「ここが命蓮寺か、結構立派な寺だな」
「ここ、お寺なの? 何かナパルバさん達のとことは大分違う感じだね」
「そう言えば、パイは日本の寺には行ったことなかったな」
パイの疑問に答える八雲。寺の外観を一通り眺めた後、境内に入るとそこには尼僧の格好をした少女が立っていた。
「あら、こんにちは。見ない顔だけど参拝客かしら? それとも入門希望?」
八雲達の姿に気づいたその少女が声をかけてくる。
「参拝です。大丈夫ですか?」
「ええ、勿論。軽いお参りだけにしておく? それとも、本尊と対面されます?」
「折角なのでご対面をお願いします」
幻想郷ならではの体験。像ではなく、本物の神との直接の対面ができると言う機会を逃すのは勿体無いと希望する八雲。
「わかったわ。それじゃあ、星を、毘沙門天代理を呼んでくるわね」
そう言って、少女は寺の建物の方へと駆けて行く。
「パイ、神様に会えるの楽しみ」
「ああっ、本当の神様に会えるなんて凄いな」
外の世界では到底できそうに無い体験に二人は興奮していた。まあ信仰心に縁がなく、サンハーラなど神話クラスの体験もしている二人にとっては、神に会うと言っても日本人がハワイに言って射撃場で初めて銃を撃つと言った体験に近いレベルの興奮ではあるのだが。
それでも興奮し期待しているのは事実である。待ちわびていると、先程の尼僧の格好をした少女に代わって別の妙にカラフルな髪の色をした女性がやって来る。
「聖白蓮、ここの住職を務めております。本尊への参拝を希望とのことでしたので、私が案内致します。ところでお二人はもしかして外の世界から来られたばかりの妖怪のご夫婦でしょうか?」
「ええ、わかりますか?」
「はい。服装とお二人の雰囲気からそうでないかと。よろしければ外の世界で妖怪がどう暮らしているか、歩きながらで結構ですのでお話いただけませんか?」
命蓮寺、特にその中心人物であり住職でもある命蓮は人妖共存を教義として抱えている。そんな彼女からすれば、外界の妖怪がどのような扱いであるのかは気になるところであった。
「かまいませんよ。ただ、俺達は妖怪と言っても、妖魔に近い方の分類ですので、この幻想郷での妖怪に区分される方についてはあまり詳しくないんですけれど。特に俺は元人間ですしね」
「そうなのですか!?」
「えっ、ええ、そうですけど」
八雲の発言に聖が大きな声をあげて驚きを露にする。それに対し不思議がる八雲とパイ。それを見て、聖が慌てて謝罪し、驚いた訳を説明する。
「失礼……。実は私に元人間なのです。それにこの寺は人妖共存を唱えておりました。ですから、元人間でありながら、人以外の存在へと代わり、そして人以外の存在と結ばれたということに共感と興味のようなものを抱き、思わず声をあげてしまいました」
「なるほど、そういうことでしたか」
「あれ、じゃあ聖さんも妖怪なの?」
八雲は納得するが、パイはますます不思議がる。何故ならば、元人間と言いながらも聖からは妖気が欠片も感じなかったからだ。
「いえ、私の場合は魔法使いです。魔道により人を辞めました」
「へぇー、凄いんだね」
今度こそ納得すると共に、人間が地力で不老の身を手に入れたことに驚き感心する。それは八雲も同じだった。外で不老不死を狙うものを多く見ただけに不老を得るのはそれだけ困難と言う認識が彼らにはある。最も聖は不老を維持できるだけで不死では無いが。
「あまり褒められたことではないのですけれどね。老いを恐れ、死から逃げたのですから。仏に仕える僧としては失格です」
一方、賞賛された聖の方はそれを喜ぶどころか、恥じるような表情を見せた。それに対し、八雲は少し考え、言葉を継げた。
「……俺は宗教家じゃないですけど、聖さんの気持ち、少しは分かります。俺は死にかけたところをパイに救ってもらったことで妖怪になりました。そのことは感謝していますが、元々望んで人間を辞めた訳では無いので、人間に戻りたいと思っていました。けれど、俺は一時的に人間に戻れたことがあって、その時に死にかけたことで人が簡単に死ぬんだってことを思い出したんです。ちっぽけな自分の全てが消え去ってしまうことが凄く恐ろしかった。だから、俺には聖さんを責められない」
「ふふっ、これでは立場が逆ですね。道を説く立場の筈の私が慰められてしまいました」
「あっ、いえ、偉そうなこと言ってすいません」
「いいえ、 ありがとうございます」
らしく無いことを言ったと思ったのか、頭にてをやり、顔を赤くして照れる八雲に対し、笑顔を浮かべて礼を言う白蓮。パイはそんな二人を見てニコニコしている。そうして話している内に本堂にたどり着く。
「ねえねえ、ここに神様いるの?」
「ええ、この中で待っている筈です」
