八雲とパイの幻想入り   作:史上最弱の弟子

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鬼との戦い

「おりゃああ!!」

 

 勝負開始と共に男鬼が大きく腕をあげ、そのままその豪腕を振り下ろす。その拳には大岩を砕く程の威力が込められており、最強の妖怪と呼ばれ、特にその”力”を誇る鬼と言う種族の名に恥じないものであった。

 

「やあ!!」

 

 しかし威力はあれど軌道は単純なもの、所謂テレフォンパンチであったため、八雲は楽々とかわし懐にもぐりこんで見せると、ボディに向かって全力の一撃が叩きこむ。八雲自身の力に加えて自身の振るった腕の勢いが合わさったカウンターの一発を無防備な所に受けた男鬼は、その衝撃に身体をくの字にまげ、顎を開いた。

 

「とりゃあ!!!」

 

 そこに追撃。位置の下がった頭部に八雲は回し蹴りを叩き込んだ。その衝撃身体を横に倒し、地面に叩きつけられる男鬼。

 

「ぐっ、がっ、こっ、このやろう」

 

 これで決まってもおかしくない連撃だった。しかし男鬼は鬼らしいタフさを見せ、何とか立ち上がって見せる。

 そして懐から何かを取り出して言った。

 

「油断したぜ。どうやら地上の妖怪にしては思ったよりやるようだな」

 

「そう言うのは普通、勝っている方が言うんじゃないか?」

 

 ふらふらの状態で偉そうに言う男鬼に対し、思わず突っ込む八雲。その言葉に男鬼は顔を赤くして激怒する。

 

「くっ、うるせえ!! いいぜ、こうなったら見せてやらあ、俺の本当の力をな!!」

 

 そう言って男は胸元から何かを取り出した。それは金棒だった。とは言え普通のサイズの金棒が胸元に収めておける訳は無い。形こそ昔話等で描かれる鬼の武器そのものだが、長さは十手位しかなく、太さもそれに応じて細いミニチュア版とも言えるものである。

 

「それでどうしようって言うんだ?」

 

「へへっ、こうするのよ!!」

 

 不思議がる八雲に男鬼が叫ぶ。するとその瞬間、金棒が巨大化したのだ。長さ2メートルを超え、太さも円周で1メートル以上も有る超重量武器へと変わったのだ。

 

「これが俺の能力『物の大きさと重さを操る程度の能力』だ!!」

 

 その現象の種明かしをし、男鬼は金棒を降り降ろす。金棒の重量は目算で300キロを超える。更に男の能力で実際の質量以上に重くすることが可能。そんなものに潰されれば八雲の身体なら一撃で原型も無く破壊されてしま。

 

「出でよ光牙!!」

 

 しかしそれも当たればの話だった。男の攻撃は相変わらずのテレフォンで、横に動き回避した八雲は反撃の獣魔を放つ。その一撃は見事に直撃。一応の手加減はされていたが、打撃とは比べ物にならない威力に今度こそ鬼は昏倒し、その場に倒れ付した。

 

「これで俺の勝ちですね」

 

「そうだね。あんたの勝ちだ」

 

 勇儀を見て勝敗の確認を取る八雲に対し、彼女はそれを認めると、杯に注がれた酒をくるくるとかき回す。

 そしてその動きを止めて言った。

 

「さて、それじゃあ次は私と戦ってもらおうか」

 

 その口から飛び出したのは自らも八雲と戦うと言うとんでも無い発言だった。当然、それに対し三只眼が異論を挟む。

 

「どういうことじゃ、まさか今更条件を付け足す気か?」

 

「いや、そんなつもりは無いよ。当初の約束通りあんた達が旧都に滞在することはあたしの責任で認める。ただ正直な所二つばかり誤算があってね。そこに倒れてる奴。獄鬼って言うんだが、鬼の中でも割と強い奴でさ。あんたの旦那が勝つにしてももう少し苦戦すると思った訳さ。ところが、予想外に一方的な勝負になっちまった。地底の奴等からすればまあ、面白くないだろうね」

 

 鬼の男、獄鬼は地底の代表として戦った。その代表が地上の妖怪と思われている八雲に完敗した。これが勇儀の予測通りある程度いい勝負になっていれば、お互いの検討を称えると言う形にもできたかもしれないが、完敗では当然いい気分にはならず、割り切りするのも難しい。

 

「あんた等はここに旅行に来たんだろう? 約束した以上あんた等に危害を加えることは私が絶対に許さないが、このぎすぎすした空気じゃ楽しむにも楽しめないだろう」

 

「ふん、それでこやつ等の溜飲を下げさせるためにお主が戦うと言う訳か」

 

 意図を理解した三只眼が不機嫌そうな口調で言う。彼女の言う通りぎすぎすした空気の中で楽しめる筈も無い。つまり諦めて地底から引き下がるが、勇儀の言葉に乗るかしか無いのである。どちらを選んでも相手の思惑に乗るようで面白くない選択だ。

 

「まっ、そう言うことだね。とは言え後から条件を付け加えて副賞も一つも用意しないんじゃ不誠実だ。私に勝ったなら私にできることなら何でも願いを一つかなえてやるよ。どうだい?」

