巡洋艦矢矧戦記~宇宙戦艦ヤマト完結編外伝   作:筑波

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第一章 襲撃

無限に広がる大宇宙。静寂と光に満ちた世界。死んで行く星もあれば生まれてくる星もある。そうだ、宇宙は生きているのだ。

 

太陽系第三惑星──地球。幾度となく異星人による侵略や異常現象に襲われてきたこの青い惑星は今再び危機に晒されようとしていた。

回遊惑星アクエリアス

大半が水で形成されているこの惑星は長楕円軌道を描き銀河を回遊している。惑星に接近した場合は引力の関係によりアクエリアス表面の水が引き寄せられ結果的にその惑星は文明諸共表面を洗い流されてしまうと言う。本来ならば1/2光速のスピードで太陽系方面に向かい6000年も先に地球に接近してくる筈のその惑星が突如として24時間ごとのワープを開始。計算によればわずか15日後には地球の至近距離を通過する事になると言うのだ。太陽危機終息後約2年間平和を謳歌していた地球人類であったが、その平和はまたしても束の間の物に過ぎなかったのだ。即座に連邦政府は地球水没の危機を発表。官民問わずありったけの宇宙船をかき集め人類を太陽系内の植民惑星やスペースコロニーへ一時的に避退させる計画を始動させた。

市民は大混乱に陥った。

ごくごく普通の生活を送っていた所突然「15日後に地球は水没する」と伝えられたのだ。混乱するのも無理はない。

 

西暦2205年3月24日 輸送船「あすか」ブリッジ

 

「船長、十二時方向、二十宇宙キロ地点に空間歪曲反応を確認。何かが複数ワープアウトして来る模様です」

レーダースコープを覗いていたレーダー員が船長へ報告した。

「何かとは何だ、しっかり報告しろ」

船長が怒鳴り気味で返答する。「あすか」は全長500m、総トン数10万トン級と言う超大型船であり、本来であればコスモナイト90等の貴重な宇宙資源を満載し地球に帰還後再び宇宙資源を持ち帰る為に土星の衛星タイタンへと向かう筈であった。ところが帰還直前にアクエリアス接近、地球水没危機の知らせが飛び込んで来たため急遽「あすか」は他十一隻の輸送船と共に土星の衛星軌道にあるスペースコロニーまで市民を送り届ける事となったのだ。この「あすか」、完成してからまだそれほど日が経っておらず、先に行われた資源輸送任務がこの船にとって初任務でありレーダー員にとっても生まれて初めて乗り込む船がこの「あすか」であった。船長が怒鳴り気味で対応をしたのもまだ未熟が故にはっきりとした報告ができなかった彼に対して叱咤激励の意味を込めたつもりで行ったのであった。

「は、はい!ただいま国籍の照合を行っているところでありまして…もうすぐ、その…結果が出る筈です」

地球連邦所属艦船に搭載されているコンピューターのストレージにはかつて遭遇した事のある星間国家の艦船及び航空、航宙機──内惑星戦争時の火星艦艇から最新のボラー及びガルマン・ガミラス艦艇のデータまで──が保存されている。そのデータと照らし合わせれば何処に所属する艦艇か瞬時に分かると言う訳だ。

「防衛軍の護衛艦隊でしょうか?後から心配になって追いかけてきたのかもしれません」

横で報告を聞いていた副長が船長に疑問を投げかけた。

「さぁな。とにかく報告が出てみん事には分からない」

「照合結果出ました…これは」

副長の疑問に答えていた船長にレーダー員の報告が入る。

「どうした。報告ははっきりしろとさっきも言っただろうが」

報告の途中で口籠ってしまったレーダー員に対して再び船長の檄が飛ぶ。先程のように怒鳴られる事を警戒した為途中から声が途切れてしまったと思い注意をした船長であったが実際彼はそんな事を理由に口籠ってしまった訳ではなかった。

