サイバーパンクな世界で忍者やってるんですが、誰か助けてください(切実   作:郭尭

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第七話

 

 

  姉に襲われてから数日経ち、私は漸く自宅に帰ることができた。

 

  あの後人妻ーズに助けられたらしく、気が付いたら組織の息のかかった病院だった。そして数日の安静の後、包帯やテープに塗れた状態で戻ってきたわけだ。頭にはメロンとかを包むのにも使うアレに似た奴も被っている。鏡見てみると割と悲惨だわ。

 

  まあ、怪我の方もそうなんだが、その後対魔忍見習いのガキ共がお見舞いと言う名の襲撃を行ってきたのも鬱陶しかった。私のお見舞いって話だったのに何時の間にか私の任務の話を強請られてたし。怪我人に負担を強いるな。ガキか。いや、ガキか。

 

  ついでにこいつら対魔忍の仕事に憧れ持ち過ぎ。まあ、良い部分だけ切りだせば、アクション映画そのままな任務とかあるけどさ。

 

  兎も角、騒がしかった退院一日目を乗り切り、全く予定が詰まっていない二日目となった。この機会に積んだままになってしまっているラノベやゲームを崩しておこうと思ってたんだが、この日は昨日以上に厄介なお客が現れた訳で。

 

 

  「お願い!お姉ちゃん助けに行くの手伝って!」

 

 

  井河さくら、アサギの妹で私とは初対面なんだが、こいつ何で私の家を知っているんだ。多分アサギ経由なんだろうけど。

 

 

  「そこで何で私に声掛けるっすかね」

 

 

  初対面で敬意なんて微塵も感じていないが、一応年下だ。それでも表には出さない。一応謙ってしゃべることはしているが、態度に敏感な人間なら、それが見て取れただろう。

 

 

  「お姉ちゃんのパートナーやってたんでしょ?だったら結構強いんでしょ?」

 

 

  そりゃ、それなりに実力はある心算だよ?けどあんたの姉と比較するな。あんたの姉に殺された、うちの姉にフルボッコされる実力だぞこっちは。

 

 

  「無理、怪我人っすよ、私。それに勝手に動くのも問題っす」

 

 

  対魔忍は日本政府管轄下の、武力を保持した超法規機密機関だ。その扱いは立派な戦力な訳である、法律上認められていないけど。当然そんなもんが暴走すれば事な訳で。前回姉に襲われた時のような自衛以上の武力行使は原則認められていない。

 

  まあ、仕事の内容が内容なんで、ある程度勝ってしても、後から報告してその理由が妥当と判断されりゃ、追認されることもあるけど。そんなもん、私に出るかどうか、色々睨まれてる立場だし。

 

 

  「んじゃ、上に報告しましょう。アサギさんもう引退して対魔忍じゃない扱いだから、組織が動いてくれるか知らないっすけど」

 

 

  「言っても動いてくれる様子がなかったから虚ちゃんに所に来たんだよ!」

 

 

  あ、もう伝えてきたんだ。思ったより考えて動いてた?後年下だからって初対面でちゃん付けするなし。

 

 

  「だったら余計私は動けないっすよ。下手なことしたら実家にも関わってきますから」

 

 

  それはそれ、これはこれ、って訳にいかないのが政治の面倒なとこだ。現場にしわ寄せ来ない、私に迷惑かけないやり方なら好きにしていいけどさ。

 

 

  「むう、結局ダメってこと?」

 

 

  「って言うより私じゃ無理って話っす」

 

 

  それに、口には出せないけど、果たして助けに行くべきなのか、助けは必要なのか、だ。原作だとルート次第でこれからとっ捕まるさくらと一緒に勝手に脱出してくる。で、次の話でなんかデビルアサギみたいな感じのモードを手に入れてた訳で。これも含めて、助けてしまって大丈夫なのか、と。

 

  更に言えば少なくともアサギの捕まっている東京キングダムには少なくとも姉が、タイミング如何ではエドウィン・ブラックまでいる訳で。ついでにエドウィン居たらあの色黒の女剣士もだよな、名前なんだっけ?

 

 

  「もう、お姉ちゃん助け出せば文句も出ないよ。お姉ちゃんまだ対魔忍で人気あるんだし」

 

 

  まあ、成功すればね。でもかなりの確率で失敗して性交することになりかねんのがね。

 

  兎に角、私は行きたくない。行くとしてもちゃんと組織だった、人数掛けて作戦でも立ててもらわないと嫌だ。

 

 

  「兎に角、子供二人で行くにゃ無謀すぎるっす。大人しく偉い人らが動くのを待つっす」

 

 

  まあ、本当に大人しくされたら大丈夫か分からないから、焚き付けといた方がいいか。こいつの様子見るに、そんなことしなくても勝手に東京キングダム突っ込んでいきそうだけど。

 

 

