サイバーパンクな世界で忍者やってるんですが、誰か助けてください(切実   作:郭尭

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RPG編短編

 

  彼女の朝は冷蔵庫で冷やされた炭酸飲料で始まる。強炭酸の刺激で無理矢理意識を覚醒させ、そして前日の残り物のカレーを朝にガッツリ腹に入れる。そして高校の教科書の仕舞ってあるカバンを手に借り家のアパートから出る。

 

  関東某所にある五車町。長閑な田園風景さえ存在する、日本の古き良き田舎を連想させる小さな町である。尤も年頃の少年少女には娯楽の少ない、極めて退屈な場所でもある。

 

  その町内に存在する五車学園。その閑散とした街には似合わない、山一つを含む広大な敷地を持った、鉄筋コンクリートの豪華なキャンバスを持った、表向きは一条校。

 

  その実態は政府の特務機関である対魔忍の育成機関である。その生徒である甲河 虚は学生では比較的少ない、実際に任務を任されるレベルの対魔忍である。そして学校に到着した虚は教室に寄りもせず、校舎の屋上のベンチに寝そべる。

 

  校舎やグランドから流れてくる生徒たちに由来する、いつも通りの喧騒に、虚はいつも通り鬱陶し気に深く息を吐く。

 

  甲賀忍者が最大派閥甲河の分家筆頭にして、甲河家頭領代行である彼女に取って通常授業の時間は専ら昼寝に費やされている。

 

 

 

  五車学園に於いて不良と言ったら、多くの人間はまずある三人組を思い浮かべるだろう。通称制服着ない三人衆。

 

  厳密にはそれぞれ五車学園に通う以前の制服を頑なに着続けている三人である。

 

  中学の頃からのセーラー服の上にフード付きパーカーの甲河 虚。改造スケ番黒セーラーの神村 舞華、可愛いからという理由だけで他校のブレザーを煽情的に着こなす千賀崎 リリコの三人である。

 

  そしてこの三人、世の不良のイメージ通り勉学には不真面目であり、一時間目の開始チャイムが鳴る頃には、大体屋上に揃うのである。昼食時には多少人数も増えるが、基本的にこの三人は学内でセットみたいに認識されている。

 

  とは言え、三人の仲が良いのかと問われれば、なんとも言えない。

 

  まず、虚からして二人に自分から声を掛けることは滅多にない。舞華は過去に故有って虚の実力を評価しているが、性格的に衝突も多い。そんな二人をリリコが家猫のように人懐こさと奔放さで取り持ったり、振り回したりして纏めている形となっている。

 

  そんな三人はいつも通り、対魔忍関連以外の全ての授業をぶっちする。虚はベンチで昼寝し、舞華は早弁し、リリコは虚の膝に俯せてファッション誌を捲る。

 

  そしてグランドでぼちぼち部活動の声が響き始めたころ、学園の内外に潜んでいた悪意が動き出した。

 

  真っ先に気付いたのは、最も実戦経験の豊富な虚であった。空気が変わったことに反応して目を覚ました虚は思考するより先に反射で膝上のリリコを突き落とし、カバンから愛用しているギミック付きの籠手とブーツを身に着け始める。

 

  その行動に驚き、訝しみながらも周囲に気を向ける。

 

  授業態度は兎も角、実力は折り紙付きのメンツである。舞華とリリコもすぐさま学園内外からの不穏な気配に気付く。

 

  リリコもカバンから得物の短刀二振りを取り出す。

 

 

  「なあ、こういう時お前らずるくね?」

 

 

  「私だって弓とか持ってきてないぞ」

 

 

  普段の武器が大物過ぎて携帯できない舞華は不満げに二人を目線を送る。

 

 

  「てめえはあの剣も有るだろうがよ」

 

 

  「……痛いから使いたくねえんだよアイツ」

 

 

  そして動き出す悪意。学園の内外から響く爆音と悲鳴。次いで戦闘音と怒号。敵は外だけでなく、内側にも潜まされていたと。とは言え、学園に向けられた悪意に気付いた時から、内部に何らかの工作がされているのは想定出来ていた。問題はこの襲撃の中、何を目的とするかだった。

 

  状況を見極めるために敢えて屋上で待機していた三人。彼女らの前に最初に現れたのは、実戦用の忍び装束に身を包んだ者たちだった。

 

  この状況でフル装備ってことは十中八九敵であると彼女たちは判断したが、政治的な立ち位置的に、どんなことも上げ足取りされかねないこともあり、虚は慎重に対処しようとする。

 

 

  「我らはふうま正義派!政府の犬へと成り下が「ありがと、死ね」……ッ!?」

 

