ラブライブ! A Return Hero A Return Legend   作:リベリオン

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 今回は前書きは簡潔に。

 穂乃果好きの人ごめんなさい。多分不快な気分にさせると思うので戦闘シーンは飛ばした方がいいかもしれません。

 覚悟が出来た人のためだけの挿入歌

RIDER CHIPSより「Full Force」(仮面ライダーカブトより)


第9話 Wonder zone

第9話 Wonder zone

 

 すったもんだした後、ことりの悲鳴に駆けつけた絢瀬先輩に介抱と経緯を説明され、俺は仏頂面で注文したアイスコーヒーをストローで啜る。

 

「ごめんなさい。まさかこんな事になるなんて……」

「いや、本当。色んな意味で衝撃でしたよ」

 

 幼馴染みがメイドしていたりおまけに悲鳴上げられて一瞬意識が途切れたり。

 

「南さんにも天城くんを呼んでるって言っておいたんだけど……」

「だ、だって……突然だったから」

 

 で、横に立っていることりは申し訳なさから小さくなっていた。

 聞くとことりはこの……メイド喫茶? なる場所でアルバイトをやっていたらしい。

 で、つい先日たまたまアキバを訪れていたμ'sの皆に偶然鉢合わせし、逃げ出したが捕まって洗いざらい白状したと。

 ――働き始めたのは自信が持てない自分を変えたかったから。(あと単純に衣装が可愛くて釣られた)。

 

「皆を引っ張っていける穂乃果ちゃん、しっかり者の海未ちゃん、羽鐘くんは昔から背中を押してくれるし、今はなんでも自分で決めて行動してるから……」

「俺が?」

 

 ことりがそんな風に思っていたなんて意外だった。

 背中を押すのなんてそんなのはそっちの方が面白そうだからだったし、今だって後先考えてないのが大半なだけだ。ことりが思ってるような奴じゃない。

 ただそれを言葉にしてもことりは納得してくれないと思い、つい口を噤んでしまった。

 

「えっと……それで、今度のライブについて相談なんだけど」

 

 そんな空気を察してか、絢瀬先輩は話題を変えてくる。

 聞けば次のライブはこのアキバでやるつもりで、ことりに作詞をしてもらっているらしい。

 この街を誰よりも知っていることりが作詞をするのがいいだろう、と言うことらしいが製作はかなり難航しているようで、作詞ノートにその迷走っぷりが書き記されている。

 『チョコレートパフェ…おいしい』とか、『パリパリのクレープ…食べたい』とか……酷すぎて視界が滲んできたんだけど。

 

「けど作詞は専門外だからなぁ……」

 

 ステップや振り付けなどは助言を出せるが、流石に作曲・作詞に関してはやった事がないためどうすればいいのかまったく分からない。

 とりあえず思いついたフレーズを……ああ、だからこんなのが書かれてるのか。ある意味納得して作詞ノートに目を落とした。

 

「けどアキバでライブなんてチャレンジャーなことやりますね。A-RISEのお膝元なのに」

「だからこそ、よ。この先順位を上げていくには言い方はアレだけど上位グループのファンを奪うしかないもの」

 

 確かに絢瀬先輩の言葉には一理ある。

 ファンの数が有限であり、なおかつスクールアイドルランキングのシステム上、上位グループからファンを味方につけるしか道はないだろう。

 だが相手はあの綺羅ツバサさんが率いるA-RISE……けど彼女たちは他のスクールアイドルへの攻撃を嫌っているし、ファンもそれを分かっているから妨害されるような心配はない…と、思いたい。

 結構シビアなのはどこも同じか……と嘆息すると、俺は仕事に戻ったことりに目をやった。

 なんでもことりは伝説のメイド『ミナリンスキー』と称され、可愛い上に完璧な接客対応や歌も上手いことから凄まじい人気を博しているらしい。

 ただ、あまりこういった場所に馴染みがない俺にはどうリアクションを取ればいいかわからず、はあ…と間抜けた返事しか出せなかった。

 けど……ああして見てると人気と言われるのも分かるかもしれない。

 元々ことりは幼馴染みの贔屓目で見てもかわいい。それに加えてあの甘い声や趣味がお菓子作りと男のストライクゾーンを見事に突いている。

 

「幼馴染みがこういう場所でアルバイトをしているのはイヤ?」

 

 じっとことりの事を見ていたら、絢瀬先輩が優しい声で尋ねてきた。

 

「別にそんなんじゃないですよ。何よりことりはちゃんとした目的を持って働いているわけですし、ああして働いている所を見ると天職なのかもなぁとは思いますけど」

 

 ただ、こう……なんか分からないけどモヤモヤする。

 メイド喫茶なんて名前は聞いたことがあるけど見るのも入るのも初めてで、普通の喫茶店とは違う異質な空気から抵抗があるのかも。

 ただこのメイド喫茶は……その、『萌え』? なるものを全面的に押し出しているような店ではなく、あくまでも制服がメイド服なだけの普通の喫茶店スタイル……? だとか。うん、俺にはよく分からない。

 

「……でも、本当に楽しそうに働いてるんだなって、見ていて分かりますよ」

 

 気のせいかもしれないけど、ここで働いていることりは普段よりも活き活きしているようにも見えた。

 最初は服装に釣られて、結果的に自分に合う仕事だったとはいえ誰にも相談せずに決めたのはとても勇気のいる決断だっただろう。なら俺はその決断を尊重してあげたいし、応援だってする。

 俺がそういう風に伝えると、絢瀬先輩は目尻を下げて微笑んだ。

 

「少しだけ分かった気がするわ。南さんたちが君を慕う理由が」

「ことりたちがなんですか?」

「なんでもないわ。あっ、そうだ。天城くんに1つお願いがあるんだけど」

「お願い? 俺に出来る事なら構いませんけど……」

 

 絢瀬先輩からの突然の頼みに、俺は一応引き受けながらも首を傾げた。

 

 

「ごめんね、羽鐘くん。わざわざ送ってもらって」

「気にしなくて良いって。帰り道も同じなんだから」

 

 申し訳なさそうに肩を狭めて謝ることりに俺はなんでもないと答える。

 バイトを終えたことりと一緒に帰ってほしい――それが絢瀬先輩からのお願いだった。

 まだ日も高いが、この頃は何かと物騒だしそうでなくても女の子1人で帰らせるのは不安だろう。もちろんそれは絢瀬先輩にも当てはまるから、ことりのバイトが終わるまで店で時間を潰していたが。

 途中まで先輩とことりの3人で、帰り道が違う先輩と別れてからことりの家に向かっていた。

 

「そう言えばことりと2人で帰ることなんてあったか?」

「え~っと……あんまりなかったかも」

 

