八雲とパイの幻想入り   作:史上最弱の弟子

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幕間:月面大戦(前半)

「月面大戦……1000年前、紫様が地上の妖怪を率いて月に挑んだと言う戦いのことですか?」

 

「いいえ、残念ながら違うわ。私達が挑んだ戦いは一方的な敗北でとても大戦と呼べる程のものではなかった。けれど月面大戦は違ったわ。二つの勢力が月面戦争よりも遥かに熾烈な争いを繰り広げた。だからこそ大戦と呼ばれているの」

 

 紫の答えに藍は大きな驚きを覚えた。彼女の言葉から月面大戦と言う言葉の意味を察したからである。

 

「戦いが激化したと言うことはつまり、二つの勢力がある程度拮抗していたと言うことですよね。そして、月で起きた争いである以上その片方は……」

 

「ええ。月の都よ」

 

 月での争いで居る以上、月の都が関わっていない筈も無い。そう予想はしていても、実際に答えを聞くと、それはあまりにもショックの大きい答えだった。何せ月の都に住む月人達は地上の妖怪が最強軍団を結成しても遠く及ばなかった相手なのだから。その勢力と対等に渡り合った存在が居る。その事実に藍は戦慄を覚え、恐怖する。

 

「その相手とは一体何者だったのですか?」

 

 知ることが怖い、そんな感情を抱きながらも勇気を出して尋ねた式に対し、紫は答える。その勢力を率いた男の名を。

 

「龍皇ベナレス。聖魔様と八雲さんの宿敵である鬼眼王の无よ。彼は配下を引きつれ、月に城を建造しようとした。そしてそれは月人達からすれば当然、看過できないことだった。彼等はベナレス達を追い払うために侵攻を仕掛けたわ。けれどその時点で彼らは過ちをおかしていた。妖魔である彼等を妖怪と混同し、地上の妖怪がまた攻めて来たのだと勘違いしたの。妖魔が聖地から地球に移住してくるようになったのは月人が月へ移り住んだ後だったからでしょうね」

 

「なるほど。しかし月人でも苦戦するとは。妖魔、我々妖怪とは異なる怪物。彼らはそれ程までに強いのですか?」

 

 自分達妖怪が月人のみならず妖魔と比べても劣っていると考え、プライドが傷つき、悔しさを感じる藍。しかし彼女の考えに対し、紫は首を振ってそれを否定した。

 

「いいえ。妖魔と私達妖怪との間に大きな力の差は無いわ。勿論、個体差による違いはあるけれど、平均で比べても上位で比べてもそれほどの差は無い。ただしベナレスだけは別格よ。何せあの綿月姉妹とさえ渡り合ったのだもの」

 

「わ、綿月姉妹とですか!? 一体どちらと!?」

 

 綿月姉妹は、月の使者のリーダーの一人であり、妹の綿月依姫はレミリア、霊夢、魔理沙、咲夜が手も足もでず敗北し、姉の豊姫もそれと同等の力を持っていると考えられる。それ程の相手と渡り合ったと言うのはより具体的な事例故に、月の都と対等に争った勢力があると聞いた時以上に衝撃を感じる言葉であった。

 

「……そうね。順番に話してあげるわ。私が覗いたあの戦いを……」

 

 式の驚きを見て紫は語り始める。月面大戦の顛末を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地上の妖怪達、大人しく立ち去りなさい。ここはあなた達の来るところではないわ」

 

 ベナレスとその配下の精鋭、龍皇軍とでも呼べるべき集団に対し依姫が勧告をする。勿論彼女の方も一人では無い。彼女の隣には姉の豊姫が立っていたし、背後には30人程の玉兎が並んでいた。そしてその中には鈴仙も含まれていたのである。

 

(だ、大丈夫よね。昔、地上の妖怪が攻めて来た時だって、相手は手も足も出ずに逃げ帰ったって言うし。も、もしかしたら戦わずに帰ってくれるかもしれないし)

 

 その時、鈴仙は初の実戦に強い緊張と恐怖を覚え、それを必死に堪え、大丈夫だと自分に言い聞かせていた。

 そしてそんな彼女を背後にしながら依姫は勧告を続ける。

 

「月を穢れさせないためにも無駄な殺生は好みません。今なら、無傷で帰れますよ」

 

「生憎だがそうはいかん。こちらの目的に対し、この地は最適なのでな」

 

 依姫の勧告に対し、不敵な笑みを浮かべそれを切り捨てるベナレス。そんな彼の態度と言葉に依姫の雰囲気は鋭さが強くなる。

 

