サイバーパンクな世界で忍者やってるんですが、誰か助けてください(切実   作:郭尭

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第二話

  姉が殺されてから既に二年余り、最強の対魔忍と呼び声高い井河アサギとコンビを組んで一年余。この日ついにコンビ解散が決まった。

 

 

  「寿退社っすか。おめでとうございます」

 

 

  「いや、そこまで進めた訳じゃないから」

 

 

  コンビ、とは言っても実際には姉関係の監視役なんだろうけど、ながく組んでた相手が引退すことを決めた。結婚するから、ではなく恋愛に集中するから、という奇天烈な理由で。

 

  まあ、よくよく考えれば分からないこともない。正直こんな命懸けの仕事をしながらじゃ、真っ当な恋愛は難しいだろう。任務のタイミングとかによってはデートドタキャンなんてこともありそうだし。

 

 

  「それにしても、良く許可降りたっすね。何だかんだでアサギさんのこと手放なさそうな気がしますけど」

 

 

  正直そんなフザケた理由で退職できるなら、私も退職できんかな?まあ、お家のしがらみもあるから無理なんだけど。

 

 

  「まあ、お祖父様は難しい顔してたけど」

 

 

  そりゃあ、そうだ。こんな社会舐めくさった理由の退職届を出したのがよりにもよって自分の孫娘だ。まあ、本当に書類の形で申請したかは知らないが。

 

  まあ、兎に角私とアサギのコンビは、緊急のが追加されたりしなければ、次で最後になるそうだ。そんで次の監s、もといコンビとはこれから顔合わせである。

 

  アサギはOL風のスーツ、私は通っている中学のセーラーの上にフード付きジャケット。

 

  まあ、在り来たりな衣装ではあるが、素材が良いとやはり映える。

 

  漆のような長髪、日本人離れしたボンキュッボンなスタイル、切れ長で自信を滲み出させる目線。両サイドから出てる極細のツインテールは、チャーミングさをアピールしているのだろうか、ここだけは私の好みとは外れる。が、美人には違いない。監視されているのを、こんな美人といられる対価と考えれば、役得ということにしていた。だってその方が建設的だろう。

 

  私たちは対魔忍が組織としてのセーフハウスの一つに向かっている。使う足は電車。運賃が無駄金に感じるが、流石に相応の意味もなく、ましてや真っ昼間からビルの上をピョンピョンする訳にもいかない。

 

  目的の場所は、表向きは個室有りの料亭だ。私の格好が正直浮いてはいるが、こういう客も偶にはいるだろうから気にすることはないだろう、と思いたい。

 

  当然従業員も、戦闘員ではないがこっち側の人間。すぐに仕事の為の部屋に通される。

 

  そこにはすでに、一人の女性が寛ぎながら、湯呑みでお茶を楽しんでいた。

 

  赤紫っぽい黒の長髪、気丈さと穏やかさを同居させた美貌、そして何よりこう自己主張の激しい、たゆんたゆんとした有り難いもの。

 

  初めて会う人だが、この人物が私の新しいコンビだろうか。

 

  女性がこちらににこりと笑いかけてくる。私たちは会釈して、先に部屋に入るアサギに続き部屋に入り、彼女の対面に座る。アサギが「お久しぶりです」と改めて頭を下げる。この二人は知り合いのようだ。

 

 

  「甲川 虚ちゃん、ね。初めまして、水城 不知火です」

 

 

  素晴らしいお胸様の持ち主の自己紹介。ああ、スピンオフ作品のキャラじゃん。スピンオフのヒロインの母親で、エロシーンも出番も少なかった人物。

 

  ユキカゼはもう生まれてるよな?幾つだろ?

 

  自己紹介は必要ない。私のことは資料でも受け取って目を通しているようだし。

 

  次の仕事に関する命令書は彼女から受け取った。添付されている資料に目を通す。

 

 

  「……随分大がかりな仕事っすね」

 

 

  私、アサギ、そして今日会った不知火を含め、前線投入分の対魔忍だけでも二十七名が参加する、魔族の施設への襲撃任務。こりゃ、準備は念入りに、金掛けて、だね。

 

 

 

 

  甲川 虚は自身の能力に見合わない任務を受けることが多い。

 

  その原因の一つはアサギとコンビを組んでいたこと。対魔忍最強と名高い人物を、虚の監視だけに使っている余裕はなかった。

 

  二つ目に自身の不足を補う為にあらゆる努力を惜しまなかったが故に、能力以上の任務をこなし続けてしまったことにある。

 

  特にアサギとコンビを組んだ時期から、身長を含めて体が殆ど成長しておらず、間合いと筋力の不足に焦りを感じ始めた故に、その行動に拍車が掛かっている。このままでは身長が、同年代の平均に追い越されるのも遠くないだろう。胸のサイズだけだったら彼女も焦りはしなかったのだが。

 

