ラブライブ! A Return Hero A Return Legend   作:リベリオン

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4ヶ月ぶりになって申し訳ないです。

あと今回からあとがきに簡単なレジェンドライダーロックシードの解説載せる事にしました。それに合わせてこっちでは羽鐘のプロフィールを簡単に掲載しておきます。

プロフィール

名前:天城羽鐘(あまぎ はがね)
年齢:16歳
身長:173cm
誕生日:6月22日
星座:かに座
好きな食べ物:ポテトサラダ
嫌いな食べ物:ピクルス
イメージカラー:黒
一人称:俺


第10話 プールへGO!

第10話 プールへGO!

 

 

「合宿だよ! 合宿!」

「合宿?」

 

 昼過ぎに突然穂乃果から呼び出され、俺は待ち合わせ場所のバーガーショップにやって来た。

 来てみるといつもの面子が揃い踏みしていて、俺も一旦注文しに行ってから皆の所に戻ってくる。

 で、穂乃果の奴はいきなり何を言い出すんだ?

 

「みんなで合宿に行こうよって話してたの」

「ああ、なるほど。いいんじゃないか?」

 

 苦笑いしながら穂乃果の説明に補足を入れたことりに納得して頷いた。

 確かに連日の暑さには俺も参っていたが、穂乃果たちよりはずっと恵まれた環境だろう。

 UTXは冷暖房を完備していて、当然フィットネスクラブやレッスンルームも例外ではない。

 室内にダンスレッスンが出来るスペースが無く、屋外でダンスレッスンをしている穂乃果たちはいつも大変だし、普段とは違う環境なら気分転換にもなるならそれも悪くないだろう。

 

「でも場所とかはどうするんだ?」

「真姫ちゃんのウチの別荘を使わせてもらえるんだ~♪ しかも、目の前が海なんだって!」

「西木野さんの?」

「まあ、どうしてもって頼まれたから」

 

 ハイテンションな穂乃果とは対照的に、いつも通りの西木野さんは毛先をクルクル弄りながら素っ気なく答える。

 さすが家業が病院の家……別荘の1つや2つは持っているのか。

 

「うん、行ってもいいと思うけど? 楽しんでくればいいさ」

「え。羽鐘くんも来るんだよ?」

「は?」

「え?」

 

 きょとん、と穂乃果を見る。言っている意味がまったく分からなかった。

 けど穂乃果も俺の反応の意味が分からず、目を丸くして俺を見る。

 

「えっと……誰が行くって?」

「羽鐘くんに決まってるよ」

「誰と?」

「μ'sの皆と」

「………………いや、行かないぞ俺」

 

 穂乃果の言葉の意味をようやく理解し、俺は少し間を置いてきっぱり断った。

 

「えぇ~!?」

 

 すると分かりやすすぎる穂乃果のリアクション。おい、他にお客さんいるんだから静かにしろ。

 

「あのなあ……お前の幼馴染みはそこまで神経図太くはないぞ?」

 

 そもそも年頃の女の子9人が寝泊りする場所に、同じく年頃の男がほいほい付いて行くほうが不味いだろう。親御さんたちからしても。

 もちろんそういう間違いが起きたりしないと誓えるが、常識的に考えてもダメだろう。

 しかしこの件に関してはμ'sのメンバー内でも反応は分かれ、穂乃果のように納得が行かない者、まあ当然かと納得する者、ちょっと残念だけどほっとしている者とバラバラだ。

 

「天城先輩もいこーよー! 海辺の合宿ー!」

「いや行けないって」

 

 ブーブーブーイングする星空さんに冷静に返すと、俺は海未の方を見た。

 

「海未だって男の俺が合宿に付いていくのは嫌だろ?」

「え? いえ、羽鐘でしたら私は別に……」

「へっ?」

 

 とりあえず俺が逃げ切る事に使えそうな相手に声を掛けるが、意外や意外。まさかの賛同意見に意表を衝かれてしまった。

 本当、殆ど間を置かないであっさり答えたよ海未の奴。ぽかんと海未を見ていると、どうして俺がそんな顔をしているのか分からない海未は小首を傾げる。

 

「ほほ~う? あの海未ちゃんが随分あっさりな反応やな~?」

「え゛っ!?」

「なーんか気になるわね、海未のその態度」

 

 その答えに別の意味で食いついた人がいた。東條先輩と矢澤先輩の2人だ。

 片や「なんか面白そう♪」っていう理由と、片や「なにか裏があるんじゃない?」っていう疑惑からなんだろうけど。

 けどまさか自分が狙われるとは思ってもいなかった海未は顔を赤くして、慌てたように弁解を始める。

 

「べ、別に他意はありませんよ! 羽鐘は幼馴染みですし、信頼もしていますから! 一緒に寝たことだってありますし……」

「「一緒に寝た!?」」

「子供の頃の話ですっ! 変な誤解しないでください! それに穂乃果たちも一緒でしたから!」

「あーそうそう、そんな事あったよね~」

「誰が羽鐘くんの隣で寝ようかって揉めて、その間に羽鐘くん1人で寝ちゃってたりしたよね~」

「あったなぁ、そんな事」

 

 質問責めに遭う海未を置いて、のほほんと昔を思い出している2人に俺も同調する。

 小さい頃は3人毎日のように一緒に遊んでいて、それで遊び疲れると昼寝をする事も度々あった。

 そうすると誰が俺の隣で寝るかでちょっとした騒ぎになった事がよくあって、その時は海未もことりも珍しく譲らなくって、「じゃーお前らが隣同士で寝ればいいじゃん」って言ったら怒られた事があったっけ。

 

「えーっと……じゃあ俺が同行するのに賛成って人は?」

「はーい!」

「一緒にいこ、羽鐘くん♪」

「合宿に行くにゃー!」

「わ、私も来てほしい……です」

「μ'sのコーチをしてくれるって言うなら、来るべきなんじゃない?」

「来てくれると助かるんだけど……ダメかしら?」

 

 弄っている東條先輩と矢澤先輩、あと弄られている海未は除いて満場一致。海未はともかく、東條先輩たちも思うところはあれど俺の参加には賛成と見て間違いないだろう。

 だけどこれで諦めたらただのヘタレだ。例え反対意見が俺1人しかいなくても、どうにか彼女たちを説き伏せなければいけない。

 それから俺はじっくり時間をかけて話し合い、どうにか『今回の合宿参加は見送り』とさせてもらう事になった。その時の皆の残念そうな顔が胸に突き刺さったが、こればかりは俺も譲れない。

 俺だって年頃の16歳男子だ。人並みに異性への興味だってあるが、同時に羞恥心と理性もあるんだ。と言うか皆意識してないのかもしれないけど、俺も男なんだよ?

 その後その場でしばらくお喋りして解散となったが、帰りはしょげる幼馴染みたちをどうにか宥め続けるのだった。

 

「って言う事があったんだけど……」

『ふふっ、一緒に行けばよかったじゃない』

「いやいやいや」

 

 その日の夜、綺羅さんから電話が掛かってきて今日の事を話していた。

 きっかけは彼女の方から「連絡先交換しない?」と誘われ、断る理由も無かった事から交換して以来、時々電話やメールが来る事がある。

 スピーカーからはくすくすと笑い声が聞こえて、あー、やっぱりからかってるなぁと言うのが容易に判断できた。

 

『ところで天城くんって、彼女たちが合宿に行ってる間何か予定あるの?』

「いや、特に無いけど」

『じゃあプールに行かない?』

「……誰と誰が?」

『天城くんと、私と英玲奈とあんじゅで』

 

 いや、それって不味いんじゃないだろうか。

 相手は現在トップクラスの人気を誇るスクールアイドルだ。それが男と遊びに出かけるというのは問題になりそうな気がするけど……。

 

『大丈夫よ、友達と遊ぶだけなんだから不自然な所はないでしょ?』

「そういう問題かな……」

『心配なら天城くんも友達誘えばいいじゃない』

 

 それもそうだけど……俺は応じつつ考え込む。

 UTXで特に仲のいい男友達と言えば新導が浮かぶが、彼は登校日まで家族と共に帰省しているから夏休み中はほぼいない。

 他にも何人か浮かんだけど、そもそもあのA-RISEの3人とプールへ遊びに行くと誘われれば大半が尻込みするのが目に見えている。

 

「(話せば俺たちと同じだって分かるんだけどなぁ……)」

 

 それが伝わらないというのはもどかしい事だ。

 ……とにかく、このままじゃ俺が居心地悪いし誰か誘えそうな人物に心当たりはないだろうかと頭をフル回転させる。

 

「……あ」

『なに? どうかした?』

 

 その時ふっと脳裏に2人の人物が浮かんで、思わず口に出してしまった。

 もしかしたら……あの子達なら一緒に来てくれるかもしれない。

 

「ああ、うん。ちょっと心当たりがあって。ダメ元で誘ってみようかな」

『そう。じゃあ話がついたら連絡して。時間と待ち合わせ場所決めたいから』

「分かった。またあとで」

 

