兎くんにラブ(エロ)を求めるのは間違っているだろうか   作:ZANKI

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10. 『神の小刀』と教会の『遺物』

 こう連続すると、もう偶然とは思えなかった。

 朝、ベルが目を覚ますと、またもヘスティアが彼の胸へ幼顔を可愛く寄せる様に掛け毛布の中で寝ていた。

 

(―――か、神様?! また僕の上で寝てる~)

 

 もちろん彼女の程良い弾力の大きな胸も柔らかい太腿も、彼のお腹や足へと押し付けられているかのように、重力の助けも借りて少年の体に密着(フィット)している。

 彼は顔を赤くし、驚きで一瞬目を見開いたが、ヘスティアのその幸せそうで穏やかな表情を見て……何故か落ち着いた。

 ちっこくて、温かくて、柔らかくて、とてもいい匂い……その事に自然な安らぎを感じていた。死の淵ですら、気力の元になってくれる神様なのだ。

 

(神様……、ありがとうございます)

 

 彼も多感な年ごろなため、とっても女の子的な身体つきの神様とのスキンシップはドギマギしてしまうが、少し恥ずかしいだけで嫌という感情は全く感じない。

 思わず、神様の頭をナデナデしてしまう。

 

(べ、ベル君~~~~~~~~♡)

 

 ヘスティアは―――もう起きていた。

 少しまどろみの中を、少年の胸の中で朝の時間を存分に楽しんでいたのだ。

 しかし、愛しい眷族からの思わぬ『ナデナデサービス』に彼女の顔が徐々に赤くなっていく。

 そして嬉しさのあまり、ベルの胸に幼顔をスリスリしてしまっていた……。

 だがここで。

 

「さて、起きなくちゃ」

(………クッ、時間よ止まれぇ~~)

 

 『ベル君ベッド』と『サービスタイム』は共に唐突な形で終了時間となった。

 

 

 

 彼女の基本的ぐーたらは変わらない。本人は頑張っているつもりでも。

 ベルがベッドを後にして、部屋の掃除や朝食の用意が終わった頃に、ヘスティアはもぞもぞと起き始める。ホームの主な家事はほぼ彼頼みである。

 昨晩、神様はまだ怪我や疲れが残っているとして、少年へベッドで寝る様に申し付けていた。ベルとしては、眷族の自分が普段神様が寝ているベッドを何度も気安く奪って寝るなんて畏れ多いと考え辞退しようとした。

 そこで、ヘスティアは『ボクも少し離れて横で寝るから気を遣うなよ』とニッコリ笑顔で申し送り、少年をまんまとベッドへ引きずり込んだのだ。

 特に何もなかったものの、『一晩中、男とベッドを共に』という一応の既成事実。

 また今晩から数日、ホームを留守にする予定の為、『ベル君としばし離れ離れ』なのもそうした理由の一つと言えよう。『ベル君の温もり』を蓄えなければと。

 

「おはようございます、神様」

「おはよう、ベル君」

 

 神様は顔を洗って目を覚ますと、朝食の並べられた席へ着く。

 

「この後、今日もダンジョンへ行くのかい?」

「はい……。えっと……ダメですか?」

 

 少年は少し複雑な表情を浮かべる。辛くて苦い想いをしたけれど……輝かしいあの冒険者に追い付きたい、そして神様には沢山恩を返したい。そんなベルの考えは変わらない。上目づかいで神様へ訴える。

 

「うっ、……体調の事もあるし、今日は早めに切り上げるんだぞ。まだ無理は厳禁だからね」

「は、はい! ありがとうございます、神様!」

 

 少年は、神様の方を向いてとても嬉しそうにニッコリと微笑む。

 ヘスティアはキュンとしてしまう。

 昨日朝のヴァレン何某の件は、とても怒りを覚え不愉快なのだが、可愛く愛しい眷族の考えは尊重してあげたい。

 ヘスティアは、この彼の笑顔がずっと見ていたいのだ。

 

「それとベル君。昨晩話したように、友人の開くパーティーに今晩から参加するから。悪いけれど、もしかしたら数日留守にするかもだけどよろしくね」

「はい、大丈夫です、神様。楽しんできてください」

 

 神様に色々迷惑を掛けている思いもあり、ベルは気持ちよく了解する。

 そして食後に、二人はニコニコと並んでシンクロ歯磨きをしたあと、ベルはホームからダンジョンへと向かう。

 

