「へぇー、江戸時代の日本みたいな感じなんだな」
「パイ、こういうのTVで見たことあるよ!!」
太陽の花畑を立ち、人里についた八雲とパイはその町並みを見て物珍しさに対し、感嘆の声をあげる。
「色々と町を巡りたいけど、その前に飯にするか」
「うん、パイもうお腹ぺこぺこ!!」
「はは、わかったよ。……って、しまった。すまん、パイ。まだ幻想郷のお金を用意してなかった」
胸元に手をやって呟く。当然だが、外の世界に幻想郷内で使える金銭など流通しておらず、それを手に入れることはできない。そこで八雲達は換金用として砂金や宝石などを少量持って来ていたのだ。
「あやや、じゃあ、早くお店探して、お金に換えてもらおう!!」
「ああ、しかし闇雲に誰かに聞く訳にもいかないしな」
『金や宝石を売れる店を知りませんか?』街中でこんなことを聞くのは『私は貴重品を持っています。泥棒してください』そう言っているようなものである。相手が強盗などであれば跳ね除けるのは寧ろ簡単であろうが、腕のいいスリ等が相手であれば危ないし、来て早々揉め事を起こすのもまずい。まあ、既に幽香と一戦やらかしてしまっているが、集落での揉め事は特に問題となるのは簡単に想像が着く。
「とりあえず、大きな店を探そう。そこで換金してくれればそれでいいし、駄目なら買い物の約束をして、代わりに換金してくれる店を教えてもらえばいい」
「うん、わかった」
そうして集落を歩き、店を探す。元々がそう広い訳でもない人里で周囲よりも大きな店は直ぐに見つかった。『霧雨店』と看板に書かれた店に入る。
「すいません」
「はい、何かご入用でしょうか?」
店の中に入り、声をかけると店主と思われる中年の男性が応対してくれる。
「実は金と宝石を売りたいのですが、この店は買い取りをやっていますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。品物を見せていただけますか?」
「はい、これです」
砂金や宝石を入れた袋を取り出して渡す。鑑定の間、二人は店の商品を眺めて待つことにした。
「これ、変わった形で綺麗だね」
「簪(かんざし)か。最近の日本じゃ京都位でしか見ないよな」
その中で珍しさもあってかパイは簪に興味を示したようだった。妖怪食っちゃ寝とは言え、お洒落や綺麗なものに全く興味が無い訳では無い。現に黄に貰ったネックレスを喜んだこともある。まあ、そのネックレスは三只眼の人格を封印する罠であったが。
そしてその他幾つかの品物を物色し、そうこうしている間に鑑定が完了する。
「お待たせしました。この位でどうでしょうか?」
「……ええ、この額で構いません」
提示された額に目を通し、一発了承をする。
実は商品を眺めていたのは単に欲しい物を選ぶためだけでは無い。商品につけられた値札を確認することで、幻想郷内での物価がどの位であるのかを確かめていたのだ。外の世界での金や宝石の相場と幻想郷内の物価とを照らし合わせれ、店主の提示した金額を適正価格から大きく外れてはいないだろうと判断したのだ。この辺は世界を渡り歩いて身につけた経験だった。
最もこんな碌に交渉すらもしない取引をしたことを彼の上司である鈴鈴に知られれば、確実に叱られるだろうが
「それと折角なんで少し買い物をさせてください」
「ええ、勿論大歓迎ですよ。値段も勉強させていただきます」
先程パイが興味を持った簪を始め、お土産になるものや幻想郷内で役立つものを幾つか購入していく。旅の始めに買い物をし過ぎるのは荷物になるが、八雲達には召還術がある。いざとなれば召還した魔獣を使って聖地まで先に荷物を届けてもらうと言った裏技も行使可能なため、その辺を気にする必要が無い。
そして色々と買い込んだ中から、簪を掴んでパイの髪に挿してやる。
「はは、ありがと、八雲」
「似合ってるぞ、パイ。いい物が買えてよかった。っと、そうだ。後、この店ではマジックアイテム何かは扱っていませんか?」
ハーンから幻想郷で秘術関連の珍しいものが手に入ったら土産に買って来るように頼まれているため、尋ねてみる。すると店主は何やら複雑そうな表情をし、しばし沈黙した後、口を開いた。