 ふと思いついたことをことりに訊ねてみると、あっちも俺と同じだったらしい。

 記憶を振り返ってみてもいつも3人か4人で行動していて、今は学校が違うから頻度こそ落ちたが2人きりという状況はやっぱり珍しいものだった。

 まあ、俺も穂乃果も昔から1人で動き回るような性格で、ことりと海未はその性格から1人で行動することは少なかったし。

 

「それにしても驚いたな。ことりがメイド喫茶でアルバイトしていたのは」

「も~…それは言わないでよぉ。穂乃果ちゃんたちに見つかった時もビックリしたんだから……」

 

 からかうつもりはなく、ただ純粋な驚きを口にするとことりは恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 

「いやでも、俺は凄いと思うな」

「……そんな事ないよ。羽鐘くんたちに比べたらことりは……」

「でもそれで腐らないで、前に進もうと頑張ってるじゃないか」

 

 表情を暗くすることりに、それでも俺は言葉を紡ぐ。

 腐ってその場に立ち止まってしまうのは簡単だ。

 だけどことりは諦めることなく、前に進もうと手探りしながら頑張っている。

 

「でもさ、ことりは自分のこと過小評価しすぎじゃないのか?」

「え?」

「少なくとも俺はことりの事を凄いと思ってる。だって俺には無い物を沢山持っているんだから」

「でもことりは……」

「……きっとさ、皆同じなんだよ。自分に無いものを持っている相手に憧れるのって。だから穂乃果も海未も、自分が持っていないものを持っている俺たちに憧れたりしているんじゃないかな」

 

 でも同じものを目指そうとしてもそうは行かない。別に物真似が悪いなんていわないが真似た所でその人になれるわけじゃない。

 

「そうなのかな……」

「ああ。だからことりはことりのままで前に進めば……ってそれで悩んでるのに余計悩ませるようなこといったら困るよな」

「ううん。ありがとう、羽鐘くん……」

 

 弱々しかったが、それでもことりは少し元気を取り戻せたらしく微笑んだ。

 俺もそれに笑みを返し、ついことりの頭に手が伸びてそのまま撫でてしまう。

 

「あ…」

「っと……悪い、いやだったか?」

 

 一瞬驚きに目を見開いたことりに、俺は頭から手を離して申し訳なさそうに謝った。

 気心知れた相手とはいえ、女の子の頭を許可なく撫でたりするのは失礼だったな……母さんも「髪は女の命。許可なく触るな!」なんて鬼みたいな形相で釘を刺していたし。

 

「ううん、いやじゃないよ。えへへ……」

 

 けどことりは怒るわけでもなく、こそばゆそうに目を閉じてそれを受け入れていた。

 と、俺に撫でられながらことりは「羽鐘くん」と呼びかける。

 

「どうした?」

「あのね、ことりがアルバイトしてる事はママに内緒にして欲しいの」

「…? なんでまた?」

「えっとね、実は学校に申請届けてなくて……ことりが働いているお店はあんな感じだったけど、『メイド喫茶』ってあまり世間的にいい印象はないから」

 

 理由を聞かされ、俺は確かにと思わず頷いてしまう。

 俺も最初はメイド喫茶にいい印象は抱いておらず、少し抵抗を抱いていただけに否定は出来なかった。

 しかもことりの母親は音ノ木坂学院の理事長だ。いくらちゃんとした目的があると言っても、無許可でアルバイトをしていると言うのはやっぱり不味いことだろう。最悪μ'sの活動にも支障をきたすかもしれない。

 

「わかった。ちゃんと秘密にしておく」

「ほんとに?」

「ああ。……俺ってそこまで信用無いのか?」

「……小さい頃、穂乃果ちゃんと海未ちゃんが後から遊びに来るのについ出来心でおやつを2人だけで食べちゃった時、2人だけの秘密だよって言ったのにすぐにバラしちゃったのって誰だったかなぁ?」

「ごめんなさい前科持ちでした」

 

 いつもと同じはずなのに、妙に威圧感のある笑顔に冷や汗が流れた。

 うん、信用無くて当然だ。俺は90度平謝りしながら思う。

 もちろんその後はあとから来た2人に俺は散々叩かれ、おまけにことりには『おやつ』にされるオチを食らってからは絶対ことりとの秘密は喋るまいと固く誓ったものだ。

 っていうかことりがマジギレしたら1番怖いってあの時知ったんだよな。普段温厚なだけに怒ると怖い。俺が『おやつ』にされている間穂乃果たちは怯えて隅っこで震えていたし。

 

「じゃあ、絶対に秘密にしてくれるよね?」

「もちろんです、はい」

 

 『おやつ』にだけは絶対なりたくないし。と内心付け加えながら俺は頷く。

 するとことりは右手を小指だけ立てて差し出してきた。

 

「じゃあゆびきりしてくれる?」

「あ、ああ……」

 

 ゆびきりなんていつ以来だろう。久しぶりの事に戸惑いながら、俺はことりの細い指に自分の小指を引っ掛ける。

 

「ゆ~びき~りげ~んまん、嘘ついたらことりのおやつにす~るぞっ、ゆ~びきった♪」

「……………」

 

 甘い声で歌うようにおまじないの言葉を言うことりだったが、後半の現実的なペナルティに思わず頬が引き攣る。

 ゲンコツ1万回と針を1000本呑まされるよりもよっぽど怖いんだが……。

 ゆびきりを終えてもことりは指を離そうとせず、なぜか嬉しそうに笑っていた。

 

「えへへ…」

「随分楽しそうですねことりさん。そんなに俺を『おやつ』にするのが楽しみなんですか」

「えっ!? ち、違うよ~」

 

 俺がジトッと半眼で言うと、ことりは少し慌てて手を振った。

 

「『おやつ』じゃないならなんだよ?」

「そ、それは……内緒だよ」

「いや、逆に気になるんだが」

 

 あの状況で『おやつ』にするのが楽しみでないなら、他にいったい何があるだろう。少し考えてみてもこれと言った考えは浮かんでこない。

 

「内緒は内緒なの! あんまりしつこいと女の子に嫌われちゃうよ?」

「うっ……分かったよ」

 

 珍しく強い口調のことりに押されてしまい、思わず引き下がってしまう。

 つまるところ俺が『おやつ』にされないように気をつければ良いだけの話だ。なら細心の注意を払うしかない。幸い『おやつ』にされても死ぬような目に遭うわけじゃなんだ。

 ……生き地獄な事には違わないが。

 

「分かってくれればいいの! ほら、早くいこ♪」

「あ、ああ……」

 

 結局上機嫌の理由は分からないままだが、機嫌を損ねる理由も無いからいいか……そう自分を納得させ、俺はてことりに手を引かれて歩き出す。

 ちなみにことりの家は俺と同じ2階建てで、今風の普通の家だ。流石に7年も経つと家の場所は合っているか不安だったが、記憶通りでほっとした。

 

「あら」

 

 と、向こうから来た女性が俺たちに気づいて声を上げる。見た目や雰囲気もことりによく似ていたがそれも当然なはずで。

 

