艦隊これくしょん二次創作 海の最果て   作:少佐5909

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ある艦の過去

 ⒑ ある艦の過去

 

 

 

 世界が憎かった。

 

 地位も名誉も大切な人も全て奪われ、そんな惨めな私を嘲笑してくるこの世界が憎かった。

 

 いつかこの世界を壊してやる。私から全てを奪ったこの世界に復讐すると。

 

 そう胸に覚悟していた時、私は彼女に出会った。

 

「よう、あんた名前は?」

 

 海を臨む小高い丘の上、私以外誰もいない木陰に腰を降ろしていると頭上からひょっこりと顔を現した。

 

 くせ毛の強そうな紫陽花色をした艶やかな髪、まだ幼さの残る顔立ちだがその眼は凛然とし、品のある大人の色香を秘めている。なによりも整ったその端正な顔立ちは彼女がこの世でも類まれなる美人であることを如実に語っていた。

 

 自分には無い魅力的な容姿に思わず嫉妬しそうになるが、今はそんなことを考えている場合ではない。彼女はまるで親しい旧友であるかのように気さくに自然な立ち振る舞いで私に話しかけてきた。

 

 当然ながら赤の他人だ。私には知り合いと呼べる人間は存在しない。憎むべき仇なら指では数えきれないほどいるが。

 

 とにかく、ここ日本海軍特殊戦術訓練学校(皆は学舎と呼んでいる)において私に知り合いと呼べる者は存在せず、同時にそういった関係に積極的になろうという奇特な輩も存在しなかった。

 

 だからこそ、私は露骨に不審と嫌悪を織り交ぜて答える。

 

「なに? あなたも冷やかしにきたの?」

 

 何人たりとも寄せ付けない、邪険の目で彼女を睨みつけた。しかし彼女は驚くことも嫌そうな顔も見せず、それどころか白い歯を見せケラケラと笑った。変な女だ。

 

「まさかぁ、そういうんじゃないよ。ちょっと気になったからつい、ね?」

 

「気になる?」

 

「だってあんたいっつも一人じゃん。おまけにみんなとは距離置くし、近づこうもんなら今みたいな物騒な眼で睨んでさ。可愛い顔が台無じゃん。そんなんじゃ友達できねーぜ?」

 

「そんなもの私には必要ないわよ。大体、そこまで分かっててどうして私に話しかけてきたの? 航空科の連中が私の事陰でなんて言ってるか知ってるでしょう?」

 

「『斜陽貴族』ってか?」

 

 自然、手に力が籠る。

 

 どこの誰が上手く言ったか。嫌味と嘲笑を込めた最大の侮蔑であるその名は、名付けられた私でさえ腹立たしさよりも感服が増したほどだ。命名者には是非芥川賞を送りつけてやりたい。勿論嫌味であるが。

 

 なんにせよ、その言葉に嘘や偽りは無かった。私は貴族の出身であり、そして父の代で没落したのだ。

 

 この国が過去の大戦に敗れて以降、かの国により社会システムは徹底的に骨抜きにされ、その開いた隙間に自由と平和という甘美な言葉が押し詰められた。

 

 だがそれでもなお、貴族という社会的地位は息づいていた。

 

 私の一族も例に漏れなかった。私の一族は多くの官僚や与党政治家を輩出する名家でもあり、さらに言えば代々海運業界では派閥の一角を担う巨大企業を一族で経営していた。

 

 なんでも戦前まで一族は海運省の大臣を遍歴していたことからその方面には絶大な力を持っていたらしい。

 

 しかしそんな栄華も奴らの出現と共に瓦解していった。

 

 深海棲艦の活動域は言わずもがな海である。当然海運は大打撃を受けた。

 

 海運だけに限らず深海棲艦の出現は日本経済ひいては世界の主要各所で物価の大暴落を引き起こし、経済基盤は大きく揺らいだが、海運は商船やコンテナが数多く沈められたことによりその実害は計り知れないものとなり、なによりも生命線である海路の殆どが封鎖されたため海外との交易すらままならない状態に陥っていた。

 