  「うっちゃん薄情!今は新しいパートナーがいるからって、昔のパートナーはどうでもいいの!?」

 

 

  待て、なんだその、まるで私が古い女を捨てた浮気男みたいな物言いは。後だれがうっちゃんか。ダンスに現を抜かす相方持ったお笑い芸人か。

 

 

  「見捨てるっつってる訳じゃないっす、ちゃんとしたバックアップなしだと無駄死にしそうだって言ってるんすよ」

 

 

  姉一人でもこの前一方的に虐められたのだ。下手したらそれと同等と、それ以上の化け物がいる。それに他もどんな連中がいる事か。アサギで強キャラの印象のないレスラーっぽい連中だって、さて、私らと比べてどれくらいの実力か。

 

  あれ、一人やばいのが混ざってたっけ?

 

  兎も角、実力も見たことない上に、実戦まだな奴と二人で、とかマジで無理。

 

  そんな感じで言い争っていたら玄関のドアからブザー、また来客だろうか。事前連絡もなしで来るような知り合い、記憶にないんだけどな。

 

 

  「はいはい、どなたですか?」

 

 

  ドア越しに相手を尋ねる。まさか朧来てないよなと内心ビビりながら。まあ、今頃アサギを「あへぇ!おほう!」させるのに忙しいだろうから来るはずがない、と思う。

 

 

 

 

  甲賀の重鎮であり、私の実家でもある甲河家は、里を統括する甲河の分家である。

 

  歴史ある名家、って呼ばれるものに偶に聞く、本家分家というものがうちにも存在する。んで、本家を中心に、その血縁である分家が信頼できる部下みたいな感じで盛り立てていくってのが多分普通なんだと思う。この手の制度に詳しくないから、多分、だけど。

 

  で、甲河にも幾つか分家がある訳だけど、うちはちょっと特殊な立場にある。

 

  本家甲河より、うちの方が権勢を握っているのだ。

 

  何代か才能に恵まれない当主が続いた本家甲河家。それを最も近くで支え続けてきたのがうちの実家。その結果権勢が高まって行き、今里を采配しているのが実質うちって状況。まあ、信長の親父の代の織田家みたいな感じ。

 

  で、このまま行けばうちの次代、まあ朧の予定だったんだけど、頭首を乗っ取ることもできた筈だった、らしい。その為の政治工作もほぼ完了していたらしい。

 

  が、それも雲行きが怪しくなった。まあ、要はうちの姉である朧の裏切りが問題なんだけどね。

 

  朧が裏切る前、ふうまと呼ばれる(風魔ではないらしい)一族が対魔忍に対しクーデターを起こした。あくまで忍の中での権力闘争の一環だったから国も見て見ぬ振りしたらしいが、こいつらもうちと同じく甲賀の一族だったからからね。

 

  朧とか、甲賀の他の家系が鎮圧側に回ったこともあって、大事にはならなかったようだけど、当然身内から裏切り者を出した甲賀の立場は悪くなる。鎮圧に血を流したから、それ程の事にはならなかったけど。

 

  だけどそこに朧の一件だ。有る意味、粛清で禊を果たせたふうまの反乱と違って、これを解決したのは伊賀の出の井河の頭領の孫娘。つまりはアサギだ。甲賀は政治的にとんでもない失点をしてしまい、それを挽回する機会を伊賀に奪われる形になった。

 

  で、甲河の話に戻ると、元々時期頭領は朧が最有力だった。実力は文句ないし、もう本家の次代は私より年下で、余程の才能でもない限り時期的な問題で本家の次代は脅威足り得ない筈だ。

 

  そして朧の裏切りの後、うちの次代は私なんだが、裏切り者を出してしまって突き上げ喰らってるうちを次期頭領にしていいのか、という話が出ているのだ。

 

  私は別にいい。というより面倒だから他の人が頭領やってくれるなら文句はない。けどうちの親っつうか、家はそうはいかないようで、わざわざ人を寄越して私は甲河の隠れ里の実家に呼び出された訳だ。ノマド関係でなくて本当に良かった。厄度はあんまり変わらない気がするけど。

 

  私の実家はそれなりに大きな日本屋敷だ。というより隠れ里全体がやや時代掛かった雰囲気がある。まあ、切り開いた山の中にある村なんざ、今の世の中どれだけあるか。

 

  そして屋敷の一室で、私は久方振りに父と面を合わせた。

 

  話は、対魔忍組織から来た、次の大仕事に関して。親子らしい遣り取りはない。まあ、仮にやれと言われても私の方が慣れないけど。

 

  それはさて置き、次の仕事、東京キングダムのノマドのアジトを襲撃するというもの。さくらがアサギの救助を要請する前に、二人で独自に動き出していたらしく、その時にオークの情報屋から聞き出した情報らしい。

 

  つまりはカオス・アリーナ襲撃。

 

  アサギたちが自力で生還してきた後だったらいいな、動くの。ゲームは基本ストーリー飛ばしてたの、今では後悔してる。

 

