今更ながらにアカメが斬る!に嵌ってしまい、以前から書いてみたかったオリ主ものと一人称視点への挑戦も兼ねての投稿となりました。
色々とツッコミ所はあるとは思いますが、感想や意見を頂ければ幸いです。
――雪の混じった寒風の吹き荒ぶ極寒の地……生い茂った針葉樹の林の合間を縫うように、数百の騎馬が駆けていた。
「――急げ!! 何としても奴を捕らえるのだ!!」
先頭を駆けるのは、切り揃えられた長髪を靡かせ、白銀の鎧に身を包んだ見目麗しい青年。
彼こそは、1000年もの歴史を誇ると同時に、腐敗し、疲弊しきった悪逆を尽くす帝国を討ち滅ぼさんと立ち上がった北方民族の王子にして、『北の勇者』と称される英雄――ヌマ・セイカ。
彼は後に続く者達を鼓舞するように叫びながら、手にした長大な槍を樹上の影目掛けて振るう。
身の丈を遥かに超え、相応の重さを持つ筈のその穂先の疾さは、正に雷光。
達人などと言う言葉が、陳腐に思える程の技量と膂力によって繰り出される槍から逃れられる帝国兵は今まで存在しなかった……筈だった。
――しかし、常人ならば目視どころか知覚する事すら敵わぬ槍技を、樹上の影は嘲笑うかのように躱していく。
それどころか、繰り出された穂先を足場に他の樹へと飛び移られ、更には如何なる業であるのか、何も無い宙空を蹴ってこちらの射掛ける弓を避ける始末……まるで、宙を舞う羽毛を相手にしているかのような手応えだ。
樹上の影を追い続けて約半刻、このような無益な攻防が続けられていた。
(くっ……このままでは――!!)
ヌマ・セイカの中に、焦りが広がっていく。
これまで彼の率いる軍は、堅固な城壁と、雪山という天然の要害に守られた城塞都市を拠点に、連戦連勝を重ねてきた。
帝国が生まれてから幾百年もの間、極寒の地に押し込まれ、北の異民族と蔑まれて来た人々にとっての悲願である、凍らない大地を踏みしめる日も近い所まで来ていたのだ……『彼女』が来るまでは。
――帝国最年少にして、最強と謳われる将軍、エスデス。
広大な規模を凍りつかせる程の力を持つ氷を操る帝具『デモンズエキス』をその身に宿し、凡百の兵士……いや、将など歯牙にも掛けない凄まじい武力を持つ彼女の力は、正に戦略級。
彼女たった1人によって、数万もの友軍が一瞬にして氷の彫像と化し、無数の氷柱で串刺しにされた事もある。
それだけでも手に負えないというのに、彼女の部下には『三獣士』と呼ばれる側近がおり、それぞれもまた、強力無比な帝具を使いこなす化け物達であった。
そしてそれに付き従うは、絶対の恐怖と、血と鉄の掟によって結束した選りすぐりの精兵の群れ。
……今まで積み重ねてきた勝利が、まるで夢物語であるかのように北方民族達は敗北を重ね、とうとう拠点である要塞都市まで後退を与儀無くされ、今正に滅びの時を迎えようとしていた。
この状況を覆さんと、ヌマ・セイカは今まで培ってきた軍略の全てを賭けて、自らを筆頭とした少数精鋭による、敵本陣への電撃奇襲作戦を立案する。
ギリギリまで綿密に打ち合わせをし、秘密の通路と回廊を使い、少数の部隊を少しずつ、少しずつ集結させ、準備を進めてきた。
――側近である三獣士達は前線で要塞都市の攻略の任に就いており不在、本陣の守りも、エスデス本人の強さからか必要最低限の人員しか配備されていないという情報も、敵方に紛れ込ませた間諜からもたらされ、正しく千載一遇の機会。
残るは敵本陣へ進軍し、エスデスの首を取る……そうすれば1人のカリスマに支えられた軍は瓦解するだろう。
しかし……ヌマ・セイカは最後の最後で、致命的な油断をしてしまった。
進軍を開始した矢先に、それを『奴』に察知されてしまったのだ。
『おのれ……おのれ……っ!!』
今までに飲まされた煮え湯の数々を思い出し、ヌマ・セイカはその端正な顔を引き攣らせる。
