「クライド艦長の?」
「はい‥‥」
嶋津はフェイトを見る。
フェイトの端正な顔に、少しばかり愁いが漂っていた。
彼女の身上は簡単だが聞き及んでいる。
9歳の頃に実の母親を失ったという。それも目の前で。
「お義母さんの旦那さんと同一人物か確認したいのかな?」
「‥‥おっしゃるとおりです」
真田の問いが図星だったようで、フェイトは一瞬の瞠目の後に首肯した。
「その為には我々と一緒に、西暦2201年の地球に来てもらうか、我々の地球との通信手段を確保しなくては、だな」
「‥‥‥‥」
確実なのは前者だが、仮にクライドと対面できても、時空管理局とコンタクトが取れなければ、還すこともままならない。
後者については、
「ガミラス軍が前線基地を置いていた冥王星との間に敷設していた通信網をデスラーが譲渡してくれたので、今それを掌握するための作業を進めている。それが済めば、ほぼリアルタイムで銀河間通信ができるだろう」
真田の説明を聞いた嶋津は顎に手を当てて考え込む。
「そっちの方が手っとり早いか。‥‥管理局の方はどうだろうか。何か心当たりはないかな?」
と、フェイトを見やると、即座に回答が来た。
「私達が乗り組む次元航行艦には、通常空間に設置して付近の艦船や本局・支局と通信できる『次元間通信ブイ』を搭載しています。あのメッセージボードを局員が回収していれば、間違いなく解読できます」
遭難した『タイタンⅣ』に取り付けたメッセージは日本語と英語で書かれたが、フェイト達の世界の言語体系は地球に極めて近く、時空管理局は地球の主な言語を解読できているので、こちらの意思は局側も理解できているはずだ、と言うフェイトに、嶋津達もなるほど、と頷いた。
「――という事は、鬼と大親分にナシつけなきゃ、だな」
肩を竦める嶋津に、意味を解した地球側の一同は苦笑しながら頷く。
「鬼‥‥ですか?‥‥!??」
キョトンとしたフェイトだが、嶋津を見てギョッとした
「現職の宇宙艦隊司令長官で、この兄弟や私が訓練生だった頃の教官なんだが‥‥」
嶋津からはどんよりとしたオーラ――色で言えば宿便色か――が発散されている。
「“どえらい”おっかないオヤジだ」
「だからこいつが『鬼竜』と渾名したら、たちまち広まったのさ」
嶋津の言葉を受けた守が即座にフォロー(追い撃ち)した。
「そ、そうなんですか‥‥」
(『鬼竜』って‥‥『鬼の平蔵』みたいな人なのかな?)
フェイトの脳裏には、第97世界のテレビドラマで、鬼平こと長谷川平蔵を演じている有名な歌舞伎役者が浮かんでいた。
まあ、『鬼竜』はより鋭角的な風貌なのだが――。
「まあ、心配要らないよ。ウチの総司令は確かに厳しいけど、度量の広い人だから」
助け船を出したのは古代 進だ。周囲も皆頷いている。
フェイトも少しホッとした。
そういう人物なら、こちらがちゃんと話せば聞き届けてくれるかも知れない。
――話はさらに20分程続いてから散会。嶋津は『テシオ』に戻っていった。
その頃
――地球(第97管理外世界)、海鳴市――
「~~♪」
「~♪♪」
リンディ・ハラオウンとアルフはいつになく上機嫌だった。
「‥‥2人とも、何があった?」
怪訝な表情でクロノ・ハラオウンは、母親と義妹の使い魔に尋ねた。
隣では妻のエイミィも不思議そうな表情をしている。
「久し振りに、クライドの夢を見たのよ」
「お義父さんの?」
クロノとエイミィは合点行った表情になる。
「それでね、前に見た時よりも、あの人との距離が近かったのよ~」
「そうなんだ‥‥」
「あの人も明るい表情だったし、きっといい事の前兆だわ♪」
「そ、そおですか‥‥」
両頬に手を当てて、イヤンイヤンと身を捩るリンディに、息子夫婦は引き気味だ。
「‥‥そ、それで、アルフもいい夢を見たのか?」
妄想の世界に転移してしまった母親を放置し、クロノは仔犬モードのアルフに訊く。
使い魔は、主が遠い世界にいても精神リンクを保てる。
フェイト達が遭難し、その後生存が確認されてからというもの、アルフの状態は比較的安定していた。
つまり、それはフェイト達が危急の事態に見舞われていない事を示す。
それを差し引いても、アルフの機嫌はいつにも増して良好だ。
「フェイト達が帰って来る予感がしたんだ♪」
「本当(か)?」
若夫婦がハモった。
「うん。一昨日あたりから、僅かずつだけど精神リンクが強くなり始めてるんだ」
「そうか‥‥」
アルフの答に、クロノは顎に手を当てて考え込む。
「フネ(クラウディア)の出港を急がせるか‥‥?」
『タイタンⅣ』の捜索と船体回収の後も、管理局の次元航行艦は遭難した宙域にしばしば立ち寄っていた。
そして、今度は『クラウディア』の番だ。
アルフの予感どおりなら、フェイト達を乗せた『ヤマト』が遭難現場に戻って来るだろう。
その場合、管理局側の窓口になるのは次元航行艦になるが、非魔法文化圏に対する優越意識に凝り固まった艦長が窓口では非常に良くない。
口喧嘩だけならまだしも、万が一でもどつき合いになれば、これまで無数の敵味方の屍を踏み越えてきた地球防衛軍の相手ではあるまい。
幸い、自分やその前後のシフトの艦長は魔法原理主義とは無縁だが、間接的にとはいえ『ヤマト』を知る自分が窓口になるのがベターだろう。
「どうしたの?クロノ」
リンディが尋ねる。
リンディはクロノがエイミィと婚約して以来、プライベートでは彼との会話に念話を使うのをやめた。
エイミィも魔力は持っているが、デバイスを起動できる程度の魔力量しかなく、念話は使えない。
――反面、分析能力ではなまじな魔導師の追随を許さず、彼女の存在なくしてジュエルシード事件や闇の書事件の解決はなかった、とリンディや高町なのは達は評している――
それは別にして、安定した家庭は円満な夫婦仲あってこそ、と考えたリンディは、婚約を機に息子との念話を制限した。
実質的な影響は殆どなかったのだが――。
「ん‥‥次の行動予定を考え直そうかと思ってね」
主と使い魔の精神リンクの固さは、尊敬する師匠と双子の使い魔の絆で確認済だ。
フェイト達とコンタクトできる可能性が上がったのなら、彼女達を連れ帰るための準備を進めなければならない。