ONE PIECE ~探しもののけ物語~   作:紅卵 由己

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この話からとある理由で『R-15』入ります。というか、書いている内にどうしてか凄い方面に描写が進んでしまった……何でや、工藤……。


~世話焼きと心~

 酒場という場所で取り扱っているものは、名前の通り酒――だけというわけでは無いらしい。

 

 外見の時点でも少年で、更に言えば記憶喪失なので世間一般的な酒場の風景という物を知らなかったカザミからすれば、あって『お酒に合うような食品』ぐらいのものだろうと思っていたのだが、現実では取り扱っているものの種類は酒と乾燥した小魚などのつまみだけに留まっていなかった。

 

 例えば、純粋に腹を満たすための料理とか。

 

 そうなると当然、酒と一緒にそういった物を頼む客も多いわけで、必要とされる手間や食器の枚数は常に消費され続けているのだ。

 

 とどのつまり、即席の従業員として働かせてもらっているカザミが任されている仕事は、厨房にて一度使った食器を洗いまくるという単純な流れ作業。

 

 文字通り水を流しながら、薄く広い皿や四角い形に作られた皿、そしてお酒を入れるのに使われるジョッキやワイングラスを丁寧に洗っていく。

 

 最低でも誤って割ってしまったりしないように、目立った汚れを見逃したりしないようにと目標を設定して意識すると、流石に料理人ほどでは無いので無駄な部分こそあれど、致命的なミスの無い流れが自然と形成されていく。

 

 ……カザミは、自分が記憶喪失だが、こういった家事絡みの事を何処かでやった()()()感覚がある事を、頭ではなく体の方が覚えている事を理解していた。

 

 産まれたての獣が、事前に『そういう事をした記憶』を持ち合わせておらずとも、本能の部分で何をどうすれば良いのかなどの『行動原理』を会得しているのと似たように。

 

 記憶喪失を自覚した当時以降で認識したそれは、最低でもカザミが『何処かで』食器を洗ったことがある、という意味を含んでいて、その事に関してカザミは素直に安堵する事が出来ていた。

 

 故に、カザミは多少面倒臭くとも、このような家事に関係する行いに不満を覚えたりはしなかった。

 

 強いて、不満点を述べる事があるならば。

 

「……え~っと、僕は大丈夫なので自分の事に集中してはいかがでしょう、か……?」

 

「ん? 今の時期には珍しいホームレス少年が、頑張ってお金を稼ごうと頑張っているんでしょう。そういうの、一人の人間としては少しでも応援したくなるものよ」

 

「……いやそうじゃなくて、さっきから何で僕の方ばっかり見てるんです? 妙に視線を感じるんですが」

 

「あら、別に怖がらなくたって何もしないわよ。ただ、ちょっと可愛いな~って思っただけ」

 

「……、はぁ」

 

 作業を開始してから、やけに自分の事を注視してくる女の人がいる事ぐらいだろうか。

 

 街中で自分の事を哀れんでいた(と思う)住人の声を聞き取った時もそうだが、みすぼらしい格好をしているだけで『可哀想』だとわざわざ口に出されたり、言外に『子供』扱いされている事は、自分の年齢さえも理解出来ないカザミからすれば正直好ましくはなかった。

 

 悪意は無いと信じたいが、それは何処かで自分を見下しているような、馬鹿にしているような思いを想起してしまう。

 

 言葉として意味を含んだ声を出されても、なかなか素直に受け取ることが出来ず、その奥底にある感情が何なのかを疑ってしまうのだ。

 

 それが会って日も経っていない相手ならば、尚の事である。

 

(……そんなに『子供』っぽいのかな、僕)

 

 そもそも、個人における『子供』と『大人』の違いは何処にあるのだろう。

 

 やはり外見の問題なのか、それとも自分の事を僕と読んでいるのが原因なのか。

 

「それに、本来は私だけでやってる作業だもの。そもそも働き手なんて募集はしてなかったんだけどね」

 

「え、そうなんですか? あっさり了承されたんですけど……」

 

「別に、子供じゃ働いたら駄目みたいな法律があるわけでも無いしね。そして、単に無視出来なかっただけと思うわよ? うちの主人ってお節介焼きだから」

 

 どうやらこの女性と表で営業をしているおじさんは、店長に従業員というよりは夫婦の関係らしい。

 

 そして、夫婦の関係が築かれている以上、それが何を意味しているのかを知らないほど、カザミの『知識』も薄くは無かった。

 

「……赤ちゃん、産んでるんですか?」

 

