サイバーパンクな世界で忍者やってるんですが、誰か助けてください(切実   作:郭尭

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第十一話

 

 

  対魔殻の効果は極論すると『なんか凄い鎧』を顕現させる能力である。体を隙なく覆う鋼鉄に勝る防御力、そして身体能力の補正もあり、攻撃力のみならず機動力まで増強する。果ては毒ガスなどにも耐性を持ち、必要に応じ酸性の液体を分泌し拘束するものを溶解する。最新のパワードスーツにも劣らぬ生存性を誇り、その上で、質量がほぼゼロというとんでもない代物である。

 

  そんなものを纏った達人が暴れまわればどうなるか。それはもう凄まじいものである。人間型の魔族をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、である。ぶっちゃけカオス・アリーナ侵入前の爆破戦法いらなかったのでは?と大部分が思う活躍っぷりである。

 

  尤も、実際の所はそんなことはない。対魔殻を纏い先陣を切る佐久 春馬が主に相手取っているのはオークの類ではなく、人間に近い外観の種族たちである。その手から放たれる炎や雷光。魔法と呼ばれる、対魔忍の扱うものとは異なる異能。

 

  一人一人が違う能力を発現させる、機能である対魔忍の忍術と異なり、魔法は体系化され、相応の適正と条件さえ整えば会得できる技能である。だが、そのどちらも結局のところ、どんなことができるか分かったものではない、という共通項がある。

 

  虚の手榴弾攻撃も、ここの魔法を扱える魔族では何かしらの対処を行われる可能性があるが、先ほどまでのオークにそんな心配はなかった。少なくとも班長である東雲 音亜はそう判断し、春馬を温存していた。

 

  そんな訳で敵の注目は春馬に集中し、虚たちは比較的余裕をもって立ち回ることができていた。

 

  攻めは順調。エントランスにいた敵は後退を始め、既にだいぶ押し込んでいる。虚も動きづらくなる手榴弾入りリュックを、爆発物の扱いに秀でた美濃部 エンジに押し付け、自身も敵の掃討を行っていく。

 

  やがて分が悪いと見たのか、敵は後退し始める。指揮を執っている者が優秀なのか、兵士の半数近くを切り捨てる形で地下街への入り口をシャッターで封鎖して逃げ切る。

 

  このシャッター自体は一般的な建物に使われるような、何の変哲もない代物であった。故に対魔殻を纏った春馬を止められる筈もなく、簡単に突き破られる。そこから足止めに降ろされたシャッターを破壊しながら、事前に用意していた完成予定図に沿って下っていく。

 

  そして地下四階に差し掛かった所で通路の雰囲気ががらりと変わる。内装が終わらないままに放置された地下街、ではなく割とSFチックな雰囲気のある通路になった。新しく追加で作られたエリアであるのは見て取れる。

 

  このエリアに入ってすぐに、通路が隔壁で閉じられていた。先のシャッターと違い、どれだけの厚さがあるのかはわからない。舞華の忍術の火力なら、或いは容易に隔壁を破壊できるかもしれないが、彼女の術は燃焼性の高い爆発である。ある程度制御が利くとは言え、壁抜きの類など行えば、立ち回るなら二人同時が限界であろう、狭い空間しかないこの通路では寧ろ味方が危ない。ために対魔殻という強固な装甲を纏った春馬が先行し、直接近づいて調べることになった。

 

  そして近づいたタイミングで壁や天井が展開して現れる複数の小型ターレット。機銃などを搭載したそれらはすぐさま春馬へと集中砲火を開始した。仮に銃撃だけなら、対魔殻という超常の鎧に守られた春馬はせいぜい衝撃で前進を阻まれる程度だっただろう。だがこの内にグレネードランチャーを搭載したターレットが混ざっていたため、榴弾の衝撃で春馬を後方に吹き飛ばした。

 

  さて、銃撃を避けるため通路の影まで後退した一同。このまま撤退という筈もなく、如何にして隔壁を突破するか。春馬は再度自身が突破を試みると提案した。先の攻撃で、何とかターレットの位置は把握した。突破は不可能ではない、と。

 

  が、それは音亞が却下した。如何に隔壁まで辿り着いたとしても、対魔殻の発揮しうる破壊力は、纏った者の身体能力に依存する。無事辿り着けても、事を解決できるかは怪しい。

 

 

  「虚ちゃん、出来る?」

 

 

  音亞は虚に向かって蟀谷を指差すジェスチャーを送る。虚のその位置には米連性の多目的ゴーグル。虚はゴーグルを被るとボタン操作、赤外線モードを起動し、通路を見やる。視界に移ったのはレーザーによるセンサー網。

 

 

  「行けます」

 

 

  見えさえすれば、彼女たちなら充分躱していける密度のものだった。対魔忍のルーツからくる方向性からこの手の装備を使う者は少数派であるが、大抵の対魔忍には対処できるレベルである。

