ラブライブ! A Return Hero A Return Legend 作:リベリオン
ついに敵の登場! そしてついに初・変・身!
(だけど戦うとは言ってない)
第5話 波乱のオープンキャンパス ~招かれざる客~
本日の天気――雲ひとつない快晴。
いよいよオープンキャンパス当日となり、早朝レッスンの後穂乃果たちは準備をして学校へ。学校の方でも最後の練習をやる予定になっていて、俺も立ち会うことになっている。
俺の方は今日は雪穂ちゃんの付き添いと言う事で一緒に音ノ木坂に向かっていた。途中で雪穂ちゃんの友達と合流するとのことだが……。
「いたいた、亜里沙ー!」
「雪穂、おはよう!」
前方に居た雪穂ちゃんと同じ制服を着た金髪の女の子の名を呼ぶと、気付いた女の子は小走りにこちらへ駆け寄ってくる。
「紹介するね、この人が例のはがにぃ」
「初めまして、絢瀬亜里沙です。お話は雪穂から聞いてます」
「こちらこそ。天城羽鐘です。……絢瀬ってことは絢瀬先輩の……」
「はい! 絢瀬絵里の妹です!」
ああ、やっぱりそうだったか。どことなく絢瀬先輩と似ているから納得だ。
けど絢瀬先輩がしっかり者なら、亜里沙ちゃんは天真爛漫って言葉が似合う。何と言うか見ていると癒される感じがする。
「雪穂やお姉ちゃんからお話は聞いてたんです。園田海未さんの幼馴染みなんですよね?」
「まあ……海未って言うか、あとの2人もだけど」
「いいなぁ~…♪」
亜里沙ちゃんが羨む理由が分からず首を傾げていると、それを見ていた雪穂ちゃんがこそっと耳打ちしてきた。
「亜里沙、海未さんのファンなの。だからはがにぃが羨ましいってわけ」
「……なるほど」
けど亜里沙ちゃんには申し訳ないが、君の羨ましがっている人は小さい頃に散々憧れの人をからかっては泣かせてきた、自分で言うのもなんだが中々酷い男だ。だからそんな純真な目で見ないでくれ。俺の良心がこう……あの頃の自分の頭掴んで地面に叩きつける勢いで謝らせたい衝動に駆られるから。
「今度、小さい頃のお話聞かせてもらってもいいですか?」
「えっ!? え~っと……」
亜里沙ちゃんのお願いに何と答えていいものか、本気で困った。
この子に悪意はないんだと目を見れば分かった。キラキラと純粋な目を輝かせて見つめられ、内心冷や汗が流れる。
「そう、だね……また今度、海未も交えてなら……」
「わあっ! ありがとうございます!」
無碍に断る事もできず、かと言って海未の話をするのに本人が居ないとダメだろう、あと海未の反応でセーフティラインも見極めておきたい。
ちなみに……俺の困っている反応を見て、雪穂ちゃんはニヤニヤ笑っていた。
/
「ここが音ノ木坂か……」
校門の前に立って、目の前に建つ校舎を見上げて俺は呟いた。
母さんの母校で、穂乃果の家は曾祖母の代からここの卒業生らしい。
確かに昔からある伝統校と言う趣はあり、高層ビルの学校であるUTXとは真逆の位置だ。けど学校といえばこうした様式だからか、こちらの方が馴染み深いものがある。
「それにしても目立つなぁ……やっぱり」
「まあ女子校なのに男子が居て、おまけにUTXの生徒だからね」
ポツリと漏らすと雪穂ちゃんが答える。
雪穂ちゃんの言うとおり女子校に男子が居るだけでも目立っているのに、さらにはUTXの制服を着ているから嫌でも注目の的だ。さらに雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんと一緒に居るのも拍車をかけている。
一応、学院に着いたら誰かが迎えに行くから連絡してと言われていたから、メッセージは送っておいたが……送ったのはついさっきの事だし、そんなすぐには来ないか。
「良かったねはがにぃ。1人で来てたら不審者扱いだったよ」
「はいはい、感謝してるよ妹よ」
実際その通りだが、言われっぱなしも癪なので少し子供扱い。雪穂ちゃんの頭に手を乗せてわざとらしく答えると、子供扱いされるのが不服な雪穂ちゃんは少しだけ拗ねて口を尖らせる。
俺は1人っ子だけど、俺にとっても雪穂ちゃんは妹みたいな存在だから、別に違和感とかはない。
「そうしてると妹離れできないお兄ちゃんって構図に見えなくもないなぁ」
「東條先輩」
声のした方へ顔を向けると、校舎から1人の女の子がやってくる。