 こうして多くの船会社ひいては貿易会社が軒並み倒産していく中、父の会社はなんとか倒産を免れ首の皮一枚繋がったらしい。

 

 当時まだ幼く詳しい事情は知らされていなかったが、早期段階で海運業を縮小し国外から国内へシフトさせたことや、国内輸送インフラの多角事業拡大などが功を奏し、ギリギリのところで会社を持ちこたえさせていたらしい。

 

 しかし不幸はそれだけでは収まらなかった。会長を務めていた祖父が事故で亡くなったのだ。

 

 祖父は過去に経団連の会長を務めていた経緯、日本ひいては世界有数の海運企業を中心としたグループの会長でもあり、財界でも特に発言力の強い人物として支持されていた。

 

 当然そんな祖父の死は一大スキャンダルになった。

 

 というのも、祖父の事故死はその状況にあまりにも不透明かつ不審点の多いことから、何らかの謀略があったのではないかと疑われていたのだ。

 

 当時マスコミを中心に連日世間では様々な憶測が飛び交っていたが、ある時期を境にそんな噂は止水の如くぴたりと止み、同時期に祖父の弟である分家一門がグループの実権を握ることとなった。

 

 これほどまでに事が円滑に運んでしまえば最早疑うしかないだろう。

 

 そんな父の意図を知ってか、それともはなからそうするつもりでいたのか、父を含む一族本家は祖父の死によりグループから締め出された。それはもう濁流の如く、流れるように、考えを整理させる余裕すら与えずに。

 

 今にして思えば以前から綿密に計画を練り、各方面に徹底的な根回しをしていたのだろう。

 

 でなければ誰一人として父に救いの手を差し出さないなどという異常過ぎる事態が起こり得ただろうか。

 

 会長である祖父亡き後、深海棲艦出現以降の船会社の大幅な経営赤字の責任は全てが実子長男である父に押し付けられた。

 

 赤字の原因が災害である以上父を責めるのは酷な話であったが、親戚どころか血の繋がった兄妹でさえも誰一人父に救いの手を差し伸べようとするものは居なかった。

 

 当時はまだ私も幼く、状況を明確に理解は出来なかったが、それでも父が一体どのような目に会ったのかということだけはよく理解出来た。

 

 血の繋がった家族でありながら、同じ人間でありながら、あいつらは自分たちのしたことに対する罪悪感すらおくびにも出さず、父と母と私を地獄の底に叩き落としたのだ。

 

 そこから先は、思い出したくもない日々の連続だった。

 

 あいつらは父の会社を潰すだけでは飽き足らず、私の、家族の全てを奪い去った。

 

 そう、大事なものを全て。

 

 今でも目に焼き付いて離れないあの光景。

 

 私を見下ろすように宙ぶらりんでゆらゆらと揺れていた父の目は一体何を語っていたのだろうか。

 

 無念? 絶望? 憎悪? 悲嘆? 後悔? 謝罪?

 

 きっとどれでもない。あの眼は、あれは諦観。全てを諦め現実を放棄し、ただ世界を睥睨するだけの敗者の眼。

 

 父は敗者であることを受け入れた。

 

 私にはそれが赦せなかった。私を裏切ったのは世界でも憎い一族でもない、最も愛し、もっとも尊敬し、故に崇拝していた父だった。

 

 父の死後、残された母と私は貯金を切り崩しそれまでの裕福な生活とは一変し清貧な生活を続けていた。

 

 しかし急激な環境の変化や居住区が戦災汚染地域であったこともあり元々病床に伏しがちだった母は目に見えて衰弱していき、数か月もしないうちに寝たきりの状態になってしまった。

 

 絶望。

 

 世界は絶望に覆われた。そしてこのどこまでも惨酷で無情な世界に抗うには私の幼い手はあまりにも小さく、そして非力だった。

 

 世界が憎かった。でもそれ以上に私は、そんな世界を壊せない私自身が憎くて憎くて仕方無かった。

 

 そんな折、偶然、否、奇跡と呼ぶべきだろうか。この悪夢のような日々から脱却できる機会が訪れた。

 

