―― 『タイタンⅣ』艦橋 ――
音声通信が繋がってから約2時間の後、地球防衛軍の捜索・救助隊が艦橋に進入した。
『地球防衛軍所属、宇宙戦艦ヤマトの真田です。貴女方を救助に来ました』
「時空管理局所属、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。危ない中助けに来ていただき、ありがとうございます····こちらは私の補佐官、シャリオ·フィニーノとティアナ·ランスターです」
日本語が通じる事がわかっていたので、会話は初めから日本語だった。
真田という男にフェイト達は挙手しようとしたが、真田はそれを遮る。
『詳しい話は後で。この艦は長くはもたない。直ちに我々の艦に移乗していただきます』
「‥‥わかりました。お願いします」
艦内では煙が濃くなり、あちこちで誘爆も起きている。真田の言うとおり、これが潮時だ。
というか、捕虜ではなく要救助者という立場にあるだけでも幸運と言うべきだろう。
『他に生存者はいるか?』
真田の問いに、ブリッジで捜索にあたっている者からの回答は芳しくない。
『‥‥わかった。彼女たちを『ヤマト』に移乗させるぞ』
真田はブリッジでの捜索中止を決断。フェイトたちに酸素マスクを装着させると、フェイトとティアナはヤマト乗組員の肩を借りて、シャリオは背負われてブリッジから退去していく。
(‥‥‥‥)
ブリッジを後にする時、フェイトは奥に視線を向けて瞑目した。
『ヤマト』からの捜索隊は二手に分かれて『タイタンⅣ』艦内に進入。
真田たちはブリッジで3名を救出したが、もう一方のグループの面々には一様に困惑の表情があった。
事切れている乗組員の中に、あきらかに服装や装身具が大きく異なる者がいたからだ。
多くは地球のものとさほど変わらないデザインのジャケット・ワイシャツ・ネクタイにスラックス(男)かスカート(女)姿で、容姿も地球人とほとんど変わらない事にまず驚かされたが、中には、中近世の騎士、あるいはファンタジー世界のキャラクターそのものの服装に、大型の杖や槍、刀剣を手にしている者も含まれていた。
時空管理局の事は、連邦政府や軍でも知っている者は限られており、TF13でも全クルーが知っているわけではなかったから、困惑するのも仕方ないものだったが――。
『マジかよ‥‥子供まで乗せてるのか、この船は!?』
『今は生存者捜索に集中しろ』
怒り混じりの声も上がっていた。
それらの声は通信に乗って真田にも聞こえており、たしなめられた。
その直後、『ヤマト』から緊急信が入る。
『相原です。複数の敵艦が接近しています。直ちに撤収して下さい』
『わかった』
相原からの通信を受けて撤収指示を出そうとした時、
『技師長、生存者を発見。制服姿の‥‥男児です!』
『その子も収容しろ。ガトランティスの残党が戻ってきている。全員撤収だ』
『了解!』
『テシオ』『クズリュウ』『ヤマト』のタキオンレーダーが中規模のガトランティス艦隊を感知。司令官代行の嶋津冴子が捜索・救助作業の中断を命じたため、『ヤマト』からの救助隊員は管理局員4名とともに、自壊し始めた『タイタンⅣ』から退去した。
――『テシオ』――
(“ハラオウン”ねぇ‥‥)
『ヤマト』からもたらされた救助情報に、嶋津もまた驚きを隠せなかった。
軍の保護下にあるクライド・ハラオウンは、家族は妻と一人息子だけと言っていたから、親戚か縁者の可能性もある。
さらに、送られてきたフェイトの画像を見た時はさらに驚いた。
髪と瞳の色を除けば、20歳前後の頃の嶋津自身とよく似ていたから。
(いずれにせよ、直接話してみない事にはな)
顔立ち云々は置いておくとしても、クライドの事は聞いておく必要があったからだ――。
次元航行艦『タイタンⅣ』から救出されたのはフェイト・T・ハラオウンら4名だけだった。
『タイタンⅣ』は中小口径砲による多数の被弾で艦体をボロボロにされ、構造崩壊を起こし始めたため、あれ以上の救助活動は不可能だった。
加えて『タイタンⅣ』を攻撃したガトランティス艦の生き残りが逃走していった方向からガトランティスらしき艦隊が現れたため、フェイト達が『ヤマト』に収容されるのを待って、TF13は戦闘態勢のまま後退した。
「敵さん方との距離は!?」
「変わらないまますれ違いつつあります」
「わかった。警戒を続けろ」
―― 『ヤマト』医務室 ――
救出されたフェイト、シャリオ、ティアナと男児 ―― スターレット・タランティーノ ―― は『ヤマト』に収容され、佐渡酒造による診察と傷の治療を受けた。
フェイトとティアナは軽傷で済んだが、シャリオは左腕の単純骨折。
一番ひどかったのはスターレットで、爆風に吹き飛ばされたため全身打撲に肋骨8本骨折と、それに起因する火傷に肺損傷という重傷で、緊急手術を要した。
管理局員が職務中の負傷で緊急手術を行う場合は上官の承諾を要するが、今回の場合、上官たる『タイタンⅣ』艦長は死亡したとみなされたため、この場にいる管理局員では最上位のフェイトが緊急避難措置として手術を承諾し、開胸手術が行われた。
既に治療を終えたフェイト達3人は、医務室で手術終了を待ち続けていたが、佐渡が出てくるのを見るや、弾かれたように立ち上がった。
早足で歩み寄ってきたフェイト達に、佐渡は破顔一番で告げる。
「手術は成功じゃ。生命の危険はない。あとは麻酔から覚めるだけじゃな」
「ありがとうございます」
佐渡に礼を述べるフェイト達の後ろから声がした。
「彼の方はひとまず心配なくなったから、貴女たちも食事にしましょう?」
ボックスミールを載せたカートを押しながら、女性クルーが入ってくる。
「ありがとうございます。森船務長」
「お互いに知りたい事は色々あるけど、まずお腹を満たさないと、ね」
「はい‥‥」
スターレットの生命の危険はなくなったが、フェイト達には“地球防衛軍”の事情聴取が待っているのだ。