「こんな!」
「何が、一体‥‥」
「ひどい‥‥!」
「‥‥‥‥‥」
――そこに存在しているはずだった緑と水に満ちた惑星は、もはや痕跡すら留めず、無数の岩くれが漂うだけ。
私たちは声もなく、その光景を見詰める事しかできなかった。
――第47自然世界『ワクラ』は、デバイス筐体に適した良質な金属の原料鉱石が豊富に産出することと、飛竜や首長竜など大型竜の棲息が確認されている事に加え、先住人類が存在しないため、時空管理局にとっては欠かせない世界になりつつあり、鉱石採掘の工員や自然保護官が常駐する世界だ。
かく言う私の愛機『バルディッシュ』にも、ここの鉱石から造った部材が含まれている。
ところが最近、資源輸送船が消息不明になる事件が相次ぎ、さらに調査に向かった次元航行艦、それも最新のXV級も2隻が行方不明になってしまった。
しかし、2隻目の『バトン・ルージュ』は、消息を絶つ直前、正体不明のミサイル艦隊と遭遇し交戦中と連絡してきた。
次元航行艦には大口径魔導砲『アルカンシェル』や、少なからぬ小口径速射魔導砲も装備されていたが、それらを使う暇もなく、あるいは奏功せず撃破されたものと、次元航行本部は予想した。
そしてこの度、第3次調査隊として、義兄クロノ・ハラオウンが指揮する『クラウディア』と私、フェイト・T・ハラオウン、補佐官のシャリオ・フィニーノ、ティアナ・ランスターが派遣されたのだが――。
「誰が、こんな事を‥‥」
ティアナが痛憤の呻きを漏らし、私の胸にも抑えがたい憤怒が込み上げてきた。
あそこには採掘や竜の保護・観察に従事する管理局員が駐在していた。
当然、彼らも星もろともこの暗黒の虚空に命を散らされたのだ。何のいわれもなく。
管理局は『正体不明のミサイル艦隊』を敵性勢力と認識されており、私達は、可能ならば首謀者と構成員を逮捕するよう命令を受けているが、現状では敵が何者なのかすらわからない。
まずは敵の正体を掴まなければならないが、質量兵器を多数搭載する艦艇を多く擁する武装勢力など、この一世紀近く遭遇した記録がない。
「周辺空域に異常はないか?」
「ありません」
XV級航行艦『クラウディア』は、クロノの指揮の元、慎重に宇宙空間を進んでいた。万一の時はすぐ次元転移できる態勢で。
「せめて、敵の正体だけでも掴まないとな‥‥」
「そうだね」
遭難した次元航行艦のうち、『バトン・ルージュ』の艦長はクロノの先輩だった。彼らやその家族のためにも、必ず敵を逮捕する。そのためにも、まずは敵を知らなければならない。
『クラウディア』は隣接する第28管理外世界『テレザート』に接近しつつあった。
ここにはおよそ10年前まで、ミッドチルダをも凌ぐ高度な文明が存在しており、次元航行手段を手中にするのも間近と言われていたため、管理局もコンタクトをとるタイミングを測っていたのだが、その矢先に世界を二分する内戦が発生し、エスカレートした揚げ句、住民のほとんどが死亡してしまった。
どうやら生存者がいるらしいのだが、何者かによって幽閉されているという。
「提督、惑星の向こう側に多数の艦船らしき反応があります!」
「!!‥‥よし、慎重に近づいて解析だ」
オペレーターの報告を受け、クロノが指示を下した。
「ビンゴ‥‥かな?」
「そうあってほしいがね」
『クラウディア』は注意深く、惑星の向こう側が望める位置に移動する。
すぐさまオペレーターが解析にかかり、ほどなく結果が報告された。
「エネルギー反応を2ヶ所で確認! 手前は約40隻、大型艦です! ‥‥向こう側にもう1隻。距離があるので詳しくはわかりませんが、やはり大型艦の模様! かなりの高速で互いに接近しています! いずれの艦船もエネルギー反応は強大で、管理局が保有する全ての艦船を大きく上回っています!」
「何だって!?」
その報告は私たちを驚愕させるに十分すぎた。
「そんなバカな····」
「映像に出せるか?」
「手前の艦隊ならば。展開します!」
ディスプレイに艦隊が映し出された。
「全身をミサイルで固めている‥‥」
「艦首には超大型ミサイルが2本‥‥。一連の犯人は恐らくこの艦隊だろうな」
「そうだね····」
クロノが怒気を含んだ口調で呟く。
私も拳を固く握り締めた。
何としても彼らを逮捕しなければならないが、余りに彼我の数が違い過ぎる上、向こうは艦全体をハリネズミのようにミサイルで固めた戦闘艦。
一方、こちらはあくまで調査母艦的な艦船で、まともに渡り会えるとは思えない。
悔しいが、今の私たちにはどうにもできない。
「手前の艦隊、ミサイルを一斉に発射しました。目標は恐らく奥の艦船!」
オペレーターが緊迫した声を上げた。
無数の中小型ミサイルが奥にいる艦船を見舞う。
(逃げて!)