「おかえりなさいことり。それに久しぶりね、羽鐘くん」

「ただいま、ママ」

「どうも、お久しぶりです」

 

 柔らかく微笑む目の前の女性に俺は軽く会釈した。

 この人こそことりの母親で、そして音ノ木坂学院の理事長だったりする。おかしいな、記憶にある昔のお母さんとまったく変わってないんだけど。

 ただ将来はことりもこんな感じになるのかなぁ、なんて自然と納得も出来る。

 

「珍しいわね、ことりと羽鐘くんが一緒なんて」

「次のライブについて相談してたの。ね?」

「あ、ああ。そうなんです。それで遅くなったから家まで送ろうって」

 

 ことりのお母さんの疑問に即座に反応したことりに対し、俺はその反応速度に気を取られて一瞬返すのが遅れてしまう。

 

「(バイトの事は内緒なんだよな。口を滑らせないようにしないと)えっと……そう言えば戻ってきたのに挨拶に来てませんでしたね。すみませんでした」

「気にしなくてもいいのよ。実花から話は聞いていたし、ことりが毎日のように羽鐘くんの話を……」

「マ、ママ何言ってるの~!?」

 

 何かを言おうとしたことりのお母さんだったが、慌てたことりの声がそれを遮る。

 そう言えば母さんがこっちに戻っていた時に、俺たちの母親同士で集まったと言っていたっけ。

 あとなことり、お前と同じようなケースを俺は既に耳にしているんだ。情報元は雪穂ちゃんから。

 

「仲良くても繋いでいるし……羽鐘くん、これからも娘をよろしくね」

「いや絶対勘違いしてますよね」

 

 手を引かれてからずっと、ことりと手を繋いだままここまで来たのを勘違いしているのかはたまた知ってて茶化しているのか……ほら、ことりが耳まで赤くして俯いてるじゃないか。

 はあ、と嘆息してことりと繋いでいた手を解く。いや、ことりさん。そんな名残惜しそうな顔しないでくれ。

 

「じゃあ俺はこれで」

「もう帰るの? せっかくだから一緒に夕飯を食べていったらどうかしら?」

「いえ、そんな……急にお邪魔したら迷惑じゃ」

 

 せっかくのことりのお母さんの申し出に丁重に断ると、なぜか鳩が豆鉄砲でも食ったような顔をして、噴出すと手で口を隠しながら笑い出した。

 

「あの…なにか?」

「ふふっ……ご、ごめんなさい。まさかあの羽鐘くんから『迷惑』なんて言葉を聞けるとは思わなくて。思わず驚いてしまったの」

 

 ああ、それか……とお決まりなリアクションに俺は嘆息する。

 昔の俺を知る人が今の俺を見れば大抵疑ったり、こんな風に笑ったりしてきてもうご自由にリアクションをどうぞ、なんて投げ槍気味になってきていた。

 

「あと、別に迷惑なんて事はないわよ。ことりも喜ぶし……ね?」

「うんっ!」

「…けど」

「それに1人暮らしだと何かと苦労も多いと思うし、1人で食事なんて楽しくないでしょう?」

 

 確かにそう言われるとその通りだったりする。料理なんて慣れていない上にやはりあの家で1人で食事と言うのは寂しい。

 だからいつでも来なさいとおいでおいでしている穂乃果の家にはかなり揺れ動いているが、この程度で挫けてどうするんだという葛藤もあった。

 ……ああでも、少し邪な考えだけど食費が1食分浮く魅力もあるし。

 すると頭の中で天使と悪魔が囁きあいを始めた。

 

『いいじゃん、せっかくお呼ばれしてるんだから甘えちゃえば! その勢いで穂乃果のウチにもくるようになればいいと思うよ!』

『そうだよ。ここで断ったらことりは悲しいよ? ね、羽鐘くん。おねがぁい♪』

 

 だめだ。両方天使の格好した悪魔じゃないか。しかも後者は特に厄介な。

 

「いいでしょ羽鐘くん? ね、おねがぁい♪」

「……っ」

 

 リアルにことりの『お願い』を食らって俺の心はかなり揺れ動いた。

 潤んだ瞳に脳を溶かすような甘い声。そんなもので頼まれれば屈してしまいそうになる。実際の所、俺が断る理由も無い上にいい事尽くしだ。

 結論、1ラウンドKO負け以外ない。

 

「えっと……お邪魔します……」

 

 申し訳なさから小さくなりながらそう言うと、ことりたちはにっこりと笑う。

 で、俺はことりの家で夕飯をご馳走になり、おまけにことりの手作りチーズケーキまでご馳走になってから南家を後にするのだった。

 

 

「お帰りなさいませ! ご主人様っ!」

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

「どうして羽鐘が来ているんですかぁっ!?!?」

 

 俺の幼馴染み3人がメイドになって出迎えた。

 ……いや、わけが分からないな。ちょっと落ち着こうか。

 ことりの家で夕飯をご馳走になってからまた数日、またもことりがミナリンスキーとして働いているメイド喫茶に呼び出された俺を出迎えたのは、なぜか揃ってメイド服を着ている穂乃果、海未、ことりの3人だった。

 ことりは分かるが、なんでお前たちまでその格好をしているんだ……?

 

「なんだかことりちゃんが作詞で煮詰まってるみたいだから、気分転換もかねてどうかなって。ちなみに穂乃果たちはお手伝い!」

 

 えへん、と胸を張る穂乃果にどこから突っ込んでいいのやら。

 いや確かに3人とも可愛いし似合っているけど、それよりも衝撃の方が大きすぎて8:2の比率でインパクトの方が占めている。

 

「って言うか海未はなんで隠れるんだよ?」

「そうだよー。せっかく羽鐘くんが来てくれたのに」

「羽鐘が居るからですよ! 恥ずかしいんです!」

 

 半眼でバックヤードに引っ込んだ海未に突っ込むと、少しだけ顔を覗かせながら叫び声が返って来た。

 

「普段の格好ならまだしもこんな格好を羽鐘に見られるなんて……こうなったら園田家秘伝の記憶忘却術で記憶の消去を……」

「おい何気に物騒なこと言ってるだろ」

 

 ブツブツ呟く海未から内容を聞き出すのだけは怖くてやれない。って言うか不穏なオーラが見え隠れしてるんだが、一時の気の迷いだよな? 信じてるからな?

