サイバーパンクな世界で忍者やってるんですが、誰か助けてください(切実 作:郭尭
さて、昨今SS界で流行の転生である。私たちが見たことのある何かしらの作品の中に生まれ変わり、各々が色々と活躍したりしなかったり、である。
まあ、なんだ、してしまったのだ。何を?と問われりゃ、転生ってやつを。
場所は日本。時代は前世から見れば近未来、サイバーパンク的な。
そんで、この世界には忍者がいる。
リアルな諜報員的なものではない。フィクションに出るような超人的な体術と、科学にケンカ売っていそうな忍術を駆使する、そんな中二心をくすぐるタイプのやつだ。
序に忍術は習うものではなく、なんかその内目覚めるもんなんだそうな。
そんで詳しくは割愛するが、私も忍者になった。
そんな私には大きな悩みがあった。
それは……
私の歳の離れた姉の名が甲河 朧であり、私達姉妹の職業名が対魔忍だということだ。
……凌辱マジ怖い。
今の自分の境遇、忍者と言う浪漫溢るるお仕事に就いているが、実際なってみると勘弁して欲しい気分になる。
うん、まあ、あれだ。命懸けなのは、良くはないが良いとしよう。警察や自衛隊とかと同じで、誰かがやらなけりゃいけない仕事だ。給料も良いし。
身体はまだ子供だが、甲賀忍者ん中では結構な実力派で通っているから、滅多なことじゃ死なない自信あるし。姉さんには鍛えられたよ。
職場も一応政府機関だから私ら公務員、の筈だ。表に出たらやばい、人目を憚るもんばっかだから法的な保護とかないけど。
あれ?全然良い所なし?寧ろブラックじゃね?
まあ、家の稼業の事もあり、流されて忍者になった。両親や姉に鍛えられて甲賀でも有数の使い手となった。姉らと違って、まだ忍術には目覚めてないけど。
で、対魔忍としてそこそこ仕事こなして、経験を積んで良い評価もらって。何かしら理由付けて引退できないかなと、その後の為に取った国家資格が五つを超えた頃、事件が起きた。
なんか姉が裏切って、暫くして殺されたそうです。
ええと、一作目開始?正直後悔してる、対魔忍、3以外やったけど抜きゲーとして割り切ってストーリー部分を殆どスキップしてたことに。
さて、どう身を振ったもんかな。姉が裏切ったせいか、甲賀出に向けられる視線が痛いんだよな。
「朧に妹、ですか?」
人間を裏切り、自らの名を冠した忍者集団を組織した朧。それを殺したのは、対魔忍に於いて最強と目される人物、井河 アサギ。そのアサギに伝えられた任務。
それは数か月前に殺した標的の妹と合同で行うもの。
任務自体はさして難しいものではない。少なくともアサギを使うようなものでは。
「その妹が何か?」
朧と同じ甲賀忍者であることは今聞いた。では、わざわざ自分がその朧の妹と接触する理由とは。心当たりはなくもないが。
「対魔忍上層部が彼女を警戒している。今の所怪しいと言える程の行動はないが、彼女を中心とした若い対魔忍の繋がりができつつあるらしい」
本来そんなこと問題になどならない。どんな組織にも派閥は存在する。それが組織にとって望ましいかは別として、それが正常なことなのだ。だが、彼女の姉、朧は人類を裏切り魑魅魍魎に与する忍者集団を創り上げた。
対魔忍という組織は、その妹が姉を殺した組織に、逆恨みで叛意を抱くのでは疑っている。中には朧忍軍残党との接触を疑う者も。
「だが、今の所彼女が疑わしい行動をした事実はない。それでも彼女の経歴は警戒せざるを得ん」
言い掛かりにも等しい組織の理屈。されど対魔忍という組織の役割を考えれば、断じて万が一があってはならない。臆病にもなるのだろう。
「故にその為人や普段の行動を詳しく調べることになった。今回の合同任務はその一環だと理解して欲しい」
対魔忍の現頭領である老人、アサギの祖父は任務に関する資料を手渡す。魔族との繋がりが確実である有力国会議員の拘束、及び障害の排除。特に有力な敵の情報もなく、この通りならやはり自分一人でも十分事足りる、とアサギは判断した。
まあ、いいだろう。表向きの任務が楽な分、朧の妹の監視に注力すれば良い。
「分かりました、任せてください」
任務を引き受け、家に戻ってから改めて受け取った資料に目を通す。表向きの任務の資料と共に、朧の妹の資料もある。
「甲河 虚……さくらより年下じゃない」
十五にも届かない子供が、こんな対魔忍などという命懸けの世界で、才覚を見せている。その事実にアサギは複雑な感情を抱かざるを得なかった。
年の割には高い背に、年齢相応の華奢な肢体。マントのようなボリュームのマフラーで口元を隠し、唯一感情を晒す濁ったような瞳。僅かに朧の面影を感じさせる、項で纏めた赤い髪と吊り上った目尻。そして腰には釵が二本。
新月の夜、人気のない廃ビルの屋上で初めて対面した少女は、どこか虚脱感をまき散らす少女だった。
転生というやり直しを経験しちまったせいか、生きてることのリアリティがない。だからなのか、痛みや死ぬことへの恐怖を感じない。人間関係も同様、誰かを、友情的な意味でも恋愛的な意味でも、好きになることができないでいる。
そんな私の、死に方に対する希望はただ一つ。
エロゲー的なエロスな目に合わずに死にたい。見る分には期待するけど、やられるとなると嫌悪感が、ね?
そんなことを考えながら任務に当たってきた。だから他人との共同任務の時は仲間を大事にした。
私が殺されるのは構わない。私が先に殺されるのはいい。私がリョナられるのだけは嫌だった。だからエロ展開来そうな時に、せめて味方には私が逃げるか自刃する時間を稼いでもらう為に、余計な消耗をしてほしくない。
そしてその晩、私は原作ヒロインであるアサギとの共同任務を受ける。それを知った時、嫌な汗をかいたものだ。表情筋が死んでるような顔だから、知り合い連中には気付かれなかったようだが。
本編開始タイミングが分からないからさ、疑って警戒しなけりゃいけない。
あ~リョナ怖い、触手怖い。
まあ、兎に角何だ?この日から私の、原作キャラ達とのドキドキ冷や汗抜きゲー展開回避生活が始まったのだ。