サイバーパンクな世界で忍者やってるんですが、誰か助けてください(切実   作:郭尭

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バレンタイン編2015

  注意、この作品には決戦アリーナのヴァレンタインイベントと、この作品の今後に関するネタバレが含まれます。

 

 

 

 

 

 

  私が対魔忍を抜けて何年か経った。

 

  元々姉の関係で居辛いものがあったこともあり、ノマドに実家を潰されたのを機に、私は里を抜けた。

 

  その後色々と放浪してたが、定職を離れると困るのが金だ。一応対魔忍時代に築いたコネでアレな仕事を受持ったり、知り合いに飯をタカリにいったり。

 

  そんな生活を続け、私はこの日ふうまの組織にタカリに来た訳で。

 

 

  「で、人のアジトのキッチンを勝手に使って何しているんだ、あんたは」

 

 

  「何って料理だろ?キッチンで理科の実験でもしてるように見える?」

 

 

  同じ甲賀の出のふうまとは色々と因縁がある。対魔忍裏切って、裏切る前の姉やアサギやらにボッコにされて逃げた連中だ。一部米連の保護下に入った連中もいる。色々な邪眼に目覚めることが多いのが一族的な特徴か。

 

 

  「それは見れば分かる。俺が言っているのは何故俺のアジトで、勝手に料理をしているかだ」

 

 

  ふうまのお館君は苛立たしげにこちらを睨みつけている。と言っても何時もの事だ。序でにこいつには何度か手を貸してやったり、仕事を受けた事もある。遭ったからと言って即戦闘って関係ではない。

 

 

  「金欠なんだよ。良いじゃないか、金持ってるんだから」

 

 

  「俺の組織の資金はお前の食事の為のものではない!」

 

 

  そりゃそうだ。ノマドや竜門、対魔忍も向うに回して裏社会のトップになろうって野心家だ。組織としてまだまだ規模の小さいふうまには、幾ら資金があっても足りないだろう。

 

 

  「だったらベルベットを返してくれ。アンタんとこにいってからタダ飯食えなくなって困ってんだよ、あいつの酒も美味かったし」

 

 

  「フン、恋人を奪われて悔しいか?俺の元に来れば一緒に相手してやってもいいぞ?当然食事もな」

 

 

  そういう関係じゃあないんだけどね。いや、タダ飯の代価でSM染みたこと偶にやってたから、ある意味似たようなもんだってのは事実かもだが、私はまだ処女だし。

 

 

  「ケチケチしない。同じ里の出じゃん。それより聞いたよ?今日はうちの姉とアサギ相手に何かの奪い合いしたんだって?あの二人が出てくるって何に手ぇ出したんだ?」

 

 

  「……単なるチョコの奪い合いだ」

 

 

  ……いや、バレンタインだからってその冗談はな~。

 

 

  「言う心算ないんなら別にいいさ。私に被害来ないならどうこう言う心算もないし」

 

 

  「いや、別に嘘ではないんだが」

 

 

  ふうまのトップ二人と対魔忍とノマドの二大巨頭がチョコ如きで動くかよ。それともチョコって隠語、何かあったっけ?

 

 

  「まあいいや、御自慢の執事君はその騒動でまだダウン中?」

 

 

  「ああ、部屋に運んで寝かせている」

 

 

  聞けば、お館君の異母姉でもあるふうまの執事、ふうま時子は途中まであの二人相手に追いかけっこしていたらしい。それは倒れもするよね。

 

 

  「そか。じゃあ起こしてきて。もう盛るから、晩飯」

 

 

  「待て、只でさえ勝手に人の所のキッチンと食材を勝手に使って、その上何故俺が更に小間使いみたいなことをしなければならないんだ」

 

 

  お館君は頭痛に耐えるかのように米神を押さえている。こいつ、野心が壮大な割にはこういう面では常識人なんだよな。

 

 

  「いいから。結構量作ったから、食材無駄になるぞ?」

 

 

  「人の金だと思って好き勝手を……」

 

 

  「だから執事君の分も作ったんじゃないさ。疲労回復にいいやつを。序でにお館君の分も」

 

 

  傍惹無人と思うなかれ。こんくらい面の皮厚くしないと、放浪生活は辛い訳で。それに所詮私も含めて皆犯罪者だ。気の毒に思う必要もない。

 

 

  「まあ、呼ばないんならせめて料理を並べるのを手伝って。今時仕事だけできる男はモテないらしいぜ?」

 

 

  「フン、家事ができることが男の価値ではあるまい。男の価値は……」

 

 

  「股間のソレか?偶には下ネタ以外の冗談も言え」

 

 

  下らない遣り取りをしている内にダイニングのテーブルに料理を運び終わってしまう。結局こいつは手伝いも、執事君を呼びにも行かなかった。しかも置いたばかりの料理の摘まみ食いまでしている。意趣返しの心算か。

 

  まあ、いい。ならこちらも一つからかってやろう。

 

 

  「しょうがない、執事君は私が起こしてくる。っと、その前に渡す物を忘れてた。ほら」

 

 

  部屋の横に置いていた自分のカバンから、一つの可愛らしくラッピングされた包みを渡す。

 

 