「あらら、大胆ね。当然産んでるわよ? 尤も、今では赤ちゃんじゃなくて、アナタよりも少し小さいぐらいに成長してるんだけどね」

 

 そう言いながら、カザミが洗った食器を布巾で拭いていく人妻さん。

 

 曰く、その子供は現在『友達』と遊んでいるらしく、家――というか酒場にはいないらしい。

 

 活発なタイプなのかな、とカザミが適当に評価を下していると、今度は人妻さんの方から問いを出してきた。

 

「ところであなた……え~っと、名前は?」

 

「カザミ」

 

「カザミくんね。どうしてお金を必要としているか、聞いてもいい?」

 

「食べ物代と、船代」

 

「……あら、船代って事はあんまりこの島には居るつもりが無いの?」

 

「旅の途中なので」

 

「そう……大変ね。報酬も予定よりももっと上げとこうかしら」

 

「……そこまでする必要は無いですよ。お金はあるだけ困らないですけど、特別扱いはしないでほしいです」

 

「そんな格好で、まだ子供なのに旅に出ているって時点で十分『特別』だと思うけどねぇ」

 

「…………」

 

 どうにも『大人』というのは『子供』に対して世話を焼くことを好んでいるらしく、その理由が善意によるものなのか悪意によるものなのか、イマイチ理解出来ないのはカザミ自身が『子供』であるからなのか。

 

 そもそも『大人』ではなく『子供』の方が世話を焼くケースだって存在はする。

 

 例えば、路道に箱と一緒に捨てられたと思われる犬や猫などの小動物を見つけ、特に深いことも考えずに家まで連れて行ったり、とか。

 

 素直に『可哀想』だと思っての行動ならばともかく、もしも『他の人もそうだから』だとか『ペットが欲しいから』なんて理由による行動だとしたら、一言にそれを善意と決め付ける事は出来ない。

 

 結局、善意も悪意も受け取り方次第なのかもしれないが、それでも答えは求めたくなる。

 

 他の人間がきっと『当たり前』と思っている事を疑ってしまう自分自身に、異物感を感じている。

 

 そこまで、考えて。

 

(……いや、違う)

 

 ふと、自分自身の他とは違う『もう一つ』の事を思い出して。

 

(……()()()()()()()よね。目を覚ました時から、ずっと)

 

 他者とは違う部分がある、という事に関しても見方によって反応は変わる。

 

 人によってはそれを特技や特徴として捉え、褒め称える場合だってあるかもしれないが。

 

 もう一方の負の可能性として、その異質感から忌避反応を起こし、やがて嫌われる因子を生み出す場合だってある。

 

 その事を、カザミは知っていた。

 

(……()()をバラすような事にならないよう、祈るしか無いか)

 

 だから、カザミは祈った。

 

 せめて、この島を出るまでの間だけでも、不慮の事態に陥らない事を。

 

 そして、仮にそうなったとしても、悲しい想いをせずに済んでくれる事を。

 

 

 

 

 

 遠く離れた所で何かが爆ぜる音を()()()のは、ちょうどそんな時だった。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 人間の言葉を喋れるカタツムリなど、世界にはこれぐらいだろうと思う。

 

 海賊船が島に接近している、と現在進行形で巡回中だった海兵の声を電々虫という中継装置を介して聞いていたガリー・ルアは、その会話の中で出てきた情報を再確認する。

 

「海賊船の規模から考えて、積まれている大砲の数は大よそ10門。軽く海軍(うち)の軍艦クラスはあるっぽいが……君、確か海賊旗(ドクロ)は頭の部分が赤く染められていて、船首には……何か一本の角を模した物が取り付けられてるんだったな?」

 

『は、はい。暫定こそは出来ませんが、海賊旗の特徴を見るに、アレは……プレデター海賊団の船でしょう』

 

 プレデター海賊団。

 

 その名を聞いたルア少佐の目が細くなり、彼はその船長――賞金首の名を言う。

 

「……『人狩人(マンハンター)』のマガカキ・スペンサー。賞金は確か5400万ベリーだったか。俺も直に見た事があるわけじゃないから詳しくは知らんが、実力以上にその異常性、残忍性から危険視されてんだったな。殺した人間の臓器を鉄串で焼き鳥みたいに『繋げて』、その後に焼いたりして()()()()()イカレ野郎。財宝とかを目当てにしてるんじゃあなく、狙いにしているのはあくまでも人間の血肉。『王国』が無いから政府に加盟出来ない小さな村や街で、主に『活動』しているって話だが……」

 

『これまで「海軍」の基地を有する「王国」などには来る事も無く、述べられた通り小さな農村などをターゲットにしていました。実力に関しては『憶越え』と比較しても大したことは無く、齎している被害が限定的であったから、悪行の割りに懸賞金はこの規模で留まっていたとか。それが、何で……?』

 

 金目の財宝などを目当てとする者が多い『海賊』の中でも、いやむしろ人間全体から言ってもイレギュラーなる人物。

 

 ただ殺すのではなく、その後に肉を喰らい、売り捌く――狂気としか言えない悪行の遂行者。

 

 しかし、その通り魔か妖怪染みた所業をする一方で、目立った場に現れる事はまず無かったはずだが……?

