ラブライブ! A Return Hero A Return Legend 作:リベリオン
……って言うのは置いておいて、本作においてはA-RISEの3人は2年生という設定になっています。
第4話 クラスメートはトップなアイドル
「んー……」
眉間に皺を寄せながら、俺は姿見に映る自分の姿に首を捻った。
見た目は大丈夫そうだがどうにも違和感が拭えない。ニューヨークでは学校に行く時も私服だったから今の自分の姿に違和感がある。
真新しい白いブレザー。一応衣替え期間ということで夏服に切り替えても良いそうだが、初日くらいはきちんとした格好で行った方がいいだろう。
っていうかこのネクタイの締め方大丈夫か? 一応ネットで調べて練習したけど……。
「っと……のんびりもしていられないんだよな」
初日は早めに転校してもらうよう言われていて、律儀に穂乃果たちも俺に合わせてくれているんだ。
支度もそこそこに俺はスクールバッグを掴み、1階へ降りていった。
/
「おっはよー羽鐘くん!」
「おはようって言うか、さっきも会ったばっかりだろ?」
玄関を出るといつも通りハイテンションな穂乃果。その隣には少々眠たげに目を擦る女の子がいた。
「おはよう、雪穂ちゃん」
「おはよ…はがにぃ」
こうして眠たそうにしているのは穂乃果の妹の雪穂ちゃん。この姉を見て育ったからか、かなりしっかりしている。
「雪穂ちゃんも早いな。今日は日直?」
「そうじゃないんだけど……お姉ちゃんが一緒に行こうって」
「だって羽鐘くんも今日から学校行くんだよ? なら皆一緒がいいもん!」
……確かに雪穂ちゃんが小学校に入学した頃は、皆で学校に行っていた。
けど小学校の頃はともかく、雪穂ちゃんは中学、俺は別の学校と行き先がバラバラだ。途中までは一緒だけど。
「……雪穂ちゃんも大変だなぁ」
「まあ……今日だけだから」
同情を込めて言うと、雪穂ちゃんは小声で返す。さすがに長年穂乃果の妹をやっているだけあって、こういうことに対しては慣れているようだ。
「ほらほら、2人とも早く行くよ!」
「あーもう、分かったから落ち着きなよ」
「ははっ……」
先を行く穂乃果に呆れる雪穂ちゃんと、苦笑いする俺。けど同時に懐かしさも抱いていた。
「ところではがにぃ」
「ん。なに?」
「はがにぃって頭良かったんだね」
「いきなり失礼な事言うな……」
「だって編入先がUTXだよ? 私も考えていたけど偏差値は高いし……まあ、お姉ちゃんと違ってちゃんとやってるから試験は問題ないと思うけど、それでも倍率は凄いだろうから自信ないなぁ」
オブラートに包まずハッキリ言われるが、確かに雪穂ちゃんの懸念も分からなくもない。
UTX学院はその人気から入試倍率は脅威の15倍と超高倍率で、その上レベルも高いときている。それもこれもスクールアイドルの存在が大きいからだ。
「趣味に関して好きにしていいし応援もするけど、勉強も怠るなって言われていたからね」
「へぇ~。昔はお姉ちゃんと一緒にことりさんと海未さん振り回して泣かせていたのに……お姉ちゃん随分差をつけられちゃったね」
「えぇ~!? そんな事ないよ、穂乃果だって成長してるし!」
「例えば?」
「例えば……えーっと……」
挑発的な雪穂ちゃんに穂乃果も勢いがあったが、それも最初だけですぐに勢いがなくなり目を泳がせる。
「穂乃果……」
「そっ、そんな目で見ないでよ~! ちょっと待って、本当にちょっとだけ!」
ジトッとした目で穂乃果を見ると、慌てて返して何かないかと考え込む。
けどこれだ! と胸を張って言える物が出てこなくて、待ち合わせていたことりたちと合流するとすぐに助けを求めてきた。
「穂乃果の成長した所、ですか……」
「えーっと……」
