「なあ、まだか?」
「もう少し待ってくれよ。こっちは初めてなんだ」
魔理沙と弾幕ごっこをすることになった八雲。しかし直ぐには開始せず、色々と準備を行っていた。今はスペルカードを作成し、それで獣魔を召喚できるようにしている。
「これで最後。またせてごめん」
「よし、準備できたみたいだな。あっ、一応もう一度言っとくぜ。スペルカードは3枚。どちらかが弾幕に直撃するか、両方がスペルカードを使い切ったら終わりだからな」
「ああっ、わかった」
ルールの確認をし、バッタ型の魔獣を呼び出す八雲。それに対し箒に跨る魔理沙。偶然にもお互いが棒状の物に乗って飛ぶ形となる。
そして木々の高さを超え、空中に舞い上がり、ある程度の距離を取ったところで向かい合い、勝負開始の時を待つ。
「それじゃあ、いくぜ」
「ああっ、何時でもこい!!」
開戦の確認を取る魔理沙の言葉に八雲答える。
そして勝負が開始された。
「それじゃあ、まずは小手調べだ」
先手を取ったのは魔理沙。言葉通りに小手調べとして通常弾幕を数発放つ。それに対し回避行動を取る八雲。
「よっ、よっと。よし、避けられたぞ」
連続して放たれた弾幕を魔獣を上下左右に動かし回避する。魔獣は彼の思念に反応し、思い通りに操ることができるようで、その速度も問題無いようだった。
「これ位はかわせるみたいだな。じゃあ、どんどんいくぜ!!」
「くっ」
八雲がちゃんと回避できることを確認した魔理沙は攻撃を強める。
僅かな隙間を残し、間断無く放たれる弾幕、その攻撃に対し、八雲は先程と同様に回避するが、次第に余裕が無くなっていった。元々、八雲の本来の戦術は不死身の肉体を活かした『肉を切らせて骨を断つ』と言った捨て身戦法である。コネリーの指導により回避の大切さを学び多少マシになりはしたが、回避を基本とする弾幕ごっこのルールは彼にとってかなり不得意な分野なのだ。
「くっ、こっちも反撃しないと!!」
このままではまずいと八雲が腰に取り付けた袋から何かを取り出す。それは石だった。通常弾幕用として予め拾い集めておいたのである。その石を投げる。
石はコントロールよく魔理沙へと真っ直ぐ迫る。
「うおっと。なっ、なんて速さで投げるんだ」
何とか回避するものの、その投合された石の速さに驚く魔理沙。无の強さは主たる三只眼の力の変化に影響を受ける。三只眼が鬼眼五将と契約したことによって、その恩恵を受けた八雲の身体能力は魔獣”乱暴暴”に変身した紅娘に腕力で押し勝ち、その巨体を投げ飛ばせる程に上がっている。サンハーラ以降多少弱体化したものの、それでも人間の域は軽く超えている。その豪腕から繰り出される速球はプロ野球選手のストレートボールを遥かに超える速度となっていた。
「今度はこっちが行くぞ!!」
石を回避するために体勢を崩し、魔理沙の攻撃は止まっていた。それをチャンスと見た八雲は次々と石を投げる。しかしそこは魔理沙も弾幕ごっこのスペシャリスト。数百キロの速さで連続して飛んでくる石に対し見事な回避をして見せた。
「そんな単純な弾幕、そう簡単には当たってやらないぜ。それに石を投げてるんじゃ数に限りがあるんじゃないか?」
魔理沙の言葉通り事前に拾った石の数は20余り。あっと言う間に投げつくしてしまう数だ。しかし、八雲は慌てなかった。
「操演!!」
「なっ!!」
投げて地面に落ちた筈の石が八雲の手元に戻ってくる。試合開始前、八雲は石に呪文を刻み、操れるようにしたのだ。その気になればストレートだけでなく、複雑な軌道に操り魔理沙を狙うこともできたが、それをしてしまうと通常弾幕の域を超えてしまうため、ただ弾幕の回収としてその呪文を利用したのだ。
「弾幕の回収もできるのか。なかなか油断ならないな。なら、こっちも切り札を一つ見せてやるぜ!!魔符『ミルキーウェイ』」
スペルカードを1枚使用し大量の星型弾幕を生み出す魔理沙。弾幕ごっこのルール上、隙間はあるが、初心者の八雲にその合間を縫うのはあまりに難度が高すぎた。かわしきれないと判断し、迷わず自身もスペルカードを使用する。
「蛇符『スペルスネークバインド』」
先端が蛇の口のような形をした蔦のような触手を生み出し、それを操って星型弾幕にぶつけて破壊していく。
「ボム相殺か!!」
星型弾幕を全て消し去るもののスペルスネークバインドも消滅する。そこで続けて次のスペルカードを使用した。
「今度はこっちの番だ。龍符『光牙』!!」
光の龍の獣魔を召喚し、放つ八雲。魔理沙は高度をあげて回避をし、龍は彼女の足元を通り過ぎる。しかし、それで終わりではなかった。
