「うわ、見て見て八雲」
「おいおい、そんなにはしゃぐなよ」
向日葵畑の中を駆け回るパイ。地上に降りて見た向日葵は遠くの空から眺めるよりも遥かに見事で、その光景にテンションが上がってしまったらしい。
そしてあがりすぎたテンションはミスを招く。ぬかるみに足を取られたパイは盛大に転んでしまう。
「おい、大丈夫かパイ!!」
「いたた、うん、大丈夫。あっ、向日葵が……」
差し出された手を掴み、起き上がる。
そして自分が転んでしまった所を見て、悲しそうな表情浮かべた。盛大に転んでも怪我をしなかった理由。それはそこにあった向日葵をクッションにしたからだった。彼女の身代わりとなり、向日葵は何本も茎が折れてしまっている。根も露出してしまっているようだ。
「ゴメンね。パイの所為で……」
申し訳なさそうな表情で花に向かって謝るパイ。それを見て八雲はパイに声をかけようとする。しかし、その時、突如凄まじい殺気と妖気を感じ、後ろを振り返る。
そこには日傘を刺し、緑色の髪をした少女が立っていた。
「あなたは……」
「私が誰かなんてどうでもいいわ」
声をかけた八雲に対し、返ってきたのは冷たい返事。
そして少女の言葉と行動はほぼ同時だった。5メートル位離れた所に立っていた筈の少女は一瞬にしてその距離を詰めると差していた傘を閉じ、その先端をパイに突き刺そうとしたのだ。
そして血が吹き出す。
「八雲!!」
「ぐっ」
パイの悲鳴が上がる。
少女の傘は八雲の左腕を貫通していた。自身の左腕を犠牲にして、庇うことで少女の一撃を防いだのだ。
「くっ、行き成り何を」
「邪魔をしないでちょうだい。誰だって家族を殺されたら怒るでしょ」
「家族!?」
苦悶の表情で叫ぶ八雲に対し、返ってきたのは衝撃の言葉。今まで八雲やパイは敵とは言え、多くの命を奪ってきている。その中に少女の、妖怪と思われる彼女の家族が混じっていたのかと考える。しかし、その考えは少女の次の言葉によって否定された。
「あなたが奪った向日葵の命、あなたの命で償いなさい」
少女の仇とはパイが折ってしまった向日葵のことだったのだ。
八雲の腕から傘を抜くとパイに向かって再び向ける少女。八雲はそれを妨害するため、攻撃をしかける。
「藤井八雲の名において命ず!出でよ雷蛇!!」
結婚祝いに、戦友のハーンより貰った獣魔を召還。電撃の一撃が少女を直撃する。
「ぐっ、そう、あくまで邪魔をするのね」
苦悶の一撃を浮かべながらも少女は倒れない。
そして攻撃を受けたことでこれまでパイにのみ殺意を向けていた少女はその対象を八雲にも拡大する。威嚇の意味も込めて手加減した一撃だったが、ある意味逆効果となってしまったようだった。
「くっ、やるしかないか!!」
「駄目!! 私が悪いのにその人のこと攻撃したら駄目だよ!!」
少女の殺意に戦闘態勢を取ろうとする八雲。しかし自らの非を自覚するパイはそれを制止ししようとする。しかしその健気な姿を見ても少女は殺意を緩めることはなかった。いや、寧ろその行動が偽善的に見えたのかもしれない。より神経を逆撫でしてしまったようであった。
「そう思うのだったら大人しく死になさい」
「出でよ假肢蠱!!」
昆虫の足をつなぎ合わせたような形をした獣魔を召還。その獣魔の足は傘を受け止める。更に少女の動きの止まったところで八雲は体当たりをしかけた。獣魔と合わせた二重の圧力に少女の体が弾き飛ばされる。
「今の内に逃げるぞ!!」
「で、でも……」
「謝るにしてももう少し落ち着いてもらわないと無理だ!!