2人で顔を見合わせ、なんとも言いがたい微妙な表情を浮かべる。若干涙目で助けを求めてきた穂乃果に少しは力になりたいという気持ちもあるだろう。
が、この反応から大体察する事ができた。
「し、身長は伸びた……よね?」
「そういうのじゃないよ~!」
「我が姉ながらなんというか……海未さんたち大変だよねぇ」
「穂乃果ですから……」
「うわ~ん!」
完全に見放されてしまって嘆いてしまう穂乃果。俺でさえ変わってないなと思っていたんだから、まず間違いなくずっとこんな感じなんだろう。むしろこうじゃない穂乃果と言うのが想像し難い。
「――ところで羽鐘、大丈夫なのですか? 1人暮らしの方は」
「まあ……どうにか、かな?」
穂乃果の方はことりが懸命にフォローしているからそっとしておく事にして、俺に話を振ってきた海未に曖昧な笑みを浮かべながら答える。
UTXへ編入の挨拶に行った翌日、母さんはアメリカに出発した。正真正銘これで1人暮らしだ。
一応、保存の利く食料や冷凍食品を大量に買い込んでおいてくれたおかげで食べるのに苦労はしないが、これからは自炊していかなくちゃいけない。そう考えると少々気が重い。
「せめてご飯くらいは自分で炊けるようにしないとダメですよ?」
「そう言ってもなぁ……アメリカじゃパンが主食だったし、炊き方も知らないし」
からは食事くらいいつでもウチで食べて行きなさいと言われているが、甘えるばかりじゃダメだ。
幸い、今の時代インターネットが普及しているおかげで米の炊き方から簡単な料理まで検索は出来るが……当面は冷凍食品で凌ぎながら練習していくしかないだろう。
「けど、別に料理がまったく出来ないってわけじゃないぞ?」
「カップラーメンは料理に入りませんよ?」
「分かってるって……ピザトーストくらいは自分で作れるし」
ピザトースト。要するに食パンの上にお好みのトッピングを乗せてピザ用チーズを乗せ、オーブンで焼く簡単朝食の友。母さんが朝早い時に自分でよく作っている。もちろん今朝もピザトーストだ。
「……………」
「おい、なんだよその顔! ちゃんとした料理だろ!?」
「確かに……カップラーメンよりは良いですが」
微妙な表情の海未に食って掛かると、どうにも彼女のウケは良くない。
「ご飯……料理……そうだっ!!!」
「うわっ!」
「な、なんですか!?」
唐突に穂乃果が叫んで俺に指を突きつけ、いきなりの事に海未共々目を丸くする。
「ふっふっふ……羽鐘くん、羽鐘くんが知らない間にほのかも立派に成長していたんだよ!」
「……本当なのか?」
「本当だよ! 穂乃果はこう見えて料理が出来るのです!」
えっへん、と胸を張って威張る穂乃果。対する俺はぽかんとして、その言葉の意味を飲み込めずにいた。
料理? あの穂乃果が? 海未とことりは分からなくもないが、穂乃果が料理できるだって?
「……………」
「むっ。その顔は疑ってるでしょ?」
「いや……そんなことはない、ぞ?」
「目を逸らさないでよ! よ~し、だったら今晩は羽鐘くんにほのかの得意料理を披露してあげるから!」
「いや……まだ買い置きの冷凍食品とかあるし、無理しなくても……」
「大丈夫大丈夫、大船に乗ったつもりで任せて♪」
いや、任せてって。ますます不安なんだが完全に火がついてしまっている。
任せろなんて言っているが本当に大丈夫か? それは本当に人類が口に出来る物でなおかつ無害なのか……? これが海未、もしくはことりなら安心できる。だってイメージしやすいから。
けど穂乃果がとなると……不安しかない。
「……本当に大丈夫なのか?」
「だ……大丈夫じゃない、かなぁ?」
「お店の手伝いをしているからまったく出来ない、と言うわけでもないと思いますが……」
いやいや、穂乃果の家和菓子屋だけど、和菓子製作スキルが反映されるのか?
