胃腸風邪にやられてダウンしていました。すみません…。
それでは、投下します。
5月12日
耳元で凄まじい爆音が響く。
驚いたヴェラ・ガルフは、ベッドから飛び起きた。
そこで、彼女は気付いた。
このベッドは二段ベッドで、彼女の寝ている空間はそう高くないことに。しかし、気付いた時にはもう遅く、視界を覆う上のベッドが見えていた。
ガスッ!と言う鈍い音し、彼女の意識が飛びかけた。いや、一瞬飛んだ。
その後に襲いかかってきたのは、猛烈な痛みで、彼女は声にならない苦痛の叫びを発しながらベッドをのたうち回り、やがて落下した。
二段ベッドの下と言えど、高さはざっと30センチくらいはある。そこまで高いとは言えないが、頭をぶつけ、少なからずパニックを起こしている彼女には充分に高かった。
背中から落ちた彼女は、しばしの間痛みを忘れ、呆然と横たわっていた。が、すぐに痛みはぶり返し、彼女は再びのたうち回り始めた。
ヴェラ・ガルフ、この世界に来て初の被害である。
ふと、隣にあったもう1つの二段ベッドから視線を感じ、彼女はそちらを見た。
「あの〜、大丈夫ですか?」
そう言ったのは、ヴェラ・ガルフと同室の重巡古鷹である。どうやら、先ほどの音で起こしてしまったらしい。
第一次ソロモン海戦の立役者の1人である古鷹だか、その壮絶な最期のことを考えると、どこか共感が持てるような気がする。
「大丈夫そうに見えたら、あなたの目は節穴ですよ」
と、ヴェラ・ガルフは、転がりながら言った。痛みは徐々に治まってきているが、頭はまだクラクラする。
「確かに、大丈夫じゃなさそうですね…」
古鷹は、気の毒そうな顔をして言った。
しばらくの間転がっていたヴェラ・ガルフは、やがて起き上がりこの悲劇の元凶を睨み付けた。
目覚まし時計は、未だに音を響かせている。
彼女は、立ち上がり辺りを見渡して何かを探し始めた。
「あの〜、時計壊そうとしてないですか?」
古鷹の声にヴェラ・ガルフは、動きを止め、ゆっくりと振り返って言った。
「…なんでバレたんですか?」
古鷹は、ため息を吐きながら言った。
「今にも棒か何かで叩き潰してやろうって顔してますから」
ヴェラ・ガルフは、苛立ちげな顔で叩きつけるように目覚ましを止めた。
古鷹の二段ベッドの上の方が騒がしくなってきた。どうやら、もう1人の同居人も起こしてしまったらしい。
「さっきからうるさいな〜も〜」
古鷹の妹である加古である。起工したのは、加古が先であるがクレーンの故障によりネームシップを取り損ねた不幸(?)な艦である。
また、第一次ソロモン海戦で古鷹と共に出撃したが、帰還途中米軍のS級潜水艦S-44(SS-155)に撃沈されている。
バーで朝まで飲むのが常だが、今日は珍しく早めに床についたらしい。
ヴェラ・ガルフは、素直に謝罪した。
「すみません、加古さん。そのうち美味しい酒を奢りますから」
加古は、眠そうな目を瞬時に輝かせて言った。
「本当!ヤッター。ちょっと高くて手が出せないヤツがあったんだよね〜。ラッキー」
「あまり高いのはダメですからね」
と、クギを刺しておいたがおそらく聞いていないだろう。ヴェラ・ガルフは、冷汗をかきながら考える。艦娘も、給料は貰えるらしいが、今回の給料は加古の酒で消えることだろう。だが、それは仕方がないことだと諦めるしかなかった。
ふと、古鷹が疑問を持ったらしくヴェラ・ガルフに聞いてきた。
「そう言えば、ずいぶん目覚ましが早いですね。何か用事でもあるんですか?」
ヴェラ・ガルフは、しばしためらったがやがて観念したように言った。
「ちょっとした体力作りですよ。この身体を持った以上、前は必要なかった体力が必要になります。あなた方はこれまでの戦いで鍛えられていますが、私はそうではありません。昨日の体力測定で分かりました…」