 

  ご丁寧に名乗りを上げる相手に対し、敵であると明白になった時点で、口上の途中で棒手裏剣の投擲でその喉を突き刺す。敵はふうまの一派。目の前のは敵。この二点が確定したなら取り敢えず行動は出来る。

 

 

  「なっ!?貴様、卑怯な真似を!」

 

 

  「一人生かしときゃいい。後は殺していいから」

 

 

  喚きたてる敵を無視し、他の二人にそう告げる。

 

 

  「ハイハーイ、了解でーす」

 

 

  「お前が仕切ってんじゃねえよ!」

 

 

  それぞれ異なる反応を見せながら武器を構えるリリコと舞華。万全ではないとはいえ、二人とも対魔忍全体から見て、既にかなり上位の実力者である。数のハンデが加わったとしても、寧ろ優位にあるのは彼女らの方だ。

 

  甲河と同じく甲賀に連なる血筋であり、邪眼と呼ばれる忍術に目覚めやすいというのが(あくまで相対的に、ではあるが)特徴の血族であるふうま。諸々有って、その前当主が日本政府の下に着いた対魔忍という体制そのものへ反旗を翻したのが数年前の事。その反乱が鎮圧されて終わったが、以来対魔忍内での彼らの地位は非常に低いものであり、虚から見ればわざと不満を溜めさせて暴発させる謀略なのではと思うほどであった。

 

  故に彼女に取って今回の騒動、ふうまが爆発したというのなら、一応は納得できるものだった。

 

  対魔忍内部に於いて、政治的優位に立っている伊賀勢力の増長(アサギも頭を抱えてはいる)。脳無し(虚は敢えて能無しとも目抜けとも呼ばない)頭領のやる気のない振舞い。爆発自体は虚でも時間の問題だと思ってはいた。

 

  だが、完全に彼女の想定外であったのはわざわざふうまが学園を襲撃対象に選んだことであった。長い目で見れば次代の育成機関である五車学園襲撃は対魔忍にとって確かな痛手となるだろう。だが、今を担う者たちはほぼ無傷で残る。

 

  明確に敵対したふうまに、次代を担う者たちを奪われた各派閥がどういった行動に出るか。上層部の欲の皮の突っ張った老人共は、同時に政治の化け物共である。数的に決して多い訳ではないふうまを、権力闘争の余力で殲滅することとて決して不可能ではない。

 

  故に彼らは自分たちの生存のためにまずその老人共を真っ先に皆殺しにして対魔忍の意思決定機関を麻痺させるべきである筈だと、虚は考えている。

 

  ではこの学園襲撃そのものが陽動で本命は別か、とも考えるが、果たしてふうまにそれだけの数があるのか。

 

  屋上に現れた敵を殲滅し終えた虚は手摺りから周囲を見回しながら思考を回転させる。その様子をリリコは退屈そうに眺め、仲間を助けに行きたい舞華は苛立たし気に待っている。

 

  考える労力を惜しむリリコと、頭の悪さを自覚してはいる舞華。何だかんだで虚の判断には一定の信頼を置いている。舞華は口に出して認めることはないだろうが。

 

  だが、現在の最良を判断するには情報が足りない。敵はふうま。それはいい。状況証拠に過ぎないがやるかも知れない立場に追いやられているのは事実である。では誰がふうまなのか。有名処ならば虚でも多少は顔を知っている。だが下忍など末端まではそうはいかない。乱戦にでもなれば本当に手が付けられなくなる。

 

  そこまで考えていた虚の視界に見知った顔を見つける。

 

  彼女らのいる校舎とは違う棟の一階廊下を駆ける三人。そのうち一人は、確実に殺していい相手だと彼女は判断した。

 

 

  「ここは任せた、私ちょっと行くから」

 

 

  そういうと返事も聞かず、彼女は屋上の手摺から跳び下りる。そして校舎の壁に足をつけてブーツのギミックを発動、余波で壁を破壊しながら弾丸のような勢いでその三人組が入っていった部屋へと跳んで行った。

 

  五車学園最高責任者にして対魔忍最強の使い手、井河アサギのいる校長室に。

 

  校長室のドアを廊下の窓ガラスごと蹴り抜きその勢いのままダイナミック入室。折れ曲がり弾け飛んだドアはそのまま校長席の後ろの窓を突き破っていった。もしアサギが座っていたら顔面があるであろう位置を通り過ぎて。尤も、仮にそこに人が座っていても、アサギだったら傷一つなくやり過ごすだろう。故に虚は状況把握に視線を奔らせる。他の人が座っていた場合どうなるか微塵も考えずに。