 

「えっと、それじゃあ皆と一緒の席でいい?」

「あ…ああ。そうだな」

「かしこまりました、ご主人様。それではお席にご案内させていただきます♪」

 

 さっきまでの俺が知ることりとはまるで違う、まさに本物のメイド(っていっても本物のメイドさんなんて見たことないが)のような丁寧な仕草で一礼すると、ことりは俺を席に案内する。

 そのまま俺はことりに案内されて星空さんたちが座っていたテーブルに案内され、さらに丁寧にメニューを手渡してくれると、いったんお冷を持ってくるために一礼してからバックヤードに戻った。

 

「……………」

「天城先輩完全に骨抜きにされてるにゃー」

「って言うかなんか魂が抜け出しそうな勢いよ」

 

 口々に星空さんや矢澤先輩が何か言っているが、残念ながら完全に雑音となって今の俺には聞こえなかった。

 なんて言うか、なんて言えばいいのだろう。言葉では言い表せないときめきのようなものを感じている。

 こういう場所に通い詰める人の気が知れないとさえ思っていたが、今なら気持ちが分かるかもしれない。

 

「なんか……常連になりそうかもしれない」

「ありゃー…これはかなり染められてるなぁ。ことりちゃんが凄いのか、それとも天城くんが耐性低いのか……」

「多分両方じゃない?」

 

 出された水を半分ほど飲み、ぼやいた俺を苦笑いを浮かべた東條先輩や呆れて半眼になっている西木野さんが突っ込んだ。

 そうだな。ちょっと落ち着こう。相手はことりじゃないか。なに動揺してるんだ。

 

「お待たせしましたっ、こちらアイスコーヒーでございますっ!」

「……………」

 

 とにかく動揺する自分を落ち着かせようとしていると、穂乃果が俺の前に注文したドリンクを持って来た。

 

「なあ、穂乃果」

「? どうしたの?」

「なんか……お前の接客って商店街の鮮魚店の主人っぽい」

『ブフッ!』

 

 ずっと抱いていた突っ込みを穂乃果に向けて言うと、周りも思いっきり噴出す。どうやら皆同じ感想を抱いていたらしい。

 

「え~? そうかなぁ?」

「もうちょっとこう……なんだろうな? ことりを参考にしてみろよ」

 

 相手が穂乃果と言うこともあって俺は落ち着きを取り戻し、はてと首をかしげる穂乃果に言ってやるとアイスコーヒーを口にする。

 まあ、活発な穂乃果には難しいだろうなぁ。ああ、ことりと言えば……。

 

「そう言えばことりの奴何かあったのか? なんだか様子が違う気がしたんだけど」

「え? ああ~……」

 

 ふと気になった事を訊ねると、穂乃果は納得したように頷いた。聞けば作詞のヒントが浮かんだらしく、この後早速書き出すらしい。ことりの中でも何か心境の変化があったのか、それが顔に出ていたということだ。

 ストリートライブの日程も決定し――次の日曜、場所はこのメイド喫茶の前で行われる事になり、おまけに全員メイド服で曲を披露する事に。

 その曲の名前は――『Wonder zone』。この街を、友達を、色んな物を見てことりが感じたことや思った事をそのまま歌にしたナンバー。

 大々的に告知した事もあってかなりのギャラリーが押しかけ、披露された曲は大盛況に終わった。

 

「……まあ、今回俺特にやることなかったけど」

 

 自虐ネタみたいに呟いてちょっとだけ虚しくなる。流石にメイド服で踊ると言うのはアレだし、踊るスペースも確保するのは難しいため歌のみと言うことで俺の出番は一切なかった。

 べ……別に寂しくないし。本格的に関わってから初のライブで出番がなかったなんて気にしないし。

 ただボーっとするのもなんだろうと思って、こうして穂乃果たちにお疲れの意味を込めて自販機で飲み物買ってきたし。

 人数分の飲み物も買い終え、さて穂乃果たちのところに戻ろうと足を向けると――。

 

「いたいた! 羽鐘くん!」

「穂乃果? お前神田明神で待ってるんじゃなかったのか?」

 

 薄暗がりの中から突然穂乃果が姿を現して思わず驚いてしまう。

 確か海未とことりたちと男坂のところで待ってるって言っていたはずなのに……。

 

「遅いから迎えに来たんだよ。ほら、早く行こうよ?」

「あ、ああ……」

 

 腕を掴んで強引に引っ張る穂乃果に俺はなぜか違和感を抱いた。

 何かがおかしい。それが何なのかは具体的に分からないけど、とにかく目の前の穂乃果に違和感があった。

 

「――そう言えばこの間、ことりの家で夕飯をご馳走になったんだ」

「へぇ~、そうなんだ。羽鐘くん1人暮らしだからやっぱり食事の用意って大変だもんね」

「……………」

 

 なんとなく、ことりと秘密にしておいた事を打ち明けると、穂乃果は気にする風でもなく笑いかける。

 ……おかしい。あんなにウチにおいでと誘っていたのに、どうしてそんな態度なんだ? 普段の穂乃果なら、

 

『えぇ~!? ズルイよことりちゃんだけなんて! じゃあ今晩はウチで食べてよね!』

 

 なんて事を言いそうなはずなのに……。

 

「……………」

「羽鐘くん? 急に立ち止まってどうしたの?」

 

 疑いたくはないけど、どうしても疑念が拭いきれず俺は足を止めて目の前の穂乃果を凝視した。

 姿も声も穂乃果と同じだ。だけどこの違和感はなんだ?

 

「お前……本当に穂乃果か?」

「もう、なに言ってるの? ヘンな羽鐘くん」

「少なくとも……俺が知っている高坂穂乃果は、散々自分が誘っておいたのに他を優先させられて大人しくいられるほど大人じゃないんだよ」

「……………ふふっ」

 

 俺が理由を口にすると、目の前の穂乃果が笑う。

 姿も声も、何もかも穂乃果と同じはずなのに、あいつが見せたこともない暗く冷たい笑みに戦慄が走り、俺は反射的に飛びのいた。

 

「あーあ、上手く擬態できたと思ってたのになぁ……勘がいいんだね」

「お前……何者だ」

 

 背中を冷たい嫌な汗が伝う。

 目の前に立つ穂乃果に似たナニカは笑みを崩さず、スカートのポケットから2枚のメダルを取り出した。

 

「これ、何なのかは知ってるよね?」

「この間倒した怪物から出てきたメダル……っ!?」

 

 思わず口走ってしまうが慌てて口を塞ぐ。

 動揺と共に何故お前がそんなものを持っているのかという疑問が生まれるが、それよりも驚くべき光景が次の瞬間飛び込んできた。

 穂乃果に似たナニカは2つあった銀色のメダルをそれぞれ2つに割ると地面に落とし、それらは姿を変えて人に似た形を取る。ミイラのように全身を包帯で巻いて、覗く皮膚は真っ黒。顔の一部にはぽっかりと黒丸が存在している。

 そして穂乃果に似たナニカは……ニヤリと笑いその姿を変貌させた。全身緑色の体色に後頭部は背中まで大きく膨れ上がり、顔の位置には目に指を突っ込んだドクロの異形なバケモノに変わり果てる。上半身だけを見ればさながらサナギみたいな形をしていた。

 

「この間の怪物の仲間か……!」

 