 彼は途中、先日食い逃げの様に店を飛び出して、代金を払い忘れた酒場『豊饒の女主人』へ立ち寄り、平謝りして代金を払い許してもらった。

 シルを始め女将のミアらも気持ちの良い人物で、感心されてしまいベルは逆に恐縮してしまう。まあ、恐怖の女将へ正面から謝りに来る気概を買われたというところか。

 そしてその、大柄なドワーフ女将のミアはベルへ「最後まで二本の足で立ってるやつが一番なのさ」と告げた。他にも励ましのような言葉を貰った。

 彼女は元冒険者だとシルから聞いており、貫録の雰囲気から元は一級冒険者だと思えた。あの獣人の青年の言葉も一つの意見……余り気にするなと言うこと。

 元上級冒険者の彼女の言葉で、少年の気分は大分軽くなっていた。

 同時に一瞬胸を過る。

 ヴァレンシュタインが、冒険者に対してどんな考えを持っているんだろうか……と。

 

(いつか聞いて見たい。僕が――もっと強くなった時に)

 

 ベルは、シルから貰ったお弁当をバックパックに仕舞うと、「行ってきます!」と言ってダンジョンへと元気に駆け出していった。

 

 

 

 

 

 夜になり、『ガネーシャ主催 神の宴』が始まる。

 色々な神が集まってきていた。

 だが、彼らの多くは『天界』に飽きて、この『下界』へと来ている。

 普通の神達とは―――いささか違っているのは必然と言えよう。

 故に宴を無視して一切顔を出さない神もいる。

 『神格者』を求めるのはお門違いということだ。

 

 只、共通するのは―――楽しみたい。

 

 そういった欲望にまみれている。

 それでも彼らは『神』なのである。

 そして、ヘスティアもその一神なのだ。

 

 主催神のガネーシャは、浅黒い肌に引き締まった肉体を持つ男神。そしてイケメンな顔に『象の仮面』を被っていて、些か自己主張の強い神と言える。

 大規模な【ファミリア】で稼いだ膨大な貯金を投入し、三十M(メルド)程の自分の像もそびえ立つ巨大な建築物を建ててしまっていた。

 口癖も概ね「俺がガネーシャである!」に終始する。

 どうやら彼は『自分の存在のアピール』を大事にする一方、『個や群れを集める』ことに楽しみを見出している模様だ。三日後に行われる毎年恒例な、他の【ファミリア】らが協力するフィリア祭もその一環。

 

 今日はそのどデカイ建築物に神々を招いての盛大なものだ。他の神々に対して自分が『下界』でこれだけ楽しんでるぞとアピールする意味でも開いている。

 

「本日は良く集まってくれた皆の者! 俺がガネーシャである! 今回の宴もこれ程の同郷者に出席して頂きガネーシャ超感激! 愛してるぞお前ら! さて積もる話もあるが―――」

 

 ガネーシャが挨拶をするそんな中、ヘスティアは宴会場内で一つの大きな決断を実行していた……。

 持参したタッパだけではあき足らず、見つけた小さめな木箱にまで詰め始めていた……宴の為に並べられていた料理や果物を!

 勿論、持って帰るための背負子(しょいこ)は別の場所に確保済だ。

 そのアサマシイ有様は、もちろんドン引きなのだが男神や、もちろん女神にも関心のない彼女は取り繕う必然性を全く感じていないため、止められるまで作業に没頭している。

 初めからそのつもりだったのか、ヘスティアはドレスなど着て来ていない、普段通りの白いワンピース姿であった。

 そして並行して、口の中にも入れていく。それは味見とも言えよう。

 

「何やってんのよ、あんた……」

 

 聞き覚えのある声が掛けられ幼顔の女神が振り向くと、燃えるような紅い短めな髪と真紅なドレスのヘファイストスが立っていた。

 いつものように右眼へ大きめな黒い眼帯をしている。左目が呆れた風な瞳でヘスティアを見ていた。

 

「あっ、ヘファイストス!」

「久しぶり、ヘスティア。元気そうで何より……でも、もっとマシな姿なら嬉しかったのだけれど」

「いやぁ良かった、居たね。来て正解だったよ」

 

 ヘファイストスはヘスティアの言葉に、何か要望があるのを感じ取る。

 これほど必死に無料提供品をガメているのだ、要求はうかがい知れる。

 

「1ヴァリスも貸さないからね」

 

 彼女はそう冷たく言い切る。

 だが、これでもヘファイストスは、ヘスティアを見守っている。ヘスティアには、まともに働いて欲しいと考え続けている。

 

 そうしないと―――本ばかり読んでダメダメなモノになってしまうからだ!