思わず雪穂ちゃんを見遣る。が、
「まあ……大丈夫だと思うよ? ハガにぃが想像してるような事にはならないと思うから」
「雪穂ちゃんもこう言ってるし、大丈夫だよ。ね?」
少し困ったように頬を掻いて雪穂ちゃんが言うと、ことりも同調して俺を説得しようとする。
……まあ、さすがにアニメや漫画みたいな事が起きるはずないだろうし、死ぬような事はないだろう。胃薬くらいは用意した方がいいと思うが。
「……わかったわかった。俺の負けだ」
「やった!」
両手を挙げて降参の意思を示すと、とたんに穂乃果はぱっと笑顔になる。そんな顔をされると拒否も出来ないし、本当に卑怯だ。
そうだ、プラス思考だ。もっとポジティブに考えよう。
「じゃあ俺、学校こっちだから。学校での練習終わったら連絡入れてくれ」
「あ、もうなんだ……」
皆とは別方向を指差して告げると、少しだけ寂しそうな顔をした。
本当ならこっちに来る時点で遠回りなんだが、今日はそれを加味して行く時間を早めているし、遠回りと言っても5分少々の距離だから問題ない。
「そんな顔するなって。また後でな」
「うん……お昼休みになったら連絡するね!」
「ああ」
軽く手を上げると、穂乃果たちとはその場で別れた。
少し歩いてからふと気になって振り返ると、楽しげに談笑しながら学校に向かう穂乃果たち。
それを見て微笑んでから、改めて学校へ足を向けるのだった。
/
「天城羽鐘です。アメリカから来ました」
教壇に立ち、自己紹介すると軽くお辞儀をする。
クラス中から向けられる好奇の目。その大半が女の子のもので、男子は片手で数える程度しか見られない。
「天城くんの席は……あ、あそこに座って」
「はい」
教室を一瞥し、空いている席を見つけた先生がそこを指差すとそれに従って宛がわれた席に。
ちょうど中央列の最後尾で、行くと隣の女の子に声を掛けられた。
「私、綺羅ツバサ。よろしくね」
「ああ、こちらこそよろし――?」
にこりと笑いかけながら自己紹介してきた明るいブラウンのショートカットの彼女の顔を見て、口にし掛けた言葉が止まる。
はて……どこかで会った事があるような。だけど彼女と面識はないはずだし、あれば覚えているはずだ。
記憶を掘り起こそうとじっと綺羅さんを見ていると、その視線に彼女は不思議そうに首を傾げる。
「えっと……私の顔に何かついてる?」
「あ。いや、そういう事じゃなくて……どこかで見たことがあるような気がするんですけど、初対面だよね?」
「どこか……? ああ、もしかしてアレとか」
俺の疑問の意味に気づいたのか、綺羅さんはクスクスと笑って外を指差した。
外? 外に何が――と思って窓の外に視界を転じると、彼女の指す『アレ』の意味を理解して硬直する。
向かいのビルにデカデカと掲げられたポスター。そこに載っている3人。
そのセンターでウィンクしている1人の女の子。それは紛れもなく綺羅さん本人で。
「……………」
疑問が氷解し、わなわなと震えながら外のポスターと隣でにこにこ笑っている綺羅さんを何度も何度も見比べる。
「ア、ア、A-RISEのセンターの……!?」
「あ、知ってるんだ。じゃあそれも含めて、スクールアイドル『A-RISE』でリーダー兼センターもやってる、綺羅ツバサよ」
さすがに大声を出すのは自制心が働いて抑えたが、まさかの超有名人の隣になるとは思わず気が動転していた。
「フフッ、そんな緊張しなくてもいいわ。クラスメートなんだからもっと気楽にしてよ」
「生憎……そう言われて「じゃあそうさせてもらうわ」ってなれるほど神経が太くないんで」
「あ~……それもそっか。でもちょっと意外だな、キミって帰国子女なのに私たちのこと知ってるんだ」
「友達がスクールアイドルをやっていて、それで話に出ていたからね」
「そうなの? それって――」
続けようとした綺羅さんだったが、先生がこっちを見ているのに気付くと「やばっ」と呟いて首を竦める。
「話はまた後で、ね」
そう小声で囁くと、彼女は前を向いた。
俺は内心ほっとしながら先生からの連絡事項に耳を傾けつつ、頭では別のことを考える。
まさかあのA-RISEのリーダーと同じクラスになるなんて……しかも隣ってどんな運命の悪戯だ?
