兎くんにラブ(エロ)を求めるのは間違っているだろうか   作:ZANKI

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01. 女神ヘスティア

「ベル君、ベル君、ベル君、ベル君、ベル君~~!」

「うわぁっ、神様~~?!」

 

 白兎のような白髪紅眼のあどけない少年は、小柄な女の子に今日も熱烈に抱き付かれていた―――。

 

 

 

 『天界』に一人のちっこくて可愛らしい幼顔の女神さまがいた。

 名はヘスティア。

 自慢の大きな胸を隠すことはなく、いやむしろ誇るようなデザインの真っ白なワンピースに『超神力な紺のヒモ』の装飾がついた服装。

 そして長い黒髪は、腰まで届くツインテールで。

 

 その女神さまには、結局『天界』でこれと言った『出会い』が無かった。

 『出会い』と言っても、彼女はここに『男女の出会い』を求めていた訳では無い。まあ、眉目秀麗な男神達からお付き合いを求められたり、求婚されることはかなりあったが。

 そうではなく、只々夢中になれる楽しみを見つけたかった。

 そして彼女は『天界(ここ)』は違うなと思うようになる。

 

(よし! 下界に降りてみよう)

 

 そうして彼女は『下界』へ、ダンジョンの上に建つ迷宮都市オラリオへとやって来た。

 

 『天界』では『神の力(アルカナム)』により、何もしなくても不自由無く暮らせていたヘスティアだが、『神の力』が禁止されている『下界』では不慣れな状況になった。

 『下界』で暮らしていくためには、ヒユーマンや亜人(デミ・ヒューマン)同様『お金』が必要である。

 このヘスティアという女神さまは、目標がないと頑張れないタイプのお方だった。

 彼女は『天界』で親交のあった女神のヘファイストスを頼る。そして随分の間(下界時間で)、頼り切っていた。

 ヘファイストスは、右眼に重厚な眼帯をした短めの赤髪に赤眼の容姿。武器や防具、工具などの名品を作り出せる鍛冶能力が優れた女神だ。ヘスティアが『下界』へ来る結構前から迷宮都市オラリオに住んでいる。

 基本『下界』へ降りた神々は【ファミリア】と呼ばれる『神の恩恵(ファルナ)』を授ける契約を結んだヒユーマンや亜人ら眷族に養ってもらうのが一般的だ。

 勤勉な女神ヘファイストスは、すでに多くの眷族を持つ大きな【ファミリア】を持っていた。そのため、ヘスティア一人を養うことなど造作もない事であった。

 だがある日、ヘスティアはヘファイストスの元から叩き出されていた。

 『下界』へ降りた当初は、あちらこちらを見て回って眷族に相応しい子に声を掛けていたヘスティアだったが良い反応がないのに消沈し、いつの日からか本を読みふけり、ぐーたらとずっと部屋へ引きこもっていたのだ。

 ヘファイストスは働き者の女神でもあり、情けない友神(ゆうじん)を見るに見かねての行動である。

 

「働け」

 

 そう一言のみ言われて、ヘスティアは寝袋と僅かなお金のみを渡されて【ヘファイストス・ファミリア】の門戸から締め出されてしまった。

 

(なんてこった……)

 

 当初は呆然とし、続いて門番のいる門の前で『ボクを見捨てるのかーー!』を喚いていたヘスティアだったが、ヘファイストスの職人気質で面倒見もいいがその反面厳しさも知っており、結局あきらめてトボトボと移動を始める。

 自慢に全くならないが、自分が能力神としてはへっぽこな部類だとの自負がある。ヘファイストスのような得意なものや技術があるわけでもない。

 ただ彼女は他からみれば『天界』でも『ロリ巨乳』で知られる可愛らしい幼顔と姿をしていた。『下界』でも同様に見える訳だが、これまでそれを餌や武器にすることは一度もなく、また本人としてはそれほど気にする事項でもなかった。

 有り金を確認すると七日程を暮らせそうな額しかない。住むところも無い。

 

(……神が野宿の上で、の、野垂れ死に?)