 

「……考えられる線があるとするなら、その狂った思考で我慢が出来なくなって、海軍とはち遭うリスクを考慮してでも『王国』の人間でも食いに来たか。あるいは、最低でも海軍を相手にして問題無いと言えるような『力』を身に付けたのか……ま、金目の物目当てって線も捨てられんがな」

 

『あのレベルの船を造ってもらうのに、何ベリー使ったんでしょう。我々の持つそれと同レベルはある模様です』

 

「人間の臓器ってのは医者とかに対して高値に変じるらしいからな。食うだけじゃなく、新鮮な状態で『保存』して裏ルートで売り捌く……規模が小さく納まっていても、これほどの賞金を宛てられている理由がこれだな。あれで『偉大なる航路(グランドライン)』の海賊じゃないってのが未だに信じられん」

 

如何(いかが)なさいます?』

 

 海兵が聞いているのは、その海賊船を撃墜するかしないかの有無では無い。

 

 今有る戦力でどういった方法を取るべきなのか、戦術と方針を説いているのだ。

 

 だから、ガリー・ルアはそれまでに告げられた情報から、想像し得る指示を簡潔に述べた。

 

「……当然捕獲出来れば一番だが、砲撃で落とせればそれでも良し。それが上手くいかない場合は対人戦になる事も考慮しろ。その際、敵が『能力者』である可能性も考慮して、監獄弾(かんごくだん)を使う事も許可する。ちゃんと入れてるんだろうな?」

 

『はい。……はい、戦闘準備も整っています』

 

「じゃ、焦らず確実にやってくれ。もしも島まで近付かれた時には、深追いせず現地の兵や俺に任せろ。後は現場に判断に任せる」

 

『了解しました。では』

 

「ああ、武運を祈るぜ」

 

 通信が切れたのか、電々虫の瞳が閉じられる。

 

 受話器を元の位置に戻すと『がちゃん』という声(?)が聞こえたが、それに意識をやる事も無いままガリー・ルアは椅子から立ち上がる。

 

 電波の向こう側で奮闘している兵達の代わりに、出来る事はしっかりとやるべきだ。

 

 

 

 

 

「左へ転舵25度!! 続けて左舷砲門開け!! 敵船と睨み合いながら発砲、足を止めるぞ!!」

 

 広い海の上で軍艦と海賊船――二つの船が互いの姿を認識して数刻、次々と大量に水の柱が互いの船の周りへ立ち昇っていく。

 

 艦船同士の対決が、当たり前のようにゴングも無しに始ったのだ。

 

 船の側面にある大砲を互いに敵の船へと向け、導火線へと火を付け、発砲。

 

 この単純な作業とも言える行動の度、互いの狙撃手は距離と風向きから砲弾の着弾位置を予測しなければならない。

 

 数撃てば当たる、という言葉こそあれど、当てようと努力もしなければ当たらない物は当たらないのだから。

 

 ドン!! ドン!! ドン!! と、次々に爆発と共に生じる衝撃が音を成して響き渡る。

 

 それでも船に直撃したのは、ほんの一発か二発程度。

 

「艦長!! 敵艦に直撃しましたが、依然勢いが止まる気配はありません!!」

 

「当たった場所の関係もある!! 気にせず撃ち続けろ!!」

 

 ただの船ならば砲弾一発の着弾だけでも即沈没するレベルと言っていいが、艦船クラスともなれば船体の強度や大きさから数発程度では撃沈(おと)せなくなる。

 

 たった一発で沈めるには、船体の『急所』を狙って打ち壊すのが最良の手ではあるのだが、それには狙撃手の勘と腕前――そして、敵船側の迎撃能力が大きく関わっていた。

 

 つまる所、艦船同士の対決では砲撃そのものだけが『決め手』とは成り得ないのだ。

 

 それを理解出来ない船乗りの方が少ない、とも言える。

 

 だから。

 

 次の瞬間、プレデター海賊団の船から二本の砲弾とは違う何かが()()され、軍艦へと深く突き刺さった。

 