 

 その不機嫌さに気づいた勇儀が一つ条件を付け加える。それが両者の落とし所となったようだった。三只眼が納得して頷く。

 

「ふん、いいじゃろう、お主の言葉に乗ってやる。ところで、さっき誤算は二つと言ったな。もう一つの誤算とは何じゃ?」

 

「ああ、言い忘れてたね。なーに、単純なことだよ。疼いちまったのさ、強者を求める鬼の血がね」

 

 そう言って彼女は杯に残っていた酒を飲み干し、そのまま杯を投げ捨てる。

 彼女は戦いを楽しむため、通常ハンデをつけた状態で戦うことが多い。

 『杯の中の酒をこぼさないようにして戦う』

 『こぼしたら自らの負けとする』

 そう、自分に枷を付けた状態で戦うのだ。そんな彼女が杯を捨てる、その意味はつまり本気で戦うと言うことの意思表示。

 

「……八雲、油断するなよ。あ奴、相当な強さじゃぞ」

 

「ああ、分かってるさ。彼女、相当強い。まあ、ベナレスに挑む位の気持ちで戦ってみるよ」

 

 三只眼の警告に冗談めかして答える八雲。

 そうして二人の戦いが始まった。

 

「藤井八雲の名に置いて命ず、出でよ土爪!!」

 

 先手を取ったのは八雲。獣魔を召喚し攻撃を仕掛ける。地面を切り裂きながら突き進む三本爪の獣。それに対し、勇儀は逃げようともしない。

 

「ふん!」

 

 そしてあろうことか、刃のように鋭い爪を素手で掴み、そのまま宙空、遥か遠くへと投げ飛ばしたのだ。

 

「中々の切れ味だね鬼の肌に傷を付けるなんて。並みの鈍らじゃあこうはいかないよ」

 

 呆気に取られる八雲の前に勇儀は自らの手のひらをつけつけて見せた。そこには確かに薄っすらと切れた跡があった。

 

「とんでもないですね」

 

「さて、次はどうする、それともこっちから行こうか?」

 

「出でよ雷蛇!!」

 

 挑発に対し獣魔召喚で答える。迫り来る雷の蛇に対し、勇儀は妖力を込めた拳でそれを粉砕してみせた。

 

「くぅぅ、痺れるねえ」

 

 体内を流れる電流と戦いの興奮、二重の意味での痺れを感じ、その手ごたえに嬉しそうな笑みを浮かべる勇儀。それに対し、八雲は走鱗を召喚し一気に接近、勇儀の懐にもぐりこむ。

 

「はっ!!」

 

 走鱗による加速殺さず、勢いを載せた拳を腹部に叩き込もうとする。しかしその拳は彼女に対し届かなかった。

 

「なっ!?」

 

 勇儀の左手によってがっちりと掴まれ止められてしまったからである。

 

「悪いねえ。さっきの喧嘩であんたの動きは見せてもらったからね。読ませてもらったよ」

 

 とんでもないことを言う勇儀。確かに八雲は獄鬼との戦いで懐に潜り込む動きを二度行った。しかしその時は走鱗は使っていないし、他の点を見ても全く同じ動きを取っている訳でも無い。にも関わらず勇儀は八雲の動きを見切ってみせたのだ。種族としての身体能力だけに頼っている訳では無い、とてつもない戦闘センスあるいは戦闘経験の豊富さだった。

 

「ヤクい!!」

 

 片腕を掴まれ逃げることのできない八雲に、勇儀の空いた右腕が迫る。八雲は衝撃を覚悟し、そしてその衝撃が走った場所は彼の頭部だった。

 

「えっ?」

 

 八雲は最初、自分が何をされたのかわからなかった。予想に反して余りに軽かったのだ。感じた衝撃と痛みが。

 そして八雲は理解する。

 自分が”デコピン”されたことを。

 

「こっちだけ一方的にあんたの実力を見た状態で勝っちまったら不公平だからね。サービスはこれ一回、次は本気で行くよ」

 

 掴んでいた腕までも解放して言う勇儀。

 彼女は公平な条件で戦うため、あえて手加減をして見せたのだ。そのあまりに予想外な行動と言葉に八雲は思わず笑ってしまう。

 

「ははっ、まさかこの年になってデコピンされるとは思わなかったよ」

 

 ここでの戦いはやはり外での戦いとは違うのだと思い、魔理沙の時同様楽しい気分になる八雲。、とは言え魔理沙の時とは違いこの戦いは負ける訳にはいかない理由がある。

 

「手加減ありがとうございます。でも俺は一切、手を抜かないよ。負けたら三只眼に何を言われるか分からないからね」

 

 愛妻の目の前で見っとも無い姿を見せる訳にはいかない。そう伝え一歩下がって構えなおす。

 

「望むところだよ。正々堂々全力で戦おうじゃないか」

 

 その答えに満足したように笑みを浮かべる勇儀。

 

「それじゃあ、お互いに」

 

「ああ、こっからは手加減抜きだ」

 

 そして二人は互いに笑いあい、戦いが再開された。




次回で完結です。
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