 綺羅さんとの通話を一旦切ると、俺はスマホに登録してある連絡先リストをタップし、リストをずっと降っていくと目的の人物の名前が出て通話をタップした。

 

「――もしもし、雪穂ちゃん? 羽鐘だけど……」

 

 

 それから数日が経ち、俺は雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんの3人で歩いていた。

 

「ありがとうございます、羽鐘さんっ」

「いやいや、こっちこそ来てくれてありがとう」

 

 亜里沙ちゃんは最近になってロシアから日本に来たらしく、日本の夏はもちろんプールも初体験らしく大はしゃぎしていた。

 ダメ元で誘ってみたが2人とも予定は空いていたらしく、あっさりOKされると穂乃果たちの合宿初日に予定が決まり、俺は2人と綺羅さんたちとの待ち合わせ場所に向かっている。

 ちなみに……「学校の女友達に誘われてプールに行く事になったんだけど、1人じゃ心細いから雪穂ちゃんたちも来ない?」と言う触れ込みで誘っていて、相手の詳細については話していなかった。

 

「にしても学校の『女友達』と……ねぇ~?」

「な、なに…?」

「ううん。ハガにぃも案外隅に置けないなーって。お姉ちゃんたちから合宿に誘われたのを断ったのに、プールで遊ぶのはいいんだ」

「ぐっ……」

 

 それを指摘されるとぐぅの音も出ないわけで、雪穂ちゃんのトゲのある指摘に俺は顔を顰めてしまう。

 いや、まだこの程度で済むのなら軽症だろう。誘った時点で相手があのA-RISEの3人と知れればどんな大騒ぎになるか……考えただけでも恐ろしい。

 けど結局知られてしまうのだから早いか遅いかの違いだけで、多分軽いであろう後者を選んだんだけど。

 

「話を聞こうじゃないか雪穂ちゃん。何が望みかな?」

「うーん……帰りに美味しいジェラートが食べたいかなぁ」

「OK、それで手を打とう。亜里沙ちゃんもどうかな? ごちそうするよ」

「本当ですか? やったぁっ!」

 

 だからこの程度の取引も許容範囲だ。もちろん亜里沙ちゃんの懐柔も怠ってはいけない。

 亜里沙ちゃんの性格からして他者を嵌める事はしないだろうけど、天然な所があるからついうっかり爆弾発言をしてしまう可能性だってある。

 

「それで、その学校の友達は?」

「ちょっと待って。えーっと……」

 

 待ち合わせ場所について、雪穂ちゃんに振られて俺は綺羅さんたちの姿を探して周りを見回す。

 と、キャスケットを被りメガネを掛けていた小柄な女の子も誰かを探して周囲を見回していたようでばったり目があった。

 

「天城くーん、こっちこっち!」

 

 向こうから先に声をかけてくれて、俺たちは彼女たちの所に向かう。

 そう言えば私服姿の彼女たちと会うのって初めてだな……と向かいながらぼんやりと考えた。

 綺羅さんは結構活動的な格好で、トップスはタンクトップとその上から半袖のジャケット、ボトムスはショートパンツとかなり露出が覆い。けど綺羅さんらしいと言えばらしいから納得してしまう。

 次に統堂さん。トップスはタンクトップに見えるがそれによく似たノースリープのホルタートップで、ボトムスはスキニージーンズを穿いている。こっちもクールな印象の統堂さんとよく似合っているな……。

 最後に優木さんはトップスにノースリーブのタートルネックにボトムスにはプリーツ……いや、キュロットスカートだろうか?

 そして当然と言えば当然だが、3人とも有名人だからメガネをかけたりして簡単に変装していた。

 

「良かったー、中々見つからないから電話しようとしてたのよ」

「考えてみればお互いに私服で会ったこと無かったからね。ついいつもの制服姿を想像して探してたよ」

「それもそうよね。で、彼女たちが?」

 

 綺羅さんは苦笑してから、俺の背後にいる雪穂ちゃんたちを見ようと背を伸ばす……けど、俺の方が圧倒的に身長が高いせいで見えない。

 俺はくっと笑ってから横にずれ、雪穂ちゃんたちを紹介しようとするが――

 

「「………………」」

 

 2人は石像のようにその場で固まっていた。

 何故、なんて考えなくても分かる。目の前にいるのは超がつくほど有名人で、UTXへの入学も考えている雪穂ちゃんはよく知る人物たちだったから。

 あー、うん。やっぱそうなるよねー……だから事前には綺羅さんたちのこと伏せていたんだけど、結局こうなったか。

 

「えーっと、2人とも知ってると思うけど紹介するね。スクールアイドルA-RISEの「ハガにぃぃいっ!」ぐえっ」

 

 何も知らない風を装いながら紹介しようとすると、雪穂ちゃんに胸倉を思いっきりつかまれて引っ張られた。

 

「どっ、どうどうどういうこと!?」

「な…なにが?」

「どうしてあのA-RISEの3人がここにいるの!? 私聞いてないよ! なにこれドッキリ!? カメラどこに仕掛けてるの!?」

「お、落ち着いてよ雪穂ちゃん……」

「落ち着ける分けないでしょっ!」

 

 よほど混乱しているのか雪穂ちゃんは俺の胸倉を掴んだまま前後に揺らして喚き、亜里沙ちゃんに至っては「あわわ…」と綺羅さんたちを前に緊張で震えている様子だった。

 

「キ・チ・ン・と! 説明してくれない!? 『学校の女友達とプールに行く』って聞いてたのに!」

「だ…だから、その女友達なんだけど……」

「えっと……お取り込み中のところ割り込んで申し訳ないんだけど、天城くん何も説明してなかったの?」

「してたら驚くと思って……」

「どっちも驚くに決まってるじゃん!」

 

 うん、そうだよね。本当に申し訳ないと思う。

 その後も説教を続けようとした雪穂ちゃんだったが、綺羅さんたちに宥められて仕方なしと行った感じでその場はひとまず納めてくれた。

 

「じゃあ知ってると思うけど、改めて自己紹介するわね。私は綺羅ツバサ。天城くんとは同じクラスで隣同士なの」

「私は統堂英玲奈だ。今日は完全にプライベートだから、そんなに緊張しないでくれると助かる」

「優木あんじゅよ。天城くんとはツバサを通して知り合ったの。よろしくね」

「あ…絢瀬亜里沙です。今日はよろしくお願いします」

「こっ、高坂雪穂ですっ……すみません、ハガにぃちょっと借りますね!」

 

 互いに自己紹介を済ませるや否や、またもや雪穂ちゃんが俺の腕を引いて耳元で囁いた。

 

「なんで言ってくれなかったのハガにぃ! A-RISEと知り合いだって……!」

「そうですよ! 亜里沙凄く緊張してます……!」

「言ってなかったっけ……?」

「「言ってない(です)!」」

 

 うん、そうだよね。2人だけじゃなくμ'sの皆にも話していないから。だって大騒ぎになるのが目に見えてるし。

 

「ってことはお姉ちゃんにも話してない……」

「……はい」

「じゃあまさか……ハガにぃってスパイなの!?」

「ハ…ハラショー…!」

「いやそれは無いって。彼女たちとは普通に友人としての付き合いだから……」

 

 その時には当然スクールアイドルに関することも話題に上がる事があるが、極秘情報(と言ってもμ'sに極秘とされるほどの話題なんて無いけど)をリークする事なんてない。

 むしろ俺の方が参考になる意見を多く提供してもらえているから恐縮しっぱなしだ。

 

「えっと……今回の件はくれぐれも内密にしていただけると……バレたら大騒ぎになると思うから」

「だろうね……見返りは?」

「プールでの飲食費は全部俺持ちでどうでしょうか? お嬢様」

「仕方ないなぁ……亜里沙もいい?」

「うん……けど本当に良いのかなぁ?」

「皆には折を見て俺が話すから……」

 

 何とか2人を説得して納得してもらい、俺たちは改めてプールに出かけるのだった。

 

 

 電車に乗って、さらに直通のバスまで使って移動する事1時間少々。俺たちがやってきたのは都内でも有数の大型レジャー施設だ。

 元々遊園地なのでプール施設だけでなくジェットコースターなどの遊戯施設もあって、敷地内にはスーパー銭湯に野球場、サッカーグラウンドと様々な施設も入っている。

 ちなみに今回遊びに行くにあたって、場所の選定などは完全に綺羅さんに一任していたから完全にノータッチだ。それでいいのかと突っ込まれるかもしれないが、そもそも日本に戻ってきて日も浅くまだ地元を離れる機会も暇もなかったし大目に見てほしい。

 

「はぁー……すっごいなこれは」

「規模だけで言えば都内最大だもの。遊園地も回るとなると、とてもじゃないけど1日じゃ回りきれないわよ」

 

