フェイト達が『ヤマト』に収容された頃、時空管理局も激震に見舞われていた。
XV級次元航行艦『タイタンⅣ』が短い救難信号を発し、そのまま消息を絶ってしまったのだ。
『本艦は《エネミーA》の戦闘艦複数に攻撃され‥‥!』
『タイタンⅣ』からの緊急通信は途中で途切れ、自動救難通信に切り替わると共に、次元航路管制局や管理局次元航行本部、僚艦からの呼びかけにも全く応答がなかった。
それだけでも管理局を愕然とさせるのに十分過ぎたのだが、悪い事は重なるもので、フェイト・T・ハラオウンも便乗していた事が、事態をより深刻化させた。
本局に係留中のXV級『クラウディア』艦長のクロノ・ハラオウンは、凶報に十数秒間呼吸を忘れた。
だが、
(――いかん、僕が動揺を露わにしてどうする!)
気を取り直し、深呼吸すると関係者への連絡を始めた。
――ミッドチルダ首都、クラナガン市内――
クラナガン港湾特別救助隊に身を置くスバル・ナカジマ一等防災士は、この日は非番で朝食を終えたところだった。
今日一日どう過ごそうかと考え始めた時、専用デバイス『マッハキャリバー』に音声通信が入った。
発信者は直属上司のヴォルツ・スターン防災司令だ。
非番なのを承知で連絡してくる以上、大きな火災でも起きたのかと緊張しつつ回線を開く。
「はい、ナカジマです」
『休み中に済まんな。今話せるか?』
「はい。‥‥何かあったんですか?」
画面に映った上司の顔は、緊張を通り越して強張っていた。
『‥‥お前さんの先輩と友達の乗った艦がエネミーAに襲われ、消息を絶った』
「‥‥え‥‥?」
――第97管理外世界・海鳴市、ハラオウン家――
「‥‥誤報じゃ、ないんだよね‥‥?」
『――そうあってほしいと、今でも思っているさ』
夫のジョークセンスのなさをよく知るエイミィ・ハラオウンは、この時ばかりは彼の生真面目さを恨めしく思った。
「――お義母さんはもうすぐ帰ってくるから私が伝えるとして、高町さんやアリサちゃん、すずかちゃん達には‥‥?」
リンディは、2人の孫とアルフを連れて、高町なのはの実家に遊びに行っている。
『そっちは母さんと相談して決めてくれ。それと、アルフが帰ってきたら目を離さないでいてくれ』
アルフはフェイトの使い魔であり、万一フェイトが重傷を負えばアルフもおかしくなるし、命を落とせば、主と運命を共にすることになる。
逆に言えば、アルフがいつもと同じ様子ならば、フェイトは無事でいるという可能性が高いのだ。
「····わかった」
――通信を終えたエイミィが窓から外を見ると、ちょうどリンディとアルフがカレルとリエラを連れて、マンションの入口をくぐったところだ。
どんな顔をして伝えるべきか、エイミィはしばし途方に暮れた。
――『クラウディア』艦長室――
『クロノ君!』
ひと通りの関係者に一報し終え、コーヒーを口にしたところに、緊急通信が飛び込んできた。
「‥‥はやて」
特別捜査官職にある八神はやて二等陸佐だ。
『ほんまなんか!? 襲われた艦にフェイトちゃん達が乗ってる言うんは!?」
「‥‥事実だ。複数のエネミーAに襲撃されているという緊急電を最後に、一切の応答がなくなった」
感情を圧し殺したクロノからの答に、
『‥‥そんな‥‥』
『主!』
はやてにとって、フェイトは小3からの親友であり同僚。シャリオとティアナは機動6課時代の部下だ。平静を保っている事はできなかった。
よろめき、倒れそうになったはやてをとっさに支えたのか、シグナムの緊迫した声も聞こえてきた。
「はやて、絶望するのは早い。エイミィの話では、アルフの体調に異変は出ていないしな」
『さ、さよか?』
アルフに大きな異変がない以上、フェイトの身に重大な危機は起きていないと言っても過言ではないのだ。
はやては、最大の懸念事を口にする。
『なのはちゃんには?』
「教導隊長に連絡した。休憩時間になったら話をして、こちらに連絡してもらう」
高町なのははフェイトの一の親友だが、今は大勢の空戦隊員を教える立場だ。
さらに、なのははヴィヴィオの母親だが、フェイトもまたヴィヴィオの法定後見人なのだ。
2人が受けるであろうダメージの大きさを思うと、クロノは頭を抱え込みたかった。
はやてとの通信を終えた直後、今度は本局高官からの通信が入った。
「ロウラン統括官‥‥」
起立しようとしたクロノ達を制した本局人事統括官・レティ・ロウランはクロノに告げる。
『貴方と《クラウディア》に《タイタンⅣ》の捜索命令が出たわ。36時間以内に出発して。
人選は貴方に一任するわ。必要ならば私の名前を出しても構わないから』
「‥‥わかりました」
本局としても、
しかし、現場到着が早いに越した事はない。
クロノは早速捜索隊員の人選に取りかかった――。
―― 管理局・クラナガン第3飛行場――
“ガチャン!”
「なのは!」
教導隊長から話を聞かされた高町なのはの手からタブレットが滑り落ちた。
顔からは血の気が失せている。
「今、事態はどこまで進んでいるんですか!?」
茫然自失しているいるなのはに代わり、ヴィータが隊長に質問するが、隊長も多くの情報を持っているわけではない。
彼も困惑した表情で返した。
「その件で、クロノ・ハラオウン提督から連絡を要請されている。――高町空尉は半日休暇を取れ」
「わかりました!‥‥なのは、行くぞっ!」
「!‥‥失礼しましたっ!」
ようやく再起動したなのはは、ヴィータに引っ張られて退出し、教導官室に向かった。
「‥‥ごめんね、ヴィータちゃん」
「謝る事はねえ。あんな凶報に平静でいられる方が異常だ」
ヴィータとて、フェイトとの付き合いは10年を超え、親友といっていい間柄だ。
「午後の課程はあたしがやるから、おめーはヴィヴィオについててやれ」
「わかった。ありがとう」
「気にすんな。出る前に何か腹に入れとけ」
「うん」
フェイトの遭難を知れば、ヴィヴィオは確実に動揺し泣きじゃくる。
ヴィヴィオを守れるのは、母親であるなのはしかいないのだ。
クロノ・ハラオウン率いる初動捜索隊が本局を発ったのは、『タイタンⅣ』の緊急電発信から11時間後の事だった。
なでしこ、すっかり賊軍扱い。
見事な掌返し(笑)