(っと、言ってもどうするかなあ。こっちの動きは読まれちまってるし。……待てよ、もしかしたらこれなら!!)
全身の運動性をコネリーモードに切り替え突撃する八雲。月で戦いの頃ならばともかく、今は素の身体能力が上がっているため、使用してもこれ以上の身体能力の向上は望めない。にも関わらず、コネリーモードを使用した八雲の動きを見て、勇儀は驚きの表情を浮かべた。
「やっ!!」
「くっ」
八雲が拳を繰り出し、その一撃が勇儀の頬を掠める。そこで光術を放ち追撃、それに対し勇儀も弾幕を放ち相殺する。これまで完璧に対処されていたのが嘘のように攻撃が当たるようになる。
「操演!!」
懐から短刀を取り出し、投げつける八雲。勇儀はそれを素手で弾くが、操演をかけた短刀は追尾し、再び彼女を襲った。
「こんなもので鬼を傷つけられると思うな!!」
勇儀はその短刀を掴み、そのまま粉々に握り潰して見せる。凄まじい握力だった。しかしそれは八雲にとっては狙い通りの行動。彼女の注意がそれている間に接近を仕掛けたそこで八雲はコネリーモードを一旦解除した。
「ぐっ」
八雲の肘打ちが勇儀の腹に撃ち込まれる。苦悶の表情を浮かべながらも反撃を仕掛ける勇儀。そこで八雲は再びコネリーモードを使用し飛び引く。
「……一体どういうトリックだい? まるで、二人の人間を相手にしてるみたいだよ」
困惑の表情を浮かせる勇儀。種を明かせばそれはコネリーモードと通常状態の切り替えにあった。
コネリーモードはその運動性だけでなく、動きの癖や行動パターンまでもある程度模倣する。コネリーを知り尽くしたベナレス相手にはマイナスにしかならない性質だったが、今回はその性質を上手く利用し、相手を霍乱したのである。
「悪いけど教えられませんよ。知りたかったら当ててみせてください」
そして無論その秘密を明かしてやる義理は無い。勇儀の疑問に対し、八雲は特徴的な糸目を更に細くしてとぼけてみせる。
「まあ、馬鹿正直に種を明かしてはくれないか。それにしてもあんた本当に妖怪かい?」
「?ええ、そうですよ。まあ、元は人間ですけど」
八雲のとぼけた態度に勇儀は怒ることもなく、代わりにこの場でするには少し妙な質問をしてきた。その質問に八雲は意図がわからないながらも、先程の質問とは違い特に隠す必要のあるものでは無いと思ったため、あまり考えずに答えを口にする。
「……なるほどね。納得だよ。あんたの戦い方は如何にも人間だ。あっと、これは褒めてるんだよ」
八雲の答えを聞いて納得したと言う表情を浮かべると共に嬉しそうに笑う勇儀。
「妖怪にだって考える頭がある。だから、戦う時に工夫をしない訳じゃんない。ただねえ、妖怪ってのは基本的に本能に従う生き物なんだ。だから、自身の生まれ持った力の範疇でしか工夫しない。まあ、多少例外は無い訳じゃないけどね。それでも基本的にはそういう生き物だから、自分よりも強い相手には決して勝てない。けど人間だけは違う。ありとあらゆる物を用いて、力・知恵・道具・仲間、そして想い、あらゆる物を駆使して自分よりも強い存在に挑んで見せる。私達鬼にはそんな風にして挑んでくる人間との戦いが何より楽しく、そしてそんな人間が愛おしいのさ」
うっとりとしているようにも見える表情で昔を懐かしみ語る勇儀。しかしそこまで話した所で彼女の表情が曇る。
「けど人間が卑怯な戦い方をしなくなって鬼は人間に愛想をつかした。よく勘違いされるけどね、私達は策を用いたり武器を用いたりすることを卑怯と言っている訳じゃない。”自身を賭けずに戦う”ってこと、こっちを殺す気でありながら自身が殺される覚悟を持たず、一方的に狩ろうとする行為を私らは卑怯と呼ぶのさ」
「……だったら俺も卑怯者ですかね。何せ俺は不死身ですから」
勇儀の言葉を聞いて八雲は軽い罪悪感を感じ、自分の秘密を一つ明かして見せる。
しかし、それを聞いても彼女は特に気にした様子は見せなかった。
「ほー、そうなのかい。けど、まあ大したことじゃないよ。あんたは身体を張って、己の譲れないもののために戦ってる。大事なのはそこだよ。それに例え不死身じゃなくてもあんたは同じことをすると私は見込んでる。いい男だよあんたは。口説きたくなっちまう位さ」
最後の一言を冗談めいた口調で付け加える。言われた八雲の方は冗談と思いつつも勇儀程の美人にそう言われて悪い気がする訳もなく、顔を赤くする。
「はは、ちょっと照れますね」
「さて、話はこの位にしてそろそろ決着をつけようか」
そう言って彼女は一息つく。
そして今までとは明らかに違う真剣な目つきになった。彼女がその状態から足を一歩踏みこんんだ瞬間に全身から強く、そして相手を縛り付けるような妖気が発せられる。
「なっ、身体が!!」
三歩必殺、鬼の四天王奥義。彼女が使おうとしているのはその戦闘版。弾幕ごっこ版とは違い、この技は一歩目の踏み込みと共に発する妖気で相手を動けなくする。
「これで、動きの変化も関係ないね」
そして二歩目を踏み込むと共に左拳を放つ。八雲は動きを阻害された状態でも何とか動き両手でガードしようとするが、鬼の膂力は盾としたその両腕を消し飛ばした。
「これで決まりだ!!」