 そのスケールに圧倒されていると、綺羅さんが当たり前のように返してくる。

 とは言え今回の目的はプールと言うわけだから、遊園地の方は見送って俺たちはプール施設の方に向かった。

 入場料を払って更衣室で男女ごとに別れると、俺は適当なロッカーを見つけてさっさと着替える。

 女子と違って男の着替えなんて早いし楽なもので、水着を穿いてラッシュガードを引っ掛ければ終了。あとはロッカーに付属しているバンド付きの鍵を掛ければ……。

 

「……………」

 

 閉じようとした所で、リュックから覗くドライバーに目を留める。

 肌身離さず持ち歩いてきているが、流石にプールにまで持ってくのはまずいよな……。

 

「(ああ…いかんいかん)」

 

 どうにもこの頃ネガティブな思考がちらついてきて困る。頭を振って考えを振り払うとロッカーを締めて鍵を掛け、更衣室を後にした。

 

「はぁー……」

 

 着替え終えて外に出るとと改めてその規模の大きさに驚かされた。

 定番のスイミングプール以外にもビーチを模した波のプール、1週250メートルの流れるプール、そして飛び込みプールやスライダー3種類とバリエーション豊富。これなら1日中遊び回れるだろう。

 壁に張られていた見取り図を見て唸っていた時、女子更衣室側からぞろぞろと団体が出てくる。

 

「お待たせ」

 

 見取り図を眺めていた俺に気づいた綺羅さんが、にこりと笑いながら声を掛けてきた。

 しかし……こうして彼女たちの水着姿を見ると、これは役得なのかなぁとつい思ってしまう。

 亜里沙ちゃんはオフホワイトのシンプルなビキニで、雪穂ちゃんは……統堂さんの背後に隠れていて分からないな。

 綺羅さんは赤とオレンジのタンキニで、ボトムスはショートパンツの水着か。私服といい水着といい、そういう感じのが好みなのかな。

 統堂さんと優木さんは共にビキニで、それぞれ白と黒、白と淡いピンクのカラーだ。統堂さんの水着は亜里沙ちゃんと同じシンプルなビキニだけど、優木さんはボトムスがスカートのデザインをしている。

 綺羅さんたちは当然としても、雪穂ちゃんも亜里沙ちゃんも姉に負けず劣らずで将来有望な美少女だからな……そもそも同年代の女の子とプールに遊びに行く事なんて今まで無かったから柄にも無く緊張している上に目のやり場に困る。

 

「感想の1つくらい言ってもいいんじゃない?」

「あー、うん。個性的でよく似合ってると思うよ、みんな」

 

 眉間に皺を寄せながら言ってきた綺羅さんの言葉で、俺は慌てて無難な感想を口にした。どうやらいつまで経っても俺が何も言わないから痺れを切らしたらしい。

 実際彼女たちの水着は良く似合っているし、それ以上の言葉が出てこないんだけど……。

 

「なんで雪穂ちゃんは統堂さんの後ろに隠れてるの?」

「ぎくっ」

 

 気になっていた疑問をなんとなく訊いてみると、雪穂ちゃんはびくりと肩を震わせてさらに統堂さんの影に隠れてしまう。

 統堂さんは女子の中では比較的背の高い方で、彼女も困ったような、呆れたようなそんな表情を浮かべていた。

 

「別に恥ずかしがる事はないと思うが……」

「そうよ。せっかく可愛い水着なんだから、天城くんに見せてあげないと♪」

「べっ…別に恥ずかしいわけでも、ハガにぃに見てほしいわけじゃないですよ!?」

「そう? じゃあ出てきても問題はないでしょ?」

「うっ……うぅ」

 

 統堂さんと綺羅さんの誘導にまんまと引っかかって、雪穂ちゃんは暫く唸ってからようやく出てきた。

 雪穂ちゃんが着ていたのは赤味が強いオレンジの、ホルターネックのビキニだった。ボトムスも同色のミニスカートのようにも見えるパレオを纏っている。

 確かに雪穂ちゃんに似合っているし、恥ずかしがる事は全然無いと思う。

 

「うん。変なところなんてないよ。みんなの言うとおり似合ってると思うよ」

「ほら、言ったとおりだったでしょ雪穂!」

「っ~…………あ、ありがと」

 

 だからこそみんなの意見に同調すると、雪穂ちゃんは耳までトマトみたいに真っ赤にして俯き、ボソッと小声でお礼を言った。

 それにしても……知り合ってまだ1時間ちょっとしか経っていないが、女性陣はそれなりに打ち解けてきたらしい。最初は雪穂ちゃんたち尻込みしてるから大丈夫だろうかと思っていたが、心配無用だったかな。

 とにかく、ここで話していても時間がもったいないから泳ぎに行こうという話になって、俺たちはまずスイミングプールに足を運んだ。

 やはりと言うか、結構視線を感じるのは仕方ない。やっぱり今人気のスクールアイドルとなれば見間違えないはずもないし……。

 

「一緒にいる男は誰だ……?」

「親戚で……付き添い?」

 

 ……誰かの恋人に見られないだけ、まだいいのか。どちらにしても居心地が悪いのは変わらないけど。

 そして渦中のはずなのに人目を気にしてない(主に綺羅さんが)彼女たちは、やっぱこの手の視線を受けるのは慣れてるのか、はたまたやましい事は何もしてないから開き直ってるのか。

 

「さあ、勝負よ天城くん!」

「いきなり何を言い出してるのさ……」

「ここに来たならまずはどっちが速いか勝負に決まってるじゃない。泳ぎは自由形で、先に向こう岸に着いた方が勝ちね」

 

 まだやるとも何も言ってないんだけどなぁ……まあいいか。

 

「言っておくけど、手加減してるって思ったら本気でやってくれるまで何回だってやるんだから」

「綺羅さんなら本当にやりかねないし、ちゃんと本気で泳ぐよ」

 

 言いつつお互いに準備体操で入念に身体を解す。真面目だとか思われるだろうが、泳いでる最中に足を攣って溺れた、なんて情けない姿を見られるよりは全然マシだ。

 しかしぶっつけ本番は大丈夫だろうか……泳ぐのなんて数年振りになるし。まあ全力で泳げばいいか、なんて楽観的に考えながら泳ぐのに邪魔なラッシュガードを脱いで、誰かに持っていてもらおうとしたんだけど……。

 

「……なんでみんな顔赤くしてるの?」

 

 見ればみな同じようにちらちらとしきりに俺を見るが、絶対に目を合わせようとしない。

 俺、変な格好してるかな……と見下ろしてみるが、特に周囲の男性客と違いはないように見える。

 

「う~ん……天城くんって脱いだら結構すごいんだ」

「え、なんのこと?」

「だから、その……身体、かなり鍛えてるみたいだから」

 

 ようやく抵抗がなくなったのか、綺羅さんは面と向かってそう言ってきたから俺は他の男性客と見比べてみた。

 確かに俺と同じような体格の人は見かけないけど、普段から鍛えてるから普通の事だと思う。

 

「向こうだと普通かまだ細い方だと思うけどね。片腕で身体浮かして、そのまま回ったりとか色々するから」

 

 片手で逆立ちも余裕で出来るよ、と付け加えると亜里沙ちゃんは「ハラショー」と驚いていた。

 

「わ、私だって片手で逆立ちくらいできるけどね」

「いやツバサ、無理に対抗しようとするな。純粋なダンスの技術は専門の天城の方に分があるだろう」

「そうそう、勝負に負けるかもしれないからって、無理に自分だって凄いって意地張らなくてもいいのに。そもそも身長の差でかなり負けてるんだから」

「別に対抗してないし、意地も張ってないから! あとあんじゅはケンカ売ってるの!?」

 

 宥めながらさりげなくからかうネタを混ぜてきた優木さんに、すかさず綺羅さんは噛み付いた。

 まあ、確かに……綺羅さんって結構……いや、少々周りと比べると背が低い。それでもライブ中は統堂さんと優木さんを凌駕する存在感と、低い身長を感じさせないダンスをやっているんだけど。

 存在感の大きさって言うのはやっぱり、彼女の天性のものなんだろうなぁ……あそこまで自分を主張できれば身長差なんて簡単に覆せる。……いや、今はそれよりもだ。

 

「ほら綺羅さん、勝負する相手が違うんじゃないかな」

「むっ。そうだったわね、まずは水泳対決で天城くんを負かす!」

「……まさか優木さん、このために彼女を煽ったんじゃ……」

「気のせいよ、気のせい♪」

 

 ……まあ気にしても仕方ないとこの件は片付けて、雪穂ちゃんにラッシュガードを預けるとスタート台の上に立つ。自由形って言ってたし、クロールでいいか。

 

「よーい……ドン!」

 

 そして統堂さんの合図と同時に俺と綺羅さんは一斉に水中に飛び込んだ。

 水中を暫くドルフィンキックで泳ぎ、浮上するとクロールで泳ぎだす。

 ……今になって気づいたが、お互いにゴーグルを着けてないから水がダイレクトに目に入ってきて痛い。

 時折息継ぎをしながら隣のレーンを確認すると、若干だが綺羅さんが先行気味らしい。小さい身体のどこにそんなパワーがあるんだって突っ込みは本人の前ではしないほうがいいか。

 ってそんなこと考えてる余裕は無いんだと気づき、余計な思考は棄てて泳ぐ事に神経を集中する。

 こっちがペースを上げたのに気づいた綺羅さんが負けじとスピードを上げていくが、俺も負けるかとさらに泳ぐ速度を上げて追い越し追い越されのデッドヒートを繰り広げていた。

 残り目測5メートル……行けるか!?