 大砲――より正確には火薬の爆発によって放つ事が出来る砲弾以外のもの、と聞いて浮かび上がる物は――

 

「アンカーか……!?」

 

 長く、頑丈で、本来ならば船をその場に固定するために使われる(いかり)を、他の船と部分的に引き合わせるために遠方へと放てるようにされたもの。

 

 単なる質量攻撃としての用途もそうだが、鎖と繋がったそれを戻そうとすると互いの船が引き合うような形になるため、距離が自然と詰まる。

 

 だが、距離が詰まるという事は敵船に乗り込む機会を得る事と同時、至近距離から大砲を放たれる危険性だって含んでいる。

 

 たかだか海賊が完全武装な海軍の船にアンカーを射出し、乗り込もうとするなど、自殺行為としか思えないが――その常識を塗り替えかねないレベルの危険性を宿しているからでこそ、名が世に広められ『賞金首』という物は生まれるのだ。

 

 互いの砲撃が、やがて互いの砲台を一つ一つと潰していく。

 

 失われたのはあくまでも側面の大砲だけだが、それでも攻撃の手を減らされた事に変わりが無い。

 

 そして砲撃で決着を付けられなかった以上、海軍側としても海賊側としても、取る手段は限られる。

 

「乗り込んで来るぞ。武器を手に迎撃の体勢を取れ!!」

 

 そう言った後、本当に海賊は乗り込んでくる。

 

 たった、一人で。

 

「…………、」

 

 その光景を見て、疑問こそ浮かべれど驚愕こそその時点ではしなかった一部の海兵は、それがどういう意味を持っているのかが分からないほど無能でもなかった。

 

 一騎当千。

 

 それを出来るほどの力が、奴にはあるのだと。

 

「『能力者』だ!! 船に乗り込んでくるぞ!!」

 

 告げられるそれは、この世界とこの物語においての『異能』の持ち主。

 

 この世界にしか無い『悪魔の実』と呼ばれる代物より得られる、物理法則を塗り替える力。

 

 代償として『海』に()()()()事を対価に、絶大的な力を獲得する禁断の果実。

 

 それを食らった者にただの人間が対抗するには、文字通り『海』の力を借りなければ度台無理な話とも言える、理不尽の象徴。

 

(奴が……)

 

 自信からそれを宿したとしか思えない、その人物。

 

(賞金5400万ベリー……『人狩人(マンハンター)』マガカキ・スペンサーか!!)

 

「監獄弾を用意しろ!! 敵が一体だからと油断するな、余程の馬鹿でない限り、一人で来るという事は相応の力を持っている!!」

 

 その船に乗っていた者たちの中でも、尤も高い階級――中尉の立場に居るその男は、言葉を発して指示を出しながら動く。

 

 敵である海賊の意識を自分と銃を持つ海兵の両方に向くようにし、動きに迷いを生ませるためだ。

 

 大半の海兵や将校クラスに支給される鉄の曲剣(カトラス)を手に、無力化を図る。

 

 対する乗り込んできた一人の海賊も、自身の懐に手を伸ばしていた。

 

(事前情報でも、コイツの使う武器の情報は無かった。目立った武器ではなく、懐に隠せるレベルの何かが人を殺す時に使われる。だとすれば……)

 

 事前情報が、人間の臓器を炙って食べるという凶行ぐらいで、明確な脅威が何処にあるのかも分からない相手。

 

 それを相手にしている事の危険性を知りながらも、先陣を切る事に戸惑いは無かった。

 

 むしろ、危険性を知っているからでこそ、それを止めなければという使命感が体を前に動かしているのだから。

 

短剣(ナイフ)か、あるいは拳銃か。だとしたらリーチの差で優位は取れる。何としてでも、悪意の芽をここで摘み取る!!)

 

 曲剣が空気を切り裂きながら、敵の命を刈り取るべく斜め薙ぎに振るわれる。

 

 避ければその方向へと『海』の力が宿った網が放たれ、避けられなければそのまま刃の餌食となる。

 

 そして、その行動の結果はすぐに出た。

 

 

 

 

 

 

 

 船の上で、命を司る赤い水滴が落ちる。

 

 ()()()()()、それは受けた傷の大きさを表していた。

 

 それは、剣を振るわれた海賊の体から漏れ出たもの()()()()

 

「…………な、ぐ…………」

 

 まるで、その一瞬だけ時が止まったような感覚だった。

 

 実際には本当に時間が止まっているわけでは無く、突然の出来事に思考が整理出来ず、現実を認識出来ていないだけなのだが。

 

