兎くんにラブ(エロ)を求めるのは間違っているだろうか   作:ZANKI

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02. 少年ベル・クラネルとの出会い

 『下界』に降りて来た女神ヘスティアがベル・クラネルという少年に出会ったのは全くの偶然と言える。

 

 

 

 今、女神ヘスティアは困窮に喘いでいる。

 当初、勤勉な女神ヘファイストスの元で世話になっていたが、食っちゃ寝な穀潰し生活を続けていたため、少し前に住処(ホーム)からほぼ身一つで叩き出されたのだ。

 あれからしばらく過ぎたが、未だに余り働いていない。露店の売り子を偶にやっているぐらいである。日々の食をも事欠く始末。

 現在、廃墟ながらヘファイストスが餞別に用意してくれた、教会の地下の一室に住みついている。

 このところ、ヘスティアにはギルドや街中での新たな仕事探しが、日々の予定に組み込まれていた。

 そんなある日のこと。

 彼女は裏通り近くで一人の細身で白髪な少年を見かける。彼は服装が古臭く少し弱そうに見えた。

 

「へっ、もっと強くなってから来るんだな」

 

 その白髪な少年は、まだ零細な【ファミリア】へ冒険者として加えて欲しいと何軒も売り込んでいたが、その都度そこの眷族から捨て台詞をもらい、入口の門戸から追い出されたり叩き出されていた。

 【ファミリア】には入団員の制限数はないが、弱い者がいるという噂が立つだけで収入や活動に影響が出るところもあり、雑用も雇う場合もあるが多くは有能な者や強い者にしか用は無い。

 少年を目で追い掛けるヘスティアは、『楽な仕事がないか』と同時に新しい眷族の子も探していた。自分の【ファミリア】に人数が集まれば養ってもらえるからだ。

 怠惰な彼女だが『これでも』割と人格者である。眷族がどんな人物でも良いという流れにはならない。

 そして『神の力(アルカナム)』の名残なのか、一目視れば相手がおおよそどのような人物かを知ることが出来た。そのため深く邪まな心を持つ者に声を掛けることはなかった。

 とはいえ、無所属(フリー)な人物にそういった良識的な者が多く居る訳も無く、そして簡単に出会えるはずもなく、昨日に声を掛けた子ももう別の【ファミリア】に所属していた。

 すでに声を掛けてフラれ肩を落とした回数は、その人数と同じ五十に到達する。

 ヘスティアは、改めてその道に投げ出されている少年を静かに見つめた。

 その姿はなんとなく寂しさで死んでしまう動物を連想させる。

 

(……ふむ、悪い子ではなさそうかな)

 

 そして今、彼は間違いなく無所属(フリー)。しばらく後をつけていたのだが、少年は見ていただけで十件ほど断られていた。

 

「はぁ……」

 

 投げ出された石畳みの道に蹲り途方にくれ、そう俯きながら暗い表情で呟く少年に、ヘスティアは明るく声を掛けた。

 

「おーい、そこの少年! ファミリアを探しているのかい?」

 

 彼は声の方へと顔を向ける。そこには白いワンピースの小柄な少女が立っていた。

 それが女神ヘスティアと少年ベル・クラネルとの出会いである。

 

「ボクはヘスティアという女神だけど、今ファミリアの構成員勧誘もやってて、冒険者の構成員とか探してるんだけど……良ければウチに入らないかい?」

「入ります! 入らせてください!! ベル・クラネルといいます。よろしくお願いします、神様!」

 

 彼はヘスティアからの申し出へ、すぐ飛び付くように驚きと感謝と尊敬をもって受けてくれた。

 まだまだあどけなさの残る紅い瞳の少年は、女神さまの手を両手で大事に取って本当に嬉しそうな笑顔を返してくれている。

 ヘスティア自身もついに初めての眷族を得ることになり、嬉しさの余りニコニコが止まらない。五十一回目の正直であるのだから。

 その直後のヘスティアの行動は素早い。

 

(素直ないい子じゃないか! この子は逃がさないぞ♪)

 

 馴染みな本屋の二階にある書庫を飛び入りで借り、『神の恩恵(ファルナ)』の刻印を彼の背中へと刻んだ。この場所は、本好きなヘスティアが初めての眷族にはここでと決めていた場所である。

 この瞬間、知る由もないが摩天楼施設(バベル)の最上階で最高級ワインを一人静かに煽り寛いでいたの美の女神は、その手元からグラスと床へと落としていた。

 