 

「――はあっ! 私の勝ちー!」

 

 先に岸に手を着き、顔を上げた綺羅さんが叫ぶ。一拍の差で俺も岸に手を着いて顔を上げた。

 

「はぁ、はぁ……納得行かないなら付き合ってあげるけど?」

「っ……はぁ、……いや、俺の負けだよ」

 

 こっちも本気で泳いだ結果がこれなら、疑いようも無く綺羅さんのほうが早いと言うことだ。

 意外とすんなり負けを認めた俺に彼女は僅かに驚いたようで、顔の水分を手で拭いながら口を開く。

 

「意外ね。あっさり負けを認めるなんて。もうちょっと負けず嫌いかと思ってたんだけど」

「確かに負けず嫌いな所もあるけど、綺羅さんと勝負し続けてたら遊ぶ時間がなくなりそうだからね。って言うか今日は遊びに来たってこと覚えてる?」

「……お、覚えてるに決まってるじゃない」

 

 その反応は勝負に夢中ですっかり忘れていたな……。ジト目で彼女を見続けていると綺羅さんは気まずげに目を逸らし、「じゃ、じゃあ戻りましょうか」と言ってプールサイドに上がっていく。

 明らかに逃げのリアクションなんだけど、それを口にすればプールに沈められそうだからあえて言うまいと口を結び、俺もプールから上がっていった。

 

 

「惜しかったな、天城」

「これでも全力出したんだけどね」

 

 再びみんなと合流し、今度は流れるプールに行こうという事になって途中で統堂さんに労われた。

 全力を出した結果がこの惜敗なら、綺羅さんが単純にすごいのか俺が弱いのか……きっと前者だと思うけど。

 

「2人も苦労するよね、綺羅さんに振り回されて」

「もう慣れたことだ。それに、最近は天城のおかげで少し楽になったからな」

「俺って言う身代わりがいるからね」

「あまりそう言わないでくれ。これでも感謝しているんだ」

 

 自虐するように答えると、統堂さんは困ったように苦笑いを浮かべて返した。

 愚痴っぽく聞こえるけど、実際はそんなに嫌じゃない。むしろ綺羅さんに振り回されるのは(変な意味ではなく)結構楽しかったりするし。現に綺羅さんと話している亜里沙ちゃんも結構楽しそうに見える。

 巻き込む形になったけど、2人を連れてきて良かったかなぁ……。

 

「あれ……なんだろ?」

 

 何かに気づいた綺羅さんが怪訝な顔を浮かべ足を止めた。

 なにやら騒がしい事に俺も遅れて気づき、騒ぎのする方へ目を向ける。元々騒がしい場所で何を言ってるんだと思うかもしれないが、そういう騒ぎとは少し違うらしい。

 波の打ち寄せるプールの方から多くの人々が必死な形相で逃げてきていて、事態を飲み込めていない他の人たちは顔を見合わせていた。

 が――何かが壊れる破壊音が確かに聞こえ、俺たちは顔を見合わせる。

 

「え、なに……?」

 

 何が起きているのか掴めない亜里沙ちゃんと雪穂ちゃんが不安そうに手を繋いでいる中、俺は逃げてきた人を捕まえて情報を聞き出そうとした。

 

「何があったんですか?」

「妙な怪物が突然出てきたんだよ! そっち早く逃げろって!」

 

 掴まれていた腕を強引に振りほどき、男性は逃げていく。

 怪物……と言う単語から浮かぶのは俺には1つしかない。

 驚きと戦慄から立ち尽くしていると、人の波の向こうから何かが暴れながら近づいてくるのが見えた。

 それは……どう例えればいいのか、甲殻類みたいな外見に人の手足がついたような姿をした異形の怪人。口から弾丸のようなものを乱射し、左腕と一体化した触腕を振り回して人々を追い立てている。

 疑いようも無く、あれは大ショッカーの怪人か……! 何だってこんなタイミングで出くわすんだ!

 最悪の状況に渋面を浮かべて歯噛みし、ちらと雪穂ちゃんたちを窺った。今この状況で変身できない。そもそもドライバーはロッカーに預けてきたから『変身』と言う選択肢そのものがない。

 一旦避難して、ドライバーを取ってくる……? その間に別の場所に逃げられるかもしれない。いや……まず優先するのは彼女たちの安全だ。

 

「……綺羅さんたちは雪穂ちゃんを連れて逃げて」

「連れて逃げてって……天城くんはどうするのよ?」

「皆が逃げる時間を稼ぐ。今の俺でも囮くらいにはなれるから」

「だったら早く変身した方が……!」

「こんな格好でドライバーを隠し持てると思う?」

「……それもそうよね」

 

 口角を引き攣らせながら答えると、綺羅さんも気づいて冷や汗を流した。

 どちらにしろ、周囲に人がいたら戦えない。まずは逃げる時間を稼ぎ、その後にドライバーを取りに行かないと……。

 

「天城くん……ドライバーはどこにあるの?」

「ロッカーだけど……それがなに?」

「……貸してっ、私が取ってくるから!」

「えっ…綺羅さん!?」

 

 何を思ったのか、綺羅さんは俺が腕につけていたバンドを奪い取り、俺は驚いて振り返る。

 

「あんじゅ! 雪穂ちゃんたちを連れて逃げるわよ!」

「え……? あの、ハガにぃは!?」

「俺は……あとで必ず合流するから!」

「ハガにぃ!? 待ってよハガにぃ!」

 

 大体の事情を察した統堂さんと優木さんが頷き、戸惑う雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんの腕を強引に引いて他の客と一緒に避難していく。

 

「絶対戻ってくるから、無茶しないで!」

 

 最後に綺羅さんの声が雑踏に紛れて聞こえ、俺は人の波に逆らって怪人に向かっていった。

 逃げる途中で転んだのか、小さな男の子が座り込んでいて怪人が触腕を振り上げた瞬間、頭にカッと血が上る。

 

「やめろ…ォッ!」

 

 腕を振り下ろすよりも早く、俺は怪人にタックルを繰り出して阻んだ。吹き飛ばすとまでは行かなかったが、多少よろめかせる事はできて怪人を阻む事に成功する。

 

「早く逃げて!」

 

 振り返り男の子に言うと、走って助走をつけて怪人を蹴りつけた。

 怯えていた女の子は顔を青くしながら頷いて、立ち上がると俺たちには目もくれず逃げていく。けどそれでいい、こっちのことなんて気にする必要は無いんだから。

 

「あぁ~? さっきから何なんだ小僧。それで攻撃のつもりなのか……よっと!」

 

 訝しげる怪人が口を開き、覗く歯が弾丸のように発射され周囲に着弾する。

 やっぱり、生身の人間がぶつかったり殴ったりしても怪人に効果は無い。それはオープンキャンパスの時に証明されている。対抗するには変身するしか……!

 

「(何か使えるものは……っ!)」

「余所見してるなっつーの!」

「うっ……ぐあっ!」

 

 弾丸牙を辛うじて避けるが、注意力が散漫になっていたため追撃の触腕までは対応しきれず、首に巻きついて引きずり寄せられて、そのまま持ち上げられてしまう。

 

「が……あっ、ぁ……」

 

 なんとか触腕を引き剥がそうと暴れるが、びくともしない上に呼吸もほとんどできず……脳に酸素が届かなくなり、視界が狭まっていく。

 

「(変身できない俺は……こんなにも弱い……っ)」

 

 ――違う。変身しても弱いままだ。

 ふと、そんな否定的な考えが浮かんでしまう。

 否定は出来なかった。今までの戦いで、苦戦せずに勝ったことなんて無い。

 どれだけ強力な力でも、それを扱う人間が未熟なら……力を引き出せず弱いのは当然だ。

 だからこそ……こんな自分が情けない。何も知らない穂乃果たちを騙し、心配をかけていることに。

 その事実が重くのしかかり、視界が黒に塗り潰されていく。

 

「(こんな俺が戦う資格なんて……)」

 

 もう、全てを投げ出して諦めてしまいそうになった時だった。

 

「――――――羽鐘ぇっ!」

 

 俺を呼ぶ必死な声に、黒に覆われていた視界が光を取り戻す。

 なんとか僅かな酸素を口から取り込み、視線を横にずらすと1人の少女が息を切らせながらそこに立っていた。

 

「き、ら……さ……」

「これ! 受け取って!」

 

 なんとか声を絞り上げた俺に、綺羅さんは手に持っていた黒い物体を投げる。クルクルと回転しながら飛んでくるソレを見た瞬間、俺は力を振り絞って手を伸ばして掴み取り、腰に当てた。