紫の髪をシュシュで2つに束ねた彼女は東條希さん。μ'sが結成して間もない頃から影ながら支え続けてきたらしい。
誰かが迎えに行くとは聞いていたが、少し意外な人物に出迎えられて面食らってしまった。
「あ、天城くんがメッセージ送ってくれた時、ちょうどウチが手ぇ空いたから迎えに来たん」
「そうだったんですか。――あ、この子は穂乃果の妹で高坂雪穂ちゃんです」
「話には聞いてるよ。ウチは東條希、3年生や。亜里沙ちゃんとは前に1回会った事あったよね」
「はい。覚えてます!」
俺が雪穂ちゃんを紹介すると雪穂ちゃんは軽く会釈し、前に会ったことがあるらしい亜里沙ちゃんは前に会ったらしく紹介する必要はなかったようだ。
「皆は練習中ですか?」
「そうなんよ。ウチとえりちは生徒会の仕事があって、後から合流することになってるん」
確か東條先輩と絢瀬先輩はそれぞれ生徒会長と副会長を務めているらしく、先輩の言葉に納得する。
「じゃあこれ、入校許可証。いくら一般の人に開放してるって言っても、校舎の中は入れないからね」
「ありがとうございます。……そう言う訳で俺は皆の練習を見に行くから」
「私たちは講堂で説明会に参加するから。東條先輩、はがに……羽鐘さんのことお願いします」
「ん、お姉さんに任しとき」
とん、と胸を叩いて応じる東條先輩。弾みで豊満な2つの胸が揺れ、俺は可能な限りそれを見ないように自然を装って雪穂ちゃんたちに目をやって誤魔化す。
いや……アメリカの女の子も大きいと言えば大きいが、東條先輩くらい大きい子はやっぱり少数派だった。話したり遊ぶ事はあってもそれは付き合い程度で、こんな風に意識した事はほとんどなかったのに。
東條先輩、俺が男って分かってるだろうか……雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんたちといったん別れ、許可証を首に掛けながらふとそんな事を思う。
何と言うか、彼女を一言で表すなら『不思議な人』だろうか。趣味がタロット占いだったり、ふんわりと人当たりが良さそうなんだが謎の関西弁につい気を取られてしまったり。
けどまあ、ちゃんと話した機会はないから距離感が掴めないで困ってるけど。
「ん~? さっきからウチのこと見詰めてるけど、どうかした?」
「あ…いや。東條先輩と2人きりって初めてだなと思って」
ぼうっと彼女の事を見ていたら急に声を掛けられてどぎまぎしてしまった。
すると東條先輩は「言われてみるとそうやね」と言って微笑む。けどその微笑は次の瞬間悪戯っぽいものに変化した。
「時に天城くん」
「はい?」
「μ'sで気になってる子はおる?」
「……は?」
あまりにも突拍子の無い問い。
それは本当に唐突過ぎて、質問の意味を一瞬理解できず間抜けた声で聞き返す。
「せやから、気になる子だよ。大本命は穂乃果ちゃん、安定はことりちゃん、大穴は海未ちゃんだけど、他に気になる子はおるの?」
「いや、なんですかそれは……よく分かんないですよ。まだ全員の事を知ったわけじゃないですし」
μ'sと関わりを持ってまだ1週間と少し。チャットで会話をする事は少々あるが、実際に言葉を交わした事は少ない方だろう。それで気になる相手は誰だと訊かれてもよく分からないというしかないのが普通じゃないだろうか。
けど東條先輩は俺の答えが不満なようで、詰まらなそうに口を尖らせる。
「それでも第一印象で気に入ったって相手くらいいるんやない?」
「……じゃあ東條先輩ってことで」
「なんかとってつけた感じやね」
「気のせいですよ」
まあ、嫌でも気になるし。矢澤先輩と比較すると時々同情したくなるから。
けど俺が適当に答えた事は東條先輩もお見通しらしく、ジト目で俺を見遣ってからにししっと笑った。
「ふ~ん。じゃああとで『天城くんはウチが気になってるんやよ』って皆に言いふらそうかな」
「鬼ですかあなたは……はあ」
俺の事をからかおうとしてくる東條先輩に呆れ、ふと窓の外の景色に目をやった。
「……………?」
何気なく見た景色。その中にぽつんと浮かぶ人影。
見た目は40代くらいだろうか。中年の男性が外にポツリと立っていた。
今は一般の人にも開放しているから保護者かなにかとも思ったけど、何か違うような気がする。そもそもこんな初夏の季節に冬用のコートを着ているおっさんなんて居ないだろう。