スクールアイドルというものを知るために調べていれば、必ずと言っていいほどA-RISEの名前が出てきた。
今日本で人気のスクールアイドル。その中でもトップクラスの人気を誇るのがUTXに所属する3人組。それがA-RISE。
容姿・歌唱力・そしてダンスどれを取っても他のスクールアイドルとは一線を画し、並みのプロアイドルを上回るほどのパフォーマンスを見せるらしい。
現在、オープンキャンパスでの成功を目指すμ'sだが、最終的には『ラブライブ!』への出場を目指すに当たって目下最大の壁だろう。
――『ラブライブ!』。
それはスクールアイドルの祭典で、要するにナンバーワン決定戦。そこで優勝したグループが正真正銘『日本一のスクールアイドル』と証明されることになる一大イベント。
当然優勝候補はA-RISEが他の追随を許していないが。
……けど少し、意外な感じだ。
「(なんか、ちょっとお茶目な感じ?)」
この感覚を言葉で伝えるのは、ちょっと難しい。
スクールアイドルランキングのトップと言われているのなら、そういった貫禄らしさが余り感じられない。もちろん少し話しただけで全てを理解したわけじゃないが。
まあ――そうでなくても知り合いのいない学校や、隣が超有名人と色々重なってちょっと緊張しているが。
やがてホームルームが終わり、先生が教室を後にすると――クラスメートがこぞって押しかけてきた。
「質問! アメリカのどこから来たの!?」
「誕生日と血液型、それと趣味は!?」
「好きな女性のタイプは!? それとも既に彼女いるの!?」
囲まれ、答える間もなく矢継ぎ早に出される質問の嵐。あっちを答えようとすればこっちが訊いてきて、こっちを答えようとすればあっちが訊いてくる。
そんな一度に大量の質問をされても答える事はできないし、そもそも何を言っているのかすらも聞き取れない。
薄々こんな展開が起こるだろうなとは予想していた。転校生への質問タイムなんて定番だから。けどいざこうなると俺には御しきれない。
「こらこら、天城くんが困ってるでしょ。質問は1人ずつ順番にしなよ」
困っている俺を見かね、綺羅さんが手を叩きながらクラスメートたちに呼びかける。
さすが校内いちと言うか、今日本を席巻しているスクールアイドルと言うべきか、彼女の言葉にクラスの人たちも大人しく従った。
「あ、ありがとう……助かった」
「いいわよ。隣同士なんだから」
ほっとしながらお礼を言うと、綺羅さんは笑って言う。
その後も質問タイムの時に間を取り持ってくれたり、授業中はまだ教科書が届いていなかった俺に教科書を見せてくれたりと何かと気を使ってくれもした。
……はっきり言おう。なんだこの出来た子は。日本で大人気のスクールアイドルのセンターで、しかも勉強も出来て気配りも出来るなんて完璧すぎる。
/
やがて午前中の授業は終わり、午後は選択したコースごとの実習。普通科ならばそのまま勉強があるが、俺も入っている芸能コースは午後からはずっとレッスンの時間に当てられている。
いや……事前に説明を受けていたけど、午前中で実質終了となるとやっぱり戸惑いも大きい。今までの生活とは何もかも違っていてすぐに慣れそうにない。
昼休みに入って一緒に食べようと誘われたが、さすがに午前中の質問ラッシュなどで疲れて1人でゆっくりしたかったため丁重に断った。
「はあ~……」
屋上に設置されたベンチに深く腰掛け、大きく息を吐く。
授業内容は着いていけたが、色々あって思った以上に疲れた。
購買で買った昼食の入った袋を脇に置いて、スマホを見ると、穂乃果たちからメッセージが届いている。
内容はそっちはどんな感じ? とか、友達出来そう? とか、ずっと俺のことを心配してくれていたらしい。
そんな幼馴染みたちの気遣いに感謝しつつ、返事を返しながら脇に置いた紙袋を開けて中身を取り出す。
校内には食堂……というよりカフェスペースがあったが、外でゆっくり食べたいと思い購買にしておいた。