 

  部屋には虚を除いて五人。校長席の横に紫の対魔忍スーツの長髪美女、学園の校長でもある最強の対魔忍、井河アサギ。アサギと対峙する、顔の右半分を仮面らしき物で覆っている赤髪の男。その後ろに右目を閉じた優男と連れらしい二人。そして結果として出口を塞ぐ形で虚である。

 

  他の面々に心当たりがほぼない虚であったが、今守るべき対象(必要とは言ってない)であり上司でもあるアサギともう一人。

 

  ふうまの現当主、同じふうまにすら目抜けなどと蔑まされてきた少年。ふうま小太郎。虚と近い立ち位置にありながら、徹底的に違うスタンスで生きてきた、彼女に取って気に食わないクソガキである。

 

 

  「反逆者共に告ぐ、降服して極刑になるか、抵抗して殺されるくらいは選ばせてやる。さあ、決めろ」

 

 

  アサギがいるこの場で、自分の出る幕があるかは別として、取り敢えず虚は偉い人への点数稼ぎを始めるのだった。

 

 

 

 

  一応の事態の収束。反乱の首魁であった二車 骸佐の逃亡、自営軍から出向してきていた保険医に化けていた禿げた魔族の暗躍。

 

  まあ、禿げで魔科医な魔族は、『揺らぎ』は覚えた。生きている生き物を体の外に纏うくらいしなければ、どんなに姿形を変えたところで意味はない。相手はノマドの大物らしいので収穫ではある。

 

  まあ、それはいい。過ぎたこと、取り敢えずは置いておく。

 

 

  「私はこれにして~、舞華ちゃんはこれで~、あっ、蛇子ちゃんはこれでいい?」

 

 

  ふうまの三人組を自分家に入れなけりゃならんとは。

 

 

  「……で、ふうまちゃんはこれでいいk「ふうまの脳無しにくれてやる物は何もない。てめぇもいい加減、人の冷蔵庫の中身を勝手に高い順に出すのやめろ、マジで」

 

 

  自室で取り敢えず送られてきた書類の選別だけ終えて、リビングに出てリリコが勝手に東京から送らせたケーキたちが配られるのを、特にふうまの分を止める。

 

  リリコが周りに配ったやつ、最後にふうまに回した一番安いイチゴのショートケーキですらソースのついた七百円超える奴だぞ。この場に出てるのだけで四千超えるんだからな?

 

  私は冷蔵庫から自分の分の飲み物を用意してリリコの隣に座る。

 

  これでリビングの机には六人。私、リリコ、舞華。対面にふうま、相州、上原。

 

  相州は元からふうまの派閥だったから、彼女が味方にいるのは分かるが、上原は井河だったと思ったが。

 

 

  「取り敢えず、話をしようか、ふうまの脳無しご当主」

 

 

  非常に不本意なことながら、私と「脳無し」とは同僚関係とされてしまったのだから。

 

 

 

 

  甲賀忍者にとって、甲河 虚は中々に有名人だったりする。対魔忍に所属する甲賀忍者の名目上の纏め役。多くの甲賀忍者を取り纏める立場である甲河家の分家であり、その中でもう一つの甲河を名乗ることを許された家系。

 

  その分家甲河に於ける彼女の肩書は次期頭領後見代理という長く裏の事情が透けて見えるもの。

 

  ノマドとの戦いで甲河の里が滅び、ノマドに対する姿勢の違いで生き残っていた甲河当主が米連側に出奔。そしてその後見人の立場であった虚の姉が、甲河傘下の有力戦力の多くを率いてその元に馳せ参じに行ってしまったのは、俺の親父のふうま弾正(だんじょう)がやらかした後の事だった。

 

  ふうまが割れ、次いで甲河が割れ、甲賀の対魔忍内での勢力は大きく衰え、今の伊賀の名門、アサギ先生率いる井河一派の一強時代になった。

 

  一勢力への集権は意思決定の高速化も期待できるから一概に否定もできないけど、今の状況は甲賀勢以外にも不満が蓄積されている。

 

  それはさて置き、彼女も俺と同じで名ばかりの指導者だと思っていた。だが、さっきまでの短い時間だったけど、自室で何か書類仕事をしていたみたいだし、アサギ先生と甲河とのパイプ役を果たしているらしい。

 

  魔眼に目覚めやすいふうまの当主の血筋でありながら、未だ開眼しない俺のことを「目抜け」と罵るけど、彼女は俺を「能無し」と呼ぶ。明らかに嫌われている俺が蛇子たちと彼女の家にいるのは、骸佐の反乱が関わっている。