「……生憎、うちでは取り扱っておりません。ですが……取り扱っている店ならば紹介することができます。ただ、その店は『魔法の森』と言う少々危険な場所の中にあります。胞子に毒が有り、軽い幻覚作用のあるきのこが生息し、下級の妖怪もうろついているとか。その代わり、他では手に入らない稀少な品を扱っているそうですが……」
「ああ、その辺は大丈夫ですよ。俺もパイも腕には割りと自信がありますから。その程度の危険であれば問題ありません」
問題点を挙げる店主に対し、自信を持って応える八雲。その言葉を聞いた店主は少し迷うような態度を見せた後、頷き
「そうですか。なら、地図を描きましょう」
そうして店の地図を書いてもらう。
「ありがとうございます。それで、この店の名前は?」
「……魔法の森には建物は二軒しかありません。その二軒も離れていますので間違えることはないかと」
「?……そうですか、わかりました」
何故か店の名前を明言しなかったりと店主の態度にはやや気になるところもあったが、パイの空腹が限界に達してしまったこともあり、特に追求せず、地図を受け取って店を出る。
そして出て直ぐに目に付いた飲食店を選んで入ることにした。
「お客さん、一杯いるね」
「ああ、これは期待できそうだな」
店内に入ると、そこはかなりに賑わっていた。客の賑わいは飲食店のよしあしを見分ける一番簡単な方法の一つである。当たりを期待しながら席に着いて注文をし、しばらくして料理が運ばれてくる。
「おっ! なかなか上手いな!」
「うん、おいしいよ!」
そして運ばれてきた料理は期待を裏切らないものだった。明治時代の始め頃に隔離された幻想郷の料理は現在の日本国内で食べられるもの程洗練されてはいないが、その荒さがいい意味での野趣となり、二人の舌を満足させてくれる。
「ふぅ、食った食った」
「パイ、お腹一杯!!」
満足いくまで食事を楽しんだ二人。 そこで二人は先程霧雨店で購入した地図を広げ次の目的地を話し合う。
「パイ、どこか行きたいとこあるか?」
「うーん。パイ、八雲と一緒ならどこでもいいよ。おいしいもの食べられればもっと嬉しいけど」
この幻想郷内の有名所、近場では命蓮寺、少し離れた所では迷いの竹林の中にある永遠亭、離れた所では紅魔館、更にその先の妖怪の山。ただし妖怪の山は余所者は立ち寄れないため、訪れられるのは守谷神社、この通り道だけは妖怪の山に住む者以外に通ることが許されている。
後は正確には幻想郷では無いが、冥界と地底。しかし地底はまだしも冥界やその先の三途の川は観光で行くような所では無い。
「そっか。じゃあ、とりあえずは、近場の命蓮寺と景色のよさそうな守谷神社にでも参拝に行ってみるか。後、地底は温泉もあるらしいぞ」
「温泉!!だったらもう一人の私もきっと喜ぶね」
食べることと寝ることを好むパイに対し、三只眼は風呂と酒を好む。そんな二人にとって温泉街は共に魅力的な場所だ。
「そうだな。あっと、それとどこかのタイミングで魔法の森にあるって言う店にもよらないといけないか。」
「そだね、ハーン君におみやげ買わないと」
「ああ、忘れないようにしないとな」
行き先を決め、二人並んで店を出る。
そして、その道中通りの角を曲がる。その時反対方向から歩いて来た人とぶつかってしまった。
「っと、すいません」
「あっ、いえ、こちらこそ……えっ?」
その相手は兎の形をした耳をつけ、ブレザーに似た服を来た少女だった。彼女は八雲の顔、正確には額を注視している。
見る間に青くなる表情、更にガタガタと震えだす。その只ならぬ様子に、よく状態を確認しようと顔を近づける。しかしその行動がまずかった。
八雲が動いたことが切欠となったのか、それまで震えていた少女が弾かれたように悲鳴を上げたのだ。
「いやああああああああああああああ!! 近寄らないでぇぇぇぇぇぇ!!!」
「えっ!?」
悲鳴をあげて直ぐに空へと飛び上がり、一目散に逃げて行く少女。あまりに突然の事態に、八雲はそれを呆然と見送り、溜息をつくのだった。
「……勘弁してくれよ」
その後、少女の悲鳴を聞いた周囲に邪推されながらもパイを連れていた、つまり女連れだったことで、問答無用で痴漢扱いされることを回避し、居心地の悪い気分を味わいながらも命蓮寺へと足を進めるのだった。