『奴』の知名度は、エスデスや三獣士達と比べれば全くの皆無とも言って良く、その武力も知略も彼らには遥かに及ばない。
しかし、それは『奴』の脅威とは何ら関係が無かった。
『奴』は戦場を選ばず何処からとも無く現れ、気まぐれな兎の如く跳ね回っては、去っていく――こちらの軍の動きと策の情報という、戦場においては命にも代え難いものを奪い取って。
攻勢を、防衛を、反撃を、奇襲を、撤退を――何度潰されたか分からない。
百、千、万の兵士で囲んだ事もあった。
常人ならば読み取る事など出来ない程の複雑な暗号や符丁を駆使した事もあった。
熟練した登山家でもそう簡単には通れない、断崖絶壁を使った事もあった。
……それでも『奴』は、それを嘲笑うかのように現れ、情報を奪い取って無傷で去っていく――こちらの追撃を、悉く潰しながら。
そして、その情報を元にエスデス軍が圧倒的な武力を以て打ち掛かる。
今までの同胞たちの犠牲は、『奴』がいたからこそ数倍、数十倍にも跳ね上がったのだと言っても過言では無い。
こちらの企みの全てを、エスデス軍の圧倒的な武力を、『たった一人』で潰し、若しくは支えるその姿を、北方民族の兵士達は、とある危険種の名を取ってこう呼んだ。
愛らしい姿に鋭い牙を隠し持ち、一瞬の隙を突いて獲物の急所を切り裂き、葬り去る二級危険種生物――、
「おのれ……
――――――――――――――――――――――――――――――
(ぎゃああああああっ!! 死ぬっ!! 死ぬっス!! 死んじゃうっスううううううっ!!)
何やら異国語で叫びながらトンでも無い速度で槍を突き刺しまくってくるイケメンさんから全速力で逃げながら、アタシ――ラビィ・ラズトンは心の中で叫ぶ事しか出来なかったっス。
――だって、そんな無駄な酸素なんて無いんスもん!!
追いかけられ始めてから早半刻――もう既にアタシの心肺機能は限界でした。
バックンバックンどころの話じゃなく、ドドドドドドドドッ、とまるで機関銃のよう。
しかしそれでも逃げられているのは、アタシの膝上から爪先にかけて装着された、純白の美しい――自分の事っスけど、事実だからいいっスよね?――ブーツのおかげでした。
これこそアタシが所持する帝具、『一日万里』
何でも、『一日で千里を駆ける』と言われた斥候兵が、敵の策を見抜けたにも関わらず、人の身の足であったが為にその伝達を間に合わせる事が出来ずに友軍を失って涙する姿に心打たれ、始皇帝が彼に与えたのがコレらしいっス。
その特徴は、何と言っても二つ名に恥じぬ圧倒的な『機動力』。
『今だ!! 着地を狙え!!』
北方民族の人たちの言葉は相変わらず聞き取りにくくて、走りながらじゃその内容まで読み取れないッスが、大体言いたい事は分かります――丁度猟師か何かの休憩所だったのか、木が切り払われて開けた場所に、私が着地しようとした所だったっスから。
――けど、甘いっス。
後ろから聞こえてくる蹄と弓を番える音は、相変わらずアタシの背筋をゾクゾクと刺激しますが、こんな単純な事でやられるようなら、今日この日まで生きてなんかこれなかったっスよ、ええ!!
その程度には信頼してるんス、
そんな訳だから今回も頼むっスよ、マジで頼むっスよ、つーか失敗したら確実に殺されるどころか、下手したら発禁本の如きエロネチョになる可能性もあるスからあああああっ!! と、心の中で叫びつつ、白兎に搭載された機能の一つを解き放ちます。
「――
爪先が地面に触れた瞬間、頭の中でスイッチを押す――その瞬間、白兎の靴底から爆発するかのような勢いで光が吹き出し、ほぼタイムラグ無しに私の体を凄まじい勢いで前に運びました。
その効果は見ての通り、馬車やともすれば特級危険種すらも振りきれる程の超加速。
放たれた矢は、大分遅れて雪の上に突き刺さったっス……分かっていても滅茶苦茶怖いっスけどね!!
そして再び先頭集団から距離を開けると、間髪入れずにもう一回――!!