「ああ。あれは…確かにその…そうですね」
「だからこそ、私は人一倍努力しなければいけないんです!」
古鷹は、再び気の毒そうな顔をして言った。
「頑張ってくださいね。体力が、少ないのは何もあなただけじゃないですから」
古鷹のその言葉は、ヴェラ・ガルフに何故か深く突き刺さるのだった。
さて、色々と忙しかったこの2日間である。
この基地に正式に配属になったのは、基地内の案内を受け、江田と話し合いをした次の日で、その日は今後の扱いや給料、住居に食事など生活に必要なものから仕事内容まであらゆる書類の処理で1日を潰し、昨日は昨日で基礎体力の測定が行われた。
体力測定は悲惨の一言につき、ほとんど無いに等しかった。その後行われた基礎知識のテストは、この基地におけるトップの成績を叩き出したが、その前の体力測定の結果がヴェラ・ガルフに重くのしかかり、彼女のプライドをいたく傷つけた。
だから彼女は、ランニングでもしようと思ったのだ。
目標は、3キロ。そこまで長い距離ではないが、彼女にとっては充分に長い距離だった。
意思は強い自信はあった。たとえ、体力が無くとも意思の力でなんとかなる。精神論ではあるが、彼女はそれを信じていた。
しかし、走り始めてわずかに5分。疲労を感じている自分が信じられなかった。まだ、そう長い距離は走っていない。馬鹿な。
しばし走ったのち、ついに彼女は立ち止まり荒く息をした。
走った時間はわずか10分。ゆるいランニングであったため、距離はだいたい1キロと少し。目標の3キロに全く届いていなかった。
再び走ろうかと思ったが、体力的に無理があると判断し朝食までまだ時間があることに気付いた彼女は、今度はゆっくりと歩き始めた。
忙しくて気付かなかったが、この基地もどこか緊張感がありピリッとした空気が流れている。
士気は高くなくとも基地は基地かと考えながら、彼女は近きにあった柱時計を見た。
0620。つまり6時20分。他の基地もそうだが、艦娘たちは海軍と同じ時間に食事をする。この世界における日本国防海軍は、彼女の世界で言うところの海上自衛隊に相当し、朝食の時間は同じ0630、つまり6時30分であった。
もっとも、この時間に拘束力はほとんどなくどちらかと言うと食堂が開く時間と言う方が正しかった。
彼女は、朝食を取るために再び歩き出した。
他の基地には、鳳翔さんや間宮さんたちが食堂などで働いているらしいが、あいにくこの基地ではそんな贅沢は言っていられない現状があった。いつでも放棄できる前線基地では、食えたらマシと言う考えが流れておりこれもまた、基地内の士気を下げている要因の一つになっている。
いたるところに存在する問題点を見ながら、ヴェラ・ガルフは1人で机を占領し、朝食を食べていた。
食事の量自体は軍隊らしく多めで、日本の朝食らしく焼き魚に白飯、味噌汁に漬け物、納豆、海苔、卵焼き、そしてなぜかサラダなどがありしっかりと栄養バランスを考えられている。
これだけ見れば文句はないのだが、食堂で働く人間の動きを見ているとその動きの一つ一つに違和感があった。
食事自体は温かいのだが、焼いているわけではないらしい。つまり、この焼き魚はレンジか何かで温めたもの、可能性で考えると冷凍食品であるかも知れない。
経費削減と考えるのが妥当で、そこからこの基地の逼迫具合が再び浮き彫りとなるのを、彼女は感じたのだった。
朝食を済ませたヴェラ・ガルフは、江田に呼ばれていたことを思い出し、食堂から少し距離のある泊地司令部に向かった。
数分ほど歩いたその時、後ろに気配を感じ振り返った。
そこには2人の軽巡、確か天龍と龍田だったか、がいた。
天龍は、古鷹と加古同様第一次ソロモン海戦に参加しており、空母大鳳を沈めたことで有名な米潜水艦アルバコアにより撃沈された。
龍田も、米潜水艦サンドランスに沈められている。