 きっかけは防衛省からの通達である。

 

 曰く、過去に病院で血清を採取した際の生体データから、私の身体には『適性』があることが判明したらしい。

 

 艦娘とよばれる生体兵器としての適性だ。

 

 最早選択の余地などなかった。生きる為、病床の母を救う為に。

 

 いや、それは違う。そんなものはただの綺麗言だ。

 

 本当は、腹の底で私はこの絶好の好機に狂喜した。謀った一族の連中に、裏切った父に、そして私が無価値であることを証明したこの忌々しい世界に復讐を果たすため。

 

 

 

 私は人であることすら放棄した。

 

 

 

 そんな私の過去を知ってか知らずか、彼女は呆れた様子で言葉を続けた。

 

「ここにいる連中は多かれ少なかれ人には言えない事情や過去を持っている奴が大半だ。それを今更ほじくり返したところで何の解決にもなりゃしない。要は気にするだけ無駄ってこと。ここには過去なんてものは存在しない。あるのは決まった未来だけだ」

 

「決まった、未来?」

 

 私が眉を潜めると彼女は呆れたように答えた。

 

「おいおい……自分が何の為にここにいるのか忘れたなんてわけないだろ?」

 

「わ、分かってるわよ! 学舎で艦娘になる為のいろはを学んで、深海棲艦との戦いに備える!」

 

 只管に艦娘の力と称号を得てただ復讐することだけ胸に誓い生きてきた私にとって、世界平和など心底どうでもよかった。

 

 本来あるべき目的など微塵も考えていない私の穢れた野心など露知らず、彼女は小さく笑った。

 

「それでいいんだよそれで」

 

 ふわり。柔らかな風が吹いた。その風に乗って、彼女の匂いが鼻孔をくすぐる。爽やかで、それでいてどこか優しい匂い。

 

 彼女は勝手に私の左に座っていた。文句の一つも言ってやろうかと思ったが、それよりも気になることがある。

 

「あなた、一体何が目的?」

 

「は?」

 

「わざわざ私に話しかけてくるやつなんて、大抵私が貴族というだけで身に覚えもない恨み言を吐きたがるか、協調性はないくせに成績は一番いいから文句言いたがるやつかのどっちかって相場が決まってるのよ」

 

「目的……目的かぁ」

 

 彼女は思い出す素振りを見せ考えあぐねた。

 

「……まさかとは思うけど何も考えていなかった、なんて言うんじゃないでしょうね?」

 

「そ、そそそそそそんなことはないから!?」

 

「なんで語尾に疑問符付いてんのよ……」

 

 この無計画に話しかけてきた女に対し、今のところ害はないと判断したものの、それ以上に何を考えているのか分からないことに対する不審感が募った。

 

 好き好んで貴族とつるもうなどと考える輩はここにはいない。ここにいる大半は社会階級の埒外に掃き出された連中だ。

 

 直接の関係こそなけれども世の中への不満を抱く連中は多い。そして貴族は往々にしてそんな連中の槍玉に挙げられる。

 

「これ以上馬鹿な会話には付き合いきれない。用事がないのなら金輪際私に話しかけないで頂戴」

 

 そういって立ち上がろうとする私の袖を彼女は掴み引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとまってくれよ! ある! 目的はちゃんとあるから!」

 

 私は渋々腰を降ろした。先ほどまでの快活な顔から一転、こうも悲壮な顔をされては僅かに残った良心が話ぐらいはきいてやれと喚きだすのだ。

 

 彼女はどう言葉にすればいいのか悩んだあと、何か意を決したように小さく頷き、顔を紅潮させながら真っ直ぐに私を見据えた。

 

「わ、私と友達になって欲しい!」

 

「………………………………は?」

 

 その言葉を理解するのに少しの時間を要した。そして理解した上で発した言葉がこれである。

 

 こいつは何を言っているんだと言わんばかりに彼女を見た。

 

「だから私の友達になって欲しいんだよ」

 

「友達? なんで?」

 