その異物感からか、俺はじっとその人物のことを凝視してしまっていた。
「……………」
外に佇む男性が動き、ゆっくりと顔を上げる。チューリップハットとメガネの間から覗く瞳は間違いなく俺の事を直視していた。
「――気をつけたまえ」
それは聞こえないはずの静かな声。東條先輩のものではなく、間違いなく遠くに居るはずの男性から発せられたもの。
だけどそれは有り得ないはずだ。あの人と俺との距離は開いていて、大声でないと聞き取れない。なのに今の言葉は間近で発せられたような声量だった。
「間もなく君の『敵』が君の前に姿を現すだろう」
「――天城くん、どうかしたん?」
男性の言葉に被さるようにして東條先輩に声を掛けられ、それで意識が引き戻された。
「……………」
「おーい、天城くんってば」
「あ……先輩」
目の前で心配そうに手を振ってくる東條先輩がいて、夢から醒めたかのように辺りを見回す。
外を見てみると……こんな暑い日に冬用のコートを着ている怪しさ全開の人物なんているはずもない。
「さては昨日夜更かしでもしたなぁ? ダメやよ、1人暮らしだからってあんまり夜更かしするのは」
「いえ……えっと、さっき外にコート着た中年の男性がいませんでした?」
「見てないけど……そもそもこんな暑い日にコート着た人なんているわけないやん」
「ですよ……ね」
白昼夢でも見ていたんだろうか……。東條先輩の言葉に同意しつつも、嫌にはっきりとした言葉が耳にこびりついて離れない。
「間もなく君の『敵』が君の前に姿を現すだろう」――――。
その言葉の意味を知るのは、そう遠くなかった――。
/
プレーヤーから流れる曲と共に歌い、踊る9人。
時間的都合を考えてもこれが最後の練習と言うことで、最後は通しで練習する事になった。
「(……悪くはないな)」
目の前で踊る9人を見ながら、俺は顎に手を当てて内心呟く。
ダンス、歌共にこれなら十分合格点を与えてもいい。この短い期間でよくここまで完成度を高める事ができたものだと彼女たちμ'sの成長速度には舌を巻かれる。
最後の曲が終わりに差し掛かり、綺麗に動きを止める。……再生が終了してから俺は皆に拍手を送った。
「ん。いい感じだ、これなら合格点出してもいいかな」
『……………!』
俺の評価にぱっと顔が明るくなる穂乃果たち。ただここで調子に乗ると本番でイタイ目を見るであろうと考え、俺は「だけど」と口を挟む。
「いくら練習で100点でも、本番でも100点が出せるとは限らない」
「あ……それもそうね」
自身も似たような経験があるのだろう。絢瀬先輩は喜びから一転して気を引き締めなおす。
練習だからこそ多少のミスは許される。けど本番は1回限りでミスは許されない。一瞬たりとも気を緩められないんだ。
「と言うことで本番前に俺が言えるアドバイスは、最後まで油断しない事。それと何より自分自身が楽しむ事だ」
「楽しむ?」
「そう。自分たちが楽しんでいなきゃ、見てくれている人たちも楽しくないだろ?」
首をかしげる穂乃果に笑いかけて言う。
自分たちが楽しいと言う気持ちを表現する事で、見てくれている人たちも楽しくなってそれを受けて自分たちもより楽しんでもらおうと頑張れる。中には違うと考えている人もいるから断言は出来ないが、少なくとも俺はそう考えていた。
そしてそのために重要なのはフィーリング。ギャラリーの空気を感じ取って、時には予定にない行動を取る即興性も必要だと思う。
俺のその言葉に9人は顔を見合わせ、頷く。
「わかった! 絶対に楽しいステージにしてみせるよ!」
「その意気だ。頑張れよ」
「じゃあ最後に、アレやろう、アレ!」
唐突に星空さんが叫び、ピースサインを作って手を上げる。
アレ……と言うのはμ'sのステージ前にやるコールのことだろう。
「……まだ早いんじゃないかな?」
「えー? だって天城先輩はステージに入ってこれないし、今しかないよ」
「いや、俺も入ってるなんていつから決まってたの?」
「いつからって……いつだろ?」
こてん、と心底不思議そうに首をかしげる星空さん。
そもそも俺は指導に少しだけ手を貸しただけで、μ'sのメンバーになったつもりはないし……他校の男子が入ってもいいのか?