 

  ただ、問題はセンサー網を突破してからである。一応隔壁の横にコントロールパネルはある。が、それが素直に使えるということはないだろう。ハッキングやらなんやらの非正規の手段を行う必要があるだろう。とは言え、虚にそのレベルの技能はない。辿り着いても無駄になる可能性があった。本来こういった事態にも対処するため、地上にはある程度の管制能力を持った指揮車を置きそこと連絡を取り合っているのだが、地下に入ってからは通信が繋がらなくなっている。

 

 

  「あ、それなら私も……」

 

 

  こういった方向の知識も有る美濃部 エンジがおずおずと名乗り出る。彼女の眼鏡は簡易センサーと、そこから分析された情報を表示するディスプレイの機能が搭載されている。それを虚の多目的ゴーグルと同期させ、エンジから必要な指示を送ることとなった。

 

 

  「あ、これ預かってろ」

 

 

  虚はいつも背負っている可変コンポジットボウを蘇我 紅羽に押し付ける。

 

 

  「ええ、なんで私が」

 

 

  「いいから持ってろ。何が起きてもなくすなよ」

 

 

  流石にこれからセンサーを躱しながらの動くのに、体積を増やす装備は極力減らしたい。取り敢えず、切り札を預けても変な細工をしなさそうな人間に押し付けることにした。

 

 

  「あら、だったら私が預かろうかしら?」

 

 

  若干嫌がる紅羽の様子に、音亞が自ら提案する。が、虚は班長でもある彼女を一瞥すると、やっぱり紅羽にボウを押し付けた。

 

 

  「班長さんにやらせるもんじゃないでしょう。こういうのは新人の仕事と相場も決まってますし」

 

 

  「あら、虚ちゃん意外と体育会系だった?」

 

 

  音亞のおどけるような物言いに、だが虚は曖昧な反応だけ返して先に向かう。見えてさえいれば、少なくとも対魔忍である彼女らにとって難しくない密度のレーザー。それをゆっくり確実に避けながら進んでいく。

 

  難なくコントロールパネルにたどり着いた虚はエンジの指示を受けて、パネルを弄り出す。ハッキング、という手段が取れれば格好もいいのだろうが、実際そんなことができる装備はない。デジタルな手段に早々に見切りをつけ、アナログな方法に切り替える。外装を釵でこじ開け、内部の配線の様子をマスクのカメラ経由でエンジに送る。そしてその指示通りに配線を切ったり差し替えたりする。

 

  最後に、切断した二本の配線をショートさせ、隔壁の機構を誤作動させる。火花と焦げ臭い匂いと共に、障壁のロックが外れたのが音で分かった。

 

  が、少しばかり問題も残った。ロックが外れ、隔壁が少しばかり上に昇った所で止まってしまった。もう一度配線を弄っても、ショートさせた際に完全にイカレたのか、今度は何の反応も起こさなかった。

 

  同時にセンサー類もダウンしたので他の班員たちを呼び寄せる。幸いなのはある程度持ち上がってから停止したこと。立って、しゃがんでは無理でも、這ってはいけるだろうと。

 

  「曽我、弓返して。ついでにあんた前に出て」

 

 

  とは言え自ら先が見え辛い場所に先陣を切る心算はなかった。鼻の利く紅羽なら坑道のカナリア役にならずに先導できるだろうと考えた。

 

 

  「ええ!?なんで私がっ……あ、鼻?」

 

 

  虚の言い方に、紅羽は反感を覚えたが、一応筋が通っていないこともない。そうでなくとも、彼女の方は虚に対し苦手意識が生まれてしまっている。中々逆らえないのだった。

 

 

 

 

  東雲 音亜にとって、今回の任務は単純な掃討作戦ではなかった。

 

  元来彼女は前線で戦うような任務に就く人間ではない。無論、それは彼女の実力が低いからではなく、その忍術の特性の問題である。

 

  対象の思考を読む、読心の術。その使い手である彼女は捕虜などからの情報収集の任が多い。相手に直接触れない限りは思考の表面しか読めないが、本職以外に先読みとして戦闘にも応用の利く術である。

 

  今回は班長を務めてこそいるが、対魔忍としては虚の後輩ですらある。

 

  にも拘らず虚が班長ではないのは適性だけではなく、政治の問題が多分に絡んでいる。

 

  現在対魔忍界隈で最も力を持っているのは伊賀であり、同程度の規模を持つ甲賀がふうまの反乱から始まる一連の混乱や、朧という裏切により大きく発言力がそがれている状況である。

 

  そんなパワーバランスが伊賀に傾いている現状、大昔の黴の生えた怨恨を今こそ晴らそうと考える者たちがいる。

 

  そんな者たちの策謀の一環として、音亞には虚の監視と、可能であれば処分が言い含められていた。

 