  さて、この仕事に関して、組織として参加するのとは別に、甲河頭領の娘としての仕事を与えられた。即ち、姉を殺せ、というものだ。身内の恥は身内で、であってるのかな?この場合。

 

  兎も角、うちの親はまだ自分の家系で頭領連荘する気まんまんってことだ。

 

  内心はかっ怠くて仕方ないが、表では謹んで受けてきた。一応、親ではある訳だし、育ててもらった義理ある。ただ、作戦実行までは時間があるらしく、実家に二日ほど逗留することになった。無論、家族の交流のためではない。里の他家との交流に乏しい私のPRのためだ。

 

  で、あちこち挨拶回りに行って、ようやく落ち着けたのは日が沈んでからだった。

 

 

 

 

  虚にとってノマドもエドヴェン・ブラックも、そして甲河の家もさして意味があるものではない。ただ、自分を育ててくれた両親に、人として義理を感じなければまずいだろうという一応の良識に沿って、親の敷いたレールに従っているに過ぎない。

 

  そんな彼女にとって、親の野心は面倒くさいとしか感じない。彼女にとって所詮作り物の世界であり、作り物の他人なのだ。殊更何かに、誰かに欲するほどの価値を見出せないでいるのだから。

 

  そんな彼女に、父親は積極的に里の子供たちに接触させていた。彼女の同世代、及び下世代の世代の評価はきれいに二分される。即ち裏切り者の妹か、現在最年少の現役対魔忍、である。

 

  政治的な理由も含めて、親の意思で虚と関わりを持たない子供はいるが、それ以外からはちょっとしたヒーローなのだ。今の内に築いた交友は将来の布石となる。無論、今仲良くなった所で、将来味方でいるとは限らない。それでも無駄とは言えない。大人とは感情だけで誰かの味方になれる者は少ないが、感情だけで誰かの敵となれるものは意外といるのだ。

 

  将来の敵を減らし、運が良ければ味方も増やせる。形になるのには、大分時間が掛かるだろうが。

 

  そんな子供の面倒を見て、更には政治的にあちこち回り続け、虚は大分精神的に疲弊していた。

 

  その疲れを癒すために、虚は一人山から流れる小川に来ていた。だが、疲弊は彼女の想定以上だったらしい。自分に向かってくる気配に気付いた時には、かなり距離が縮まっていた。

 

 

  「妙な感じだな。野犬や狐か?にしちゃあ……?」

 

 

  気配は人間のものより、動物のそれに近いと感じた。敵意とも違う感じ。見られているのは分かるが、場所が分からない。

 

  まるで観察されているような感覚。もし、虚が『この世界の人間』を『人間』として見ることができれば、警戒と不安を感じ、里に戻っただろう。里の戦力を壁として利用するために。

 

  だが虚にはそれができない。彼女は今、『原作本編に出番すらないだろう、モブキャラ』に品定めされているのだ。『モブキャラである親』の命令で『モブキャラである子供たち』の相手をして疲れている上でこの状況である。

 

 

  「うぜぇ……」

 

 

  不快感からくる苛立ちが勝ってしまっていた。とは言え、頭に血が上り切った訳ではない。自身と、気配の相手に関して分析もこなしている。

 

  気配の隠し方、感じ方からすれば、格上という程のものではない。仮に正面からやりあっても、勝負にはなるだろう。

 

  虚自身にしても、朧の襲撃の時と比べれば大分状況が良い。ここに来る前に動き易い服に着替えているし、ギミックブーツはないが棒手裏剣と釵は持って来ている。更にこの場は彼女、甲河のホームグラウンドである。地形や対侵入者用の罠の位置も把握している。

 

  彼女としては珍しく、自分から動くことにした。手の届かない敵なら逃げていただろう。冷静なままなら相手にしなかっただろう。幾つもの些事の積み重ねが、彼女を攻撃的にしていた。

 

  まあ、そもそも彼女がこの世界の人間を人間として見れていれば、そもそも起きえなかったことでもあるが。

 

  ともあれ、虚は釵を取り出す。そして気配の正体を見つけるために歩き出した。

 




  雨が梅雨並みに多い気がする今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか?どうも、郭尭です。

  今回はアサギがアヘアヘしている裏での出来事です。一応時間軸的には本編中なのですが、作品の内容が内容だけに、余り戦いの数がないので、割とあっさり終わりそうです。

  尚、原作やってる方は分かると思いますが、拙作に於いて甲河関連の設定が、原作と違います。まあ、原作通りならそもそも主人公が話に関わる理由がなくなってしまいかねないので。

  そしてアリーナに向かうまでは、恐らくあと二話ほどかかりそうです。

  それでは今回はこの辺で、また次回お会いしましょう。


ちょっとまずいミスがあったんで修正しました。半分寝てしまってるような状態で文を書くのはいけませんね。

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