「せっかく一致団結しようって時に水差すなんて…空気読みなさいよ」
「いや、これ突っ込む所じゃないのかな」
西木野さんの言うとおり確かに水を差すのは自覚しているが、それでもこれはどうなんだろう。ノった者勝ちなのかも知れないけど、いややっぱり空気読んでしれっと加わってるのが正解だっただろうか。
「もー。羽鐘くんだってμ'sの一員だよ?」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけどさ……」
けれど、ここに俺が入るのはなんか違う気がする。
μ'sって言うグループは彼女たち9人がいるからこそであり、他の人間が入ったり、入れ替わったりすればそれは違うような気がした。
「……とにかく、俺は今回見送り。この先の主役は皆なんだから」
「羽鐘くん……」
少し寂しげな顔を浮かべる穂乃果に、俺は気にしなくていいと手を振る。
納得こそしてない様子だったが、穂乃果は皆と円陣を組み、順に番号を言っていく。
そして――。
「μ's!」
『ミュージック…スタートー!』
/
「皆さんこんにちは! 私たちは音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sです!」
ついに始まったμ'sのステージ。
この場には俺が思っていた以上に多くの人が集まっていて、どちらかと言えば最後の方にやって来た俺は思わず目を丸くした。
雪穂ちゃんたちと合流して、少しすると穂乃果たち9人が姿を見せて誰とはなく拍手が始まり、それに連鎖して次々と拍手が起こり穂乃果たちを迎える。
「私たちは、この音ノ木坂学院が大好きです! この学校だからこのメンバーと出会い、この9人が揃ったんだと思います」
挨拶をする穂乃果の顔には緊張の色は見られない。他の人たちも同じで、最初の不安は1つ無くなった。
「これからやる曲は、私たちが9人になって初めて出来た曲です! 私たちの――スタートの曲です!」
「(……みんなの気持ちを込めてやれば、きっとここにいる人たちにも伝わる。頑張れ、皆)」
言葉には出さず、心の中でエールを送る。
思う存分やっていいんだ。なぜなら――ここからは皆のステージなのだから。
『聞いてください! 『僕らのLIVE 君とのLIFE』!』
設置されていたスピーカーからイントロが流れ、ついにステージが始まった。
明るいビート。そして疾走感のあるメロディ。そこに歌声が乗ってどこまでも響いていくような感覚。
余りこの手のジャンルに興味を抱かなかったけど、動画ではなく本物を目の前で見ることが出来たからか、悪くないと思えた。
目を瞑れば容易にイメージできる。どこまでも走っていく彼女たちの後ろ姿が。
最初は穂乃果たちに頼まれたから、まあ手伝うか……って感じだったけど、彼女たちがどれだけ真剣にスクールアイドルに向き合っているかを短い間でも間近で見続けてきたからかな……。
「(……いいじゃないか。スクールアイドルって言うのも)」
俺もすっかりはまり込んでいたらしい。思わず頬が緩むのを覚えながらゆっくりと目を開ける。
曲は終わりに差し掛かり、最後のフォーメーションに入るシーン――無事、成功。
終わったとたん、割れんばかりの歓声が鳴り響く。隣に居た雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんも感動に目を大きく見開いて拍手を送っていた。
俺も彼女たちに習って拍手を送る。
人のダンスを見て感動した……なんていつ以来のことだろう。
確かに他人のダンスを見て心が揺れ動いた事はある。けれどそれは反骨心と言うか、「絶対に負けない!」という意地みたいなものだ。
けど……こう言うのも悪くない。眩しい太陽のような笑顔を浮かべている彼女たちを見ていて、心からそう思えた。
「ありがとうございますっ! まず1曲目、『僕らのLIVE 君とのLIFE』でした!」
次の曲の準備が出来るまでの間のMCに入り、息を弾ませながら穂乃果が言う。