「あなたの目的とやらが何だかは知りませんが、何れにせよあなたの要求を受け入れることなどありません。殺しはしませんが、自分達が如何に無力かわかってもうため、少し痛い目を見ていただきましょう」

 

 言葉だけによる勧告を諦め、刀を抜き構える依姫。自分達の主に武器を向けられ、ベナレスの背後で控えていた部下達もまた牙をむこうとする。

 

「龍皇様、ここは我々が」

 

「下がっていろ。奴はお前達が適う相手では無い」

 

 自分達で依姫と戦おうとする九頭龍将の面々に対し、相手の実力を見抜いたベナレスはそれを無駄と言って切り捨て、下がらせた。

 

「ガネーシャ、ノルクス、お前達二人は隣の女を抑えておけ」

 

 代わりに呼び寄せたのは象の顔を持つ妖魔と神話に語られるフェニックスのような姿をした魔獣。自らの片腕とも呼べる二人に豊姫を取り囲ませ、自身は刀を抜いた依姫に対し殺意を返し、相対の意思を示した。

 

「他の相手はお前達に任せる」

 

 そして九頭龍将と他の部下達は玉兎の相手をするように指示する。戦いなど経験したことの無い兎達は殺意を向けられ、怯え震えそうになるが、そこで依姫が彼女達に声をかけた。。

 

「安心しなさい。大将らしきあの男は私が直ぐに片付けます。あなた達はそれまで、訓練を思い出して粘ればいい」

 

 直ぐに助けに行くと言う上司からの言葉に安堵し、気を緩める玉兎達。対照的に、自分達の主を侮る発言をされた妖魔達は憤りを増し殺意を強める。

 

「くくっ」

 

 そんな中、ただ一人平静に見えるベナレス。しかし、その笑い声をよく聞けば彼が平静などではないことは直ぐわかる。何故ならばその声には抑えきれない歓喜と興奮が込められて居たのだから。

 そしてこの時になって初めて、依姫の方も自分が何か勘違いしているような、そんな違和感を感じ始めた。

 

(この男、1000年前に相手をした地上の妖怪とは何かが違う?)

 

 しかしその違和感の答えに依姫が辿り着くよりも早く、会戦の合図が告げられた。

 

「ベナレスの名において命ず、出でよ、光牙!!」

 

 会戦の合図となったのは先手を取ったベナレスの攻撃。それは連続して召喚される五匹の光の龍。一発一発が魔理沙のマスタースパークに匹敵する威力の光術が依姫に迫る。同時にその場に居た他の者達にとってもそれは会戦の合図となった。散会して各々が戦闘を開始する。

 

「「『石凝姥命』よ 三種の神器の一つ 八咫鏡の霊威を今再び見せよ!」

 

 自分に対し迫る5条の光に対し、依姫は鏡を生み出しそれを全て反射して見せた。神降ろし、八百万の神の力をその身に宿すことができる彼女の能力である。

 跳ね返された光術は術を放った者のもとに返るようにベナレスに向かって真っ直ぐに迫った。

 

「出でよ鏡亀!!」

 

 それに対ベナレスは獣魔を召喚し、反射された光術を更に跳ね返す。亀の甲羅の形状から、5発の光術は拡散し、4発は様々な方向へと飛び散り地面にぶつかったり、空へ飛んで消えたりしたが、1発のみ再び依姫へと迫った。

 

「更に返すこともできるけど。延々それを繰り返すのも間抜けね」

 

 その光の龍に対し、依姫は刀を振って真っ二つに切り裂く。更に、先程とは別の神をその身に降ろし反撃を仕掛けた。

 

「『大雷』よ 天の怒りを示せ!」

 

 一瞬にして空に雲が生まれ、そこから落雷が発生する。それも通常の自然雷の数倍の威力を持った電撃。その電撃がベナレスに向かって伸びた。

 

「出でよ避蛇(ピンシオ)!!」

 

 ベナレスの腕から金属のような質感を持った蛇の獣魔が生み出される。するとベナレスに向かっていた筈の雷は引き寄せられるかのように方向を変え、その蛇へと落ち、そのまま地面へ流れ拡散した。

 

「避雷針の効果を持った術。確かに地上の妖怪にしてはやるようね。ですが私にはまだ、799万以上の手がある」

 

 自分の攻撃を防がれても依姫にはまだまだ打てる手がある。彼女は焦ることなく、また次の神を降ろして見せる。

 

「あなた位の強さがあるのなら、身体の半分位無くなっても死なないでしょう。『火之迦具土神』よ妖怪の半身を焼き尽くせ」

 