 しかも、穂乃果と瓜二つの姿にまでなったバケモノに俺は怒りを抑え切れなかった。

 戦極ドライバーを取り出して腰に当てるとベルトが展開して巻きつき、俺はクウガロックシードを取り出す。

 

『クウガ!』

「変身!」

 

 頭上から待機状態のアーマーパーツが降りてきて、俺は腰を捻って勢いをつけてから右手を前方に突き出し、持ち替えてドライバーにセット。掛け金を押し込み固定する。

 

『ロック・オン!』

「チッ…!」

 

 すぐにブレードを倒そうとするが直前でミイラが襲ってきて、俺は舌打ちしながら避けて蹴り飛ばし、隙を突いて即座にブレードを倒した。

 

『クウガアームズ! 超・変・身! ハッハッハ!』

 

 降りてきたアーマーパーツが展開。幻武への変身を終えると、すぐに後ろから来たミイラを後ろ回し蹴りで蹴り飛ばし、俺は身構えた。

 

「覚悟しろよ……今日の俺は1曲踊るだけじゃすまないからな!」

 

 前口上と共に俺は拳を握り締め、ミイラとサナギの怪物を殴り、さらには蹴りつける。

 5対1と言う数で言えば圧倒的に不利な状況だが、この間のファットキャットに比べれば大したことはなく軽快にステップを刻み敵の攻撃に合わせてカウンターを叩き込んでいた。

 

「らぁっ!」

『グルゥッ!』

 

 細長い枝みたいなサナギの怪物の腕を防ぎ、右肘を打ち下ろして怯ませる。

 何とか強力な一撃を食らわせてやりたいが、そこまでの隙は晒してくれず気づけば神田明神の敷地内に足を踏み入れていた事に気づく。

 

「これ以上騒ぎを大きくして穂乃果たちに気づかれたらマズイ……ぐっ!」

 

 焦りから一瞬動きを止めたところを、ミイラの怪物に後ろから抱きつかれて動きを封じられるが、どうにか振りほどいてボディにストレートを叩き込んで突き飛ばす。

 

『クウガスカッシュ!』

「せいっ!」

 

 間髪入れずにブレードを倒してエネルギーを解放し、右足に炎のようなエネルギーを宿して突き飛ばしたミイラに飛び蹴りを放った。

 凄まじい衝撃音と共にミイラは吹き飛び、爆発の炎に飲まれ消滅する。残りは4体……!

 

「一気に片付ける!」

『アギト!』

 

 数が減って攻撃の勢いが緩んだ隙を突いて俺は別のロックシードを開錠した。

 頭上に現れたのはクウガによく似た形状のアーマーパーツで、俺はセットしていたクウガからそれへと組み変える。

 

『ロック・オン! アギトアームズ! 目覚めよ、その魂!』

 

 纏っていたアーマーが消え、頭上から落ちてきた待機状態のアーマーパーツを被ると展開し、更に両手にそれぞれ大型の刀と長柄のナギナタが出現し、それで周囲を払うとすかさず右手の刀を倒れこんだミイラへ振り下ろした。

 

「(長物2つとか使い勝手が悪い……!)」

 

 どうにか武器に振り回されないようにしながらも俺は内心毒づいた。刀はともかく、ナギナタは明らかに片手で振り回す武器じゃない。いくらロックシードが使い方を教えてくれるといっても異なる武器を同時に使いこなすのはハードルが高すぎる…!

 

「だったら!」

『グウ…ッ』

 

 いっその事と割り切って、ナギナタを頭上に投げて刀を逆手に持ち替えて両手で掴むと、踏みつけたミイラに切っ先を突きたてた。一瞬痙攣してからミイラは爆発して消え、俺はすぐに飛び上がると空中に投げたナギナタをキャッチして宙返りしながら着地し、残りのミイラ2体とサナギのバケモノを叩きのめす。

 

『アギトスカッシュ!』

「ふんっ!」

 

 体勢を崩した所へブレードを倒してエネルギーを解放し、青い風を帯びたナギナタを全方位へ2度払う。

 エネルギーを帯びた風が衝撃と刃となって拡散し、残り2体のミイラを両断して爆発させた。

 

「ラスト……ッ!?」

 

 最後に残ったサナギの怪物を蹴散らそうとナギナタを振り下ろそうとするが、次の瞬間怪物はまた穂乃果の姿になったことで思わず寸前で手を止めてしまった。

 

「羽鐘くんに穂乃果を傷つけることが出来るの? 殺す事が……できるのかなぁ?」

「っ……」

 

 薄ら笑いを浮かべる穂乃果に俺は奥歯を噛み締める。

 相手は偽者だと分かっているのに、それでも穂乃果を傷つけることなんて出来ない。

 

「(分かってる! こいつは偽者だって、でも……!)」

 

 あと少しでナギナタの刃が切り裂くと言うのに、まるで石になったかのように身体が動かなかった。

 

「甘いね……甘いよ、仮面ライダー!」

「あぐっ!」

 

 その隙を見逃さず、穂乃果は俺の胸に掌打を打ち込み、更に首筋目掛けた回し蹴りが命中し俺は堪らず吹き飛ぶ。

 吹き飛んだ拍子にナギナタを手放してしまい、どうにか起き上がったところを穂乃果が蹴り上げ、さらにストレートやエルボーなどを叩き込んできて俺は成す術もなく叩きのめされ続けた。

 

「(反撃しないと……でもっ!)」

 

 穂乃果を傷つけるのか? 頭の中で声が囁いてどうしても手を出す事ができない。

 

「あははっ! 情けないなぁ、仮面ライダーが女の子1人に手も足も出ないなんて! ほらぁっ!」

「ぐあっ!」

 

 両腕でガードして耐える俺に狂気を孕んだ笑い声を上げ、穂乃果は勢いをつけた飛び蹴りを放った。

 その威力に耐え切れず、俺はガードごと吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。

 

「あ…ぐ……」

 

 ただの人間が殴って蹴った所でビクともしないのに、見た目は穂乃果と瓜二つでも中身はバケモノだからか人間離れした身体能力にはダメージを受けてしまう。

 何とか立ち上がろうとするが、その時どこかから声がした。

 

「やっぱり……海未ちゃん、ことりちゃん! こっちだよ!」

「待ってください穂乃果! いくらなんでも危険です!」

「(マズイ……!)」

 

 流石にこの騒ぎを聞きつけて穂乃果たちが近くまで来ている。いや、俺が近づいてしまったと言う方が正しいのかもしれない。上手く奴らに誘導されてしまったのか……!