  伊賀の中でも特に勢いのある、井河の一派に属する彼女はこれを拒絶しなかった。元より後ろ暗い任務が主である彼女はこの手の謀略には拒絶反応はない。同時に、この手の物事に深入りしすぎては身を滅ぼすことも、よく知っている。だから彼女は一つ条件を付けた。彼女自身が虚に積極的に危害を下すことはしない。あくまで虚には敵の手にかかって死んでもらう。彼女が行うのは、そうなり易くなりそうな采配を執る、ということを。

 

  彼女の忍術は読心術、敵の行動を読み、危険を虚に知らせず、送り込めばいい。

 

  今の所、上層部が憂慮している裏切りの兆候は読み取れないが、それはそれ。裏切らなくても、虚が死ねば甲賀の再起が一歩遠のくのだから。もはや名分でしかない。単なる政治だ。それも血腥いものが関わる類の。

 

  おまけに、音亜自身、能力上後ろめたい物事にガッツリ関わってきている。今更抵抗など感じはしない。

 

  ただ、自分の保身を考えて、逃げ道は残してある。上からもあくまで「やれれば、やれ」という程度のニュアンスだった。ここで失点を作って甲賀との力関係を盛り返されては割に合わない、と。

 

  だから彼女は自らどうこうする心算はなく、わざと虚が危険に近づくような指揮をするに留め置くことにしている。だから、隔壁の向こうに近づいてきている悪意の存在を黙っていた。

 

  そんな彼女にとって、予想外だったのは紅羽の索敵範囲の広さと、

 

 

  「何か来るっ!甲河さん!」

 

 

  虚が実の姉に仕込まれた条件反射に近い防衛反応だった。紅羽の声に、気付かれたことを察したのか、障壁の向こうから重量のある生き物が着地した音が響く。そして隔壁の隙間から延びる、人間の頭など一握りで潰せてしまうだろう剛腕が伸びる。だが紅羽の声で気付いた虚には簡単に対応できる。虚は壁を蹴り隔壁と壁の角にはりつく。そして腰のホルスターから、二本ある釵の片方をぽいっと落とす。そして先端を下に落ちる釵の柄の部分を足の裏に踏むように飛び降りる。

 

  虚の全体重を乗せた釵は、剛腕の手の甲を貫く。隔壁の向こうで起こる、獣の叫び声。虚はそのまま後ろに飛び退き、味方の近くに移動する。

 

 

  「結構でか物みたいですね」

 

 

  「あれ吹き飛ばしちゃダメですか?今の内に」

 

 

  隔壁を無理矢理持ち上げ始めた両腕を見て、舞華は音亜に尋ねる。あの両腕のサイズで、本体が小さいということはないだろうと考えた。

 

 

  「やめろよ、こんな狭い場所で。あんたの火で窒息とか冗談じゃない」

 

 

  「あんでてめえが応えてんだよ」

 

 

  すかさず駄目出しした虚との間に不穏な空気が流れるが、隔壁から響く金属同士のこすれる不快な音に、二人ともすぐに切り替える。両の腕の力だけで無理矢理こじ開けられていく隔壁、その奥から姿を現す巨体。

 

  額から湾曲した一本角を生やした狼のような頭、ゴリラと四足の肉食獣の中間にある体躯。背筋から尾にかけて甲羅のような、鱗のようなものに覆われ、他の部分は濃い体毛。垂直に立ち上がれば三メートルに届きそうな巨体は、今まで相手してきたオークの集団とは比較にならないほどの存在感を漂わせている。

 

  そんな存在が牙を剝き出しにし、息を荒げて一同を睨みつけている。左の手の甲には、虚の釵が刺さったままになっている。

 

  獣の荒々しい殺意が、対魔忍たちに向けられる。

 

  班員たちが各々得物を構え、眼前の魔獣の動きに備える。そんな中、班長である音亜はこう言った。

 

 

  「虚ちゃん、足止めだけでいいから、この場お願いできる?」

 

 

  それに対し虚は数瞬逡巡し、

 

 

  「曽我を貸してもらえれば」

 

 

  取り敢えず巻き込んだ。

 

 

  「OK」

 

 

  即決だった。

 

 

 

 





  一気に冷え込んだ今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか?どうも、郭尭です。

  今回、最後の方に出てきた敵は、ゲームやってた方は知ってるかもしれませんが、ソシャゲ版のレイドボスの一体、魔獣です。うまく伝わっていればいいですが。

  今回間が開いた理由は戦闘シーンの躓きです。

  他の部分はどうにかなるのに、戦闘シーンに限っては、何故か一度躓くと立て直しができない。数日かけて書いたのを消して、数日かけて書き直してまた消しての繰り返しで。待たせてしまっている立場であれですが、中々心折れそうな感じでした。こう、書いてるというよりホント作業してる感覚といいますか。

  申し訳ありませんが、まだ戦闘シーンが続くので更新速度は保証できません。

  それでは今回はこの辺で、また次回お会いしましょう。

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