 

 今の所、バイト先などの誘導に成功している。

 もともとヘスティアの自活力は底辺なのだ。一人では生きていけない程の……。

 とは言え、馬車馬のように働かすのは可愛そうとも考えていた。

 その証拠に、先日の爆発事故についてその日の内に知ると、密かに宿屋の費用と、道具屋のハイ・ポーション代と、露店の賠償額の半分以上を肩代わりしていたのだ。

 ベルが後日、宿屋と道具屋へ行くと、「もう、いいから、いいから」と言われていたのだ。

 ヘファイストスとしては、それらの額はお見舞代わりな余裕のポケットマネーの額だ。彼女は、面倒見が凄く良いと言える。

 だが、面と向かって金銭で『手を貸す気』を見せるつもりは全くなかった。

 そんなヘファイストスだが、ヘスティアの雰囲気の変化を感じる。

 

「お金はいらないよ。今はおかげさまでなんとかやっていけてる! ――別のことさ」

 

 ヘスティアは、今は神友の懐は狙ってないと告げた。

 しかし、ヘファイストスはワザと、タッパへの詰め込み持ち帰りについてをどうなのかとツッコミを入れる。彼女が困ったヘスティアの対応を楽しんでいると、後ろから声を掛けられる。

 

「ふふ……相変わらず仲が良いのね」

「え……フ、フレイヤ!?」

 

 ポカンと口を開けるヘスティア。

 群を抜いて美しい神がそこに立っていた。

 白雪を思わせる、きめ細やかな白肌。細長い肢体はいずれも魅惑と色香で出来ているかのよう。そのくびれた腰から上下に膨らむ胸とお尻等は、完璧な黄金律で描かれていて完璧なプロポーション。

 ドレスは、胸元が空いていて金の刺繍が施されている。

 目元はまつ毛が長く、目は紫の涼しげな切れ目。相貌は後光が見えるほど凛々しい。

 同じ女神ですら、直視すると吸い込まれそうな魅力を称えている。

 彼女はどうやらヘファイストスと会場内を回っていたらしい。

 ヘスティアは彼女が『キライ』だ。

 それはフレイヤの魅力が、無理やり『美の神』への興味を持たせようとするからだ。特に今は、ヘスティアには『ベル君』がいるのもある。

 加えて、『美の神』達は一様に食えない性格をしている。まず近付かないに限る。

 

「ボクは君のこと、苦手なんだ」

「うふふ、貴方のそういうところ、私は好きよ?」

 

 ヘスティアは少し違和感を覚えた。言葉にはトゲを感じなかった。つまり友好的であると言える。

 

 ――何故だ?

 

 『天界』でも彼女に相手にされたことはないのだ。ヘスティアは美しい女神の中でも器量は上位に入るほどだが、ダメ神であり、気に掛けるほどの存在でもないはずなのだ。

 そのヘスティアへフレイヤが声を掛ける理由が―――って。

 

(まあ偶然かな……ヘファイストスもいるしね)

 

 理由があったことをヘスティアが知るのは先の話である。

 

「おーい! ファーイたん、フレイヤー、ドチビー!」

「……もっとも、君よりもずっと大っ嫌いなやつが、ボクにはいるんだけどねっ」

 

 フレイヤの相手はそこそこに、『ドチビ』とぬかした朱色の髪と朱色の瞳の黒いドレスを着たロキにヘスティアは振り向く。

 

「何しに来たんだよ、君は……!」

 

 髪を後ろで簡単に括る頭二つほど高いロキとにらみ合うも、四人の女神は再会の挨拶から、ヘファイストスやロキの【ファミリア】の話へ移って行く。

 そこでヘスティアは、ロキへヴァレンシュタインについて一つ教えろと迫る。「付き合っている男等はいるのかい?」と。

 ロキが「おらんわい、近付く奴は八つ裂きや!」と答えると、ヘスティアは「チッ!」と盛大に舌打ちする。

 彼女としては、ヴァレン何某に男がいれば、ベル自身を奪われることは無くなり安心なのにと。あと、本当はもう一つ「どんな性格のヤツか?」とも聞きたかっただが結局聞かず。まあ、ロキも素直には教えてくれないだろう。