  これを任務ごとに負担が増えていく悪循環と見るか、給料と経験値が急速に上がる好循環と見るかは人によるが。

 

  そんな彼女が、時折魔法やら反則染みた相手と渡り合う為に特に積極的に行った努力が、装備の高性能化である。

 

 

  「ヘリは中華連合が使ってるヤツと同じ型ですが、多分連中じゃないですね。あれ、色んな紛争地に売られてますし。降りてきてる連中の装備が良すぎます。お約束通り、軍籍分かる物はねこそぎ落としてるか……日本の中であれだけの兵隊動かせるのは、自衛軍がクーデターでも起こさない限り、米連しかいないでしょうね」

 

 

  多目的ゴーグルの望遠モードで、目標のビルに飛来した二機のヘリを見ながら、イヤホンマイクに報告していく。同時に傍にいる不知火は感心した様子で、アサギは虚の齎した情報を消化することに集中していた。

 

  東京にある、幾つかのスラム街。

 

  米連と中華連合の代理戦争であった半島紛争の際、数本のミサイルが日本に到達、甚大な被害を齎した。そして被害を受けた地区は当然再建が行われたが、全てが成功した訳ではない。予算などの問題で一部がスラム化し、浮浪者や犯罪者の溜り場とかし、更にはそれを隠れ蓑に魑魅魍魎が潜り込んでいることすらある。

 

  今回もそんな一例である。

 

  スラムと化した廃棄都市、その中のビルの一つに、大量の武器が密輸されてきた。

 

  無論、それだけならば対魔忍に話が回ってきたりしない。

 

  その武器を持ち込んだのが、表向き一大企業であり、地上に於ける魔族の一大勢力、ノマドであること。そして魔界の技術を用いた兵器が運び込まれたという情報があったからこそである。

 

  警備で名の知れた魔族が複数確認されていることもあり、多数の対魔忍が同時投入される予定だったのだが。

 

 

  「まさか米連とバッティングするとはねえ」

 

 

  苦笑いを浮かべる不知火。

 

  中華連合のものに偽装された、恐らくは米連らしき組織。別の場所で待機している対魔忍からの報告では、民間のトラックに偽装した集団がビルの正面に展開している。恐らく、ヘリの集団と同じ連中だろう。

 

  目的はやはり、魔界の技術だろう。

 

 

  「で、どうします?中止するなら、どっちにも気づかれていないうちの方が楽なんですが」

 

 

  予定外の勢力の介入。作戦中止に値するイレギュラーである。だが、第三勢力の目的を鑑みると、却って緊急性が上がったと言える。

 

 

  『各員は即時任務を開始せよ。一切の障害の排除を許可する』

 

 

  魔界の技術は、人類にとって毒となるものが多い。少なくとも、今の人類にとっては。

 

  そんなものを表の世界に出回らせる訳にはいかないのである。

 

  当然と言えば当然の判断。ならばこっちが楽に仕事ができるよう、盛大に混乱してもらうとしよう。虚はそう考え、背中のコンバット・ベルトに装着している細長い金属の塊を手に取る。

 

 

  「了解、屋上からの連中を撹乱します」

 

 

  金属の塊が変形し、多量の滑車を用いたコンパウンドボウになる。

 

  元々、敵勢力圏内での、遠距離からのサイレントキルの為に設計された装備である。数種類の金属板を張り合わせた強靭な弓幹を、滑車の力で膂力以上で引くことができる代物である。

 

  携帯している矢は三本、目的に合わせて鏃を換装できる構造になっている。コンバット・ベルトに装着したポーチには対魔族用の純銀製と、対装甲用の炸薬仕様の鏃が用意されている。

 

  皮肉かな、虚の使用しているゴーグル、ボウ、コンバット・ベルト、何れも米連から横流しされたものである。それが本来の所有者である筈だった者たちに牙を向けている。

 

  洋弓の照準器越しに狙うは、ヘリの姿勢制御用のプロペラ、テールローター。矢を引き絞り、エイミング。

 

 

  「射線、クリア。距離、270……。撃ちます」

 

 

  銃と違い、炸裂音もマズルフラッシュもない、遠距離からの攻撃。弓による狙撃は、手前に位置するヘリのテールローターを吹き飛ばす。メインローターの反トルクで回転を始め、下に展開していた部隊は流石によく訓練されており避難を開始した。

 

  姿勢制御ができなくなったヘリは、一時退避しようとした僚機に接触、互いにもつれ合うようにビルの屋上に墜落した。そして爆発。

 

  三つ巴の戦いは、派手な合図と共に始まる。

 

 

 

  ぅわぉ、すげえ爆発。実物のヘリってあんな派手に爆発するもんだっけ?