  「なんだこれは」

 

 

  「何ってチョコさ。しかも手作り。今日はバレンタインなんだぜ?姉さんとアサギさんと、お宅等がチョコの奪い合いする程チョコレートな日だ」

 

 

  「……お前がチョコだと?何の冗談だ」

 

 

  胡散臭い物を見る目付き。うん、私がチョコ作る訳ねーもんね。

 

 

  「お館君の妹さんからだよ、この前米連で仕事受けた時に頼まれたの」

 

 

  お館君の親父さんは対魔忍に負けた後、米連に保護され、妹さんもそのまま米連に属している。家族で敵味方になっているが、わざわざチョコを贈るんだから、兄弟仲は悪い訳ではないらしい。

 

 

  「それとも、私からのを期待した?」

 

 

  「馬鹿を言え、怖気が走る」

 

 

  だろうね。私は妹さんのチョコの包みを開けると、中のチョコを一つ摘まむ。匂いからしてボンボンかな?

 

 

  「今日の食材提供の礼として、お姉さんが食べさせてあげようか?」

 

 

  そう言って、チョコを咥えてお館君の服の襟を引っ張った。

 

 

 

 

  抜け対魔忍、甲河 虚。あのノマドの朧の妹にして、『妖鏡の対魔忍』。その顔が、文字通り目と鼻の先にある。チョコを咥えた状態で、ドブの様に濁った眼と、氷のような無表情で、口付できる位置に。

 

 

  「お姉さんだと?ゆきかぜと大差ない身体でか。第一お前俺より年下だろ」

 

 

  「……細かいな。いいじゃないか。雰囲気だよ」

 

 

  咥えていたチョコを自分の口に入れ、呆れたとでも言うような口調でそんなことを言う。人形のように動かない表情の中、濁った眼のみが感情を彼女の感情を覗かせている。

 

 

  「調子に乗り過ぎるなよ?俺はお前とビジネスパートナーでいる心算はない。今ここでものにしてもいいんだぞ」

 

 

  「今私の術を奪ってみるか?私相手にしてもあんまり意味ないぞ」

 

 

  こちらの挑発に、虚は良く見ねば気付かないくらい、ほんの僅かだけ頬を吊り上げた。苛立ちを覚えるような薄ら笑いだった。そのまま、互いに目線を外さず、俺達は睨み合った。

 

 

  「お館様、何をしているのですか?」

 

 

  ふと、後ろから声が聞こえた。振り向けば、何時の間に目を覚ましたのか、部屋の入口に時子が立っていた。

 

 

  「お邪魔してるよ、執事君。悪いけど君のご主人様を止めてくれない?流石にキッチンで裸エプロンでの初めてを強要されると、割と困る」

 

 

  「なっ、貴様!?」

 

 

  「お、お館様、相手を支配する為なのは分かりますが、場所は弁えてください!」

 

 

  クっ、この無表情女の言葉を信じてしまったのか、時子は眉を顰めて、とんでもない剣幕になっている。

 

 

  「虚!どういうつも……逃げるな!?」

 

 

  「いや、自分でやったとは言え君の執事君は怒ったら怖い。こっちに飛び火する前に逃げさせてもらうよ」

 

 

  そう言ってあの無表情女は窓から部屋を出た。後には俺と、怒りのオーラを滲ませる時子だけが残されていた。おのれ、謀られたか!

 

 

 

 

 

  何とか時子の誤解を解き、一息つけた俺は、自分の体が軽い空腹を訴えているのに気が付いた。捨てるのも勿体ないので、時子と二人で虚の残して行った料理を食べることにした。少し冷めていたが、それでも十分に美味いのが逆に腹立たしかった。

 

 

  「それにしても甲河の妹君と随分親しくなりましたね、もう少しでキスする所のようでしたし」

 

 

  随分と棘のある言い方だ。それでも虚の料理を口に運ぶのを止めはしない。まあ、美味い料理に罪はないからな。

 

 

  「親しくだと?あれが誰かと仲良くするような人間か」

 

 

  時子の言葉は見当違いも甚だしい。あの女は誰とも親しくはならないし、親しくなれない。他人を自分と対等の人間と見ることのない女だ。

 

  確かに俺達や、他にも虚と良く共にいる者は存在する。だが、どんなに親しく見える相手でも、あの濁った眼から放たれるのは、気に入った玩具や愛玩動物を見るソレだ。しないのか、それともできないのか。兎に角、あの女は他人を物としか認識していない。圧倒的な実力差を持つ、あのエドウィン・ブラックを前にしても、害虫に対する嫌悪感のソレしか覗かせなかった。

 

  あいつは誰も見てはいない。人の集まりの中で、尚孤独にしか生きれない。そんな奴だ。

 

 

  「まあいい。何れは俺の前に屈服させ、嫌でも俺しか見えないようにしてやる。あいつの忍術はブラックに対する切り札になる」

 

 

  今はまだ届かない。だが何れ、必ず手に入れてやる。

 

 

  「……所で、なんで更に不機嫌になってるんだ?時子」

 

 

  「知りません」

 

 

  ……やれやれ、どうやって時子の機嫌をどうにかしたものか。

 

 

 


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