「
今度は上に目掛けて足を蹴りだすと同時に、光の噴出――瞬きの間に、私の体は重力? 何それ美味しいんスか? と言わんばかりの勢いで、数十メートルの高さにまで飛び上がっていました。
そして、樹の頂きに生えていた指の太さほどの枝に爪先をかけると、
これが機能の2つ目、超跳躍と、その間における体重制御――平たく言ってしまえば、物凄く体を軽くするというもの。
何でも知人の拳法家曰く、皇拳寺に伝わる軽気功って奥義に似てるらしいっスけど……まぁ、今は小難しい事はどーだっていいっス。
ともかく、これで50mくらいの距離を確保!! このままこんな風に逃げればその内煙に巻く事だって――!!
……という私の淡い期待は、すぐさま打ち砕かれました。
『空中にいる間を狙え!! それならば!!』
また何やら先頭のイケメンさんが何やら叫びました。
そしたら、後方から
……もう嫌っス何なんっスかあのイケメン、その場の対応力高すぎっスよ。
そりゃエスデス様来る前には、常勝無敗とか言われる訳っスよ――どんだけチートなんスか。
まぁソレ以上のチートを間近で見てるせいで、それが霞んじゃってるのはちょっと悲しいっスけどね。
『放てっ!!』
そんな風に愚痴ってる間に、号令の下一斉に放たれる連弩の矢――都合50発程でしょうか。
銃に匹敵する速さで、落下速度と可能な限りの回避方向を計算した弾幕が襲いかかります。
つまり、自由落下に入ったこの状況では避ける事なんか不可能、防御なんか皮鎧と防寒着しか着てない以上もっての外……絶体絶命っス、
だからこそ、アタシはもう一つの機能を解き放ちました。
「――
そう叫ぶと、足裏から再び爆発するように光が噴出し、私は文字通り空中を蹴って弾幕を凌ぎます。
左足が沈む前に右足を、そして更に右足が沈む前に左足を蹴る事で、擬似的に飛んで続く斉射を躱しました。
勿論、避けた矢を足場にして、更に距離を稼ぐことも忘れないっス。
――こう書くと簡単っスけど、実際はメッチャ怖いっスけどね!?
耳元とか体の脇を、風切り音響かせながら、剣呑に光る鏃が通り過ぎるのは勿論、本来足場の無い所で走るのなんて一歩間違えれば地上まで真っ逆さま、矢に足を掛ける瞬間なんか、走ってる馬車に飛び乗るのなんて生易しく感じるぐらいに体引っ張られますし!!
アタシのノミみたいな心臓は最早限界寸前っスよ!!
まぁでもこれで華麗に空中を舞って、格好いい活劇小説ならば、さぁここから攻撃用の機能を発揮して敵をバッタバッタと薙ぎ倒し……となるんでしょうけど……。
――ぶっちゃけこの帝具、由来からして戦闘向きじゃないんスよねー……。
そりゃ、物凄い早く動ける訳ですから、色々役には立つっスよ? そこらの一般兵なら視認出来ない程の動きで動けますし、白兎自体も物凄い堅い特級危険種から削り出した装甲を持ってますからそんじょそこらの攻撃じゃ傷一つつきませんし。
ですけどね……こちとらその一般兵に毛の生えた程度の技量しか持ってないんスよおおおっ!!
――元々は私ただの斥候兵っスよ!?
帝都にいるセリュー(あ、この子は警備隊に所属する、同じく帝具持ちの友達っス)とは違って、戦闘訓練なんて最低限しか受けてないんスから!!
そもそも敵はイケメンさんを筆頭に、この極寒の地で長年帝国兵を相手取ってきた猛者達……そもそもの地力で勝てっこないっス。
帝具が如何に強力だったとしても、連弩の一斉射撃とか、槍衾とか食らったら生身の部分は普通に死ぬんスよ普通に。
それに突っ込んで一人ひとり蹴り倒せってか!? 無茶言うなっス!!
――そんなのやるくらいだったらその分の体力で全力で逃げるっス!!