一歩目で拘束、二歩目で防御破壊、そして回避も防御も出来なくなった相手に止めの三撃目を放つ。正に三歩必殺。その一撃は八雲の腹部をとその周辺を消し飛ばし、彼の身体を二つに分けた。
「!!」
しかし人間なら即死、妖怪でもしばらくは動けなくなるそのダメージは八雲にとっては良くあることに過ぎなかった。肩から先を失った腕をむける。
「出でよ石絲!!」
必殺の一撃を放ち無防備になった勇儀に向かって獣魔を放つ。その攻撃は見事に命中し、彼女を石化させた。
それは誰の目にも明らかな八雲の勝利と言う形での決着となるのだった。
「いやー、しまったしまった。あんまり懐かしくてつい相手が人間のつもりになって攻撃しちまったよ」
戦いの反省をし、笑う勇儀。もし彼女が頭部を狙って攻撃していれば无と言えどしばし行動不能になり、勝敗は逆になっていたかもしれない。
とはいえ、最早勝敗などどうでもいいこと。何故ならば八雲と三只眼は今、勇儀を含む地底妖怪と共に宴会の真っ最中なのだから。
「全く、地底の妖怪と言うのは調子のいい奴等じゃ」
三只眼が口調は呆れながらも楽しそうにぼやく。
決闘の後、八雲は直ぐに勇儀の石化を解き、そして地底妖怪達は最初の敵意が嘘のように消え、八雲達を歓迎した。
強さこそが最大の価値観である彼等にとって勇儀に勝利したことで敬意を得、地上妖怪であるとかそういうことは些細なことと言う認識になったらしい。
「ははっ、まあその辺が地底の、いや幻想郷やその周りのいい所なんだろうな」
よくも悪くも細かいことを気にしない。過去を引きずらない。受け入れられないものには受け入れらないだろうが、それが幻想郷及びその周辺の考え方である。
「まあ、そうじゃな。今回に限ってはここの流儀に合わせることにしよう」
割と執念深い性格をしている三只眼だったが折角の新婚旅行を不快な気分で過ごしても仕方が無いと水に流すことを決める。
そうして彼等は地底妖怪と共に宴会を楽しみ、多いに騒ぐのだった。
「ふう、鬼は酒が好きだって聞いたことがあったけど噂以上だったな」
勇儀に付き合わされるなど、散々飲まされて酔いつぶされた八雲だったが、无の回復力を持って、二日酔いになることもなくすっかりアルコールが抜けた状態に戻っていた。時刻はまだ深夜であったが、目が覚めてしまった八雲は折角だからと言うことで温泉に入りに来ていた。
「しかしいい温泉だな。明日は三只眼やパイにもすすめてみよう」
期待以上に気持ちのいい温泉をに自分だけ楽しんでいるのが悪いことをしているような気分になり、弁解するかのように妻のことを考える。ところがそこで予想外の声が耳に入った。
「ほう、そんなによいのか。ならば早速わしも堪能させてもらおう」
「えっ?」
声に驚き振りむくと、そこに居たのは今、まさに考えていた相手。タオル1枚だけを身体に巻いた状態の三只眼が立っていたのである。
「さ、三只眼!? 酔いつぶれて寝てたんじゃ」
「かなり誘われたが途中からは上手く避けて制限しておったからの。お主が儂を抱きかかえて部屋に運んだ時も寝た振りをしておっただけじゃ」
実は宴会の後、流石に宴の場に若い新妻を一人残して置く訳にも行かないとお姫様だっこで自室に運び、寝かせたと言うことがあったのだが、その時、狸寝入りであったと明かす三只眼。
「ひっでえな」
「それよりもわしも入らせてもらうぞ。ほう、確かにいい湯じゃな」
文句を言う八雲を無視し温泉に入る三只眼。
そして八雲に近づくと彼に密着して座る。
「な、何を」
「気にするでない。わしらはふ、夫婦になったのじゃからこの位、普通じゃろう」
その大胆な行為に顔を赤くする八雲。三只眼の方も平然を装うとして顔を赤くする。しばし新婚らしい初々しい雰囲気を発する二人。しかしそこで三只眼があることを思い出したことによって、そんな雰囲気を壊し、半眼になって彼を睨みつけるようになった。
「そういえば八雲、先程の戦いで鬼の娘に誘われておったの? 酒の場でも随分楽しそうに飲んでおったようじゃし」
「えっ、いや、あれは……その、向こうだって単なる冗談だったろうし」
勇儀の言った”口説きたくなっちまう”という言葉を今更とり上げられ焦る八雲。
「ほう、それは冗談でなければと言うことか? 綾小路のことと言い、お主は浮気性で流されやすいからのう」
続く追及。八雲は基本的にパイ一筋、いや、パイと三只眼で二筋であったが、優柔不断な部分があり、他の女に目が行ったりしたことがあるのは事実である。それを指摘され更に焦る八雲。彼女の怒りを納めようと弁明の言葉を考える。しかし八雲がそれを思いつく前に三只眼の方が行動に出た。
「じゃから、他の女に目が行かぬようわしの魅力に改めて参らせてやるわ」
「えっ?えっ?」
タオルを外し一子纏わぬ姿になって自らに覆いかぶさってくる三只眼に対し、八雲は思考が追いつかず、その後はまあ新婚に相応しい夜を過ごしたのであった。
その後、八雲達は更に幻想郷を周り、たっぷりと満喫をして元の世界へ帰るのだが、お話はここでおしまい。
無事完結です。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。