「曲がれ!!」
「なっ、耐久スペルか!?」
龍は反転し、再び魔理沙を襲ったのだ。身体を捻ってそれを何とか避けるがまだまだ攻撃は止まらない。3度、4度と魔理沙を襲う。
「くっ、こいつはやばいな」
連続して自身を襲う攻撃に余裕が少しずつ奪われる魔理沙。そして五度目の接近、そこで龍は彼女の脇をかすった。スペルカードのため殺傷力は抑えられているが、自動販売機の缶が押し当てられたような熱を感じる。このまま続ければ何れ完全に捕らえられたかもしれない。しかし5度目の反転はなかった。
「くっ、時間切れか」
「今のはいい弾幕だったぜ。見た目も綺麗だったしな」
スペルカードの制限により消える光牙。それを確認すると魔理沙はにっこりと笑って、八雲の攻撃を賞賛する。その余裕に見える態度に八雲は馬鹿にされたように感じ、軽い焦りと憤りから皮肉が口につく。
「随分、余裕みたいだな」
「いや、結構危なかったぜ。初めてであんなスペルを作るなんてやるじゃないか!」
八雲の皮肉に対し、まるで気づかないかのように答える魔理沙の口調は軽く表情は笑顔、しかし真面目に言っているように聞こえた。そこには嘘をついたり馬鹿にしたりしている様子は一切見えない。本当に純粋に賞賛しているようだった。そんな彼女の態度に八雲は毒気を抜かれ、そして戦う前にされた説明を思い出す。
(そういえば、この弾幕ごっこってのは幻想郷の住人にとって『遊び』なんだっけ)
魔理沙は決して手を抜いたり、適当にやっている訳では無い。相手を馬鹿にしている訳でも無い。この勝負に賭かっているものだって大事だ。けどそれ以上に彼女はこの戦いそのものを”楽しんでいる”のだ。だから相手を賞賛する言葉も素直にでてくるし、戦いの中でも笑顔なのだ。そのことに八雲はようやく気づいた。
(負けても命が取られたりする訳じゃないし、俺も楽しんでみるかな)
重いもののかからない気楽な戦い。もう10年も前になる学生の頃や子供の頃の遊び以外に体験していなかったそんな戦いに八雲は童心を思い出したかのような気持ちになり、少し興奮した気分を覚えた。
「じゃあ、次はこっちが行くぜ」
そんな八雲の気持ちは他所に、魔理沙は八角形の形をしたアイテムを八雲に対し向ける。中国を中心に活動していた八雲はその見た目からアイテム意味に直ぐに気づく。
(あの形と呪文は八卦炉を模したものか、何かの術的なアイテムだな)
何か大技が来ると推測し身構える八雲。
そしてその予想通り、魔理沙は自身の十八番とも言える技を放つ。
「恋符『マスタースパーク』!!」
八卦路より放たれる極太のレーザー。その太さと速さに八雲は回避を諦め、最後のスペルカードを切ることを決めた。
(光牙や哭蛹じゃよくて相殺にしかならない。なら、一か八かだ!!)
「うわあああああ!!」
極太のレーザーが召喚された獣魔に接触。勢いに負けて八雲の身体は弾き飛ばされる。
「んな!?」
しかし、あくまで吹き飛ばされたけ。弾幕自体は八雲に命中せず、マスタースパークは反射され、撃った魔理沙自身の下へと正確に返っていく。
「んなっ!?」
その事態に驚愕の声をあげる魔理沙。
月に侵攻した時に依姫にも反射されたことはあるが、自身に向けて跳ね返されたのは初めての経験であった。そのため驚きから一瞬身体が硬直してしまい、反応が遅れることとなった。
「や、やばい。恋符『マスタースパーク』」
その結果回避が間に合わなくなり、再度のマスタースパークを放つことで対処する。反射されたマスタースパークと新たに撃ったマスタースパークがぶつかりあい、そして両者は相殺され共に消滅した。
「……」
「……」
短い沈黙が落ち、そして八雲が問いかける
「これは、引き分けでいいのかな?」
「ああっ、そうなるな」
お互い3枚スペルカードを使いきり、決着が付かなかった以上勝敗は引き分けとなる。
弾幕ごっこには自身があっただけに引き分けと言う結果にちょっと悔しそうに言う魔理沙。しかし、直ぐに晴れやかな笑顔に戻って言った。
「そう言う訳だから両方の勝ちってことで八雲はアイテムを私にくれて、私はアイテムを半額で売るってことでいいよな」
「ははっ、わかったよ。精々良いものを買わせてもらうよ」
都合のいい魔理沙の主張に苦笑しながらも賛同する八雲。楽しい時間をくれたお礼、そんな気持ちがあっただけに気持ちよくその申し出に応じることができた。
こうして二人の戦い、八雲の弾幕ごっこ初体験は終わるのだった。
次話より地底編となります。
後、3話位で一旦切って終了としたいと思います。