「ぜぇ……ひぃ……も、もう、限、か……」
でもその体力が、もう尽きようとしてたっス。
帝具の方は「やるぜ、俺はやるぜ」と言わんばかりにやる気満々なオーラを放ってますが、装着してる私自身の体力は限度はあります。
足の回転も段々遅くなっていくのが分かります……敵集団との差もジリジリと詰まってきました。
――嗚呼、天国のお父さんお母さん、あと大好きだったお婆ちゃん……ラヴィもそろそろ最期の時が来たようっス。
せめて、死ぬ前に帝都のロッテリ屋のハンバーガーをお腹一杯食べたかったっス……。
あ、ヤバい――死んだ家族と大好物のハンバーガーの幻覚と同時に、何だか心が穏やかになるようなメロディーの幻聴が聞こえてきたっス。
――頭の中を洗い流して、全てを委ねてしまいたくなるような、そんな音色。
それを聞いたアタシは、追いかけられているのも忘れて走るのを止め、その美しい音色に聴き惚れてしまいました。
あれだけ暴れてた心臓や肺が嘘のように穏やかになっていき、同時にそれに併せて敵軍の人たちも夢見心地のような表情になっていきます。
……ん? 敵軍の人たちも?
「――おいラヴィ、ぼんやりしてるとテメェごとばっさりだぜぇ?」
ぼんやりとした頭に一瞬引っ掛かりを覚えた瞬間、野太い剣呑な声と共に、私の胴を泣き別れにする軌道を描いた何かが森の木立の間から飛来しました。
「え……わっきゃああああああっ!?」
まるで南方民族の踊りみたいに思いっきり反り返ると、胸に触れそうな位置を、物凄い勢いで旋回する巨大な斧が通りすぎて行きました。
それは全く勢いを失わずに、咄嗟に反応出来たイケメンさんを除く前衛の人たちを容赦無く薙ぎ払います。
うえ……手とか足とか人のパーツが飛び散りまくってる……スプラッタっスねコレ。
そして、その惨劇の主である斧は、どういう原理かブーメランのように弧を描いて、元の場所まで帰って行きます。
人のこと言えませんが、こんな馬鹿げた物理法則ガン無視の武器……帝具以外に有り得ないっス。
そしてその予想通り、長柄の巨大な両刃式の戦斧を持つ帝具、《二挺大斧》ベルヴァークを携えて、まるでライオンの鬣のような髪と髭を持つ、身長2m程のオッサンが姿を現しました。
「ちょ、ちょっとおおおおおおおっ!! 殺す気っスかダイダラさああああああああんっ!?」
「ガハハハハッ!! ちゃんと避けたんだからいいじゃねぇか」
「良くないっ!! 良くないっスよちっともっ!!」
こっちを軽く殺しかけといて豪快に笑うこの人はダイダラさん――エスデス様直属の精鋭たる、三獣士の一人っス。
悪い人じゃないんスけど……見ての通りアホみたいな脳筋なのが珠に疵な困った人っス。
がるるるる……と、ダイダラさんに向かって歯を剥き出していると、今度は近くの樹上から小生意気な笑い声が響きました。
「あっはっはっは!! 相変わらずからかいがいがあるよねぇ、ラヴィってさぁ」
そこには、一見少女と見紛うぐらいにキレイな顔をした小柄な少年が腰掛けていたっス。
手にしているのは笛――それはさっきまで戦場に鳴り響き、アタシ諸共敵軍を茫然自失とさせた元凶でした。
名は『軍楽夢想』スクリーム――聞いた者の感情を自在に操ってしまういやらしい帝具っス。
外見はアタシと殆ど変わらない位に幼いッスが、コイツもまた三獣士の一人。
「ニャ~ウ~ッ!! いっつも言ってるっスけど、こっちまで巻き込まないで欲しいっス!!」
「まぁまぁ、ある程度は耐性付いてるんだからいいじゃん? 死んだら死んだで生皮剥がれて僕のコレクションになるから全く問題無いし」
「問題しかねえッスよおおおおおおっ!!」
何かとお固い軍っていう組織の中で、軽いノリのままでいてくれるんで非常に助かってはいるんスけど……問題は、聞いての通り倒したり、気に入った人間の死体の顔を剥いでデスマスクを作るっていうイカれた趣味ッス。
しかもアタシの顔はかなりのお気に入りみたいで、何かとチャンスがあれば剥ごうとしてきます……こんなソバカス顔の何処か良いのかは理解に苦しむッス。