「さあ、ベル君。頑張って行こうぜ! 僕達の【ファミリア】はここから始まるんだ」

「あ、はい!」

 

 それから二人は、廃墟な教会の【ヘスティア・ファミリア】ホームへと移動した。

 教会の地下の一室。あれから余り変わっていない現実。

 家具が木机一つに床に寝袋が一つ……。

 

「………」

 

 ベルはその光景に絶句していた。ここへの道すがら聞いてはいたが予想以上の貧乏さである。

 正直、今のベルの方がお金を持っていた。

 

「あははは……」

 

 ヘスティアは右手を後頭部にあてての空笑いである。

 

「神様、僕頑張ります!」

「うん、ベル君、その意気だ! 君には大いに期待しているぞ」

 

 もちろんこの後の晩飯の代金は、ベルの財布からお金が出て行ったことは言うまでもない。

 

 

 

 次の日、ベルは朝早くに目が覚めた。

 ここは教会の地下ながら、朝は天井の板の隙間から僅かに日が差し込んで来る。

 部屋の中とはいえ、まだ春先で少し肌寒く、ぐっすりとは寝ていられない。『神の恩恵』の強化が無ければ風邪を引いていた事だろう。

 昨晩、ヘスティアは笑顔でベルに衝撃的な事を言った。

 

「ベル君、寒いだろ? 一緒に寝袋で寝よう」

 

 もちろん彼女に『まだ』他意はない。この時、ベルはまだ子供に見えていたから。

 かわいい眷族に十分な寝具がない事で申し訳ないのもあったのだ。

 

「だ、大丈夫です、神様! 全然平気です。床で十分です!」

「え~~? 一緒に寝ると温かいんだよ?」

 

 ヘスティアは少し残念そうに言ったが、一方顔が赤くなっているベルはすでに多感なお年頃になって来ていた。また、女性についての良さを扇動する亡くなった祖父の影響も結構あり、女の子を意識してしまう。

 神様がもっと大人っぽい感じの女性ならまだ割り切れる可能性もあったが、ヘスティアの幼顔で見た目はベルの年頃並みに見えているのが余計に意識する事に拍車を掛けていた。

 おまけに、ヘスティアのスタイルは女の子らしいのである。まず胸が大きいのだ。そして腰が締まっていておしりもプルプリン♪としている。

 一緒に狭い寝袋になど入ったら、感情的に落ち着いては一睡も出来なかっただろう……。

 ベルは昨夕、晩飯を買いに行ったついでに調達し、包まって寝ていた毛布を畳むと、神様のために静かに部屋の片づけと軽い朝食の準備をする。

 ここは地下ながら、水道が使えたのは助かっていた。部屋の奥には使用可能な浴室もある。

 ベルは、すでに少しの不安と緊張と期待から気合が入って来ていた。

 今日から早くも憧れの『運命の出会い』を求め、冒険者としてダンジョンへ行く事になっている。

 これも神様のおかげである。

 ダンジョンは『神の恩恵(ファルナ)』無しで入る事はほぼ無理な場所と言える。只のヒューマンではまず生きて帰れない、何が起こるか分からない別世界なのだ。

 その前に管理機関(ギルド)に行き登録しなければならない。そのためにも早めにホームを出ると昨晩、ヘスティアにも伝えてある。

 

「……ふぁぁ……おはよう、ベル君……」

「おはようございます、神様」

 

 ヘスティアは目をこすりつつまだ眠そうな顔をしている。彼女は基本、怠惰なのである。

 ベルは、神様に朝の挨拶をしてからホームを出るつもりだったので、これから出発する。

 

「では神様、ギルドで手続きした後にダンジョンへ行って来ます。朝食の用意は出来ていますので召し上がってください」

「……そうか、今日からだね。うん、ありがと。ベル君、頑張って来てね。でも無理しちゃダメだよ」

「はい、ありがとうございます! では神様、行って来ます」

 

 笑顔で部屋の扉を閉めて、少年はホームを後にする。

 そして……冒険者に対して素人なヘスティアは、特にアドバイスをする事もなく――――再び静かに寝袋で眠りに着いた。

 

 果報は寝て待てというわけではない。

 その証拠にこの日、ベルはギルドで登録したのち注意事項と各階層説明を受け、支給品の防具と小剣を装備し意気揚々とダンジョン第1階層へ向かったものの、結局逃げ回るのみで収穫はゼロであったから……。

 

 

 

つづく




2015年06月14日 投稿

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