 サイドから伸びるベルトが腰に巻きつき、反対側へと回り込んで固定する。そしてご丁寧にセットされていたクウガロックシードを、ブレードパーツで斬り裂いた。

 

『クウガアームズ! 超・変・身! ハッ・ハッ・ハッ!』

「ぬぉ――っ!?」

 

 アンダースーツが形成され、頭上からアーマーパーツが落下し、頭に被った衝撃で怪人の触腕を弾き飛ばす。

 展開されるアーマーパーツと同時に着地し、軽い酸欠で膝をつきながらも大きく息を吸い込んで酸素を取り込んだ。

 

「けほっ、けほっ……っ、はあぁ……」

 

 全身に酸素が行き渡り、視界が鮮明になっていく。頭もハッキリしたおかげで、一瞬でもバカな事を考えた自分を振り払う。

 こんな事を誰かに押し付けたりなんてできない。例え弱くて、未熟でも……俺が戦うしかないんだ。

 ゆっくりと立ち上がり、綺羅さんを一瞥する。安心したような、それでいて不安そうな顔を浮かべていた彼女に無言で頷く。

 

「仮面ライダー……ぁ? お前か、最近噂になってる仮面ライダーってのは」

「……さっさと片付ける――!」

 

 怪人の問うような独白に俺は答えず、拳を握り締めて殴りかかった。

 右拳を打ち下ろし、左拳を突き出し、回転しながら左足を薙ぐ。

 だが攻撃は悉く避けられてしまい、至近距離から弾丸牙を発射されて避ける事もできずに直撃してアーマーに火花が散った。

 

「グッ……アァッ!」

 

 直撃を受けたが……思いのほか衝撃そのものは小さい。威力そのものはシュバリアンのビームの方が大きい事に気づき、ボクシングで言うピーカブースタイルで衝撃を耐えながら間合いを詰めると構えを解いて拳を振り上げる。

 

「なんなんだお前! バカなのか!?」

「うる…さいっ! 黙ってやられろ!」

 

 ある種異常ともいえる俺の戦い方に怪人は正気を疑うように声を上げるが、俺はそれを一蹴しながら攻撃の手を緩めない。

 タックルを当てて怯ませ、腕を掴んで捕らえると脇腹に膝蹴りを叩き込む。そして何度も顔の辺りを殴りつけると、トドメに思いっきり殴り飛ばした。

 殴り飛ばした体勢のまま、吹っ飛んでいく怪人を睨む。怪人は1度地面を跳ねるとそのまま滑って遠ざかっていく。

 逃がすか……胸の内で呟き、警戒しつつ接近。が、怪人は上半身を起こすと弾丸牙を撃ってきて、とっさに両腕でガードすると微かな衝撃と共に弾丸を弾く音が耳に届く。

 このまま押し切ってやると1歩踏み出すが、その瞬間横殴りの衝撃が襲い俺は吹き飛ばされた。

 

「ヒャハッ! 良く見て歩けよ!」

「くっ……!」

 

 開けた視界に飛び込んできたのは、怪人が触腕を鞭のように振るう姿だった。

 身を屈め、さらにサイドロールで触腕を避けるが、そのせいでなかなか接近する事ができない。

 

「なら……同じ土俵に立ってやるよ!」

 

 吐き捨て、攻撃を避けながらロックシードを取り出す。数あるロックシードの中でもそれはかなり特徴的で、右側が緑、左側が黒と左右それぞれで色が違う戦士の絵が描かれている物だった。

 

(ダブル)!』

 

 横のスイッチを弾くと、起動音と共に頭上の空間が捲れ、アーマーパーツが召喚される。

 セットしていたクウガロックシードを外し、ダブルと言う名のロックシードをセットして掛け金を押し込むと、サイドのブレードを倒した。

 

『ロック・オン! (ダブル)アームズ! サイクロン! ジョーカー! ハッ・ハッ・ハッ!』

 

 クウガになった時と似たようなサウンドと共に降りてきた右側が緑、左側が黒のアーマーパーツが展開し、同時に水色の銃が現れてそれを掴むと同時に、一気に大量の情報が頭の中に流れ込んでくる。それはこのアームズの性質や能力、そして目の前にいる怪人――アノマロカリス・ドーパントと言うらしい――と言ったもので、あまりの情報量に軽い貧血を起こしかけてふらついてしまった。

 

「(こ、これがこのアームズの能力か……)」

 

 この水色の銃――トリガーマグナム――を使用した射撃戦、そして格闘戦だけでなく、『地球の記憶』から情報を転送し把握する力……ただし目視したものでないと情報を得られないらしいが。

 普通の人間にこれはキツイ……そう思いながらもしっかりと足を踏ん張って倒れるのを堪え、即座にアノマロカリス・ドーパントに向けトリガーマグナムを3連射する。

 同時に弾丸牙を撃ったアノマロカリス・ドーパントだったが、俺の撃った黄色い弾丸の内2発が軌道を変えて弾丸牙を撃ち落し、残り1発が下から掬い上げるような軌道を描いてアノマロカリス・ドーパントに着弾して吹き飛ばす。

 ……弾丸が自在に曲げられるって、かなり反則だよな……自分でやっておきながらその光景に引き攣った笑みを隠せない。

 

「……けど、これは使えるな」

「ひ、卑怯者! ビームが曲がるなんて反則だ!」

「どの口がそれを言うんだよ!」

 

 ボソッと独白していると、奇遇にも同じ感想を抱いていたアノマロカリス・ドーパントの抗議に突っ込みつつ、続けてトリガーマグナムを連射。変幻自在に曲がる強力なエネルギー弾をアノマロカリス・ドーパントは成す術もなく食らってダンスを踊る。

 それでもどうにか反撃しようと触腕が伸びるが、右足に風を纏った俺の蹴りで弾かれ、カウンターでトリガーマグナムの銃撃を連続で喰らい、吹っ飛んでいった。

 確か、アノマロカリスって大雑把に言うと大昔のエビらしい。なら……やることは決まった。

 

「こんがりローストしてやるよ、エビの怪物」

 

 吐き捨てるように言いながら水色のUSBデバイスのようなものを取り出す。ディスプレイには小さくTRIGGERと書かれ、銃の形が「T」を現していた。

 

『トリガー! マキシマムドライブ!!!』

 

 ガイアメモリの1つ、トリガーメモリと呼ばれるそれをトリガーマグナム上部に開いたマキシマムスロットに装填すると起動音が響き、、折りたたまれていたマキシマムマズルを起こす。

 だがこのままでは使えない。本来の担い手ならばこのまま必殺技を使うことが出来たが、幻武は根本的に設計が異なるため必殺技を発動できない。

 だから代わりに、ブレードを2連続で倒してそのエネルギーを解放する。

 

(ダブル)オーレ!』

「これで決まりだ……!」

 

 両手でトリガーマグナムを構え、銃口をアノマロカリス・ドーパントに向け狙いを定める。ガイアメモリとロックシードから送られてきた膨大なエネルギーが銃口に集まり、炎のように赤い輝きを放っていた。

 それに危機感を抱いたアノマロカリス・ドーパントは身じろぎし、急いで逃げようとする。

 けど――逃がしはしない……!

 

「トリガー…エクスプロージョ――」

 

 技名と共にトリガーを引こうとした、まさにその時。

 突然頭上から雷に打たれたかのような衝撃が全身を貫き、視界が暗転すると共にくず折れていった。

 

 

「……え?」

 

 今……何が起きたの?

 最初は苦戦していた羽鐘だったけど、姿を変えてからは一方的とも呼べるほど形勢が逆転して圧倒し、怪人にトドメを刺そうとした時だった。

 突然羽鐘の頭上から青い光が羽鐘に落ちて、それを食らった羽鐘はぐらりと傾くとその場に膝をついて動かなくなる。

 何が起きたのか、そして目の前で繰り広げられる命がけの戦いに目を奪われ、立ち尽くしていた私はゆっくりと周囲を見回すと……奇妙な人を目に留めた。

 ううん、人じゃない。アレは明らかに人間じゃない。

 クラゲのような半透明の帽子のようなものを頭に被り、その下に見える歯が剥き出しの口や、半透明の向こう側に見える窪んだ瞳。まるで骸骨のような不気味な出で立ち。クラゲ怪人とでも呼べばいいのか、とにかくその怪人はゆらゆらと身体を揺らしながら羽鐘に右腕を向けていた。

 

「カァ~……ってぇなあ……助かったぜクラゲ野郎」

「ハイドロゾア……ロード…………ダ」

 

 復帰した甲殻類のような怪人が人型の腕で胸を掻きながらクラゲ怪人に礼を言う。

 そのクラゲ怪人はカタコトのような言葉で返し、ゆっくりと右腕を下ろした。

 間違いなく、あの怪人は甲殻類怪人と仲間で、あいつのせいで羽鐘が……っ。

 

「羽鐘……? ねえ、嘘でしょ……羽鐘っ!!!」

 

 恐怖を押さえ込んで必死に呼びかける。

 だけど羽鐘はピクリとも動かない。

 こんな事……考えたくない。だけど……死んじゃったんじゃ……!