『ば……馬鹿なっ!? 三獣士だと!?』
『奴等は今頃要塞都市攻略にかかりきりの筈!!』
と、そんな風にニャウと話している間は、無論スクリームの演奏は止まってる訳で――ベルヴァークの投擲から生き残ったイケメンさんを筆頭とした一団が正気を取り戻したみたいっス。
何やら叫んでるッスけど、その内容は聞かなくても大体分かります。
大方、今頃自分達の拠点を攻め立ててる奴らが、何で遠く離れたこんな場所にいるのか? ってトコですかね。
『――最早、その必要が無くなったからだよ、北方民族軍の諸君』
その疑問は、現地人よりも洗練されてるんじゃないかって位流暢で、気品と威厳に溢れた声が答えてくれたッス。
現れたのは、綺麗に整った口髭を蓄えた、軍人の精悍さと、洗練された貴族の風格を併せ持った壮年の男性――三獣士の最後の1人にして、エスデス軍最高の軍師、リヴァさんだったッス。
「ラヴィ、ご苦労。後は我らの役目だ」
後ろには、敵軍の数倍はいるんじゃないかってぐらいの帝国兵さん達――アタシに引きつけられた敵軍が近づくまで、気配を完全に殺して待ち伏せてたんスね。
……それだけで、エスデス軍の練度の高さと、リヴァさんの統率力が伝わると思います。
『そ、それはどういう――!?』
『――目を背けるのは止めたまえ、北の英雄よ』
動揺したイケメンさんに、リヴァさんはまるで出来の悪い生徒を窘めるかのような憐れみを込めた溜息を吐くと、彼らに対する死刑宣告を下したッス。
『――既に、貴殿らの拠点は陥落した。生き残りは、我が軍が悉く蹂躙している最中だ』
その言葉に、目に見えて敵に動揺が走ります――まぁ、無理も無いっスよね……満を持して別働隊として出発したのに、敵陣に達する前に帰る所が無くなったなんて聞かされたら、アタシだったら発狂するっス。
『出鱈目を!! 我らが要塞都市の門が、そう易々と突破される筈が無かろう!!』
『確かに堅固だった――敵ながら賛辞を贈ろう……だが、関係無いのだ。
そう言うと、スッ、と片手を挙げるリヴァさん――すると、それに合わせて帝国兵さん達が一斉に小銃を構えて隊列を組みました。
『そして信じようと信じまいと……貴殿らがここで果てる事に変わりは無い』
『……っ!? 全軍!! 一時後退!! 体勢を立て直すぞ!!』
そこでようやく、我に帰って味方に向かって指示を飛ばそうとするイケメンさん――けど、全ては遅すぎたんスよ。
――アタシにかまけて深追いした時点で、アンタらの運命は決まっていたんス。
次の瞬間、彼らの退路を断つように、轟音と雪煙と共に、巨大で分厚い氷の壁がそびえ立ちました。
少し遅れて、その衝撃と寒風がアタシの体を撫で回します――ううっ、この距離で防寒着越しにこの寒さ……ヘタしたら壁の側にいた敵兵さん達、凍りついてるんじゃないスかね?
そして、こんな超常現象を起こせる人を、アタシ達……いや、この戦場にいる全ての人が知っていたっス。
『――コソコソするのはもう終わりだ、芥ども』
その声が戦場に響いた瞬間、帝国兵の皆さんが一斉に道を開けて直立不動の姿勢を取り、三獣士全員が跪きます――勿論、アタシも慌てて続いたっス。
そこに現れたのは、雪よりも白い軍服に身を包み、氷よりも冷たい美貌に凄絶な笑みを浮かべた我らが主――アレこそが帝国最強と名高い将軍、エスデス様ッス。
『戦略上必要だったとは言え、あまりにも一瞬で終わってしまって、私としては少々物足りなくてな。
――だからせめて、貴様らの足掻きと散り様で溜飲を下げる事としよう』
そして、あまりにも非現実的な光景に、呆然とする敵軍の人たちに向かってたおやかな指先を向けると、まるでお使いを頼むかのように簡単に、一言だけ、告げたっス。
「――――蹂躙しろ」
――――――――――――――――――――――――――――――
――その後の結果は、細々と説明する必要も無いッスよね?
