── タイタン基地・『アンドロメダ』 ──
真新しい司令官公室に男女が言い争う声が響く。
「嶋津、お前ふざけるのも大概にしろ!」
『プライベートならいざ知らず、任務で手を抜いた事は一度たりともありませんが、何か?』
「このデータのどこが真面目というんだ! 魔法だ?術式だ? アニメや映画の見過ぎだ!」
『ワープや波動砲も、ほんの数年前まではファンタジーでしたが?』
「話をはぐらかすな!」
「そこまでだ。2人とも」
エスカレートしかけた口論を断ち切ったのは入室してきた部屋の主、土方だ。
着席するや、土方は目の前の幕僚が手にしているレポートの提示を促す。
「司令、これは荒唐無稽すぎて、とてもお見せできるものでは‥‥」
「それを判断するのは私だ。そのための材料を整理・吟味するのが君の役目だろう?」
副官に皆まで言わせず、土方は再度促した。
‥‥土方は、タブレットの画面にしばらく目を通していたが、やがてタブレットを机上に置いた。
「‥‥ご苦労だった。今後の事は工作隊に引き継ぎ、修繕と補給が済み次第、原任務に戻れ」
『わかりました』
── 『テシオ』艦橋 ──
「どうでした?」
艦長室から上がってきた嶋津にカルチェンコが訊ねる。
先ほど連合艦隊司令部から嶋津が名指しで呼び出されたため、ブリッジクルー一同も気になっていたのだが──。
「問題ない。鬼竜は受け付けてくれた」
「‥‥つまり、(幕僚連中と)やり合ったんですね?」
「我ながら荒唐無稽な内容だったからな。慎重意見をいうのは幕僚の役目さ」
嶋津はそこで一息つく。
「そっちはいいとして、あの船と生存者の事で新たにわかった事は?」
「結局、他にクルーはいませんでしたが、数十人の生活の痕跡がありましたから、何らかの理由で他のクルーは退去し、彼のみが艦に残った、というのが一番近いかと」
「‥‥艦長クラスというわけか」
「ジャケットに〈キャプテン〉と〈クライド・ハラオウン〉と読めるような刺繍がありましたから、間違いないでしょう」
詳しい事は彼が目覚めてからだが、全身打撲に内出血で、しばらくは安静を要するとの事。
事情聴取は地球で行う事になろう。
「『エスティア』の方は?」
「什器備品等は驚くほど我々の文化と似ています。居住性ならば、恐らくはあちらさんの方が進んでいます。‥‥まあ、あちらの船は戦闘艦ではなく、巡視船と言った方がいいですね」
篠田が補足した直後、通信主任のイ・ソンヨブから報告が飛ぶ。
「第4艦隊分遣隊と工作艦『ホンダ』・病院艦『コッホ』、あと2時間で到着します」
「了解、クライド氏の転院準備を進めさせてくれ」
──防衛会議が、準惑星マケマケ守備隊の再派遣凍結、同じく太陽系外縁の準惑星エリス・ネメシス守備隊引き揚げとブービートラップ設置を決定したのは翌日だった。