 そのあと、ロキがドレスも買えない貧乏なヘスティアだとからかうと、ヘスティアは胸の無いロキが無乳をドレス姿で周りに知らしめてると反撃して大ゲンカになった。

 掴み合いになるも、その合間に大きく揺れる幼顔の女神の胸を見て――ロキが敗北する。

 ロキが泣きながら去るのを見て、フレイヤは「ロキは『天界』より丸くなった」と言う。『天界』では暇つぶしで神達へ殺し合いを吹っかける殺伐とした神であったらしい。『下界』に降りて眷族らと暮らし、それらが大好きで楽しいからだろうと。

 ヘスティアもそれは理解できるというと、ヘファイストスがヘスティアの入団したという眷族の髪の色や瞳の色と人種を確認した。

 横でそれを黙って聞いていたフレイヤはその直後、満足そうに会場を後にする。

 それを機に、ヘファイストスも帰るかとヘスティアへ聞くが、そこで幼顔の女神は真剣な表情でヘファイストスに言う。

 

「この宴に来た本当の理由はヘファイストス、君にお願いをするためなんだ」

「……私の懐は食い荒らさないって、さっき言ってなかったかしら?」

 

 ヘファイストスは、厳しい表情になって痛い所を付いて来るが、ヘスティアは反論する。この友神に愛想をつかされてしまうかもしれないけれども。

 

「そのお願いは、お金じゃ買えないものなんだよ。君にしか出来ない事なんだ」

 

 そのヘスティアの真摯な表情にヘファイストスは左目を細める。

 

「……… 一応聞いてあげるわ。言ってみなさい」

 

 『ベルの主神』(ヘスティア)はお願いする。

 

「ベル君にっ……ボクの【ファミリア】の子に、武器を作って欲しいんだ!」

 

 

 その場では断られるも、ヘスティアは絶対に諦めなかった。

 ヘファイストスにもその気持ちが分からなくはない。子たちは大事だ。

 結局、その願いは三日に渡って、ヘファイストスのホームにまで何度も押しかけて、真剣に拝み倒し続けて、土下座までして漸く『受理』される。

 ただし、長大なバイト契約による膨大なローンを組まされて……。

 そしてそれから、また半日と女神が二神掛かりでのカンズメ制作作業が待っていた。

 

 

 

 

 

 ベルは上層のダンジョンから白亜の巨塔『バベル』の地下一階へと帰って来た。

 あれから丸二日が過ぎている。

 その間少年は、無理をせず4階層までしか下りなかったが、確実に強くなっていることを実感していた。

 色々な箇所で色々な戦いをし、それなりに多くの状況を経験出来たように思う。

 その中で先日よりは明らかに周りが良く見えて戦えているので、戦術の幅もそれなりに増やせたと考えれた。彼はバックパックをも駆け引きの道具に出来ていた。

 一方で、神様の不在が寂しくあり少し不安でもある。

 まだ二晩であるが、一人で「おやすみなさい」と言って寝るのはやはり寂しかった。

 いつも元気で、明るい神様にいろんな意味で救われていたと改めて知る。

 

(そのためにも、僕は頑張らないと!)

 

 この階層にはシャワー室等の他に、今上がって来たダンジョンへの大穴を中心とする巨大な円形空間がある。

 それは何千人も同時に入れるほどの広い空間だ。

 その空間で、ベルの目に移送用カーゴが目に入る。よく見るとそれにはモンスターが積まれていた。

 

(……?)

 

 周囲から流れ聞こえた冒険者達の話では、近日行われる神ガネーシャによる『怪物祭(モンスターフィリア)』の為に集められたと言う。

 ふと、そのカーゴの傍にセミロングなブラウンヘアーのエイナを見つける。もう一人のギルド職員と確認の仕事をしている様子。

 どうやら、このモンスターの運搬はギルド公認みたいだ。

 ベルはまだこの都市へ来て間がなく、慣例行事を知らなかった。

 

(詳しい話を聞きたいけど、今は邪魔だよなぁ)

 

 そう思い、少年は地上のギルド本部へと換金に向かい、それを済ませると今日のハズな神様のバイト先の露店に行ってみる。

 すると店長が、神様が三日前にふらりと来て『次は用事で休む』と言って去って行ったと教えてくれた。ベルはお礼を言って立ち去り移動する。

 そして夕暮れに赤い北東のメインストリートを一人歩く。この通りは武器屋や酒屋、道具屋等が立ち並んでいる。

 