ダイダラさんが雄叫びを上げながらベルヴァークを振るって、敵を数十人纏めて肉片に変えて、
ニャウがスクリームの音色で、撤退しようとする敵軍を混乱させて烏合の衆と化した所に、リヴァさんの号令の下、戦列を構えた銃兵の一斉射撃が蜂の巣にし、
総崩れになった所を騎兵による突撃を受けて、北方民族軍の皆さんは次々と討ち取られ、総崩れになっていったッス。
その間、アタシは何をしていたかといいますと……、
「――ラヴィ、囮役ご苦労。
お前はこちらに来て休んでおけ。流れ弾に当っては面倒だからな」
「は、ハイっス!!」
敵軍の人たちによる血煙のダイヤモンドダストを、愉悦の表情で見下ろすエスデス様の陰に隠れて休憩してたっス。
時折連弩や銃弾が風切り音と共に飛んで来ますが、その全てはエスデス様が抜き放ったサーベルや、瞬時に生み出した氷の盾によって防がれました。
――ある意味最強の盾のような存在に守られながら、アタシは眼下に広がる光景を見下ろします。
そこにあるのは、ただただ成す術無く藁のように刈り取られていく敵軍の人達の体と、生命。
悲鳴と慟哭、絶叫と断末魔。
絶対の強者とそれによって喰らわれていく弱者。
そこには、残酷だけれど、決して目を逸らす事が出来ないモノが広がっていたッス。
思わずぶるり、と体が寒さとはまた別の原因で震えます。
「――ふん、私に拾われてからもう何年も経つというのに、未だに鉄火場の空気には慣れんか」
「あ、い、いえっ!? そんな事無いッス!!」
慌てて頭を振って誤魔化しますが、エスデス様は冷たい視線でアタシを見下ろしながら、手を伸ばしたッス。
叩かれるか、髪の毛を掴まれるのか、はたまたデコピンされるのか……ビクビクする余り、目を瞑りながら身を縮こませていると、その手はアタシの髪の毛をくしゃり、と撫でていたっス。
「今はまだ、それでいい。貴様の
……無論、この先もそのような体たらくならば、私としても考えがあるがな」
「あ、アハハ……」
手の平からは優しさと温もりを、目からはドSな絶対零度の視線という、両極端なアメと鞭を頂いたアタシは、引き攣った笑みを浮かべるぐらいしか出来なかったッス。
……つーか、下手に何か言ったら確実に揚げ足取られて、(あくまでエスデス様基準では)ソフト拷問コース一直線なのは目に見えてますし。
……ああああ、鞭と蝋燭の痛みを思い出して全身が痒いッス。
「――だが、今のこの光景は決して忘れるな。
あれがこの世の摂理だ……強者と弱者、勝者と敗者、虐げる者される者の姿だ」
続けてそう漏らすエスデス様の目は、先ほどまでのような戯れの混じったものでは無く、何処までも真剣で、何処までも冷たいものだったッス。
「ああなりたくなければ、強くなれ。弱者を打ち破り、滅ぼす力を手に入れろ。
それが出来ないならば、せめて何処までも足掻いてみせるがいい。
敵から、強者から、脅威から、死から……逃げて逃げて逃げ続け、その全てを振り切る事が出来た時、それこそがお前にとっての最強だ。
――
「……はい」
その言葉に、アタシはただ頷いたっス。
――もう朧気ッスけど、覚えているのは、大勢の人達からただひたすら逃げるアタシ。
思い出すのは、逃げている時の呼吸と動悸の苦しさ、手足の痛み、飛び込んだ谷底の川の水面の衝撃と冷たさ。
そして、差し伸べられたと同時に払われた手――それを再び掴む為に、爪が剥がれ、骨が見えるまでに断崖の岩肌をよじ登り続けたアタシの手。
断崖の頂まで辿り着き、ボロボロになった自分を、そっと抱きしめてくれた
幼い頃の記憶は殆ど失ったアタシッスが、それだけはハッキリと思い出せるッス。
エスデス様は、ハッキリ言って死ぬほど怖いし、強いし、この人に付いていったら死ぬのは二度三度じゃ済まないでしょう。
けど――こんなアタシに力を授けてくれたのは、この人なんス。
――ならばせめて、死なないように何処までも逃げて、足掻いて見せるッスよ。
――――――――――――――――――――――――――――――
……と、恰好付けた所で終われば良かったんスけど、趨勢が決したかと思った戦場から、一騎の騎兵が三獣士を躱してアタシとエスデス様目掛けて突っ込んで来たッス。
それは正しく、先ほどまで先頭を切ってアタシを追いかけまわしてたイケメンさん……ヌマ・セイカさんだったっス。
『――おのれえええええええっ!! せめて一太刀――っ!!』
鎧を砕かれ、全身の無数の刀傷と銃創から血を垂流しながら迫るその姿は、正に悪鬼――凄まじい眼光に、思わずアタシの体が竦みました。
傍らにいたエスデス様はそれを涼風のように受け流すと、つまらなさそうにサーベルを構えたッス。
――けど、ヌマ・セイカさんの狙いが何なのかを悟った瞬間、その表情が凍りつきました。
その槍の穂先は、エスデス様では無く、傍らに立つアタシに向かって伸びていたッス。
『首切り兎っ!! せめて貴様だけでもおおおおおおっ!!』
…………うえええええっ!? あ、アタシッスかああああああっ!?
