『深海棲艦』なる敵対勢力と戦うためにいる、と言ったところですか?」
「まぁ、大体そんなところだな」
ヴェラ・ガルフは、しばし考えたような表情をしたのにち、何かを決意したように言った。
「江田中将。信じてもらえないかもしれませんが、言っておくことがあります」
江田は、それが何であるかある程度予想がついていた。おそらく、彼が出した結論と同じ内容だろう。
「私は、あなたがこれまで見てきた艦娘とはおそらく、根本から違います。まず、私は第二次大戦当時の艦でないこと。そして、もう一つは…」
江田は、次の言葉で自分の結論が正しかったことを知った。
「おそらく、私はこの世界の艦ではありません」
江田の冷静な顔を見て、ヴェラ・ガルフは予想通りだと思った。目の前にいるこの男は、頭が切れることはすでに分かっていた。
江田が、口を開こうとした瞬間を狙って話を始めたのもどれほどの切れ者かを測るためだ。
彼女は、笑みを浮かべて言った。
「やはり、分かっていましたね」
江田は、驚いたような表情をした後、肩をすくめて言った。
「君は全く恐ろしい艦娘だよ。ここまで、先が読める艦娘は初めてだ」
「褒め言葉として受け取っていいですか?」
「それは、君のよく切れる頭で考えてくれ」
「では、そうさせて貰います」
彼女はふと、窓の外に目を向けた。雨は止んだらしく雨音は聞こえない。暗くなった外は、深い夜の帳に覆われている。
江田も、それに気付いたらしく言った。
「おや、どうやらずいぶんと時間がたったらしいな。すまない、長居した。明日また来るが、その時までに考えていてほしいことがある」
彼女は、首をかしげた。江田は、その反応を予想していたらしく、説明を始めた。
「知っての通り、現在人類は『深海棲艦』の脅威に晒されている。各国軍も行動を起こしているが、あまり成果を挙げているとは言えない。
つまり、現時点で『深海棲艦』に対抗できるのは、艦娘だけと言えるだろう。と言うことで、君にも我々はと共に戦ってほしいのだが、君にそれを強要することはできないのだ」
彼女は、全く理解できないとばかりに首を振った。
「なぜです?私たちは、兵器ですよ。命令があれば動く。それなのになぜ、私たちの意思を尊重するんですか?」
江田の表情が曇った。彼女は、まずいことを言ったと即座に察したが、もう取り返しはつかなかった。
「ヴェラ・ガルフ、君はこの世界に来てまだそう時間が経っていないから分からないかもしれないが、艦娘は兵器ではなく1人の人間として、我々は見ている。
艦娘の扱いについても、国連や各国政府が行動を起こし、法律ですでにある程度のことは定められている。その中には、艦娘に戦闘を強要してはならないと明記されている。つまり、今戦っている艦娘は自分の意思で戦っているわけだ 」
「はぁ」
彼女は、分かったような分かっていないような感じで答えた。江田も、その返答に文句をつけずに言った。
「まぁ、すぐに分かれとは言わない。少しずつ分かって貰えばそれでいい。君のように言った艦娘も何人かいたし、彼女たちもそのうちに私が言ったことの意味が分かるようなった。君も、そうなってくれると嬉しいのだが」
彼女は、何も答えなかった。これまでの全てを否定されたような気がしたが、どことなくすっきりしたような気もした。
「…それでは、また明日来る。仕事が片付いてからになるが、少し遅れるかもしれない。なにせ、仕事が多いのでな。提督業もなかなかキツイ。
…そうだ、明日はこの基地の見学でもしたらいい。私が言った意味が分かるかもしれないぞ」
それだけ言うと、江田は彼女の病室から出て行った。
彼女は、それを見送ると再び窓の外に目を向けた。
月が、星が、輝いている。その光を、彼女はただ見ているのだった。
再び、提督執務室に戻って来た江田は、イライラしながら待っていた瑞鳳にこっぴどく叱られることになった。
30分ほどの説教の末、江田の謝罪を受け入れた瑞鳳は自分の部屋に戻って行った。
彼は、それを見届けると、ため息をついて柔らかく座り心地の良い椅子に腰をおろした。そこまで歳をとっていないはずなのに、これほど老けたように感じるのは、やはりストレスかと思ったがなぜかそれ以外に原因があるように思えた。
ふと、机に目を向けると数枚の書類があることに気付いた。彼は、胃が痛くなるのを感じながら、1枚目の書類を読み始めた。
1枚目の内容は、派遣していた艦隊が遠征から帰還した報告書で、ある程度の資源を入手したことを伝えていた。
2枚目の内容は、付近を警戒していた駆逐艦(艦娘ではない)が、数隻の潜水艦を捕捉したと言う内容で、撃沈はできなかったものの損害を与えることに成功した旨が書かれていた。
珍しく、悪い知らせがない。彼の経験上、良くない知らせは1番最初に見せるのが瑞鳳のやり方だった。
ならば、今回は良くない知らせがないか瑞鳳がやり方を変えて悪い知らせを最後にしたかのどちらかだ。
江田は、最後の報告書を読み始めた。
内容は、驚くべきものだった。こちらに向かいつつある輸送船団の護衛艦隊が、『深海棲艦』の艦隊を撃破したと言うのだ。
これまでも、そい言うことはたまにあったが、重巡を沈めたら良い方で大体は駆逐艦や軽巡を沈めたと言う程度のものだった。
ところがである。
今回は、重巡どころか戦艦や空母まで沈めたと言うにわかには信じられないものだった。
内容が正しいか確認するために、彼はその報告書を5回ほど読み返した。どうやら、自分の目がおかしくなったわけではないらしい。
やがて、3枚の報告書を処理済みの方に追いやった彼は、立ち上がって外に目を向けやた。
どうも気になる。
まるで、停滞していた時間が動き出したかのようなこの突然の勝利と戦果。これまでどんなに攻撃しても、艦娘以外が沈めることができなかった空母や戦艦が、あっけなく沈んだ。
何かが変わりつつある。
江田にはそう思えて仕方がなかった。
さて、できました。やっぱり短いですね。読みやすいと言っていただければ嬉しいですが、展開が遅いと言われるとその通りです。
えー、次は設定を投稿する予定です。独自設定のオンパレードですが、できれば見ていただきたいと思っています。
実は、執筆中に思いついた内容でして、投稿者本人もこんなことになるとは思っていませんでした(笑)。
最後にこのような作品を読んでいただきありがとうございました。