假肢蠱を翼に変化させ、パイの腕を掴むと空へと飛び上がる。
これまでの戦いで八雲は少女の実力がかなりのものであると気づいていた。少女が頭に血が上っており、途中まではパイしか目に入っていない状態であったから優勢に戦えたが、手加減したまま倒すのは難しい相手だ。
「くっ、假肢蠱じゃ遅い!! パイ、フェイオーを呼ぶんだ」
假肢蠱は移動に特化した獣魔では無いし、他に高速で空を飛べる獣も所有していない。二人の手札の中で最も高速で飛行できる手段を選ぼうとする。しかし、残念ながらその準備が整うまで相手は待ってくれなかった。
「ヤクい!!」
起き上がった少女は中空に浮かぶ八雲達に対し、傘の先端を向けた。そしてそこに膨大な妖力が集約されているのに気づく。
「死になさい」
「藤井八雲の名において命ず!!出でよ光牙!!」
迎撃をするため、八雲もまた獣魔を召還。互いの放った光術が空中で激突する。その力はほぼ同等。しばし拮抗し、僅かな差で少女の放った一撃の方が押し勝つ。
「ぐわあああああああああ」
「きゃああああああああ」
光牙を貫いた光術に対し、パイを庇いその一撃受ける八雲。幸いなことに有る程度の相殺はできたようで威力はかなり落ちていた。おかげで全身が吹き飛ばずにすみ、弾き飛ばされながらもパイを放さず地面に着地する。
「パイ!! ……気絶してるだけみたいだな」
そこで八雲は直ぐにパイの様子を確認し、一息つく。彼女は意識を失っていたが、怪我は大したことが無いようだった。八雲自身に無限の力が湧いていないことから目に見えない深刻なダメージを受けていることも考えられない。。
しかし何時までも安心している暇はなかった。緑髪の少女が近づいて来たからだ。八雲はパイを地面に寝かせると、パイを庇い立ちふさがる。再生能力が働き、身体の傷は修復されて来ている。戦うには問題無い。
「花を折ってしまったことは悪かった。だが、ここまでやれば十分だろう? 勘弁してくれないか」
制裁としては十分過ぎる程やられたと主張する八雲。しかしそんな彼に少女は怒りと呆れの混じった表情を向ける。
「あなた随分凄い再生能力を持ってるみたいね。けど、だからこそ痛みががわからないのかしらね? 花は強いけど、あれだけ完全に折れてしまっては枯れるしかないのよ」
(説得は無理か。もう、やるしか……いや、待てよ……)
少女の言葉を聞き、その意志の頑なさを知って八雲は手を握り締め、そこで少女の言葉を頭の中で反芻し、ある解決案に気づいた。
「待ってくれ!!」
「往生際が悪いわね」
その解決策を伝えるために制止をかける。しかし少女は動きを止めようとしない。そこでそのまま解決策を告げることにした。
「パイが折ってしまった向日葵、俺が治す。だからそれで許してくれないか?」
「!?」
今度は少女の動きが止まる。
そして彼女は少し考える仕草を見せた後に問いかけを返してきた。
「……あなた癒す程度の能力でも持ってるの?」
「ああ、そういう術が俺にはある」
「……いいわ。あなた達を殺しても花の命が戻る訳じゃない。あの子達が助かるのならその方がずっといいもの。ただし、それが苦し紛れの嘘だったりし時は覚悟してもらうわよ」
「ああ」
どうやら少女は矛を収めてくれたようであった。そのことに八雲はほっと一息ついた。
とりあえずの休戦がなった後、パイを起こした八雲は緑髪の少女と3人で向日葵の折れた場所にまで移動していた。下準備として掘り起こされてしまった根を3人で手分けして植える。
「それじゃあ、この子達を治してちょうだい」
「ああ、わかった。藤井八雲の名において命ず!!出でよ导息!!」
そこで少女の要請に応え獣魔を召還する。
自らの精を他者に与えることで、切断された腕さえも一瞬でくっつけることを可能とするその力によって折れた茎は元通りになり、花が元気よく咲いた状態になった。
「よかったあ!! ゴメンね、パイの所為で痛い思いさせちゃって」
「ふぅ、これで許してもらえるかな?」
その元気に咲く花の姿を見て喜び、改めて詫びるパイ。
そして少女に向かって八雲は問いかける。
「ええ、感謝するわ」
そこで少女の口から飛び出したのはとても意外な言葉だった。あまりの予想外に八雲の口からつい本音が漏れる。
「まさか、感謝されるとは思わなかったよ」
「まあ、元々はあなた達の所為だものね。けど、そっちの娘、今、私の機嫌を取るためじゃなく、本気で向日葵が治ったことに喜んで、この子達に謝罪してたでしょ。花を真に尊重するものは人間にも妖怪にも珍しいわ。だから許すだけじゃなく、お礼を言いたくなったのよ。二度と花を折らない様に気をつけると誓うなら又、身に来てもかまわないわ」
どうやら彼女はパイのことが気に入ったようだった。笑顔を浮かべ、寛容な態度を見せる。まあ、人間の価値観すればとんでも無い言い草にも思えるが。
「うん、ありがと!! きっとまた来るよ!!」
それに対し、パイの方もその言葉に対し、先程殺されかけたことなど忘れたように嬉しそうな表情を返す。にこにこわらう二人の少女を横目に八雲はやれやれと言ったように頭を書き、ふと思いついたように言った。
「そう言えば未だお互いの名前も知らなかった。俺は藤井八雲。まあ、无って言う妖怪かな」
「藤井パイだよ」
「八雲にパイね。私は幽香、風見幽香よ」
お互いに名を交わす三人。
こうして争いを終えた八雲達は太陽の畑を発ち今度こそ人里へと向かうのだった。
補足を少々させていただきます
パイの性格について、原作終盤は良くも悪くも普通の女の子っぽくなってこんなに天真万欄じゃない気もしますが、この作品では20巻前後のイメージで書いてます。正直、終盤のパイはいまいちキャラクターが掴めないので。
後、幽香の「花を操る程度の能力」について書き上げた後で枯れた花を再生できることを知りました。すいません、全書き直しは辛いので見逃してくださいOTL