 その将校は、剣で斬ったと思っていた海賊の方を見ていなかった。

 

 何か、針金のように細い、()()を容易く貫いている『何か』がある。

 

 それを直視したその将校は、搾り出すような形で声を漏らす。

 

「……(はり)……なのか……?」

 

「……惜しいけど、違うんだよなぁ」

 

 そこで将校は、初めてその海賊の声を聞いた。

 

 背筋に寒気を覚えない事の方が難しい、まるで自分の好きな物を目の当たりにした子供のような、それでありながら大人である、そんな奇怪な声を。

 

 周囲を見回してみると、惨状を目の当たりにしていた海兵の動きが、現実を直視出来ないかのように硬直――棒立ちの状態になっていた。

 

 しかし、そんな海兵達の様子を気にも留めず、その海賊は手品のカラクリをばらすかのように、軽い言葉で事実を述べる。

 

「これはな。針なんて物じゃないんだ。だってほら、尖った部分は片方にしか付いていないだろう?」

 

「…………」

 

 言葉が喉から出せない。

 

 本当に、呆気も無いまま、力が抜けていく。

 

「これは……あれ、もう意識を保つ事も無理なのか。まぁ、心臓を直で貫かれているわけだから、仕方が無いわけだが」

 

「……き、さ……まッ」

 

「まぁ、どの道全員から『頂く』予定だったんだし、そもそも言葉を聞くつもりも無かったわけだがな」

 

「……ぉ、ォォォオオオオオオアアアアアアアッッッ!!」

 

 咆哮と共に、将校の剣が再び振るわれようとした。

 

 だが、それより先に海賊の方が将校に突き刺していた『何か』を持ったまま、その剣の射程範囲から離れていく。

 

 手に持った『何か』には、脈動する人間の心臓が一つ刺さったままだった。

 

 命を維持する根本的な部位を失った将校の体が、壊れた人形のように力無く前に倒れる。

 

 ……血に塗れた人間の心臓という物を直視し、頼れるとも思っていた上官の死を直視し、猟奇的な笑みを浮かべるその海賊を見た海兵たちは、悲鳴や怒号を上げる事さえ忘れて一つの言葉を浮かべていた。

 

 

 

 あまりにも、呆気なさ過ぎる。

 

 こんなの、勝てるわけが無い。

 

 

 

 有効な武器が揃っているという事実がありながらも思考は一気に恐怖と混乱に塗り潰され、平常心や覚悟といったものは容易く溶解された。

 

「さてさて、それじゃあ改めて人狩り……というか、お肉と臓器のびっくりショーでも始めようか」

 

 海に浮かべられた船の上で、逃走など無意味。

 

 決して長くはない時間の中で、取り残された海兵の命は雑草のように毟られていく。

 

 そして、やがて。

 

 

 

 その時は、来る。

 




 はい、そんなわけで主人公・カザミ君のアルバイト……がメインではなく、事件の始まりというか海賊が攻めてくる一歩前というか、そんな話になりました。ワンピースなのに初っ端からグロ方面に持っていった感じなのですが、大丈夫だったでしょうか?

 二次創作という事で、当然原作に出ていない独創の『悪魔の実』も出すことは確定しておりました。今回の話に登場したマガカキ・スペンサーってキャラ(名前は難航しまくりました)がその一人。『心臓を抜き取る』という部分だけ見ると原作でも究極の悪魔の実とか言われてる『オペオペの実』を連想させますが、全くの別物です。というかあっちと違って物理的に心臓抜いてるわけなので普通に死にます。

 ぶっちゃけ、ただ死体を見るのもそうですが臓器をダイレクトに見るってのも精神面に大ダメージだと思うのです。中国に『一人を殺して百人の敵の警告を促す』な旨の言葉もありますが、恐怖ってのは雑兵相手に本当に通用しますからな……(っ『覇王色の覇気』)。

 さて、彼が食べた実の正体が分かる読者はどのぐらい居るやら……居たら本当に嬉しいです。

 あと、書いていても想いましたが、実はワンピの世界観ではまだ『臓器売買』とかは出てなかったんですよね。確か。ローもそういう事をしている描写は無かったはずですし(パンクハザード編でのアレはそもそも売買じゃない)。医術とかそういう物だって存在する以上、臓器が裏ルートで出回る事って割りとマジでありそうなんですが……『覚せい剤』なんて出ていたレベルですし、在り得る。

 いつになったら主人公の(戦闘面での)出番が来るんだ!! って声もありそうなのが怖いですが、もうしばしお待ちください…………あと少しだと思うので。

 では、また次回。
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