 

「居た! あの時の……え?」

「ほ…穂乃果……? ですが穂乃果はここに……」

「穂乃果ちゃんが……2人……!?」

 

 角から飛び出してきた幼馴染みたちが俺の姿を見て、次に俺の前方に居た穂乃果と瓜二つの誰かを見て目を見開く。

 

「なんだ、ようやく出てきたんだ」

「だ……誰なの、あなたは?」

「誰って野暮なこと聞く? 高坂穂乃果だよ」

「ふざけないでください! 現に穂乃果はここに……」

「そっちが本物って保証はどこにあるの? ねえ……海未ちゃん」

 

 否定する海未をあざ笑うように目の前の偽者が笑う。

 確かに声も姿も、何もかも高坂穂乃果と同じだ。こうして2人が揃っているのを見ればよく分かる。別々にいたらどちらが本物でどちらが偽者か分からないだろう。現に海未とことりも動揺して何度も隣の穂乃果と目の前の穂乃果を見遣っていた。

 

「凄いでしょ? 『ワーム』は相手を見ただけで姿形だけじゃなくて記憶までコピーできるんだ。こんな風に――ファイトだよっ!」

「あ……」

 

 謳う様に説明する偽者はそれを証明するように穂乃果のマネをして見せる。まったく同じ仕草、声に穂乃果たちだけでなく、俺も言葉を失った。

 

「そっちの穂乃果はこっちが片付いてから消すつもりだったんだけどなぁ……まあいいや。どうせ偽者って知られても、消してしまえば本物に摩り替われるもんね♪」

「ち、違う……違うよ! 穂乃果はそんなこと言わない! 穂乃果は! 高坂穂乃果は穂乃果だけだよ!」

 

 『消す』と言うのがどういう意味かなんて聞く必要もなく分かる。

 だがその意味に穂乃果は怯え、頭を抱えて喚き散らした。

 

「ああ……その、通りだ」

 

 どうにか……少しだけ注意が逸れた事で息を整える事ができ、俺は静かに反論しながら起き上がる。

 全身が痛くて悲鳴を上げるのを無視して、俺は偽者の前に立ちはだかった。

 

「どれだけ姿形をコピーしても、お前は彼女じゃない……! こいつはそんな風に笑う事はしないし、悪意を持って誰かを傷つけることだってしない!」

「え……?」

 

 力強く否定する俺に背後の穂乃果から驚きの声が上がった。

 俺の知っている高坂穂乃果はバカでおっちょこちょいで、突っ走ると周りが見えなくなるけど……周りを引っ張っていけるし、笑顔は不思議と元気を貰えるんだ。

 だけどこいつは違う。他人を貶め、その笑みは元気にするのではなく不安を煽る。こんな奴が成り代わった所で高坂穂乃果になれるはずはない。

 

「いくら真似た所で……お前なんかは穂乃果の足元にすら及ばないんだよ」

「仮面ライダー……さん?」

 

 呆然とする穂乃果の呟きが聞こえる。

 つい熱くなって穂乃果たちの前でペラペラと喋ってしまったが、もう止めることはできない。

 両足に力を入れて迷うことなく目の前の偽者に詰め寄る。それを偽者は鼻を鳴らしてあざ笑った。

 

「君に出来るの? 穂乃果を傷つけることが」

 

 ああ。確かにな。

 声も姿も確かに穂乃果とそっくりだ。この場にお前しかいなかったら俺は手出しできなかっただろう。

 だけど俺の後ろには……穂乃果がいる!

 

「その姿で……」

 

 静かに右手を力強く握り締める。

 

「その声で……」

 

 手を伸ばせば届く所まで近づき、

 

「これ以上、惑わすなッ!!!!」

 

 力いっぱい、偽者の頬を殴りつけた。

 本当に手を出すとは思っても見なかったのだろう。偽者は目を見開いて吹き飛び、地面に叩きつけられる。

 

「うぐっ……なんで……」

「簡単だ。お前は『高坂穂乃果』じゃない。ただそれだけの事だ」

「ライダー……! よくもぉぉぉぉっ!」

 

 偽者は起き上がると吼え、本来のサナギの怪物の姿に戻る。

 が、更に目を疑う光景が目に飛び込んできた。サナギの怪物の体色が急激に変化して茶色から真っ赤になると、高熱と共に溶け出して中からまったく別の怪物が姿を現す。

 黄色と黒の体色。形状はより人型に近いスマートなフォルムになったが、左腕は盾の様な甲殻に、右腕は鋏のような形状に変化している。

 あのサナギみたいな姿から脱皮した『成虫』……って所か。

 

「隠れてろ!」

「えっ、あ…うん!」

 

 俺の鋭い声に穂乃果は一瞬戸惑いを見せるが、すぐに頷くと海未とことりたちと共に物陰に隠れた。

 

「さて……それじゃあ害虫駆除と行くか……!」

『グルルルルゥッ!』

 

 目の前の虫は唸り声を上げ、鋏状に変化した右腕を叩きつけてくる。それをガードして腹に膝蹴りをかまし、よろけた所へ右腕を突き出すが、盾のように変化した左腕がそれを阻む。

 見た目はスマートになったがパワーそのものは増している上に、動きもより機敏になっている。右腕が剣ならナイトみたいだなと思わず思ってしまった。

 

「こんなのがナイトだなんて最悪だな!」

 

 抱いた感想を一蹴し、虫の怪物を飛び越える。

 素手でも戦えなくはないが、あの盾が邪魔だとやはり武器が必要だ。ナギナタは失ったが……。

 

「あった…っ! そらっ!」

『グルッ!?』

 

 地面に突き刺さった刀を引き抜き、振り向きざまに薙ぎ払う。鋭い刃が虫の怪物の表面で火花を散らし、堪らずよろめいた所へ追撃の振り下ろしを叩き込んだ。

 どうやらこのアームズの特徴は異なる2つの武器ではない。真骨頂はクウガアームズ以上の身体能力強化に、風や炎を操る力と知覚の鋭敏化と言った効果も付与されると言う事。

 おかげで背後に居た怪物の動きすらも手にとるように分かり、相手の一挙手一投足も知覚できる。

 

『グルル…』

 

 唸り声を上げながら奴は俺を警戒しているらしい。だが逃げ出す素振りは見せず、大きく足を開いて腰を落として出方を窺っているようだった。

 だが、次の瞬間奴の姿が掻き消えて見失う。

 

「消えた……ぐっ!?」

 

 驚きに目を見開いた直後、横から謎の衝撃が襲い掛かり吹き飛ばされる。それだけに留まらず反対側から、さらには前後からも連続で衝撃が襲い、わけも分からないまま俺は翻弄されていた。

 

「(姿を消した……? いや、ちがう!)」

 

 必死に奴の姿を探すが何も見えない。

 けど、アギトを使っているからこそ辛うじて知覚することは出来た。あいつは目で追えないほどの超スピードで動いているんだ。

 あんなに速いんじゃ到底追いきれない……防御を固めて耐えるか?