色々とあって悩んだが、俺が好きなポテトサラダも入ったサラダサンドとレタスサンド、そして飲み物にフルーツオレを出して食べ始める。
別に構われるのが嫌と言う訳じゃない。クラスの皆も悪意を持って接してきているわけじゃないと言うのもわかる。けどとにかく、慣れない境遇と言うのは思った以上に疲れやすい。
今日は天気が良く、雲1つない快晴だが気温も高いため殆どの生徒は中に引っ込んでいて屋上にいる人はまばらだ。おかげでゆっくりできるから良かったけど。
「明後日……か」
音ノ木坂学院オープンキャンパスまで、残り2日。やれるだけの事はやってきたと思う。
ダンスの完成度は格段に上がったし、歌に関しても西木野さんの主導の元で良くなっている。人前で披露しても恥ずかしくないと言うのが俺の意見だ。
当人たちもやる気は十分、今のところ問題はない。
「あれ? 天城くん」
「え?」
名を呼ばれ、反射的に顔を向ける。そこには同じクラスの綺羅さんと――あと2人の女子生徒が並んでいた。
「あ、もしかして彼が例の編入生?」
「うん。ニューヨーク帰りでブレイクダンスが特技の、天城羽鐘くん」
ふんわりとした、どことなく育ちの良さそうな雰囲気の女の子の質問に綺羅さんが答えた。
……いや、まさか。こんな場所でこの2人と会うなんて。
「えっと、私は優木あんじゅ。それでこっちが――」
「統堂英玲奈だ。よろしく」
「こ、こちらこそ。天城羽鐘です」
優木あんじゅ、統堂英玲奈。
綺羅さんと同じA-RISEのメンバー。
「奇遇だね。こんな所で」
「なんだかんだで目立つからね。ここならゆっくりできるし――あ、それよりも!」
答えようとして、唐突に何かを思い出した綺羅さんは声を上げて俺に詰め寄ってくる。
「今朝の話聞かせてよ! 友達もスクールアイドルやってるんだよね?」
「へえ~、キミの友達もスクールアイドルなんだ。もしかしてあのμ'sだったりして~?」
問い詰めてきた綺羅さんに目を丸くしていると、優木さんがおっとりした声で言って……って!
「μ'sを知ってるの?」
「えぇっ? 本当に知り合いなんだ……」
「なんとも奇妙な縁だな」
優木さんは適当に言ったつもりだったらしく、俺が慌てて尋ねると驚いて目を丸くする。
それは他の2人も同じだったらしく、統堂さんが少し神妙な顔つきで呟いた。
詳しく話を聞くと、μ'sを最初に知ったのは優木さんらしい。ここの生徒会長が話していたのを偶然聞いて、他の2人に話したところ話題になったそうだ。
「それで、天城くんとμ'sはどんな関係なの?」
「どんなって言われても……幼馴染みが手伝ってほしいって言われて、ちょっと手伝ってる程度だよ」
教室にいた時とは随分印象が異なる綺羅さんに少し戸惑いながら、どうにかそれだけは口にする。
同時に、「俺と同じタイプだったか」と納得もしていた。所謂、スイッチのオン/オフを切り替えられるタイプ。
俺がダンスの関わる事でオンになるのなら、彼女はスクールアイドルに関わる事でオンになる。
「幼馴染みって?」
「高坂穂乃果と、園田海未、南ことりの3人。小さい頃からいつも一緒だったから」
「その3人は確か、μ'sの初期メンバーだったな」
「らしいね。ファーストライブの映像、見せてもらったから。でも皆がマークしているとは思わなかった。そっちから見たらまだまだヒヨッコにしか見えないのに」
正直、ランキングトップのA-RISEと下から数えた方がまだ早いμ'sでは圧倒的なまでの差がある。
結局積み重ねてきた物が違うんだ。結成して1年近くと、結成して数ヶ月ではそれだけで十分完成度に差が出る。それでもμ'sの成長速度には驚かされっぱなしだが。
「確かに歌もダンスもまだまだ初々しい感じだったけど……けど、不思議と惹かれるものがあったんだよね」
そして綺羅さんは「でも――」と区切り、ごく平然と告げた。
「まだ、私たちには届かない」
それはトップに君臨する者だからこそ言える、絶対的な確信の一言。