「えっと……あ、あれ? 何するんだっけ?」
が、いきなりど忘れをかましてしまい他のメンバーががくっと脱力。観客の人たちはどっと大笑いする。
「メンバー紹介よ、メンバー紹介!」
「はっ、そうだった!」
「(……穂乃果にMCをやらせるのは無理だったんじゃないか)」
絢瀬先輩の耳打ちにすぐに思い出したが……こんな調子で大丈夫だろうか。
「あ、改めてメンバーを紹介します。まずは――――」
気を取り直し、紹介しようと口を開きかけた穂乃果が……突然固まった。
突然動きを止めた穂乃果。いや……穂乃果だけじゃない。他のメンバーも目を丸くして何かを見ている。
彼女たちから見て前方。俺たちから見て背後に何かを。いったい何が――。
「…………なっ」
振り返り、一瞬呼吸が止まった。
それは例えるなら銀色の幕。空から降りてきたカーテン。
けど空にヘリは飛んでいないし、そもそも物質なのかすらも怪しいそれは不気味に淀んでいる。
「なに……あれ?」
「ハラショー……アレもオープンキャンパスのために用意したものなのかな……天城先輩?」
反射的に雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんを背後に隠し、突然の事に亜里沙ちゃんは驚いて俺を見上げてきた。
無言で目の前の幕を睨みつける俺の脳裏に、3年前の光景がフラッシュバックする。
……この現象を、俺は知っている。あの日、あの時、あの場所で……俺が遭遇したあの現象と、目の前の現象はまったく同じものだ。
それはつまり……奴らがこの世界に現れるという事……!
「なんだ……これ?」
「何かのサプライズ?」
何も知らない他の観客たちを他所に、幕に変化が起きる。
幕の向こうで何かが蠢き、すぅっと静かにこちら側へ姿を現した。
まさにロボットと言うべきメカニカルな外観をした1体を中心に、スーツの色がそれぞれ異なるマスクやボディアーマーを身に着けた人のようなものが9体。
困惑している人たちを他所に、リーダー格らしいロボットが名乗る。
「俺は大ショッカー最強の戦士! 怪魔ロボットシュバリアン! この世界は我らの支配下に置く!」
「大…ショッカー?」
「テレビの撮影……?」
あまりにも突拍子もない出来事にひそひそと囁きあう人々。
奴の言っている事は本当だろう。でもこの場に居る人たちは俺を除いて信じていない。
「な……なんですかあなたたちは!」
その時、不意に背後から声が響いた。
振り向くと我に返った絢瀬先輩が怒った顔を浮かべて奴らに詰め寄ろうとしている。
「いくら一般開放していると言っても、そんな仮装なんて許可した覚えは――」
「ッ! ダメだ!!!」
抗議しようとした絢瀬先輩。その彼女に向け、シュバリアンと名乗ったロボットは右腕と一体化した鎌の先端に内蔵された銃口らしき物を向ける。
それに気づき、とっさに動いた俺は倒れこむように彼女に覆いかぶさった。一拍置き、銃声と共に頭上を高熱が掠めた。
轟く爆音。顔を上げ、後ろを向くとステージの一部が破壊され、もうもうと黒煙を立ち上らせている。
凍りつく空気。それはテレビの撮影でもサプライズイベントですらない事を思い知らせるには十分だった。
「あ……あぁ……」
隣でその惨状を目にした絢瀬先輩はただ震えていた。
μ'sの晴れ舞台。楽しかったはずのステージ。最高の1日になるはずだったそれらは、一瞬にして砕かれてしまった。
「抵抗はするな。さもなければ貴様たち全員こうなるぞ」
シュバリアンの言葉が人々に伝播し浸透していく。
「う…うわぁぁあああっ!」
「きゃあああぁぁっ!」
それからはもう大パニックだった。見に来てくれていた人たちは我先にと逃げようとする。
いや、逃げなきゃいけない。こいつらに捕まればどうなるか……それを教えてくれたのはアイツだ。
だけど俺は……! 俺は震える絢瀬先輩の肩を掴み、強引に振り向かせる。
「絢瀬先輩、先輩っ!」
「あ、天城くん……」
「皆を連れて逃げてください。俺が奴らを引きつけますから!」
「引きつけるって……何を言ってるのよ、危険よそんなの!」
