「おぉ・・・・すげぇな・・・。」
梓はたった今ログインして、そのリアルさに圧倒されている。
今彼がいるのは中世の欧州を模したのだろうか・・?
そんな感じの雰囲気漂う街にいる。
ていうか恐らく街全部こんな感じだろう。
ちなみに彼のプレイヤーネームは《アズサ》だ。
捻りも何もあったものじゃない。
実名そのものだ。
それはさておき。
彼はとりあえず散策してみることに。
「はぁ~・・・。ほんとにリアルだな。和人の奴が言った通りだ。」
まぁ、信じていなかったわけではない。
断じて違う・・・はず。
「(まぁ、和人探してみるか・・・。)」
えっと。
確かあいつのアバターは・・・。
気障ったらしいイケメンで、名前は確か・・・・。
「あれ・・・?思い出せねぇ・・・。」
彼は和人のプレイヤーネームの始め二文字である『Ki』だけは覚えている。
その後が思い出せない以上、あまり散策しても無駄な気がするが・・・。
「(まぁいいか・・・。)」
彼は先に体を慣らすことにしたのだった。
それから数分後、彼は街を出て、始まりの街から程近い草原でイノシシ型のモンスター《フレンジーボア》を相手取っていた。
・・・・二時間半は過ぎたな。
それにしてもこれは・・・・・
「イノシシのポップ率高すぎね・・?」
倒しても倒しても休憩する前になぜか見つけてしまうイノシシ。
最初こそ、経験値が多少なりとももらえるから、新参プレイヤー向けのサービス精神のようなものかと思ったが、レベルが3程度になってしまえば、フレンジーボアを倒してもらえる経験値ではほとんど効果がない。
「(って言うかもう弱すぎだろイノシシ。)」
もともとレベル1向けになってるのもあるだろうがいくらなんでもこれはない。
五時を回ってるな・・。
とりあえずログアウトして、
だが。
「・・・は?ログアウトの選択肢が・・・・ない?」
なぜかログアウトのための選択肢だけが表示されていなかった。
ちょうどその時、どこからか鐘の音が聞こえてきた。
「・・・・・鐘?」
そして次の瞬間。
アズサは一瞬の青い光の後、数時間前に出発したはずの《はじまりの街》にいた。
◆ ◆ ◆
「・・・・どういうことだ?」
俺は気付くと、《はじまりの街》にいた。
・・・俺は確かフレンジーボアと戦って(※婉曲表現)いたはず。
俺がそんなことを思っていると、はじまりの街を囲うように《Warning》の文字が現れた。
まあ、空もその文字で覆われている。
「うげっ!?気持ち悪ぃ・・・・。」
その空の一部から真っ赤な、それこそ血液のようなドロリと粘性のある液体が、垂れてきて、空中の一部で停滞、そこに液体が集まり、形を成していった。
「何だありゃあ・・・。GM・・・・か?」
GM。
つまり
主に運営への問い合わせの際に目にするGMのローブが作り出されていた。
というか・・・。
「(でけぇ・・・・・。)」
アズサはただ純粋にその大きさに驚く。
現れたGM?は非常に大きく、20m近くあるように見えた。
それにしても・・・。
どっかで見たことあるなあんな感じのやつ・・・。
・・・・・あ。
あれだな。
前にやってたMMOのキャラか。
そのローブは数秒の沈黙の後、口を開いた。
『・・・・プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。』
両腕を広げ、大仰な仕草をしながら一万人近いプレイヤーの頭上でそう言った。
「(私の・・・世界?)」
アズサは“私の”の部分が微妙に引っかかった。
そんなことは露知らず、ローブは続けた。
『私の名前は
「茅場・・・だって・・・!?」
茅場晶彦はSAOの開発者だ。
茅場はログアウトボタンが消えているのはこのゲーム本来の仕様であること、このゲームがデスゲームであり、ゲームでの《死》は同時に現実世界での死も意味することを告げた。
この話を聞いたところで、アズサを含め、信じるものはいなかったが、次の茅場の一言で、そうも言っていられなくなった。
『しかし、充分に留意してもらいたい。今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。HPヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーヴギアによって――破壊される。』
茅場は、ゲーム上での《死》による現実の《死》から逃れる術がないことを再び告げた。
それはさながら、死刑宣告のようであった。
そんなことを急に言われれば、健全な人間がパニックに陥らないはずがないのだが、このときは彼らの頭が、未だに状況の整理と理解を出来ていないのか、パニックに陥ることはなかった。
茅場はそんな心中を察することもなく淡々と続けた。
『諸君らが解放される条件はただ一つ。このゲームをクリアすればよい。現在、君たちが居るのはアインクラッドの最下層、第1層である。各フロアの迷宮区を攻略しフロアボスを倒せば上の階に進める。第100層にいる最終ボスを倒せば…クリアだ。』
彼からもたらされた生還への一筋の光は、蜘蛛の糸のように細いものであった。
βテストのとき、十層進むだけでも数ヶ月を要したこのゲーム。
それを百層までクリアするとなると数年は軽くかかる計算になる。
『それでは最後に、諸君のアイテムストレージに私からのささやかながらプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ。』
「プレゼント・・?」
プレイヤー達はその言葉に自然と各自のアイテムストレージを確認する。
アズサもその一人である。
アズサはその中にイノシシを狩ったときにもえられていないアイテムがあるのを発見した。
「・・・手鏡?」
何の変哲もない四角い手鏡。
それを覗き込むとアバターの顔が映った。
「(なんだ・・・。普通の鏡じゃないか・・・。)」
そう思ったのも束の間、白い光が足元から湧きあがり視界を覆うとほんの数秒で消えた。
周囲の風景にこれといった変化はなく、イタズラかと思ったアズサはとりあえず体に変化が無いかと自分の顔を見た。
「・・・・マジか・・・・。」
そこに映っていたのは、黒髪の姿ではなく、約十四年間付き合い続けた
アズサとしては別段問題ないのだが、地毛が銀髪というのはどうなのだろうか・・・と常日頃から思っていて、わざわざゲームの中で黒髪にしたのは、ただ単にせめてゲームの中だけでも黒髪で・・・と言う思いだったのだ。
その後、GMは消失し、ついに《SAO》がスタートした。