「せ、船長…め、目の前、目の前に…」

「目の前がどうしたはっきりと言え!」

船長はレーダー員に荒げた声で対応すると共に船橋正面に設けられている窓の外を見てようやくレーダー員が硬直した理由を悟った。

窓の外に何十隻もの船がいる。

まるで甲羅から首を出した亀と言った形の船を先頭に何隻かで隊列を組んでいる。いずれの船も地球や同盟国たるガルマン・ガミラスのどちらにも当てはまらない。ガトランティスや暗黒星団帝国、そしてボラーの物でもない。何より問題なのはその船体に設置されている構造物であった。艦首部分にハリネズミの如く装備された細く長い砲身と思わしき物、そして全体に渡って配置されている連装砲塔及び三連装砲塔と思わしき物…

明らかに軍艦、それも艦隊が文字通り眼前に迫っていたのだ。

船長の背中に冷汗がにじみ、顔はみるみる内に青ざめて行った。そもそも土星宙域と言う地球連邦にとっては内海のような宙域で突然攻撃を受ける事など想定しておらず、今、避難船団は全くの無防備であったからだ。これでは丸裸の状態で肉食獣の群れに対峙するような物だ。生存の見込み等計算する方が馬鹿げている。相手に敵意がない可能性も十分考えられるが、船団の団長を兼任する船長にとって常に最悪の事態は想定して然るべきであった。それに今は非戦闘員である大量の市民を乗せた状態なのである。船長はすぐに決断を口にした。

「逃げよう」

無抵抗の市民を逃がすため、そして自分達が生き延びるため。そもそも我々は戦闘をするためにここにいるのではない、市民を無事避難先に送り届ける為にここにいるのだ。

「地球防衛艦隊に救難信号を打電、反転180度、全船…逃げろッ!」

しかしその命令が各船に届く事は永遠に無かった。何故なら命令を出した時には既に「あすか」の通信アンテナそして船橋を謎の艦隊による砲撃──と言うより間断なく驟雨の如く降り注ぐそれは銃撃と言った方がふさわしかったかもしれない──により船長を始めとしたメインクルー諸共爆砕されてしまっていたからだ。命令もなく取り残された避難船はもはや無抵抗な烏合の集に過ぎなかった。ある船は燃料タンク部分に砲撃を喰らい瞬きする間もなく轟沈し、またある船は推進ノズルに被弾、航行不能になった所を複数の敵艦に嬲られ爆発四散した。あらかた船団を喰い尽くしたと判断したのか、その後艦隊の標的は土星軌道上のスペースコロニーに移っていった。元々宇宙居住用に作られただけであり、戦闘などハナから想定していないコロニーはただただ無抵抗にその身に砲撃を受け続けるしかなかった。細く赤いビームが命中する度に確実に百人単位の居住者がコロニーと共にその体を粉微塵に粉砕され命中弾により空いた破孔は生きている者、そして既にこの世を去っている者関係なしにブラックホールの如く飲み込んでいく。5分程集中砲火を浴びた後に残っていたそれはもはや設計者や建造に関わった技術者が見ても元が何か分からないだろうと言う程徹底的に破壊しつくされていた。

生存者等探す方が無駄だと言う事が火を見るよりも明らかだ。

 

 

「畜生!間に合わなかったか…!」

地球防衛軍第一艦隊旗艦「常陸」の艦橋で艦隊司令長官兼艦長である中島英機宙将が叫んだ。彼が指揮する第一艦隊は地球より出発した避難船団を護衛するべく追いかける形で出撃したのだが防衛軍司令部より土星宙域を航行中の避難船団に危機が迫っているとの連絡を受け、急遽護衛対象であった船団を火星軌道にて待機させその後太陽系外周艦隊と合流し駆けつけて来たのだ。しかし艦隊が到着した頃には既に遅かった。元々はこの「常陸」を超えるだけの威容を誇っていた筈の避難船や、人類の一時的避難場所となる筈であるコロニーの姿は何処にも見受けられない。見えるのは四方に散らばった金属片と炎上する残骸、そして前方に見える謎の艦隊。もう既に何もかもが終わった後だったのであった。

「『ヤマト』を攻撃した連中と同じ奴らでしょうか?」

「常陸」副長である古谷幸一一佐が尋ねた。「常陸」そして地球防衛艦隊の副指揮官である彼もあの艦隊の所業に怒りを覚えているらしく、その声は怒りによって打ち震えていた。