 ベナレスの下半身を目標にしてバレーボール大の火球を放つ。それに対応するべく、ベナレスの方は3つの獣魔を連続して召喚して見せる。

 

「出でよ回風!被甲!凍血球!」

 

 刃を扇風機のように回転させる獣と火球が激突。炎は一瞬にして獣魔を焼き尽くす。しかし獣魔の回転によって、炎もまた幾分か散らされる。

 そして炎は鎧獣を纏ったベナレスに直撃し、激しい炎をその場に撒き散らした。

 

「多少威力を弱めた所で神の炎は全てを焼き尽くす、鎧程度では……」

 

 防げない、そう続けようとした時に炎の中から溶けた鎧獣魔が飛び出してきた。依姫の言うように被甲だけでは神の炎を防ぐには力不足であった。しかしベナレスは凍血球で被甲を凍らせることで炎に対する耐久力をあげ、攻撃に耐えて見せたのである。

 

「出でよ」

 

 溶けて崩壊しかけた装甲を内部より破り、外に飛び出したベナレスは依姫に向かって手を突きつけ、新たな獣魔を呼び出す。

 

「闇魚!!」

 

 召喚された獣魔が生み出す一切の光を通さぬ闇が依姫を包み込み、その視界を完全に閉ざす。これは普通のものならそれだけでパニックになってもおかしくない状態だ。しかし依姫は慌てなかった。

 

「女神の舞に大御神は満足された 天岩戸は開き夜の侵食はここで終わる 『天照大御神』よ! 圧倒的な光でこの世から夜をなくせ 」

 

 太陽神の力を持って獣魔の生み出した闇を払って見せる。

 そして回復した彼女の視界に最初に入ってきたのは直ぐ目の前に迫ったベナレスの姿。その右手は変化し、鋭い爪へと変わっていた。

 

「火猿猴爪!!」

 

「くっ」

 

 その爪の一撃を素早く刀で防ぐ依姫。しかし攻撃はそれで終わらず、追撃が放たれる。

 

「出でよ石絲!!」

 

 またも刀で防ぐ。しかし獣魔が吐いた糸が刀に触れた途端、名刀だった刀は石の塊へと変化してしまった。

 

「石化!?」

 

 元がどんな名刀であったとしても石化させられた状態では鈍ら以下。この状態でベナレスの攻撃を受ければ間違いなく砕け散ってしまう。

 

「『金山彦命』よ 私の刀を元の状態へと戻せ!!」

 

 それを防ぐため、鉱山と金属加工の神を降ろし、刀を再構成した。しかし防御でも攻撃でも無いその行為によりベナレスの攻撃に対する対応が一手遅れる。

 

「出でよ土爪!!」

 

「くっ」

 

 3本爪の獣魔が依姫の腹を切り裂く。咄嗟に上半身を逸らしたおかげで傷は浅くすんだものの、表情には苦悶が浮かぶ。

 

「『建御雷神』よ その武を示せ!!」

 

 その痛みに耐えて戦闘を継続、今度は武神を降ろす。その結果元々高かった彼女の武の技量をは更に強化され、振るわれる剣技は正に神業と呼ぶにふさわしいものへと変化した。その剣戟を前にベナレスは全身を切り裂かれ、身体に次々と傷を作っていく。

 

「ぐっ、この俺が白兵戦でおされるとはな!」

 

 ベナレスの龍皇以外の肩書きは『大魔道士』その体格と身体能力の高さ故、格闘戦では無類の強さを発揮するが、武術に関する技能に関しては然程高いわけでは無い。

 そして依姫の身体能力はベナレスに迫るレベル。故に技量の差がそのまま白兵戦における強さの差になって現れたのだ。

 

「このまま押し切る」

 

 この状況を有利と見た依姫、これまでの戦いから会戦前にあった侮りを捨てベナレスを強敵と認めていた彼女は一気に勝負をつけようと更に攻撃を強めた。

 追い詰められるベナレス。そこで彼は召喚する。

 

「出でよ時走(シーツォウ)!!」

 

 この状況をひっくり返す力を持った獣魔を。




八雲とパイが幻想郷を周るだけの話と言ったのに書いてしまったベナレスVS依姫。3×3EYES最強VS東方最強の頂上決戦。嘘ついてすいません。この戦いは次回で決着となります。

PS.オリジナル獣魔が幾つかでていますが、その効果は原作設定的に無理の無いもののみに限定するようにしています。避蛇は、雷蛇の対抗獣魔として産みだしたものという設定で、ラストに出した時走も原作に出てきたある能力を獣魔化したものです。さて、何でしょう?
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