 

「(いや……手はある!)」

『カブト!』

 

 確信と共に俺はロックシードを取り出して開錠する。纏っていたアーマーパーツが消失し、頭上に新たなアーマーパーツが出現して待機すると、俺はアギトから入れ替えた。

 

『ロック・オン!』

「ぐっ!」

 

 掛け金を押し込んだ瞬間再び背後から衝撃が襲う。アーマーパーツが消えてほぼ直接衝撃が襲ってきたが、どうにか踏み堪えてブレードを倒した。

 

『カブトアームズ! 天の道、マイウェイ!』

 

 刹那、頭上から待機状態のアーマーパーツが被さり、展開する。同時に上半身を更に銀色の装甲が覆い、かなりの重装甲と化した。

 だがこれだとあのスピードには追いつけない。俺は即座にブレードを1回倒す。

 

『カブトスカッシュ!』

「キャストオフ!」

 

 電子音が鳴るのと同時に叫ぶ。

 覆っていた装甲の銀色部分が剥離し、次の瞬間超高速で吹き飛んだ。すると中から鮮やかな赤いアーマーが露になる。

 

「同じ場所に立てないと思ったら大間違いだ……」

 

 呟き、俺は持っていたグリップの下に分厚いブレードをマウントした銃の銃身を掴み、トリガーの上にあった両サイドのスイッチを押しながら銃身を引っ張ると銃身が外れ、中から刃が露になる。ハンドガードを備えたそれは大型のナイフだった。

 そして、残った銃のパーツを頭上に高く投げ、即座に2度ドライバーのブレードを倒す。

 

『カブトオーレ!』

 

 その瞬間、投げたパーツは宙に停まり、今まで動きが追いきれなかった虫の怪物がその姿を現す。

 真正面から突進してきた怪物をサイドステップで回避し、同時に回るようにして手にしたナイフで背中を切りつけた。

 

『グルゥッ!?』

 

 驚愕したように振り返る虫の怪物。俺はそれを冷ややかに見下ろしながらナイフを逆手に持ち替える。

 あいつが使っていた超高速移動は『クロックアップ』と呼ばれる能力だ。これは全身を巡るタキオン粒子によって時間流を自在に行動できるようになる代物で、この能力を発動している間は自分たち以外の時間は止まっているに等しい。こんなものを使われでもしたらほぼ一方的にやられるだろう。

 

「だけど……これで条件は対等だ」

 

 だが、俺もこのカブトロックシードを使えば対抗できる。

 怪物が左腕を突き出しつつ右腕を突き出してくるが、左へ避けると共に脇腹をナイフで斬りつけ、さらに2連続の回し蹴りを叩きつけた。

 よろめいた怪物に俺は更に勢いをつけてハイキックを叩き込み、辛うじて左腕で受け止めようとした怪物を防御ごと吹き飛ばす。

 地面に叩きつけられた怪物はふらつきながら起き上がるが、影から穂乃果の幻影が浮かんできた。

 

『やめてよ羽鐘くん! 本当に穂乃果を殺すつもりなの!?』

「何度も引っかかると思うなよ……!」

 

 この期に及んでまだ穂乃果を真似てまで動揺させようとした怪物に俺は逆に怒りを覚え、ナイフを投げ捨てて距離を詰めながら連続でドライバーのブレードを倒す。

 

『カブトスパーキング!』

 

 3度ブレードを倒すとロックシードからエネルギーが放出され、額のブレードを一旦経由すると右足に集束した。

 

『やめ……待って――』

「ライダー…キック!」

 

 動揺し後ずさる怪物に死刑を宣告するように技の名を呟き、右足を横顔に叩きつける。

 渾身の回し蹴りに怪物は叩き伏せられ、俺は背を向けるようにして勢いを殺すと、チラと一瞥をくれた。

 

「真似た相手が悪かったな。お前に穂乃果は高嶺の花だ」

 

 呟いた直後、怪物が爆発し緑の炎に飲み込まれて消滅する。

 その直後にクロックアップが解除されて通常の時間に戻り、同時に投げた銃のパーツが音を立てて地面に落ちた。

 

「……………」

 

 無言で握り締めていた右手を触れる。

 偽者だと分かっていても人を……よりにもよって穂乃果を殴ってしまった事に対する嫌悪感がずっと渦巻いていた。

 

「(まだ……感触が残ってる)」

 

 あの怪物が言ったとおり殴った手応えは人間のもので、今になってすっごい嫌な感じが襲ってきた。

 暫く握り締めた拳を見つめていたが、ふと穂乃果たちのことを思い出して隠れたあたりに目を向けると顔を覗かせていた穂乃果と目が合い、穂乃果ははっとなって首を引っ込めた。

 それがなんだかおかしくて、つい笑みを零しながら隠れている3人へ声を掛ける。

 

「大丈夫だ。もう終わった」

 

 一瞬、声を掛けないほうが良かったかも……なんて思ったが、さっき散々喋った後では意味無いかと思い直す。

 俺に危害を加える意思がないと分かったのか、穂乃果たちは恐る恐る物陰から出てくる。

 変身しているのが羽鐘だということは、恐らく悟られないだろう。姿はこれだし、声だって拡声器を通したような声で聞こえるから俺の声だとは分かりづらいはずだ。でも立ち振る舞いで気づかれるかもしれないし、別人を装わないと……。

 

「巻き込んですまなかった……怪我はないか?」

「えっと……大丈夫です」

「あのっ、もしかして男の子を見かけませんでしたか? 白い学生服を着た、黒髪の男の子なんですけど!」

 

 頷いた穂乃果の隣に居たことりが不安げに訊ねてくる。間違いなく俺のことを聞いているんだろう。

 

「ああ、あいつなら無事だ。ちゃんと逃げた」

「……よかったぁ」

 

 とは言え「ここにいるぞ」なんて馬鹿正直に言えるはずもなく、前回と似たような嘘をついた。

 けどことりはそれを信じて安心したように胸を撫で下ろす。実際には全身が痛くて悲鳴を上げているが、わざわざ言う事じゃない。

 

「あの……ありがとうございます、助けてくれて」

「いや、謝るのは俺の方だ。関係のない人を巻き込んでしまった」

「でも、また助けてくれたんです。だったらやっぱりありがとうですよ」

 

 なんとも穂乃果らしい、真っ直ぐに見つめられながら礼を言われて俺は後ろめたくなる。

 あの時だってオープンキャンパスはメチャメチャになったし、今回だってどこか1つでも違っていたら穂乃果が危険な目にあっていたかもしれないのに。

 罪悪感からつい黙っていると、険しい顔をした海未が口を開く。

 

「あの……あなたはいったい何者なのですか? あの怪物も……それと、どうして穂乃果の名前を知っていたのです?」

「……その質問に答えることは出来ない。俺の正体やあいつらのことを知ってしまえば、お前たちに危険が及ぶかもしれない」

 

 俺がそう言うと海未は落胆したように「そうですか…」と肩を落とす。

 それに、仮面ライダーの正体がお前たちの幼馴染み……天城羽鐘だと知ってしまえば、ショックを受けるだろう。大ショッカーが何故この世界にやってくるのかなんて聞かれても、正直俺にもわからないから。

