その艦は多数の軍艦が停泊する宇宙軍港の中で一際異彩を放っていた。
そこまで大きい艦であると言う訳ではない。全長221.5mと言う長さは確かにかつて内惑星間戦争やガミラス戦役を戦った金剛型宇宙戦艦よりも長いものではあったが、全幅は22.5mとほっそりとしており、かつて水上船において「クリッパー型」と言われていた物に近い艦首形状と相まって見る者に非常なスマートを印象を与えていた。最上部甲板より上に目を向けてみると艦体のほぼ中心にやや低めの塔型艦橋が設置され、前部に三連装砲塔を二基背負い式に、後方に同じ三連装砲を三又状のウィングマストを挟んで一基が置かれている。全体的にコンパクトにまとめられたそれらは艦影をキリリと引き締めるのに役立てていた。だが何よりも特徴的だったのがその艦の塗装であった。中心線から上は防衛軍艦艇標準色として採用されているねずみ色の軍艦色。中心線から下は真紅の艦底色に塗られていたのだ。基本前者のみで塗られている防衛軍艦艇の中においてその艦が目立ってしまうのも当然と言えた。
「まるで宇宙船じゃなくてこれじゃあ水上船だ」と地球防衛軍一等宙佐の西山健吾が第一印象としてそのような感情を抱くのも無理はなかった。彼は2176年に宇宙戦士訓練学校を卒業後まだこの軍が地球防衛軍と呼ばれる前ーすなわち国連宇宙軍と言う名の頃から現在まで戦い続けていた第一級の宇宙戦士であり、これまで駆逐艦「たちかぜ」「いそかぜ」砲雷長、巡洋艦「あぶくま」副長、戦艦「河内」副長と宇宙艦艇の主要ポストを渡り歩いてきた。そしてその彼が初めて一国一城の主となるのが目の前にあるフネー阿賀野型巡洋艦三番艦「矢矧」であった。
阿賀野型巡洋艦はガトランティス戦役、そして暗黒星団帝国戦役を終えた地球防衛軍が新たに定めた「第二次防衛計画」における巡洋艦枠として艦政本部極東支部が提案した巡洋艦案がベースとなっている。全長221.5m、全幅22.5m。艦首タキオン粒子収束砲(波動砲)50口径20cm砲三連装三基九門、四連装空間魚雷発射管二基、その他対空ミサイル及びパルスレーザー機銃群多数を搭載。基準排水量は2万1000トンと搭載兵装と巡洋艦を名乗る割にかなり大きめとなってしまったのは暗黒星団帝国戦役における戦訓、すなわち「過剰なまでに進んだ無人化に対する反省」及び「長距離航海にも対応できるだけの艦内容積を確保」の二つを設計に取り込んだ為である。前者に関しては無人艦隊が通信コントロールセンターを破壊された後すぐに継戦能力を喪失してしまった事による物、後者は敵本星までの長距離航海の間基本的に太陽系内での行動のみを前提に建造された第一世代型ーガトランティス戦役直前に建造された艦艇群ー艦艇乗組員からかなりの不平不満が挙がり、士気の大幅低下に繋がった為だ。艦内容積自体は増えているが兵装は従来の巡洋艦と大差ない所かむしろ劣っている。第一世代の巡洋艦と比較すると、主砲は十門対九門で阿賀野型の方が一門少なく、巡洋艦において重要視される(少なくとも防衛軍はしていた)雷装に関しても一回当たり発射可能なのは第二世代型が十四射線、阿賀野型は八射線と約半減してしまっているのだ。「確かに居住性は向上したが肝心の性能自体が低下してしまってはしょうがない」と防衛軍上層部に判断された阿賀野型は第二世代型巡洋艦選定会議において落選。試作として建造された四隻「阿賀野」「能代」「矢矧」「酒匂」をもって打ち切り、量産される事はなかったのだ。
西山は目の前の「矢矧」を見上げる。艦首波動砲の発射口の上には艦政本部極東支部設計の証ー
かつての帝国海軍艦艇が装備していたフェアリーダーを模したブルワークが設けられている。
「この艦はけっして出来損ないのフネなんかじゃない」
西山はそう胸中で呟いた。彼は「矢矧」艦長を拝命した後阿賀野型に関してこんな言葉を耳にしていた。
「戦闘以外の事を気にし過ぎた結果低性能化してしまった出来損ないのフネ」
しかし彼はそんな事は思っていない。まだ重力制御もままならない頃から宇宙で戦い、現用艦とは比較にはならない程劣悪な居住性の艦で長期間過ごしてきた彼にとって砲門数や発射管の多少の差よりも、士気低下の方が戦闘全体に及ぼす影響が大きいと考えており、また余裕を持った艦体を持つと言う事は竣工後もある程度の拡張性を持つ事を意味する。
「必ずお前を『出来損ないのフネ』なんて言った奴らを見返してやる」西山は胸中に一人誓った。
時に西暦2203年10月11日
「矢矧」と西山が人類の存亡を掛けた過酷な戦いに巻き込まれていく事となる日の約2年前の事であった。
本作では完結編は2203年ではなく、製作当初の設定である2205年としています。
※2015 6/28 西山の乗艦に「いそかぜ」を加えました。
※2015 9/4 文章の一部を修正致しました。