 思わずそんな言葉が漏れた。友達という言葉の意味や概念は知っている。だが生まれてこの方、真に友達と呼べる存在を実感したことはない。その上何故彼女がその実感したこともない友達になりたいと言ってきたのかが私には理解できなかった。

 

「その、あんたとは仲良く出来る気がしたから」

 

「私はそんな気全然しないけど」

 

 そう言うと私は再び立ち上がった。

 

「ちょっと待てって、まだ話の途中――」

 

「時間よ」

 

 そう言って私は腕時計の針を彼女に見せつけた。

 

「今から行っておかないと教室に間に合わないわよ」

 

 そう言い残し、私は彼女を後にしようとした。が――

 

「ねえ……どうして私の隣を歩いているの?」

 

「えー、だって次の講義、アンタも航空力学だろ? 授業が一緒だから行く方向も一緒なのは当然じゃん」

 

 当り前のように隣を歩く彼女に私はこめかみを引き攣らせた。

 

「私が言いたいのはそういうことじゃないの。これじゃあまるで私があなたと仲良いみたいじゃない!」

 

「いいじゃんいいじゃん。細かいこと気にしなくても。それよりあんた教科書持ってない? 私部屋に忘れてきちゃってさ~」

 

「貸さないわよ」

 

「そんなこと言わずにさぁ! お願いだよ! 隣の席で一緒に見せてくれるだけでいいから!」

 

 そんな捨て猫のような目をされても困る。いっそダンボールにでも詰めて川に投げ飛ばしてやろうかしら。

 

「だからそれが嫌だって言ってんのよ! なんで私があなたと一緒に授業を受けなきゃいけないのよ」

 

「どうせ教室も一緒なんだしどこで講義受けようが同じじゃん」

 

「そういう問題じゃないの! 私はあなたの友達じゃない! 教科書を見せてやる義理だって何もないの!」

 

「そう言わずにさー、ちょっとだけ! お願い! ちょっとだけでいいから!」

 

 彼女は両手を合わせて何度もお願いしてきた。最初は無視してやったが教室に近づいてきても一向に離れず、結局は一緒に授業を受けることとなった。

 

 それが全ての始まりだった。あの日以降、彼女はことあるごとに私と行動を共にするようになった。

 

 授業や休憩時間はもちろん、食事の時や入浴時間も。果ては私の自室にまで押しかけ勝手に酒盛りを始める始末だ。同室の寮生は大層迷惑そうにしていたが、彼女はお構いなしだった。

 

 いくら私が邪険に扱おうとも、彼女はあっけらかんとした笑顔でこちらの都合など無視して付いてきた。

 

 そんな日々が三か月ほど続いた頃。

 

「ねえ、あなた私なんかといて何が楽しいの?」

 

 食堂で顔を突き合わせた私はそう彼女に問いかけた。

 

「ふえ?」

 

 彼女は頬にパスタを詰めながら目を点にする。

 

「この三か月私はあなたに対して一度も友達らしいことなんてしてないわよ? なのにどうしてずっと私と一緒に居られるの? 最早気持ち悪いを通り越してその強靭な精神に尊敬の念すら抱きそう」

 

 彼女はパスタを咀嚼し終えるよりも早く無理やり水で流し込むと答えた。

 

「簡単な話さ。あんたと一緒だと気が楽だからだよ」

 

「むしろ逆だと思うのだけど」

 

「あんたは他の連中と違って嘘をつかない。周りに対しても自分に対しても。あんたはどこまでも真っ直ぐだ。どこを見ているのかは知らないけど、あたしそういう人間は結構嫌いじゃない」

 

 言い終えると彼女は再び咀嚼を始めた。

 

「え? たったそれだけの理由?」

 

「じゃあ他になにがあるんだよ」

 

「いや……その……」

 

 予想外の返答に私は戸惑った。最初は疑心暗鬼になるべきかとも考えたが、目の前でアホ面かましてパスタを貪るこの女を見ているとそんな気も削げてしまう。

 

 私はいつの間にか彼女に興味を抱いていたらしい。

 