 

「ただ……1つだけ答えられるのは、俺がお前たちのファンだってことだけだ」

「ファン…ですか?」

「ああ。μ'sのな。今日のストリートライブ、とても良かったよ」

「それって――」

『カブトオーレ!』

 

 驚いて目を見開く3人にそれ以上答えようとせず、俺はブレードを2回倒してクロックアップを発動すると、まるで時間が止まったかのように3人の動きが止まる。

 少し、喋りすぎたな……こんなに話すつもりはなかった俺は反省しつつ、3人の間を通り抜けて少し歩くと、振り返る。

 

「騙してごめん。穂乃果、ことり、海未……」

 

 この謝罪の言葉は届かないだろう。でも、ちゃんと彼女たちの前で謝る事はできない。

 世の中には知って良いことと知らなくても良いことがあるとよく言う。ならこれは、きっと後者だ。

 彼女たちの知る天城羽鐘はただの幼馴染み。未知の怪物と日夜闘い続けているはずがない。

 

「……………」

 

 暫くその場に佇んでいた俺は、今度こそその場を立ち去った。

 男坂をひと飛びで飛び降り、角に隠れて誰もいない事を確認するとクロックアップが解除されて通常の時間に戻ってくる。

 ロックシードと戦極ドライバーをそれぞれ外すと変身が解除され、俺は大きく息をついた。

 

「……よし」

 

 頭の中を切り替え、2つを仕舞うと角から出てきて階段を駆け上がる。

 

「お前たち大丈夫か!?」

「――羽鐘……くん?」

 

 最後の段を上りって駆け込むと、3人はその場で呆けていたようだった。

 

「さっき化け物たちに襲われて、逃げ回ってたんだけど……! お前たちが心配になって……!」

「私たちは大丈夫ですが……羽鐘こそ本当に大丈夫だったのですか?」

「ああ……途中で仮面ライダーが助けてくれて」

 

 走り回って疲れた風を装い(実際戦っていたから疲労はたまっていたが)返すと、3人はほっとしたように胸を撫で下ろした。

 

「穂乃果たちも仮面ライダーさんに助けてもらったんだ。それに、ちょっとだけどお話も出来たんだよ!」

「そうか……なんにしても無事で良かった」

 

 嬉しそうに語る穂乃果に内心では苦笑いしてしまう。

 その話し相手が目の前にいるってのに、この様子だと気づいていないようだ。

 そのことに安堵していたら突然ことりが抱きついてきて、俺だけでなく穂乃果と海未も目を丸くしてしまう。

 

「ことり……どうしたんだ?」

「怖かったの……また羽鐘くんが襲われて、もし何かあったらって」

「……そう、ですね。あの時も羽鐘が囮になって私たちの逃げる時間を作ってくれましたし……」

 

 呟いたことりに海未も同調してきた。

 よほど不安だったらしくて抱きついていることりの肩は微かに震えていて、俺は一瞬何と答えればいいか迷ってしまう。

 

「……あのさ」

 

 言葉を紡ごうとした時。

 何の前触れもなくぐぅぅ~……とシリアスな空気を壊す音が俺の腹から鳴り出した。

 

『……………』

 

 鳴らした本人も、音を聞いた3人も思わず沈黙してしまう。

 いや、おい……なんだってこのタイミングで腹が鳴るんだよ!? 海未だけじゃなくて穂乃果も冷たい目で俺見ているし、俺は俺で超恥ずかしいし!

 けど考えてみれば鳴る要素はいくつかあって、この時間帯やさっき激しい運動と言うか戦いをして相当エネルギーを消費していて体が栄養を欲している。要するに腹が減った。

 

「羽鐘くん……」

「いや待て。今のは不可抗力だ」

 

 抱きついていたことりも離れて、2人と同じような顔を浮かべている。特にことりは一番近くで聞いていたから2人よりも呆れの度合いが大きいように見えた。って言うか、もしかして怒ってる……? 怖くて聞けないけど。

 

「まったく……危機感と言うものがないのですか、羽鐘は」

「だから不可抗力だって言ってるだろ!?」

「あはは……そうだっ! じゃあ羽鐘くんのウチでご飯食べよう!」

「え。なんで俺の家……?」

「どうせこの後1人でご飯なんでしょ? 1人より大勢で食べる方が楽しいし美味しいよ!」

「まあ、私は構いませんが……ことりはどうします?」

「う~ん……ことりも賛成かなぁ」

 

 3人の中では既に決定事項らしく、俺の意見は一切聞いてくれそうにない。

 唖然としている間にも、3人はやれ家に電話だ何を作ろうかだのと勝手に話を進めてる。

 

「あの……みなさん、俺の意見は……?」

「何か問題ある?」

「何か問題ありますか?」

「何か問題あるのかな?」

「……いえ。まったく、これっぽっちも」

 

 反論の余地すらない空気に俺はすごすごと引き下がった。どうやら今の俺には意見を述べる権利すら無いらしい。

 よし、ポジティブに考えよう。毎日の寂しい食卓が華やかになると考えればそれは良いことじゃないか。別に3人に怯えたわけでも屈したわけでもないからな、念のために。

 

「じゃあ、まずは買出しからだね~」

「3人で料理を作る機会は余りありませんでしたからね」

「あの、頭数に俺って……」

「え? なんで羽鐘くんも料理するの?」

「いえ……なんでもないです」

 

 あの、素で不思議そうな顔をしないでください、ことりさん。確かにあなたたちに比べれば料理スキルは低いですけど、そんな反応されると俺も凹みます。

 ……やっぱりもうちょっと料理の勉強した方が良いのかなぁ。と最初から戦力外と見なされていた俺にそう思わずにはいられないのだった。




 えーっと、あとがきでも改めて謝罪会見をします。穂乃果(に擬態したワーム)をぶん殴らせるようなマネをしてしまい大変申し訳ありませんでしたァァッ!!!

 いや、なんでこんな展開にしたのかと弁解すると、ほんの思いつきと言うか、ちょい主人公苦しませてやりたいなという悪戯心が芽生えてしまい……「自分の知っている相手と戦わせたら精神的にキツくね?」って結論に至って、仮面ライダーカブトからそう言った精神攻撃には大変有効なワームを引っ張ってきたわけです。

 あと誤解なきように、自分穂乃果好きですよ? 最初絵里がいいなーと思ってたら気づいたらなんやかんやで穂乃果が好きになってましたから。

 まあ、その結果が今回の戦闘です。でもこれ、自分の中ではまだジャブです。軽いです(ドヤァ

 これ以上酷い仕打ちとはいったい何なのか!? と思った人は「寝て起きたらデスゲームに巻き込まれていたんだが。」を読んでいただければ分かります(さり気に宣伝

 ……つかやっぱ、客観的に見ても酷いなぁこれ。


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