 

「くそっ……弱いくせにてこずらせてくれて、よォ!」

 

 すると甲殻類怪人が苛立ちをぶつけるように膝をついた羽鐘を蹴りつけ、うつ伏せになったまま動かない羽鐘を怪人は何度も踏みつける。

 その時、羽鐘の微かなうめき声が聞こえてまだ生きている事に安堵したけど、状況は最悪に近かった。

 

「起きて羽鐘! このままだとやられるわよ!」

「ソノ女……ハ、ナンダ……」

「こいつの連れっぽいなぁ? 関係者なら殺しておくか?」

「アギトデナイ……者ヲ、殺ス……事ハデキナ……イ」

「面倒だなぁアンノウンは。他の連中のが融通利くだろ……」

 

 甲殻類怪人は面倒そうに溜め息をつくと、最後に羽鐘に蹴りを入れてから私へと向き直った。

 分かっていた……ううん、分かっていたつもりだった。

 彼がどれだけ危険な目に遭っているのか。命懸けで怪人と戦っているのかを。

 でもそれは、所詮『つもり』だっただけ。テレビの画面越しにそのシーンを見ているようなもの。

 だから改めて、限りなく近い場所で羽鐘の戦う所を見て思い知った。これはフィクションなどではなく、1歩間違えれば命を落とす現実なんだと。

 ゆっくりと私に歩み寄ってくる怪人に足は震えて、すぐにでも逃げ出したい。でも今逃げれば羽鐘を見殺しにしてしまうかもしれない。

 それは嫌……だけど私も死にたくない。

 

「こ……来ないでっ!」

 

 距離を取ろうとして足がもつれ、尻餅をついてしまう。

 怪人は巨大な丸い目で私を見下ろし、ゆっくりと丸い口を開けた。

 

「(助けて――――羽鐘ッ!!!)」

 

 そんなに都合よく行くはずないのは分かってる。

 だとしても私は願わずにはいられず、ぎゅっと目を閉じたその瞬間――。

 

「ぬぁあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 まるで獣のような雄たけびが響き渡り、倒れ伏していた戦士が覇気を滾らせ立ち上がった。

 

 

「(あれ……俺、は……)」

 

 暗かった視界に光が戻る。だけどそれは輪郭がぼやけていて、どこか不鮮明だった。

 なんでこうなったのか、はっきりと思い出せない。覚えているのは……アノマロカリス・ドーパントにトドメを刺そうとして、突然頭上に衝撃を受けて意識を失った事。

 その時、腹部に鈍い衝撃を受けて肺の空気が一気に押し出され、その場に倒れこんだ。すると俺が戦っていたアノマロカリス・ドーパントが視界に入り、何度も何度も踏みつけてくる。けど感覚が鈍っているのか痛みはそこまでない。

 抵抗しようとしても全身に力が入らず、辛うじて指先が動く程度だった。

 

「(……負けたのか)」

 

 つまり、そう言うことなんだろう。

 原因は分からないけど、アノマロカリス・ドーパントは立っていて、俺はこうして倒れている。

 

「(俺が弱いから……力が無いから……)」

 

 だから――――どうなる?

 どうなるんだ……? 倒されて、そして……殺される?

 きっとそうなんだろうなと、行き着く結末を想像して納得がいった。

 俺が倒してきた連中と同じように、俺も同じ道を辿る。倒す側が倒される側に変わっただけで。

 沈み行く意識の中で、誰かが叫ぶ声が聞こえた気がしてなんとか目だけを動かして声の主を探った。

 

「(綺羅……さん?)」

 

 アノマロカリス・ドーパントに迫られる女の子。逃げようとして足がもつれ、その場に尻餅をついてしまう。

 待て。なんで彼女まで狙われる。彼女も……殺されるのか?――俺のせいで。

 

「(ダメ……だ…………っ)」

 

 俺は……それを良しとするのか? 何の関係もない、偶然知り、そして現在も巻き込まれたも同然の彼女を?

 俺が綺羅ツバサと言う1人の女の子を見殺しにするのか?

 

 そんなこと――――――できるはずがないだろうッ!

 

「ぁ……ぁあ……!」

 

 声を絞り出し、ギリリと奥歯を噛み締め、血が滲むほど力強く噛み締め、感覚の無い全身に力を込めた。

 指先しか動かなかった身体に熱が宿り、感覚を取り戻していく。

 戦いの中にいる俺は、命を落とす可能性だってあるかもしれない。だが彼女は……綺羅さんまで巻き込まれ死んでしまったら! 俺は死んで地獄に落ちても自分を永遠に許す事はできないんだよッ!

 

「ぐ……ぅぅぅっ! ぬぁあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 奴らへの敵意と、俺自身の不甲斐なさから来る怒りの炎を全身に宿し、血反吐を吐く思いで跳ね起きる。

 その声に背を向けていたアノマロカリス・ドーパントと、俺を捉えていた綺羅さんは驚愕し、いつからいたのか分からないクラゲ頭の怪人――検索、ハイドロゾア・ロードと確認――も動揺したように震えた。

 相手のことなんてどうだっていい。こんな奴ら――彼女に手を出される前に消してやる!

 

『キバ!』

 

 取り出した新たなロックシードのアンロックリリーサーを弾き、頭上にクラックが出現しアーマーパーツが召喚される。

 翼を広げたコウモリを思わせる巨大な黄色い複眼。それは俺の持つロックシードの中でも特に強力な1つ。

 

『ロック・オン! キバアームズ! キング・オブ・ヴァンパイア!』

 

 Wロックシードを外してキバをドライバーにセット。荒っぽくスライドシャックルを掛けてカッティングブレードをスラッシュし、『キバ』の鎧を纏う。アーマーが展開し、内部に収納されていた鮮血のような紅のボディアーマーを装着すると、圧倒的な力を纏った事を実感できた。

 他のロックシードを圧倒する攻撃力、防御力、スピードを兼ね備え、水中でも活動できる唯一の形態。だがエネルギー消費が激しく、使える時間がやや短いのが欠点だと言う。

 左手には波打った形状の刀身が特徴的な長剣、『魔獣剣ガルルセイバー』を、右手にはバレルに3枚のフィンが付属した銃、『魔海銃バッシャーマグナム』を握り締め――ハイドロゾア・ロードを見ないまま奴にバッシャーマグナムを向けてトリガーを引き、水の弾丸『アクアバレット』を連射して怯ませると即座にアノマロカリス・ドーパントとの距離を詰め、力任せにガルルセイバーで斬り裂いた。

 さらにバッシャーマグナムの銃底をアノマロカリス・ドーパントに叩きつけ、飛び回し蹴りも見舞い吹き飛ばす。

 

「はが……ね?」

 

 戸惑いと驚きとが混じった綺羅さんの呟きが背後から聞こえる。

 だけど俺は彼女に振り向くことなく、ただ目の前の敵を捉えたまま、はっきりと宣言した。

 

「ありがたく思え――絶滅タイムだ」

 

 宣言と共に走り出す。バッシャーマグナムの射撃でハイドロゾア・ロードを牽制しながら、アノマロカリス・ドーパントとの間合いを詰めて一閃。分厚い鉄板をも軽々と斬り裂いてしまう鋭い刃がアノマロカリス・ドーパントの外殻を紙のように斬り裂いて、手首を返してさらにもう一撃。

 

「ハアァッ!!」

 

 そのまま息つく間もなく剣戟に蹴撃を交えた連撃をアノマロカリス・ドーパントに叩き込みつつ、合間にハイドロゾア・ロードにバッシャーマグナムで撃つ。

 全身の甲殻がボロボロに斬り刻まれ、満身創痍になったアノマロカリス・ドーパント。奴の腹に狼の顔を模した鍔を押し付け、柄に内蔵されていたトリガーを引いた。

 

『ウオオオォンッ!』

 

 すると喉奥から咆哮を増幅強化した音波が放たれ、その衝撃波がアノマロカリス・ドーパントを吹き飛ばしてプールに沈める。

 それからゆっくりと、俺はハイドロゾア・ロードに向き直った。俺と目が合ったハイドロゾア・ロードは確かな同様を見せ、右腕を俺に向ける。

 刹那、一筋の稲妻が俺目掛け真っ直ぐ落ち――そのエネルギーを、取り込んだ。

 

「ナ…ニ……!?」

 

 予想外の結果に驚愕するハイドロゾア・ロード。

 お前の能力は分かっている。だから、これを選んだんだ。

 キバにはドッガフォームと呼ばれるパワーと防御力に特化した形態がある。それは同時に雷のエネルギーを蓄積・増幅する事ができ、他の3フォームの能力を兼ね備えた四位一体形態を模倣したキバアームズなら当然――落雷だって力に変換することができる。

 だけどもう、打たせるつもりは無い。

 

「……………」

 