「ここで問答してる時間だってないですよ! 亜里沙ちゃんたちだって居るんだ、彼女たちまで危険に晒せない!」
「け、けど天城くんは……」
「早くっ! 俺だって長く持たせられる自信はないんだ!」
「……っ」
俺の剣幕に絢瀬先輩の方が折れ、「ごめんなさい」と呟いて立ち上がると皆の所に戻っていく。
「羽鐘くん! 羽鐘くんも一緒に逃げなきゃ!」
「俺はお前たちが無事に逃げ切ってから逃げる! 海未、ことり! 穂乃果を引っ張ってでも連れて行け!」
「で、ですが……!」
「いいから行け! もたもたするな!」
躊躇っている海未に怒鳴りつけると、納得いかなそうだったが海未はことりに声を掛け、俺の所に来ようとする穂乃果の腕を引っ張って走っていく。
それを追おうとマスク集団が動くが、その中の1人の肩を掴んで振り向かせると顔面を殴りつけた。
「っ……!」
一々確認している暇なんてない。
他のマスクが手にした金属製の棒を振り下ろしてきたのをいなし、腹に膝蹴りを打ち込んで怯ませると持っていた棒を奪い取り振り回す。棒術なんて習った事ないからただがむしゃらに振り回すだけだ。
それに……あの程度では簡単にやられないようで、たいして効いた様子を見せず俺が殴ったマスクたちは起き上がり、他のマスクと共に俺を取り囲む。
そして囲いの向こうにいたシュバリアンがあざ笑うかのように口を開いた。
「小僧、その勇気だけは褒めてやろう。だが俺たちに挑むには力不足だったな……覚悟は出来たか?」
「覚悟……覚悟だって?」
その言葉に頭の中が急速に冷えて行き、くっと口角を釣り上げた。
ちらと背後を一瞬見遣り……皆は無事にここを離れたようで、ひとまず安心する。
これで――心置きなく、暴れる事ができる。
「覚悟なんてとっくの昔にしてある。むしろ覚悟しなきゃいけないのはお前たちのほうだ」
「なに……?」
「この世界にお前たちと戦う事が出来るやつがいないと思うなよ……」
そう言いながら俺はあるものを取り出した。
中央には何かをセットするくぼみがあり、右側には刀をイメージしたパーツが、その反対側には昔いたと言う戦国武将風の意匠が施された何かの横顔らしきものがプレートに描かれている。
そのバックルのようなものを腰に当てると、自動的にベルトが伸張して腰に巻きついた。
さらに、ポケットの中に忍ばせていた大型の南京錠のようなそれを取り出し、ゆっくりと構える。
これを使うということは、本当にもう後戻りできないという事。
本当ならアイツはこの力を使ってほしくなかったのかもしれない。これはこの世界に必要のない力だと言っていたから。
それでもこれを俺に託したのは、もしこいつらが再び姿を現した時に戦える力がない事を悔やんでほしくなかったから。
アイツの夢、そして願い、希望……その全てを俺はこれと共に受け継いだんだ。だから俺は――!
「見せてやるよ…………俺のッ!」
今この時が、この力を使う時だ!!!
「変身ッ!!!」
『クウガ!』
錠前の横にあった開錠スイッチを弾くと、錠前から電子音が響く。
すると頭上に頭上にファスナーのようなものが円を描くように空間を裂き、ペロンと捲れる。
捲れた空間の中は鬱蒼とした深い森の一部で、その中から何かがゆっくりと降りてきた。
それは――例えるなら、『顔』。錠前にデザインされた顔と同じ物体が出現し、俺の頭上で留まる。
構わず俺は腰を捻って勢い良く錠前を前方に突き出し、持ち替えてバックルの窪みに装着。固定用の穴へ掛け金部分を通しながら押し込んでロックした。
『ロック・オン!』
そして――右側のブレードパーツを倒し、錠前を切り開く!
『クウガアームズ! 超・変・身! ハッハッハッ!』
本当は書くうちにずれ込んでこの回でバトルも入れるつもりだったんだ……。キチンと予定立てたつもりなのに狂いまくる不思議不思議。
けど次回は最初からクライマックスでバトルやりますのでご安心を。ついでに次回までを含めて『序章』と言うことで、物語が本格的に始まると思います。うん……がんばります。