互いを客観的に比較し、それを踏まえて言葉にした。
「……………」
普通そんな風に言われれば気に障るだろうが、俺はそれを事実として冷静に受け止められる。彼女の言う事は当然だと俺も同じ考えを持っていたから。
どうやら俺が思っていた以上に彼女たちは手強い存在らしい。あの言葉を平然と言えるだけの自負と、誰にも負けないと言う強い意志が感じ取れた。
ゾワリと思わず鳥肌が立ち、硬い表情を浮かべたまま押し黙る俺を見て、統堂さんが綺羅さんの脇腹を突いて教える。
「あ……ゴメン、別に怒らせるつもりで言ったんじゃないんだけど……」
「いや……大丈夫。ただ凄いって感心していただけだから」
気を悪くさせたと思った綺羅さんは慌てて謝ってくるが、俺は首を振って答えた。
実際彼女に非はない。当たり前のことをただ口にしただけ。
A-RISEはランキング1位で、μ'sはその足元にも及ばない。そこへ至るには、まだ果てなく遠い。
けど、関わって日の浅い俺ではあるが、彼女たちに可能性のようなものは感じている。
「でも、そう遠くない内に君たちに並ぶと思うよ。μ'sは」
「へぇ……」
挑発的な物言いに綺羅さんは興味深そうに、そして面白そうに目を細めた。
これ、俺が言うべきじゃないよなとは思っていたが……あんな風に言われて黙っている事もできなかったし。
「なら注目してみようかな、あの子達のこと」
「……損はさせないよ。きっとね」
暫し、そのまま無言で綺羅さんと見つめあう。
けどそんな張り詰めた空気は、ポン、と手を叩く音によってかき消された。
「じゃあ、話はその位にしてお昼にしない? 休み時間が終わっちゃうよ~」
「そうだな。食べてすぐに運動はしたくないし、早く食べよう」
優木さんのおっとりとした言葉に統堂さんも同調し、俺と綺羅さんを見遣った。
確かに俺も食事の途中で、彼女たちは手をつけていない。冷静でいたつもりだったけど話す内に少しだけヒートアップしてしまったらしい。
「えっと……一緒に食べてもいい?」
「うん、構わないよ」
俺と綺羅さんは顔を見合わせて微苦笑し、俺がスペースを開けると3人は空いたスペースに座った。
「えっと…さっきはゴメンね? つい熱くなっちゃって」
「いや、こっちこそ。大人気なかったから」
「つまりお相子ってことよね、2人とも」
「ふふっ……噂の編入生は中々見所がありそうだな」
「噂? 俺、噂になってたの?」
「ああ。こんな時期に、しかも海外から編入してきただろう? それにUTXは女子が多く占めているからな。編入生が男子ともなれば噂になるさ」
苦笑いしながら統堂さんに指摘されて、それもそうかと俺も納得した。
1学期も終盤、半端なタイミングで編入してくる奴がいれば噂にもなるだろう。
本当ならもっと早く……それこそ新学期にこっちに戻ってくれれば良かったんだが、周囲の説得に時間がかかってこんなタイミングで帰って来てしまった。
仲間たちやコーチにも理由を聞かれたけど、『あの話』はさすがに出来なかったし……。
「ブレイクダンスってニューヨークが本場って聞いたことがあるけど、どうして日本に戻ってきたの?」
「似たような事友達からも聞かれたよ……まあ、ちょっとだけ思うところがあって。別に何かあったって訳じゃないんだけど」
だからこうして言葉を濁すしかなかったけど、3人は聞かれたくない事情があると察してそれ以上の追求は避けてくれた。
それからは向こうの流行の事や生活の事などを質問され、それに答える形で話しながら昼休みは過ぎて行き、レッスンの時間になるとその場で別れた。
――ちなみにA-RISEには専用のレッスンルームがあるらしく、彼女たちはそこでいつもレッスンを行っているらしい……さすが学院の看板グループ。扱いが全然違う。
/
「~~~♪」
「……………」
上機嫌で鼻歌を歌いながら歩いていく穂乃果を、カートを押しながら無言で追いかける。
