皆様、ご自愛下さいね。
――『ヤマト』第1艦橋――
メインモニターに映る男は、いくらかやつれてはいたが、確かにクロノを彷彿とさせる顔立ちだった。
行方不明になったのが25歳だから、今のクロノと同年輩だろう。
しかし、まずは――。
フェイトは胸ポケットから三角形の金属体を取り出すと囁きかける。
「‥‥バルディッシュ、セットアップ」
一瞬、フェイトを金色の光が包んだかと思ったが、光が消えた後、そこに立っていたフェイトは出で立ちが完全に変わっていた。
先ほどまでと打って変わり、フェイトは黒系のジャケットにミニスカート、太腿までのストッキングに身を包み、白いマントを羽織った姿に変わり、右手は長い杖を握っていた。
フェイト・T・ハラオウンのバリアジャケット、インパルスモードだ。
『おお‥‥!』
スクリーンの向こうが驚嘆でどよめいた。
嶋津冴子らTF13首脳陣は声こそ出さなかったが、内心では大いに唸っていた。
サルベージした資料には、彼女と高町なのはがバリアジャケットに換装する記録映像もあり、見たことはあるが、改めて直に見ると、時空管理局の魔導科学は侮れないと思える。
インパルスフォーム姿のフェイトは、画面のクライドに向けて敬礼し、告げた。
「時空管理局・次元航行部隊所属執務官、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」
画面の向こうのクライドは数秒間固まっていたが、すぐ我に返るとベッド上で居ずまいを正して答礼した。
『‥‥元《エスティア》艦長、一等海佐クライド・ハラオウンです』
フェイトは少しの間俯いた。
(間違いない。お義父さんだ‥‥)
リンディとクロノが1日たりとも忘れず、もう一度逢いたいと思い続けた人と、直接対面ではないにせよ、顔を合わせて話しができたのだ。
瞼の裏が熱くなってくる。
しかし、真っ先に彼に涙を見せるのは自分ではない。
自分がなすべきことは、彼をリンディの元に帰すことだ。
込み上げてくるものを何とか抑え込んでフェイトは顔を上げた。
すかさず、クライドから質問が飛んだ。
『フェイト・テスタロッサ執務官、早速質問していいかな?』
「はい。お答えできる範囲ならば何なりと」
クライドはひと呼吸おいてから口を開く。
『今は新暦何年にあたる?』
「76年です。『エスティア』の遭難から21年が経過しました」
『21年、か‥‥』
クライドは声を落として瞑目したが、艦長の顔に戻って口を開いた。
『‥‥“闇の書”の動静を知っているか?』
「‥‥‥!」
一瞬、フェイトの顔に緊張が走る。
地球側も、土方や嶋津ら、クライドから事情を聞いた数人の表情が僅かに険しくなった。
「‥‥『エスティア』遭難の11年後、闇の書は再び目覚めました。第97管理外世界‥‥21世紀初めの“地球”の海鳴市で」
『何!?』
「!!?」
クライドのみならず、海鳴出身の嶋津もこれには驚いた。
(‥‥あの都市伝説には裏付けがあったというのか?)