 

  今回の一件で俺と蛇子、鹿之助でアサギ先生直属の独立遊撃部隊を創り、俺はその隊長として指名された。

 

  そしてその場に居合わせ、アサギ先生に反対意見を口にしたのが彼女、甲河虚だった。それに蛇子が噛みついたが、

 

 

  「二車骸佐を中心とした、ふうまの一部の謀反による被害は甚大であると予想されます。これに対し相応の罰もなく、実績のない人間に地位と戦力を与えるのは他の反発は必至、暴走する者も出かねないかと」

 

 

  被害を受けた側に立っての言葉で蛇子も黙り込むしかなかった。ただその罰の内容が処刑一択だったから、また噛みついてたが。

 

  兎も角、処刑云々は置いといて曲がりなりにも甲賀の一派閥の旗頭の言葉、俺たちと同じ年の学生でもあるが、アサギ先生でもまるっきり無視はできないようで。そうして出てきた妥協案が、

 

 

  「じゃあ、虚さんがお目付け役として遊撃部隊に参加すればいいわ」

 

 

  その一言で虚と、彼女といつも一緒にいる不良組も加わって、機動遊撃部隊はまずは六人からのスタートとなった。

 

  そしてリリコ発案で虚の家で親睦会となったわけで。リリコが勝手に冷蔵庫から取り出した高そうなケーキで皆で舌鼓を打って(俺の分だけ没収されたけど)、これならやって行けそうだと思って、

 

 

  「いいか、脳無し。今回のことを償う気があるなら早めに死ね。その方が対魔忍全体にとっての利益だ。任務中の殉職ということなら、残ったふうま閥の評判も多少は持ち直すように働きかけることも出来るから」

 

 

  不気味なほどに感情を映さない表情に、背筋が寒くなる。怒りも殺気も感じられず、だけど殺意だけは確かにあって。横で鹿之助が「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。

 

 

  「悪いけど、そういう訳にはいかない」

 

 

  今回の反乱は、俺の浅慮も大きな要因になっている。俺が当主としての責務を果たしていれば、今回みたいなことにはならなかった筈だから。

 

 

  「俺はふうまの当主として、骸佐たちを止めなきゃいけないんだ」

 

 

  アサギ先生に言われたように、逃げ続けていた責務を果たすんだ。

 

  けれど、俺の答えは彼女の望んだものではなかったのだろう。表情こそ動かなかったけど、露骨に舌を鳴らされた。

 

 

 

 

  ふうまの連中とバカ二人が帰った後、食器を片付けながら考えた。

 

  どうしてこうなった。

 

  反乱を起こした一派の、未然に防げなかった脳無し当主へ新しく作られた役職が与えられた。おかしい。

 

  それに反対したら目付け役として責任の一部をおっ被せられる立場にされた。おかしい。

 

  ああ、推測は付く。アサギが何を狙っているのか。私とふうまの脳無しをとおして甲河とふうまを接近させ、連立野党的な感じにして井河に対抗、以て井河一派の襟を正させ、対魔忍の運営の健全化を促したい、と。

 

  うん、そうね。確かにそれが成れば理想的だろう。だがアサギは分かっているのだろうか?まだ最終的な報告は上がってきていないが、ふうま造反組の被害はうちら甲河も受けている。死者重傷者が出てないって奇跡があればまだしも、やらかした連中と仲良くしろと、私が取り纏めろということだよな。

 

  そして何より、周りがアサギと同じ認識を持つのか。

 

  二度目になる反乱を起こしたふうまと、当主込みで大量離反やらかしたことのある甲河だぜ?

 

  多分、こう解釈して動く連中が絶対出る。

 

 

 

  『井河アサギが厄介者たちを一纏めにした、つまりはそう言うことだ』と。

 

 

 

  あったま痛えわぁ。

 

 

 





 感染症のせいで外出もままならない今日この頃、皆さま如何お過ごしでしょうか?どうも、郭尭です。

 色々と家のことでゴタゴタがありまして、随分長い間作品を放置してしまい、作品を楽しんで下さった皆様には実に申し訳ありません。ですが更新がないにも関わらず、感想を送ってくださる方もいて、再び筆を執る心持になりまして、まずは書きかけで止まっていた短編を完成させました。

  ブランクもあり以前ほどのクオリティが維持できているかは分かりませんが、これからも色々と書いていこうと思います。またご感想頂ければ幸いです。

  それでは今回はこの辺で、また次回お会いしましょう。

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総合評価:11788/評価:8.7/完結:23話/更新日時:2026年06月21日(日) 22:00 小説情報


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