 

 

  「やり過ぎよ、虚。暫く情報部とは会いたくないわ」

 

 

  呆れた様子で、アサギはこっちを見る。いや、まさかもう一機を巻き込むとは予想しなかった。精々下の連中を何人か轢き潰してくれりゃ儲けもんくらいに思ってたが。

 

  情報部は、政府と相談して事件の情報操作などを担当する部署。断じて情報収集ではなく、それは諜報部の仕事である。

 

  きっとさっきの大爆発も明日には武装難民やテロリストが、何かやらかしたことになっているだろう。徹夜、頑張ってください。

 

  一矢を放ち終えた洋弓を移送モードに変形させ、コンバット・ベルトの後ろの部分に引っ掛ける要領で背負う。

 

 

  「まあ、これで米連も魔族も浮き足たつと思うんですよ。で、どうします?」

 

 

  とは言え、相手もやはりこんな仕事に出張って来るような連中だけはある。爆発に巻き込まれずに生き残った連中はすぐに屋内への退避を始めている。もっとパニクってくれれば、この後も楽ができたんだけどな。

 

 

  「他の人たちも動き出してるようだし、私たちも行きましょう。屋上の制圧は私がやっておくから、先に行ってもらえる?」

 

 

  元々私たち三人は、屋上から侵入する手筈だった。内部の情報が不十分だったこともあり、複数のチームで上から下から虱潰しにする予定だった。

 

  そしてアサギ達と自分が屋上を制圧するという提案。

 

  屋上の敵は昇降口に逃げ込み、戦うなら通路辺りになるだろう。長柄を扱う不知火には向かないと考えれば、妥当な判断だろう。

 

  そうと決まれば鉄火場だ。対魔忍恒例の移動法、ビルピョンピョンである。

 

  そして屋上、というか昇降口を私と不知火が強行突破し、アサギが始末するという手筈。だが、目標のビルのすぐ手前で予想外の出来事が起きた。昇降口で待ち伏せているだろうと思っていた敵が、あろうことかわらわらと出てきやがった。それも慌てふためいた、明らかに何かから逃げているようにしか見えない感じで。何人かは装備の一部が赤く染まっている。うわぁ、嫌な予感しかしねえ。

 

  昇降口から逃げる米連兵士を追うように現れたのは、武者甲冑風の褐色銀髪美女。武者甲冑ではなく、風をつけるのは肩の楯が如何にもな髑髏な中二仕様だったから、じゃあなくて胸当て部分が理不尽に小さい上にヘソ出しミニスカの痴女仕様だからだ。

 

  でも悲しいかな、女の対魔忍コスチュームも基本痴女仕様だ。故に対魔忍である私のこの赤白ツートンのハイレグ競泳水着っぽいコスチュームも痴女仕様なのだ。痴女仕様の上におめでた仕様だ。こんなデザインを正式に採用する政府はきっと変態の巣窟だ。いや、風聞通りの日本か。

 

  そんな痴女仕様のサムライ女は日本刀で身近な敵から、手当たり次第に膾にしていっている。米連の連中が逃げ出してきたのはこいつのせいか。

 

  そして技量がすごいのか、単純に力がすごいのか、斬った相手のパーツがえらいスピードで飛んでいく。

 

  まあ、あの銀髪が米連を昇降口から追い出してくれた分、突破はし易くなったか。銀髪の相手はアサギに任せれば……

 

  次の行動を考えながら、とうとう目標のビルへ向けての着地しようかというタイミングで、それは起きた。

 

 偶然か、狙ってか。銀髪が刎ね飛ばした首が私への直撃コースに。咄嗟に釵を抜いて弾いて見せたが、こいつが結構な威力があった。

 

  結果、私はあと一歩ビルには届かなかった。

 

 

  「……なんでかな~」

 

 

  いくら忍者が人間やめてる身体能力があっても空は飛べない。そういう忍術に目覚めない限りは。よって私は落ちるしかない訳で。

 

 

  「ちょ、仕方ないから虚は下の敵を掃除しなさいよー?」

 

 

  心配はなしですか、そうですか。まあ、どうとでもなるんですけどね?

 

  私は落下しながらも釵をビルの壁に突き刺す。そして僅かに勢いを殺して後転の要領で釵を壁から抜く。そして後転の際に下の様子を確認。後転っぽい動きを何度か繰り返し、適当な高さで壁を蹴る。目標は米連のトラック。

 

  民生用トラックに偽装した輸送トラックはレトロなテント式。申し訳程度のクッション効果を望んでその上にダイブ。テントは突き破ると同時に受け身でダメージ軽減。トラックの荷台に突っ込んだ私は、痛みに耐えながら立ち上がると、ずんぐりとした巨大な人影と対峙した。

 

  米連の試作強化外骨格、XPS-11Aボーン。既に旧式ながらその圧倒的火力と装甲で、対人兵装として今尚現役であり続ける性能。

 

  携行型ガトリングガンなんぞ気の狂った火力を持った相手と、私は見詰め合うことになった。

 

  やべ、どうしよう……

 

 


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