放課後になって穂乃果からメッセージが届き、帰ってきたら夕飯の買い物に行こうと誘われ、断る事もできずに一緒に買い物中。
何を作るのかと聞かれても内緒と言って教えてくれず、本当に、本っっっ当に大丈夫なのかと不安になってくる。
「えーっと、まずはお米でしょ、あとお野菜と……」
「なあ……いい加減教えてくれてもいいだろ? 何を作るつもりなんだ?」
「まあまあ、任せてよ♪」
……ダメだ。完全に聞く耳持ってない。
1人だけじゃ不安だからと、海未とことりも巻き込もうとしたんだが逃げられてしまった。何か理由を言ってきた気がしなくもないが、あの時目が泳いでいたし巻き添え食いたくなくて逃げたに違いない。
「うん、こんな所かな。じゃあ、羽鐘くんに問題です! これで穂乃果が何を作ろうとしてるかわかるよね?」
「これで?」
えっと……かごの中にはたまねぎ、にんじん、じゃがいも……それにレタスやきゅうりなども入っている。
「……ポテトサラダ?」
これで真っ先に思い浮かぶものと言えば俺の好物であるポテトサラダしかない。けど俺の答えは違っていたらしく、穂乃果はずっこけた。
「なんでポテトサラダなの!?」
「だって材料被ってるし……」
「そ、そうだけど~…! これとこれ以外で思い浮かぶ料理があるでしょ!」
そう言いつつ、穂乃果はレタスときゅうりを除外する。残ったのは根菜類のみ……ああ、なるほど。
「クリームシチューか」
「違うよ! 確かに似てるし、限りなく近いけど違うってば! も~……答えはカレーだよ、カレー!」
「なんだ、カレーだったのか」
「むしろどうしてカレーに行き着かないのかが不思議だよ……」
突っ込みに疲れて肩で息をしている穂乃果が力なく項垂れながら呟いた。
いや、ニューヨークじゃカレーって馴染み薄いし。煮込み料理は……クラムチャウダーか。米料理ならジャンバラヤがあるけど、基本肉料理がメインだったな。
まあ、それはさておいて。意外と定番なメニューだったからこれなら大丈夫かもしれない。カレーなんて具材を切って煮れば完成するようなものだし。
「チッチッチ。穂乃果のカレーはそんなに甘くないよ。あ、ところで羽鐘くんって甘口? 辛口? それとも中辛? あとお肉って何が好き?」
「それって辛さのことか? 別に辛いのは平気だし……強いて言えば鶏肉?」
「じゃあチキンカレーの中辛だね。えーっと、じゃあカレールーを買って、あとスパイスも……」
……スパイス? なんかいきなり本格っぽくなってきたな。
「なあ……そこまで本格的にやる必要あるのか?」
「え~? これくらい普通だよ。カレーの妖精が歌ってたし」
「カレーの……妖精?」
なんだ、その珍妙な妖精は。インドで崇拝されている妖精か?
よく分からず首を傾げていると、穂乃果の奴はスパイス売り場に向かいながら上機嫌に歌い始めた。
「すべて~は愛のタ~メリ~ック♪ ハラハラーハラペーニョ~♪」
「なんだよ……その珍妙な歌は」
「カレーのうただよ! そうだっ、チョコも買わないと!」
……だ、大丈夫なのか? 俺は普通のカレーでも十分に美味しくいただけるんだが。
なんだか第六感が警鐘を鳴らし始めているが、任せて……良いのか?
それから買い物を終えて、俺の家で調理が始まったんだが……。
「なあ……なんでタマネギをみじん切りにしていためてるんだ? キーマカレーでも作るのか?」
「飴色に炒めたたまねぎはルーにコクを与えるんだよ!」
「……はい」
口答えしては行けないと悟り、俺はそれ以上何も言わずに引っ込んだ。
そして完成したカレーは、俺の抱いた不安とは裏腹に絶品だった。
スクフェスサイドストーリー×ヴァンガード×みなみけ=これ。
自分でやっておいて「何このカオス」と突っ込んだ。
あ。スクフェスのイベントは初の2枚確保できました。けどその後のアライズ登場が全部持って行きおった……いや、嬉しいですけどね! 今作では3人も可能な限り多く出すつもりですから!
次回、いよいよ初変身!