「分からない。ただ一つ確かな事が言えるとしたらそれは奴らが我々地球人類に対して攻撃の意思を持っていると言う事だけだ」

中島が返答し、告げた。

「全艦マルチ隊形、波動砲戦用意。拡大波動砲のチャージを急げ」

「波動砲戦ですか!?」

中島の命令に対し古谷は驚愕した。現在この場にいる地球防衛艦隊は2204年から量産が始まったばかりの第二世代型戦艦「テキサス」級を主力としている。全長250m、全幅40m、45口径41cm砲3連装3基9門を主兵装とする本級は主機関を従来型波動エンジンよりも出力が大幅に向上したHWVED──ハイパー・ワープ・ボヤージ・エクスペリメンタル・デバイスすなわち超ワープ機関──に変更する事により収束型波動砲や拡散波動砲よりも破壊力が増し、なおかつエネルギーチャージ時間が大幅に短縮された「拡大波動砲」の装備が可能となっている。確かに目の前の艦隊に対して波動砲戦を仕掛ければその圧倒的破壊力により一瞬で決着がつけられる可能性が高い。

「しかし拡大波動砲使用後に敵の増援部隊がやってでも来たら波動砲発射後エネルギーがゼロになった我々は全く動けず無防備のまま撃破されてしまいます。そのリスクを考えると波動砲戦よりも従来の砲雷同時戦を仕掛けた方が良いのではないでしょうか」

古谷は具申する。

波動砲と言う兵器は主機である波動エンジンのエネルギーを全て使用する事になる為、特に発射前のエネルギーチャージ中と発射後のエネルギー回復前の時間が一番危険と言われている。波動砲戦を行うと言う事はその破壊力と共に大きなリスクを背負う事も意味するのだ。目の前の艦隊だけが敵の全兵力とは限らないのにここで波動砲と言う切り札をいきなり使ってしまうのはどうなのか、古谷はそう考えていたのであった。

「いや、ここで拡大波動砲を使って一気に叩く。砲雷同時戦では敵を完全に仕留められるかどうか分からない。もしこのまま取り逃がしでもしたら、今火星軌道に待機している避難船団まで危険な目に晒してしまう事になるかもしれない。だが、波動砲戦ならば確実に敵勢力を一掃できる可能性がある。私はそれに賭けてみようと思う」

中島は決断を変えなかった。その顔にははっきりと彼の不退転の意思が表れていた。

(これはもう変える気はないな…)

古谷は悟り思い出した。彼の判断はある意味で理に適っておりそのような意味ではこちらは批判できないと言う事、そして彼が防衛軍内では大多数を占める波動砲決戦主義者の一人であると言う事を…

だが彼も軍人である以上例えその命令に疑問があってもそれに従わなくてならない。軍人にとって上官の命令は絶対なのだ。

「波動砲戦用意、全艦拡大波動砲発射用意、波動エンジン内エネルギー注入」

「拡大波動砲への回路開きます。非常弁全閉鎖、強制注入器作動」

「強制注入器作動を確認。セーフティーロック解除」

「護衛艦隊各艦より入電、『拡大波動砲ノ発射準備ヨロシ』」

中島の命令に続きエンジンの報告をする機関長の声、そして艦橋の正面で波動砲の発射トリガーを構える戦闘班長の声と各艦から届く状況を報告する通信長の声が続く。

「電影クロスゲージ明度20、目標前方の国籍不明敵性艦隊」

「波動砲薬室内圧力上昇。80,86,97,100…拡大波動砲エネルギー充填120パーセント!」

「総員対ショック、対閃光防御。発射10秒前,9,8,7,6…」

しんと静まり返った艦橋内でカウントダウンの声のみが響く。防衛軍の各艦でも同様の光景が展開されている筈だ。

「3,2,1…拡大波動砲…発射…!」

横一列に並ぶ各艦の艦首に眩い閃光が迸ったと思った刹那、各艦の発射口から青白いタキオン粒子の奔流が敵艦隊に伸びていくのが「常陸」の艦橋から見えた。

「このまま行けば奴らは一網打尽、一瞬で艦隊は壊滅我々の勝利だ」と思っていた中島であったが…

「て、敵艦隊の周辺に空間歪曲反応!ワープに入る模様です!」

「な、なんだと!?」

敵艦隊を観測していた電測長から思わぬ報告が入って来たのだ。

中島はすぐさまパネルに投影された敵艦隊の映像を見つめた。周辺には赤い霞のような物がかかっている事が確認でき、そこから続々と敵艦が姿を消していく姿がはっきりと見て取れた。敵はワープを行っている。それもまるでこちらが波動砲戦術で来る事を見透かしていたかのようなタイミングで…