本堂を指し示して尋ねるパイに聖が答え、3人でその中へと入る。そこには黄色と黒の混じった髪の色をした少女、毘沙門天代理、寅丸星が待機していた。
「よく、来ていただけました」
(この人が毘沙門天代理か。確かに強い力を感じるけど見た目は人間とほとんど変わらないんだな。妖怪だって言う幽香さんもそうだったし、妖魔と違って、見た目から明らかに人外ってのは案外少ないんだろうか?いや、もしかしたら、力の有るものだけがそうなのかもしれないな)
威厳のある立ち振る舞いで出迎える星を見て、幻想郷に暮らす髪や妖怪について考える八雲。外の世界でも力ある存在ほど人間に近い存在が多い。龍皇軍の幹部であった九頭龍将を見ても全員が二足歩行だったし、半数近くは人間に混じっていてもぱっと見わからない程その姿が近かった。
「ねえねえ、あなたが神様なの!!」
「ええ、そうです……あれ、あなたからも神格を感じますね?」
神様である少女を見て興奮する少女。それに対し少女は応えようとしてパイを見て少女はパイに神格があると語った。その意外な言葉にパイが驚く。
「えっ、パイ神様じゃないよ」
「はい。確かにあなたは神そのものではない。一体、これは……?」
神格がありながら神では無い。前例を知らない存在を前にして星が困惑の表情を浮かべる。勿論、言われたパイや八雲にしても同じである。聖も答えが出せない。
その場に居た者達が皆、しばし思案をし、口を開いたのは八雲だった。
「……関係あるかはわからないけど、パイはパールバティ4世、ヒンドゥー教の女神のモデルになった妖魔の直系かもしれないんだ」
八雲が心当たりのあることについて説明をする。それを聞いて星は得心したようだった。
「なるほど、そういうことですか。神とは人間の信仰より生まれる存在、それはゼロから誕生することもあれば、元々ある存在が神へと変化することもあります。私自身、元は寅の妖怪だったものが毘沙門天様に弟子入りし、代理と認められることによって神に代わった存在です。パイさんの場合、血と名前を受け継いではいますが、神の地位とでも言うべきものの引継ぎが行われなかったため、神格のみが宿ったのでしょう。あるいは元々の存在が強固で有り過ぎたため、変革せずに神格だけを受け継いだのかもしれません」
「強固?」
「ええ、精神や力、あるいは非常に稀な存在ですが魂の質自体が優れている場合、自身がそう望まない限り、外部からの影響のみでは神格化も妖怪化もしないと教わっています」
「なるほど」
三只眼の内に眠る魂とも呼べる存在。その正体を知る八雲としてはその説明では納得できるものだった。4代目であるパイはともかく、シヴァが神へと変革していない理由としては当人では無いからという理由では説明がつかない。年代的にも一致し、ヒンドゥー教の最高神のモデルそのものであると考えられるからだ。
「しかし驚きました。新規の参拝客がまさか異教の神格を持つ方とは。あっ、心配なさらないでください。こちらとしてはそれでどうこうと言うつもりはありません。このまま予定通り参拝されていかれても結構ですし、帰られても構いません。また。参拝したからと言って貴方方を仏教の下に付いたと考えるつもりもありません。ただ、これも縁と思いますので、できれば友好を結びたいと考えています。勿論、貴方方が害意を持って立ち寄ったとでも言うのなら別ですが……」
半分位は冗談、しかし何割かは本気の懸念の混じった星の言葉に八雲達は勿論敵意などないと否定する。
「俺達にそんなつもりはありませんよ。パイが神格を持つなんてことだって、今、ここで初めて知りましたし、日本の神様に喧嘩売るつもりなんてありません」
「うん、パイもだよ。友好って友達のことだよね。だったら、パイ毘沙門天さんとダチンコになりたい!!」
星の言葉に喜び、手を差し出すパイ。その無邪気な様子は星の懸念を完全に払拭できたようで、微笑ましいものを見たような笑みを浮かべ、その手を取って握る。
そして少し気になった疑問について問いかけた
「ええ、よろしくお願いします。ところで、ダチンコとはなんですか?」
「友達のことですよ。俺が高校生の時、よく使っていた言葉で、パイもそれを覚えたんです」
「なるほど」
「ふふっ、それでは折角なので、私もダチンコにしていただけますか?」
和やかな空気、その流れに便乗して聖もまた友好を希望し、手を差し出す。それに対して八雲達は勿論快諾し、彼女の手を握った。
「ありがとうございます。種族だけでなく、宗教や世界の垣根を超えて親交を結べたこと、とても嬉しく思います。そういえば八雲さんたちは外の世界では人間や妖怪の方とはどのような感じの付き合いを? 迫害とかそう言った目にあってはおられないでしょうか?」