 無言でバッシャーマグナムを撃ち続け、絶え間ない銃撃に怯んで身動きが取れないハイドロゾア・ロードに、少しだけ狙いをずらしてアクアバレットを放つ。

 放たれた水の弾丸は寸分違わずハイドロゾア・ロードの右足に命中し、すかさず左足にもアクバッシャーマグナムを撃って跪かせた。

 

「……………」

 

『キバスカッシュ!』

 

 両手の武器を投げ捨て、ブレードを1回スラッシュする。

 両手をクロスさせ、腰を落として力を蓄え――空高く垂直に跳躍。そして1回転から急降下し、膝を着いていたハイドロゾア・ロードにキック技『ダークネスムーンブレイク』を叩き込む。

 胸に右足が突き刺さり、衝撃と共に地面に叩きつけられたハイドロゾア・ロードの周囲にキバの紋章が刻み付けられ、同時に頭上から円盤状の発光体が出現し、断末魔の叫びと共に爆散した。

 だけどその直後、プールから巨大な水飛沫が上がり内部で巨大な影が蠢く。

 姿を現したそれは――現代よりも遥か昔、カンブリア紀の頂点に君臨していた最大最強の捕食者。

 

『キシャァァァァッッッ!!!』

 

 ――アノマロカリス。

 ……けどそれもずっと昔の話だ。カンブリア紀では頂点だったかもしれないが、今は時代が違うんだよ。

 巨体に見合った巨大な口を広げ、俺を噛み砕かんとアノマロカリスが迫る。

 それに対して俺は、新たに召喚した3つ目の武器……ヘッド部分が拳の形状をした巨大なハンマー、『魔鉄槌ドッガハンマー』を構えた。

 

「――ぬぁあああっ!」

『ギシュァアッ!?』

 

 迫るアノマロカリスの飛び出した眼球目掛け、ドッガハンマーを叩きつける。ただでさえ急所の場所に分厚い鉄板も簡単に潰してしまう一撃が炸裂し、重く鈍い音と共に眼球が潰れアノマロカリスは後ろに仰け反る。

 

「っるぁあ!」

 

 それだけで終えず、さらにハンマーを叩きつける。

 打撃音と共に叩きつけた箇所の甲殻が凹んで砕け、体液が流れ出す。

 アノマロカリスの悲鳴を黙らせるようにもう一撃ドッガハンマーを振るい、最後に下から振り上げる。

 俺よりも遥かに巨大で重たいはずの巨体が宙に浮き上がり、そのまま横から殴りつけた叩き伏せてやった。

 元々無理に巨大化したのだろう。それ以前からダメージは蓄積していた所にさらにドッガハンマーでのダメージが追加され、アノマロカリスは殆ど死に体に近い。

 ならさっさと終わらせようと俺はカッティングブレードに手を伸ばす。

 

『キバスパーキング!』

 

 3連続でカッティングブレードをスラッシュし、エネルギーを最大開放。

 立てていたドッガハンマーを掲げ、内部に蓄積されていた電気エネルギーが解放され、拳型のオーラが出現。それを振り回して勢いをつけ――――

 

「…………フンッ!!!!」

 

 一切の迷いも躊躇いもなく、頭上から振り下ろした。

 強固な外殻を持つアノマロカリスを鉄拳は豆腐のように粉砕し、爆散。

 一瞬だけドッガの顔の輪郭が浮かび上がり、地面に巨大な爪痕を刻み付けた。

 

 

 巨大なエビみたいな怪物が巨大な拳のオーラで押し潰され、離れていた私の所まで爆風が届いてくる。

 ……終わった、の? ううん、終わったのよね。

 現実感が無かった。確かに目の前で起きていたことは現実に目の前で起きたことだったけど、それでも今までの私の価値観や常識が打ち砕かれてしまいそうな、それほどまでに現実離れした出来事だった。

 だって当然じゃない、人間サイズの生物が一瞬で倍以上あるサイズに巨大化するなんて有り得るはずないんだから。

 ……羽鐘はハンマーを振り落とした時の体勢のまま、一向に動く気配が無い。

 ……正直に言って、少しだけ怖かった。怪人や怪物たち以上に、羽鐘のことが。

 普段はどちらかと言えば温厚で、怒ったり怒鳴ったりする事なんて滅多に無い。それが私が羽鐘に抱いていた印象だった。

 けど、怪人にやられ、起き上がってから……まるで人が変わったかのように荒々しく戦う姿に、ほんの少しだけ恐れを抱いてしまった。

 

「…………っ、はあ――――っ」

 

 と、その時、羽鐘の背中が震え、大きく息を吐く音が耳に届く。

 変身が解けて、素顔を晒した羽鐘が振り返る。一瞬だけ恐れを抱いたけど、戦っていた時のような恐ろしさは感じられなかった。

 

「綺羅さん!」

 

 私を見つけ、羽鐘は駆け寄ってきた。

 

「大丈夫? 怪我はない?」

「うん……平気」

「そっか……良かった……」

 

 私の言葉に心の底から安堵したように、ほっと安堵する。

 その姿はどちらかと言えば私の方が助けられたはずなのに、まるで自分が救われたようだった。

 

「羽鐘は……大丈夫なの?」

「…うん、なんとか」

 

 そう答えた羽鐘は、無理に笑っているように見えた。

 大丈夫なはずがない。首には締め上げられた時の痕がまだ残っているし、戦っている所は全部見ていたんだから、平気なはずが無い。

 だから……分からない。どうして彼は戦うのか。

 

「……怖くないの?」

「え?」

「だから、怖くないの? 戦うことが」

 

 殆ど無意識に紡いでしまった疑問に、羽鐘は言っている意味が分かってなくてきょとんとしていた。

 だから私はもう1度改めて訊ねると、彼は暫く口を閉ざして……少し間を空けて、口を開いた。

 

「怖くない……って言えば嘘になるかな」

「じゃあ辛くないの? 誰にも打ち明けられず、それでも戦い続けることが」

「……辛いよ。正直に言って投げ出したいとさえ思うし」

「だったらなんで……!」

 

 途中で投げ出すなんて良いとは言えないけど、それでも時と場合ってものはあると思う。

 それにただ投げ出すんじゃなくて、警察に相談するとかその後の方法は幾らでもある。確かに……話した所で信じてもらえるとは限らないけど、それでも証言は残るからあとで役立つはずなのに。

 

「けど、こんな役目誰かに押し付けるなんて出来ないよ。もしそうしたら、今度はその人が危険に晒されるから」

「でもそれじゃあ、羽鐘が……」

「――ありがとう、綺羅さん。心配してくれて」

 

 私の言葉を遮りながら、羽鐘は笑いかける。

 最初は何も知らなかった。何も知らなかったから羽鐘を非難してしまった。

 本当は怖くて、投げ出したいくらい辛いと思っていても、誰にも秘密を打ち明ける事ができず、ボロボロになりながらも自分が戦うことを選ぶ羽鐘に心配するのは当然じゃない。

 

「…………ツバサ」

「……へっ?」

 

 なんて答えれば良いのか分からなかった。

 だからこんな空気を吹き飛ばそうと、私はそっぽを向きながら呟く。

 

「だから、私の名前を言ったの、ツバサって。今から名前で呼んで」

「えっ? なんで突然……?」

「いいでしょ! 私も羽鐘って呼んでるんだから。あとその言葉遣いも距離感じるから禁止! でなきゃSNSに羽鐘のこと拡散して警察にバラすから!」

「名前で呼ばないくらいでそこまで脅す!?」

「だったら名前で呼んでも問題ないでしょ? あと口調!」

「ぅっ……わかったって。ツバサ……で、いいか?」

 

 がっくりと項垂れる羽鐘に、私は満足してよろしいと頷く。

 

「あと、お願いがあるんだけど」

「これ以上何を求めるんだよ……」

「……おぶって」

「……はぁっ?」

 

 実を言うと、怪我は無いけど怪人に迫られた時に腰が抜けて、自分で立つ事が出来ないのよ。

 だからこんな事を頼んだんだけど、私の頼みに羽鐘は素っ頓狂な声を上げて眉を潜める。

 

「腰が抜けて自力じゃ立てないの! だからおんぶしてよ!」

「ああ、もう……分かったよ」

 

 また肩を落として、羽鐘は背を向ける。

 ……そう言えば誰かに背負ってもらうのっていつ以来だろう。おまけに同い年の男子にって……初めてじゃない?

 いっ、いやっ、別にこれは変な意味じゃなくて、仕方ないからよね! 腰が抜けて立てないのは本当の事だし!