 

 さすがにイヤだ。

 彼女は追い込まれていた。

 食い放題、持ち帰り放題の『神の宴』でもないかと思ったが、住処(ホーム)がなければ招待状はこない。やってられない。

 もはやまだ日が高い今日のうちに、初心者でも可能な何かの仕事を探さなければと、管理機関(ギルド)のある都市中央へと足を向ける。

 『下界』へ降りてそれなりに経つが、眷族探しはしたものの彼女にとって仕事を探すのはこれが初めてだったりする。

 管理機関(ギルド)には『下界』へ降りた初心者な神向けの相談所もある。ギルドの管理内容にはこの都市に住む神々も含まれているのだ。

 とりあえず、遠目にギルドにある一般向けの求人掲示板を見てみる。

 ここ迷宮都市オラリオでは小さな【ファミリア】持ちの神達も普通に働いており、賃金もヒユーマンや亜人と変わらない。

 

(えーと、楽な仕事はないかな)

 

 そんなのある訳がないのだが、求職初心者で引きこもりだった彼女はそう期待する。

 ヘスティアの筋力は小柄な女の子でもあり『神の力』を使わなければ普通の人以下だ。可能そうなのは皿洗いに、掃除、売り子……ぐらいが確認できた。

 

(……キツそうだし、時給安っ)

 

 ヘファイストスの【ファミリア】で一時貰っていたお小遣いより、日給換算が安いというその現実。

 

(ムムムっ……)

 

 厳しい顔と眼光で掲示板を睨む。

 とてもどこか蜘蛛の巣の張った屋根裏部屋ですら、借りれるような状況では無い。『野垂れ死に』の映像(ビジョン)が彼女の頭を過った。

 

(うん、明日の求人掲示板に期待しよう!)

 

 まだまだ就労意欲についてはダメな女神さまであった……。

 

 

 

 一応賃貸の掲示板にも目を通したあと、管理機関(ギルド)を後にしたヘスティアは、街の中にも偶に張り出されている求人掲示板や賃貸情報にも目を通したが収穫はなかった。

 少し日が傾き始めたころ、彼女は都市郊外の市璧近くの林に隣接する廃墟の軒下に腰かけていた。

 街中の露店で一つ買ったジャガ丸くんを可愛く頬張る。すでにかなり冷めている。

 空しい。

 時間を掛けて食べなければお腹もすぐ減りそうだ。喉も乾いた。水の確保も考えなくてはいけない。

 

(……生きるということは大変なんだね。うん、退屈はしなさそうだ)

 

 ヘファイストスの屋敷では、だらだら寝て過ごしていても労せず暮らす為のものが手に入った。よく考えれば『天界』に居た時とあまり変わらなかったのだ。

 

(じゃあ、少し頑張ろうかなぁ)

 

 そんなヘスティアの次の行動は寝床の確保であった。

 寝袋はある。あとは場所だ。

 ふと彼女は背から下ろしていた寝袋の中に、巻かれた羊皮紙が入っているのを見つけた。

 取り出して開いて見る。

 

『この建物の奥にある本棚の隠し扉から進む、地下の小部屋で寝ろ』

 

 地図には矢印が入っており、その一文がヘファイストスの筆跡で書かれていた。

 何やら行動が見透かされている餞別のような気もしたが、背に腹は代えられないという状況である。ヘスティアは地図に従い道を進む。

 今いる場所から割と近い場所であった。

 そこは廃墟となった屋根の落ちた教会。もう随分前から使われていないように見える。正面の壊れた扉から中に入り地下への入口を調べると、祭壇の先にある空の本棚の並ぶ小部屋があった。その奥の棚の裏に地下への階段を見つける。

 薄暗い中を降りていくと扉があり、開くと部屋があった。木机とその上に小さな魔石灯が一つ置かれていた。

 

(う~ん、厳しく追い出した割に優しいなぁ)

 

 こうして女神ヘスティアはホームをゲットした。

 とはいえ、定職にはしばらく付けず、ヘファイストスにタカる状況はまだ続くのだが。

 

 

 

 そんな時に間もなく出会うのである。運命の白い髪で紅目な兎くんに。

 

 

 

つづく

 




2015年06月13日 投稿

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