波動砲とは元来放たれた方向にしか攻撃ができない兵器だ。

現在開発中であると言う、移動する敵をも狙い撃つ事が可能なホーミング波動砲や、目標に達する直前に広範囲にエネルギーを拡散させる拡散波動砲であれば話は別かもしれないが、拡大波動砲は射程や破壊力そしてチャージ時間が改善されているものの基本的には収束型波動砲とは変わらない。ましてやワープする敵を追尾して命中させるなどホーミング波動砲ですら不可能であろう。悲報は立て続けに防衛艦隊を襲う。

「11時の方向30宇宙キロに小型艇もしくは航宙機多数!さ、さらに敵より分離する物体を多数確認。これは…魚雷です!」

古谷が懸念していた「波動砲戦直後の敵増援部隊の来襲」が的中してしまったのだ。それもこちらの攻撃が失敗し敵艦隊は全て健在であると言う最悪の状況下で。

「ぜ、全艦エネルギーが回復次第回避行動及び対空戦闘に移れ!」

中島は即座にの命令を下す。エネルギーが回復したある艦は回避行動に移る為左舷側のスラスターをいっぱいまで吹かし、またある艦は魚雷を撃墜しようと主砲を含むあらゆる火器を総動員させる。

が、防衛艦隊の対応はあまりにも遅かった。まず破局が襲ったのは「常陸」の2つ隣に位置していた戦艦「ニューヨーク」であった。自艦に接近する魚雷目掛けて左舷側の対空パルスレーザーの猛射で弾幕を張っていた「ニューヨーク」であったがそれを嘲笑うかの如く魚雷は難無く突破。前部甲板に位置する1番主砲塔へ着弾した。1番砲と2番砲のちょうど中間に着弾した魚雷は易々と前盾をぶち抜き、主砲塔内へその弾頭部分を侵入させた。その時「ニューヨーク」では波動カートリッジ弾が装填済みであり、発射命令を今か今かと待ち受けていた所だった。そんな危険な状態で被雷してしまったのだ。波動カードリッジ弾に封入されてる波動エネルギーと魚雷の炸薬が結びつき激しい火災が発生、ダメージコントロールチームが被害を食い止める為に向かうも激しい爆発と炸裂の際に撒き散らされた放射性物質のせいで近寄ろうにも近寄れない。ダメコンチームが何もできない中、炎は揚弾筒内のカートリッジ弾を導火線とし次々に誘爆を発生させ最終的に主砲塔最下部の弾薬庫内で残弾30発分の波動カートリッジ弾の信管を一斉に作動させた。1番砲塔直後で艦体が切断されたと思ったその時「ニューヨーク」は一際明るい閃光を放ち、次の瞬間には一片の欠片も残さず完全にその姿を消していた。そう、まるで大昔に迷信として語り継がれていた神隠しの如く…

それに続き各艦にも被害が相次ぐ。ある艦はバルジの機能も備えた星間物質吸入用インテークに被雷。被害を食い止めると期待されたそれであったがあっさりと喰い破られ魚雷は機関室内で炸裂。中心から真っ二つに切り裂かれた。さらにある艦は艦橋に命中。指揮系統を失った艦はそのまま回避する事無く惰性で進み続ける。最新鋭、最強と呼ばれていた地球防衛軍艦隊の姿はそこになく、あるのはただの宇宙合金のスクラップと肉片ばかりであった。

もはやそこは戦場とは呼べない、ただの一方的な殺戮の場と化していた。




ゆっくりとしたペースで投稿していこうと思っています…
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