人間から妖怪になった八雲、下手をすれば両者から爪弾きにされているのではないかと心配し尋ねる。それについて八雲達はちょっと困った顔をした。
「少し前に外の世界派手な事件が起きた影響で悪い意味で有名になってしまって、色々と暮らし辛くはなっちゃいましたね。今は、聖地と呼ばれる、こことも外の世界とも別の所で、妖魔のみんなと暮らしてます。それに人間の方も、俺達のことを受け入れてくれる仲間がいますから、何とかやっていけてます」
「そうですか。大変でしょうが、あなた方はよいご友人に恵まれたのですね」
その言葉に聖はほっとすると共に、羨望と希望の感情を抱いた。嘗て彼女は妖怪の守護をしたことで人間から敵視された。それ対して人と妖怪の両方によき仲間を持つ八雲の存在は羨ましさを感じると共に、異種族同士が分かり合うことは決して不可能なことでは無いと言う希望を与えてくれるものだった。
「ええ、それは自信をもって言えますよ」
「うん、ハーン君も鈴鈴さんもママさんもみんなみんな、パイ達の大切なダチンコだよ!!」
胸を張って応える二人を見て、聖は自身の理想について改めて決意すると共に、彼らのような存在と友人になれたことを純粋に喜びの感情を抱く。
その後、当初の予定通り参拝を済ませた八雲とパイはそのまま聖と星と一緒に境内の中を見て周ることにした。
「あれ、さっきの参拝者さん?」
そこで最初に八雲達を出迎えた尼の少女と遭遇。
「ええ、お二人は外の世界より来られたご夫婦で、奥さんのパイさんの方はヒンドゥー教の神格を持っておられます。先程、友好を結びまして、境内の中を案内を差し上げているのです。八雲さん、パイさん、こちらは当寺の修行者で雲居一輪と言います」
「へえ、神様だったんだ。っと、挨拶が遅れてしまいましたね。先程聖より紹介のあった修行者の雲居一輪です。それとこっちは入道の雲山」
一輪は自らが使役する入道を含め、自己紹介を終えた後で呟く。
「それにしても他宗教の神様と出会って直ぐに友人になるなんて、聖姉さんらしいわね」
他宗教の神と友好を結んだと聞いてもらしいと思われる当たり、聖の人柄がうかがえる。そこで新たに二人現れる。その姿は水兵服を来た少女と赤と青の奇妙な形をした羽を持つ少女である。
「お客さん?」
「ええ、新しく友人になった方々よ。二人とも挨拶を」
一輪と同じく寺の修行者である二人に自己紹介を促す聖、それに応じて被っていた水兵帽を取る少女。
「村紗水蜜よ。よろしくね」
「ぬえ」
素直に挨拶をした村紗に対し、ひねくれ者のぬえはぶっきらぼうな態度で自分の名前だけを告げる。
聖はそんな彼女の態度を困ったものだと感じるが、八雲とパイが特に気にした様子を見せないため、ここで説教をするのも二人に対してかえって失礼だと判断して不問とすることにした。
「藤井八雲です。こちらこそよろしくお願いします」
「パイだよ。よろしくね」
お互いに自己紹介をかわす。そこで聖が折角結んだ友好を深めるために、あることを思いつく。
「そう言えばお二方は今日の宿はお決まりですか?」
「あっ、いえ、未だですけど」
「でしたら、今日は寺に泊まっていってください」
「えっ、それはありがたいですけど、ご迷惑じゃあ」
八雲達に宿泊を薦める聖。それは八雲達にとっては助かる話ではあったが初対面の相手に泊めてもらうことを気兼ねし、遠慮の態度を見せる。それに対して彼女は引かずに更に強く申し出てきた。
「大丈夫です。先程約束した、外の世界の妖についての話ももっと詳しく聞かせて頂きたいですし。皆もいいですよね?」
「ええ、勿論です」
「いいよ」
「えー、そいつ等泊まるの!? まあ、聖が認めた奴だし、人間じゃないからいいか」
星と村紗は快諾。人見知りの気があるぬえだけがやや不満気な顔をしつつも、反対するものはいなかった、それを見て八雲も遠慮をやめることにした。
「わかりましたそれじゃあ、お世話にすることにします」
「じゃあ、今日は2名分多く夕食をつくらないとね。あっ、仏教徒じゃないなら、精進料理よりももっとがっつりしたものの方がいいわよね。今日は私の水兵カレーを振舞うわ!!」
「やたー、パイ、カレー大好き」
村紗の言葉にパイが喜びの声を上げた。その喜びようを見て村紗はやる気を強める。
「うんうん、そんなに期待してくれると作りがいがあるよ。その調子だとたくさん食べそうだし、多めに作っておくね」
そしてその日の夜、期待以上の味だったカレーに対し、パイが何杯もお代わりしたり、聖に加え、好奇心でつられたぬえ達が八雲の外での話に聞き入ったりと楽しい時間をすごし、こうして幻想郷での1日目が終わるのだった。
キャラの言葉遣いや呼び方で間違っているところがあればご指摘願いたいです。