完成当時は、世界水準を軽く超えていたがそれから10年後には特型駆逐艦に着いて行くのさえ困難な状況になり、それ以降の駆逐艦にはそもそも着いて行けないほどの鈍足だった(33ノット。鈍足で有名な夕張より1ノット速いだけである)。
太平洋戦争当時の段階で、そこいらの駆逐艦より弱いと言う気の毒な軽巡であるが、本人たちはそこまで気にしていないらしい。
天龍が、駆け寄ってきて肩を掴み、思い切り揺らしながら言った。
「よぉ、お前が噂の新人か?オレの名は天龍、フフフ怖いか?」
ヴェラ・ガルフは、揺られるままに言った。
「はい、ヴェラ・ガルフと言います。よろしくお願いしますね…、あっ、ちょっとこれ以上揺するの止めてください、で、出る…朝食が…」
天龍は、急に手を放したのでヴェラ・ガルフは後ろによろめいた。顔が青くなっているのが分かった。
天龍は、悪びれるわけでもなく謝った。
「おっと、すまねぇな。ついやっちまったぜ」
ふと、後ろに嫌な気配を感じ取った天龍は振り向くと同時に龍田に頭を引っ叩かれた。
「ごめんなさいねぇ、天龍ちゃんが悪さして。私は龍田よ〜、よろしくね」
ヴェラ・ガルフは、この軽巡がかなり危険な人物であることを瞬時に悟った。皮肉の一言でも言いたいところだが、ここはよしておこう。
「よろしくお願いします、龍田さん」
後ろでは、天龍が何やらギャーギャー言っているが2人はそれを無視しながら話し始めた。
「もしかして、あなたも提督に呼ばれたの?」
「はい。理由は聞いていませんが…」
「まぁ、行けばわかるんじゃないかしら〜」
終始穏やかな口調だか、それがさらに恐ろしく感じるのはなぜだろうか?
答えが出ないまま、3人は泊地司令部に到着した。
提督執務室には、相変わらず疲労感溢れる江田が座り心地の良さそうな椅子に座りながら書類を見ていた。いや、正確には見ている振りをしているといったところか。
まぁ、それはどうでもいいことだが。
しばらくの間、書類を見ていた江田はそれを机の端の方に流し、こちらに視線を向けた。忙しい雰囲気を醸し出そうとしているが、残念ながらできていない。
江田は、3人の顔をそれぞれ見た後言った。
「さて、諸君らを呼び出したのは他でもない新しい艦隊編成を組むからだ」
その言葉が、全員の頭で理解するのを待つように少しの間をあけた江田は再び話を始めた。
「今現在の第二艦隊にヴェラ・ガルフを編入し、戦闘力の強化を図る」
第二艦隊は、龍田を旗艦とした水雷戦隊で天龍、吹雪、白雪、初雪、深雪の全6隻の編成である。ちなみに、天候が荒れる時は出撃していない。出撃しない理由は、天龍型の2人が特型駆逐艦たちに着いて行けなくなるからだろう。
それはさておき。
ヴェラ・ガルフは、焦りながら言った。
「ちょっと待ってください。今の私の体力では部隊に付いて行ける気がしません」
「なに、問題はない。別に実戦をするんじゃない。あくまで偵察任務に付いて行くだけだ」
ヴェラ・ガルフは、しばし躊躇ったのちに言った。
「分かりました。私は別に構いませんが、お二方が認めてくださるかどうか…」
「オレは別に構わねーぜ、なぁ龍田」
「天龍ちゃんが言うなら私もそれでいいけど」
即答であった。
江田は満足気に頷くと言った。
「と、言うわけだ。ヴェラ・ガルフ、第二艦隊への配属を命ずる」
「了解」
ヴェラ・ガルフは、諦めに近い何かを感じたのだった。
ちょっとだけ長くなりました。おかげでずいぶんと疲れました(笑)。
体調には気を付けて頑張っていきます。
そう言えば、もう直ぐ夏イベですね。春はほとんど何もできませんでしたが、今度こそは必ず…。
と言うわけで、皆さんも頑張ってください!また、私のように体調を崩さないようにしてくださいね。
最後に、このような作品を読んでいただきありがとうございました。