 どうせここでの生活もあと数年だ。艦娘に選ばれるのは厳しい試験と訓練を乗り越えたほんの一握りの人間だけ。おいそれとなれるものじゃない。もし仮に二人とも艦娘になれたところで、ほとんどの場合任地が重なることも無い為、そのあとは会うこともないだろう。

 

 一人くらい、話せる相手が居てもいいかもしれない。

 

「この間の質問」

 

「ん?」

 

「初めて会った時、あなたが私にした質問! 私の名前が何かって話!」

 

「ああ、そういやそんなこともあったかね」

 

 私は息を飲むとか細い声で小さく答えた。

 

「――――」

 

「へ? 今のって……」

 

「私の名前よ」

 

 なるべく彼女にはこちら側の感情を悟られないようあくまで毅然とした態度を取る。

 

 学舎に入った時点で私たちは国家の管理下に置かれ、人ではなく兵器として扱われた。だから名前は存在しない。人ではない別の過去を持つ兵器になる以上、アイデンティティを構成する要素は可能な限り排除される。

 

 言動は勿論、所有物、そして名前までも。

 

 学舎に入った時点でその全てが奪われてしまう。

 

 ここでは名前は唯一にして最大のプライベートだ。

 

 だからこそ名前を教えるという行為の意味も、また大きく異なってくる。

 

 名前を交わすことはある種の契約のようなものであった。それは決して形には見えない、誰にも悟られない、魂の契約。

 

 私はそれを彼女と交わすことにした。殆ど衝動的に、である。

 

 当然彼女もその意味は知っている。だからこそ私が名前を口にしたとき、ぽかんと口を開き、鳩が豆鉄砲を食らったような面白い顔を見せた。今まで散々振り回されてきた意趣返しだと思うとなんだか心地いい。

 

「えっと、その……」

 

 状況を飲み込み始めた彼女は徐々に顔を紅くしだした。この顔も今まで見たことが無い。

 

「いいの? あ、あたしなんかに」

 

「どうせここではあなた以外に話相手なんていないんだし、わざわざ気にするようなことでもないわよ。それともなに? 聞きたくなかった? 私の名前」

 

「そ、そんなことない!」

 

 彼女は瞳に涙を蓄え歓喜した。そこまで喜ばれるとこちらとしてもなんだか気恥ずかしいものがあるが、彼女はそんなことお構いなしだった。

 

「それじゃあ聞かせて貰える? あなたの名前」

 

「えっ?」

 

「なんでそこで驚くのよ……」

 

「いや、その、こういうこと初めてだから……」

 

 そんな頬を紅らめてしおらしく言う台詞じゃないだろう。そういうことは私みたいのじゃなくもっと別の、というか最低でも異性に向けて言うべきではなかろうか。

 

「――――」

 

 蚊の鳴くような声で彼女は自身の名を告げた。

 

「それがあなたの名前?」

 

「……うん」

 

「そう。素敵な名前ね。それじゃあよろしく。――――」

 

「ああ、こっちこそよろしくな。――――」

 

 いつの間にか彼女はいつもの彼女らしい彼女に戻り、底抜けに明るい笑顔を見せた。それにつられて思わず私も笑顔を溢した。

 

 それは父の死後初めて笑顔だった。悟れらないほどに小さく、それでいてとても気持ちのいい笑顔。

 

 この瞬間、生れてはじめて私に親友と呼ぶべき存在が出来た。

 

 

 

 これが彼女との――後に共に戦場に立ち、共に戦う戦友との最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

 しかし。否、だからこそ、私は彼女が憎くて憎くて仕方が無かった。

 

 自分と同じ境遇でありながら、自分と同じ過去を持ちながら、それでも彼女はどこまでも明るくどこまでも高潔で、どこまでも温かかった。

 

 私は怖かったのかもしれない。彼女の存在そのものが自分を否定するかもしれないという可能性が。それを認めてしまう自身の弱さが。

 

 だから私は嫌悪した。彼女の優しさを拒んだ。そうしなければ壊れてしまう気がしたから。

 

 それでも彼女は私に接した。私を想ってくれた。私を心から愛してくれた。

 

 

 

 だから――だから私はあなたを――!!

 

 

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