た、確かにこの場において一番アタシが弱っちくてちっこい(まぁ、ニャウも大概っスが)ッスけども!!
英雄譚とかでは、そこは普通総大将であるエスデス様を狙う所じゃないッスかあああああああああっ!!
セオリーくらい守って下さいッスよおおおおおおおっ!?
けど、混乱した頭でそんな思考を巡らせている間に、穂先はアタシの喉元にまで迫っていたッス。
ヤバ……これ……避けられな――――、
「――――クズが」
次の瞬間、銀光が奔りました。
冷気を伴ったサーベルが、アタシの目には留まらない速さで振るわれたかと思うと、ヌマ・セイカさんの四肢と騎馬が、穂先ごと凍りつきながら砕け散ったッス。
そして、体だけになった彼目掛けて、エスデス様は踵を振り上げ――そのまま、地面に向かって叩き落としました。
『ガ……』
「最期の最期にようやく牙を剥いたかと思えば、与し易い者を狙うだと……? 呆れて物も言えんな」
最早呻く事すら出来ないヌマ・セイカさんの胸に、ヒールの踵を刳り込みながらエスデス様が睥睨します。
その表情は、それまでのものが生易しく思える程の怒りで満ちていたッス。
「そして何よりも……ラヴィを怯えさせたな?
コイツは私のモノだ――すぐに砕けてしまいそうなちんちくりんなカラダも、オドオドした
ソレを侵した罪……万死に値する」
『ガ……あ……アッ……!?」
まるで言い聞かせるように、一言一言力強く、同時にヒールを更に食い込ませるエスデス様――ヤバいッス……完全にスイッチ入ったッスよこの人。
それにドサクサに紛れてトンでも無い事口走ってるんスけど……!?
「貴様は恥辱の限りを尽くした後に家畜として飼ってやるつもりだったが、気が変わった。
……欠片も残さず消え失せろ、芥が」
『グッ……あ……アアアアアアアアッ!?』
そして、一際大きくヒールを押し込んだ瞬間、ヌマ・セイカさんは断末魔の叫びと共に凍りつき、粉々に砕け散りながら吹雪の中に吹き散らされました。
これが、噂に名高い北の英雄の最期……文字通り、欠片すら残らなかったッスね。
(恨まないでくれ……って言っても無理だと思うッスけど、せめて成仏して下さいッス)
何処までも報われないその姿に、アタシはちょっとだけ同情を禁じ得なかったっス。
……こうして、当初は『一年は掛かる』と言われていた帝国の北の異民族征伐は、僅か一週間という短期間で終わりを告げたッス。
エスデス軍ならば当然の、ごく当たり前の勝利――それはいつもと変わらない出来事の筈でした。
でも、その日を期にアタシ――ラヴィ・ラズトンの運命は確実に回り始めたんだと思うッス。
帝国に反旗を翻す革命軍、そして、彼らが擁する暗殺集団――ナイトレイドとの邂逅。
それからアタシは、いくつもの出会いと別れ、戦いと逃走を繰り返しました。
……これは、帝国と革命軍の戦いの間で、必死に跳ね回り続けた、臆病な兎の物語ッス。
主人公の口調は、今私がハマっている某ソシャゲのキャラをモデルにしてます。
「~ッス」口調の後輩キャラ……いいですよね。