海鳴市民の一部に伝わる都市伝説。
21世紀初め頃、原因不明の爆破事件や高速で飛び交う人形飛翔体の発見事例、更には閉鎖空間まで発生したという話が伝わっている。
(まさか、それに雪菜のご先祖さんが関わってたりしてな。
‥‥いや、翠屋の2代目ははっちゃけた人だったというからな)
身近に魔法使いがいるが故、この手の事柄に免疫がある嶋津はそんな事を考えた。
「‥‥闇の書は11年前に完全封印しました。あれが再び目覚めることはありません」
『解決したのか!?』
フェイトが告げた事実に、クライドは驚愕の声を上げた。
「はい。最後の封印ミッションには私や私の親友、闇の書から切り離された守護騎士達も参加しましたが、現場指揮は当時執務官だったクロノ・ハラオウンが、総指揮は次元航行艦『アースラ』艦長、リンディ・ハラオウンが執りました」
フェイトの回答に、しばらく沈黙したクライドは呻くように言う。
『リンディ、クロノ‥‥?』
「リンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン。私の養母と義兄‥‥そして何より、貴方の妻と一人息子です。クライド艦長」
フェイトはクライドを直視し、噛み締めるように告げた。
「‥‥‥‥」
『‥‥‥‥』
TF13、地球防衛軍司令部の面々は一言も発することなく、フェイトとクライドのやりとりに聞き入った。
クライドはしばし沈黙していたが、やがてフェイトを直視すると、彼個人にとっての重要事項を質問した。とても穏やかな表情で。
『リンディとクロノは、元気にしているかな?』
フェイトもすぐさま答えた。
「リンディは現在、本局総務統括官職にあります。クロノは執務官を経て、現在は次元航行艦の艦長職にありますが、二児の父親でもあります」
フェイトの言葉と同時に相原がコンソールを操作し、フェイトから提供された画像データを表示した。
『‥‥‥‥』
クライドがまじまじと見たそれは、リンディ、クロノにクロノの妻のエィミィ、2人の子であるカレルとリエラ、そしてフェイトと使い魔のアルフ(仔犬形態)が映った家族写真だ。
『何ともくすぐったい気分だな。20代でお祖父ちゃんになったのか、私は』
懐かしさと苦笑いがないまぜの表情でクライドは呟いた。
地球側の面々の脳裏には『浦島太郎』が浮かんだが、すぐに打ち消した。
浦島太郎が故郷に返った時、彼の家族はもういなくなっていたが、クライドの家族は全員健在なのだ。
『長官、意見具申致します‥‥』
『テシオ』の艦長席から立ち上がった嶋津だが、藤堂が機先を制した。
『ハラオウン艦長は早急に家族の元に帰るべきだ。早速時空管理局とのコンタクトを探ってくれ。‥‥テスタロッサ執務官もそれでよろしいかな?』
『わかりました』
「!‥‥ありがとうこざいます!」
嶋津は口許を僅かに持ち上げながら敬礼。フェイトは頭を下げたまま、ひと滴だけ涙をこぼした。
――地球防衛軍横須賀病院――
クライドは唖然としていた。
『闇の書』が再び暴れたのもさりながら、目の前のフェイトと彼女の親友、守護騎士までが協力し、最後は防衛プログラムを宇宙空間に転移させてアルカンシェルを撃ち込むという荒業で完全封印してしまったという結果には驚かされた。
そして何より、一連のミッションを指揮していたのが、妻と一人息子だったというのには驚嘆した。
クロノは局員、そして執務官になっていたのか。俺の背中を追うように。
リンディも艦を預る立場になり、あの事件を解決していたのか――。
そして最後に、フェイトから提供された映像データを見た時、クライドは不覚にも目頭を熱くしてしまった。
あの日から少し年をとった愛妻。自分とよく似た風貌になった息子とその妻子。後列には目の前のフェイトが立っていた。
(奇妙な気分だな。この歳で孫持ちになるとは‥‥)
自分が行方不明になってからも、リンディとクロノは決して絶望する事なく前に進んでいたのだ。
息子一家に、リンディが娘に迎えたという画面の向こうのフェイト。
画像の中のリンディ達は、皆幸せそうな笑顔を浮かべていた。
ゆえに、クライドは、自分が家族の元に帰るための動きが始まったことに気づくのが遅れた。
――地球防衛軍司令部――
通信を閉じた後、議論に突入した幕僚達を見やりながら、藤堂・芹沢・土方は別の話に入った。
土方は隣の芹沢に訊く。
「あんたはいいのか?参謀総長」
「‥‥ふん」
土方と芹沢は若い頃から反りは合った事が少ない。
「魔法だとか、ああいうメルヘンじみた事は、おめでたい頭の連中の方が早く呑み込むだろうからな」
「‥‥そうかい」
それは、この件は俺が主導していいということだな?
問題は、時空管理局とうまく接触できるかどうか、だな‥‥?
‥‥そうだ、選挙行こう。
でないと安倍ソーリとかの悪口言えないし。