 

「……どうした?」

「うぇっ!? な、なんでもない!」

 

 いつまで経っても私が来ない事に不思議がった羽鐘が顔をこっちに向けながら尋ねて来て、思わず変な声を上げながら答えるとその背中に乗る。

 

「イツ…ッ!」

「あっ、ごめん。痛かった?」

「いや、戦いのダメージがちょっと残ってたみたいだから……けど大丈夫っと」

 

 一瞬苦痛に顔を歪めた羽鐘に思わず声を掛けると、強引に笑みを浮かべて見せて立ち上がる。

 急に立ち上がられて驚いた私は、思わず彼の首に抱き着いてしまった。

 すると首にはっきりと浮かぶ赤い跡が目に入って、背中にも微かに打撲の跡が残っていて、見るからに痛々しくて見えないようにと首に腕を回してしまう。

 

「あ、そうだ。みんなと合流する前に更衣室に寄りたいんだけど。ドライバー戻さなきゃ」

「別にいい……け、ど……」

「?」

 

 途中で思い出したように言った羽鐘に、断る理由も無いからオーケーしようとして、ふと思い出した事があった。

 ……考えてみれば、いくら緊急時だからって私男子更衣室に入ったのよね。思い出したらすっごく恥ずかしい思いしてたじゃない……!

 

「……ところで羽鐘、私はそれを取りに行くために男子更衣室に忍び込んだんだけど……この案件に対してどう責任取ってくれるのかしら?」

「はぁっ!? いや、なんでそうなるんだ? あれはツバサが言い出して……」

「それは羽鐘がドライバーを肌身離さず持っていなかったからでしょう! 羽鐘のせいで汚れたんだから責任取りなさいよ!」

「それすっごく誤解を招く発言なんだけど!?」

 

 間違ってないわよ! 学校で例えるなら男子トイレに踏み込んだようなものよ? それが男子更衣室になって……ってこっちの方が酷いじゃない!

 

「帰りに何か奢りなさいよ! ケーキ! ジェラート! クレープ! パフェ!」

「……そんなに食べたら太るいったっ!」

「1度に全種類食べるわけないでしょ!?」

「ええ~……じゃあ当分付き合わされるってことか?」

 

 不満げに聞き返す羽鐘に「何か文句あるの?」と半眼で答えると、「……ないです」と引っ込む。

 まあ……本当の所は助けられたのは私の方なんだけど。羽鐘がもう1度立ち上がらなかったら今頃私も……。

 だからお礼を言うべきなんだけど、今言った手間素直に言い出せないから、心の中で「……ありがとう」と呟いた。

 

 

 ブツブツ呟いている綺羅……じゃない、ツバサを背負ったまま、更衣室のロッカーにドライバーを戻して外に出ると人で溢れていた。

 ああ、そうだ。レジャー施設で戦いになったんだから安全のためにみんな外に出たのか。

 

「――ハガにぃっ!!」

 

 とりあえず中に紛れようとすると、聞き覚えのある声が呼びかける。

 声の主を探すと、人ごみを掻き分けて雪穂ちゃんたちが来ようとしていた。

 見たところ怪我とかもしていないようだし、一安心――

 

「バカぁっ!」

「げふっ」

 

 半泣き状態の雪穂ちゃんが胸に、衝撃で思わず呻いた。

 

「良かった、2人とも無事で……!」

「天城もツバサも無茶をして……!」

「ご、ごめんなさい……心配かけて」

 

 統堂さんと優木さんからも若干の非難が向けられ、ツバサも思わず謝っている。

 俺もツバサも無茶をして心配をかけたし、怒られるのも無理は無かった。

 

「雪穂、何度も羽鐘さんの名前を呼んでずっと心配していたんですよ」

「だってオープンキャンパスの時だって今回だって、ハガにぃ自分から危ない目に遭って……」

「ああ……ごめん雪穂ちゃん。でも俺もツバサも仮面ライダーが来て助けてくれたから、さ」

「……()()()?」

 

 落ち着かせるように言うと、統堂さんが僅かに眉根を寄せる。

 優木さんも不思議そうに首を傾げていて、俺は変なこと言っただろうかと振り返ってみるが、特に言った記憶は無い……はずだ。

 

「天城くん、いつの間にツバサのこと名前で呼ぶようになったの?」

「えっ? あ、えっと……」

 

 優木さんにそう尋ねられ、思わず答えに詰まってしまった。

 別に大した理由は無い……んだけど、どう話そうか。優木さんと統堂さんはともかく、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんにさっきの出来事を話すわけにも行かない……。

 

「別に、友達なんだから名前で呼び合うくらい普通でしょ? それより解放されたらアキバに戻ってお・い・し・い・ジェラート食べに寄らない? 羽鐘が奢ってくれるってさっき言ってたから」

「なっ!? ツバサはともかくみんなに奢らなきゃいけないのか!?」

「私を含め全員に心配かけたお詫びよ。反故にするって言うのなら……」

「喜んでご馳走させていただきます」

 

 威圧感のある笑みに気圧され、俺は渋々引き下がってしまう。弱みを握られる事がここまで多大な影響を及ぼすとは……! って言うかツバサのやつ半分楽しんでるだろ絶対!

 

「ジェラートって、私と亜里沙にも奢るって行く前に話してたよね、ハガにぃ……」

「そ…そうだったね……」

「……私と亜里沙はダブルね」

「……はい」

 

 ……大人しく穂乃果たちに着いていった方が、色々面倒にならずに良かったのかもしれない。今更ながら少しだけ後悔したのだった。

 

 

 

 

-おまけ-

 

 

「はあ……散々だった」

 

 プールでの大騒動から時は経ち、ようやく解放された俺は自室で寛いでいた。

 あれから全員にジェラートを奢り(統堂さんと優木さんはどこか申し訳なさそうにしていたのがちょっとだけ救いだった)、夕食は雪穂ちゃんにごねられ亜里沙ちゃんと一緒に高坂家にお邪魔してご馳走になって、シャワーも済ませようやく落ち着けた。

 

~~~♪

 

 するとスマホに着信が入り、画面を見ると穂乃果から電話が掛かってきている。

 ……散々遊んでいる写真を送りつけて「こっちはこんなに楽しいよ♪ 羽鐘くんも来ればよかったのに」ってアピールするのにうんざりしていたらこれか。

 溜め息と共にスマホを手に取り、着信をスライドしてスピーカーホンにしてと……。

 

「もしもし。どうしたんだ?」

『は、羽鐘くんっ!? お願い助けて!』

「助けて…? どうした、何があった!?」

 

 切羽詰った穂乃果の声にだらけモードだった身体に緊張が走る。

 耳を澄ませると、何か悲鳴と怒号のようなものが聞こえてきた。

 

『海未ちゃんが…海未ちゃんがぁっ!』

「海未に何かあったのか!?」

『寝てるときに枕投げして枕ぶつかって超音速枕が怒って!』

「……は?」

『こ、こうなったら戦うしかはぅあぁっ!』

 

 何かを決意しようとした穂乃果を遮るように、ボスンッと気の抜けた音が響く。

 

『ふふふ……覚悟はいいでしょうねぇ……』

 

 そして聞こえる海未の低い声。さらに連鎖する阿鼻叫喚の悲鳴。

 ……大ショッカーが現れて襲われているってわけじゃなさそうだが、何がどうなってるんだこれ。

 呆然としていると、またもボスンッという気の抜けた音が聞こえ、さらに何かが倒れる音が続く。

 静かになったって事は、終わったのだろうか……?

 

『えっと……もしもし、羽鐘くん?』

「ことり、何が起きてたんだ?」

『実は枕投げしていたら寝ていた海未ちゃんに偶然当たっちゃって、それで起きた海未ちゃんが……』

「……バーサーカーになったと」

『……うん。今はまた眠ってるけど』

 

 ああ……そういう事か。心配して損した。

 海未は寝つきがいいが、寝てる最中に叩き起こされるとすこぶる機嫌が悪くなる。

 ましてや、合宿中で枕投げなんて遣り合っている中で叩き起こされれば、それは悪鬼羅刹にもなるわな……。

 

「……寝る」

『う、うん。ごめんね突然電話しちゃって。おやすみなさい』

 

 なんだか無性にバカバカしくなって、呆れてただそれだけ言うと俺の心境を察したことりはそそくさと通話を終了した。

 なんか、なぁ……ちょっとだけあっちが羨ましいと思ったけど、残って正解だったかもしれない。




ロックシード解説(簡易版)①

クウガロックシード

 仮面ライダークウガの力を秘めたロックシード。
 武器は持たないが全体的にバランスの取れたスペックを持ち、基本形態として使用される事が多い。
 クウガアームズを起点に相手や状況に応じて他のアームズにアームズチェンジする。

(ダブル)ロックシード

 仮面ライダー(ダブル)の力を秘めたロックシード。
 特徴は地球の記憶にアクセスし、目視した相手の情報を読み取る能力とトリガーマグナムによる射撃戦。射撃主体だが蹴り技をメインにした格闘戦もこなせる多芸なアームズ。
 通常はホーミングバレットだが、使用した必殺技に応じてその後の弾が変質する効果もある。

キバロックシード

 仮面ライダーキバの力を秘めたロックシード。
 羽鐘の所有するロックシードの中でも特に強力な力を持っており、高いパワーと防御力、スピードに加えてガルルセイバーによる剣術、バッシャーマグナムによる射撃、ドッガハンマーによる打撃、さらには素手での格闘と全てにおいてハイレベルなスペックを誇る。
 非常に強力な反面、エネルギー消費も他より激しいため使用できる時間は若干短いのが欠点。
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