宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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姫の一撃


巡航

『テシオ』『チョウカイ』『クズリュウ』『アシタカ』『ヤマト』『オシマ』の6艦は、亜光速巡航で、2年前に『ヤマト』が“開拓”した『イスカンダル回廊』を基本とした針路で一路天の川銀河に向かっていた。

 

 

     ――『テシオ』――

 

「艦位は所定航路を維持しています‥‥次のワープまで6時間15分です」

「周辺宙域に異状反応はありません」

「全艦、問題はありません」

「ん。4直体制に戻せ」

「全艦4直体制、伝達します」

「‥‥皆も順次休憩しろよ」

「はい!」

 

数人のブリッジクルーが当直メンバーと交替し、艦内食堂に向かう。

艦長と機関長は当直がないが――。

 

「艦長と機関長も今のうちにお休みになって下さい。ここは私達が」

 

副長兼航海長の大村が、嶋津と機関長の長尾に休憩を勧めた。

 

「済まない‥‥機関長も休んで下さい」

「わかりました」

 

長尾は食堂に、嶋津は格納庫に向かう。“表敬訪問”のために。

 

 

   ――『ヤマト』――

 

艦内食堂『ヤマト亭』にフェイト・シャリオ・ティアナがいるのは『ヤマト』クルーにとっても日常の光景と化していたが、この日は『テシオ』にいるはずの嶋津冴子が一緒だったので、新人を中心に泡を食う者が少なくなかった。

 

「‥‥今日は金曜日だったか」

 

嶋津は思い出したように呟く。

地球防衛艦隊でも、日本籍の艦は地球標準時の金曜日の昼食は、旧海上自衛隊以来の伝統を受け継ぐカレーライスが主菜だ。

21世紀以降、艦船毎のオリジナルレシピを元にしたレトルトカレーが販売されてきたが、2201年現在では『ヤマト』オリジナルのカレーが大ヒット商品になっている。

 

『ヤマト』オリジナルカレーは中辛仕立てだが、甘口を好むクルーもいることから、すりおろしリンゴ等も用意されているし、逆に辛口好みのクルーのためのスパイスもある。

 

フェイト達はそのままだったが、嶋津は辛味スパイスの容器を手にとるや、さっと一振りした。

 

――その瞬間、容器の内蓋が勢いよく開き、容器内の辛味スパイスは全て嶋津のカレールーに落ちていった。

 

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 

あまりにお約束な光景に列の前後が静まり返り、フェイト達も例にもれず絶句した。

 

‥‥如何におバカな言動があろうと、嶋津冴子は代将旗を掲げる部隊長である。

セルフサービスとはいえ、スパイス容器の蓋が緩んでいたことは『ヤマト』船務科の失態と叱責されても仕方ない。

ゆえに、一緒に並んでいたクルーの中には真っ青になる者もいたが、当の冴子は

 

「たらり~ん、〇から牛乳~♪」

 

と一節鼻歌を歌っただけで、何食わぬ顔で盛り付けを済ませると、そのままフェイト達の向かいに座る。

 

「‥‥あの、大丈夫なんでしょうか?技師長」

 

様子を見ていた新人クルーが、前に並ぶ真田に恐る恐る尋ねるが、真田はあっさり言い切った。

 

「心配無用だ。あの味覚バカの舌にはバー〇ントカレーの中辛程度でしかない」

「は、はあ‥‥(汗)」

 

一方、フェイトは‥‥。

 

(義母さんやはやてといい、嶋津艦長といい、若くして部隊を率いる女性は突出した個性があるのかな‥‥)

 

フェイトの養母リンディ・ハラオウンは大の甘党で、抹茶にクリームと砂糖を大量に入れる。

もうそろそろ血糖値に注意してほしいのだが。

 

そんなリンディの対極にいる味覚バカ女を目の当たりにしたフェイトはどうでもいい事に感心していたが、彼女と嶋津冴子を見比べた周囲のクルーが、まるで歳の離れた姉妹のようだと噂し合っていた事を知る由もなかった。

 

 

 

 ――『ヤマト』ゲストルーム――

 

スターシャが入院中のため、古代 守とサーシャは高級士官室を宛がわれていた。

一角には真田がサーシャのために手ずから造ったベビーベッド。

 

「‥‥一体、何を仕込んだ?」

「失敬な。必要な機能しか備えていないぞ」

「ほー、外装がコスモナイト110なのに?」

 

嶋津がツッコんだように、それは単なるベビーベッドではなかった。

 

対実弾・レーザー防御機能はもちろん、いざとなれば、そのまま脱出カプセルになるのだが、他にもとんでもない隠し機能が仕込まれているのではないかと、嶋津と守は件のベビーベッドを胡乱げに見た。

 

一方、嶋津のツッコミも些か精彩を欠いていた。

なぜなら、彼女はサーシャを頭上で横向きに担ぎ上げながら室内を走り回っていたからだ。

 

「アイアンキ〇グ~!」

 

史上最弱といわれた20世紀後半のB級特撮ヒーローの名前を叫びながら。

 

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 

その様を、古代 守と真田は“処置なし”という表情で、森 雪は呆れ顔で、同行してきたフェイトは唖然としながら見ていたが、当のサーシャはキャーキャーと歓声を上げながら四肢をパタパタさせていた。

 

「見ろ!子供は一瞬で本質を見抜くんだぜ!」

 

ドヤ顔になっていた嶋津だが――。

 

「‥‥おばタン、おばタン」

 

サーシャの無邪気かつ無慈悲な一撃であえなく轟沈。

守と真田は腹筋が崩壊し、雪とフェイトは笑うに笑えない苦痛に苛まれるという深刻な被害をもたらした。

 

 

      ――2分後――

 

「‥‥取り敢えず、今後の予定を確認すっか」

「そうだな」

(((復活速っ!!)))

 

嶋津はサーシャによるクリティカルダメージから何事もなかったかのように再起動したが、真田とサーシャを除く他の全員が無言でツッコミを入れた。フェイトさえも。

 

『あの‥‥何があったんですか?』

『何もない(×2)』

『はあ‥‥(汗)』

 

室内の異様な空気はモニターの向こうの古代 進にも伝わっていたが、嶋津+真田という悪党面コンビに眼光鋭く睨まれたため、詳細を知って呆れたのは少し後の事。

 

ちなみにサーシャは部屋の一角でフェイトがお相手し始めたが、サーシャは早くもなついているようだ。

 

その様を見ながら、守は真田に耳打ちしていた。

 

「あの、フェイトという子、嶋津と随分似てないか?」

「ああ、外見はな。歳の離れた姉妹に見えなくもない、が‥‥」




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