(神様は今日も帰って来ないのかな……)

 

 そこで偶然、神のミアハに出会う。

 ベルはヘスティアについて尋ねるが「見当もつかない」と言われガックリする。目の前の神は、ガネーシャの【神の宴】へ行ってないと言うし尚更だろう。

 この神の【ファミリア】も零細であり、当日商品調合の助手をしていたという。

 神自身は基本余り能力を持たない。ミアハの眷族は一人しかおらず、人を雇っている余裕などないのだ。零細なればお金を稼ぐために、神自身も手伝わなくてはならない。

 意気消沈しているベルを気の毒に感じて、ミアハは手に持っていた作り立てのポーションを少し分けてくれる。優しいいい神だ。

 ポーションも【ヘスティア・ファミリア】にはまだまだ高価なもので、ベルは思わず嬉しく笑顔が出る。

 ミアハは、またなと言って去っていった。

 再び暫く歩いていたベルはふと、陳列窓に目が行く。

 そこは他の店とは二回りほど大きな炎を想像する真っ赤な外観のお店……【ヘファイストス】の武器屋だ。

 その窓の中には逸品の刀剣や防具が飾られている。一級冒険者たちが持つような一級品の武器が並んでいる。

 

(やっぱり、憧れちゃうよなぁ……)

 

 値札が凄い事になってた。ゼロの数が多すぎて端まで行って零れ落ちそうになっている……。

 とても買えない。下の数ケタが無くても手がトドカナイ。

 

(欲しいなんて言ったら、神様や酒屋のシルらにも『百年早いよ』と言われるだろうなぁ)

 

 白髪の少年は暫くそこに居て、じっとそれらを眺めていた。

 

 

 

 

 

 ベルは次の朝を迎えるも、ヘスティアのベッドは空のままであった。

 すでに神様の不在は三日となっている。

 

「神様……」

 

 昨晩も一人きり。

 少し恥ずかしいが、目が覚めた時に神様の顔とその女の子な重さが無い事に、物足りなさを感じているような気がしていた。

 少年は思わず、妄想を振り払うようにブルブルと頭を振る。

 

(そうだ、それなら帰って来た時に喜んでもらえるように一杯お金を稼いでおこう)

 

 今日もダンジョンへ行けば余剰金が10000ヴァリスを大きく超えるはずなのだ。きちんとした防具や剣を買っても晩餐ぐらいは出来そうな金額になる。

 軽く掃除と朝食を済まし、一人で歯を磨いてから身支度をすると、少年は元気よくホームを後にした。

 

 それから遅れる事15分。まだ朝の7時半ごろだ。

 

「ベルくーーーん! ベル君、ベル君、ベル君、ベル君ーーーーーーーーー!!」

 

 勢いよく、廃墟な教会【ヘスティア・ファミリア】のホームである地下室のドアが開けられる。

 背負子も背負ったヘスティアは、手に30C(セルチ)ほどの黒い布で撒いたモノを持って部屋へ飛び込んで来た。

 部屋の中をきょろきょろ見回すが……すでに彼の防具がないことに気が付く。

 ヘスティアは、かなりのガッカリ感に背負子を放り出し、入口傍の壁に寄りかかってしまう。

 

「ベル君……ホームを出るのが早すぎるよぉーーーー、神(ボク)のナイフを持って行けよぉーー!」

 

 そしてザッと湧き上がって来た立腹のため、思わず拳をグーにし、その側面で石の壁を叩いた。

 

 ガコッ。

 

 ――壁がヘコんだ。扉のように。

 彼女はゆっくりとその扉を開いていく。

 

「はぁ? ……こ、これは……何かな……?」

 

 中には甲冑を着た、人ほどな大きさの金属で造られた人形が座っていた。

 横に分厚い本も置かれており、ヘスティアはそれを手に取る。

 

「神専用アイテム、甲冑鏡人形(アーマメント・ミラードール)について……?」

 

 何気なく数頁めくると、ヘスティアは叫んでいた。

 

 

 

「こ、これで、ベル君と一緒にダンジョンへ行けるじゃないかぁーーーー!」

 

 

 

つづく

 




2015年06月22日 投稿

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