心の中で、ミサイルの雨に見舞われる船の無事を祈った。
「着弾します!」
例の艦船がいるあたりで無数の光が瞬く。
「あの船は反撃しないのか!?」
男性クルーが思わず叫んだのも無理はない。
あの船は逃げるでもなく、最低限の迎撃だけで、こちらの艦隊が放つミサイルに見舞われるままなのだ。
「動力系が故障したのか、それとも‥‥」
劣勢を一気に覆す手段を持っているのかも知れない。
「超大型ミサイルが発射されました!」
「――!?」
「何ですって!?」
オペレーターの声に、思わずモニターを凝視した。
全てのミサイル艦から、艦首の超大型ミサイルが1隻あたり2発、合計約80発が一斉に放たれた。
「あのミサイルが『ワクラ』を‥‥?」
シャーリーが嫌悪感も露わに呟く。
あれだけのミサイルの飽和攻撃なら『ワクラ』が消滅してもおかしくはないだろう。
第1波攻撃ではたいした損害を受けなかったように見えたあの艦だが、さすがにあれだけのミサイル相手に持ちこたえられるとは思えない。
「何をやっているんだ、死ぬ気か!?」
あの艦に向けるように男性クルーが叫んだが、直後にオペレーターからもたらされた報告は、予想を完全に覆す内容だった。
「奥の艦のエネルギー反応が急激に増大‥‥エネルギーゲージが振り切れましたっ!」
「何!?」
急激なエネルギー増大、つまり何らかの超高エネルギー砲による反撃だろう。
あの艦の目標は当然手前のミサイル艦隊だろう。
そして、『クラウディア』はミサイル艦隊の後ろにいる。
ということは──。
「いけない、クロノ!」
「わかっている!機関最大!艦首下げ60!! 40に達したら機関を非常出力にして退避! 機関がいかれてもいい!かわせっ!!」
「は、はいっ!!」
『クラウディア』は急ぎ艦首を下に向け、全速でその場から退避を図る。
直後、あの艦がいるあたりで閃光が走ったかと思うと、膨大な光の柱が襲い来た。
その時、艦尾部に大きな衝撃を受け、艦が大きく震えた。
「被害報告、急げ!」
「艦尾装甲、一部剥離及び破損!」
「第2食糧庫に火災発生しました!」
「消火急げ!左150に回頭!急速離脱!!」
「了解!!」
『クラウディア』の損傷は小さくなかったが、次元転移は可能だ。
とはいえ、この空域に留まることはリスクが大き過ぎる。
あの砲撃を放った船の立ち位置がわからない現状で、この場に留まり続けるのは危険過ぎる。
煙の尾を引きながら、『クラウディア』はそそくさとその場を離れていった。
――そういえば、あのミサイル艦隊はどうなったのだろう?
オペレーターに確認したところ、
「ありません。1隻残らず消えました。‥‥空間転移の形跡もありません」
信じられない報告が返ってきた。
「あれだけのミサイル艦隊を、たった一撃で葬ったというのか!!?」
「そんな‥‥」
「信じられない‥‥」
クロノも信じられない口調だ。
事実ならば、あのエネルギー砲は『アルカンシェル』すら比較にならない、文字どおりの大規模殲滅兵器だ。
顔から血の気が引いていくのがわかる。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「本艦はこの空間を離脱。一旦第4海上支部に入って修理する」
どのみち、あんな力がある艦とやり合うなんて無謀極まる。クロノはこの空域からの離脱を命じた。
その時だ。
「提督、あの艦は危険過ぎます!停船の上臨検するべきではありませんか!?」
「········」
クレスタ・アーネスト二等海尉が立ち上がり、ミサイル艦隊を葬り去ったあの艦への臨検を主張したが、ブリッジクルーは否定的だ。
シャーリーとティアナも一瞬呆れた表情になった。
私が見るところ、クレスタ二尉は魔導師としても艦船乗りとしても有能なのだが、管理局による世界管理こそが平和を齎すと頑なに信じており、管理外世界を下に見てしまうところが玉に傷だ。
「あれだけのミサイル艦隊を一瞬の間に消滅させた艦だ。矛先がこちらに向いたらどうなるか、十分わかると思うが?」
「どのみち、あのエネルギー砲以外にも飛び道具は持っているでしょうしねぇ‥‥」
クレスタはすぐ理解したのか、それ以上は言い募らなかった。
「‥‥少し冷静さを欠いていました。申し訳ありません」
「わかってくれたならそれでいい。修理が済み次第またここに戻るが、念のためデータ収集ポッドを置いていこう」
――2時間後、次元空間、『クラウディア』ブリッジ――
「‥‥今にしてみると、もったいないことをしてしまったかな?」
「何が?」
お茶を口にしながらクロノが残念そうに言う。
「ミサイル艦隊を一掃したあの艦さ。あの艦の乗組員と話をしてみたかったよ」
「そうだね。でも仕方ないよ‥‥」
本音は私もそうだった。
ミサイル艦隊はともかく、あの艦にはなぜかさほどの不安は感じなかった。
あの艦とコンタクトは取れなかったが、消滅したミサイル艦隊の隊内通信データを傍受しており、今解析中だ。
海上支部に到着するや、ミサイル艦隊のデータ解析が終わった。
その結果、ミサイル艦隊は、あの艦が発射した超高エネルギー砲撃で全滅したと確認された。
また、ミサイル艦隊内の通信の中に、何度となく『ヤマト』という単語が出ていたことも判明した。
『ヤマト』??
クロノと私は顔を見合わせた。
日本に住んでいた私も、その発音は何度となく耳にしている。
あの艦はヤマトというのか?
とても気になる。しかし、私が知る今の地球に、あんな宇宙戦闘艦を建造する技術は存在しないはずだ。
どういう事なんだろう‥?
――その謎が解けるのに、更に数ヶ月を要した。